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[8916] 悪の花道 [オリジナル 変身もの?]
Name: 折れペン◆9ddaad9d ID:94259a79
Date: 2009/05/20 23:30
 どうも、初めまして。想像が脳内だけでは収まらず、つい文章にしてしまいました。
 とりあえず、変身ものをやろうとは思ったんですが。でるのはちょっと後になりそうです。
 なので、変身ものじゃねーじゃんとか思ってもスルーしてください。

 皆さんの力を借りて上達したいので、ご意見、ご感想、ご指摘をお待ちしてます。
 では・・・



[8916] 第1話
Name: 折れペン◆9ddaad9d ID:94259a79
Date: 2009/05/20 23:31
「オラァ!」

 一人の青年が拳を振り上げ、相手の顎を的確に打ち抜く。
 相手は体格が良く見るからに屈強な肉体をしているが、さすがに脳を揺さぶられては気を保ってられなかったのだろう。ゆっくりと地面に崩れ落ちる。
 そのあと、止めを刺すために首を折る。相手の男は息絶えたのか動きを止めた。
 青年が辺りを見回すと周りには同じように倒れている人間が五人いる。

「ハァハァ・・・ここは終わったか。武さんたちは・・・」

 青年のポケットから音が漏れる。

「・・い。おい。聞こえるか?応答しろぃ。」

「ああ。聞こえてるよ。武さん。大した怪我もなくこっちは片がついた。そっちは?」

「こっちも終わった。目的のモンもあったし、そろそろずらかるぞ。奴さんが来たら大変だしな。」

「了解。」
 そういうと青年はこの部屋を立ち去っていった。



 とある場所の食堂で先ほどの青年は列に並んでいた。昼時なのか人はけっこう多い。

「おばちゃん。俺、サバの味噌煮定食で。あっ、ご飯大盛りね。」

「あいよ。たくさん食って丈夫になんな。」

 おばさんとは思えないほど綺麗な笑顔と共にでる言葉はおばさんの口癖である。
 定食を受け取り、空いてる席を探して座る。さぁ、食べるぞという時に大きな影が現れる。

「おお、光太。相席でいいか?こんでるからな。」

 影の正体は先ほどの通信の相手で上司でもある武さんこと飯田 武志である。三十代前半で大きな体にぶっきらぼうな言葉遣いだが、面倒見のいい人物でいろいろ世話になっている。
 ・・・ちなみに俺の名前は山田光太。今年で二十三になる。

「いいっすよ。それよりも武さん、今回の任務って何が目的だったんすか?俺詳し
く聞いてないんすけど。」

席に座り、既にものすごい勢いで飯を平らげている武さんに聞く。

「んあ、なんだ光太、オメェ知らんでやってたのか?あ~、たしか今回は奴さんの方で作った・・・何たら装置ってのの回収だったな。」

 何とか装置って・・・まぁ、下っ端の俺が聞いてもわからんか。と思い他のことを聞く。

「奥さん、大丈夫なんすか?確か五カ月っすよね。」

そういうと武さんは顔を綻ばせ、嬉しそうに話し始める。

「ああ、今から子供を見るのが楽しみでしょうがねぇ。金も稼いで楽させなきゃな。」

「でも、奥さんに仕事の事話してないんすよね?まぁ、たしかにあんま人に言えない仕事っすけど。」

「まぁ・・・な」
これまでの嬉しそう顔は消え、暗い顔で考えこんでしまった。内心この話題は出すんじゃなかったと思いつつも今までのことを振り返る。


 突然だが、この食堂はどこにあるか。それから話さなくてはならない。
 その答えだが、ここは日本の都心近くの地下にある。
 なぜ地下か・・・人にはあまり言えないことをする組織。一言でいうと悪の組織の本部がここである。
 もちろん地上には悪の組織に付き物な正義の味方(ヒーロー)の本部もある。
 ちなみにこっち目標は建前は世界は一つに纏まるべきでそれは我々が遂行すべき~とか言ってるが要は悪の組織らしく『世界征服』らしい。
 正義側は『皆を幸せにするために』というのがスローガンらしい。実現すれば素晴らしいが所詮夢。あり得ない話だ。

 そしてなぜ、俺や武さんが正義ではなく悪の方にいるか。こっちも簡潔に言えば金である。俺には金が必要だった。それも莫大な。
・・・妹がいた。両親もいなかった俺の唯一の肉親。昔から病弱だった妹だが、どうやらかなり重い病気だったらしい。
 治すのにも多額の治療費が必要だと医者から聞かされた。
 だが急にそんな金があるわけもなく、手っ取り早く金が手に入るのがこの仕事だったというだけだ。
 ・・・結局治療の甲斐もなく死んでしまったが。そのままズルズルと続けている。
武さんも金が必要だったのだろう。詳しくは知らないが。

「じゃ、俺は報告があるからな。行ってくる。」

そのまま武さんは食堂を出て行き、俺は一人格安のアパートへと戻る。




翌日、同じように俺と武さんの部隊は、任務のため町に出ていた。
 場所は意外と俺たちの本拠地と近く歩いてもそれほど時間は掛からない位置だった。
 今日の俺の役割は外の見回りで、暇だったが、今頃他の奴らは皆戦っているんだろう。
多少ボ~ッとしてると、前方から一人の少女が走ってきた。ずいぶん急いでいるようだったがさすがにここから先は通す訳にはいかず、呼び止める。

「嬢ちゃん。悪ぃな。こっから先は通せねんだ。遠回りしてくれ。」

少女は立ち止り、息を荒げてこちらを見ている。年は十四、五くらいで綺麗な顔立ちをしている。
 目に覇気がないが将来美人になんだろうなぁ。なんて思っていると、突然武さんから連絡がはいる。

「オイ!そっちに一人敵が逃げたぞ!若そうだがかなり強ぇ。気をつけろよ!」

 正直逃げたぞ辺りで後ろから強烈な殺気が放たれている。邪魔くさいガキもいるのでやる気も失せる。
 振り向くと全身を機械で覆った男が一人ものすごい目をして立っている。
 ちなみに機械は俗にいうパワードスーツというやつあちらさんの主力武装で着れるのは幹部など上の者だけで下っ端には回っていない。つまり奴はそうとう強い。

「敵さんと交戦(エンゲージ)。なんか殺気すごいんすけど・・・なんかしたん・」

 武さんに聞く前にあちらが答える。

「貴様っ!一般人の子供に何をするつもりだったんだ!!今日は退くつもりだったが返答次第ではただではすまさんぞ!」

 ・・・ああ、なんか勘違いしてやがる。めんどくせぇ。だが、一対一で戦って勝てる相手じゃねぇし嬢ちゃんには悪いが逃げるのに使わせてもらうか。どうせ今日はもう撤収だろう。
 少女を近くに寄せ相手に聞こえないように話しかける。

「悪いな。絶対怪我させねぇしちゃんと家に帰してやるからちょい我慢してくれるか?」

 特に怖がった様子も見せず無表情にこくりと頷くのを確認し奴に言う。

「おっと、動くなよ!てめぇはどうなってもいいかもしんねぇがこの嬢ちゃんがどうなってもいいのか?」

 男は悔しそうに睨んでくるが仕掛けてはこない。どうでもいいがセリフがどう考えても三流の悪役だ。まぁ、本当に悪役なんだが・・・
とりあえず、逃げるために煙幕を撒き、姿が消えてるうちにここから離れる。もちろん少女は置いてきた。殺すのはむさい敵のおっさんどもで十分だ。むだに殺すつもりもない。
なんとか撒いたらしく、奴は消えた。俺も帰ろうとした時に目の前にさっきの少女が立っていた。多少驚いたが話しかける。

