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[9344] 【習作】サクセスストーリー(パワプロ・オリ主)
Name: みっちぇる◆cd6e57d1 ID:c6aba0b0
Date: 2009/06/08 09:47
初めまして。今回初めてssを書いてみました。

なおこのssは、パワプロサクセスのssとなりますが、
原作設定とは異なり、作者の独自設定で進めていきます。

それでもokという方は本編にお進み下さい。
それではどうぞ。













「はぁ~やっと着いたぁ」


門の前に手をつき乱れた呼吸を整える。大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐く。それを二、三度繰り返す。足りなくなった酸素が体に流れ込んでくるのが実感できる。


「ふぅ。流石に一時間も走りっぱなしじゃ疲れるや……。明日から自転車にしよ」


そんなことを考えつつ、大きく開かれている門を見る。その横には、これから三年間自分が通う高校の名が彫ってあった。【パワフル高校】と。









パワフル高校。それが今日から僕こと橘 一球(たちばな いっきゅう)が通う高校の名前だ。偏差値はそこまで高くなく、勉強がいまいちな僕でもギリギリ入学することができた。実際は、僕が行けそうな高校はここしかなかったんだけど……。


でも、僕がパワフル高校に進学することを決めたのは他にも理由がある。それはここが公立高校でありながら、運動部に力を入れていることだ。


僕は小さい頃から野球が好きで、今までずっと野球一筋で頑張ってきた。小学校ではリトルリーグ、中学校ではシニアに所属していた。残念ながらレギュラーにはなれなかったけど、高校ではレギュラーを目指して、いや、甲子園を目指してこれからがんばっていこう!!


そんな思いを秘めながら、クラス発表されている掲示板に足を運ぶ。そこは既にたくさんの生徒が掲示板を囲んでいて、人ごみによる熱気が僕にも十分伝わってきた。


「僕のクラスは何組かな~」


僕はそこそこ身長が高く、視力もいいので、背伸びをして自分の名前が書いてあるクラスを探す。


「おっ、あった」


【一年一組 橘 一球】と名前が書いてあった。自分の名前を確認し、いざ教室に行こうとしたが、一人の女の子が何度もジャンプをして名前を確認しようとしていることに気がついた。


ピョンピョン跳ねている姿はなんとも微笑ましい。僕は苦笑いしながら彼女に近づいて行った。近くまで来て、僕は彼女の顔に驚愕した。


(この子、姉さんにそっくりだ)


自分の姉と瓜二つの顔に驚きながらも、彼女へ声をかける。


「あのーすいません」

「えっ?なっ、なにかな?」

「もしよかったら、僕が見てあげましょうか?」

「えっ?ほんと?お願いしてもいい?」

「ええ、もちろん」

「じゃあお願いするね。あっ、ボクの名前は【早川あおい】だから」

「早川さんですか。ちょっと待っててくださいね」


そういって僕はまた背伸びをし、掲示板を見た。
一組は……ない。二組は……まだない。三組は……見つけた!!



「見つけましたよ。早川さんは三組みたいです」

「ほんとに?ありがと~」


早川さんは満面の笑顔で僕にお礼を言った。その顔はやはり、どことなく自分の姉の面影を残している。


「いえいえ、どういたしまして」


僕は一言早川さんに伝えて自分の教室に向かった。


「あっ、名前……」


早川さんが何か言っていたような気がしたが、朝の登校の疲れを早く癒したいので、すぐにその場から去った。











教室に入ると、同じクラスメイトであろう生徒がたくさんいた。早速友人を作っている人もいれば、一人で席についている人もいて、教室は独特の雰囲気に包まれている。


僕は後ろの空いている席にカバンを置き、席についた。
ふぅと一息ついて机にひれ伏す。トレーニングがてら、走って学校まで行くというのは予想外に体力を奪った。まだ先生が来るまで時間があることを確認し、少しの間仮眠を取ろうとしたが、横から自分に話しかける声が聞こえた


