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[9284] 【ネギま】可哀相な主人公TypeA/B【転生】
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/08 20:32
6/2:01234投稿
6/4:まえがき・全話微修正 567投稿
6/6:6微修正 8投稿
6/8:012タイトル微修正 7表現緩和 9投稿

ダラダラ書くのもなんだし、好きになった人は見て嫌いになったら見るのやめればいいと思うよ。

今のサブタイトルは【刻みネギ】です。
嫌な気配を感じたらすぐに逃げるように。


――――――――――――――――――――


我が二度目の人生最絶頂期。

明日から始まるであろう非日常にワクワクし、かけがえのない仲間を得るドラマに期待していた、そのまさにわが世の春が来た~と叫ぶほかない日から。

俺は、約二日でどん底に落ちた。

さて、その時のことを話す前に、何点か伝えねばならないことがあるだろうから、とりあえず自己紹介でもしておこう。
俺は太陽系惑星地球の日本国出身の生粋の日本人で、中流家庭に生まれ、高校中退後、フリーターをしながらのんべんだらりと日々を過ごし、趣味はパソコンと酒、特技は暗記と早寝の20歳『だった』。
だった、というからには今は違うわけで、今現在の自分は学生をやっていたりする。
勿論それがただの定時制高校や大検とって大学に通っている~などという、ある種平穏な状況なわけもなく、いわゆる『魔法学校』に在籍しているのであった。

魔法。他人から聞いたら、病院を勧める以外の反応が出来っこない単語だ。
だが、その単語を幼馴染から、そして、良くしてくれた従姉さん爺さんから聞いたときに俺の脳裏によぎったものは、『恍惚』だった。

やはり。案の定。予想通り。
そんな単語が浮かんだあと、自分の幸運さに身悶えしたのだった。この時は。

まぁ、周囲の状況も解らないまま俺の主観なんて聞いても楽しくないし、意味不明だろうから省くが、端的に言うと俺は一度死んで、生まれ変わった。


『ネギ・スプリングフィールド』として。




◆プロローグ・エピローグ◆




良くある話だが、不幸体質、というものがある。
一生の間に三回以上自動車に轢かれれば間違いなく不幸だし、旅行を予定していた日に雨が降るのも、数量限定品を買いに行くと自分の前の人で売り切れになるのも、もっと小さな不幸なら、教師に指名されやすいというのもある意味不幸だろう。
携帯を落とす、財布を落とす、単位を落とす。みな不幸だ(最後は自業自得とも言う)。

中学時代まで、そんな自分の不幸を意識したことはなかった。
両親ともに存命で、五体満足で産み落としてくれた母には感謝しているし、幸いながら勉強が嫌いな方ではなく、運動も好きで、自分で言うのもなんだがユカイな性格をしているのは自覚していたので、いつもクラスの中心にいると自惚れていた。
だが、人間というのは得てして他人よりも優れていると思う為に、相手を下にしたがる生き物だ。
それ以前から自分の不幸にまつわる珍事は割と有名だったようだが、ある事件をきっかけに『近づくと不幸が移る』なんて噂が流れ始め、友人だと思っていた人たちもそれを境に離れていった。

そこからの転落人生に語るべき事もない。
きっかけはどうあれ割とよく聞く話だし、不幸自慢は不幸同士でするものだ。

まぁ、そんなこんなでのぼ~っと生きていた筈だったのだ。
それがいつの間にか気づいた時にはネギ・スプリングフィールドとして生きていて、周囲の状況から、自分がただの同姓同名のソックリさんではなく、『ネギま!』世界の『主人公』に転移していたのだと気づいたわけだ。




そこからの生活は厳しかった。

安心なことに、『俺』の記憶と『ネギ』の意識が混ざり合い、完全に『自分』として意識しだした時には既に例の襲撃イベントは終わっているらしく、手元にはナギの杖があり原作1巻までは“縛り”の無い自由時間だったので、考えるべき事もあった自分はラッキーだった。

が、自分は『ネギ』として過ごさねばならない。
つまり、原作に関わろうが関わるまいが原作ネギ程度の戦闘能力が無ければ即DEADというわけだ。

それに付け加えて、メルディアナ魔法学校卒業までに飛び級になれる学力もつけねばならないだろう。
この世界が『ネギま!』世界だとしても、世界の修正力を当てにして好き勝手やったままでは、麻帆良学園赴任ルートに行ってもクラスに相坂とエヴァンジェリン・茶々丸しかいないのでは笑いも起こらない。
神楽坂明日菜がまだ居たら笑えるが。留年的な意味で。
まぁ、それに関してはネギの頭脳と俺の努力により、十中八九通過できるとは思ってはいるのだが……。


それにしても、答えが解っているというのは、イージーだと思う。ただ、解っていても正解にたどりつけないものがある。円周率とか。
円周率の小数点以下を言えない人間と、たった三桁でも出てくる人間、そして十桁以上ひねりだす人間の差。それは努力であると思っている。

いざというときに選択肢が一つしかないというのは勘弁してほしいので、幼少時はとにかく学んだ。

鍛錬に次ぐ鍛練、勉強に次ぐ勉強。修行に次ぐ修行。
特に治癒魔法は徹底的にやった。

東に病気の子供がいれば治癒魔法の練習台にし、西に疲れた母がいれば練習台にし。南に死にそうな人がいれば蘇生魔法をかけ、北に喧嘩があれば嬉々としてポーション役を買って出る。
さういうひとにわたしはなりたい。

という感じで、原作このか涙目の癒し系魔法ショタっ子として活躍していた。
だって、痛いのは好きじゃないし、結構努力していたと思われる原作ネギでも、大火力魔法でドカーン! 終了! なんて戦闘無かったし、それはつまりどんなに努力してもある程度は痛い目見なきゃいけないということでは? と考えたわけだ。
なら、その痛い目を見るのを他人任せにし、自分は後方支援に徹する。
なんていう完璧な作戦。死にたくないでござる! 死にたくないでござる!

失礼。

まぁ、とにかくそのためにも捨て駒……ゴホン……盾役……ンンッ……仲間……そう仲間! 仲間が必要なのであって、ある程度事情を知っている俺ならニコポナデポミルポカコポ応用してすぐに「ぼくがかんがえたさいきょうのネギま部」を作れるであろう。
そう考え、そういう選択肢を選んだ。そして、まず“間違いなく”上手くいく計画だった。
そう思っている時期が、俺にもありました。

てことで冒頭に戻るわけだ。




メルディアナ魔法学校から申しつけられた修行、“日本で先生をやること”。
これを見てからの人生は、今までで一番輝いていただろう。

日本行きの日まで、アスナとイチャイチャしたり、このかとチュッチュしたり、茶々丸を巻き巻きしたり、エヴァをナデナデしたり、那波にパフパフしてもらったり、ちうたん(笑)を身内バレさせる空想をして気を充実させ。
さ~て、次回のネギまさんは? 『お子ちゃま先生は魔法使い!(性的な意味で)』『ドッキリ図書室危機一髪!?(性的なry)』『おフロでキュキュキュ♥(性)』の3本で~す。うふふふふふふ。とか妄想して楽しんでいた。


それが幻想であるのに気づいた最初のきっかけは、日本に到着し、麻帆良学園中央駅を下りた時、だと思う。



[9284] TypeA→2
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/08 20:31
電車の中、優しげな中学・高校生のお姉さんにニコポされそうになるのをパンチラカウンターして、さぁいよいよアスナとこのかに出会えるぞ~、初対面から失礼であろうアスナにキレないように気を付けなきゃ~と気を引き締めている時、ふと、何かの違和感がココロの奥で燻ったのを感じた。

「ワワワ何コレスゴイ人ー。ワ、イケナイ。初日カラ遅刻シタラマズイゾー(棒)」

その違和感を無視し、とりあえずネギならこう言うであろうセリフを口の中で呟き、中学生女子っぽい子にあたりを付けて追いかけていく。
案の定、近くから『高畑先生高畑先生……ワン!』と大声で聞こえて……


……こない。何故だろう?
念のため周囲を見渡すがそれらしい人物は見当たらない。おかしい。

いよいよ大きくなってきた違和感を振り払うように女子校エリアに足を急がせる。
まばらになって来た生徒の影もほとんど無くなりすわ遅刻か、むしろアスナ達がいないのが悪い! と責任転嫁していると、後ろの方から声がしてきた。

「きみきみ~! 君がネギ君かい? スゴイ勢いで走っていくから追いつけなかったよ」
「え、えぇ。それは失礼しました。あなたは?」

そこには冴えない男性教諭の姿。見覚えはあるが誰だろう? というか真面目にネギま読んでいた訳じゃないので、教師などあまり覚えていない。

「僕は瀬流彦。今度一緒にお話ししようよ」
「もちろんさぁ」

性格は大体把握した。というか2003年だろココ。何故お前がそれを知っている。いや、たまたまそういう台詞になっちゃっただけか?
まぁ、そこは追々聞くとして、こいつが俺の案内役だったらしい。あるぇ~? アスナんとこのかんは?