「嬢ちゃんどうした?なんか落し物でもしたか?」

 すると少女は小さな唇を動かし始めて言葉を発した。特有の甲高い声で俺が予期しなかった内容だ。

「・・・嬢ちゃんはやめて。」

 この出会いが俺の人生を狂わしていったのだ。



[8916] 第2話
Name: 折れペン◆9ddaad9d ID:6fb8b81f
Date: 2009/05/21 19:55
 正直、頭イカレてるのかと思った。さっきまで人質にしてた奴に言うセリフじゃないだろう。
 だが、面白いとも思った。さっきも怖がるでもなく、あくまで無表情で通していたこの少女は一体何者なのか・・・
 夜のように暗い色の髪、整った眉、覇気の感じない瞳、小さな唇、髪とは反対に真っ白な肌。
 服装は簡素な黒いワンピースを着ていた。アクセサリーはパッと見たところしていないようだ。

「へぇ。嬢ちゃんと呼ばれるのは嫌ねぇ。ははっ、おもしれぇ嬢ちゃんだな。わかった。じゃあ、なんて呼べばいいんだ?」

 嬢ちゃんは何やら下を向いて考え込み、少し時間を置いて告げた。

「・・・名前ない。」

「ああ?名前がない?じゃあなんて呼ばれてたんだよ?」

「・・・試作T型E変換装置 M001」

 何語だ。意味わからん。つーかどっかの組織の実験体かなんかか?
ちっ。めんどくさそうな奴に関わっちまったか。とか思っていると少女が話しかけてくる。

「・・・それは名前じゃないんでしょ?なら・・・あなたが付けて。」

「俺がぁ?嬢ちゃんはそれでいいのかよ?」

 少女はこくりと頷いたあと、静かに待っている。正直関わるのは避けたいが、無表情の中に多少、期待の感情が見えている。
 ・・・しょうがないか。M001とか言ってたな。M・・・ま行か。
 安直だが一つ案ができた。問題は嬢ちゃんが気にいるかだが。

「繭、マユはどうだ?嬢ちゃん。」

 特に深い意味はなかった。俺は綺麗な蝶になるのはもう無理だろう。
 だが嬢ちゃんの生まれは特殊そうだが蝶になれる可能性は残っているんじゃないか。
 まぁ、どっかの組織にいるのなら人殺しの片棒を担ぐことになるから限りなく可能性は低いが・・・

「・・・繭。マユ。私の名前はマユ?」

「ああ、嬢ちゃんの名前はマユだ。どうだ?気にいったか?」

 言葉を返しはしなかったが顔が微妙に綻んでいる。どうやら気にいったようだった。
 少し微笑ましく思いながら、妹が生きていた頃のことを漠然と思い出していた。

 十八にこの組織に入った時妹は十三歳だった。それから二年足らずで死んでしまったが、ちょうどこの少女くらいの年頃だったか。
 なんてことを考えていたら隣から奇妙な音が聞こえてきた。
 ぐ~っ。その音で我に返った俺は隣を見る。少女が少し恥ずかしそうに俯きながらお腹を押さえていた。そういえばもう夕方か。
 妹のことを考えていただろうか。自然と言葉が口から出ていた。

「嬢ちゃん、いや、マユ。飯でも食うか?」

警戒心なんてものはないのか直ぐに頷き早めの夕飯を済ましに二人で歩きだした。







 給料は昔、妹の手術代に使うために前借りした。だから、ほぼタダ働きでひと月暮らすための最低限の金と多少の小遣いができるほどしかもらっていない。
 よって、高級な店で食事をするのは無理である。
 というかこんな少女と行っても悲しいだけだろう。どうせなら美人な大人の女性と行きたいものだ。
 というわけで、一般的なファーストフードの店に来たのだが・・・食べる食べる。
 軽く俺の名前などの自己紹介をした後から変わらぬペースでずっと食い続けている。
 一体その小さな体のどこにはいるのだろうか。まさか五千円札で札の釣りが来ないとは思わなかった。
 店を出て今は腹を落ち着かせるために近くの公園に行きベンチに座っている。

「・・・あんなに食いやがって、太るぞ、餓鬼ぃ。」

 ファーストフードでは滅多にしない多額の出費のせいで恨みを込めながら話しかける。

「・・・おいしかった。」

 くそっ。普通に返しやがって。全く、調子が狂うな。
 しかし、これからどうするか・・・正直これ以上面倒を見れない。
 明日になればまた任務もあるし、やってることは悪の組織の下っ端。どっかの実験体よりはマシかもしれんがそんな変わらないだろう。
 だが、他の知り合いといったら食堂のおばちゃんか武さんくらいしか頼れる人がいない。


 そんなことを考えていると妙なことに気付いた。
 ・・・人がいない。そりゃあ、もう暗くなってきているが、それでもここまで人が全くいなくなることはない。何かに巻き込まれたか、あるいは・・・この少女関連か。
 とりあえずここを離れようとした矢先に周りから十人ほどの男が近づいてきてリーダーらしき男が代表して話しかけてくる。

「それをわたしてもらおうか。即座に渡すなら痛い目をみないで済むが?」

 マユ関連か・・・
 痛い目みないで済むなんて言ってやがるが周りの連中は殺気を隠せてない。確実にここで消すつもりだろう。ちっ。やっぱ関わるんじゃなかった。
 俺の実力じゃ隠し持ってる小型の銃やナイフを使ってもせいぜい五人倒せればいい方だ。公園の出口は塞がれてるし、煙幕も任務で品切れだ。・・・これは詰みか。
 なら、俺の人生今まで悪どい事ばっかやってきたんだ。最後くらい、いい事してあっちで待ってる妹にいいところ見せてやりたい。

「マユ。ちょいと下がっててくんねぇか?んで、隙ができたらこれで入口にいる奴倒して逃げろよ。いいな?」

サイレンサー付きの小型の銃を渡し、前を向く。

「おい、おっさん。いい事教えてやるよ。俺は誰かも知らねぇ奴から命令されんの大嫌いなんだよ。・・・それに明らかに上から目線で喋りやがって。今んところ俺に命令とか上から話していいのは一人しかいねぇんだよ。」

「ほう。・・・で?」

おっさんは特に気にした様子もない。見たところ銃を持っているのはいない。元々少女一人だと思っていたのか随分軽装だ。
俺のことは完全にただ巻き込まれた一般人のチンピラだと思ってるらしい。明らかになめている。

「だから提案は・・・却下だっ!!」

体勢を低くし、トップスピードで一番近い奴に向かって走る。金的を狙い蹴りをだし、見事に命中。まずは一人。
 早々に一人やられたからか、警戒を強めるがもう遅い。隠してあったナイフを投げ一人の眉間に当てる。二人目。
 ナイフを持っていたことに驚いたのか動きが止まる。そこを狙い近付き、隠してある最後のナイフでそいつの首を切る。三人目。

・・・十分敵の注意は引いただろう。少女は、マユは逃げられただろうか。サイレンサーが付いているから銃声は聞こえなかったが・・・最悪ここから離れるだけでもいい。ここで無様に負けて地面這いつくばってるのを見られたくない。
 ここからは単なる自棄だ。どうせあと七人は倒せない。なら一人でも多く道連れにしようと思い、走り出した。