「あれ?もしかして一球君でやんすか?」


だらけきった体をなんとか起こして声の主を確認しようとする。そこには同じ中学の友達の矢部君がいた。


「おぉ~矢部君だ。ひさしぶりー」


「やっぱり一球君でやんす。ひさしぶりでやんすね」



矢部 明雄(やべ あきお)君。僕が中学で初めて仲良くなった友達だ。


矢部君は僕に色んなことを教えてくれた。自慢できることではないが、僕は野球以外はほとんど無関心だ。だから最新の流行なんかは全く知らない。


そんな僕に矢部君は最新の流行を教えてくれた。確か前はモエがどうとか言ってたような。たまに意味が分からない用語を言ってくるのだが、これが今時の流行なんだと勝手に理解した。家に帰って母さんに聞いてみたが母さんも知らないらしい。


そして矢部君は野球もうまい。矢部君はシニアではなく中学の野球部に所属していた。以前野球部の練習を見させてもらったのだが、矢部君の俊足と守備のうまさは特に光っていた。


何度かシニアで野球をしようと誘ったのだが断られてしまった。矢部君と同じチームでプレイしたらとても楽しそうなのに……。


あっ!!でも矢部君もパワフル高校の野球部に入るかもしれない。いや、絶対入ると思う。矢部君野球が大好きだって前に言ってたし。







 ~回想~



「そういえば矢部君って何で野球始めたの?」

「それはもちろん野球が好きだからでやんす。(女の子にモテる的な意味で)」

「そっか~。うん、やっぱり野球は最高だよね」

「でも結果が伴わなければ意味がないでやんす!!(何でオイラはモテないでやんすか!!)」

「(結果か……確かにそうだよな。いくら練習ではうまくても、試合で活躍できないと意味がないかもね……)うん、そうかもしれないね」

「そうでやんす!!一球君。お互いがんばるでやんす!!」

「うん。がんばろう」




~回想終了~






あんなに熱くなるほど野球を語ってたんだからきっと矢部君はこの高校でレギュラーを狙ってるんだろうなぁ。僕も見習わなくちゃ!!


「それにしても一球君がパワフル高校に来てたなんて意外でやんす」

「あはは、まぁ僕の頭じゃ行ける所は限られてるし。とりあえず野球部さえあればいいかなぁ~って思って」

「?何言ってるでやんすか?パワフル高校に野球部はないでやんすよ」

「……へ?」

「だから、ここの高校には野球部はないでやんす」


……カレハナニヲイッテルンダ。ヤキュウブガナイ?……


「ホントニ?」

「マジでやんす」













「……うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」






こうして一人の高校球児の三年間が始まった。











あとがき


ss書くのがここまで大変だったとは……
もっと精進していこうと思います。
誤字・脱字・アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。



[9344] 第2話 野球部を作ろう
Name: みっちぇる◆cd6e57d1 ID:c6aba0b0
Date: 2009/06/08 09:42
~前回までのあらすじ~

1.天然野球バカ襲来
2.あおいちゃん萌え萌え
3.メガネ登場
4.野球部\(^o^)/











第2話 「野球部を作ろう」








矢部君から衝撃的な事実を聞いた僕は、未だショックから立ち直れないでいた。今クラスメイトの自己紹介が行われているが、それすらも耳に入ってこない。


途中、一人の女子生徒が、宇宙人や未来人がどうとか言ってたような気がしたが、きっと幻聴だろう。





ようやく現実に目を向けれるようになった時は、既に入学式が終わった頃だった。大半の生徒は帰宅するか、部活動見学に行っていた。


「一球君はこの後どうするんでやんすか?」


荷物をまとめながら矢部君が僕に質問してくる。どうしようかな……予定なら野球部に見学にいくはずだったのに……


そういえば、何で野球部なくなったんだろう?確か去年まではあったはずだけど。


「ねぇ矢部君。野球部なくなった理由知ってる?」

「なくなった理由でやんすか?噂で聞いたでやんすが、部員が去年で全員引退して、監督も去年いっぱいで退職したって話を聞いたでやんす」


そっか……部員がいないんだ……それに監督も……


ん?でもそれならまだ廃部になったと決まったわけじゃないんじゃないのか?部員と監督さえいれば野球部を復活できるかも!!!