「アスナン? コノカン? そんな先生いたかな……」

ふむ。原作が始まるまでは恐らく大丈夫だろうと思っていたが、既に漫画との乖離が起きているらしい。
案内役は自分にしか任されていない、刀子先生の前で「独身」「行き遅れ」「売れ残り」などの単語は言わない方がいい、しずな先生の魔乳は実は魔法具。
などなどお得情報を教えてくれる瀬流彦先生に感謝しつつ、学園長室まで向かった。




学園長室にて。
修業は大変~とかチャンスが~とか言っている学園長に、アレ? このかとかアスナ居ないと部屋住む約束できないじゃん、とか思いながら適当にうなずきつつ、話を進めていく俺。

「では……最後に指導教員の紹介をしよう。と言っても既に顔合わせはしているんじゃが、さっき案内してくれた瀬流彦先生じゃ」
「吾輩は瀬流彦である。名前はまだ無い」
「あっ……それ名字なんだ……」

というか魔乳は? パフパフの為にほっぺたの皮膚1500番の紙やすりで削って開発したのに。ちょっと触っただけで、あふんってなるまでに準備したのに。冗談だけど。
それに、

「あの、学園長。僕は一体どこに住めばいいのでしょう?」
「ああ、そうじゃったそうじゃった。実はまだ住むところが決まっていなくてのぅ。悪いんじゃが、職員寮に住んでいる瀬流彦先生のところに一旦身を置いてもらおうと思っていての」
「え゙」

をいコラ。アスナこのかとのイチャメチャパラダイスはどうした。何故俺が白石稔ボイスと暮さねばならない。

「みのりん、って呼んでいいよ」

おまえは少し黙っていてくれ。後でおっぱいパンあげるから。
いちおう心ばかりの抗議をしてみたが結局、他に住むところが無いという事で、瀬流彦ハウスに誘われるがままホイホイ付いていかなければならなくなってしまった。不幸だ(パクりだ)。




そして、ついに俺は『ネギま』との決定的な差異を目にすることになる。

「ちょっと……瀬流彦先生……!」
「ん? どうしたんだいネギ先生。カワイイ子でもいたかな?」

瀬流彦先生からクラス名簿を受け取った時に気付いた。クラス名簿が真っ白なのだ。
本来ここにはタカミチのメッセージがあるはずなのに。

「僕の先任……2-Aの前担任は誰ですか!?」
「わわっ。いきなり大声出さないでよ、びっくりするなぁもう。何かいいことでも(ry 確か光神隼兎(みつかみはやと)先生、だったかな」




最悪だ。ここがネギま世界なのは間違いない。げんに今までは原作通りに進んでいたし、クラスのメンバーも見たことある顔ばかりだ。
だというのに、原作との乖離がここまで酷いのは何故だ?

簡単だ、原作に干渉し、手を加えている人間がいる。
しかも担任の座に居座っていたということは、ネギまを知っている人間なのだ。
俺はネギの中に転移してきたが、その光神某とやらは恐らく転生者か? あるいはモブに転移した戦闘力の無い一般先生か。

「瀬流彦先生、ここ2年以内にこの学校に来た先生で、2-Aに少しでも関係のある先生の名前全員挙げて貰えますか? あとさっきの光神先生について詳しく教えてほしいです」
「え? まぁいいけど……早くしないと授業に遅れちゃうよ? まずさっきの光神先生が去年就任で……」

瀬流彦先生からの返答は絶望的だった。
おそらく最低で三人以上のトリッパー、しかも魔法先生がいるらしかった。
勿論漫画には余計なモブの名前は出さないであろうから、そういったただの先生である確率も高い。しかしそんな希望も、続いた情報で粉々に打ち砕かれた。
光神某と、仲の良い先生が二人いて、その三人は良く漫画の話をしているらしい。だが詳しい話を聞こうとするといつもはぐらかされ、ちゃんと聞いたことは無いという。

「たしか『ネギ』がどうとか言っていたかなぁ? 料理漫画なのかもしれないね」
「女の子を料理するんですね、わかります」
「え?」
「え?」

まぁ、とにかく既に予測の出来ない状況になっていると言えよう。ていうかトリッパー、おい、お前等は好き勝手にやっても安全圏にいるからいいけど、こっちは命懸けなんだっての。
もし原作通り進んでいたら興奮でうれションしかねないであろう教室の前で、気分は既にどん底。
これから何をすればいいのかも解りませんよ。ええ。

「そんなに緊張しなくても大丈夫。ウチの学園の子はみんないい子だからすぐに馴染むよ」
「ありがとうございます瀬流彦先生。ちょっと落ち込んでいただけですから」
「うんうん、若いうちはたくさん失敗した方がいいんだから! 頑張って!」

なんかキャラ安定しないな瀬流彦。少し落ちつけよ。後でおっぱいあげるから。

「え、マジで?」
「地の文に反応しないでください」



[9284] TypeA→3
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/08 20:30
そこからの授業風景は、特筆すべき事もなかった。
トラップ、自己紹介、アスナと雪広あやかの口論(アスナが俺の魔法を疑ったわけではない。日常的にやっているようだ)。
消しゴム弾が撃たれなかったのと、タカミチが来なかったのを除けば概ね原作通りで、自己紹介の後にまた例の違和感がもやもやしたのが気になるくらいだった。

「もう、原作気にしないで生きた方がいいのかな」

そうは言いつつ足は宮崎のどかを追いかける。すると、するとだ。
恐らく図書室、あるいは図書館島に向かうと思われるのどかの前に一人の生徒が現れた。
しかもただの生徒ではない。“男子”生徒だ。
何やら和やかな雰囲気でどこかへと向かう二人に、まるでストーカー、というかまんま追跡者の体で追いかける俺。
ふと思い出したが、宮崎のどかはネギとの一件が起きるまで前髪でアイシールドを作っていたのではなかったか。
だが目の前で男子生徒Aに話しかけるのどかは、確かに前髪ウザいが、ちゃんと顔の見えるカットになっている。これはどうしたことか。

そんな風に考えながらストーク。ストーク。ストーク。と、

「……ぃ君」
「ん、こんなとこで?」
「……はい」

なにやら人通りの少ない(それでも学園の敷地内だ)場所に来た二人は、“友人の距離”からぐっと体を寄せ合い、ほんの一瞬だけ唇を合わせた。




え?

あぁ、なるほど、転びそうになったのを助けたのが、角度の問題でキスしているように見えたんですね、わかります。
そんな俺の心の声を聞こえたのか聞こえていないのか、元の“友人の距離”には戻らず、小声で何か囁き合う二人。そしてもう一度キス。今度は長い。




…………長すぎるっ!

お前ら少し恥じらいを持てと言わざるを得ない時間をかけてようやく離れる舌と舌。

「図書室まで我慢ね」
「は……はい……」


……………………。




おい、おいおい、『まで』ってなんだ図書室で致すつもりかおまえ本にかけるなよそもそものどかに彼氏はいないかったろうあまり驚いて三点リーダ×8で27点リーダ出ちゃったじゃないか(混乱)。

いろんな言葉がぐるぐると脳裏を駆け回るが、さっきの光景に脳の使用率が99%を占められ、処理しきれない。いわゆる一つのフリーズ状態。

結局俺は二人を見送ったまま、呆然と立ち尽くすしかなかった。




「…………えぇぇぇぇ~何でぇぇぇ?」

ようやく思考出来る状態になっても、答えが出るわけではなかった。

だが、単純に考えれば男子生徒Aはまず間違いなくトリッパーだろう。
衝撃的な映像のせいで、おそらく未だに混乱している自分に喝を入れるため両頬をはたく。 ッ! よし。

さて、これからまずしなければいけないのは、学園内トリッパーの人数把握含む情報収集と、これからの行動を決めるための交渉だろう。
先生にトリッパーがいる時点で生徒にいると考えない時点でアホだった。
これからは、それこそ2-A生徒であろうと転移を疑ってかからねば。いや、転移しているのであれば交渉も楽だろうか? なんせお互いに未来の情報を持っているわけだし、原作通りに進めばおそらく2-A生徒は死ぬことはないのだから。

だが、どうやってトリッパーとわたりを付けよう? まさか一人一人にトリッパー? と尋ねるわけにもいかないし。
一番楽なのは某先生と直接話し合う事だが、アンチネギだったりしたらどうしよう。
中身がネギじゃないとしても嫉妬乙でボコられたり。少なくとも一度は話をした方がいいとは思うが。

「あぁ~、何か疑心暗鬼。この世の全てを信じられなくなってきたよ。空落ちてこないかなぁ?」
「ほらほら先生! 主役なんだからもっと楽しそうにしてよ!」
「そうアル! 陰気な顔していると性格まで暗くなるアルヨ?」

励ましてくれるか生徒達。だが今は君達のせいで陰気な顔しているんだ。
あと、暗いのはもう手遅れだ。諦めてくれ。

台詞から察することができるだろうが、今は歓迎会の真っ最中。
ただし、生徒がなんだか少ない。
原作の人気キャラはほぼ全員、乾杯の挨拶が済んだらそそくさとどこかへ消えていった。