 だが、体に衝撃が走る。そして後から聞こえる銃声。撃たれたのは右足。転びそうになったが踏みとどまる。
何だよ。あのおっさん。銃隠し持ってたのか。こりゃ完璧終わったな。なんて意外と冷静に分析しているとさらに撃たれた。
 今度は腹だ。出血がやべぇな。なんもしなくても後少しで俺は死ぬだろう。ああ、つまらん人生だった。
 相手の一人が仲間を殺された怒りからか思いっきり殴ってきた。後ろに吹っ飛ばされ天を仰ぐ。星が綺麗だった。
不意に前が遮られる。・・・マユだった。なんだよ逃げてねぇのかよ。意味ないじゃねぇか。
 マユが話す。

「このままコータは死にたい?それともまだ生きたい?」

意味わからん。だが、あのおっさんは一発ぶん殴りたい。それにできるなら・・・マユの前で無様に倒れ伏してるのは嫌だ。ガキの前でくらい見栄を張っていたい。

「ああ、生きてたいな。仕事ばっかだったからな、碌に彼女もいなかったし、うめぇモンも食ってねぇ。なにより、一回も体験しないで死ぬのは男として悔しいだろ?」

最後のはよくわからなかったらしいが生きたいという意思は感じたのだろう、真面目な顔で尋ねてくる。

「なら、契約して。もしかしたらこのまま死んでしまうかもしれない、だけど私はコータに生きてほしい。」

契約?なんだそれは。だが悠長に話す時間はない。俺は意を決し、マユに答えた。

「いいぜ。契約でも何でもしてやる。俺は生きたい。」

 マユはそれを聞いてから顔を近づけ、そのまま唇が合わせられる。何しやがるこのマセガキ。と口に出す間もなく俺の体は光に包まれた。




~あとがき~

 変身もののはずなんですがどうやら出番は次になります。
あと、マユについては番外編で過去のことを話すか、本編でさっと触れるかどっちにするか悩んでるんですよねぇ。
 一応そこ以外のプロットは完成してるんですが・・・
とりあえず挫けないように完結目指してがんばります!感想もありがとうございました!



[8916] 第3話
Name: 折れペン◆9ddaad9d ID:848a5f65
Date: 2009/05/22 00:53
 熱い、痛い、気持ちわるい。まるで何かが自分の体の中に無理やり入ってきているような・・・そんな激しい痛みが全身を巡っていた。
 頭は痛み以外のことを考えられず、さっきまで自分が死にかけていた事どころか、今までの出来事すべてを思い出す事も出来ない。
 何も考えられなくなりただこの痛みが体の中から消えてくれるのを願っていた。
 ・・・ただ、何かが、何かが頭の中に引っかかる。俺は何を忘れている?この状態になる前まで何を願っていた?



~マユside~
 やはり今回もダメなのだろうか。
 今までの人たちのように彼もまた自分を受け入れてくれず、痛みに耐えきれず死んでしまうのか・・・
 研究所を出て必死に逃げて、最初にまともに話した人物。
 思えば、これまで研究についての質問、応答以外の話をしたのは博士を抜かせば初めてだった。
 嬢ちゃんと呼ばれ、何故か悔しく感じ、人質にされたのに漠然とこの人なら自分に危害を加えないと感じ、その後、ナンバー以外の名前をもらった。
 マユ、漢字はおそらく繭だろう。蝶や蛾などが成虫になるために必要な過程の一段階であることは予め入力された知識として知っている。
 私は生れてから数カ月も経っていないが、多くのことを理解できる。
だが、何故自分が嬢ちゃんと呼ばれて悔しいのか、名前を与えられて嬉しいのか・・・そして何故体が適合しないでこのままコータが死んでしまうことがこんなにも悲しいのか、それはわからなかった。
今まで適合に成功した人はおらず、皆死んでしまった。その時はこんな感情は起こらなかったのに・・・何故、悲しいのか・・・なぜか涙が流れた。

~side out~



・・・何だ、誰かが泣いてる?
 頭が正常に働かない中、それだけがわかる。そして唐突に昔のことが思い出される。
ああ、妹か。妹が泣いているのか?昔から少し泣き虫なところがあったからなぁ。どうせ俺が行かなきゃ泣きやまないのだろう。
だが、ぼんやりしていた頭がだんだんとはっきりしてく。
妹は死んだではないか。必死に集めた金での手術の甲斐もなく、だが最後には笑って、逝った。
じゃあ、誰だ。泣いているのは。
ふと、目を開ける。見知らぬ部屋に光太はいた。真っ白な壁以外なにもない。
いや、部屋の隅で一人の少女が体を丸めて泣いている。
あれは誰だったか。・・・そう、マユだ。俺が名前をくれてやった、無表情な少女。
そこまで、考えて今までの事が鮮明に思い出せるようになっていた。
痛みも消えなんとなくだが今の状況を把握する。おそらく彼女は俺が死んでしまうと思い、泣いているのではないか。
こんなガキに心配させるなんて男らしくねぇな。

「悪かったな、マユ。ほったらかしにしてよ。ちょい忘れてた。」

 俺が立っていることに気付かなかったのかガバッと顔を上げこちらを凝視する。
 あんなに無表情だったのに、涙を流し、今は呆気にとられた顔でこちらを見ている。

「さぁ、契約とやらは終わったんだろう?これからなにが起こんだ?」

俺の言った言葉を理解したのか表情を笑みに変え、告げる。

「あなたをT(トランス)型E(エクトプラズム)変換装置 マユの正式マスターとして認めます。私たちは自らの体を霊体(エクトプラズム)に変え、マスターと憑依し人間を超える(トランス)目的で作りだされました。よってこれより、現実世界への介入、書き換えを実行します。マスター光太。私と一緒に人を、世界の常識を塗り替えましょう。」

「ああ、お前に巻き込まれたせいで死にそうだったが、お前に救われた命だ、今回はなんでもやってやんよ。」

~side 外側~
「ええい、何が起きたのだ!」
 混乱する男たちの目の前には人一人が丸々入るくらいのでかい卵型の鈍く輝く発光物体があった。
 対象の少女と青年が唇を合わせた瞬間、強烈な光を発し、光が収まったと思えばこの物体が既にあったのだ。
少女には一切危害を加えず、回収のみが目的のため無暗に攻撃を加えることもできない。
だが、少しばかり時間がたった頃、変化は現れる。
中から何かが現れようとしている。
それを見て、不意に思う。これはまるで繭のようだと・・・


~side out~




≪現実世界への浸食完了。基本外装、狼型、名称は『ジェヴォーダンの獣』。武装は試作型故、クローのみです。≫

繭から出てくると、自分の恰好が変わっていることに気づく。全体的に機械で出来ているのにどこか動物的なフォルムを残している外見だ。
 まるでどこぞの変身ヒーローだな。ヒーローは全くがらじゃないが。

「クローのみだと?なんだよ、あんま好転してねぇな。」

≪いえ、狼型は脚力、俊敏力、嗅覚、聴覚などが爆発的に強化され、スピードで相手を乱し、速さだけでも相手を圧倒できる外装です。感覚に齟齬が発生すると思いますので気をつけてください。≫

「わかった。いっちょやってみんか。オイ!行くぞ、おっさんども!!」

≪戦闘行動を開始します。≫

突然姿形が変わっている俺に警戒しているのか、あちらからは攻撃せず、様子見に徹している相手に突っ込む。

 そして驚く、自分の動きの素早さに。
狙っていた男の前で止まろうとしていたのに、気付いたら相手を体当たりでふっ飛ばしていた。
相手が速すぎる動きに驚愕しているが、こっちもあまりの速さに戸惑っている。まさかここまで速いとは・・・