「矢部君!!僕ちょっと職員室に行ってくるよ」


僕は一言矢部君に声を掛けて、すぐさま職員室に駆け出した。


「あ、行っちゃたでやんす。相変わらず一球君は野球の事になると熱くなるでやんすね。まぁそんなことよりオイラはアニ研に見学に行くでやんす」

















「失礼しまーす」


一言挨拶をし、職員室の扉を開ける。先生たちが一斉に僕に視線を向ける。その視線に若干戸惑いながらも僕は一歩一歩前に進んでいく。すると、後ろから声を掛けられる。


「あら、あなたは新入生の子ね?何かご用かしら?」


話しかけられた方に目を向けると、一人の若い女の先生がいた。金髪と茶髪が合わさったような色合いの長い髪、端正な顔立ちに、大人の色気が凝縮されたかのようなスタイル、不覚にも、幾人もの男を虜にするような魅惑の笑顔にドキッとした。


「あっ、はい。すみませんが、理事長はいらっしゃいますか?」


戸惑いながらも、何とか返事を返すことができた。


「理事長?理事長ならここじゃなくて、理事長室にいると思うわよ」

「そうですか。分かりました。ありがとうございました」


頭を下げ、職員室から退室しようとする。が、さきほどの先生に呼び止められた。


「ちょっと待って。理事長に何か用があるの?」

「あ、はい。野球部のことでお聞きしたいことがあるので……」

「野球部?野球部なら部員がいなくなって廃部になる予定になってるのだけど……もしかして、あなた野球部に入りたいの?」

「はい。僕は野球部に入って甲子園に行きたいんです!!」

「……ふふっ、そっか。がんばってね」

「はい、失礼します」


先生に会釈をし、今度こそ職員室を後にした。









「うふふ、これからおもしろくなりそうね……」


なんか背筋が凍るような感覚がしたが、気のせいだよね?








職員室を後に今僕は理事長室の前にいる。先ほどから何度もノックをしているが、反応がない。もしかしていないのかな。そんな思いにふけっていると、中から「入りなさい」と声が聞こえた。


ゆっくりとドアノブに手を伸ばし、恐る恐る扉を開ける。部屋の中は思っていたより広く、部屋の隅にはいくつものトロフィーが飾ってあった。おそらく、この学校に送られた何らかの栄誉の証だろう。


その中央には、立派な机があり、一人の初老の男性が座っていた。顔つきや雰囲気は、どこか近寄りがたい。僕は一言挨拶をし、理事長の前に立った。

「すまなかったな。少し仕事が立て込んでいてノックの音に気付かなかった」

その言葉と同時に理事長は軽く頭を下げた。

「いえ、大丈夫です。それとはじめまして。僕は今年入学した橘と申します。理事長にお願いしたいことがあって参りました」


そう言うと、理事長は一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに表情を隠した。

「ふむ、なるほど。それで私にお願いしたいことは何かな?」

「はい、僕は野球部に入りたいのですが、今この学校では野球部はないと聞いています。でも僕はパワフル高校で野球をしたいんです!!お願いします!野球部をもう一度作ってください!!」


そう言って僕は頭を深く下げた。いきなりこんなことを言っても迷惑だろうと思う。でもここは引き下がるわけにはいかない。甲子園を目指すことは、この三年間しかできないんだ。


「きみがしたいことはわかった。野球部は今現在休部という形になっているが、来月行われる職員会議で廃部するかどうか会議する。それまでに部員と監督をどうにかすれば、あるいは野球部を復活させることができるかもしれないが」

「ほんとですか!?」

「あぁ。だがこれは遊びではない。例え部員と監督がそろったとしても、きみ達の今後次第では廃部を覚悟しておくことだ」

「わかりました。必ずチームメイト集めて、理事長にも認められるようにがんばります!!では、失礼します」


理事長にお辞儀をし、理事長室を出る。ふぅと一息吐いて今後のことを考える。野球部がまだなくなっていないことは幸いだったけど、一か月で最低8人の部員を集めなければならない。時間があまりないので、僕はすぐに学校を出て帰路に着いた。