もはや『何故だろう?』なんて呑気な事は言っていられない。
恐らくトリッパーに寝取られているor本人がトリッパーと考えていいだろう。
しかもこのタイミングで居なくなる。
アンチネギに違いない。畜生、俺が何をした。

――先生、具合が悪いんですか?――
「いえ、大丈夫です四葉さん。心配かけてすみません」
――辛いようでしたら、すぐに言ってくださいね――
「えぇ。我慢できなくなったら保健委員の和泉さん……は居ないから委員長の雪広さん……も居ないから、四葉さんに頼むね」

はぁ、はたして何人がトリッパーの毒牙から逃れられたのだろうか。
俺がニコポカコポで楽に攻略できると考えた以上、他の奴らも同じことを考えただろう。
最悪、全員攻略対象じゃありません、てなことになっているかもしれない。

「不幸だ」



――――――――――――――――――――

締めがパクりになってしまった。使いやすいなコレ。



[9284] TypeA→4
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/04 02:32

もう一度念押し。嫌な気配を感じたら、逃げるように。
TypeB書くときに腐っぽいのは修正するかも。

――――――――――――――――――――


「結論から言おう」


原作キャラ全員ポされていた。
しかも、敵対勢力の人間までほぼ全員。

この話は、すぐに判明した。例の某先生に歓迎会の後、直接会いに行き、話を聞いたのだ。
しかし納得するまでに一日かかった。
そりゃ、トリッパーには男も女もいるし、敵勢力側で転生する奴もいるだろう。
だが、全員ってなに? おいしいの? 原作でラスボスもまだ出ていないのに全員って何事? そう考えたわけだ。

これについては簡単明瞭。
原作終了して、クロスオーバー作品も完結し、赤松御大亡きあと、こちらにトリップした奴がいたのだ。ネギ(俺)が生まれる10年以上も前に。
そしてそいつは自分以外にトリッパーがいるのを見つけ、もし多数のトリッパーがいるなら少しでも危険を減らすため、情報を全て共有しようと、そう考えた。
この場合幸いと呼んでいいのか、トリッパーは新旧両世界に合わせて700人近く居た。
普通、トリッパーで~す。なんて名乗り出ないだろうと思うが、その未来人(仮)以外は、単行本で言うと30巻相当までしか読んでない(というか発刊されていない)人間達だったので、情報を餌に釣れば入れ食いだったようだ。

世界跨いどいて時間軸がおかしいとかそんなこと今更言うつもりはないが、おいおい、それなら村は何故襲われたんだ? と訊ねようとしたら、そこで何かおかしい事に気づいた。
村が襲われた記憶は無い。それ以前は『自分』ではなく『ネギ』だったから。
だが杖はある。スタン爺ちゃんも村人も石化して――――

「いない……」

日本に向かう前日にも、話をしたのを覚えている。
愕然とした。

某が言うには、転生者はいても転移はゼロ。漫画内で名前の出てきたキャラは全員ホンモノだった。
必然的にネギも原作キャラだと思った(実際トリッパーが調べた時は“ホンモノ”のネギだった)トリッパー達は、一応ネギに原作通りに動いてもらうつもりだったらしい。

だがまぁ、700人もいれば正義感の強い奴もいるもので、「襲われるのが分かっている人々を見殺しにはできない!」とかで、あくまで平穏に悪魔を倒し、俺には幻術と認識阻害でそれを意識させないままにしたらしい。偽善者が多いからな、と某は苦笑していた。
それなら何故こんなことになっているのか。原作開始までそのままなら、原作通り進ませてくれればいいではないか。
トリ(ry達のリーダーである人物いわく、『欲のせい』だと。

「最初に抜け駆けしたのが誰かは知らないが、大元を押さえられちゃどうしようもない」

去年の初めに、麻帆良学園内のトリ達全員でひそかにデモが起きたのだ。
簡単に言うと「こんな可愛い子口説かずにはいられない」デモ。
ひそかなデモってなんだとか、そんなしょうもない理由かとか色々あるけど、結果、完結後の世界はどうせ何が起こるかわからないのだから、それなら原作も滅茶苦茶にしてやろうぜ! という声に乗った大多数が、一斉に原作キャラを口説き始めた。

逆ハーレムに近い状況は、可愛いのに何故か男っ気がないというある意味都合のいいキャラ達にとって抗い難いものがあり、しかも相手はなぜか自分の琴線を振るわせることばかり言ったりやったりする。
元々ホレっぽい彼女たちは促されるまま心の鎧を脱ぎ、ついでに洋服も脱いだ。

そして最後の砦、明日菜が落城したときトリ達は諦めた。

もはやこれまでと、残った男トリは敵勢力である千草を口説き、月詠を手懐け、女トリは小太郎に餌付けをした。
そうして原作主要キャラがあらかた落とされたとき、じゃあいっそ『ラスボス(仮)』も落とせば平和じゃん。という運動がおこり、あまり人を見る目がいいとは言えない二人のトリッパーがラスボス(仮)に挑み、見事成し遂げた。というか添い遂げた。
今は次元の狭間で仲良くしているそうだ。

衝撃的なのが、まだウェールズを発って数日しか経っていないのに、ネカネもアーニャも落とされていること。
周囲のトリ達が原作キャラと仲良くしているのを羨みながら、俺の嫁はネカネ(アーニャ)しかいない! といままで耐え忍んできたらしい二人のトリッパー。
2-Aメンバーに振られた男共も、一時期は残り物に群がるように彼女達の近くまで寄って来たらしいが、それを純愛&禁欲パワーで退け、俺が発った数分後から口説き、なだめすかして陥落せしめ、今では周囲の皆が祝福してくれている。
呪うぞ。
それにしても、ザジがそんなに可愛いキャラだったなんて! ザジー! 俺だー! 今の男と別れてくれー!

「と、いうわけさ」

そんな事を言う目の前の某も、傍らに刀子先生を侍らせ、甘い空気を出してこっちを牽制してくる。
刀子先生に至っては、あからさまにこちらを威嚇し、某の方を向くときだけ蕩けた顔を見せていた。
をい。こっちは当年とって10歳やぞ。目の前で有害指定かかりそうな映像見せるなや。




「出足が遅れたってレベルじゃないな、コレ」

最後に某は「生徒達の連れも、ネギ先生がトリッパーと知ったらあまり良くない顔をされるかもね。一応僕は内緒にしとくけど、もし話すなら自分でやってね。社会人でしょ」とか言い残して、部屋から追い出しやがった。

「これ、不幸か? こういうのって悲運とか祟られているとか言うんじゃない?」

死ななければ幸運だと思うなよ……!
生きたまま地獄(瀬流彦ハウス)をさまよう俺の、今残っている唯一の希望は、この時代の人間じゃないゆえに一応付き合っている奴はいるが本気じゃない(であろう)超鈴音、あとは雪広の血筋に期待をはせるしかない……。
あ、超は親族だっけ? 三等親以上離れてればいいのか。ダメでも気にしないけど。

そういえば、ずっと感じていた思わせぶり違和感は、見る人見る人が魔法使っていたからであった。
認識阻害掛けられているとはいえ、生徒達は俺に魔法使っているのを見られるのがまずいという意識は無いし、自重を促す理由も見つからなかったのだと。
つまり、麻帆良学園の生徒はほぼ全員が魔法生徒と化していたのだ。
魔法世界や関西呪術協会? との軋轢などは、いや、まぁ、理屈は知らんけど正義マンがなんとかしてくれたのだろう。700人もいればかなり大きな組織だ。
トリッパーは何故か強キャラ多いし、やってのけるかもしれない。


そんな事をぼんやり考えながら瀬流彦ハウスにて家主と淋しく飯を食っているわけだったのだが、急に涙が溢れてきた。
そりゃそうだろう。目的がヨコシマであろうと努力は努力。人間、歩くのがメンドイから自転車を作ったし、わざわざ相手の所まで行くのがメンドイから電話を作ったのだ。
その努力がまったくの無意味だったと知らされ、これから努力しても目標(おにゃのこ)は手に入らないときた。
我慢しようとしても嗚咽が漏れる。




瀬流彦先生がこちらを気遣って何かを言おうとしているのが分かった。
温かい人柄の先生なのだろう。声をかけるか、なにも言わずに立ち去るか測りかねているらしい。

「ふふ……優しいんですね、瀬流彦先生は。こんな学園長に頼まれただけの知り合いなのに」
「……そんなこと無いよ。生徒にも呆れられてばかりだしね『瀬流彦先生は思いやりが、女の子に対する気遣いが足りない』と」

そうなんだ……。

「こんなに優しいのに……誰かと交際したことはあるんですか?」

瀬流彦先生の肩がビクッと震える。
何か信じられないものを見るような眼でこちらに顔を向けているのだ。
どうしたんだろう? 少し首をかしげながらもう一度尋ねる。

「……縁がなかったからかな? 今までに何回かお誘いはしたけどフラれることが多くてね。最近はそういうのも少し疲れたよ」
「それじゃあ、これからも誰かと付き合うつもりは無いんですか……?」
「え? ごめん良く聞こえなかったよ」

嗚咽交じりの小さな声だったので、先生の耳に届かなかったらしい。
ちょっと思い切って近づくと、先生は少しギョッとなったように身を引いたが、裾をつかんで離れないようにする。
先生の胸元に顔を寄せ、少し呼吸を整えて、涙が止まるのを待った。
少し落ち着いたころに、首にのしかかると、先生の耳たぶがふるふると震えた。
そこに向かって、自分の言いたかったことを口にする。

「先生、付き合わない……ン……ですか?」



言葉は、確かに、届いた。



[9284] TypeA→5 BADEND
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/04 18:56


「………………」
「………………」


昨夜も、特に筆記するべき事項はなかった。




「………………」
「………………」


思わせぶりな台詞と改行やめろよ! 本当に何もなかったよ!

