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[5976] 鋼殻のレギオス 青海の騎士 編集中
Name: 康頼◆ee287083 ID:f0e76790
Date: 2009/06/09 05:41
まず一つ私の小説を読んでくれた皆様に謝りたいです。
前に書いてあったレギオス小説を誤って消してしまいました。
再度投稿しようかなと思いましたが、前の書き方より今の書き方のほうがいいかと思い、新しく再構成して見ました。

自分なりに前よりは面白くかけたと思いますのでよろしくお願いします。


あと、スタオ小説のほうも出来ればよろしくお願いします。

第三話執筆後の書き込み

とりあえず再編集レギオス。
賛否両論あると思いますが、とりあえず読んでいただいた人たちに感謝を。
とりあえず、プロットのほうはおぼろげにできているので、あとは我が道を行くということで。
後、レイフォンやツェルニにいる方達のファンの方、はっきり言ってレイフォン達の活躍の場は現時点で少ないことが判明いたしましたので、嫌な方は見ない方がいいかも……
あと原作とは違うのでオリジナル的なものも出るのでそれも嫌な方を見るのは控えた方がいいかもしれません。

しかし執筆の方は頑張っていきますのでよろしくですm(__)m



諸事情によりチラシの裏にいますが、編集次第その他に移ります。




[5976] 第一話(再編集)
Name: 康頼◆ee287083 ID:679563bd
Date: 2009/06/11 18:21
 大地が汚染された世界。
 汚染物質と呼ばれる毒性の強い物質が大気を汚染し、汚染物質が舞う世界では人を始め殆どの生物は生きていけなかった。
 そんな世界で人が生きていくために作り出された物。
 自立型移動都市『レギオス』
 遠い昔に錬金術師が遺した生きる都市は、人々にとって生きていける唯一世界だった。
 しかし、その新たな大地に住む人々にはまだ脅威が残っていた。
 汚染世界の王者『汚染獣』だ。
 汚染された大地に適合した生物は、餌を得るために人々が生きる世界を襲う。
 滅びを待つしかなかった人類に世界にある力を与えた。
 『剄』
 人が人を越える力で、身体にある器官・剄脈から全身に張り巡らされた剄路を流れ、身体の強化から身体外にエネルギーを放つことなどができる。
 その力は、汚染獣に対して有効な戦闘技術として用いられた。
 そんな剄だが、使える人間は限られていた。
 いや、剄というもの自体は、生きているだけで発生する力なので、微量なら全ての人は持っている。
 しかし、剄脈という剄を作り出す器官がなければ、全く力として使えない物だった。
 剄脈を持ち、汚染獣に対して戦うことができる者達を『武芸者』と呼んだ。




第一話「武芸者一人」




 「アルトっ!!出過ぎだ!!」
 怒鳴り上げる団長様を背に私は汚れた大地を蹴る。
 砂煙に覆われ、視覚が奪われながらも降り注ぐ岩盤を回避しながら目標である汚染獣から目を離さぬように手に持つ錬金鋼を握り締める。
 すると汚染獣は接近する私に気がついたのか、巨大な口を目一杯開くと私を喰らおうと襲い掛かってきた。
 しかし、それは狙い通り、私は迫る汚染獣の上に飛び上がると
 「レストレーション」
 手に握られた錬金鋼が、記憶された形状に変化し、そのまま一本の槍となる。
 「ふぅっ!!」
 着地と同時に槍を汚染獣に突き立てる。
 外皮を突き破り、そのまま吹き出る液体と共に、悲鳴を上げる汚染獣は、私を振り落とそうと身体を激しく揺すり始める。
 「ちっ、浅いですか」
私は振り落とされないように槍を握り深く突き刺すと、
 「レストレーション02」
 突き刺さった槍は巨大な片刃の大剣に変化する。
そのまま自分の身長くらいある剣で汚染獣の背を切り裂き、
 「終わりです」
 そのまま頭のほうに飛び、振りおろすと汚染獣の首を切り落とした。
 そのまま落下していく汚染獣の上から大地に飛び降りると、そこには二匹の汚染獣が口を開けて待っていた。
 「幼生とはいえ……数がいれば面倒ですね……レストレーション」
 手に持つ錬金鋼の形状を巨剣から槍に戻すとそのまま地面にいる汚染獣の頭に突き刺した。
 「手応えあり……」
 汚染獣が絶命したことを確認すると頭に刺さった槍を抜く。
 そして、そのままもう一匹の汚染獣と対峙した。


 「お疲れ様です。では錬金鋼をお預かりします」
 「はい、よろしくお願いします」
 戦闘時に着る防護服のまま、ダイトメカニック(掛かり付けの錬金鋼の調整が仕事の研究者)に手持ちの錬金鋼を渡した。
 錬金鋼(ダイト)は、各武芸者の特定の音声と剄に反応し、設定された形状に変化する。
 サイズや重量すら瞬時に復元する記憶復元特性やその状態を維持しようとする状態維持特性を持ち、耐久性や剄の伝導率が高いため、剄を用いた戦闘技術・剄技を扱う武芸者の武器として利用されている。
 そんな特殊な武器のため、それの調整や開発などを仕事するダイトメカニックなどと呼ばれる人達がいるだ。
 その人達に錬金鋼を渡した後、外に出た私は、久しぶりに外気に触れる。
 「ふぅ……やはり移動都市内がいいですね」
 汚染獣の戦闘時には移動都市外に出るため、外の世界の外気に触れないように防護服にフルフェイスのヘルメットを被る。
 生身の状態では、五分程度で体内に侵入した汚染物質により死に至る。
 そのため、戦闘中は防護服の破損に常に気を配っていなければならないのだ。
 「さて……」
 「さて…じゃねぇよ!!馬鹿野郎!!!」
 ど太い怒鳴り声とともに後頭部に鈍い衝撃が走る。
 ああ、忘れてた。
 「痛いです。団長」
 「当たり前だ馬鹿野郎!!!」
 痛む頭を押さえながら振り向いてみると、そこに私の身長を遥かに越える大男がいた。
 バサラ・ミルヒッヒ
 モジャモジャひげがチャームポイントであるこの湖畔都市・アクテリアを守る武芸者達を束ねる青海騎士団団長である。
 そんな我等の団長―バサラ団長は、私に唾を飛ばしながら怒鳴り上げる。
 「いいか!!よく聞け〜〜!!!俺が何故怒っているのか判るか?!!」
 「はい?バサラ団長、意何を…痛っ!!わ、わかりません!」
 再び殴られ、痛む頭を抑えながら団長を見上げる。
 「わからないかっ!!仕方ない!!よく聞け!!そう、俺は怒っている!!仲間のために危険を犯すお前を見てるだけの俺に!!」
 頭を抑え、項垂れる団長を見て私は思う。
 ついていけないと
 というより、自分に怒っているのならそんなに私を殴らないでください。
 そんな私の目の前では、団長の大舞台が開かれている。
 「最年少の隊長のお前はよくやっている。青髪なのによくやっている。それなのに俺は……」
 青髪は関係ないです。
 しかし、ヒートアップしていく団長を見てやはり思う。
 ついていけないと……



 「ふう……疲れました」
 団長から逃げた後、調整し終えた錬金鋼を回収をするとそのまま帰路につく。
 溜め息を吐きながら、都市内を歩いていくとそこには変わらない風景があった。
 市場には、この移動都市のシンボルである湖から取れた魚介類が並び、人々が品々を見ている。
 活気のある声を聞いていると、汚染獣から都市を守れたことにほっとする。
 その光景にひたっているといつも買い出しにくる魚屋の店長がこちらに気付き、満面の笑みが浮かべる。
 「おっ、アルトじゃないか!!これ持っていきな!!アクテリアの英雄よ!!」
 冗談と共に魚介がギッシリ詰まった袋を手渡されると、今度は向かい側の装飾品屋の女性が真珠のペンダントを握りしめ、
 「頑張ったわね〜〜。お姉さんから頑張ったアルトにこれをプレゼントしますよ〜〜。ティアちゃんにプレゼントしたら喜ぶわよ」
 そんな騒ぎを聞き付けて来たのか、だんだんと集まってくる人々が次々に私にプレゼントを渡してくる。
 街の中心部に辿り着いた頃には両手いっぱいのプレゼントに溢れていた。
そのプレゼントを抱えると目の前に広がる湖の岸沿いを歩いていくと湖の近くに大きな屋敷が見え始めてきた。
 「相変わらず凄いですね……」
 都市内で一番の大きさの屋敷は、この都市の領主であるラーグレー家の屋敷である。
 その屋敷の門をくぐり、いつものように大理石で作られた玄関に備えつきのベルの紐を引いた。
 屋敷に響くベルの音を聞きながら扉の前で待つ。
程なくしてドタドタと足元が近付き始め、
 「どなたですか?」
 「あっ、私です」
 「……誰ですか?もしかして今噂のアレですか?」
 「アレって……とりあえず違いますよ。アルト・スロットです。只今、汚染獣殲滅の任から帰って参りました」
私がそう言うと、扉がゆっくりと開き、そこから顔を出したのは、一人の少女だった。
 黒く艶やかな腰まで伸びた髪を揺らしながら、陶器のような白い肌に華奢な体の少女は私を見て少し微笑む。
 「アルト、おかえりなさい」
 「ただいま戻りましたお嬢様。これはお土産です」
 ティアレス・ラーグレー。
 この都市の現領主の一人娘である。
 そう言って野菜や魚などが入った袋をお嬢様に拡げて中を見せる。
 「これは凄いですね……では今夜は何を作りますかシェフ?」
 楽しそうに笑みを浮かべながら聞いてくるお嬢様を見て私は袋の中を再確認する。
 「そうですね……野菜が多いですから野菜スープに魚の炙りと刺身にしようかなと」
 「そうですか。楽しみにしていますね………あっそうでしたそういえばお父様が帰ってきたら来るようにいっていましたわ」
 手を叩き、思い出したようにお嬢様が言う。
 お館様が……なんでしょう?
 「わかりました。ではこれを冷蔵庫に運んでいただけますか?」
 「はい!」
 そう言って私から受け取った袋をふらつきながらお嬢様が遠い台所へ向かう。
 ……心配ですね。
 誰かに頼みましょうか……
 私はお館様の部屋に向かう途中、出会ったメイドにお嬢様を頼むとそのままお館様の下へ向かった。

 「失礼します」
 「おお、アルトか。入ってくれ」
 ノックをし、お館様の了解の後、私は豪華の作りの扉を開けた。
 部屋には、他の移動都市から集められた書物が本棚に収められ、部屋の真ん中の机には一人の男が本を片手に座っていた。
 ウヌバ・ラーグレー…… お嬢様の父であり、このアクテリアの最高責任者、領主である。
 「お館様、ご用件とは?」
 「まあ、焦るなアルト。それよりどうだ、お前を見るかこれを?」
 そう言ってお館様から渡された書物に視線を移す。 「……はい?」
 絶句とはこのことでしょうね……
 しかし聞かなければならない。
のち迫る恐怖に震えながらも私は、言葉を紡いだ。
 「……これは?」
 「ふっ、いいだろう。これは、私がこの十六年間の苦労と涙の傑作だよ……」
 悦に入っているお館様を見て失礼と思いながらも言いたい。
 この人は馬鹿だと……
 前から思っていたがかなり馬鹿だ。
 しかし口が裂けても言えないためとりあえず問題についてだけ言うことにした。
 「……お嬢様の許可は?」
 「今から取りに行く」
 無理です。やめてください。殺されますよ?
 「どうやって撮ったのですか?」
 「盗撮だ。隠しカメラで撮ったものもあるぞ」
 都市警察さん……犯罪者がいます。
 「何故、これを?」
 「ティアの魅力を皆に知ってもらうためだ」
………………
…………
……
 「せいっ!!」
 「ああ!!儂の宝が!!」
叫びをあげるお館様の宝らしいお嬢様のコピー写真集を破り捨てた。
 「お館様のためです!!バレたらちぎり殺されますよ!?」
 「マジ?」
 「当たり前じゃないですか!!着替えの写真とか何で入れたんですか?!」
 「みたいんだもん!!」
 「だもん!!じゃないですよ!!貴方は一人娘の肌を他人に見せるつもりですか!!」
 「……盲点だ」
 「盲点じゃないですよ!!とりあえずマトモな写真はお返ししますから早く着替え盗撮写真のネガを!!」
 このままでは、写真を見てしまった私にも被害が……

 「あっ……」
 「何が……あっ」
 ヒシヒシと伝わり、心臓を鷲掴むようなプレッシャーがっ!!
 背後からそんなプレッシャーが!!
 汚染獣並みのプレッシャーが!!
 「何ですか……これ」
 「アルトがのう……」
 「え、嘘、裏切りですか……」
 お館様の裏切りに驚いている内に
 頬に衝撃が走った。
衝撃は頭蓋を揺らし、脳をも揺らした。
感想―めちゃくちゃ痛いです。
 衝撃により薄れゆく意識の中、お嬢様に顔を掴まれながら顔を殴られるお館様を見ながら、意識を手放した。
 とりあえず今思うことは、起きたときには事態が解決していることを切に願いたいです。
 「ふん!!」
 「アルっぐは!!やめぎゃあっ!!ティ…………」
……願いたいです。





[5976] 第二話(再編集)
Name: 康頼◆6ff7ecc2 ID:ea3bd0c7
Date: 2009/06/12 01:01
 「痛たた……」
 激しい頭痛とともに私は目を醒ました。
 何故、自分が床に倒れているのか、不思議に思ったが、頭に駆け巡る痛みが、私に教えてくれる。
 久しぶりに気絶しました。
 ここ最近汚染獣との戦闘ですら傷を負わなかったのに……お嬢様恐るべし。
 その事実にはとりあえず触れずに、身体を起こすことにした。
 「おっとと……」
 微妙にふらつく足を見て、お嬢様のビンタの破壊力に恐怖を感じる。
 そんな恐怖を抱きながら、固まった身体をほぐすと私は周囲を見渡した。
 とりあえず目の前のピクピク震える屍を置いといて、時計を見ると、時間が四十分程過ぎていることに気づいた。
 「あっ、夕飯の手伝いをしなければ」
 思い立ったらなんとやら……私は回復したその足で速やかに部屋から退出した。
 えっお館様?とりあえずちぎれてはいませんでしたよ。
 ……まあ、顔がザクロみたいになっていましたが……
 死んでいませんからすぐにリカバーすると思いますし……
 お館様の部屋から廊下に出てみると、香ばしい匂いがし始めた。
 どうやら出遅れたようですね。
 遅れを取り戻すために私は、早足でキッチンに向かった。
 キッチンに入るとそこには神がいた。
 右手に持つキッチンナイフを振るうと野菜や魚は切身となり、そのまま放物線を描き皿に盛り付けられ、左手に持つフライパンを振るうと、中の魚は香ばしい香りを出しながら、フライパンの上を泳ぐ。
 これがラーグレー家お抱えのコック、チンさんの腕前だ。
 ごつい背中には、何か龍みたいな幻が見える。
 バサラ団長とは旧知の仲だと言うのは嘘ではないだろう。
 確か先日、筋肉の張りについて熱く答弁していましたし。
 「アタタタタタタタタタタタ…………」
 白い湯気とともに違う世界に飛び立っているチンさんを見て私は料理を手伝うことを諦めるとそのまま静かにキッチンから出ていく。
 ついていけません……