 それを見たおっさんが声を上げる。

「馬鹿な、こんな報告は受けていないぞ!くそっ、奴を倒せ!この際目的物は破壊してもかまわん!」

相手がマユごとこっちを殺そうと決心したようだ。今までと気迫が違う。
 だが、こっちもせっかく拾った命だ、簡単にくれてやれない。

「来い、人間超えた力を魅せてやんよ!!」

もう無様な体当たりはしない。要は力を調整すればいいのだ。
さっきよりも力を押さえ自分のイメージ道理になるように一つ一つ動作を確かめるように動き出す。
かなり速度を落としたとはいえ軽く人間の限界を突破した速さで相手に近づき、相手の背後を取り、クローで相手の一人を仕留める。

 おっさんが、息絶えた部下ごと俺を撃ってくるがその瞬間には既に次の標的へ走っている。
 だんだんとこの速度に慣れ、ある程度自由に動き回れるようになってくる頃には、相手はおっさん一人だった。

「ここまでとは・・・さっさと頭を撃っておけばよかったわ。このような化け物が出てくるとは。くくっ、どうやら神は私に微笑みはしなかったようだな。まぁいい。だが、タダでは死なん!!」

 おっさんが突っ込んでくる。もう既に死を覚悟した目だ。ああいう目をした奴は大抵ものすごい力を発揮する。それこそ人間の枠を超える勢いで。
 もし、人の身で人間という枠を超える動きをするのならああいう状態にならないと無理なのだろう。
 だが、この身ははすでに純粋な肉体ではない。おっさんを超える速さを出し、相手の心臓にクローを突きたてる。

「グフッ・・・無念。だがタダでは、お前も殺す!!」

 そう言ったおっさんが懐から出したのは・・・爆弾!?

「まずい!!」

全力で後退し、その場から離れる。
 その直後響く衝撃と爆音。この体じゃなかったら距離が足らず、爆発に巻き込まれていただろう。
 だが、強化された聴覚に響いて頭がクラクラする。

≪敵残存兵力見当たりません。殲滅完了及び戦闘行動終了。コータ、先ほどの衝撃でここら一帯になされていた人払いが解除されるでしょう。この場を離れることを提案します。≫

 そこに随分と落ち着いたマユの声が響く。それを聞き、今は多少悪くなっているが鋭くなった聴覚が確かに周りが騒がしくなっている音を拾う。

「そうだな、とりあえずどっか落ち着ける場所を探すぞ。」

そう言ってここから離れることにした。



離れる途中頭の中で考える、今日は本当についてないと。
 変なガキに会ったと思ったらどっかの正義の味方に勘違いされるわ、そのガキに名前をつけてやる破目になるわ、しかもそのガキのせいで戦いに巻き込まれ死にそうになるわ・・・

 だが、命を助けてもらった事は事実だ。もう少し、もう少しだけ面倒を見ることも吝かじゃない。
 決して、死んだ妹に重ねて感情移入してるとか、ちょっとこいつを気にいったとかじゃない。断じて。

 ・・・基本、悪だからな、俺は。






~あとがき~
 
 やっと変身しましたね~。
 とりあえずマユも過去話はこんな感じにぼかしました。
 もしかしたら、詳しくやるかもしれません。
 あと外装のジェヴォーダンの獣はフランスの事件から取りました。アヌビスにしようかと思ったんですが、アヌビスは狼じゃなくてジャッカルなんですね。
 同じイヌ科ですが厳密には違うようです。
 それでは、裏話はここまでにして次回の更新で会いましょう。



[8916] 第4話
Name: 折れペン◆9ddaad9d ID:f689db3c
Date: 2009/05/22 23:45
 エクトプラズムをご存じだろうか。テレビなんかで霊能力者なんかがよく使っている言葉だ。
 エクトプラズムとは[霊の姿を物質化、視覚化する際に用いられるエネルギー]の事らしい。
 その力を利用するために、自身の体をエクトプラズムに変換し、他の人間に憑いて再度物質化するのがこの外装の仕組みらしい。
 その際に、狼などの動物の情報を予め入力することで、動物が持つ能力に特化した外装を装着できるらしい。

 マユはそれの試作型だったようだ。
 今まで人との憑依がうまくいかず、行った者は皆死んでしまったらしい。
 このままでは廃棄されるという話を立ち聞きし、それは嫌だと思って研究所を逃げたのだという。
 ちなみに彼女は人間ではなく、人が誰しも持っているエネルギー(エクトプラズム)を凝縮し、それに指向性を持たせ人間の少女として物質化しているらしい。
 一度指向性を持って作られた後は、兵器として使うために必要な情報などをインプットされるらしい。
 何故子供の姿なのかを聞いてみると、大人一人に外装を装着し強化するためのエクトプラズム量はちょうどこのくらいの大きさになるらしい。
 少ないと十分に強化できず、多すぎると人に扱いきれず体外に自分のエクトプラズが飛び出てその身を焦がしてしまうのだ。
 昔、フランスの霊能力者がエクトプラズムを体外に出していた時に警官にフラッシュをたかれ、その身に火傷を負い、終には死に至ったらしい。
そのくらい本来は繊細なものなのである。


 ・・・というのが俺の家にマユを連れて帰った後に聞いた話だ。正直霊能力だのエクトプラズムだのうさんくさいったらないが、実際憑依し、戦った身としては信じざるを得ない。
 正義の味方でも純正の機械のみで身体を強化しているこの現代でオカルトか・・・これを発案した科学者はよっぽどの変態か、はたまた本当の天才か。
 ・・・いや、変態という名の天才だな。きっと。


 しかし、研究所では一般生活のことはあまり教えなかったらしい。
 正直いちいち帰る途中でコンビニに入りたがったり、家でテレビに文字以外が写ってるのに驚いたり、うざったくてしょうがなかった。
 液晶画面は見たことはあるが、テレビ番組が流れているのを見るのは初めてだったらしく、ずっとテレビに視線は釘付けだ。

 ぼ~っとそんなことを考えているとテレビを見ていたマユが近くに寄ってきていた。

「コータ、聞いてる?私、今度あのアイス食べたい。」

 ・・・CMを見て興味をそそられたらしい。顔の筋肉はほとんど動いていないくせに目は嫌になるほど輝いている。
 汚れている自分には純粋な瞳が痛い。

「・・・一個だけだからな。おかわりはねぇぞ。」

 口約を取ったことに満足したのか、無言でこくりと頷き、またテレビの方へ向かっていった。

 時間も経ち、ちらりと時計を見るともう夜の一時になろうとしている。
 明日もなんかしら任務があるのだろう。そろそろ寝なくては明日がつらい。
 
「オイ、マユ。先に風呂入って来い。俺はてめぇの寝床を準備しなきゃいけねぇからな。」

 それに反論することもなく頷き風呂に入りに行くマユ。


 俺はマユの寝る場所を用意するためにある部屋に来ていた。
 妹の部屋だ。
 ・・・俺のアパートは妹が生きていた頃、何度か仮退院をしてたので、部屋の数はそれなりに多く、そんなに狭くはない。