「起きて来たかい? 昨日は学園に来て二日目だったのにいきなり休んでいたから、みんな心配していたよ」
「申し訳ないです。それと、ありがとうございました。慰めてくれて(性的な意味じゃなく)」
「いやいや、道に迷う学徒を導く(絶頂的な意味じゃなく)のは、これで二度目だからね。で、今日は学園が休みだが、どうするんだい?」

今日これから、というよりも、今これからどうすべきかを考えなくちゃいけないだろう。
なにしろ、指針(原作)は全て折れ曲り、捩じ切れて、その上爆破したかのように跡形もない。
ここから先に進もうとしたら、それは最早ネギまではなくオリジナルのストーリーになるだろう。
だが、望みがある限り自殺なんて選択肢は無い。
たとえそれがどんな道でも、立ち止まる事だけはしないと決めたんだ! あの日! あの、太陽と! あと杖に! あとアレ、夕日に!

とかかっこつけといて、痛いのやだから治癒魔法MAXにするような奴が、自殺なんかできないっていうのが本当の理由。
ウサギは寂しさで死ぬというが、鬱で死ねたらどんなに楽か。

そういえば、敵対組織も落としたとは言っていたが、じゃあこれから俺がバトルするようなことは無いのだろうか?
瀬流彦先生に一言言い残し、早速某に聞きに行ったら、シーツイン刀子に塩撒かれた。パリィ。

「学園長とエヴァ組は『ネギま』を把握しているから、聞いてみるといいよ~」

おぉ、そうなのか。じゃああの爺、こんな不憫な立場に貶められた俺に何の呵責もなく瀬流彦を宛がったわけか。
昨今はアンチ○○とかでネタにされるキャラが多いらしいが、ここまで憎悪を感じたのは初めてだ。まさに反学園長。
今顔を合わせたら殺意の波動を抑えられなくなること必至な上、返り討ちに遭うのも解りきっている。
エヴァ一択だな。




正直に言おう。
俺はいまこの時まで、馬鹿正直にも期待していたのだ。
あれだけ丁寧に説明され、証拠までこの目で見て、それでも尚、幻想の切れ端に縋り付いていたらしい。
仕方がないだろう? 自分の信じた理想郷が、たった二日で崩れ落ちようとしているのだから。


「…………ッ! ……!」
「……? ……」
「……~~ッ!」
「……。」
「……ッ! ……ッ! ……!」
「………………。 『   』」
「~~~っ!!!」

正直、なにを話しているかは分からなかった。
不明瞭な言葉、意味のない羅列ばかりだった故に。

だが、なにをしているのかは十分理解できた。
不明瞭な言葉、意味のない羅列ばかりだった故に。


「そういう事ですので、お引き取りを。マスターにはネギ先生がいらっしゃったことはお伝えしておきます」

原作でもあまり見ない茶々丸の強い口調も、今の俺にはありがたかった。
茶々丸の言う通りにすれば、これ以上聞かなくて済むから。
これ以上、壊れなくて済むから。


帰り道、2-Aメンバーらしき人物と何人か会ったが、自分がなにを話しているのかも分からないままだったので、相手が何を話していたのかも覚えていない。
ただ、全員が同じ音を発していたのでそれだけは理解できた。“ゲンキダシテ”だ。

元凶に慰められるって……。
苦笑って、本当に苦しいんだな……。今まで苦笑だったものはこれから困笑、あるいは苦しくないで笑と名を改めるべきだよ。
なんだか、朝起きた時にリフレッシュしていたことが信じられないくらい気が重い。
結果が有って原因があとから付いてくる。某槍使いの必殺技みたいだ。

一度落ち込むと一気に底まで行くのは、ネギの性質なのか俺の性質なのか。
治癒魔法では心の傷は癒せない、とか。今大ダメージ受けてるよ俺。今こそ癒しが必要でしょ……。




「やっぱりここにいた。ネギ……君」
「瀬流彦先生……どうしてここに?」

今日は会議に行っていた筈では?

「はは、サボちゃった」
「サボっちゃった、って……」
「昨日の夜、あんなに泣いていたのに、朝はなんでもない風だったからさ。少し、気になって」

先生……。先生はなんで、

「どうしてそんなに優しくするんですか?」
「どうして、って……」
「もう僕には何もない! 何も持ってないんですよ先生! 将来の夢も、乗り越えるべき師も、隣にいてほしいと願った人も、全部……!」

瀬流彦先生は黙ってこちらの話を聞いている。冴えない顔を真摯に向けて。
ああ、なんだか色々言いたいことがありすぎる。嗚咽と一緒に勝手に出て来ようとする言霊たち。
一度恥ずかしい所を見せているからか、とっても口が軽い。舌が滑らかに怨嗟の声を吐き出す

「そもそもなぜ僕なんです! こんなみじめな役、別の誰かがやればよかったんだ! 700人もいるなら何故! どうして! 我慢できなかった? ヒトは理性があるからヒト足りえるんだ! そうじゃければそんなのは獣と一緒じゃないか!」
「……………………」
「こんな世界で何をしろと!? この世界に創造主がいるなら、この物語の、僕の役目は一体なんだって言うんです! 僕が居る、意味など…………無いじゃないですかっ!」

喚き散らすだけでは我慢できなくなり、地団駄を踏み、髪を振り乱しながらの慟哭。
先生に言っても詮無い事なのは理解している。だが、溢れる感情を理性で押し留めることができない…………
って、あれ?

「僕も獣じゃん」
「え?」


まぁ、今日もそんな感じの瀬流彦ハウスだった。
それにしても、原作キャラは男女ともにトリ達に喰われているってのに、こいつは何故清い体のままなんだ。
あまりに無残で可哀相だから、ぷにぷにおててのうちに手ぐらいなら許してあげようかな、と、既に瀬流彦の哀れな女性遍歴にカコポされつつある俺であったとさ。おしまい。




[9284] TypeA→6 以下蛇足
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/04 18:54


図書館島のイベントもないまま、2-Aは当たり前の如く学年一位のクラスになり、俺は俺で爺からの課題である、クラスのみんなと仲良くする(子供か!)をガン無視し、割と可愛いモブ子ちゃんを口説いてはフられ落ち込み、口説いてはフられ落ち込みを繰り返しながら適当に2-A生徒達とコミュニケーションをとっていた。

そして春休みのある日、2-Aが2-Aでなくなり、3-Aにもなっていない、あやふやな時期のこと。

原作通りに進め? でもそんなの関係ねぇ、といった感じに自暴自棄になっていた俺に、神が喝を入れたのか。
ある天啓を受けた俺は、休日を利用し、早速それに従い行動することにした。




~~パラケルスス島に向かい、ニャモを落とせ~~

……パララケルスだったかな? そう大差ないが。つまるところラブひなである。
ネギま世界ネギま世界というから解りづらいが、ひなた荘周辺に転生すればそれはラブひな世界だろう。
いってしまえば赤松ワールド。おぉ、何かうまく言葉がハマっていい感じじゃないか。

とにかく赤松ワールドならひなた荘もパラ(ry島もあるはずだろう。
もしかしたら『AI止ま』や『陸まお』も同じ世界だったりするのだろうか? 俺は一切読んでないからそれは関係無いというかどうしようもないのだが。
まおちゃんが居たとしても何かアドバンテージがあるわけではないのだ。




よって素子まっしぐら。ニャモ? インカラか!
それに、今の自分なら旅行に出たところで襲われる事もないだろう。
ついでに神鳴流道場に寄って、鶴子さんを眺めるのもいいかもしれない。確実に旦那がいるの解っているから見ても気落ちしないしね。
ここまで裏切られてきたのだ、正直期待はしていない。出来るわけがない。
最低でもひなた荘の住人は全員アウトと考えてまず間違いない。
今は2003年。ラブひな最終話が2001年で、景×なるの結婚式が2005年。

「喰われているだろうな、こりゃ」

真枝絵馬も転居前にもぐもぐされているだろう。割と好みだったのに。
このままでは、もう一つの目的を確認するだけになりそうだ……。

む、まてよ? 確か未来人(仮)が、俺が生まれる十年以上前に生まれたらしいから、最低でも1984年以前に誕生。
そして景太郎となるが“トーダイ”したのが1984年……って、おいおい。
お前明らかにラブひなトリッパーだろ! ネギま来るなよ!