「失礼します。加藤ですが、お呼びになられましたか?」


一言確認をし、理事長室に入る。そこには、どこか嬉しそうな雰囲気の理事長がいた。


「あぁ理香君。実はきみに頼みたいことがあるんだが」


その一言で理事長が何を言いたいかすぐにわかった。きっとさっきの生徒が理事長に野球部に入りたいことを話したんだろうと。理事長は昔名門高で甲子園を目指してたから、きっと嬉しいのね。自分と同じ甲子園を目指す者がいて。


「もしかして、野球部の件についてでしょうか?」

「なんだ、もう知っていたのかね」

「えぇ、実は先ほど野球部に入りたいという生徒とお話したところでして」

「それならば話は早い。単刀直入に言うときみに野球部監督兼顧問を頼みたいんだが?」


予想通りの言葉が返ってきた。理事長は見た目はあれだけど、生徒のことをほんとうに大切にしているしね。きっとあの生徒のことも気に入ったのね。


「ふふっ、もちろん喜んでお引受けいたします。というよりも、理事長に頼まれなくても、私がしようと思っていたのですけどね」


少ししか話せなかったけど、あの生徒の顔を見たらピーンときたわ。この子は受難の才能があると。うふふ、ほんとにおもしろくなりそう……


「そうだったか……ではこの件はすべて理香君にお願いするとしよう」

「わかりました。それでは失礼します」


挨拶をして理事長室を出る。これからのことを考えると自然と笑顔になる。


まずは部員集めね……。でもこれは私は手出ししない。自分達のチームは自分達でやってもらわないと。さぁて、いったいどんな子達が集まるのかしらね。










「ただいま~」


ようやく家に着いた。すでに辺りは暗闇にさしかかっていて、街中を照らすライトが闇夜を照らしている。


「おかえりなさい。意外と遅かったね」


そう言って僕を出迎えてくれたのは僕の姉さん【橘 聖名子】(たちばなみなこ)だ。


僕には姉さんと妹が一人づついる。一人は今紹介した僕の姉さん、みなこ姉さんだ。そして、もう一人の妹は……


「あぁ~遅いよお兄ちゃん!!もうとっくにご飯冷めたよ!!」


今僕の前で怒ってらっしゃるのが妹の【橘 みずき】だ。


「ただいま、みなこ姉さん、みずき」


靴を脱ぎながら姉と妹に声を掛ける。みずきは「遅くなるんだったら連絡くらいしなさいよ!!!」と、未だ僕を叱りつける。一方のみなこ姉さんはあらあらとそんな光景を微笑ましく眺めていた。



そんないつものやりとりをしながら、ようやく長い一日が終わったんだと実感した。でも、明日からが大変だ。矢部君を入れても、まだたった2人しか部員がいないのだから。


食事を済ませ、風呂に入り、ベッドの中で意識が朦朧とする中、僕はそんなことを考えていた。







あとがき


ちょっと姉妹との絡みが少なかったかな?
というよりパワプロキャラとの絡みが少ない……

次回から色々なキャラが登場予定ですので、
なんとかストーリーを作っていきたいと思います。

それでは次回もよろしくお願いします。



[9344] 第3話 部員集め その1
Name: みっちぇる◆cd6e57d1 ID:c6aba0b0
Date: 2009/06/08 09:41
~前回のあらすじ~

1.美人女医
2.理事長いい人
3.姉妹丼










第3話 部員集め その1










「一球~あさよ~」


聞きなれた声を聞き、徐々に意識を覚醒させていく。カーテン越しでも朝日が眩しく部屋を照らし、ぼやけた視界をゆっくり取り戻していく。


「おはよう、みなこ姉さん」


眠気と格闘しつつも、いつも僕を起こしてくれる姉さんに朝の挨拶をする。みなこ姉さんはそんな僕を見て微笑みを浮かべ、「ご飯はもうできてるから、顔洗っておいで」と言い、部屋から出て行った。


体を起こし、大きく伸びをする。壁に掛けてある時計に目をやると、針が6時ちょうどを指していた。いつもより1時間早い起床だ。本来ならば、7時に起きても充分学校に間に合う。でも今日から部員集めをしなければならない。その為に今日は、昨日寝る前に作った野球部勧誘のビラを校門で配る予定だ。


いつもの日課であるストレッチを終えて洗面所に向かう。冷たい水を何度か顔につけ、ゴシゴシと洗う。最後にもう一回顔を洗い、タオルで拭く。ようやく眠気が吹き飛び、意識がはっきりした。


