俺はただ、この娯楽に満ち溢れた世界で趣味に溺れつつ無難に学生として生きていくつもりだった。
カもなく不可もない感じで大学を卒業して、何処かの会社に就けたらいいなあ、なんて考えていた。
でも神様はそれが気に入らなかったらしい。
何時ものように帰りにゲームセンターへと寄る。
それが俺の日課でもあり、趣味でもある。
割と新しい液晶に映っているのは数々のMS。
懐かしい機体から真新しい機体まで、それらは動いている。
何時ものようにショルダーバッグを足元に置き、コインを入れる。
そして動き出す画面。数々のMSがカードのように並んでいる。
それらの中から俺が選ぶのは、稼動開始の時からお世話になっている愛機だ。
「衝撃」の意味を持つMS…「インパルス」。
俺がこれを選んだのはただの自己満足だ。
TVで放映されたアニメではあまりの不遇っぷりで涙していた主人公である。
そう、俺はただこいつで、フリーダムを討ちたい。
まぁたかがゲームやアニメなのだが、感情移入していた方が盛り上がるというのもある。
そして始まる戦闘。
今日はどんな風に戦ってみようか。何かを縛ってみるか。
なんて考えていた時だった。
後ろからいきなり口を布で塞がれ、気化した薬品らしきモノを吸ってしまう。
なんてベタな、そんな考えを最後に俺は眼を閉じた。
眼が覚めたら、何故か体が動かない。
縄で縛られていると仮定しても首ぐらい動くハズなのだが…何故か動かない。
というか周りが妙にごわごわして気持ち悪い…なんというか、ただ洗っただけのタオルというか…。
そんな感じで現状を把握しようと足掻いていると、タオル越しから持ち上げられるような感覚がした。
力を振り絞って眼を開けてみると、ソコには何処か可愛い女性の人がいた。
そしてその女性は、事もあろうに素晴らしい一言を言い放ってくれた。
「う~ん、やっぱり私の息子ね…何処か凛々しい顔だわ」
…何処か「凛々しい顔」?
馬鹿な、大学2年生として生きている俺の顔なんて何処にでもいそうな可もなく不可もない顔だぞ。
友人曰く「思い出せそうで思い出せない。言われると簡単に思い出せる顔」だぞ。
毎朝鏡見ても「ああ、そうだなあ」と思うけどさ…。
そして何より、俺はこんな「可愛い母親」は持った覚えがない。
子供に親を選択する権利はないのさ…。
夢だとか俺の逞しい妄想力が創造した妄想だとか色々あるが…それならもう少し良いモノだと思う。何がどうとか言わないけど。
では考えられるのは一つしかない。
薬品の匂いを嗅いで死んだ。なんて…間抜けすぎる。
というか、それ以上に「転生」ってどういうことなんですか神様。
そんなに俺が嫌いだったのかよ。普通って難しいけど素晴らしいじゃないか。
もう最悪だ…寝よう。起きれば元の世界に戻ってることを祈って。
女性の腕に抱かれながら、俺は意識を手放した。