衝撃の新事実、元凶は全て未来人(仮)だった!

「正義マンの傍迷惑さここに極まれりだな。俺も気をつけねば」

道端で困っているおばあちゃん見掛けても、絶対助けてやらないぞ!

愚痴っている間に、意識を周辺に傾ければそこはひなた荘前の大階段。
原作の知識もかなり錆付いているため、見たこと有るような無いような、あやふやなまま階段を上っていく。
あれ、階段の下に喫茶店と呼ぶのもおこがましいナニカが無かったっけ? とか思ったが、もはやひなた荘の代わりに超高層ビルが建っていて、浦島景太郎の代わりに浦島太郎がいても驚かない程度には現実を見据えていたので、そんなちょっとした差異などどうでもよく、実際にひなた荘が目の前に現れた時もほんの少し気を乱すだけだった。

「別館が一般解放されてら」

またもや周りの状況が見えてない俺ちゃん。さっきからアベック(死)がやたらと近辺にいることに気付き、そのしょうもない会話を聞く限り、何やら無人別館の魔力をアテにしているようだった。
原作での扱いがどうだったかは覚えていないが、少なくとも、一緒に入ったら惚れるような安易なものではなかった気がするが。
それなんていう簡易ポ装置。いっしょにIN→ポォォ。

「インポですね。わかります」
「イ、イ、インポじゃないよ! それにパートナーの居る相手をゴニョゴニョ……」

おぉ。目的その2改め、景太郎発見。別館周辺を掃除している姿が憐れみを誘います。
トリッパー達に嫁を奪われて淋しくしているだろうという予想が大当たりだった。

なにやら俺の台詞を曲解したらしく、「近くに美女が沢山いるのに手を出さないなんてチ○コ付いてんのか?」という風に聞こえたらしい。
アレですね。疑心暗鬼と被害妄想が激しいですね。本当はわざと聞こえる位置で紛らわしいこと言ったわけですが。

「落ち着いて下さい浦島さん。ぼくはわるいショタっ子じゃないよ。ぷるぷる」
「あ、あぁごめん。最近、というか昔からだけどツいてなくて。周囲の状況全てが俺を悪い方向へ導こうとしているような気がしてね……」

ムゴいな……。“ような”じゃなく明らかに導いていますよ奴ら。
景太郎氏から話を聞く限り、ひなた荘の住人は原作と変わらないまま。ただし全員彼氏持ち、みたいな誰かの手間を省くようなポジションに納まっているらしかった。

それにしてもこれはひどい。
一緒に住んでいるのはお手付き、訪ねてくる観光客はアベックばかり。
元々ひなた荘の魔力で原作ヒロインを嫁にした景太郎では、外部で彼女など勿論作れない、ドラマが無いから成長もない。ないない尽くしですね。
ちょっと並べただけでこの悲惨さ。これが同じ赤松ワールドの主人公だと思うと怖気が走りますね。
自分の状況を考えれば絶対に思い浮かばないようなことを考える俺は、落ち込みやすい癖に割と楽観的なのだろう。

「大丈夫ですよ。奇運の元に生まれたような顔立ちをしていますので、不運がある分、今後幸運がやってきます。来世とかで」
「ありがとう、慰めてくれて……慰めてくれてる? ところできみは誰だい? 俺の名前は知っていたみたいだけど」
「いえ、それは表札を見て言っただけです。特に用件は有りませんので」

そう、景太郎がトリッパーかどうか、そして、嫁を奪われて居たらどういう生活をしているか、寝取られの後輩として見極めに来ただけなのだ。
そして彼は“ただの”景太郎だった。
分かった以上、彼から得るものなど何一つとして無い。

「あぁ、最後に一つご忠告。過去の女性の未練はスッパリ切って、新しい恋を見つけるのが吉です」

これぐらいの助言はしてやってもいいだろう。敵の敵は味方。
なにせ、赤松ワールド内唯一といってもいい“仲間”なのだから。




結局、ラブひなヒロインに一切干渉することもないまま各地を気儘に旅行し、麻帆良に帰って来た俺は、相変わらずの瀬流彦ハウスで生活をし、なんとなくこのまま教師になってしまうのもいいかな? と思うようになって来た。
景太郎に口添えをした時に思ったが、それ以外に道など無いのだから。
実際、一人旅をしながらそれとなく存在を振り撒きつつ、裏関係者のナワバリ周辺などを冷やかしながら帰宅したのに、な~んの襲撃イベントも伏線も起きなかったのだ。

以前、学園長に今の新旧両世界と魔法の在り方、そしてネギの立ち位置について、原作との差異を説明されたことがあったが、正直興味ないし、原作裏設定みたいなのは終わった話である。
なにやら原作と全く関係ないところで色々不都合は起きているみたいだが、俺にとって重要なことは一点。


“この世界”の『ネギ』に価値は無い。

『自分』で生きていくしか、ない。




今日も今日とてハウスから這い出た俺は、ある程度今までの事を整理して、そして一つの結論を出していた。

「ネギまなど気にしないで生きる!」

さっきも言ったとおり、進もうとしたらこれしか道は無い。
トリッパー友の会を(ryも考えなかったわけではないが、正直ナギとまともに渡り合う奴や、エヴァ・茶々丸・チャチャゼロ・トリ十数人+ぬこ、なんていう無敵軍団に喧嘩売ろうとする程愚かじゃない。
あぁ、トリの人数が合わない? 奴らはエヴァの(性)奴隷です。旦那はぬこだから。
ついでに言えば、俺はRPGでいうところの僧侶。戦士も武闘家も居ないまま裏ボスに突っ込むってそれなんて無理ゲー?
癒し系ショタっ子は鳥友会鏖計画なんて立てないよ。ぷるぷる。


そんなわけで普通に考えれば、良質な脳・魔力・肉体、ついでにツラというチートボディで二度目の人生を送れるのだから、文句など出やしないだろう。
世界全部が敵になる感覚だって、前世を含めりゃ二度目だし。慣れもある。

ネギになってからは、困難是即ち修行也みたいな生活していたからか、ご褒美を貰えるかと思ったところに味わうキツめな不幸だった。そう結論を出してしまえば、後は野となれ山となれ。
赤松健記念館でも見ることが出来ないような、マジモンの赤松ワールドを見、聞き、体験出来るなら、前世の不幸を加算したってお釣りがくるほどの幸運だろう。
まぁ、そこまで熱狂的なファンじゃないから、少しだけラッキーだったかな? ぐらい。

こんな生活も、悪くは無いかも、と。

そう思った。






不覚にも、思ってしまった。




――――――――――――――――――――
思わせぶりMAX



[9284] TypeA→7
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/06 18:04
今回はほのぼの。オリジナルでやれ。

――――――――――――――――――――


春休みも終わりが近くなり、同じ学園都市内での進学ではあるが、新しい環境に期待を馳せ希望に胸を輝かす新中学・高校生の嬉しそうな声が聞こえる。
その楽しげな雰囲気は学園都市全体を覆い、関係無い人たちまでも笑顔でいるのが分かるような、穏やかな日。
そんな空気に、自分も気分が高揚し、なんだかとっても幸せな気分なのだった。

「ふふっ……。嬉しそうだね、ネギ先生」

目の前の少女が茶のショートポニーを振り振り、言葉をかけてくる。小さい顔にふっくらほっぺた、やや釣り気味な意志の強そうな瞳と、すっと通る鼻筋、流れる茶髪の横にある耳が、目を惹く程美しい。頬も美しい曲線を描き、どの角度から見てもふにふにしている。
身長は高いわけではないが、横にいる自分と彼女を比べると、流石に後塵を拝すしかない。あとほっぺ。

「分かります? こんなに嬉しいの、生まれて初めてです!」
「大袈裟だねぇ、ネギ先生は。でも、その顔を見たら信じちゃいそうかも」

俺がこんなに有頂天な気分になっているのは、周囲の空気だけじゃなく理由がある。なんとデートの真っ最中なのだった。

前々から目を付けていた子だったので幾度となくアプローチは掛けていたが、今日、昼食のお誘いをしたら、今迄の積極アピールがついに実を結んだのか、OKしてくれたのだ。
教師と生徒として、という意味だと勘違いされるわけにもいかないので、常に1on1、どストレートに誘いをかけていたのだが、OKしてくれるってことはそういう事なのだろう。
流石ネギフェイス。そして俺の話術。9:1ぐらいで顔のおかげだと思うのは卑屈だろうか。


「ホラホラ、お行儀よく食べないからほっぺた汚れてるよ」
「え、どこですか?」
「ここだってば、ここ」

ついっ。(あふん) ぱくっ。

「はい、取れたよ。これでいつもの格好いいネギ先生だ」


な~~んて事をさっきからやっているのであった! お先に失礼します瀬流彦先生! 僕は大人になります!