 妹が泊まっていた部屋を少し掃除し布団を引く。
昔の事を思い出しそうになりそうだったが、頭を数回振り気を取り直し居間に戻る。
 ドアを開ける前に物音が聞こえる。マユが風呂から上がったのだろう。
 とりあえず寝る部屋を教えようと思いドアを開ける。


「・・・オイ、お前何やってんだ。」

 そこにいたのはもちろんマユである。
 
・・・タオルを首から下げる以外は何も着ていない、ほぼ全裸の。

「・・・お風呂上がった。」

 いや、そんなこと聞いてんじゃねぇんだよ。お前は何故全裸なんだ。と思いつつも理由に思い当たる。

「もしかして、服がねぇのか?くそっ、ちょっと待ってろ。・・・妹の服どこにしまったっけな。」

 ・・・例え少しはこいつを気にいっていたとしてもこんなガキに欲情することはない。
 大体、俺は年上の女性が好みなのだ。ガキは手間の掛かってめんどくさい以外の感情は湧かない。

 なんとか押入れの奥から雑に畳まれたパジャマを発見し、着させる。下着はさすがに残していなかったので、洗って今日のを穿かせた。

「んじゃ、さっさと寝ろ。」

「・・・おやすみ。」

 ドアを閉め、俺も風呂に入り、その後直ぐ寝た。





 朝、武さんから連絡が入る。
 内容はどうやら、少人数での極秘調査の任務が入り、ここ最近出っ放しだった俺に休暇をくれるそうだ。
 正直マユをどうするか何も決めていなかったので了承し、電話を切った。


 朝の日課であるコーヒーを作り、今日の予定を考える。
 するとドアが開き盛大に寝癖がついているマユが顔をだす。これはひどい。

「・・・とりあえず顔洗ってこい。」

 顔を洗い寝癖を直すため濡らしたタオルを頭にのっけているマユが話しかける。

「何飲んでるの?」

「ああ?これか、コーヒーだ。飲んだことねぇか?」

 どうやら飲んだことはないらしく、こくりと頷く。
 何事も体験だと思い、俺がいつも飲んでいるブラックコーヒーで渡す。
 口に入れた瞬間あまり動かないマユの顔の筋肉が盛大に動く。

「・・・苦い。」

 そりゃあそうだろう。
 ミルクと砂糖を入れると何とか飲めるのか、顔は元の無表情に戻った。

「ああそうだ。今日は休みになった。とりあえずお前の服やらなんやら買いに行くか?」

「アイスは?」

「・・・覚えてたか。わかったよ、昨日言っちまったしな、買ってやんよ。」

 楽しみにしてるのだろう、若干眉毛が下がっている。意外とわかりやすい奴だな。
 


 最寄りのバス停からバスで十五分くらいの郊外にできたショッピングモールに着く。
 すでにあれだけ一個と言っていたアイスも途中のコンビニで三つも食っている。

 ・・・ああいう純粋な目で見られると弱いんだよ!悪いか!

 これ以上は余計なもんは買わないと心に決め、中に入る。
 外着の服を数点と、生活用具を揃える。問題は、下着だ。

「オイ、マユ。お前に金渡すから自分で下着買ってこい。俺はここで待ってるからよ。」

 少し心配だが、まぁそんぐらいはなんとかできるだろうと思い、見送る。

 ・・・心配か。俺も疲れてんだなぁ。人の心配なんざ、もう何年もしていなかったってのに。
 ああ、だが、心の奥底ではもう一人の俺が囁いている。

≪お前は、今まで何人殺してんだ?今さらいい人ぶったっていみねぇだろう。≫

 まったくだ。お前に言われなくてもわかってる。

≪あのガキもとっとと捨てちまえよ。お前といていいことなんざないんだから。≫

 うるせぇ。そんなことわかってんだよ。

≪おいおい、どうしちまったんだよ。じゃあ、なんで買い物なんざ来てんだよ。昨日そのまま別れればよかったんだ。≫

「うっせぇな!わかってんよ!!」

 ドサッ。
 ハッと目の前を見ると床に落ちている袋と、いつもの無表情を崩し、驚いた顔をしているマユが居た。

「あっ、悪ぃな。なんでもねぇよ。ちょっと考え事してたんだよ。気にすんな。」

 マユがなにか言う前に口早に捲し立て、落とした袋を拾い歩きだす。


 ・・・あれからなんとなく気まずい雰囲気のまま自宅付近に着く。
 チッ。めんどくせぇ。

「オイ、ちょっとコンビニに行くぞ。アイス買ってやる。」

 その言葉に惹かれたのだろう、いくらか表情を柔らかくし、頷き付いてくる。

 アイスを買い、自宅に帰る道、夕日に照らされた二人の影は大きい方はくっきりと地面に写っていて、小さな方は、多少色が薄く見えた。




~あとがき~

 とりあえず、説明とほのぼの?です。
 次からまた、主人公たちは事件に巻き込まれます。
 ちなみに私は幽霊も妖怪もUFOも存在すると信じてる派です。
 いたら面白そうですよね。
 危険がなければ一度見てみたいものです。
 それでは。



[8916] 第5話
Name: 折れペン◆9ddaad9d ID:5d6f3e4b
Date: 2009/05/23 16:18
~side ???~

 薄暗い部屋の中、白衣を着た男が目の前のモニターに映る人物と会話している。

「・・・例の兵器はどうなった。」

 モニターの中に映るのは顔のところどころにしわが垣間見える壮年の男性で、豪華そうな椅子に座っており、威厳のある姿だ。

「ええ、試作型は憑依する段階に問題がありましたが、それ以降の型は順調です。」

 対し、白衣の男はボサボサの髪の毛にヨレヨレの服。
 どこにでも居そうな研究者の出立ちだった。

「そうか、早期の量産を楽しみにしている。」

 そのままモニターは黒い映像を映すのみのモノになった。

「・・・量産ね。フン、私の作品は完璧ではなければならない。それを量産だって?やはり、芸術作品は一点ものでなければな・・・」

 そこまで口に出してから、彼の脳裏に一つの不出来の作品がよぎる。

「そういえば、M001はまだ回収できないのか。無能な者どもめ。そのくらいの仕事はこなして欲しいものだ。」

 早く、廃棄しなければな・・・このままでは・・・

~side out~


 あれから一週間の時が流れていた。
 任務も何度かあり、マユには悪いがさすがに連れていくことはできないので留守番してもらっていた。
 その際、マスターに付いて行かないで死なれては兵器としての価値がないだのなんだの言っていたが、アイスで釣って黙らせた。
 簡単なやつだ。

 そんなわけで、今日は任務に来ている。
 最近は両陣営とも戦力増強に努めているのか、大したいざこざもなく水面下での闘争が続いている。
 其の最中に飛び込んできた、相手の兵器の生産工場の場所の情報。
 それに飛びつかない訳もなく、その場所に来ているのだが・・・