第二話『旅立つ貴女へ』




 料理は最高の出来であった。
 刺身の切り方にしても、野菜スープの出しにしても、私ならまず出せないだろうと言うような味で美味しかったと思う。
 ただ……
 「…………」
 「…………」
 「…………」
 「…………」
 言葉のかわりに冷気という代物が私に突き刺さる。
 黙々と食べるお嬢様をチラチラ見ながら私は御飯を食べていく。
 基本的にはメイド達やチンさん達も共に食事に参加するのがこの屋敷のルールだが、今日に限って皆、自室に料理を運び、逃げていった。
 ……ちくしょうです。
 そのため食堂は、私とお嬢様二人のみとなり、重々しい空気の中、食事する。
 そのため、お館様を起こすべきだったと後悔する私に、いつの間にか食事を終えたお嬢様が一言
 「あとで私の部屋に来なさい」
 そう言って自分の食器をキッチンへと運ぶお嬢様を見てただ、はい、としか答えられなかった。
 返事をしてしまったため、私は覚悟を決め、最後の晩餐となりうる料理を腹に止め、食器を流しにつけるとその足でお嬢様の部屋へと向かった。
 「入りなさい」
 ノックの後、お嬢様の許可を得たので、私は一度深呼吸をして部屋へと入る。
 部屋にはぬいぐるみ等などが置かれており、年齢相応の女の子の部屋と言う感じだ。
 と言っても他の女の子の部屋に入ったことはないので比べようがないが。
 「とりあえずそこへ」
 ぬいぐるみに囲まれたベッドに腰掛けるお嬢様の指の先には、クッションがひかれており、私はそこに静かに座る。
 「えーと話しとは?」
 「大丈夫です。さっきの件は解決済みです」
 表情を緩めるお嬢様を見て安堵の笑みを浮かべてしまう。
 よかった……さっきのが最後の晩餐にならずにすみそうです。
 「では、要件とは?」
 「ええ、私は明後日からツェルニに向かいます」
 「はい、聞いております」
 学園都市・ツェルニ
 お嬢様はアクテリアにある学校よりツェルニでの勉強を望んでおり、これから6年間向こうで過ごすことになっている。
 学園都市とは学生だけで運営されている都市らしく、殆どの人間は、そこの学生のようだ。
 「アルト……やはり無理ですか?」
 「申し訳ございません」
 私はただ頭を下げるしかできなかった。
 用向きは、お嬢様の護衛及び入学の件だった。
 しかしその願いは無理である。
 悲しげに顔を伏せるお嬢様を前にしても。
 私は武芸者である。
 しかもそれなりの地位を得てしまい、長期に渡って都市を空けるのは不可能だった。
 確かに私一人がいれば都市の安全は大丈夫と言うわけではない。
 しかし、汚染獣に対しては出来る限りの戦力が必要なのだ。
 「どうしてもですか?」
 お嬢様もそれはわかっている。
 しかし、不安なのだろう……一人で他の都市に向かうのは。
 「すみません。兄達が出ている以上、戦力を外部に出せないのです」
 そう、兄が……ルイス兄さんがいてくれたらと。
 「そうですね……ルイスさんはいつ頃お戻りになるのでしょうか……」
 ルイス・スロット……
 私の兄で唯一の親族であり、この都市最強の男だ。
 たったひとりで汚染獣の群れを討ち倒す程の武芸者であり、青海騎士団の副団長を務める。
 現在は、他の都市に商売にいった商団の護衛のため都市外にいる。
 私は冗談で英雄だの言われているが、兄は違う。
 単騎で汚染獣でも老性体の次の強さの雄性体の五期を仕留め、都市戦争でもアクテリアのため、力を振るい功績を残した。
 まさに英雄に相応しく、アクテリアの守護神である。
 「わかりませんが、あと三月程は帰って来ないと思います」
 「そうですね……」
 悲しげに顔を伏せるお嬢様を見てどうしたらいいのかわからなかった。
 ただ私はそんな顔をお嬢様にしないでほしかった。
 だから私は
 「お嬢様、兄が帰って来ましたら、お館様や兄や団長に一度ツェルニに伺いますように頼んでみます」
 「え?」
 「その間もその後も手紙も送ります。アクテリアでの出来事を、手紙に込めて。だからお嬢様は、学園での近況を手紙にして私に送ってくれませんか?」
 これぐらいしか私には出来ない。
 それでもお嬢様は笑みを浮かべ、
 「ありがとうございます。アルト。楽しみにしておきますね」
 優しい言葉を私にくれた。


 「レストレーション02」
 深夜、私はいつものように庭に出て錬金鋼を握りしめ、巨剣に変化させると、水平に剣を振り抜き、そのまま、斜めに振り上げる。
 そのまま何通りの型を振るうとにじんできた汗を持参したタオルで拭き取る。

 「巨剣は、私には無理かな……」
 錬金鋼を元に戻すと一人呟く。
 巨剣は、私にとって少し扱いにくく、振るよりも振られているという感じになる。
 「刀か……ナイフか、しかしナイフは汚染獣戦はキツいですね……もしくは巨剣の重量を少し落としてみますか」
 ふむ……どうしましょうかね……
 「励んでいるようだな。アルト」
 思考にふける私を呼ぶ声がした。
 振り向いてみるとそこには予想通りの人が立っていた。
 「バサラ団長、こんな夜中に……奥さんに閉め出されたのですか?」
 「馬鹿野郎、嫁とはいつもラブラブだ」
 そう言って豪快に笑うバサラ団長の顔は少し紅潮していた。
 ……飲んでますね。
 酔いざましのためとりあえず手に持っていた水を渡すことにした。
 「飲んでたんですね……程々にしないと身体壊しますよ?」
 「なーに、そんなに弱くねぇよ。それよりアルト、久しぶりに一つ手合わせしねぇか?」
 そう言って私が渡した水を一気に飲み干していく。
 ……手合わせですか……
 「別に構いませんが、いきなりどうしたんです?」
 「ち、水かよ…………何、お前が毎夜頑張っているのを見ると血が騒ぐというものよ」
 「酔っているからって手加減しませんよ?というより手加減したら私が死にかけますし」
 そのままニヤリと凶暴的な笑みを浮かべるバサラ団長は懐から錬金鋼を取り出すと、私も錬金鋼を握り直す。
 「「レストレーション」」
 言葉と共に同時に錬金鋼が復元される。
 バサラ団長の錬金鋼は巨大な槌となる。
 バサラ団長は、戦闘方針はただ一言力業である。そのため使用している錬金鋼も少し重めの強度の高い黒鋼(クロム)錬金鋼製だ。
 因みに私は青石(サファイア)錬金鋼製の槍だ。
 「来いよ」
 「参ります……ふっ!!」
 先手必勝、フェイントを入れた突きの三連。
 それはバサラ団長は軽く槌を振るい、受けると身体を半回転させるとそのまま風を巻き込みながら迫る一撃を放つ。
 私はその攻撃をバックステップで回避すると距離を取る。
 「流石に避けるか」
 「ええ、喰らったら怪我じゃすみませんからね」
 軽々と槌を担ぐバサラ団長が楽しげに笑う姿。
 こちらとしては全く、笑えないですがね……こっちは刃止めしているけど、向こうは元々刃なんてありませんからね。
 当たればミンチになりますね……
 じっくり見極めていきたい所ですが、さっきまでの疲れがありますから。後手に回れば不利です。
 「次で決めますよ」
 「ふ、こいよ」
 瞬間、二人は身体に剄を走らせる。
 私が足に剄を走らせるのとは逆に、バサラ団長は腕に剄を走らせていく。
 「はぁっ!」
 内力系活剄の変化、旋剄。
 風を切り裂きそのまま姿が見失うほどの速度を上げ、私はバサラ団長に最速の突きを放つ。

 「ふんっ!!」
 それと同時に団長は真上に振り上げた槌を力任せに振り下ろす。
 外力系衝剄の変化、轟天。
 稲妻のように振り下ろされた槌は地面を砕き、その衝撃とともに飛び散った岩石は私に襲いかかる。
 奇しくも共に選択した剄技は二人共が得意な技であった。
 だからこそ……
 「読めましたよ。この展開!!」
 外力系衝剄の変化、針剄。
 フェイントして出された突きを戻しながら横に飛び、バサラ団長の射程距離から離れた瞬間、再び三連、団長に向かって突く。
 放たれた突きからは、鋭い針の様な衝撃波が生じ、
 「がはっ!!」
 バサラ団長に全弾直撃した。
 そのまま地面を転がり、そのままピクリとも動かなくなる。
 「だ、大丈夫ですか?」 私は慌てて駆け寄る。
……まさか、全弾直撃するとは思いませんでした。



 「子ができてな」
 「はい?」
 意識が回復したバサラ団長は、いきなり私を見るとこう話を切り出した
 「それに俺もいい歳だろう?だから騎士団の団長をルイスに譲ろうと思っているのだが……」
 「え、いや、団長、騎士団を辞めるのですか?」
 急展開となった。
 子?歳?引退?!
 いきなりの事で動転している私を気にすることなく団長は話を続けていく。
 「騎士団はやめんぞ。武芸以外に俺は道は知らんし、今の自分の役割には誇りもあるしな……ルイスが帰ってくる次第に言うと思う。そうなったら……アルト、お前が副団長だ」
 「私が……?」
 「だから当分、この都市から出れないから、お嬢の元へは行けなくないぞ。今の内にヤることやっとけよ。俺みたいに」
 ……シリアスな展開だったのに……
…………
……
 とりあえずそのまま寝てしまった団長を放置して屋敷に戻る。
 その帰り道、私はあることを考えていた。
 「当分……一年?それとも二年?……流石に悪い気がしますね……?」
 何ですか?これは?
ポケットに入った物を取り出してみるとそこには……
 「なるほど……これにしましょう」
 我ながら良いアイディアが浮かんだので、それを実行するため自室に戻ったのだった。





[5976] 第三話
Name: 康頼◆6f1f2291 ID:151c5782
Date: 2009/01/24 13:52
親愛なるアルト・スロット様へ

お久し振りでよろしいのいいのでしょうか?
元気ですか?風邪などひいてませんか?って言ったら貴方はそれはこちらの台詞です。と言うのかな?
私の乗せた放浪バスは、無事ツェル二に着きました。
途中、汚染獣らしきものを遠くに発見しましたが、見つかることなく無事やり過ごすことが出来ました。
運転手さん曰く、汚染獣に見つかれば命がないに等しいということらしいです。
それを聞いて外がどんなに危険かを知りました。

話は変わりますけど、友達が出来ました。
二ーナという女の子とハーレイという男の子の二人で、ツェル二に向かう放浪バスの中で出会いました。
ニーナは武芸者で頑固者みたいだけどとても真っ直ぐな可愛い女の子で、ハーレイはその幼馴染みで確か、ダイトメカニックでいいんでしたっけ?
それを目指していて、目標に向かっている二人の姿は、とても輝いて見えます。
私も二人に負けないように何かを見つけて頑張りたいと思っています。
だからアルトは心配しないで自分のために頑張ってくださいね。

PS.ネックレスありがとうごさいます。大切にしますね。


ティアレス・ラーグレーより



第三話「日々日常」



「……元気にしているようですね」
文面からは、楽しそうに手紙を書くお嬢様が眼に浮かびます。
ネックレスも気に入って頂いたようですし、幸いといったところですね……
断られたら、多分凹むと思いますし……
「勉学の方も頑張って、バイトもしているようですしね……」
先に届いた二通目にもそう書かれていた。
この辺りが都市間とのやり取りの不便さが伺える。
しかも、これよりも問題なことがある。
それは……
「お館様……」
「なんだ?」
「いい加減離れてくれませんか?」
「お前が手紙の内容を見せてくれるまでな」
とのことだ。
悪いですけど、結構……かなり邪魔……ウザいです。
そんな私を心中を知ってか知らずかお館様は、さっきから座ってる俺の後ろから手紙の内容を見ようとしている。
まあ、今のところは見せないようにしていますから、内容は見られていないはずだ。
しかし、これは困った。
お嬢様が此処を去って、早三ヶ月、お館様に変調が訪れている。
最初の一ヶ月は、泣きじゃくり、メイドに慰めてもらおうと抱きついていたし、次はお嬢様の部屋で寝泊まりし始めたし、お嬢様の写真集を新たに作り始めたし、何より手紙が来たら、人の物まで見ようとしている。
というより、メイドに抱きつくってよくよく考えたらセクハラになるのでは?
前にも盗撮疑惑が浮上しましたし、このままでは本当に都市警察にお世話になりそうです。
まあ、メイド達はお館様の人柄を知っていたから笑い飛ばしてくれましたし、隠しカメラは、屋敷の人間総出で全部回収しましたがね。
しかし、いい加減この状態は不味いですね……
「お館様、一応、これは私宛ですし、お嬢様も私以外が見るのは禁止って言っていましたし、何よりプライバシー的問題が……それにお館様宛の手紙もきていたはずですよ?」
うん、だっていつも手紙がきたら一番早く読んでるのはお館様ですし。
「ふっ、アルトよ……読んでみるか?何、お前の手紙と交換なんて言いやせんよ」
お館様は私の言葉を聞いて一笑すると、何か悟った様な顔つきで、手紙を渡してくる。
でも最後に多分……とかつけるはやめてください。
「じゃあ……読ませていただきます。」
自分の手紙をポケットにしまうと、渡されたお館様の手紙を開いた。
…………
うん……
「どうだ?」
「……ちょっと切なくなりますね」
書かれている内容を簡単に言うと、要は苦言八割、他のこと二割で、みんなに迷惑かけていないかとか、ちゃんと仕事してる?とかでお嬢様については何一つ書かれていなかった。
うん、これはお嬢様大好きなお館様にとっては地獄だ。
ですが、多分手紙の内容から察するとお嬢様はお館様のことが気になって仕方ない筈だ……多分。