多少子供扱いされているのは仕方ない事だ。なにせ彼女は高校生なのだから、十歳の自分と比べると格段に大人っぽい。
流石に那波(巨乳)ほどの色気は無いが、活発そうな見た目に反して、たまにみせる母性丸出しの顔が非常にイイ。そんな顔を向けられるのは恥ずかしいが、その羞恥も含めて楽しい。
え? 教師と生徒? いまさら何言っているのさ。


もちろん、後になって彼氏持ちだと判明したり受動的な美人局だったり病気持ちだったりするのは予想出来過ぎるので、とある伝手で過去の男性遍歴は事前に調べてある。
ついでに手に入った情報によると、麻帆良学園聖ウルスラ女子高等学校の一年生の、今となっては珍しい魔法が使えぬ一般生徒で、脱げ子と同じクラスらしい。
通う校舎が違うのは残念である。
彼女以外にも“調査”をした人は勿論沢山いるのだが、ヒロインと同じく彼女達(モブと言うのはやめた)も、やはり都合よく年齢=彼氏いない歴が多かった。そしてその分トリッパーのお手付きも多かった。

そんな中、脱げ子と同じクラスという、恋愛戦争最前線からは離れているものの、目に付きやすい場所でよくぞ生き残った!
クロばかりの調査書の中、真っ白に光り輝く彼女の履歴を見た時は、横で瀬流彦が寝ているのにも拘らず快哉を上げたものだ。

「何か考え事、先生? 難しい顔をしたと思えばニヤニヤしたり」
「いえ、ユキさんと居るこの今という時間が、本当は夢なんじゃないかと思っていたんです。でも、たとえ夢だって、こうして一緒に居られるなら、それは僕にとって最高の幸せですから」
「あらま……。若いのにお上手だねぇ、聞いてるこっちが恥ずかしいよ……。ま、英国紳士の本領発揮、ってところ?」

そして変態紳士の本領も発揮する予定です。治癒魔法は病気治したり怪我治したりするだけが能じゃないのだよ。
可愛い弟と思っている子に死ぬほど喘がされ、意識朦朧な彼女のレイプ目を想像するだけで…………

おっとヤバイ。今は英国紳士、英国紳士。
それにしても彼女、幸せと書いてユキさんというのだが…………いい名前だ。
今自分に最も必要なものだからね。


麻帆良に来てからの不幸など既に過去のもの、自分のクラスが生徒全員非処女? 何か問題でも? と開き直った俺に隙は無かった。開いたら隙間だらけだろうという突っ込みは無しだ。




食事を終えた後は、二人で街並みを適当に歩き、気になる店があれば冷やかし、あやしげな洋服店で何故か俺が着せ替え人形にされ、小物店で彼女がずっと眺めていたチョーカーをプレゼントしたりしながら、少しはしゃぎ過ぎかとも思われるテンションで過ごしていた。
そんな楽しい楽しい、本当に楽しかった時間も、太陽が落ちて、夕日がただの一本線になってきたことでお開きとなった。


今日は御誘いありがとう。男の子とこんな風に過ごすのって初めてだから、変なとこ見せてなければいいけど。
こちらこそ一緒にいてくれてありがとう。綺麗なユキさん、可愛いユキさん、元気なユキさんなら一杯見ることができましたよ。

今日一日のことを二人で話す。なんだか予定調和のように、当たり前に行っていた。
だんだんと近づく別れを惜しむように。
寮の明かりが見えたところで、彼女はタンッ! と勢いをつけて振り向いた。

「それじゃ、まぁ、そろそろ寮も見えてくるからココでいいよ。ネギ先生」
「ハイ、ユキさん。また新学期に会いましょう」
「とか言って、明日も誘いに来る気満々な癖に~。このこの」

こやつめハハハ。ばればれである。
まぁ、旅行から帰ってきてからは、ほぼ毎日口説いていたから当たり前の反応ともいえる。

基本的に紳士な俺は無理強いをすることは無いのだが、“最終選考”に残った四人のうち三人は、甘いことを言えば誘われるがままだったのに対し、こちらが押せば引き、こちらが引くと誘い、また押してくるのを待つ。
宙に浮いた和紙のようにのらりくらりとアプローチを躱す彼女を見て、男の本能というかなんというか、追いかけるのが楽しくなってしまったのだろう。
男を試す女は男を成長させる、というので、その点彼女は合格だろう。文句なしにイイ女だ。
俺はまだ合格を貰えてないようだが。

「でも残念! 春休みの最後は、実家に帰らなきゃいけないんだ。たまには顔見せないと、お父さんがウルサイからね」
「じゃあ明日は……」
「そうだね~。明日の朝早めに出発するから、ネボスケなネギ先生じゃ、私に会うのは無理かもね~」

言いおる言いおる。それは『見送りに来てほしい』って言う事でFAだろう。
中々どうして、お姉さんぶっている割に可愛らしいところもあるようだ。これ以上惚れさせても何も出ないぞまったく。
だが彼女好みに調教されている俺は、望んでいるだろう言葉を言ってあげる。

「ユキさんが喜ぶなら、雨が降ろうと槍が降ろうと、僕にとっては瑣末な事です。ユキさんに悲しい顔をさせないために、今日は10時に寝て、明後日の10時に起きることにします」
「遅っ! もう電車出てるよ! そこは早くおきるとこでしょ……というかみょうごにちって二日後かよっ! 寝過ぎだよ! あたし全然大切にされてないよ! 突っ込みどころ多すぎて拾うの大変だよ!」

おぉ、スゲェ。

「ありがとうございますユキさん。知らないうちに僕はもう貴女無しではいられない体になっていたようですね。ユキさんが何度も突っ込んでくれたおかげで、今日はよく眠れそうです」
「なんかエロい上に、漫才の相方扱いであんま嬉しくないなぁ……しかも良く眠れるって、寝過ごす気満々だし」

いいじゃないか漫才の相方。奥さんが相方に嫉妬する~なんてのは良く聞く話だし。
ちゃんと起きるから心配そうな眼しなくて大丈夫よ。これ以上続けると襲いそうだから気をつけて。
それにしても、いろんな意味でパートナーの素養があるお方だ。
コレで実は格闘技やっていたり剣道修めていたりしたら文句なしだな。
いや、先刻申した通り既にケチのつけようがない。が、一応聞いてみる。

「え? もちろんやってるよ。剣道じゃないけど、薙刀と合気道。私は子供の時から両方お稽古事に入ってたけど、合気道はウルスラの子……特に魔法の素養無し、と判断された子は必修と言ってもいいんじゃないかな?」
「へぇ~。そうなんですか」

子供のころからという事は、それなりには動けるのだろう。なにせ麻帆良の人間だ。
その上授業でもやっているらしい。なんでそんなのが必修なのかは知らないが、中途半端に力を持った魔法生徒からの自衛だろう、と勝手に見当を付ける。
俺は魔法の授業を行ったことが無いので学生たちがどの程度“使える”のか知らないが、たまに見かける生徒の魔法行使を見る限り、天才と言えそうな人間はいなかった。
そしてユキさん、いよいよもってしてイイ女ですね。
魔法生徒じゃないと聞いて、そっち関係は全く期待していなかったんですが。

と、気付けば彼女は、ムッとした表情でこちらを眺めている。

「…………こら、そんな目で女の子を見ないの。怯えたウサギに噛まれても知らないよ?」
「すすす、すみません! あああの日増しに魅力的に見えてくるユキさんに特に性的な方面での欲求が抑えられなくなった訳じゃありませんのでしかし勿論抑えなきゃいけないくらいには夢中なのですが!」
「へ? ………………ちょ、エロ坊主っ! テンパって妙な事口走らないでよそういう眼じゃなかったから! ただ、

ただ…………うまく言えない、んだけど」


……………………。




――――――相手を人間だと思っている目じゃ、なかった。

科学者が、実験動物を見るような視線、だったらしい。




それからすぐに、帰省の準備があるからと走り去る彼女に手伝いを申し出たが一言で断られ(女の子の荷物を見たがるなんて先生は変態さんかな?)、引きとめるのも忍びないため、明日の見送りを確約した後トボトボと帰宅した。


……自分のことなのに、自分自身ではわからないこともあるもんだ。

原作の事は吹っ切った。ヒロインなどどうでもいい。もう開き直った。

言葉にするのは簡単だが、未だに諦められないらしい。我ながら女々しい事だ。
そも、無理やり他者から奪い取って、その後どうする。
最初からやり直すとでも? 慰みものにするか? 本人だって知らない『原作』と、違う行動をしたから、それを罰するか? 何の権利があって?
それとも




それとも、方法が、目的なのか。

復讐なんて、考えているのか。


先程彼女が言っていた“そんな目”とは、彼女の人格など全く無視し、自分が好意を持ち、自分に好意を持ってくれている相手を、ただの戦力として計る視線だったのだろう。
そんな目で彼女を見ていた自分が、信じられなかった。


