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[9458] 今にも崩れてしまいそうなほど赤い屋根の下で (ネギま 習作 短編)
Name: はぎは◆50853957 ID:69507030
Date: 2009/06/09 22:40



「あのアスナさん。トレイってどこにありましたっけ?」

 神楽坂明日は、その言葉で一度思考が停止した。あいつは何を言っているのだ、と。目の前の同居人は何を言っているのだ、と。アスナの考えは至極もっともであった。誰もいきなりトイレの場所を聞かれるとは露ほども思わない。
 
「はあ?」

 だから、思わずアスナは聞き返した。何も、意味が分からなかったわけではない。ただ単純に、言っていることの意味が分からなかったのだ。故に聞き返す。分からないことがあったら、誰かに聞く、当たり前のことだ。
 
「だからですね。トイレはどこにあったのかなー、と」

 アスナの言葉をネギは、しっかりと受け取り、もう一度言った。しかし、アスナはあいも変わらずとして、呆けたままだった。考えてみればそれもそのはずで、既にここ、麻帆良女子寮の一室。つまり、ネギ、アスナ、木乃香が住んでいる場所。いくらネギが一番新しい入居者だと言っても、ネギが住み始めて、もう半年ばかり過ぎているのだ。いくらなんでも、トイレの場所を知らないなんてありえない。だからこれはネギの面白くない冗談なんだろうな、とアスナは考える。
 
 しかし、ネギはいたって真剣な表情だった。冗談を言っているいる様子は全く見受けられない。だとしたら、ネギがトイレの場所を知らない、と言うのは本当のことである、と考えるのが妥当だ。いやしかし、常識で考えてみればそれはあり得ないのだけどれど。
 
「ネギ君。何言ってるん?」

 木乃香がネギの顔を覗き込みながら言った。
 
「そうよ。アンタいきなり何言ってんのよ」

 と、アスナも木乃香に続いた。
 
「いえ。なぜかトイレの場所が思い出せないんです。自分でも変だなあ、とは思うんですけど……。すいません。やっぱり思い出せないです」

 これには、アスナ、木乃香、両名とも心底驚いた表情をうかべた。ネギ=天才、という認識があった二人はネギがこんなあたりまえのことを忘れてしまうとは思わなかった。いや、もし天才、という認識がなかったとしても、二人は同じような反応をしただろう。暮らしている部屋のトイレの場所がわからなくなる、など本来――ありえない。

「また変なもの作って食べたんじゃないでしょうね?」

 ありえないこと――それは魔法現象である、そういう風に考える思考がアスナには出来あがっていた。だからアスナは、やれやれ、と嘆息するだけでそれ以上追及することなく、そこよ、と指を突き立てた。それを見たネギは立ち上がりながら「そんなことはないんですけど……」と言い、我慢していたのかトイレへとかけていった。

 そんなネギを見送り、二人は顔を見合わせた。

「ネギ君どしたんやろ。うち、心配やわ」

「どーせ、またあのエロオコジョと何かしたんでしょ」

 心配する木乃香をよそにアスナは言う。

「でも、カモ君、今旅行に出かけてるんやなかった?」

「そうだった……? ま、どのみち心配するよるようなことでもないでしょ。人間誰にでも一度くらいトイレの場所がわからなくなることぐらいあるわよ」

「そうやったらええけど……」

 木乃香のつぶやきに、アスナは人知れぬ不安感を抱いた。

 





 ネギ・スプリングフィールドの変化が更に顕著に表れたのは、それから直ぐ、一ヵ月後のことであった。麻帆良学園女子中等部は、すでに夏休みに突入しており蒸し暑い日が続いていた。この日もネギは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルのもとへと修行をしにいつもどおり女子寮を出た。しかし女子寮で宿題をするわけでもなく、ただボーとすごしていたアスナのもとにエヴァンジェリンから連絡が来たのだ。

 内容はネギが現れないぞ、ということ。

 ネギがいつもどおりエヴァンジェリン宅へと向かったのを、この美しいオッドアイでちゃんと見届けたアスナはすぐさま反論した。そんなはずはない、と。しかし帰ってくるのは、出たか出ていないかは問題ではない、着ているか着ていないかが問題なんだ、というエヴァンジェリンの罵声のみ。むっ、と言われる覚えのないことに、少しばかりの怒りを覚えたアスナだったが、じっとこらえた。

 アスナは確かにネギが一時間前ほど寮を出たのを見た。だからこそ、エヴァンジェリンの元へネギが訪れていないことは、納得がいかなかった。サボった、という可能性も否定はできない、がネギの性格からして、たとえサボるにしてもエヴァンジェリンへ何の連絡がないのはおかしいことだ。