「わかるか、アルトよ。儂は心配なんじゃ……ティアが見知らぬ男に口説かれていないかとか、料理中包丁で指を切っていないかとか、風邪を引いていないかとか、寂しくないのかとか、苛められていないとか……ああ心配だ!!ティアよ!私の愛しい娘よ!!!今行くよ!!」
凄いテンションになったお館様を見て思う。
なんかイタいと。
この場から一刻も早く立ち去りたいが、大恩のあるお館様のため、ここは羽織締めをしてとりあえず落ち着かせようと思う。
「放せ〜〜」
「都市知事が仕事放棄しないでくださいよ」
「ティアが、ティアがっ!!」
「だ、大丈夫ですよ。お嬢様なら、料理だって簡単なものは作れるようになったらしいですし、指を包丁で切ったりなんてしないって書いてありますよ。健康には気を遣っていているらしいですし、なにより友達も出来たって言ってましたから大丈夫ですよ」
「……本当か?」
するとお館様は落ち着いてきたのか暴れるのをやめる。
ここで畳み掛ける!!
「ええ」
「風邪ひいてない?」
「ええ」
「苛められていない?」
「友達がいるから大丈夫ですよ」
「友達何人?」
「えっと、書かれているのは男の子と女の子の二人ですね……」
「男っっっっっっ!!!!!!」
再発火!!!
しまった……油断しました……
「おおっっっとっっっっっっっっっこ!!!」
再び、壊れるお館様を見て、とりあえず現実逃避したくなりました。

散々暴れた後、騒ぎで駆けつけたメイド達にボコられたお館様はそのままひきづられ都市知事の仕事を果たすため、執務室に戻った。
すこし、変な人だが、知事としては極めて優秀であり、騎士団の強化や設備改善や他の都市との友好的な条約を結べてきたし、なにより仕事も早く、人柄もいいため、人々から好かれているし信頼も厚い。
私のような親のいないもの達のために、個人的に孤児院も開いている。
勿論、孤児院の費用は自分のポケットマネーから出している。
「本当に凄い人です……」
私とルイス兄さんを自宅に引き取りくれた育ての親には感心する。
まあ、実の親も尊敬しているのだが。
しかし、どうしましょうか……今の所は何もすることはないですし。
「とりあえず、本部に向かって誰かと手合わせしましょうか」
身体が訛りますし、勘を鈍らすわけにはいきませんからね……
そうして騎士団本部に向かおうとする私に背後から誰か近付いてきた。
「アルト、さぼりぃ?」
む?この独特のイントネーションは……
振り向いてみるとそこにいたのは、髪を後ろで束ねた金色が目立つ私の良く知る女性だった。
「いえ、お館様の相手をしていたのですよリーフィル」
「大変ねぇ〜〜ウヌバ様はぁ〜〜ティア命みたいなぁ〜〜?だぁーかぁーらぁ〜〜悲しいぃ〜〜みたいなぁ〜〜」
相変わらずのかなりのスローペースな口調を聞いているとあることを思い出す。
「リーフィル、貴女確か……今日、先日発見された破壊された移動都市の探索の任についてるはずでは?」
その任がついたとき、かなり嫌そうな顔をしていたのをよく覚えている。

「それぇ〜〜?実はぁ〜〜その事でアルトを探していたみたいなぁ〜〜。」
「私を?」
「そぉ〜〜。一緒に行く筈のぉ〜〜班の一人がぁ〜〜訓練中にぃ〜〜怪我しちゃったみたいなぁ〜〜」
「だから代わりにと?」
「そぉ〜〜」
ふむ……訓練以外にするべきことはありませんし……。
「わかりました。代わりますよ」
「流石ぁ〜〜じゃあぁ〜〜と〜り〜あ〜え〜ず〜〜レッツゴー〜〜」
束ねた髪を揺すりながら歩いていくリーフィルの後ろ姿をについて行く。
しかし……リーフィルと会話するのは疲れますね……。
話もなかなか進みませんし……。
「そういえばぁ〜〜ルイス様ってぇ〜〜そろそろぉ〜〜帰って来ないのかなぁ〜〜?」
「そうですね。もうそろそろ帰ってくる頃だと思いますが……」
兄さんが出てはや、半年……いつもより長い。
だから皆、少し不安がってる。
「アルトぉ〜〜、寂しいでしょぉ〜〜ティアもぉ〜〜ルイス様もぉ〜〜いないんじゃぁ〜〜」
「寂しいと言えば、寂しいですね……リーフィルも寂しいじゃないですか?」
「そぉ〜〜。だってぇ〜〜友達のぉ〜〜ティアはぁ〜〜いないしぃ〜〜私ぃ〜〜ルイス様ぁ〜〜ラヴぅ〜〜だし〜〜。そうだぁ〜〜アルトぉ〜〜いつかはぁ〜〜アルトのぉ〜〜お義姉さんにぃ〜〜なるからぁ〜〜今の内にぃ〜〜練習しておくぅ〜〜?」
「ご遠慮しますよ」
上機嫌に悦るリーフィルに笑顔で断る。
というよりリーフィル……兄さんのこと好きらしいですけど、肝心の兄さんはそのことについてどう思っているのでしょうか?
返答次第では、本当に義姉さんになる可能性が……
帰ってきたら聞いてみましょうか。
「そ〜う〜い〜え〜ば〜〜アルトぉ〜〜ティアにぃ〜〜ネックレスぅ〜〜プレゼントしたんでしょうぉ?愛の〜告白はぁ〜〜?」
お嬢様の手紙から知ったのですね……くっ、この様子では街全体に噂を広められていますね……
覚悟しますか……
「愛の告白はしませんが、プレゼントはあげましたよ」
とりあえず心中を悟られないように冷静に言ってみるとしたり顔をしているリーフィルと目が合う。
「このぉ〜〜鈍男ぁ〜〜」
「がはっ!!」
リーフィルが首を左右にくねくねと揺らすのと同時に後頭部に強い衝撃が走る。
って今の一撃、活剄使っていませんでした!?
抗議しようとリーフィルの方を振り向くとリーフィルは遠い向こうで手を振っている。
もういいや……
悟り始めた私は、笑顔でいるであろうリーフィルに追い付くため、足を早めた。







[5976] 第四話
Name: 康頼◆dd1df0b3 ID:f28d3525
Date: 2009/01/30 22:37
「第四班、第三班を援護!!第二班はその場を撤退!!第一班は本隊とともに汚染獣の足を止めるぞ!!」
「了解っ!!」
団長の激とともに武芸者の騎士達は、目の前の汚染獣を睨み付け、身体に剄を走らす。
死を恐れることなく、汚染獣に立ち向かう武芸者達には敗北は許されない。
敗北は、即ち移動都市……レギオスの崩壊に繋がっていく。
都市の人々の生活や生命を守るため、武芸者は戦わなければならない。
それは剄という力を得たものの責務だ。
その責務は武芸者の誇りとなる。
だから私も戦う。
自分の使命を全うするため、誇りを持つため……しかし何より、都市の皆の笑顔がみたいから……




第四話『汚染獣襲来』



「汚染獣ですか……」
お嬢様が去って三ヶ月……凶報が届く。
重々しい空気の中、団長が口を開く。
「数は、雄生体が一体に雌生体一体に幼生体が数百だ。……極めて数が多いということはないが、大物が二体という油断ができない数だ」
「団長、油断なんてするわけないっしょ」
軽口を叩くのは優男はロマーゼル第四師団隊長。狙撃の名手で遠距離支援部隊を指揮している。
「ふん、ロマーゼルよ、この前油断して貴様は防衛線から汚染獣を通しただろうが……で団長、配置はどうするんだ?」
ロマーゼルの悪態をつくのガタイのよい大男は、フライヤ第三師団隊長。守衛の要で、常に最前線で防衛の要となる。
「ああ、先に第二師団が先行して様子を見に行っている。次に第三師団、第四師団と続き、本隊と第一師団は、都市付近を防衛する。」
なるほど……確かにリーフィルが率いる第二師団は一番生存率が高いですからね……
考え事をしていると視線を感じたので顔を上げてみるとにやつくロマーゼルと目が合う。
「何ですか、ロマーゼルさん?」
感情を込めないで答えたら、何が気に食わないのか、ロマーゼルは顔を歪める。
「いえ、何、アクテリアの英雄様は前線にはでないのかとね」
なるほど……嫌みを言いたいのですか……
「ロマーゼル隊長、団長の命令ですから」
「ちっ、そうかよ」
舌打ちをつくロマーゼルに団長は溜め息をつく。
「ロマーゼルよ。アルトには他にやってもらわなければならないことがある。いちいち絡むな」
「へいへい。わかりましたよ。話が済んだから俺は行きますよ」
団長の言葉に機嫌を損ねたロマーゼルは、そのまま部屋を退室していく。
扉が閉まるとその場に沈黙が漂い始め、その中で再び団長は溜め息をつく。
「話を続ける……先程、無人探査機で姿を捉えていた雄生体の汚染獣の姿が確認できなくなった」
「どういうことだ?」
怪訝な顔のフライヤさんの疑問に団長は一度頷き、
「推測になるのだが、地中に潜られたからだと思う。念威繰者達が血眼になって探しているが……」
地中か……しかし厄介ですね……
居場所がわからないのは、汚染獣戦において致命的だ。
「ということは、私はその汚染獣を抑えるということですね?」
「ああ、そういうことだ。よし!話は終わりだ。各々がた準備を怠るなよ」
「はっ!」
団長の締めの言葉でこの場は解散した。
「アルト」
部屋を退出し、自室に戻り準備をしようとしていると背後からフライヤさんに呼び止められた。
「はい、なんでしょうか?」
するとフライヤさんは、言いにくそうに言葉を紡ぎ始める。
「いや、なんだ……いくら第一師団の隊長を勤めているとはいえ……まだ十六の若者だ……つまりはだな……」
「……ありがとうございますフライヤさん。ではご武運を」
心配してくれるフライヤさんに頭を下げ、とりあえず私はその場から離れた。
自室に戻ると、そのまま上着を脱ぎ、棚に入った防護服を身に付ける。
そして上から騎士団のエンブレムが入った戦闘衣を着込み、腰に錬金鋼を差し、ヘルメットを手に持つ。
準備を整え、机にある写真に祈り、覚悟を決める。
お嬢様……ルイス兄さん……
「さあ、いきますか……」
頬を二度叩き、気合いを入れると私は、戦場へと向かった。

汚染された大地に降り立った途端、冷たい風の歓迎を受けた。
冷たい風と言っても、防護服等というスーツを着ているため、直接感じることはないのだが、命を感じない景色を見てそう感じてしまう。
「皆さん、わかっていると思いますが、汚染獣を倒すことが重要ではありません。都市を守り、自分自身が生き抜くことが大切なので、無茶はしても無理はしないように」
「了解っ」
念威によって届けられた部下達の返事を聞いて顔が少し緩んでしまう。
「では解散」
私の合図により第一師団は都市を支えるレギオスの足元に散っていく。
「伝令!第二師団、汚染獣と遭遇したのち戦闘を開始しました。第三、第四師団も続くように対戦準備に取りかかっているようです」
「都市部への被害は?」
「本隊と第二防衛線を守衛する第三、第四師団により、進行は食い止めているため、今のところは大丈夫です」
向こうは大丈夫そうですね……となると問題は
「姿の見えない雄生体の動向は?」
「今のところは何も……念威繰者達が全力をもって捜索にあたっているのですが」
「わかりました。見つけ次第、第一師団全員に報告を」
「了解」
通信を終えると、周囲を見渡す。
……いない。
しかし潜るとは珍しいですね……今まで戦ってきた雄生体は潜ったことなんてなかったのに……
……いや……待ってください、何故見失ったんです?……念威で最初は確認出来たのに……なら確認出来なくなった?……何故?
!!!
「まさか!!」
「ぎゃあぁぁっっ!!!!」
私の頭に出された最悪の予想とともに耳を押さえたくなるような悲鳴が聞こえた。
「報告!!」
「はっはい!!雄生体出現!!!場所は、レギオスの真下。先の攻撃により、ヘルマ・ネリア・アコール、三名の反応が消えました!!」
その言葉を聞くと同時に足に活剄を走らせる。
そのまま旋剄を用いて、汚染獣が出現した場所へと駆け抜ける。
「団長!至急応援を……こいつは雄生体じゃありません!老生体です!!」 盛り上がった大地を抜けた次の瞬間、遂に汚染獣の姿が確認出来た。
手足は削げ落ち、背には赤みの強い虹色をした翅が優雅に羽ばたかせる。
これが……老生体……
この全身に襲う圧迫感が汚染獣の中で最も狂暴であると教えてくれる。
「レストレーション02!!」
錬金鋼を巨剣に復元させると、高々と飛び、そのまま翔ぼうとする汚染獣の翅を斬りつける。
「くっ硬い……」
幼生体なら軽々と切り裂く一撃も老生体には翅を両断することは出来なかった。
老生体……初めて見るが幼生体が可愛く見えるほど凶悪だ。
「くっ!!」
その老生体は身体を揺らし私を振り落とそうとする。
私は翅に剣を差し、振り落とされないようにする。
「飛ばれたら、手の施しようがありませんね……」
とりあえず、翅を斬って、地上に落とす……アクテリアを襲う前に、移動速度を奪う。それが先決だ。
「ふっ!!」
そのまま、老生体の背に乗りながら翅を斬りつけていると、漸く翅の先を斬り飛ばすことができた。
バランスが崩れたのかそのまま老生体は地面に落下する。
私は老生体の上から飛び降りると、上を見上げる。
頭上ではアクテリアが慌てたように足踏みをして老生体から離れていく。
都市防衛システムすら感知できなかったのか……
「隊長っ!」
「!ああ、すみません。全員翅を狙いなさい!!飛ばれたら厄介です!!」
今はコイツを片付けることに専念します……。
活剄を全身に流すとそのまま老生体の元へと走る。

「ぐはっ!!」
「しまっ!!防衛服が!!」
戦闘開始から二時間、第一師団の数は半数となり、戦死者や負傷者が続発していく。
「くっ、スーツが破壊された者は都市内に一度帰還しなさい」
老生体を斬りつける合間に、部下達に指示を送る。 まずい……こちらは半数も失っているのに、成果は翅一つと顔の傷に致命傷になっていない全身の浅い無数の傷……
このままでは……
「団長!!」
「わかっている!!だがこちらも手一杯だ!!」
万事休すと言ったところですね……
ここは……
「第一師団に告ぐ!全員で老生体の動きを少しでもいいから止めてください!!その間に私が仕留めます!!」
告げると同時に足に活剄を流すと
「レストレーション」
錬金鋼の形状を巨剣から槍へと変化させる。
体力から考えて時間は余り無い……
ですから一撃で決める!!
旋剄で老生体の真上に飛び上がると、そのまま、空中で真下に向かって旋剄を使い、急襲をかけた。
「はぁっっっ!!!」
最大限の衝剄を槍の穂先に溜めるとそのまま老生体の頭の傷口に突き刺した。
とった!!
思わず、気を緩めそうになるが、そのまま全力で穂先から針剄を放った。
落下の一撃とともに動きを止めた老生体の頭に突き刺した槍から最大威力の針剄を放つ。
これなら老生体も倒せる筈だった……
「なっ!!」
高い音と共に手に持つ錬金鋼が砕け散り、収束された衝剄は回りに飛び散った。
最後の最後で不運に見合った私は、老生体が口を開き待ち構えるのをなにもすることなく見ていた。
いや、見ているしかなかった。もう既に身体には力が残っておらず、錬金鋼も失った。
だからただ落下し、下で待ち構える老生体を見ているしかなかった。
お嬢様……すみません……リーフィル……団長……お館様……後は任せます
そうして身体に力が抜け、回りの景色が見えなっていく。
その中で汚染獣の悲鳴とともに、巨大な何かが地面に落下する音がした。