「どうした、悪党ども!!かかってこないのか!ならば、今までお前たちが何の罪のない一般人にした所業、その罪を悔みながら正義の炎に焼かれるがいい!」

 なんかつい一週間くらい前にいらん勘違いをしてくれた熱血野郎が一人、パワードスーツを着込み、無双状態である。

「チッ、また奴か。前回も邪魔しおってからに、とっととご退場願うか。」

 そういいつつ武さんは部隊に作戦を伝え、奴の周りを取り囲む。

「正義の味方さん、悪いがさっさと退場してもらうぜ。こっちもあんたに構ってる暇はねぇんでな。」

「貴様は、この前の!だが、前回までの俺と同じと思うなよ。パワー全かぁぁい!!」

 男がそう叫ぶと背中からスラスターが現れ、ギュインギュイン音を立てている。
 いかにもヤバそうな感じだ。

「なんだありゃ。って、そんなの気にしてる場合じゃねぇ。全員!撃てぇ!」

 武さんの合図で部隊の仲間が発砲する。
 連続した発砲音の後に響いたのは、悲鳴だった。
 ・・・こちらの部隊の。

 そちらの方を見ると、地面に倒れている仲間の一人と、相手の男が立っている。

「遅い!俺を倒したかったらこの倍は持ってこい!」

 いちいち叫びやがってうるさい奴め。
 だが、あの速さは厄介だ。
 俺がマユと融合した状態と同じとまではいかないが、それでも十分早い。

「クソッ、体勢を立て直せ!所詮一人だ、なんとかなる!」

 武さんもあの速さに対する対策が浮かばないのだろう。
 既に作戦とはいえないものが口から出ている。
 そうこうしている内に一人また一人と倒されていく仲間。

「武さん、これは撤退した方がいい。はっきり言って勝ち目がない。あれはさすがに予想外だろ。」

「・・・しかたないか。全員撤退!なんとか振り切れ!」

 合図とともに撤退していく、が、奴はそれを追撃してこちらの殲滅を狙ってるらしい。

 運よく、俺と武さん以下数人は奴らを撒いたらしく、入口付近まで戻ってこれた。

「なんとか撒けましたね。さっさと戻りましょうよ。」

 隊員の一人が先頭を歩き、帰路を急ぐ。
 俺は、部隊の一番後ろで一応の殿をしていた。
 その役目も終わりほっとした瞬間に武さんの焦った声が響く。

「光太!上だ!!」

 ハッと上を向いた瞬間に瞳に飛び込んできたのは、機械を纏った体と鈍色に輝く剣(死)。

 ヤベェ、回避もできねぇ、死ぬ!?と理解した瞬間、世界がスローになり、自分の内側から声が響く。

≪マスターの生命の危機を確認、設定コード004より対策の検索を開始。該当件数アリ。これより長距離緊急融合を試みます。≫

 声が告げると俺の体に突然変化が起きる。
 この前と同じように、マユが現実世界の俺の情報を書き換える。
 人から・・・人を超えるモノへ。

~side 正義の味方~

 はっきりとは覚えていないが、奴には見覚えがあった。確か、先週のことだ。
 初めて奴を見た時、そいつはそれほど年端もいかぬ少女をいたぶっていたようだった。
 何しろ、少女は息を荒げていたし、目には覇気が感じられなかった。
 さらに自分が不利になったと見るや、少女を人質として扱ったのだ。
 俺は怒りに震えた。そのまま逃げられ屈辱の感情に支配された。
 もし、俺にもっと速さがあれば!あの少女を魔の手から救ってあげられたのに!とも思った。
 俺はこのスーツを作成した科学者に無茶をいい改造を頼んだ。二度とこのようなことが起こさないと胸に誓って。

 そして今日、遂に奴を見つけた!俺は歓喜した。ようやくあの少女を救ってあげれると。

 俺は必殺の機会を待ち、奴に襲いかかった。

~side out~

 ガキィィン
 甲高い、金属と金属が合わさる音が辺りに響く。

「なんだと!?」

 相手の男は必殺だと信じた攻撃を防がれたことに驚愕したらしい。
 飛びのき、信じられない物を見たかのような、茫然とした表情でこちらを見ている。
 まぁ、武さんたちも茫然としているが。

 ≪外装装着完了。ジェヴォーダンの獣を選択。戦闘行動を開始します。≫

 人間状態の時よりも饒舌になっているマユがそう告げた。

「オイ、テメェ。死にそうになったじゃねぇか。死ぬのは結構痛ぇんだぜ。・・・落とし前、つけてもらおうか。」
 
 俺の怒りをぶつける勢いで相手にクローで殴りかかる。
 奴はなんとか反応し、手に持っている剣で防いだ。

「くそぅ、なにが起こってるんだ!だが、こんな、こんな奴にぃぃぃ!」

 まだ多少戸惑ってはいるが、立ち直り相手も攻撃してくる。
 それを両手をクロスさせて防ぐ。だが、力はあちらが勝っているらしく吹っ飛ばされる。

 あの馬鹿力じゃあんまり当たる訳にはいかない、セオリー通り速さで撹乱して仕留めることを決め、周りを走る。

「うろちょろとすばしっこい!・・・ここかぁ!!」

 奴が攻撃したところには俺はいなく、その後ろから奴の心臓目がけてクローを突きだす。
 だが、どんな反射神経をしているのだろうか、その攻撃を察知し奴は体をずらした。
 俺の攻撃は完全には決まらず、奴の腕を切り裂いた。

「うぐっ、このまま戦うのは無理か。スーツもまだ完全じゃない・・・おいっ!お前、名前を教えろ!俺は勇介!加藤勇介だ!」

「教えるわけねぇだろ。大体、お前はここで倒すんだから聞いてもしょうがねぇだろ。」

「ちっ、いいか!お前はオレが倒す!最後に正義は必ず勝つんだ!」

 そういうと奴は馬鹿力で周りの壁を壊し、逃走した。

「・・・もう見えねぇ。だが、今度あったら返り討ちにしてやる。」

 ふと、後ろを向くと、あまり理解したくない光景が広がっていた。
 部隊の仲間と武さんが銃を俺に向けていたのだ。

「・・・武さん、なんの冗談っすか?ふざけてんならいくら俺が武さんに恩があるっていはってもキレるっすよ。」

 だが皆の視線が和らぐことはない。そんな中、武さんが代表して俺に話しかける。

「なぁ、光太。俺、お前に一日休みやっただろう。あの時の任務、なんだったか知ってるか?」

 話の意図が読めない。その話と今のこの状態と何が関係あるのか・・・

「あの時の任務は組織から逃げ出した、実験体の回収だ。そこの博士があまり大事にしたくないとのことで、少人数の任務だったんだ。」

 ・・・なるほど、理解できた。マユはうちの組織で作られてたのか。
 クソッ、どうするか・・・

≪・・・コータ、ごめんなさい。≫

 何がだ?と聞く間もなく融合が解かれる。
 出て来たマユはそのまま地面に倒れてしまった。どうやら気絶しているようだ。
 名前を呼んでみるが返事はない。
 それによく見ると体が多少透けているような・・・
 
 そんなことを考えていると武さんから声がかけられる。

「悪いな、光太。何があったのか、俺はよく知らないが、これも任務だ。ちょっと付いて来てもらうぞ。」

 マユも倒れ、一人でこの状況をどうにかできる訳もなく、俺は抵抗もせずに、組織に回収された・・・




~あとがき~
 そろそろあとがきを書くのがめんどくさくなってきましたwww
 まぁ、たぶんこんなあとがきを読んでいる物好きはなかなかいらっしゃらないでしょう。
 今回名前がでてきた勇介ですが、彼は正に善人と言っていい人物でしょう。
 勘違いも多いですがね。
 もし彼を主人公でこの物語を書いていたら、立派なヒーロー物になっていたかもしれません。
 まぁ、作者の文才があまりないので『立派な』はつかないかもしれませんが。
 それでは、また次回に。