 真っ先に浮かんだのは、魔法関係の事件に巻き込まれたということ。その次に3-A生徒に振り回されているということだった。
 
 どちらにせよ、碌なことじゃない、とアスナは思い。エヴァンジェリンとの連絡をきると、外へと飛び出した。アスナは走った、まさに稲妻、如く彗星。それほどまでに、荒々しく雄々しい。真実アスナが走る速度は自動車のソレに匹敵した。魔法、という一つの神秘にふれたことにより、それはより秀でた。もともと、才能があったのだろう。イダテンと呼ばれるほどまでに、速い。駆ける、駆ける。ネギを探すため、アスナは駆ける。
 
 小等部、中等部、高等部、大学部。はては幼等部まで。
 
 しかし悲しきかな、ネギは見つからない。
 
「なんで、何処にもいないのよ」

 アスナは大学部にある、ひっそりとした公園。そこのベンチに腰をかけながら呟いた。アスナのなかを渦巻いている感情は、焦り、怒り、焦燥。ここまで探したのに何で見つからない――そういう思いが胸を連なる。ああ――と。本当に何かあったのではないのか、時間がすぎるほど、言いようのない焦りは、事をどんどんと大きくし、アスナを支配した。
 
 既に今は夕暮れ時、帰りを告げる鴉の鳴き声がアスナの耳を刺激する。思わず鴉を睨み付けるとそこには夕陽に向い群れをなす、雁の姿。蝉のコーラスも、コオロギのオーケストラも今では超絶的な雑音にしか聞こえない。蝉は一本の木から多ければ万に達するほど、這い出てくる、とアスナは聞いたことがあった。――ならば、この公園には一体、いくつの蝉が死を待っているのだろう。
 
「はあ……、疲れた」

 ぼやく。誰にも悟られないくらい小さく。されど、アスナにはこれ以上ない、というほどハッキリと。
 
「そろそろ帰らなくちゃ」

 公園にある柱時計。それは恐らく麻帆良に存在する大工部、というものが作ったのだろう。作りがしっかりしていた。その時計を見ながらアスナは言った。ここから女子寮へと戻るのは、アスナにとっても正直、面倒くさかった。そもそもネギを見つける、という目的も達成できなかったのだ。虚脱感がアスナを襲う。
 
 だがしかし、アスナは足を動かした。 
 
 
 
「なんで、ネギ。アンタここにいるのよっ!」

 アスナはこの理不尽な状況を理解したのち、咆哮した。
 
 ネギ・スプリングフィールドが自分が住んでいる寮の部屋に、のうのうと居たのだ。そして、のほほん、と木乃香と一緒に料理を作っている。この様子を見てアスナの中に溜まっていた何かは、タイヤの空気を抜くかのように一気に消散した。
 
「いたッ!」

 アスナは、ガニ股ある気になり、ネギに近づくと頭にげんこつを落とした。ネギは、苦悶の表情を浮かべ、持っていた玉ねぎを床にこぼした。
 
「何で叩くんですか? 暴力はダメですよ、アスナさん」

「アンタねえ! 私がどれだけ探したと思ってんの?」

「へ? どうしてアスナさんが僕を探す必要があるんですか?」

「アンタがエヴァちゃんの、所に行ってないからでしょ! 何かあったのかと思って心配したわよ。明日エヴァちゃんにも謝っときなさいよ」

「え、マスターの所に? 今日は別に何の用もないはずですけど……」

 ネギは玉ねぎの皮をむきながら答えた。そしてアスナはネギの発言に、はて? と首を斜めにする。エヴァンジェリンは、ネギが来ない、と言ってきた。それは事前にネギが来る、と打ち合わせしていたということ。しかしネギは何の用もないと答えた。そこに矛盾が生まれる。そこでアスナは思い出した。ネギがマスターのところへ行ってきます、と言い出て言ったことを。
 
 ならば、ここで間違っているのはエヴァンジェリンではなく、ネギだと言うことになる。しかしここで疑問が生じてしまう。何故、ネギがこんなくだらない嘘をついたのか。ただ単純にエヴァンジェリンの元に行きたくなかったのか。だから忘れているふりをしているのかもしれない。エヴァンジェリンの正体を知り負かされた時、ネギは駄々をこねて学校を休もうとした。そのようなことが再び起こっている可能背もあった。だが、エヴァンジェリンに会いたくない、という理由は不明。
 