[5976] 第五話
Name: 康頼◆34aefb48 ID:5dcd52d3
Date: 2009/02/06 01:37
老生体……
汚染獣の最終形態にして最強形態である。
その中でも一期と二期に分かれており、一期は一番狂暴だといわれ、一体で大抵の移動都市を滅ぼすことができる程の力を持っているといわれている。
しかし、数は他の汚染獣より圧倒的に数が少ないため、遭遇率は低い。
その老生体との遭遇から一夜明け、まだ辺りが薄暗い中、私はとある場所に来ていた。
静寂に包まれた場所に、石造りの十字架が大地の至るところに刺さっている。
何故か悲しくなるような風景と冷たい風が吹くこの場所には何度か足を運んだ。
そう、ここは人が最後に行き着く場所、墓地だ。
私は手に持った花束を十字架の前に置いていく。
数にして10、それが昨日の汚染獣戦に対しての犠牲の数だ。
老生体に対しての犠牲では奇跡的な程の少ない犠牲で抑えられた筈だが、それでも最上のものでもない。
死んだ者の家族のことを考えるとなおさらだ。
「私は弱いな……」
彼らのことを考えると自分の弱さを恨みたくなる。
たとえ、それがなんの意味のないとしても。
「彼等は、そうは思わないだろうな」
私の呟きに後ろから返答が返る。
私は目の前の墓に拝むのをやめ、後ろに振り返る。
「何故?」
「彼等には覚悟があった……都市を守るために命を失う覚悟がな……生き残りである我々は、彼等の分まで戦い、彼等が愛したこの都市を守ることだ。お前がそう言うと彼等の覚悟を……誇りを汚すということになる。それにだ……」
目の前にいる長い青髪を束ねた男は、手に持つ花束を私が置いた花束の横に置いていく。
「お前がいなかったら、老生体は都市内部に侵入し、多大な被害を及ぼしただろうな……なら彼等はお前に感謝している筈だ」
「……そうですかね……」
その時、辺りにポツポツと水滴が落ち始め、地面を濡らし始める。
今夜は雨のようだ。



第五話『英雄、帰還』



「ふむ、ティア嬢はもう行ったのか?」
「ええ……しかし兄さん、今回は長かったですね。何かあったのですか?」
屋敷に戻り、雨が窓を叩く音を聴きながら、二人で向かい合い、メイドが淹れてくれた紅茶を口に運ぶ。
紅茶を美味しそうに飲む兄さんを見ながら私も紅茶を口に運ぶ。
しかし、本当に今回は長かった。
いつもの倍は都市を開けていた。
「なに……少し用事があってね……しかし、驚いたよ。帰ってくるなり、都市が汚染獣に襲われているし、その汚染獣の中に老生体が混じっていたなんてね」
何か苦笑いを浮かべながら語る兄さんに私は溜め息をついてしまう。
老生体……私はそれについて兄さんに聞きたいことがある。
「老生体……やはり貴方が倒したのですね」
私達では倒せなかった老生体を……
「ああ、弱っていたしな……そういえばアルトは老生体とは初めて戦ったのか?」
苦笑いをする兄さんは、空になったカップに、新しく紅茶を淹れながら聞いてきた。
「ええ、アクテリアには老生体は来たことありませんし……」
「そうだったな……俺も都市外の仕事で二度程戦ったな……一期もそうだが、特に二期は強すぎる……出会えばほぼ終わりだな」
そこまでとは……アクテリア最強の武芸者である双剣のルイスがここまで言うとは……
「では、万全の戦力状態のアクテリアでも老生二期が来れば壊滅すると?」
「さあな……老生二期でもピンからキリまでいるしな……」
想像していたとはいえ、やはりショックですね……
「まあ、そう出会うこともないだろう。普通の汚染獣ですら滅多に出会うこともないんだ。老生二期なんてそう出会わんよ」
ショックを受けている私の肩を元気付けるように叩くと、兄さんは席を立つ。
「団長が話があるみたいだしな、俺はそろそろ本部に顔を出しておくよ」
「わかりました」
出ていく兄さんの後ろ姿を見ていると、ふと、兄さんが扉の取っ手に手をかけると足を止める。
「アルト……」
「なんです?」
真剣な声の兄さんに少し、私は気圧されながら返事を返す。
「汚染獣についてどう思う?」
「は?」
いきなりの質問に私は間抜けな声を出してしまう。
汚染獣について?
いきなりなにを……
「理屈ではなく思ったことを言え」
兄さんの声が真剣味が増していくため、私は少し考えてしまう。
汚染獣……強く、世界に適合した生物、我々の天敵……
「恐ろしい存在ですね」 あの世界で生きられるのだから。
「そうか……じゃ、話は変わるが、アルトはこの世界の全てを救えると思うか?」
私の答えをどう思ったのか、一度頷くと兄さんは新たな奇妙な質問をしてきた。
「意図が分からないのですが……」
汚染獣から救えるかの話の繋がりが全く分からない。
しかし、兄さんの顔は相変わらず真剣な顔で私を見てきている。
何が言いたいのですかね……
「全てを救うというのは不可能です。移動都市の動力源になるセルニウムの鉱山の権利を奪い合う戦争もあります。そして所有するセルニウムの鉱山が無くなれば、都市は滅びます」
そう、その戦争で双方に多大な死傷者が出る。
その時点で犠牲を払っている。
「だから、救えないと思います。だから理想としては出来るだけ少ない犠牲に留める方法がいいと思っています」
当たり前だがそれが正しく唯一の正解に近い答えだと思う。
すると兄さんは、顔を緩めると、
「そうだな……じゃあ、俺は行ってくるよ」
「ええ」
そう言って、扉を開き出ていく兄さんの背を見ながら考えていた。
それは兄さんについてのことだ。
兄さんは、明るく、人徳もあり、人から好かれ、武芸者としての才は、他を圧倒する程の力を持つ。
その反面、時々何を考えているのか分からなくなる。
悲しそうな顔をして空を眺めたりしていて、声をかけても何でもないしか言わない。
それは弟である私にも分からない。
しかし、今日はそれ以上に異常に見える。
何か吹っ切れた様で、迷っているという矛盾の顔を浮かべて。
何かあったのだろうか……
「確か……第八師団と共に都市外に出ていたはずですね……」
時間には余裕がありますし……特に用もありませんしね。
思い立ったらなんとやら、私は、第八師団がいるであろう。放浪バスの停留所に向かうため、部屋を出ていく。
「アルト、ルイスの奴はどこにいった?」
部屋を出ていた所で、何やら荷物抱えたお館様と出会した。
「兄さんなら、本部に行きましたよ。それより荷物持ちましょうか?」
「気にするな。それより、これをルイスに渡しておいてくれないか?」
そう言ってお館様は私に一つの木箱を手渡した。
蓋がされていない箱には一つの錬金鋼があった。
青石錬金鋼より、淡く明るい青い錬金鋼に私は興味が引かれた。
「これはなんです?見たことない錬金鋼ですが……」
興味深そうに見ていた私にお館様は楽しそうに笑うと。
ただ一言。
「青海石錬金鋼(アクアマリンダイト)だ」


お館様と別れ、屋敷を出た私は停留所の入り口にたどり着いた時、私は異変を感じた。
見たところ、一つを除いて異変はなかった。
「守衛の者がいない?」
ロビーに来てその事に気が付いた。
普段は、都市外からの来た人や物資を確認するためや、都市から出る者の確認のため、最低でも五人はいる。
サボりかと思ったが、先日、汚染獣の襲来があったので普段ならより、警備に力をいれているはすだ。
胸騒ぎがした。
「レストレーション」
錬金鋼を復元しながら、活剄を行い、周囲を警戒しながら慎重に歩みを進める。
誰もいない……。
間違いなく異常だ。
額からつたう汗を拭いながら、私は放浪バスが停留している部屋の扉の前に辿り着いた。
そして扉を開いた時、その予感は最悪の形として現実となる。
目に映るのは、タイルを真っ赤に染める血の海と人の成れ果て、そして……
「汚染獣!!」
有り得ないものがいた。
馬鹿な……
まさか都市内への侵入を許したのか!!
「!!!」
動揺する私に、幼生の汚染獣は私を喰らおうと迫ってきた。
混乱する頭を鎮め、私は横に飛び、そのまま槍を汚染獣に突き刺した。
外力系衝剄、【爆韻】
内部から放たれた衝撃波は、汚染獣を内部から破壊した。
死に絶えた汚染獣を確認すると、私は周囲の警戒を強めた。
一匹いるということは、間違いなく他にもいると言うことだ。
何より、ここにいる武芸者達が幼生の汚染獣一匹に殺されるわけないからだ。
しかし、予想を裏切り、他の汚染獣はいなく、そして生存者もいなかった。
連絡か?いやそれよりもやることがある。
そう思い、私は一つの遺体の側で足を止める。
遺体には情報がある。
私は注意深く、遺体を眺めているとある事実に気が付いた。
「刀傷……殺したのは汚染獣ではなく、人?」
侵入者か?
いや、有り得ない。
移動都市に入るには、放浪バスしかない。
だがこの一週間、他の都市から来た放浪バスには来ていない。
ならまさか内部から?
そして、遺体から離れようとしたとき、あることに気が付いた。
「刀傷が一つしかない?しかも背後から……」
これらのことから、襲撃者は顔見知りで油断していたという線と存在すら気づかぬ間に一撃を食らわす強さを持つ者という線……
だが、後者ではここにいたはずの念威術者達にバレずにやるのは不可能だ。
「とりあえず、本部へ……」
遺体に一度、頭を下げるとそのままロビーにある内線で連絡するため、部屋を出ようとすると、そこに一枚の花びらが傍に待った。
『緊急時態です。本部に汚染獣が侵入。アルト第一師団長は、速やかに本部に帰還し、全体の指揮をとってください。』
「私が?!団長やルイス副団長は?!」
『両者共に行方が不明です。念威で探していますが、発見できていません』
念威から発せられる淡々とした口調から伝えられた報告に私は驚きと共にある考えが頭に走った。
“団長が話があるみたいだしな、俺はそろそろ本部に顔を出しておくよ"
頭を駆け巡る疑惑を払うように頭を振るうと私は駆け出した。
今は、時間がない……
私は考えることを破棄し、今は一秒でも早く、本部に向かうため脚を速めた。 私はもしかしたら気付いていたかもしれない……
もう既に平和と言う歯車は狂い始めたことに……




[5976] 第六話
Name: 康頼◆d6ebac5a ID:1bc60784
Date: 2009/02/13 02:40
「くっ…………!!」
力任せに叩いたテーブルが音をたて、破損する。
飛び散った破片は、床の液体に降り注ぎ、音をたて、床に溜まった赤い海に沈む。
赤く染まった液体は、部屋の至るところに飛び散り、部屋を赤一色と言っていいほどに染め上げる。
部屋には鉄の匂いが充満し、そのせいで口から嘔吐しそうになる。
転がる肉片は、苦楽を共にし、都市を共に守った同胞の成れ果てだ。
「許せるものか……」
口から溢れるのはただ憎悪の声。
しかし怒り震える身体とは逆に、頭は凍るように冷静にそして冷徹になっていく。
考えることは只一つ、この後自らの行動についてだ。
本部は全滅……
しかも殆どの武芸者は、汚染獣ではなく、侵入者に殺されたと身体に刻まれた刀傷が証明する。
犯人は、停留所の者を手にかけた人物でほぼ間違いないだろう。
犯人を探し、討つか?
「いや……駄目だ。そんなことをしたって」
まるで意味がない。いや意味がないと言うわけではないが、それよりもやることがある。
なら汚染獣の撃退か?
……これも否だ。
侵入者の放置の時点でこの行動に意味はなさない。
それに、本部が壊滅し、殆どの武芸者が殺された時点で、汚染獣を撃退することを不可能だ。
なら……
「シェルターに向かいますか……」
其処で避難しているだろう民間人達を都市外に逃がさなければいけない。
アクテリアという移動都市は、もうすぐ死ぬのだから。