[8916] 第6話
Name: 折れペン◆9ddaad9d ID:8d7b7ad4
Date: 2009/06/07 16:34
~side ???~

「博士、M001が回収されたようです。ただ、消耗が激しく、多少危険な状態です。」

「見つかったのかい・・・しかし、消耗が激しい?おかしな話だ。彼女は憑依ができないはず・・・」

「それが、報告によると前回回収に向かった班の隊員の一人と融合したようです。相手のパワードスーツ付きを追い返したとあります。」

 憑依が成功したのか。一体何が原因なのか突き止めなくてはね・・・ふふふ、面白いなぁ。これだから研究は・・・

「わかった。詳しくは後で聞こう。M001の方へ向かうとしようか。」

「わかりました。」

~side out~


 今まで通ったことのない廊下を抜けて着いた部屋はもちろん自分の部屋ではない。
 ここは組織を裏切った者や規律を乱した者が一時的に入れられる場所である。

「悪いな、光太。狭ぇだろうがちょっと我慢してくれ。追々なんかしら報告あるからよ、それまで休んでろ。」

「いいっすよ。別に。お言葉に甘えて寝てます。」

 ここまで連れて来てくれたのは武さんである。表情はやはり暗めだ。

「あんま気にしないでくださいよ。知らなかったとはいえ組織の奴ら殺しちまったのは俺っすから。自業自得っしょ。」

「・・・すまん。」

 そのまま武さんは部屋を出て行き、俺は一人で部屋に残される。
 ああ言ったが、正直そこまで眠くはないので、これからのことを考える。
 まず、組織の部隊を一つ潰した罰は何か。普通に考えて、俺は処分されるだろう
 人を鍛えるのには時間がかかる。拳銃持たせてハイ、戦って。とはならない。
 組み立て方、整備方法、撃ち方、人の急所の位置、接近された場合の対処などなど、覚えることは多々あり、簡単にはいかない。部隊になると連携行動も覚えなければならないのでなおさらだ。
 それを一つ潰してしまったのだ、重い罰は免れないだろう。
 ・・・だが、死ぬのはごめんだ。二度とは感じたくないあの感覚。もう一度感じる時はせめて寿命を迎えた時にしてもらいたい。

 なんとかしなくちゃいけないな。と思いつつも、この部屋にいる限りできることは限られる。

「とりあえず、今できる事・・・寝て、体力回復するか。」

 そう呟いて俺は備え付けの堅いベットで休息をとった。


~side マユ~

「・・うっ、あ?」

 まず目に飛び込んだのは白い天井。ここ最近見てきたコータの部屋のものではない。
 ここは、コータの部屋のパソコンで見たセリフを言うべきだろうか。

「・・知らないてn「目が覚めたかい?M001。私のことはわかるかな。」

 声のかけられた方に首を回すと、白衣を着た男がこっちを見て立っていた。

「博士・・・ということはここは研究所ですか?」

「そう、君はエクトプラズムの不足によって倒れたのさ。全く、聞けば随分遠距離から憑依を試みたようじゃないか。」

「マスターの緊急事態でしたので。」

 そう告げると博士は興味深そうに眉を動かし、尋ねた。

「ああ、そういえば。マスターが決まったのだったね。君は今まで一回も成功していなかったというのに。一体何が作用したのか・・・何か心当たりはあるかい?」

 ・・・成功した、原因。何故だろうか。自分でもわからない。
 少なくとも私の知識の中には回答はなかった。ただ・・・

「わかりません。ただ、あの人が、コータが死にそうになった時、助けたいと、死んで欲しくないと思いました。そしたら・・・」

「そしたら成功していたと。・・・ふふふ、面白いなぁ。今まで相性ばかりを気にして人間を選んでいたからね。」

 そう言ったきり博士は考え込んでしまった。
 ただ、私は心配だった。私が研究所を出る理由になった博士の言った一言が。
 廃棄、私はこのまま処分されてしまうのではないか。

「あの、博士。私は廃棄されるのですか?」

「廃棄?・・・まさか、聞かれていたのか?いや、どちらにしろ廃棄はもうない、君はもう完成された作品になったのだからね。」

 そう、私、生きられるの。じゃあ、コータは?聞こうと思った矢先に博士が言う。

「ただ、君のマスターはわからないね。知る知らずに関係なく組織に牙をむいてしまったのだからね。」

 私はどのような表情をしていたのだろうか。博士が続ける。

「ふふ、そんな表情をするんじゃない。大丈夫さ。私に秘訣があるのさ。安心したまえ、M001よ。もう休みなさい。」

 博士は頭がいい、彼が言うのならいい方法があるのだろう。ただ、一つ訂正個所がある。

「博士、私はもうM001ではありません。マユです。」

 彼にしては珍しく驚いた顔をしたあと、さらに珍しい微笑んだ顔をみせる。

「マユ・・・いい名だね。大事にしなさい。」

~side out~




「・・・ぃ。・・ぉい!起きろ!」

「ぅお!?」

 驚いて辺りを見回すと、起こしていたのは武さんだった。

「博士がお前を呼んでいる。なんか話があるようだが・・・あんま変な行動とんなよ。」

 またもや、全く通ったことのない道を通り、研究所らしき場所へ着く。
 中で待っていたのは、意外と普通の男性だった。多少身だしなみはだらしないが。

「やぁ、初めまして。私がM001、いや今はマユだったね。あの子を作った科学者さ。博士と呼んでくれ。」

 マユを作ったというくだりに驚きはしたが一応こっちも軽く名乗る。

「山田光太。マユの名づけ親ってとこかな。」

「ああ、一応話は聞いているよ。しかし、憑依が成功したというからどんな男が出てくるのかと思えば・・・普通だねぇ。」

 ・・・喧嘩売ってんのか?

「いやいや、気を悪くしたなら謝ろう。すまない。さて、まずマユのことだが、倒れたのは、単なるエネルギー切れみたいなものだね。長距離転送のあとの戦闘、彼女は試験機だったからね。あまり丈夫じゃないのさ。」

「んで、今は平気なのか?」

「ああ、もちろん。それにせっかくマスターが見つかったのだから、少し改良しておいたよ。まぁ、今回のようなことは相当な無茶をしない限りもうならないだろう。」

 他にも戦闘用の外装以外にも増やしただの、なんだの色々説明された。
 だが、一つ聞かなければならない。
 俺はこの後、おそらく組織に処分されるだろう。そんな男にこんな説明しても無駄なんじゃないか。
 その旨を伝えると博士は何か面白いことを考えたとでも言うように、顔を歪めた。

「大丈夫!私に秘訣があるからね。なぁに私の作品(むすめ)がマスターに選んだのさ、何とかするのが作者(おや)の努めじゃあないか。」

 ・・・なんか心配だ。





~あとがき~

 いやぁ、どうもパソコン壊れてました。色々遅くなってすみません。
 と言っても待っていたがいるかはわかりませんがwww

 なかなか文が長くならないですね。もうあんまり気にしないで話数増やそうとおもいます。
 書いてる途中でこの作品にまったく生かせないけどネタが出てきて困るww

 では。



[8916] 第7話
Name: 折れペン◆9ddaad9d ID:44ff5725
Date: 2009/06/12 00:35
「・・・おい、博士。策があるとか言ってたけどよ。なんで食堂のおばちゃんがここにいるんだよ。」

 そう、何故かおばちゃんが部屋に入って、さらにこれから話を聞こうと椅子に座ってさえいる。・・・意味がわからん。

「何、彼女も私の考えた作戦に必要なのだよ。それもとても重要な部分にね。」

 さらに一度戻っていた武さんも集まり、博士も話をする体勢に入ったことから、このメンバーで話が行われるらしい。

「さて、人も集まったことだし、話を始めようか。まず、山田光太君。聞いていると思うが君は私の作品(むすめ)のマスターになったのだよ。フフフ、娘が嫁に行く時の父親の気持ちはこんな感じなのかな。」