しかし現実として、確かにあの時の俺は彼女を駒として、数値としてしか見ていなかった。

そして、まったく最悪な事に






“何人消耗すれば”700人殺せるか、考えていた。




[9284] TypeA→B
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/08 20:30
思い違いをしていた。


人間という生物に期待が出来なくなり、塞ぎ込むように自分の周りに殻を作った以前の俺も。
新しい人生が始まるかと思いきや、一歩を踏み出したところでいきなり転び、それがケチのつけ始めだったのか、それとも決められた運命だったか、またもや周囲の人間に裏切られ、やっと立ち上がった今の俺も。

馬の視界は360°あるらしいが、なぜ人間ってのは正面しか見えないのだろう。
併せて、この世に、一方向からの視点だけですべてを把握できるものなんて無いらしい。目が二つだから二方向とかは今はいい。
とにかく目に映る部分を見ただけでその全容を知った気になる人間の、なんと多いことか。
それは自分自身にも適用されたらしい。已むを得ない、仕方ない事だと言えるかもしれない。
前世で二十歳、今世で十歳、なら三十年分の人生経験があるかと言われれば、首を横に振るしかないような、思春期に必ずある挫折に耐えきれず、背中を向けるような甘えた坊ちゃんだったのだから。


俺は。






春休み最終日である今日、うららかな朝の日差し……を全く感じることが出来ない瀬流彦ハウスにて、ついに俺は一つの決心をした。

「片づけましょう」
「へ? 急にどうしたのさ? 昨日まで『コレはコレで居心地がいいものですね。住みやすい』とか言っていたのに」

そう。たしかに言っていた。最初の頃はそんなの気にするほど精神に余裕が無く、心の豊かさを取り戻した時には既に馴染んでしまっていたのだ。
だがまぁ、体と心は裏腹。録画と再生を繰り返すように毎度毎度言った後で我を失って、自分の精神を疑うのだった。

だがこの春休みから(瀬流彦先生は今更どうでもいいだろうが)、こっちはれっきとした彼女持ち。
部屋が汚いと服も汚れるし、自分の恋人に会うのにみすぼらしい格好など出来ない。
もちろん今までこの家から直接彼女の元へ向かった事は、一度足りとてない。断じて。杖に賭ける。
そんな誓いを立てねばならないほど、この家、というか職員寮のこの一室は汚い。有体にいえばゴミ屋敷の様相を呈しているのだ。
普通そういった人間に職員寮を貸し与えることは一般的には無いのだが、今更“普通”も“一般”もないだろう。
さておき、ゴミ屋敷に住んでおいて『居心地がいい』? 『住みやすい』?
そんなのは、慣れたから、というだけでしょ! 住めば都? 最初から都に住めよ!

「なので、最低限度文化的な生活ができる“家”を作ります」
「え~。メンドくさいよネギ君。新学期始まってからでいいんじゃない?」
「この家……いえ、この巣を初めて掃除しようと提言した時も、同じことを僕は言いました。返事は『次の休みでいいんじゃない?』でした。そして新学期になったらあなたはこう言うでしょう『夏休みになってからでいいんじゃない?』」
「おー、さすが占いが得意な実は乙女チックネギ君。それとも一緒に暮らしてツーカーになっちゃったかな? 照れるなぁ」
「家を、っつ、くり、ますっ…………!」

誰の為に片付けると思っているんだ、物臭教師め。俺の渾身の説得が効いたか、青い顔でようやく動き始める瀬流彦……先生。もうこいつに敬称付けるの嫌だなぁ。
そして占いはアーニャのせいだ。断じて少女趣味なわけではない。

発端はこんな感じだった。


そして、終端はこんな感じだった。




それに気づいたのは偶然だった。
沢山あるゴミの中で、大きいものは瀬流彦に運んで外に出してもらい、こまめなゴミは俺が纏めていた。

と、その中にシュレッダーにかけられた紙屑があったのだ。袋にも入れられず散乱したままの。
普段だったら気にもせず、炭カルの袋に詰め込んで何も考えずポイしただろう。

ただ、
なにやら怪しげな文書と、インクで無理やり消した文字。興味を惹くには十分だった。
だが普通ならここで諦めるだろう。シュレッダーに掛けられ、しかも紙屑はそこら中に散乱している。

この紙屑、再生しようにも、量が多い上に斜め裁断×2で見事にバラバラだったので、文字をつなげ合わせ、完成にこぎ着くのは超難易度だろう。
これをもしもセロハンテープやら糊やらを使って読めるように切り貼りするにしても、二~三人がかりではどの程度の時間がかかるかわからないだろう。情報漏えいの防止策としてはまぁ上々だ。
ましてや一人、一日で完成させるのは不可能だろう。


だがそれがいい。

あまり関係ないかもしれないが、ネギと混ざってからジグソーパズルがつまらないのだ。
形が少し、視認で確認できるかできないかほどの差異でも、ネギヘッドは別のものと判断し、その面と面がお互いのどこに嵌まるか分かってしまう。
空間や物体の把握能力が飛びぬけているんだろう。
かくいう俺も前世では暗記は大得意だし、ジグソーパズルに関しては、一時期飯食う代わりにピースを埋めていた事もあった。

久しぶりの事に気分はウキウキで、紙に書かれている文字を暗記し、“捨て”、つながる紙を探し、また記憶し、“捨て”ながら掃除する。
つまり縛りプレイだ。二度見禁止プレイ。

ただ、そんなウキウキ気分も、バラバラにされていた文章が段々と読めるようになるまでのことだった。




結局紙屑パズルは完成しなかった。


大体三分の一くらいの解読が終わったとき、既に中身が100%理解できていたから。




「ネギ君……読んだんだね」

いつのまに俺の後ろに来たのか、瀬流彦がそこに立っていて、ゴミ袋の口から見える紙屑に目をやった。

たったそれだけで俺が何をし、何を見、何を理解したのか、わかったようだ。
そこらへんの勘の鋭さ、状況把握能力を見ると、こいつも普段の行動通りの男ではない。

伊達に魔法先生やっているわけじゃないのだ。

だが、この時の俺はそんな事全く気にせず、気にすることなど出来ず、核心だけを訊ねたのだった。

後ろから背筋をせっつかれるような感覚がして、それに抗えない。



「“本当”に?」



コレで、瀬流彦には通じる。こいつが隠していた事象を。
『隠すように仕向けられ、見つかるように仕向けられた』事象を確定させるための言葉はこれだけで事足りる。

これ以上の言葉なんていらないのだから。

瀬流彦は、俺の方をまっすぐに向いて、まっすぐな言葉を吐いた。これ以上なく、端的に。

まるで誰かに、“動かされているように”


「本当だ」




あぁ――――なんてことだ――――。


これ以上――――これ以上苦しめるつもりなのか。




俺は、思い違いをしていたのだ。


事情を知りながら、救済の手を伸ばすでもなく俺の人生に諧謔を見る近衛の爺ぃ。

在るべき姿を知りつつ自分の欲のみに正義を感じ、疑問を持たぬ周囲のトリッパー。

本来の役目を忘れ、ただそこにいる一人の女にまで成り下がったヒロイン。

そして、そんな世界を恨みながら何もできない自分。




そんな目に見えやすい“敵”が目の前にいたから。

最初から、俺の敵など“そいつ”しかあり得ないのに、思い浮かばなかった。

そして今、気付いたところでいったいどうすればいいのかも思い浮かばなかった。

俺の頭の中。

つなぎ合わせたピースが見せた真実は――――――












「“世界”が、君の不幸を望んでいる」






『可哀相な主人公』の『プロット』だった。

















そして、俺の意識は暗転していった。







――――――――――――――――――――

TypeA→ 測定終了

TypeA→B 引継完了 

■ 停止




[9284] 間話 可哀想なモブ子
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/06 18:03


ネギ先生に初めて出会ったのは、今年の三月の事。

面と面付き合わせたのは赴任から一ヶ月以上経ってからだけど、それ以前から先生の事は知ってた。
前々から問題児が多いことで有名な、麻帆良学園中等部2-Aに子供先生(!?)が来たとかなんとかで、一時期話題騒然になり、私自身は興味なかったが同じウルスラの友人に誘われるがまま顔を見に行ったことがあるのだ。

職員室で、次の授業で使う資料か何かを揃えながら溜息を吐く先生を見て、かわいいー抱き枕にほしー食べちゃいたいー、などと見た目しか見えていないクラスメイト達がはしゃぐ。
ただ私は一人、周囲の友人とは全く違う思いを抱いてた。

危うい子だな、と。
良く言えば儚い、悪く言えば今にも自殺しそうな姿だった。

そんな事があったからか、小さいのに目立つネギ先生が視界に入る度、言い知れぬ不安を感じてた。

だが、三学期末のある日、靴箱に入ってた手紙で呼び出され、誰だろ~などと考えながら向かうと、そこで待ってたのが件の子供先生だとわかり凍りつく私に、先生はこう言ったのだった。