第六話『悪魔』



「邪魔ですっ!!」
槍を振るい、周りの汚染獣を切り裂く。
「アルト隊長っ!!」
「怯むなっ!!我らはこのままシェルターに向かう」
私は都市中心部で合流した怯む騎士団員に檄をいれる。
騎士団員が怯むのは無理もない。
こちらは私を合わせ、五人。
対する幼性の汚染獣はその三倍、私達の周囲を囲む。
その上、既に本部が壊滅していることを知っている騎士団員達の戦意喪失は無理もない。
「逃げ遅れた者を探しつつ、シェルター付近の汚染獣を一掃する。手遅れになる前に行くぞ!!」
私が気合いを入れて汚染獣の群れに突っ込んでいくと後ろから団員も一足遅れてついてくる。
それを阻むように進路上に現れる汚染獣に私は槍を構える。
「退きなさい!!」
外力系衝剄の変化【針剄】
収束された衝撃は汚染獣を貫き、その切り裂かれた汚染獣を踏み台に高く宙を舞う。
そして建物の屋上に飛び乗ると、シェルターへとひたすら向かう。
迫る汚染獣達を切り裂いて。
すると何体目かの汚染獣を殺した瞬間、殺気と共に乾いた音がする。
槍を振るい、高速で飛ばされた飛来物を弾くと、再び乾いた音がし、後ろにいた団員の一人の頭が吹き飛ばされた。
「左方警戒!!狙撃だっ!!」
反射的に叫ぶと私は物陰に滑るように隠れた。
物陰に入った時、乾いた音とともに団員の悲鳴を聞きながら。
生き残った二人の団員は、私が隠れていた物陰に逃げ込んできたが、その瞬間、再び一人の頭が弾けた。
跳弾かっ!!
跳弾を使われる時点で隠れることに意味がないと悟った私は、単騎で狙撃者がいるところに飛ぶ。
そこで初めて狙撃者を目視した。
顔には白い仮面を被り、全身を黒いコートで包んだ狙撃者にはライフルが握られていた。
錬金鋼のライフル……やはり武芸者か!
宙を舞う私に、狙撃者はライフルを構え撃ち出す。
それを槍を振るい弾くと、串刺しするように落下しながら狙撃者に突きを放つ。
身体を捻るようにかわした狙撃者を私は着地と同時に、地面に突き刺さった状態の槍を軸に遠心力により威力の上がった蹴りを放つ。
渾身の蹴りは、狙撃者の側頭部を捉え、顔につけた仮面を砕きながら、鈍い音とともに、真横に吹き飛ばした。
手応えあり……ですが少し、威力が殺されましたか……
「レストレーション02」
槍を引き抜くと、そのまま巨剣に変え、慎重に狙撃者に近づく。
この近距離での不意撃ちの狙撃は回避は難しい。
「くっくっくっ……流石はアクテリアの英雄の一人、アルト・スロットだな…」
「あなたは、やはり身内のものでしたか……本部を襲撃した者の共犯と見ましたが……」
愉しそうに笑う声は、癪にさわる。
この場で殺したいが、先に情報を得るだけ得なければならない。
そんな私の考えを知ってか知らずが狙撃者は、壊れたように笑いながら、ゆっくりとその場から立ち上がる。
その行動を見て、私は巨剣を持つ右手に力が入るが、狙撃者は手をかざし、私と対面するように顔を上げる。
「そう、がっつくなよ……俺じゃテメェにや勝てねぇよ」
「なら吐きなさい。態度によっては楽に始末して差し上げますから」
「くっくっく……怖いね……でも俺を殺るより誰が本部を襲撃したか知りてぇんだろ?」
仮面に隠れて分からないが、多分軽薄そうな笑みを浮かべているだろう狙撃者を見て、怒りにより震える右手を左手で抑える。
「くっくっく……いい顔だぜ……ところで向こうに一人残してきたのはいいのか?」
「何……」
「ギャアァァァァ……」
後方より悲鳴が上がり、背後を振り向くと、向こうのほうで汚染獣に喰われる団員の姿だった。
「貴様も後を追ってやりな!!」
団員に気をとられた瞬間、狙撃者は背後から弾丸を放つ。
奇跡的といっていいほどに気づいた私は、咄嗟に横に飛ぶと、目の前な狙撃者の右手をライフルごと切り飛ばした。
そのまま唖然とする狙撃者の壊れかけた仮面に膝蹴りを抉るように放った。
ついに仮面は破壊され、隠された隠された顔が見えた。
「貴方は……」
「くっく……反則くせ……普通、ゼロ距離で銃弾避けるかよ……」
「何故……貴方が……」
ぎらつく鮮血の様な紅い目がこちらを睨み付けてくる。
その目に、風で靡く金色の髪……見知った顔は……
「ロマーゼル」
ロマーゼル第四師団隊長、その人だった。
「はっ!何を驚いてやがる……ちっ、ムカつくんだよ……その目」
「何故……ですか……」
「何故だと?はん!理由なんぞないな。俺は只この都市が気に入らないだけだ」気に入らない?……只、それだけの理由で……
「貴方が今撃った団員は、……第四師団所属の者も……いたのですよ」
「そうか、それは災難だな。冥福を祈っておいてやろう」
その瞬間、ロマーゼルの胸元から血が吹き出し、そのまま建物の上から堕ちていく。
私は血のついた巨剣を一度振るい、血を飛ばすと錬金鋼を基礎状態へ戻した。
「冥福を祈ってあげますよ……」
吐き捨てるように呟くと私は一人、シェルターへと向かった。

汚染獣と力尽きた騎士団員達の姿を目に焼き付けながら、駆け抜けた私は、ついに都市の中心地にある湖まで辿り着いた。
湖は、黒く濁り、水面上には汚染獣が飛び回り、その湖の近くにあり、私が生まれ育った馴染みのある領主邸は、見る影もなく破壊尽くされていた。
「アルトか……」
領主邸を見ていた私の背後から私を呼ぶ声が聞こえた。
手に持つ錬金鋼を握り締め、そのまま弾かれたように私は、その者から離れる。
そして、私が見上げたその先には、
「ルイス兄さん……」
アクテリア最強の武芸者がいた。
手に持たれた双剣の錬金鋼には、うっすらと紅い液体が付着していた。
その瞬間、私の考えていた最悪の結末は、現実のものと化した。
「レストレーション」
錬金鋼を槍の形状にすると私は瞬時に槍に剄を送る。
「……その反応を見れば、私が何をしたのかは、知っているな?」
「やはり……貴方でしたか……では団長は……」
「ああ、既に私が殺したよ」
外力系衝剄の変化【針剄】
怒りによって放たれた【針剄】はルイスの胸元に襲い掛かる。
威力は、怒りのためか極大。当たれば必殺の一撃に対しルイスは只、【針剄】に向かい左手を振るう。
只それだけだった。
それだけで、【針剄】を弾き飛ばした。
驚きはしない……。
彼ならこれぐらい、簡単にやってのけるのは知っていた。
だがその"状態"で弾くのはあり得なかった。
ならと、
腰を沈めた私は、【活剄】で身体を強化しつつ、そのままルイスに接近戦を挑む。
見極める。
そう意気込んだ一撃は風を切り裂き、ルイスの喉を喰らおうと迫る。
しかし、
「なっ!!」
一撃は易々とルイスの手により塞がれる。
馬鹿な……
悪夢のような光景を消し去るかの様に放った刺突もルイスの手により簡単に弾かれていく。
その瞬間、背筋が冷たくなり、慌てて後ろに飛ぶと、私の首があったところにルイスの斬撃がはしる。
そのまま、着地した私をルイスはただ見ていた。
怒りや優しさなどの感情はなく、ただ無機質な目で……
「あり得ません……貴方の強さは規格外なのは知っていますし、私程度が勝てる筈がありません……だが……」
初めて恐怖した。
悪魔だと……
「何故、剄を使わずに私の攻撃を受けれるのです!!」
恐怖を消し去るように私は叫ぶ。
この男の異常を……
「アルト……何故、汚染獣は巨大な力があると思う?」
ルイスの問いかけ……それは朝の時と同じ口調で、何より朝より冷たい声で呟く。
「……何の話ですか?」
動揺する私の返答には、気にすることなくルイスの話は続く。
「私が考えるに、彼等はこの世界の適合者だからだと考える……」
「それに何の関係が……」困惑する私を尻目にルイスは世界に訴えかけるように話始める。
「汚染獣……彼等は汚染物質に適合し、外の大地を我が物顔で生きている……それに比べ、我々はレギオスという動く箱庭の中に押し込まれ生活を強いられている」
語ることは、わかる。
我々はレギオスの中でしか生きられない。
「それでは、余りにも惨め……だから私は考えた……この箱庭から抜け出す手段を……そして、得たよ……あの大地で影響されない方法を……」
「馬鹿な……我々は汚染物質の毒素には勝てない。人はあれには適合しなかった」
「そう……人は無理だった…………なら人を止めてしまえばいい……」
その瞬間、ルイスの姿が視界から消えた。
「人がなれ果てた姿……汚染物質に適合した人間……そうだな……【吸血鬼】とでも名乗っておくよ」
次の瞬間、鳩尾に強い衝撃が走り、私の身体は地面に倒れ伏せる。
「アルト……生きて、私を憎め……そして強くなり……いつか私がお前を【吸血鬼】とし、共にこの世界を汚染獣から奪い去り、この世界の人間に救済を施してやろうではないか……」
ルイスの呟く声に私は返事をすることなく、意識の闇に呑まれていった。











後書き

はい。完全オリジナル……ごめんなさいm(__)m
汚染物質に完全適合した人間……そんなのいたら良いねと書いたお話です。

原作ファンには申し訳ないですが……

とまあ、これで一章のアクテリア編は終わりです。

何か感想があれば、感想板へ。


こんなキテレツな小説になったのは、一風変わった鋼殻のレギオスがあってもいいかもと思い書きました。

とりあえず面白いと思った方がいれば嬉しいなと思い書き進めていきます。




[5976] 第七話(再構成)
Name: 康頼◆2b9649b3 ID:dca449bd
Date: 2009/02/16 12:45
冷たい風が吹き荒れる大地の上をランドローラーが走り、辺りにエンジン音が響く。
「なあ、クレア……あとどれくらいで着くんだ?」
『えっと……あと十分……いや二十分かな?』
後ろに跨がる飽き性は、先程から、後方で指示を送るクレアに同じことを言っている。
しかし、面倒なのはこちらも同じ……何故お嬢は、こんなに人使いが荒いのかと思う。
「タトリス……お前、少し静かにしろ。こっちは運転しているんだ」
まったく……コイツのお守りをさせられて災難だよ。
『クルシスその通りー!!何事も迅速に静かにやりなよ。タトリス……あんたさっきから五月蝿いよ』
隣を飛ぶ念威から響くお嬢の声を聞いてこちらが五月蝿いよと叫びたい。
『あっ、目的地もうすぐ見えますよ』
するとクレアの声が響き、俺とタトリスは正面を向き直る。
視界に見えたのは廃墟と化した移動都市の姿だった。
『湖畔都市アクテリア……五日程前に壊滅したらしいだけどね……ふむ、高い情報料を払った価値はあるのかな?』
「おいお嬢、いくら払ったんだよ?」
タトリスが突っ込むとお嬢は何でもないように答える。
『うん?あんたらの給料の倍よ』
この仕事を辞めるか……
と思うのは間違いではないだろう。



第七話『ハンター』



とりあえず仕事に集中することにした俺達二人は、慎重に都市内を散策する。
錬金鋼を復元させて。
「つか、念威術者が居ねぇと探索範囲広すぎて出来ねぇだろ……」
「言うな……とりあえずやれることやっとかないとお嬢にぶっ殺されるぞ」
タトリスの愚痴は酷くなる一方だ。
さっきの情報料の件が納得できてないようだ。
「いつか、後ろから押し倒してやる」
「出来ねぇこと言うなよ……あの鬼女を手玉にとるなんって不可能だぞ」
『あの……』
クレアに話しかけられ俺はその場に立ち止まる。
「なんだ?」
『その……リリスちゃんがアンタラ、減給ね。だそうですよ』
「……聞こえていたのか?」
『ええ、ばっちり……』
「……減給は?」
『30%カットだそうです』
膝を付き添うになる。
ヤバい……マジで辞めたくなった。
「クルシスーー!!さっさと来い!冷血女にどやされるぞ!!」
『タトリスさん、40%カットですね』
「あいつ……終わったな」
しかし、自分の心配より、先を行く馬鹿の心配をしてしまう。
先日、アイツ雑草ばっか食べてたし……金無くて。
『で、でも、ほら!!もしかしたらここで頑張れば特別ボーナスとかあるかも……』
「お嬢がそんなことする人間か?」
『…………』
「黙るなら言うなよ!」
ったく、同情するなら金をくれ。
まあ、だがクレアの言う通り、特別ボーナスとかは絶対ないと思うが、これ以上のカットを避けねばならない。
「はあ……やるしかないか……」
溜め息をつきながら鬱憤を晴らすかのように目の前の扉を蹴り開ける。
誰もいないことを確認しながら部屋に侵入する。
まあ、人がいるわけないのでこの場合は、汚染獣と同業者に気を付けねばならない。
そして手早く部屋のの衣装棚に手を運ぶと、開ける。
「ん……これは真珠か?売れば金になるな」
こうして金目の物やそういうものを盗ってくる盗賊ことが俺達の仕事である。
まあ、死者の物に手をつけてばちの当たりそうな仕事だが。
お嬢いわく
「死者に金は要らずよ。寧ろそっちの方が死者のため、人のためってもんよ。破壊された都市なんて誰も近寄らないんだし」
と人道から外れたような発言をしている。
まあ、確かに物を手に入れて助かるのは事実だが。
そのため片っ端から民家や店に入ると根こそぎ盗ってくる。
姿が見えないがタトリスも同じことをしているだろう。
「宝石や貴金属は結構手に入れたな……あと高そうな布地」
と結構収穫は良し。
まあ、エアーフィルターが破壊された時点で食物類は全滅だ。
同様、保存の甘い布地もボロボロだが。
「おい、クルシス!!向こうに金持ちが住んでいた様な屋敷があるぜ!」
部屋に入ってきたのは、手には戦利品で溢れたタトリスだった。
タトリスに言われ、外に出て、指差した方を見てみると、そこにはかなりでかい屋敷が見えた。
他の建物に比べて、豪華に造られた屋敷はおそらくこと都市の権力者の屋敷だろう。
「ああ、だがもう、俺もお前も荷物が一杯だろう?一度、ランドローラーの荷台に置きに行くぞ」
「ちっ、しゃあね……」
未練がましく屋敷を見たタトリスと共にランドローラーを止めた停留所へ向かった。
「馬鹿共、仕事をサボってないだろうな」
停留所に着くなりこの一言。
ランドローラーの上に乗り、俺達を見下す我らのお嬢……リリス嬢だ。
小さいなりに、大きな態度がクレアいわく、可愛いらしい。
「お嬢、俺達の成果見てみるか?ほら」
「ふん、愚鈍なタトリスめ……クルシスに仕事押し付けたわけじゃないよな?」
怪しむお嬢は、こちらにチラチラと視線を送る。
「まあ、タトリスはサボってはなかったな」
俺の報告を聞いて何故か舌打ちをするお嬢。
どうやらタトリスをいたぶりたかったようだ。
ドSめ。
「まあいい、とりあえずアクテリアの地図を買った時に二つ、ポイントを見つけた。其処を重点的に探すぞ」
そう言って地図を見せつけるお嬢にクレアは楽しそうに拍手を送る。
煽るな、調子に乗るだろ。
「って、ならお嬢先言ってくれよ!時間の無駄じゃねぇか」
「五月蝿い黙れ。糞ゴリラ。私には考えがあるんだ」
微妙に頬を染めるお嬢を見て、忘れていたことを確信した。
しかし敢えて言わない。
言えば隣のタトリスのように「給料、50%カット!!」と言う鬼のような判決が贈られるからだ。
「よし!!クルシスは私と来い!!クレアはゴリラを任せる。何かされたら直ぐに言え。念威爆雷を喰らわしてやる」
凶悪な笑みを浮かべるお嬢に流石のクレアもひき気味だ。
そんな空気の中、タトリスがボソリと呟く。
「ロリータ婆……」
次の瞬間、辺りに爆発音が響いた。