食卓に向かう途中、とてもいい焼き魚の匂いがした。これは何の魚かな?焼き魚だったら、やっぱり塩サバがいいなぁ。でも朝はやっぱり焼き鮭だよね~。


そんなことを考えていたら、いつの間にか食卓に着いていた。台所では、みなこ姉さんがみそ汁を作っていた。僕は食器を出し、すでに出来上がっていた料理を盛り付ける。どうやらきょうの料理は、目玉焼き、ほうれん草のおひたし、みそ汁、焼鮭みたいだ。うん、とてもおいしそう。


料理を食卓に並べて、みなこ姉さんと二人で食事をする。いつもならみずきと3人でご飯を食べるのだけど、まだみずきは寝てるみたいだ。いつもと違う食事風景に若干違和感を感じる。ちなみに、僕たちの両親は、仕事が忙しく、家にいないことが多い。だから、今この家は3人で暮らしている状態だ。


「ねぇ、一球??野球部は作れそうなの?」


突然みなこ姉さんが僕に話しかけた。昨日の晩ご飯の時に2人には野球部のことについて話している。このことを話した時、姉さんはとても心配していた。みずきはバカだねぇ~って笑ってたけど。


「大丈夫だよみなこ姉さん!!何とかなるって」


僕はそう言ってみなこ姉さんを安心させようとする。姉さんはとても心配症だ。以前の僕が野球の練習で怪我をしたときは、仕事を早退してまで駆けつけて来た。ただの捻挫だったんだけど……でもそれは姉さんが僕達のことを本当に大切に思ってくれている証拠だ。だから僕はあまり姉さんに心配をかけないようにしている。


「そう……一球がそう言うなら私は何も言わないわ。でも無理だけはしないでね」

「うん。わかった。ありがとう、みなこ姉さん」


それからは他愛のない雑談をした。食事を済ませ、学校に行く準備をする。昨日作ったビラをコピーしにコンビニまで行かなければならないので、少し早いが家を出ようとする。すると、みずきが大きなあくびをしながら部屋から出てきた。


「あれ~お兄ちゃんもう行くの?ちょっと早くない??」

「昨日言っただろ。朝から部員勧誘するから早めに学校行くって」

「あ~そういえばそんなこと言ってたっけ。まぁがんばってね~」


そう言ってみずきは洗面所に向かった。僕はそれを見届け、2人に「いってきます」と挨拶をして家を出た。










昨日とは違い、自転車で颯爽と通学路を進む。まだ朝が早いためか人が少ない。通行人がいないので、自転車の速度を上げていく。しばらく進んで行くと目的地であるコンビニが見えてきた。今の時間なら他のお客さんがいないからすぐにコピーができる。そう思い僕は駐輪場に自転車を置き、店の中に入った。すると、僕を出迎えたのは意外な人物だった。


「いらっしゃいま……ん??なんだ一球か」

「あれ!?友沢君!?久し振りだね~」

「あぁそうだな」


僕を出迎えたのはシニア時代、何度も対戦したことがある【友沢 亮】(ともざわ りょう)君だ。僕が所属していたチームと友沢君が所属していたチームは、監督同士がお互い面識があり、よく練習試合や合同練習をしていた。


それがきっかけで、自然と顔を合わせる機会が増え友沢君と仲良くなった。彼は僕の1つ年下だけど、先輩と後輩の関係ではなく、友達として彼と付き合っている。だから敬語ではなく、ため口で会話をしている。


そして友沢君はピッチャーとしてもバッターとしても一流で、シニアでも一年生でレギュラーになっていた。特に、彼が投げるスライダーは、中学生レベルとは思えないほどのキレがあった。


「友沢君はアルバイト中??」

「あぁ。ここの店長とは知り合いで、たまにアルバイトをさせてもらってるんだ」


友沢君のお母さんは難病を患っており、治療にかかる費用を少しでも稼ぐために友沢君はいくつかアルバイトを掛け持っている。野球の練習もきついのに、愚痴の一つも言わない友沢君を僕は尊敬している。


