ある夜私は夢を見た。
漆黒の闇、1センチ先も見えない闇がそこに蔓延していた。
声がする、闇の中から声が響く。
「もういいかい」
闇の中から少年の声が語りかけている。
「まぁだだよ」
どこからか返答する声、優しげでゆったりとしたその声に安心したのか、
少年の声が止んだ。
「いい子、今は眠りなさい」
響く声が少年を眠りへと誘った。
それから又いくばくかの時がたち、目覚めた少年は、
以前よりも自らの体がいくらか大きくなっていることに気づいた。
「もういいかい」
うすぼんやりとした意識の中で、少年は問いた。
「まぁだだよ」
以前聞こえた優しげな声が答えた。
その声を聞き少年は思った。この声の主は、どんな姿をしているのだろう。
ぼんやりと考えなら少年は眠りについた。
「今は眠りなさい、あなたが大きくなるために」
声が、あたたかい闇に響いていた。
さらに時がたち、何度かの覚醒と睡眠、「もういいかい」と「まぁだだよ」を
繰り返し、少年は育つ、そして……
光があふれた。
そこで覚醒する。
妙な夢だった、第三者の目線から見ている自分と、少年自身である自分が
矛盾することなく存在していた。
もっとも、夢とはそういうものなのかもしれないが。
それにしても、あそこは一体どこだったのだろう。
あんなに、優しい世界を私は知っていたのか。
ぼんやりと考える私の横で妻が大きなおなかを抱えている。
「あっ、あなた、赤ちゃんが今おなかを蹴ったわ」
愛おしそうに、さすりながら妻はお腹に話かけていた
「まぁだだよ、私たちの赤ちゃん」
……もしかして、ここか?