カツンカツンとタイルの廊下を歩いていく。
「ここが武芸者達の本部だったみたいね」
目の前をプリプリ怒りながら歩くお嬢が呟いた。
まだ根に持っているようだ。
「で、ここで何を手に入れるんだ?」
詳しいことは聞いていない。
宝石なら宝石店に行って漁ればすむことだ。
「ここはアクテリアの武芸者が所属していた騎士団の本部……武芸者あるところに?」
「錬金鋼(ダイト)ありか……」
成る程ね……確かに錬金鋼は何処の場所にもあるが、必ずどの都市も必要な物だ。
「大物はクレア達の方と踏んでいるからね……それに錬金鋼の予備は切れてたはずよ」
念威を飛ばしながら語るお嬢はずんずん先へ行く。
そして、ある部屋で立ち止まる。
「ここになにかあるのか?」
「……」
いきなり、立ち止まり扉を睨み付ける。
「お嬢?」
「……ここは、会議室とのことよ……」
「はあ……」
「気を引きしめなさい。この部屋ヤバイわよ」
お嬢が強く錬金鋼を見て、こちらも錬金鋼を抜いて、両手に銃を構える
「ヤバいですか?」
「ええ、女の勘よ」
……どちらかというと野生の勘の様な……
「行くわよ!!」
ガンと蹴り飛ばした
開いた部屋に銃口を向ける。
しかし、部屋からはなにも出て来なくて、気配もなかった。
「お嬢……何もないぞ」
「ちっ……まだわからないのこの異常……」
顔をしかめ、フルフェイスをかぶってよかった……と呟いた。
そして、お嬢に言われ良くそこを見てみるとそこには「うっ……」
猟奇的な光景が広がっていた。
閉められ、密封されていたためか、異常なまで血溜まりと部屋の床には何かが転がっていた。
それは少し腐乱した死体だった。
「クレアを連れてこなくてよかったわね」
俺でも躊躇するのにお嬢は、部屋に入ると死体を調べ始めた。
「お嬢!」
「黙りなさい」
止める俺を一言で切ると、お嬢は丹念に死体を調べる。
「やはりね……」
「お嬢?」
死体を調べ終え、死者に向けて一度拝むと、お嬢は振り向く。
「ねぇ、オカシイと思わない?」
「何が…」
オカシイ?
死体が?
……特に変わった様子はないようだが…。
「はぁ……誰に殺されたと思う」
「え、そりゃ汚染獣に……」
「馬鹿、ならなんで死体があるの」
やれやれと言った様子で首を振る。
そして、いい?と指を立てる
「普通、汚染獣に殺された場合、喰われるわ。汚染獣にしたら私達は餌なんだし。それにこの建物、他の建物に比べ損傷が少ないわ」
「じゃあ、まさか……」
「そう、この人達を殺したのはつまり人ということよ……証拠に刀傷があったわ」
じゃあ……この地獄絵図のような光景を作ったのは同じ人間……
「酷いわね……」
「お嬢……」
お嬢は死体を見ていた。
どんな気持ちで見ていたかは知らないが、微かに肩が震えていた。
怒りか悲しみか……
お嬢はどういう気持ちになったか知らないが俺の心には小さな怒りが湧いた気がした。

「貴方達の魂、貰うわよ」
遺体から錬金鋼を抜き取ると、お嬢は遺体に向けて一礼をした。
そして……
「天に還りなさい……」
お嬢が放った火種は、段々と燃え広がっていく。
その光景を見ながらお嬢に俺は肩を叩く。
「行くぞ。クレア達と合流するぞ」
「ええ」
燃え広がる炎を見て、死者の冥福を祈ると俺達は、外へと走り出した。
建物から出て、一息つこうとしたとき、クレアから通信が入る。
『リリスちゃん!!』
「!!クレアっ驚いたじゃない」
「どうしたんだ?」
興奮気味のクレアに俺達が首を傾げていると
『人がいたの!!まだ生きてる!!でもかなり衰弱しているの』
生存者の発見……
「わかったわ。とりあえずタトリスに担がせなさい。生存者に少し聞きたいことがあるから」
『りっ了解』
クレアとの通信を終え、お嬢が考え込む。
「お嬢」
「クルシス……この都市を潰したのは汚染獣ではなく人だとしたら」
「まさか、生存者が犯人……」
「さあ、だけど何か知ってるはずよ……」
考え込むお嬢はそうして天を見上げた。
その時、アクテリアの旗が折れるのを確認した。



[5976] 第八話
Name: 康頼◆106ca336 ID:b3d5fbc5
Date: 2009/02/27 22:02
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて

私は……

恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる恨んでやる怨んでやる

みんなを……

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
守れなかったんだ……

死ね




第八話



「うるせっ!!」
「がはっ!」
衝撃が襲う。
強い衝撃とともに、肺にたまった空気が口から吐き出されていく。
腹が……
「う〜んう〜ん、うなされてんじゃないわよ!!寝れないじゃない!!」
ドンという音と同時に再び腹に衝撃が走る。
「ってリリスちゃん!!なにやってるの!怪我人なんだよ!!」
「ん、クレア。だってさー私が寝ているのにうなされてウルサイのよ?」
「その前にリリスちゃん、寝たらダメだし。彼の看病しなきゃダメだし」
痛みに耐えながら目を開くと、目の前で二人の女性が言い争っていた。
というよりじゃれあっているというほうが正しいかもしれない。
誰でしょう?
最初に抱いた疑問だ。
片方の女性はウェーブした長い蒼い髪をした綺麗な女性で、もう片方の女性は、絹のようなストレートの長い金の髪をした可愛らしい少女だった。
「ならクレアが見てあげたらいいじゃない。好きでしょ。こう言う綺麗な顔の男」
「そ、そんなことないよ!!そういうリリスちゃんだって好きなんじゃない?!」
「ふん、馬鹿言わないで。私は優男よりワイルド系が好きなの」
「え、じゃあ、タトリスさんが好みなの?」
「ふ……冗談よしてよ、あんな糞ゴリラ。死んでもごめんだわ。第一アレ、男じゃなくてただの雄ゴリラだし」
……話は全くわかりませんが、とりあえず名前らしきものが聞こえました。
クレアにリリス……
容姿と同様に覚えがありませんね……
そのとき、ふと気付いてしまう。
あれ?
寝起きのせいか何故か知らないが女性のこと以外のことも思い出せない……
というより記憶が曖昧になっているような感じだ。
それは目の前の彼女達はもちろん、他のことも……
「おい、お嬢にクレア。何を騒いでいるんだ……一応言っておくが、ここには怪我人がいるんだぞ」
扉を開けて入ってきた男が開口一番、呆れたように言う。
……やはりこの男も知らない……
「すみません……」
「わかってるわよ」
「お嬢……まあいい。それよりこの青年気付いたようだぞ」
男と目が合ったため、仕方なく身体を起こす。
「よかった……気が付いたんですね」
「やっと起きたわね……看病のかいがあったわ……」
アンタは看病していないと二人に突っ込まれる少女を見て、笑みが溢れる。
「ふふふ……ありがとうございますね……お嬢さん」
そう言って、優しく目の前の少女の頭を撫でる。
座っている私が、頭を撫でれるくらい少女は小さく幼かった。
少し和みながら残りの二人を見ると
「……」
固まっていました。
何故?と首を傾げてしまうと同時に私の横から殺気を感じた。
嫌な予感がする……
「……するな…」
殺気の出どころを確認するとそこには、やはり少女がいた。
声が震える。
「な、何でしょうか?」
「子……あつ……するな…… 」
「はい?」
少女が何か言っているようだが、声が小さすぎてわからない。
聞き取れないため、仕方がないので少女のほうに顔を近付けると






ホホが何かにえぐられた。
「子供扱いするな!!」
「がはっ!!」
再び襲う衝撃は、私の意識を軽く奪い去った。
あれ?何かこの一撃懐かしいような……
薄れる意識の中で懐かしいと感じてしまう自分があった。

† † †

「リリアンヌ・リバークロイツよ……リリスでいいわ」
「クレセント・リバーです。クレアでいいですよ」
「クルシス・ディセンバーだ」
再び、目を開けると謝罪とともに簡易な自己紹介がされた。
「えっと……アルト・スロットです」
と此方も自己紹介をする。
不幸中の幸いというやつなのか、先程の衝撃で名前と武芸者であったことは思い出した。
その他にも、この世界の仕組みや汚染獣、レギオスなどや食べ物などの名前も覚えていた。
どうやら……知識は失っていないようだが、その反対に自分がアクテリアという都市出身(リリスって子に言われた)や家族構成や知人などの顔や名前などの記憶は思い出せない。
これをリリスちゃんに告げてみると
「なら、もう一度殴れば戻るんじゃない?あとちゃんづけするな」
と爽やかな笑顔で告げられた。
クレアさんとクルシスさんのお陰でどうにか未遂に終わったが。
因みにリリスちゃ……さんは歳は19らしく、隣のクレアさんよりも三つ年上らしい……
隣のクレアさんに小声で子供扱いをしたらダメですよと注意された。
「はあ……まあ、アクテリアについては、アルトが記憶戻ってからでいいわ……でアルト、唐突に本題に入るけどなんだけど貴方、私達と来なさい」
「……本当に唐突ですね」
まだ会って一時間しかたっていないんですが……
「そう?でも貴方これからどうするの?記憶喪失の状態で何ができるの?」
爽やかな笑顔のリリスさん。
しかし、その笑顔の裏には悪意が感じる。
「確かにそうですが、他にも選択肢があるのでは……」
個人的には断わりたいのですが……
そんな私の心情を知っているかのようにリリスさんはニヒルに笑う。
「そうね、でもそれが一番現実味がある選択だと思うけど。貴方の生まれ故郷のアクテリアは壊滅、そして貴方は記憶喪失」
そう言われれば、その選択が一番いい気がする。
しかし……
迷う私にリリスさんはとどめの一撃を放つ。
「それに貴方を助けたのは私達。貴方は助けられた恩すら返せない犬畜生なのですか?」
……そこまで言われたらやるしかない。
犬畜生の意味は理解できないが、要はけなされていると思いますし、それに私もそういう恩義は大切にするほうだ。
「わかりました」
私の返答にリリスさんは、満足そう頷く。
「うんうんそれでいいのよ。私とクレアは念威術者だし、クルシスは狙撃専門、タトリス一人では前衛に不安があったしね……それに労働力ゲット」
微笑むリリスさんを見て、不覚にも綺麗だと思ってしまう。
最後の言葉で台無しになりましたが。
そして話は終わりと言わんばかりにクルシスさんは立ち上がる。
「じゃ、俺は行くぞ。お嬢とクレアはどうする?」
「私は特に……」
「私は一度船に戻るわ」
「船……ですか?」
「ええ」
リリスさんのが頷くのを見て私は首を傾げてしまう。
「船って……あの海や湖などの水の上を漕いで進む人が乗る乗り物のあの船でしょうか?」
ということは、この都市にはそれだけ大きな湖か何かがあるのでしょうか?
「違うわよ。放浪バスよ……私達専用のね」
「専用ですか……」
個人専用の放浪バス……
キャラバンの人達なら持っているのは知っているが……
「そうよ。私達は仕事上各都市を行ったり来たりしなきゃならないからね……まあ、仕事については後で詳しく話すわ」
じゃあねと言ってリリスさんとクルシスさんの二人は、部屋を退出していく。
二人がいなくなり緊張が切れたのか、ボスっとベッドに倒れこむ。
都市間を行ったり来たりするですか……
ですが……私的には故郷を思い出したいですね……
それともこの頭に残る断片的な映像がアクテリアでの思い出なのでしょうか?
「なんだが気持ちが悪いですね……」
思い出せないと言うことは……
「ご、ごめんなさい!!……気持ちが悪いですか……そうですか……」
「はいっ!?」
反射的に体を起こしてみるとそこには、泣きそうな顔でふふふふと笑うクレアさんがいた。
なんか…影を背負っている……
「す、すみません!さっき言ったことはクレアさんにじゃなくてですね……」
「ええ、いいんですよ……そうですね。私はリリスちゃんみたいに小さくて可愛いくもありませんし……」
自ら、けなし凹んでいくクレアさんを見て思う。しまった……と
と、とりあえずはクレアさんを元に戻さなければとの思いで口から言葉が溢れる。
「いえいえ!クレアさんも美しく可憐だと思いますけど!!」
「あ、ありがとうございます……」
凹んだ後は、顔を紅く染め照れるクレアさんを見て、ほっとした。
それにこちらも何か、すごい恥ずかしいことを言ったような気がしましたが……
「でアルトくん、今お暇ですか?」
此方に振り向き笑顔で聞いてくる。
ふむ……今やることは寝るだけしかありませんから

「そうですね……暇ですね」
「本当?なら私と都市内を歩きません?」
散歩ですか……病み上がりですが、身体の調子がいいですしね……それに都市内を歩けば、何か思い出すかもしれませんしね……
「良いですよ。いつまでも部屋の中で寝ているよりもいい気分転換になりそうですしね」
私の返答に笑みを浮かべ、ポケットから一枚の紙を取り出す。
「これは……地図ですか……この都市の?」
開かれた紙には、建物や店、道などが詳しく書かれている。
その地図の右上には『曲笛都市・ヒブヘルナ』と殴り書きされていた。
「この都市なら、基本的な物が全て揃いますし、買い物しましょう。で、もし時間が余ったら舞台に行きましょう」
クレアさんが地図のあちこちを指差しながら散歩コースを説明していく。
しかし、記入された建築物は正確に詳しく詳細が書かれていますね……
「この地図……凄いですね」
驚き呟く声にクレアさんが首を傾げながら答える。
「そうですか?これ皆、リリスちゃんの手作りなんですよ」
自分のことのように嬉しそうにクレアさんを見て何故か
この笑顔……何処かで
浮き上がる疑問とともに、何故か嬉しいと感じてしまう。
だからか
「もしかしたら、いい判断だったかもしれませんね……」
呟く声は、何故か暖かく感じた。