「そっか。野球の方はどう?チームのエースでキャプテンだから、苦労してるんじゃないの?」


僕は軽い気持ちで友沢君に問いかけた。だが、彼の返答は僕の予想とは全く見当はずれなものだった。


「……俺はもうピッチャーじゃない。野手に転向した……」

「え!?何で!?何かあったの!?」

「いろいろあって肘が故障したんだ。まぁ野手としては別に問題ないけど」


一言僕にそう告げて、友沢君は顔を伏せた。つよく握り締めたこぶしが意味するのは、悔しさなのか、それとも別の感情なのか、僕にはわからない。


「そっか……。いつか友沢君からホームラン打ってやるって思ってたけど、叶わなくなっちゃったかぁ」

「一球の実力じゃ無理だな」

「うっ……。だから毎日練習しれるんじゃないか!!」


間髪入れず即答する友沢君の言葉に若干落ち込みながらも言い返す。確かに友沢君の方が圧倒的に実力が高いのは目に見えてるけど、そこまではっきり言われるとは……


「そんなことより、何か用事があるんじゃないのか?」

「あっ!!そうだった!!!」


ビラをコピーするのをすっかり忘れてた。コピー機の前に立ち、お金を入れる。何枚くらいコピーしようかな?とりあえず、200枚くらいにしよう。


ボタンを押して、コピーが出来るのを待つ。友沢君が僕が何をしているか気になったらしく、僕の元まで歩み寄って来た。


「何してるんだ?」

「あぁ、今野球部勧誘のビラをコピーしてるんだよ」


僕はそう言ってコピーした一枚のビラを友沢君に見せた。


「ん……お前が行ってる高校は野球部はないのか?」

「うん。実は……」


僕は彼に来月までに部員と監督を集めなければ、正式に野球部は廃部になることを告げた。すると彼はあきれた顔をして、


「はぁ、お前は相変わらずというか何というか……前から思ってたけど、お前は変な奴だな」

「いきなりひどいこと言うなぁ……」


変な奴は言いすぎだと思うけどなぁ。そういえば、前にもみずきにそんなこと言われたっけ。


「まぁお前が何しようが俺には関係ない。勝手にしろ」

「ちょ、せめてがんばれくらい言ってよ」

「コピー全部終わったみたいだぞ。さっさと帰れ」

「一応僕お客さんなんだけど……」


友沢君に追い出された僕は、寂しさを感じながら自転車を漕ぎ、学校へと向かった。









「よろしくおねがいしま~す」


学校に到着した僕は、教室にカバンを置き、生徒が登校する時間を見計らってすぐさま校門まで駆け出した。そして道行く生徒に、次々と街頭のティッシュ配りのお姉さんのごとく、ビラを配っていく。


「お、なんだお前、野球部作んのか?」


先ほどビラを渡した生徒が僕に話しかけてきた。声の主に目をやると、頭に「猛田工務店」と、名前が書いてあるタオルを巻いている男子生徒がいた。体格がよく、いかにも何かのスポーツをしてそうな人だった。


「あっ、はいそうです」

「ふ~ん。おもしろそうだなぁ」


そう言葉を残し、僕が作ったビラを見続けている。もしかして、野球部に入ってくれるのかな?僕は期待を胸に、彼に質問をした。


「あの、もしよかったら一緒に野球をしませんか?」

「あ~……俺も中学まで野球してたから入りたいんだけど、家の手伝いがあるから無理なんだわ」


彼は苦笑いしながら僕に告げる。そっか……家の手伝いじゃ仕方ないか。多分、その猛田工務店って所が彼の家なんだろう。お店を経営してるから忙しいんだろうなぁ。でも野球経験者だったのか。体格がいいからきっとすごい選手なんだろうな。


「そうですか……それならしょうがないですよね。あっ、入部まではしなくても、たまにでいいですから、一緒に練習しませんか?」

「おぉ、いいぜ。ただ、いつ行けるかわかんねぇけどな」

「充分ですよ。あの、名前を教えてもらえませんか?