 さっそく全く関係ない方向に流れてんぞ、オイ。
 つーか武さんも自分の娘が嫁に行くところ想像して泣きそうな顔してんじゃねぇ。

「まぁ、それは置いておこう。問題はその君がこれから組織への反逆罪で殺されてしまうことだ。これはマユのためにも避けたいのだよ。だから・・・私は君を殺そうと思うのだよ。」

「・・・・・・はぁ?くそっ、意味わかんねぇよ。頭はそんなよくねぇんだ。簡潔にいってくれ。」

「フフフ、すまないね。なぁに要は簡単だよ。君の身代わりを立てて本物の君はトンズラこくって事さ。ほら、簡単だろう?」

 なるほど、簡単だ。だけど身代わりはどうするのだろうか。

「ああ、大丈夫身代わりはこちらで作れるよ。これもちょっとしたエクトプラズムの応用さ。それで、細かい説明に入ろう・・・」


 博士が提案した策はこうだ。
 まず、殺されると思った俺がマユを連れて脱走を図ったということにし、それを武さんが見つけて殺したことにする。
 そして武さんは俺とマユの死体(偽)を証拠として組織に提出。
 その間に俺とマユは食堂のおばちゃんが連れてきた知り合いの料理人見習いという身分に成りすましここを出るという寸法らしい。

「そしてここを出たあとはそのまま彼女の家で身を潜めていなさい。なに、後は死体検証が終わるまで数週間、外に出るのを控えるだけだ。」

「わかった。・・・だけどおばちゃんいいのか?これ、バレたら冗談じゃなくヤバいぜ?」

 これは聞いておくべきだろう、おばちゃんのこれからの人生も掛かってるんだから。

「いいんだよ、この年になって可愛い娘が欲しかったところなのさ。それにちょっとでかいけどやんちゃ坊主もいることだし、まとめて面倒見てあげるわよ。」

 ・・・やんちゃ坊主って、そりゃないだろう。

「ははは、お前もおばちゃんに掛かれば子供ってことだな。まぁ、たぶんもう会えないだろうが、達者でやれよ。」

「って、武さん。あんたはいいのかよ?これだって立派な反逆行為だぜ?家族だっているんだ、止めといたほうが・・・」

「おいおい、俺だってな、可愛がってた後輩を殺すよりは生きててもらったほうがいいんだよ。・・・それにな、いつも悪いことやってんだ。こういう時くらいいい事したって罰は当たんねぇだろ。」

「武さん、あんた、悪役似合わねぇなぁ。いい人すぎるよ。」

「ハン、言ってろい。」

「・・・さて、それでは、作戦を実行に移すとしよう。エクトプラズムの用意もある、明後日。二日後に作戦を実行するよ。いいね?」

 博士が、最終確認にでる。それに頷き、俺は生き残る決意を固めた。ここにいる人たちのために。


・・・一日後・・・

 作戦実行を明日に控えた今日、博士に呼ばれたという理由で牢屋からでて向かった先はマユの元だった。
 ベッドに座っている限りではもう倒れた時のような弱弱しい感じはしない。どうやら完治したようだ。

「よう、気分はどうだ?」

「・・・コータ。ごめんなさい。」

 いきなり謝られたが、はっきり言って理由が検討もつかない。

「私が試作型じゃなくてちゃんとした完成品だったのならあんなすぐにはエネルギーが切れて捕まることもなかった。だから、ごめんなさい。」

 どうやら、あの時気を失ったことが尾を引いているらしい。全く、細かいことを気にするガキだ。
 こいつは自分のせいで俺の身が危険に陥ったと勘違いしている。こいつが来なきゃあの正義バカにやられていたのだからそんなはずはないのだが・・・
 ちっ、ガラじゃない、ガラじゃないが・・・

「気にすんな。後悔してんのなら次に活かせ。俺たちの間じゃ失敗を挽回できることは珍しい。皆、少しのミスでやられちまうからな。そう考えんとお前は幸運なんだよ。なんせ生きてるからな。俺も生き残ってるんだ。お前はよくやった。」

 ああ、もう、なんで俺がこいつ慰めなきゃいけないんだ。こういうのは博士の方がうまいだろうに。
 急に恥ずかしさが込み上げてきたので、矢継ぎ早に言葉を並べたて、話を変える。

「それに、もう博士に改修されたんだろうが。これからはこういうことも無くなるんだろう?ならいいじゃねぇか。ああそうだ、お前なんか色々機能が増えたんだよな。何が変わったんだ?それ教えろよ。」

 マユは急に早口になった俺に驚いたのか一瞬呆けた顔をした後、なにが面白かったのか笑い出した。

「フフ、アハハ、アハハハハ。」

「んだよ、なにがおかしんいんだよ、このガキ~!」

 この時は気付かなかったがマユが声を上げて笑ったのはこれが初めてだった。

 あの後、笑いやがったマユにお仕置きをして、話を聞いてその日は終わった。



・・・作戦当日・・・
 牢屋の椅子に座っているとドアが開く、そこから入ってきたのはもちろん武さんである。
 一応隊長である武さんには捕まっている者を組織内なら一人で連れ出すことができる権限があるので他に人はいない。

 そのまま、いったん博士の部屋に行き、マユと合流。武さんは俺とマユの偽物を連れて出ていくことになる。

「じゃあな、あんまマユちゃんを心配させるなよ。おめぇは結構無鉄砲だからな。」

 まるで、父親のようだ、いや、一応もうすぐ父親になるのか。

「俺はもうそんな子供じゃないっす。じゃあ、また。」

 軽く別れを告げ、武さんは出て行った。少し時間を空けたら今度はおばちゃんと合流しなくてはならない。
 そして博士とはここでお別れだ。

「・・・博士、私を治してくれてくれてありがとうございました。」

「フフ、親が子の面倒を見るのは当然だろう。いつか、君の妹達が前線に配備されるだろう。それも目前だ。もし、話す機会ができたのなら、色々教えてあげなさい。君は長女なのだから。」

「私がお姉さん・・・わかりました。会うことがあるかわかりませんが、会った時は必ず。」

「それと、光太君。この組織も一枚岩じゃない。二人が死んでいないことに気がついて襲撃があるかも知れない。十分気をつけたまえ。」

「ああ、短い間だったけど世話になったよ。」

 博士とも別れ、おばちゃんと落ち合う。
 服を変え、コック帽を深めに被り、顔を隠しおばちゃんと外に出た。


 これからは、悪の組織の人間ではなくなる。
 ・・・だが、今さら戻れるのだろうか。人を殺して、戦いに慣れてしまった人間は普通の生活に満足できるのか。
 かといって戻れるわけでもない。とりあえず、生きよう。
拾った命、面白おかしく、盛大な花火を咲かせたいものだ。






~あとがき~
 どうも、今回はいうなれば第一部の終わりですね。
 次からはちょっと時間が飛びます。
 
 主人公の光太の口調はまじめな時はまじめな口調になるということにしときますww一話と比べて変わってしまって(汗

 それと、物語はサクサク進めすぎですかね?もっとゆっくり行ったほうがいいのでしょうか。

 感想ありがとうございました!とりあえずこのぐらいの長さで続けていこうかと思います。
 それでは。


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