後書き


少し書き方変えました。
行の取り方とか……
そして、物語は原作とはまったく違う方向へ走っていく。
こんな変わった鋼殻のレギオス小説をよろしくお願いします。


康頼



[5976] 第九話
Name: 康頼◆b3ae40fd ID:bbab8271
Date: 2009/03/29 22:26
「ふう、やっとここまで終わったわね」
目の前の書類の山を見て一息つく。
「さあ、あとひとふんばりね」
横に置いてあるコーヒーを口に運びながら積まれた書類の最終チェックをしていく。
そんな黙々と作業をする私に訪問者が来た。
「お嬢」
顔を上げてみるとそこには何やら神妙な面持ちのクルシスと壁に持たれ、紅茶を飲んでいるジルドがいた。
「ふう……何よ?いたのなら言いなさい。女性の部屋の無断侵入は犯罪行為よ」
冗談混じりに返事を返す。
そんな冗談にジルドはあからさまに馬鹿するように鼻で笑うと
「ふ……女性ね……しかしリリスを女性と言うには少しばかり慎ましさと言うものが足りていな」
とむかつく事を言ってきた。
私が頭の中で給料カットいくらにしてやろうか考えているとジルド、やめとけとクルシスがジルドを黙らすと話を切り出した。
「それよりお嬢、あの青年の件だか……何を企んでいる?」
真剣な目を此方に向けた。
「あら?何のことかしら?」
「とぼけるな。不安要素を取り込んだことについてだ」
クルシスの声が段々強くなっていく。
やはり、かなり真剣に考えているようだ。
まあ、仕方がないか。
「……確かに貴方の言い分は解るわ。アクテリアの唯一の生存者でありながら、記憶喪失の武芸者。確かに考えれば考えるほどきな臭い不審者ね」
「なら……」
「それを引いても、あの子の強さは価値があるわ。クルシスも知っているでしょ?あの時の強さは……はっきり言って戦慄するほどだわ」
アルトのことを話していると何故か体が震えてくる。
それは純粋に感じる恐怖か、またはあれほどの者を手に入れた歓喜か。
「お嬢?」
「何でもないわ……それよりジルド」
体の震えを押さえながら、にやつくジルドに話しかける。
「タトリスの容態は?」
「……肋骨を何本かと右手足の骨折……まあ、意識があるようだから大丈夫だろう。しかしミナの診断によると少しの療養が必要のようだな」
「そう、けど大事にならなくてよかったわ」
内心ほっとしながらジルドの報告を聞いていると
「ああ、そうだな。……しかしリリス。あのゴリラを彼処まで痛めつけたのが、瀕死だったそのアルトという青年なのだろう」
楽しげに笑うジルドが視界に入る。
ああ……コイツの悪い癖だ。
「そうね。貴方は参加しなかったアクテリアの探索時に起きたことよ。私達の方の探索部を調べ終えた時にクレアの報告を受けて、その場に辿りついたら、瀕死のアルトを発見」
「ほう……で?」
「介抱しようとしてタトリスとクレアが近付いた時、混乱状態のアルトが目をさまして、そのまま大暴れ。その際、タトリスはアルトの蹴りで吹き飛ばされ、アルトは隙をついた私とクレアの念威爆雷で倒したと言うわけよ……瀕死の状態でタトリスを倒し……いやもう少し私達の判断が遅れていたら私やクレア、クルシスもやられていたかもしれないわ」
自分で喋っていてなんだが、結構ピンチだったような気がする。
万全のアルトなら念威爆雷も聞かなかっただろうし。
「なら何故、あの青年を加える!!もしかしたら俺達を油断させるために記憶喪失のふりをしていたら」
珍しく熱くなっているクルシスの言葉を
「多分ないわ。それ」
なんの確証もなく、否定した。
いや……私にとっては確証になるかもしれない。
「クレアが言ってたわ」
彼女の言葉は何より信用できるから。
私の言葉にクルシスが噛みつく。
「何を?!」
「……泣いてたって……」
クレアは悲しそうな声で私はそう告げたのだ。
「アルト……泣いてたらしいわ……見つけた時も……暴れていたときもね……もちろん表面上はそんなことないけどね」
「……」
「クレアはね……そういう心の内面っていうの?そういうのに敏感なのよ。だから私も断言できるわ。アルトは悪いやつじゃないってね」
私のそんな根拠のない自信満々の主張にクルシスは呆れたような顔をし、ジルドはにやにや笑う。
「はあ……まあいい。とりあえず了承しておく……だが」
「分かってるわ……もしアルトが害のある存在なら……全力で排除するわ」
溜め息をつきながらも、最後に釘を刺しに来たクルシスの提案に頷く。
とりあえず了承したクルシスから次の人間に目を向ける。
私の視線に目を合わせ、ニヤニヤ笑いながら。
「私は構わないよ……彼が強ければね」
「なら了承ってことね……貴方より強いわよアルトは」
「へえ……それは楽しみだ」
にやにや笑いながら退出していくジルドからは、背からは微かな殺気を感じられた。
「あいつ……」
「ジルドの悪い癖よ……大丈夫よ」
ジルドの様子にクルシスは顔をしかめる。
まあ、クルシスの気持ちも分かるけどね……
アイツの性癖だし仕方ないわ。
「さて……どうなることやら」
クルシスの疑惑の目からジルドの興味の目からアルトはどう避けるのか。
内心、ちょっとこの状況を楽しみながら、窓から見上げた空は、海の様な青々としたキレイな空だった。




第九話『記憶』




「さあ、次に行きましょうか」
「はい……」
目の前を楽しげに歩くクレアさんに対し私の足は段々重くなっている。
重くなっていると文字通りであり、買い物を始めて二時間、先程買った食材で遂に私の両手は許容範囲ギリギリの量となった。
右手に食材と調理器具が入っている伸びきったビニール袋、左手に三件ほど回り、洋服でパンパンになった紙袋。
背には何故か、骨董屋で買い、割れないようにと紙で丁寧に巻かれた土器達が入った木箱を背負っている。
特に背の土器は割らないように慎重にと言われているため、余計に重く感じる。
「大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫です」
しかし、心配そうにこちらを見てくるクレアさんに精一杯の笑顔で答える自分を自画自賛したい。
そんな微妙にプルプル震える私にクレアさんは少し離れたベンチを指差す。
「彼処で休んでいてください。私は飲み物と食べ物を買ってきますから」
それだけ言うとクレアさんはここから少し離れた出店に駆けていった。
駆けていくクレアさんの後ろ姿から周囲の光景に視線を移す。
先程まで気付かなかったが、どうやらここは公園のようだ。
中央には真新しい噴水があり、水を天に向かって吹き出し、虹色の橋を空に作っている。
その脇のベンチでは、ピクニックにでも来ているのか、子供が両親らしき二人の大人とともに、弁当を広げ笑みを浮かべながら食べている。
その光景は、まさしく平和そのものだった。
「両親か……私の両親はどんな人だったのでしょうね……」
頭の中では様々な思いが駆け巡る。
両親、友、レギオスの皆……
名前も知らない大切な人達の事を……
そして、自分のことを……
「アルト・スロット……か……」
クレアさんと街を散策したが、やはり記憶は戻らなかった。
分かるのは、リリスさんに教えてもらったことだけ……
だから自分がアルト・スロットという実感がまだ持てない。
そのことが何故か悲しく思えた。
「おまたせしました。これをどうぞ」
思考の海でもがいていると、クレアさんが両手に何かを持って帰ってきていた。
「あ、すみません」
クレアさんから渡された物を受け取る。
開いてみると中には、紙コップに入った飲み物と
「?何ですかコレは?」
見慣れない食べ物が入っていた。
八個の丸く球体状生地の表面が薄く焦げており、塗られたソースがとても芳ばしく、美味しそうだ。
「え、ああこれは『タコヤキ』と言うらしいですよ。中にタコが入ってて美味しいらしいですよ。私も食べるのは初めてですが」
うん、美味しいと呟き、笑みを浮かべながら食べるクレアさんを見習って一つ口に放り込む。
「……美味しい……」
食べた瞬間、美味しさのあまり呟いてしまう。
そして『タコヤキ』は知らぬ内に私のお腹へと全て収まっていた。
「……ぷっ、ふふふふ」
完食した私の隣から控え目の笑い声が聞こえる。 何か言いたくなったが、お腹が減っていたせいもあり、少し食い意地が張ったかと顔を伏せて隠すしかできなかった。
「……すみません、笑ってしまって」
「いえ……」
余程、ツボに入ったのか未だに笑っているクレアさんの顔を私は直視することができず、ただひたすら顔を伏せていると
「よかった……そんな顔も出来るのですね」
何気無く隣からぽつりと聞こえた。
「え?」
振り返ってみると、そこにいたのはやはりクレアさんだった。
安堵したような嬉しそうな笑みを浮かべたクレアは、食べ終えたタコヤキのケースを地面に置くと再び口を開く。
「こう、貴方と色々回ってみましたけど、やはり何か考えていて、迷っていて、上の空だったしね」
クレアさんにそう言われ、少しだけ悪い気になった。
彼女がせっかくこうして誘ってくれていたのに。
「記憶喪失……なったことないからそんな偉そうには言えないけど……やっぱり人ってね……前を向いていなきゃ駄目だと思うの」
「……前…ですか?」
「ええ。記憶喪失になっても、辛いことがあっても前を向いて進まなければ先は見えないし、前を見ていなきゃ見つけたい物も見付からないと思うから」
彼女はそう言って私の左手を握りしめた。
そして気付く。
私の手が若干震えていたことに。
「私も昔はそうだった……でもリリスちゃんにそう言われ、前を見たら楽しいことも嬉しいことも見つかった」
そう言っている彼女の笑みには、何処か力強さを感じた。
「見つかると思いますか?……思い出すと思いますか?」
そんな彼女を見て、私の口から弱音が漏れた。
するとクレアさんは握った私の左手を強く握り。
「ええ、見つかると思うわ貴方の記憶。だって……」
飛び上がるようにベンチから立ったクレアさんは此方を見て
「私は念威術者です。だから探し物を探すのは得意なんですよ」
胸を張り、自信満々に言いはなった。
「凄い自信ですね」
「ええ、自信を持つことは良いことですよ」
…ふう……かなわないな……
そう思った私の顔はどうやら笑えていたようで。
楽しげに私の顔を見てくるクレアさんを見ながら、とりあえずこの選択は退屈とは無縁の生活になりそうだと思った。



[5976] 第十話
Name: 康頼◆b3ae40fd ID:aa723b19
Date: 2009/06/05 04:08
日が落ち、暗闇が支配する空で私は舞う。
一時の浮遊感の後、降下、そして迫る地面に着地と同時に足に剄を走らせ再び飛翔する。
建物の上を駆けるように翔ぶ私の後ろから鳥のような形をした念威が追尾してくる。
リリスさんの念威だ。
『分かっているわねアルト……』
無感情で冷静なリリスさんの声が頭に響く。
戦場の空気が彼女をこんなにさせるのであろう。
「ええ、分かっていますよ。死ぬなでしょう?私もまだ死ぬ気はないですよ」
『……分かっていればいいわ。作戦通りクルシスをそちらに送るわ。連携をしろとまで言わないけど互いに足を引っ張らないように』
「了解です」
『……まあ、貴方が思うようにやりなさい』
若干照れたような声が聞こえ、思わず私は頬を緩めてしまう。
「はい、了解です」
それだけ言うとリリスさんの念威は黙り込み、只私に追尾する。
飛び上がった体は再び、降下し再度屋上に着地し、また飛翔する。
宙を舞いながら、真下を見てみるとそこでは、この都市の武芸者達が外縁部に向かって行進していく。