「おう、俺の名前は【猛田 慶次】(たけだ けいじ)だ。よろしくな。あぁっと、見たとこお前も1年だろ?俺も1年なんだから敬語はいらないぜ」

「同い年だったんだ。僕は橘 一球。よろしくね」


お互いに自己紹介を済ませ握手をした。猛田君かぁ。最初は怖そうな感じだったけど、いい人だなぁ。


「一球っていうのか。これからよろしくな。……っておい、もうそろそろ教室行かねぇとやばいぞ!!」


時計を見ると、朝のホームルームが始まる時間に迫っていた。しまった、話に夢中になりすぎて、時間を確認するのを忘れてた。僕と猛田君は急いで教室に向かった。猛田君は2組らしく、「何かあったら俺んとこに来いよ!!」と言葉を残し、教室へ去って行った。










ぎりぎり時間に間に合い、自分の席に滑り込むように座る。よかったぁ間に合って。隣にいた矢部君がそんな僕の様子が気にかかり、話しかけてきた。


「どうしたでやんすか?もしかして寝坊でやんすか?」

「いや~ちょっと野球部勧誘のビラを配ってたら遅くなっちゃた」


矢部君に苦笑いをしながら返答する。そういえば、矢部君とはすれ違わなかったなぁ。っと、まだ矢部君に野球部に誘ってなかったっけ。


「ねぇ矢部君。一緒に野球しようよ!!2人で野球部を作っていこうよ!!」

「えぇ~、オイラはアニ研に入ろうと思ってるでやんす」

「そんな……一緒に甲子園目指そうよ!!絶対楽しいから!!」


まさか矢部君に断られるなんて思ってもなかった。てっきり、野球部がないから諦めてただけかと思ってたのに……


「う~ん、そんなこと言われてたってオイラは……(ん……ちょっと待つでやんす。野球部を作る=甲子園に出る=話題になる=モテモテ=ktkr!!)一球君!!一緒に甲子園目指すでやんす!!」

「ほんとに!?よかったぁ!!一緒にがんばろうね!!」


さっきの言葉が嘘のように、矢部君は僕の誘いに乗ってくれた。よし、これで部員は後7人だ。この調子でがんばるぞ!!











午前中の授業が終わって、今は昼食の時間。カバンからお弁当を取り出して、机の上に置いた。ふと、親友の【七瀬 はるか】を見たら、何かのプリントを見つめていた。ボクは、はるかが見てるプリントが気になって、はるかの所へ行った。

「はるか?何を見てるの?」

「え?野球部の勧誘のビラだよ。新しく野球部を作るんだって」


そう言ってボクにその紙を見せてくれた。そこには、中央に大きな文字で『一緒に甲子園を目指しませんか?』と書かれていた。その下には、野球部を作ることになったことが書かれていて、部員を集めている人の名前が載っていた。


「へぇ~野球部作るんだぁ。それにしてもなかなか面白い人だね」


野球部を作るだけじゃなくて、甲子園を目指すだなんて、名門校でもないなら普通は言えないよ。でもこの人は、本気で甲子園を目指してるんだろうなぁ。


「そうだね……私、野球部に入ってみようかな?」

「えぇ!?はるか野球するの!?」

「あはは、違うよ、マネージャとして入ろうかなって」


なんだぁ、もうびっくりしたよ。まぁマネージャーなら体の弱いはるかでも大丈夫かな。でもまさかはるかがそんなこと言い出すなんて思わなかった。部活に入るとしても、運動部じゃなくて文科系だと思ってたのに。


「ふ~ん、でも意外だなぁ。はるかがマネージャーとはいえ運動部に入ろうだなんて」

「うん、前にあおいの野球してる姿見たことがあって、すごくかっこいいなぁって思ったの。それで、私も何かがんばってる人の応援をしたいなって思って。そういうあおいは野球部に入らないの?あおいなら活躍できると思うけどなぁ」

「う~ん……ちょっと興味はあるかも。やっぱり甲子園は憧れるしね」


パワフル高校の野球部がなくなったことは、この学校に入学が決まってから知った。それを聞いた時は少し残念だったけど、野球ができないわけじゃない。だからボクは、どこかの草野球チームに入って野球を続けるつもりでいた。他の女子野球選手から、いくつかチームを紹介されていたし。


ちょっと前に、野球規則変更があって、女性でも甲子園やプロに行けるようになった。それから少しずつ野球をする女性が増えているので、甲子園やプロを目指す女性も多くなっている。だからボクも努力すればいつか夢の舞台に行けるかもしれない。


「はるか?放課後この人の所に行ってみない?」

「え?うん、いいよ」


もう一度ビラに目を向ける。そこには、『橘 一球』と名前が書いてある。橘くんかぁ。どんな人だろう?











