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[9397] 明るい話と暗い話【オリ】短編集の予定
Name: Mr.O◆0cc2cebd ID:d000c60e
Date: 2009/06/07 15:08
ある夜私は夢を見た。


漆黒の闇、1センチ先も見えない闇がそこに蔓延していた。
声がする、闇の中から声が響く。
「もういいかい」

闇の中から少年の声が語りかけている。
「まぁだだよ」
どこからか返答する声、優しげでゆったりとしたその声に安心したのか、
少年の声が止んだ。
「いい子、今は眠りなさい」
響く声が少年を眠りへと誘った。

それから又いくばくかの時がたち、目覚めた少年は、
以前よりも自らの体がいくらか大きくなっていることに気づいた。
「もういいかい」
うすぼんやりとした意識の中で、少年は問いた。
「まぁだだよ」

以前聞こえた優しげな声が答えた。
その声を聞き少年は思った。この声の主は、どんな姿をしているのだろう。
ぼんやりと考えなら少年は眠りについた。
「今は眠りなさい、あなたが大きくなるために」
声が、あたたかい闇に響いていた。

さらに時がたち、何度かの覚醒と睡眠、「もういいかい」と「まぁだだよ」を
繰り返し、少年は育つ、そして……
光があふれた。

そこで覚醒する。
妙な夢だった、第三者の目線から見ている自分と、少年自身である自分が
矛盾することなく存在していた。
もっとも、夢とはそういうものなのかもしれないが。
それにしても、あそこは一体どこだったのだろう。
あんなに、優しい世界を私は知っていたのか。

ぼんやりと考える私の横で妻が大きなおなかを抱えている。
「あっ、あなた、赤ちゃんが今おなかを蹴ったわ」
愛おしそうに、さすりながら妻はお腹に話かけていた
「まぁだだよ、私たちの赤ちゃん」
……もしかして、ここか?



[9397] 懺悔の話
Name: Mr.O◆0cc2cebd ID:d000c60e
Date: 2009/06/07 15:11
ここはとある教会、その懺悔室に男が一人入ってきたようです。

「神父様、神父様、私は取り返しのつかないことをしてしまいました」
何かに脅えるように語る男の声。
「どうしたというのです、何をおびえているのです、安心しなさい
主は何時でもあなたを見守ってくださっていますよ」
答える神父らしき声。

ぴたり、と男の気配は動くことをやめた。
「……神父様、懺悔とはここだけの話なのですよね」
その男の台詞を聞き、無理もないと思った神父は落ち着いて答えた。
「もちろんです、決して話したりはしません、ここでの話は
我々と主以外には漏らさないと誓いましょう」
実際、こういう念押しをされる事は今までにも多々あったのだ。
神父は、たとえ相手が犯罪行為を懺悔しようとも、
決して他者に言うことはなかった。
それは自身の仕事ではないと考えていたからだ。

「では、話します」
男は安心した様子で喋りだした。
「私は、昨年までまっとうな会社員でした。当時私は新婚で、
愛する妻のお腹には6カ月になる息子がいました」
淡々としゃべる男。

「ある夜、私不思議な夢を見ました。どこか分らない暗い場所にいる夢です、
そこは不安や恐れの一切ない安らぎに満ちた場所でした」
淡々としゃべる男。

「目が覚めた私は、そこが一体どこなのか考えました。
そこで妻の大きくなったお腹にふと目をやって思いついたんです、
もしかしたらここなのかもしれないと、思いついてしまったんです」
淡々としゃべる男。

「私は、そこで」男の淡々とした口調が崩れ始めた。
「あぁっ私は、『確かめたい』と思ってしまったのです」
忌むべきことを語るかのように口早に男はしゃべり続けた。
「私はっ、自らの欲求を止めようとしました、病院にも行ってみました。
でも、どれだけ手を尽くしても私の欲求は、妻のお腹と同じように、
どんどんと強くなっていったのです」
男の声は興奮を増し、やがて大声へと変わっていった。
「落ち着きなさい」静かだが威厳のある声で男を止める神父。
我に返った男は
「す、すいません」と謝罪と落ち着きを見せたようだった。
「いえ、かまいませんよ。さぁ、続きをお話しください」
「はい、では続きをお話しします」男はそれからの話を語り始めた。

「そう、私が『確かめたい』という欲求に気づいてから三ヶ月後、
もうすぐ妻が臨月に際しかかろうかという時、私の我慢は限界を迎えました。
私は、私は妻を引き倒し……。私が我に帰った時は、私は全身血みどろで横には
股の裂けた妻の死体とつぶされた胎児とおぼしきものがありました」
「……それで、あなたはどうしたのです」
神父の質問に男は律義に答えた。

「燃やしました、家ごと。そのあと私は国を逃げ出しました」
「そうですか、おおよそは解りました。それで
あなたは妻と子を殺害してしまったことを懺悔しに来たのですね」
その神父の声に男は否定を返した。

「いいえ、違います神父様、私は妻と子を殺してしまった罪を懺悔
しに来たのではありません。
私は妻と子を殺しても罪悪感を覚えなかった罪を懺悔したいのです。
私は、私は妻子を殺した事に罪悪感を覚えませんでした、それどころか
私は発端となった疑問の答えを見つけてしまいました、
やはりあの安寧とした場所は母の胎内だったんです、
そして、そしてっ、私はあの時思ってしまったんです
『私はなんて、なんて気持ちのいい事をしてしまったんだ』って」
男はすべて喋り終えたようだ。神父は答えた。

「迷える子必ずよ、主はあなたの懺悔を聞き届けました、
あなたの罪は許された」
迷える子羊達の懺悔を聞き、主の名のもとに許しを与える事が
自分の仕事だと、神父は考えている。
それには一切の例外は認められない。
かくして男の罪はいやされた。

「今日は、どうもありがとうございました。
またきます」
男はそう言い去っていった。

今日も神父の日常は過ぎてゆく。
世はすべてこともなし。


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