 そもそも会いたくない、ということも真偽が不明なのだ。
 
「嘘をついたって、何にもならないわよ。何でエヴァちゃんのところに行かなかったの」

 アスナは問い詰めた。
 
「え、ええー。嘘なんてついてないですよ」

 剣呑な態度に驚いたのか、ネギは両手を胸の前にあげたアスナに静止するようにジェスチャーした。やられる前に、止める戦法である。
 
「だから! 嘘つくなって言ってんの!」

「まあまあ、アスナ落ち着いて。ネギ君もこまっとるやん」

「だって、木乃香、このガキが――」

「だからアスナ落ち着いてや。ネギ君、うちがアスナを宥めとくから、お風呂でも入ってき」

 木乃香は、反論しようとするアスナの肩を叩きながら、ネギに指示した。ネギは玉ねぎを包丁で切るのをやめ「わかりました」と返事すると、着替えを持ち出て行った。残ったアスナと木乃香は、ほんの少しばかり気まずいを雰囲気を両手で振り払った。

「で、何? 木乃香」

 アスナはネギが出ていくや否や、直ぐさま言った。
 
「うーんとなあ」

 木乃香は、鍋にネギが切った玉ねぎを入れた。そして、お玉で鍋をかきまぜる。「ネギ君、一時間ぐらい前に帰ってきたんやけど……」
 
「へー」

「でも一人やなかったんよ。二人やった」

「二人?」

 アスナは、その言葉に首を捻った。一体、誰と帰ってきたのか。その人物と言うのが、アスナには全くといっていいほど、思い当らない。そんな、アスナの様子を見て、木乃香は「ああ、アスナが知ってる相手じゃないよ」と、言った。
 
 いよいよアスナは分からなくなった。
 
「いったい誰よ」

「お巡りさんや」

「えっ! お巡りさんって警察の?」木乃香は、そうや、と神妙に頷いた。アスナは、机を両手で叩きながら立ちあがった。「ちょっと、どういうことよ。なんでネギが警察と一緒にここ来るの?」

「それがなあ――」

 そう言って、木乃香は話し始めた。今度ばかりは、話の腰を折らず、全て自分で理解しよう、と思っているのかアスナは、いつもない顔つきで木乃香の話に耳を傾けていた。アスナにとって今やネギは、決して口には出さないが、家族だ。それは木乃香も同じことだし、他にも大切な仲間もいる。だが、その中でもネギは特におっちょこちょいで、間抜けで、見ていられなかったのだ。アスナにとってネギは決して恋愛対象ではない。時々、ハッとする場面があるにはあるが、それは全て一時的なものだった。
 
 恋愛対象ではない、それは確かだ。
 
 しかしネギは、手がかかり、時に格好いい弟のような存在。ある種、ある意味、恋人よりも優先順位が高い位置にいた。そうでなければ、一日中麻帆良は駆けまわらない。どうでもよい人物であるのなら、ここまで汗は流さない。――大切な人。それがネギ。それが木乃香。それが仲間。
 
「そんでなあ、お巡りさんがネギ君見つけて――」
 
 そこまで考えてから、それにしても、とアスナは思う。
 
 些かネギの行動がおかしすぎるのだ。
 
 幾らなんでも、そう思考が、正常に働いているのならば、
 
 何故――迷子として警官に連れてこられるのか。何故、ここ女子中等部エリアから、大学部エリアまで何の用もなく赴き、一人で勝手に迷子になっているのか。子供とはいえ、仮にも教師。そんな幼稚な行動をはたしてとるものなのか。
 
 疑問が疑問を生み、アスナを困惑させる。それでもアスナは考えることを止めなかった。
 
 それがネギを知る、唯一の方法だと信じて。
 
 




あとがき

光陰矢のごとし、という言葉がある。
日常は矢のように早い、だから無為に日々を過ごすな、という意味の言葉だ。この作品は、この掲示板に投稿している他作品の執筆がどうにも進まないため、急遽書いた、ものだ。

しかしながら、伝えたいテーマは存在している。それがなにであるのかはまだ、明かさないが、読者諸君の胸に残るような作品にしたい。たとえ、それが繋ぎの作品であったとしてもだ。全身全霊を尽くし、一切の手抜きもせず、執筆する。

この作品ですら遅筆になる可能性が大いにある。

だがしかし、私の認識としては、それは別段悪いことだとは思っていない。個々のペースで最善を発揮できるペースで書いていけばいいのだ。もちろん、早ければ早いほど、良い。

だが、自らの力量に沿わないペースで書いてしまうと、本末転倒。どんどん、作品が堕落していく。

これは自らを正当化する言い訳に過ぎないが、同時に私の作品に対する気持ちである。


最後に、この作品は原作のストーリーを無視しています。設定上、魔法世界には行っていません。
 


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