全ての授業が終わり、ある者は部活へ、ある者は自宅へと帰っていく。そんな中、僕は矢部君と2人で静かになった教室に残っていた。もしかしたら、入部希望者が来るかもしれない、そんな希望を胸に。


しばらくして、教室のドアが開く音がした。そして、2人の女子生徒が教室の中へ足を踏み入れた。2人の女の子の顔を見ると、一人は昨日掲示板で出会った子だった。姉さんにそっくりな顔立ちは未だ記憶に新しい。


「あれ?確か早川さんでしたっけ?」


僕がそう言うと、早川さんは僕の顔を見て何かを思い出したらしく、笑みを浮かべながらこちらに近づいて来た。


「昨日はありがと~。きみったら名前も教えてくれないですぐに行っちゃうんだもん」


僕に一言告げて早川さんはぷぅと頬をふくらませる。そういえば名前言ってなかったっけか。

「ははっ、ごめんよ。あの時はちょっと疲れてたから。そうそう、僕の名前は橘 一球っていうんだ」


僕が名前を告げると、早川さんともう一人の女子生徒は驚愕の顔をした。なんでだろう?何か僕がしたかな?


「きみが橘君だったんだ。ボク達キミに用事があって来たんだよ」


僕に用事?はっ!?もしかしたら……


「もしかして、2人は入部希望者なの!?」


僕は少し興奮気味に2人に問い掛けた。2人は何やら話し合いをしている。入部するかどうか相談してるのかな?ここで2人も入部してくれれば、予定よりも早く野球部を活動再開できる。ここは是非、いい返答を彼女たちに期待したい。


「ほんとは話だけ聞くつもりだったけど、キミが僕たちに入って欲しいみたいだから、入部することにしたよ」

「ほんとに!?やったぁ~!!ありがと~!!」


やった~、これで後5人集めれば野球部復活だ!!


「あ、でもはるかはマネージャーとして野球部に入部するからね」

「はるかちゃんってキミのことかな?はじめまして、橘 一球です」

「は、はじめまして。こ、この度マネージャーをやることになりました七瀬 はるかです。体が弱いので迷惑かけることもあるかもしれませんが、よ、よろしくお願いします」

「うん、これからよろしくね」


マネージャー希望かぁ、そういえばマネージャーのことは考えてなかったな。早いうちにマネージャーが決まって助かるなぁ。


「ねぇ、早川さんは、野球経験者なの?」


僕は気になっていたことを早川さんに質問した。一から野球部を作るんだから、経験者は多いに越したことはない。


「うん、一応ピッチャーをしてたよ。それと、ボクのことはあおいでいいよ。これから同じチームでプレイするんだし」

「ピッチャーかぁ。それなら僕たちはバッテリーだね。あぁ、僕のことも一球でいいよ。七瀬さんも、僕のことは一球でいいからね」

「は、はい。では私の事もはるかでいいですよ」

「うん、わかった。これからみんなでがんばっていこうね」


「よろしくね~」「よ、よろしくお願いします」


そういえば、さっきから矢部君が一言もしゃべってないけど、どうしたのかな?何か小声でぶつぶつ言ってるけど……


「か、かわいいでやんす!オイラにも春の予感でやんす!」


そう言って矢部君ははるかちゃんに視線を合わせている。どことなく息遣いが荒い……


「コラメガネ!はるかに少しでもちょっかい出したら、グーで殴るわよっ!」

「はるかちゃんとはえらい違いでやんす……」

「何か言った!?」

「おろおろ……あ、あの、ケンカはやめて下さい……」







パワフル高校野球部復活まで、残り6人










あとがき

友沢、猛田登場、そしてあおい、はるかが野球部へ。

このssを書いていると、高校時代を思い出します。
「トンネルに定評のあるライパチ」と味方投手に恐れられてた頃がなつかしい……




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