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[6755] 東方幻想堂  ~隠里の頁~  (東方×京極夏彦)
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/06/13 14:05
このお話は、京極作品と東方のクロスオーバーがメインです。偶に東方だけや京極だけもあります。

キャラ崩壊、設定無視もありえています。ご了承ください。


アンケートは終了しました。一応大体の構想は出来たので。予告編もうp



[6755] 東方京極録  ~隙間妖怪の家~
Name: 蛇口の蛇◆e76c8a41 ID:d75dc90c
Date: 2009/02/20 17:58



この小説は、百%趣味で書かれています。両作品ともに設定に綻びはありますでしょうが、温かく見守ってください。

また、この作品は題名で分かった方もいらっしゃるでしょうが、京極夏彦先生の作品と東方作品のクロスオーバーです。御注意ください。









森の中を歩いている。

はて、僕は何をしていたのだったか。

そうだ。学校の課外授業の最中、迷子になったのだったか。

歩いていると一軒の家があった。

道を尋ねるため戸を叩き中に入る。人の気配は無かったが、何故か入ってしまった。

囲炉裏があり、湯も沸いていた。しかし、人はいない。火鉢には火もついている。全く、無用心な家だ。

台所、居間、など渡り歩き、雪隠を探し大広間に来た。

ふと何かの気配を感じ、後ろを向こうとした。しかし、向けない。何かに気圧されるような感じがする。

「――――ようこそおいで下さいました。この家の主は居りませんが、ごゆっくりしてください」

嘘だな、と思う。話し方が妙だ。ところで、と話を切り出す。

「ここは、何処ですか?」

転りと後ろを向き、尋ねる。金色の髪をした少女は少し驚いたようすで、「ここはマヨヒガです」と答えた。

勘が当たった。むっと眉を動かす。

「それは―――――おかしいですね」

言う。少女は「はい?」と不思議そうに返事をした。

「マヨヒガとは迷い家とも言い遠野物語で紹介されている奇談です。ある男、これは猟師だったりきこりだったり、色々あるのですが、この男がね、山で道に迷って、遭遇するんですよ。迷い家に」

まるで今の僕のように―――と続ける。

「その家には人は居ませんでした。中に入ってみるとしかし、火鉢に火がかけてある。湯も沸いています。人が今先程まで生活していた痕跡はあるんです」

先程までのこの家の状態にそっくりでしょう。と言う。

「それと当家に何の関係が?ただ屋号が同じと言うだけでしょう。私が居ますので、人も生活しています」

「そう、それなんです」

「僕はこう考えます。迷い家とはつまり『家』の怪異なのだと。故に生活しているものは一人も居らず、それは既に完成したものです。『家』が重要なファクターなのであって『人』は付属品。悪く言えばむしろ邪魔なのですよ」

そこまで言うと少女は少し怒ったように、ですから、と言う。

「ここはその迷い屋ではないです。そのお話は興味深いものですし、あなたの推測も結構なものですがここは私の家で―――「そこです」―――え?」

「あなたは、なんと仰いました?『私の家』と言いましたよね。そうですか、あなたの家、ねぇ。ここで生活しているのですか」

なんですか?と聞かれる。

「だってこの家、あからさまな所しか出来ていないんです。必要最低限のところしかない。例えばあなた、トイレの無い家でどうやって暮らしているんですか?外にもありませんでした。他にもここには足りないものが多すぎるんです。物置らしき場所も見ましたが布団は有りませんでした。ベッドも無いです。まるでそういった部屋だけを隔離したかのようだ。牛はいました。しかし牛小屋が無い。鶏が居ました。しかし生ごみも何も無いんです。まるで骨も残さず食べたかのようだ。日本家屋の中心部には必ず太い柱、大黒柱があります。しかしここには無い。この家はどうやって立っているのですか?壁はありましたが柱はありませんでした。最近の家は無いものもあるようですが、この家はわりと古い。確実にある筈なのです。しかし無い。これは、どういうことなのですか」

「それは・・・・・・・・・・」

「いいわよ、藍」

襖の開く音がし、声が聞こえる。振り向くとそれはこれまた金の髪をした女だった。

「初めまして。私はこの家の主、隙間妖怪の八雲紫と申します。早速ですが、お帰りいただけないでしょうか」

「ええ。結構ですよ。僕も正直、そろそろ帰らなきゃならない」

「申し訳ありません。・・・・・・・・・ああ、それともう一つ。ここは貴方の仰るように迷い家と呼ばれるものです。しかし、ここであったことは、どうか御内密にお願いできませんでしょうか。詳しくは話せませんが、ここの事が外に漏れてしまうと、大変なことになるのです」