『好きです! 結婚を前提にお付き合いして下さい!』と。




良く知りもしない相手と結婚するのはまっぴらごめんなので、当然その時の私は相手にしなかったわけだったけど、いったい何が気に入ったのか、その後もわざわざ高等部まで来ては愛の言葉を残していき、休日になれば花束を渡されたりしてた。

まぁ、当初はそんなことされても迷惑なだけだし、なんとかと天才は紙一重~って言葉の通りどこかおかしい子を相手にしてる気分だったので、第一印象もあいまって更に良くない印象を抱いていた。
どうせ母親に似てるとか姉に似てるとかそういう理由だろうと思っていたので、先生のしてることは何だかおままごとのようだと思ってたのだ。
そういう風に考えてみるとなるほど確かにかわいらしいが、その相手をするのは面倒。
先生にキャーキャー言っている他の生徒とやってください、って感じだった。




そしてそのイメージは、払拭されないままだった。


あんまりしつこいので春休み中に一度オーケーしてあげたが、それも街中をブラつき目に入った店を冷やかす程度のもの。
プランも無しに女性を満足させることが出来るほど君はイイ男なのか、誘っておいてそれかと小一時間問い詰めたくなった。
一緒にいるのが自分の好きな人ならともかく、子供の世話をしてあげているような状態で何を楽しめというのだ。チョーカーは遠慮なく貰ったけど。

元々子供は好きでも嫌いでもないが、すれた子供ひねた子供ませた子供は嫌いです。
だがしかし、ネギ先生は特別嫌だった。

見た目と口ぶりから感じられる爽やかさなど皆無の濁った瞳。
たまに中年親父の様な粘つく視線で見るのが嫌だし、こっちの価値を計るような目もウザかった。
皮肉を言っても全部自分の思う通りに受け取る所など自分内会議で大ブーイングだし、やたらと下ネタを言うのは最悪だった。
英国紳士を馬鹿にしてるのか? お前のソレはイタリア、しかも変態紳士だと声を大にして言いたくなる時もあった。


そんなネギ先生が、退行した。




春休みが終わり、また付きまとわれる毎日かとウンザリしていたのに、ぱったりとそれが止み、一体どうしたことか、まさか他の女に言い寄っているのではないかと思った私。
人間の心理として、追われると逃げたくなり逃げられると追いたくなる、というものがある。
散々辛辣な事言っといてお前何様だと言われそうだけど、目を付けたなら最後まで自分を見て欲しいという気持ちが働いたのも事実。
まぁ、実際に他の女の影があれば、それを盾にとって二度と近づかないように仕向ければいい。

だが、久しぶりに話したネギ先生は、まるで年相応、小学生のような雰囲気になっていた。


…………いや、なにも文句ないなコレ。元々十歳だし。

表面的な部分は変わってないけど、自分にはわかる。
少年そのままの表情などは今まで見た顔と違い、子犬みたいな感じで非常によろしい。
純真な瞳も私のストライクゾーンど真ん中。
もしこれがあの死んだ魚のような目をしていた先生の作戦だとしたら、なるほど大したものだ。
が、目は口ほどに物を言う。

彼に、裏は無かった。




けど、表も無くなっていた。




先生は、私を忘れていた。



[9284] TypeB→観測開始
Name: しかはね◆c0edb40a ID:b302c768
Date: 2009/06/08 20:35

その日も、ネギ・スプリングフィールドは悩んでいた。




今、ネギは日本のとある学園で教師をしていた。
本場の発音と、しかし流暢な日本語を駆使し、日本の女学生に英語を教えているのだ。

春休みを挟んでまだ2ヶ月程度しか経っていないのに、生徒との関係は良好。
普通、外語担当の外人先生には気後れするものだが、そこは『子供先生』のイメージが先行するのか、気軽に話しかけてくる生徒も多い。
職場の仲間である他教科の先生も、やはり珍しい自分という存在を気にかけてくれている。


ネギ君今日の授業でわからんトコあったから教えてー、これからさんぽ部の練習試合があるからネギ先生一緒にいこー、ちょっとネギ坊主あんたまた臭いわよちゃんと風呂入りなさいよね。

ここはこうして教えてあげるといいよ、鳴滝と春日のいたずらには注意しなさい、今夜一緒に飲みに行かないかい? ネギ先生は未成年ですよそうだったHAHAHA。

平穏な毎日。
退屈と言い換えてもいい。

ネギは悩んでいたのだ。
何故、こんな場所でこんなことをしているのか、悩んでいた。


「ふぅ、とりあえず1セットおーわり。今日も疲れた……」

ネギには目標があった。
その目標のために日夜修業したウェールズでの日々を考えると、今の状況は平和に過ぎる。

そもそも、なぜ先生をする事が魔法の修行になるのだろう。

アーニャの修行である、ロンドンで占い師をするなんてのは非常にわかりやすい。
精神修養、この場合は占いという行為自体を繰り返す事で経験が、精度が増していくのだから。

だが、先生を、しかも英語教師をすることで起きる魔法に対するメリットとは何だろう?

舌がよく回るようになることによって呪文が唱えやすい?
生徒と仲良くなる事で将来の為魔法使いの従者を動かすやり方を覚える?
教えるという行為を行うと魔力が増えるとか?

それなら実績のある魔法使いに師事した方がよっぽどタメになるだろう。
日々の平穏は確かに大事だが、ネギに今必要なのは艱難辛苦の状況や、しのぎを削れるライバルなのだ。

そして、そんな悩みよりももっと大きな問題が一つあった。


生きる指針とも言うべき目標が、何であったのか覚えていないのだった。

修行したのも、魔法学校を首席で卒業したのも。
日本に来て先生をやることになったのも、正式に先生になれたのも。
確かに覚えている。

だが『何故』だけ、覚えていない。
結果しか、残っていなかった。

勿論、マギステル・マギになる。父であるサウザンドマスターを探す。
それらについて考えもした。
だが、深く思考に及ぼす前に、自分のなかにある、分離したもう一つの意識がシャッターをかけるのだ。
そうすると途端に思考が萎え、『これは僕の目指したものではない』という答えだけが出てくる。

記憶に無い、経験に無い、そして頭も回らない。
八方塞がりだ。

「はぁ、お姉ちゃんに聞いてみようかなぁ」

ネギの敬愛する姉、ネカネ・スプリングフィールドなら、もしかしたら知っているかもしれない。
知らなくても、アドバイスくらいしてくれるだろう。

ただ、どうやって尋ねればいいのだ?

「お姉ちゃん、僕の目標知らない?」
「テーブルの下に落ちてたわよ?」

テレビリモコンじゃないのだから。
もし真面目に聞くにしても、ちょっとそれはシスコンにも程があると思われかねない。

「お姉ちゃん、僕、生きるための目標を見失っちゃった」
「まぁ。でも大丈夫。ネギは子供なんだから、いくらでも新しい夢を見つけることは出来るわ」
「そうだねお姉ちゃん!」

諭されるな。
主体性が無いのかお前は。

とにかく、これは自分の問題なので他人に聞いてどうにかなるものでもない。
今は『何故』か理解できないが、過去の自分は、それが必要だと思ったから鍛えていたのだろう。
そう考え、今日もネギは鍛錬を続ける。

「でも、なんでそんな大事なことを忘れてるんだろ? クラスのみんなや、他の先生に言ったら笑われちゃうな」

そうして、答えの出ぬまま式だけを繰り返す、不格好な方程式が出来上がりつつあった。


転機が訪れたのは、修学旅行についての話が出た時だった。




「えぇっ! 本当ですか学園長!?」
「う、うむ。なんでも、今回の修学旅行の日程に合わせて、サウザンドマスターが京都にある住処に寄るつもりらしい」
「そんな、一体どうして……? それよりも、父さんは公式には死んだとされている筈では!?」

そう、ネギの父ナギ・スプリングフィールドは10年前に死んだことになっている。
勿論それは、とある事情から誤解であると知っていたネギだが、こんなにも簡単にその所在が割れるとは思っていなかった。

「まぁ、そのあたりの話は前にもしたが、本人に詳しく聞くといいじゃろう。
なにしろナギ本人は、婿殿……このかの父親である近衛詠春に用事があるとは言っていたが、おそらくそれは口実で、本当はネギ君に逢いたがっているようじゃ。
わざわざ理由を付けないと息子に会えないなど、実にあやつらしいのう」
「父さんが僕に会いたがっている……」

ナギが生きているのは知っていた。
だが、世間とは隔離した隠遁者のような生活を送っていると思っていたのだ。
まさか連絡をとれるような状況にあるとは。
しかもナギが、自分に会おうとしている?


いきなりの急展開に頭が回らないネギにもようやく一つだけ理解できた。

「父さんに…………会える!」

自分が最優先の目標と定めていた物がなんであるかは忘れたが、父に会う事はやぶさかでない。
というよりも、何故『これは僕の目指したものではない』などと感じるのだろう。
普通に考えればそれ以外に無い筈なのに。

「まぁ、いっか。なんたって父さんに会えるんだ!」

ネギ・スプリングフィールド、数えで十歳。
深く考えないところは、幼さゆえか、父に似たのか。



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