汚染獣襲来

四時間程前、この『曲笛都市・ヒブヘルナ』に凶報が届いた。




第十話『答え』




「え……逃げる……?」
「ええ。貴方も聞いたでしょ?この都市に汚染獣が来てる。もう戦闘は免れないらしいわ」
私の前に座るリリスさんは冷静に呟く。
三時間程前、クレアさんとこの都市名物の演奏集団の音楽に酔いしれているとこの最悪の報告が流れた。
避難民は皆、シェルターに逃げ込み、武芸者達は汚染獣との戦闘準備をしている。
その一方、私達はリリスさん達が所有する放浪バスの中に逃げ込んでいる。
そして、現在此処でリリスさん、クルシスさん他二名の方と現状を話し合っている。
「馬鹿な……汚染獣が迫っているなら戦わなくては」
「それこそ、馬鹿よ」
私の訴えをリリスさんは冷静に両断する。
「この都市は一応武芸者が揃っているから少しは持つから大丈夫だわ。だから私達はこの都市を囮にして脱出する……いいわね?」
リリスさんの命に私を除く他の人達は了承しているようだ。
だが私は了承なんかできない。
「囮って……此処の人達は戦っていて私達は逃げるのですか?」
「ええ、そうよ」
怒りのあまり、叩き付けた拳は、目の前のテーブルを破壊した。
リリスはそんなことも構わず冷静に私を見据える。
「理解出来ない?そうね……理由としては私達にメリットがないわ」
「メリットって……」
冷徹と言える物言い。
その言葉に一瞬頭が真っ白になる。
彼女がこんな発言をすると思わなかった。
「そう、極端な話此処の人間が全滅しようがしまいが私達には関係ない。だって赤の他人だから」
「た、確かに赤の他人かもしれませんが見捨てるわけ……」
「見捨てなさい。それに人が死ぬのが嫌なら都市間戦争なんて出来ないわよ。アレはある意味今の現状より最悪よ」
「っ!!それと今は関係ない……」
「関係はないわね。だけどじゃあ何?貴方が参戦すれば都市を救えるの?劇的に局面は変わるの?向こうの戦力は汚染獣の雄性三体に幼性数百。
しかも周囲をうまい具合いに囲まれている。
一方を防げても残り二方からの攻撃は防げないわ。
逆に貴方という力が此処の武芸者達の戦術を崩してそのせいで、はい、全滅ってオチも有り得るのよ」
そこまで言われ、リリスさんの口調がいきなり柔らかくなる。
「確かに貴方のその考えは武芸者として良いと思うわ。都市のために命を賭けるそれが武芸者って感じだしね……そういう意味では私達は武芸者じゃないわ」
「え?」
武芸者じゃない?
でもリリスさんは念威術者だし、クルシスさん達にも剄脈があった。
なら彼等の体は武芸者のはずだ。
「言葉の意味通りよ。この仲間を守る……私のたった一つの誇りよ。だから利用できるものは利用するわ。例えそれが、何十、何百万の人が住む都市だってね。それは武芸者がすることではないでしょ?だから貴方がやろうとしていることは私にとって害悪よ……」
リリスさんは反論は許さないとばかりにこちらを睨んでくる。
確かにリリスさんの誇りがそうならば、私が止まることにより、クレアさん達と言った他の船員を危険に晒してしまう。
そして、ここの武芸者達にとって本当に私の力がプラスになるのかもわからない。
記憶喪失した身であり、自分のできることが曖昧だ。
もしかしたらリリスさんの言う通り、ここにいる武芸者達に迷惑かけるかもしれない。
だけど……
「それでも私は……」
リリスさんのため息を吐き何か喋ろうとしたとき、
「リリスちゃん!!」
クレアさんが扉を勢いよく開けた。
そしてそのままクレアさんが、リリスさんに詰め寄っていく。
「な、何かしらクレア」
「何かしらじゃないよ!もうアルトをもういじらないで!病み上がりなんだよ?」
「わ、わかっているわよ。ただ彼の意思を聞くって言うのは貴方も賛成したじゃない」
「でも、やりすぎだよ!」
机を挟み言い合う二人に、私は言葉を失っている。
いじる?
意思を聞く?
やりすぎ?
「くっ」
後ろを振り返ってみると一人の武芸者が笑いを堪えており、クルシスさんはただ顔をしかめている。
「おい、二人ともそれくらいにしとこうぜ。お嬢のドSぶりが発揮しただけじゃねぇか」
「黙りなさいタトリス。エアーフィルターの向こうに飛ばすわよ」
おお、怖っと呟きながら、ニヤニヤ笑いながら筋肉質の巨漢な武芸者が下がる。
「あの……リリスさんどういうことでしょうか?」
「うん?そうね……貴方の意見を聞きたかったのよ……貴方の芯をね」
何か疲れたように呟くリリスさん。
間違いなくクレアさんに説教されたのが原因だと思うが。
「芯……ですか」
「ええ、そうよ。貴方がどういう人間かね……クレアはイイ人とかなりアバウトに言ってくれたけど、イイ人でも色々あるからね……つまり、貴方がこの都市の防衛に参加するかどうか、私達に害を及ぼす者か、仲間に引き入れて本当にいいかどうか」
なかなか楽しめたわ。と笑顔で言うリリスさんにクレアさんを含む周りの人達は、呆れたように見ている。
「……そのテストは合格したのですか?」
「聞きたい?」
私の質疑に、リリスさんが首を傾げながら楽しそうに聞いてくる。
それを見ていた後ろの彼等から、やっぱり性格悪いなとか、ドSだなとか小声で話し合っている。
「ええ聞きたいです。合否は関係なく、私自身、自分がどういった人間だとか、どういう風に見られているのか、知りたいですし」
思い出等の記憶がないせいで、知識等の記録が確かなのか段々分からなくなってきたし、アルト・スロットという自分自身も分からなくなってきた。
だからこそ、リリスさんという第三者の見解が必要なのである。
私の思いが届いたのか、リリスさんは言葉を選ぶように話始める。
「……記憶喪失という厄介の身でありながら、知識があり、脅威といっていいほどの武芸者の実力を持っている貴方は、ハッキリ言って恐怖を感じた」
だけどね……とそう言ってリリスさんは私の目を見ると、不敵な笑みを浮かべる。
「クレアの報告と先程の話し合いでわかった真面目で正直でお馬鹿な貴方は、信に値する存在だと感じたわ。合格よ」
合格……そう言われ思わず頬が緩んでしまう。
それがとても嬉しくてとても暖かった。
「しかし、私が言った身内意外はどうでも良いと言った発言は本当よ」
続いたリリスさんの言葉に、私の身体から血がひいていく。
「な……「だけど貴方という身内がこの都市の人を守るために戦うというのなら、私達は貴方を守るために戦う。それが私の誇りよ」……リリスさん」
それだけは知っておきなさい。
不敵な笑みを浮かべるリリスさんを見て、敵わないな……と呟いてしまう。
武芸の強さだけではなく、自分自身を貫く強さを持つリリスさんの姿は、とても眩しく見えた。
「リリスちゃん」
クレアさんの呼び掛けにリリス一度頷くとこの場にいる皆に宣言をする。
「皆!私達はこれから世界の覇者であり人智を越えた化け物、汚染獣へと立ち向かうわ。色々と言いたいことあるけど、唯一つこの命令は守りなさい」
『レスト・レーション』
リリスさんが掲げた錬金鋼が、基礎状態から杖へと変化する。
杖の先には鳥を象った造形がついていた。
「死ぬな」
リリスの言葉に了解とばかりに皆、錬金鋼を取り出し掲げる。
「アルト、はいどうぞ」
後ろから肩を叩かれて、振り返るとそこには二つの錬金鋼を持ったクレアさんがいた。
「これは……」
「貴方が持っていた錬金鋼です。一つは青石錬金鋼ですが、もうひとつはよく分からないですけど錬金鋼でした」
両方とも青い輝きを放っていたが、片方だけ海のような青々とした色合いをしていた。
私は手渡された錬金鋼を握り締め、感触を確かめる。
「設定は既に両方とも合わせているので問題ないようです」
「そうですか……ありがとうございます」
二つの錬金鋼を腰のホルダーに差すと目の前のクレアさんに頭を下げてお礼を言う。
「新入り、行くぞ」
後ろから狙撃銃の錬金鋼を肩においているクルシスさんに呼ばれ、頷くとそのままクルシスさん達の後を追う。
「頑張ってくださいね」
後ろから聞こえた声に手を挙げて、返事を返すと私達は出口へと向かった。


「行きますよアルト・スロット」



[5976] 第十一話
Name: 康頼◆6dd78e1e ID:e70334fa
Date: 2009/06/12 00:30
 槍を振るい、迫る幼性に刃を突き立てる。
肉を貫く感触の後、暴れる幼性が硬直すると、槍を引き抜く。
 「悪いですね……こちらもむざむざと無抵抗に食われるわけにはいきませんのでね」
 死んだと思われる幼性の死体から槍を引き抜くとそのまま死体を踏み台にし、上空を飛来する新たな幼性に突進する。
 内力系活剄の変化、旋剄。
 足に剄を走らせて、風を切りながら上へ飛び、自らの身体を一本の槍とし、幼性の身体を貫く。
 幼性を貫いた後、重力に身を任せそのまま降下しながら、私は少し安堵する。
 どうやら戦えるようだ。
 記憶が無く、少し心配だったが、どうやらその心配は杞憂と化している。
動き自体は身体で憶えていたようだし、剄技も知識が残っていたため使える。

 「私は本当に武芸者だったのですね」
 自らの事を少しでも知った喜びに、頬を緩めてしまうが、どうやら場違いだったらしく、二発の銃弾が、私の身体を掠めるように通過する。
 「わっ!」
 「新入り!!ボケッとするな」
 驚く私に誰かが怒鳴り付けるように叫ぶ。
下の方を見てみると、建物の上で陣取り、精密射撃をし続けているクルシスさんがいた。
 周囲を見渡して見るとすぐ隣を地面に向かって落下する二体の幼性がいた。
羽を付け根から吹き飛ばされているのを見て、先程の射撃はこの幼性を狙った者だと理解した。
「ありがとうございます。助かりました」
「ふん、別に構わん。それより気を抜き過ぎだ」
私の謝礼を煩わしそうに顔を反らすクルシスさんの隣に私は着地する。
 しかし、クルシスさんの言う通り、少し気を抜きすぎたかもしれない。
 戦場では気を抜かないようにしようと肝に命じる。
「しかし、キリがないな」
精密射撃で空を飛んでいる幼性達を落とし続けるクルシスさんが面倒くさそうに呟く。
そんなクルシスさんの言葉に頷き同意してしまう。
「さっきので丁度二十……ずっとこの場で足止め喰らってますからね」
錬金鋼の形状を槍から大剣に変え、襲い掛かってきた幼性を真っ二つに切り裂く。
 はい、二十一体目。
「ジルドの奴め……早々に抜けやがって」
クルシスさんが忌々しげにここにはいないジルドって人に呪言を吐く。
クルシスさん曰く、重度の戦闘狂らしく、そのため指示を完全に無視して自由気ままに汚染獣を狩りに何処かに行ってしまった。
そのため、都市から要請された東方の雄性体を倒しに行くのは私とクルシスさんの二人になってしまった。
 現在、クレアさんの念威によりジルドさんの探索もしているのだが、今だ報告はない。
「見る限り、五十はいるな……もたもたしていると雄性体が外縁部に着いちまうぞ」
クルシスさんの言う通り、時間にして後四十分ほどで雄性体が外縁部に辿り着くという情報を得ている。
 ここからだと外縁部まで二十分は軽くかかる。
 つまり、残り十分位でここにいる幼性体五十数体を片付けねばならない。
「六百秒程で、約五十……時間にして一体につき十二秒くらいですか……今のペースだと物理的に無理ですね」
倒すこと自体は簡単だけど、倒すのには時間がかかる。
と言うことは……
 「おい、アルト……お前が先に行って雄性体を足止めしておけ」
クルシスさんが、射撃をしつつ代案を示してくる。
あっ、外した。
「ち、焦ってきたか……おい、さっさと行け。お前がいたら精度が落ちる」
愚痴りながらも黙々と射撃をするクルシスさんの言う通り、間に合わすには戦力分散しかない。
そしてクルシスさんには火力がないため、雄性体を一人で抑えるのは不可能だ。

しかし……
「いいんですか?一人で五十はキツいと思いますが……」
「ふん、別に時間を掛ければ何ともない。それより雄性体を一人で抑えるお前の方が危険だと思うが」
呆れたように言うクルシスさんの言う通り、危険かもしれない。
しかし、言い出した私が安全圏にいるのは、私が許容できない。
「では、この場はお任せします」
「ああ。お嬢の命令、忘れるなよ」
互いに顔を見合わせニヤリと笑うと、お互い自らの戦場に足を向ける。
内力系活剄の変化、旋剄。
そのまま幼性達の間を切り抜けながら私は外縁部へ向かう。



第十一話『変わった念威操者』




「見えた……」
 無事外縁部に辿り着いた私は、都市外戦闘用スーツを身に纏い、被ったヘルメットから肉眼で雄性体を発見する。
そのまま外縁部からエアーフィルターの向こうへ飛ぶと同時に鳥の形をした念威が肩に止まる。
『ここから二キロメルって所ね……さて、どうしようかアレ』
リリスさんの声が響く。しかし、若干他人事な言い方に笑いが込み上げてくる。
「そうですね……飛んでいませんから、取り敢えず叩き斬るっていうのはどうでしょう?」
笑いを噛み殺しながら、リリスさんに作戦といえない物を提案する。
というより、ただのゴリ押しである。
それを聞いたリリスさんも呆れ口調で……
『それ、作戦じゃないわ。ただの力押しよ……全く武芸者って皆、考え無しなのかしらね……』
「さあ?どうなんでしょう……と言っても一人の時点で作戦何て意味ないですよ」
隊形やら何やら全く意味無いですし……
まあ、とりあえずは…… 「移動力を奪いますか……レスト・レーション02」
錬金鋼を大剣に変え、雄性体に向かってかける。
流石に、馬鹿正直に直線ではなく、横移動を入れながら雄性体に近付き、一閃。
 斬っ!!
雄性体から吹き出た液体を浴びながら、私は反射的に横に飛ぶ。
ヒュンと風を切る音とともに、雄性体の尾が私の先程いた地面を砕く。
そのまま飛来する岩や石を回避するため、私は一度距離をとる。
 雄性体はさっきの一撃によるダメージでまだ動けないようだ。
『本当に一人で雄性体に挑む馬鹿がいるとは……』
呆れるように言ってくるリリスさんの言葉に苦笑いする。
先程の一撃、直撃していたら死んでいた。
理不尽な世界だ……とぼやいてしまう。
こちらは飛来する石などでスーツが破損すれば終わりなのに。
「しかし、仕方ないですよ。やらなきゃ都市内への侵入を許してしまいますし、何より侵入すれば私達の負けです」
錬金鋼を握り締める。
大丈夫だ。今の要領でやれば、一人でも倒せるはず……
「では第二ラウンドと行かせ……」
『ちょっと待ちなさい』
 全身に剄を張り巡らし、再度攻撃を仕掛けようとするとリリスさんに止められる。
「え、どうかしましたか?」
『はい、上を見て』
よくわからないがリリスさんの指示通り、上空を見上げる。
視界の端にはレギオスが見える。
『せーの、よっと』
「え、リリスさん?」
リリスさんの掛け声とともに鳥形の念威が消える。
それと同時に外縁部から何かが降ってくる。
目を凝らして見てみると直ぐに何かわかった。
「はい?……ってなにやってるんですかあの人は!」
落下地点まで走るとそのまま飛び、空中で受け止める。
「ナイスキャッチ」
「貴女は何がしたいのですか!!」
落下してきたのは、念威ではないリリスさん本人。
私はリリスさんの無用心な行動に怒ってしまうが、当人は、気にすることなく、不適に笑う。
「まあまあ、しかしなかなかナイスキャッチよ。落としてたら念威爆雷だったけどね」
「貴女は何を……念威操者って普通、情報処理や探査とかの後援支援が主でしょうが!何、最前線に出てきているのですか?!」
念威操者は、身体能力的には何ら一般人と変わらない。
彼らは、念威を飛ばし他の武芸者の目や耳となり等の補佐的な物である。
だからこそ、最前線で護衛もなく彷徨いている念威操者なんていないのだ。
「ん?ああ、私そういうのできないの」
「だから遠くからって……はい?出来ないって……?」
私はリリスさんの言ってることが理解出来ず固まっていると、リリスさんがご丁寧に説明してくれた。 「だから私が念威を飛ばす際、あまり遠距離飛ばせないの。才能っていうの?……私、全くっていいほど念威の才能無いの」
だから基本的に全体の探査はクレアに任せているのよ。と何でもないように言うリリスさんに私は空いた口が開かない。
「だから端子も、クレアや他の念威操者みたいにいっぱい出せないのよ。最大で三個かな?しかも三個出したら全体的に一つ一つの念威の質も落ちちゃうしね」
「…………」
 気を遣おうとしてもどう言っていいのか解らず、沈黙していると、リリスさんが私の腹目掛けて廻し蹴りを放つ。
 「がはっ!」
 「気なんて使わなくていいわ。才能無いのなんて生まれて来たときから知っているしね」
見事、蹴りが腹の急所に入り、もがき苦しむ私を余所にリリスさんは念威を二つ出す。
「残されたのは唯一の手段がこれよ」
リリスさんが杖を振ると二つの鳥形の念威は、空を羽ばたき、雄性体へと迫る。
轟っ!
念威爆雷。
端子が爆発し、爆風が雄性体の頭部を襲う。
「まさか……念威操者が戦闘を?自殺行為じゃ……」
「そんなこと言ってる暇あるなら早く、アレの首を飛ばしなさい。幼性以外はこれで倒せないのよ」
唖然とする私の尻をせかすように蹴り上げるリリスさん。
色々考えることがあるが今は目の前の脅威を排除しよう。
大剣を構えると、私は一呼吸おき、雄性体の首に狙いを定める。
次で仕留める。
内力系活剄の変化、旋剄。
そのまま大地を蹴り、汚染獣に向かって飛翔する。
「はっ!」
斬っ!
雄性体の首を斬りつけるが、まだ仕留めていない。
「なら、これでどうです!!」
錬金鋼の形状を槍に変え、そのまま傷口に刃先を突き立てる。
外力系衝剄の変化、針剄。
刃先から放たれた針状の衝撃波は雄性体の首の中を抉り出す。
「さよならです」
そのまま槍を抜き、そのまま振るい、雄性体の首を飛ばした。




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