了解しました。とその申し出を受ける。ありがとう御座います、と八雲紫は頭を下げる。

「それでは、僕はこれで」

待ってください。と声をかけられる。何でしょうと聞くと、もう一つお願いがあるのですが・・・・・・・・・と言われた。

「お名前を、教えていただけませんか」

名乗るほどの者でもないのですが、と前置きをして、答える。

「僕は、中禅寺秋彦と申します」

では、失礼を。といい、門を出る。山道を下る前に、来た道を振り返ってみる。矢張り、何も無い。分かっていたことだ。遠野物語でも、二度と行く事は叶わなかった。

「妖怪、か」

空を見上げてみる。蒼い。帰ったら、妖怪本でも見てみようか。

少し行くと、同級生の一人が探しに来た。

「何やってたんだ中禅寺」

「いや、少し迷子になっていただけだよ」

答える。するとこの同級生は、「へえ、君が迷子になるなんて、不思議なこともあるものだな」と言う。

「・・・・・・・・この世には、ね。不思議なことなど何も無いのだよ関口君」

答える。へえ、そうかい。と答えられた。

――――――そう、不思議なことなど、何も無い―――――――

――――――だから、いつの日かまたあの家に、あの少女たちに会うことがあっても、それは不思議なことではないのだ―――――








東方京極録  ~隙間妖怪の家~  【了】





どうも、蛇口の蛇です。

はじめましての人ははじめまして。そうでない人はお久し振りです。この小説は前述もしましたが、百%趣味で書かれていますので、両作品の設定などに多少の綻びは御座いますが、温かく見守ってやってください。

また、中禅寺の言葉が未発達、元作品のような憑物落としが出来ない程度のものしかないのは、まだ関口といる時間が少ない(あっちに行った関口君を元に戻すという経験が憑物落としを昇華させたと蛇は考えます)のと単純な妖怪・怪談に対する知識、人生経験の不足が原因と思ってください。

また、この作品の中禅寺が『家』がおかしいのか『居住者』がおかしいのか分からない言い方をしていますが、それは作者の筆力不足です。

それではお付き合いありがとう御座いました。書くことがあれば、また別の作品でお楽しみ頂けるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。







[6755] 東方眩暈譚  ~赤鱏の俤~ (あかえいのおもかげ)
Name: 蛇口の蛇◆e76c8a41 ID:d75dc90c
Date: 2009/02/20 23:02
このお話も前回と似たような失敗をしてしまいました。東方分が少ないです。殆ど終始、関口君の独白です。
とは言っても関口の表現もなんだかなぁという感じが否めません。御注意ください。








僕は神社の前に居た。

僕は、神社の中を見ていた。

神社の中には角の生えた女子、まるで西洋の魔法使いのような黒い帽子をかぶった女子、恐らくはこの神社の巫女なのだろうか、その通り巫女が居た。

それだけではない。兎のような耳を持った少女達、赤十字の帽子をかぶった女。翼の生えた姉妹のような幼年の少女とそれに仕えるように立つメイド。幽霊のような三角巾をかぶったものも居れば、―――僕はそっち方面には明るくないのだが―――所謂ゴシックロリータと呼ばれるような服を来た女も居る。

目が廻る――――くるくると目まぐるしく変化してゆく情景は、僕には合わない。

騒がしい宴も酣(たけなわ)と言うことだろうか。一人、また一人と帰っていった。苦しい。息が詰りそうだ。

否。

本当に、詰っていたのかも分からない。そのあたりの記憶は、どうも曖昧なのである。ただ、僕を発見した巫女が真っ青になり赤十字の帽子を被った女を呼んだことから、僕はかなり酷い顔をしていたのだろう。死体のような顔、かも分からない。

それならば、大層醜いものを見せてしまった。

然しながら、僕はその医者――――永淋と言うらしい――――に看病され、何とか体調を取り戻した。

その後、僕のようなものは誰も見たことが無いと言うので、人里から妖怪の山と言うところまで、連れられた。

しかし結果は芳しくなく、巫女や医者、それと白玉楼とやらの主の弁で言うと僕は、幽霊に近いらしい。

しかし、死に神とやらに聞いても、僕にはまだ寿命があると言われた。

死に神と言うと、僕は京極堂のみる本に描かれている黒いローブを着た骸骨かその京極堂の死に神が腹を下したような顔を思い出してしまうのだが、そのようなことは無いようだった。

「貴方は何処から来たの?」

巫女に問われる。

僕はその切羽詰った表情が怖かったのかも知れないが、「ああ」だとか「うう」だとかしか言えなかった。

「貴方の居たところには、何があったの」

と聞かれた。

これにはまともに答えることが出来た。少女の表情が呆れ半分諦め掛けていたのも理由なのだろうが、答えることが出来た。

「ラジオがあった。あと戦争があったな」

僕は一応理系だったのだが、何かの間違いで出兵したことも伝えた。

その答えに少女は驚いたようで、外の世界がどうとか言っていたが、半分ほど聞き流していた。

このあたりが、あの友人に卑怯者呼ばわりされる所以か。いや、その前に「僕と君は友人じゃないよ。知人だ」とでも言われるのだろうか。

神社に寝泊りし、数日が過ぎた。巫女、博麗霊夢は急に飛び出し、金の髪の女性を引っ張って来た。

その女性は、どうやら八雲紫と云ってこの世界とあっちの世界を行き来できる唯一の人間なのだそうだ。

何処に住んでいるのか―――家族構成は―――友人にはどんな者がいるのかなど、様々なことを問われた。

京極堂のことを出したとき少し驚いた様子だったが、すぐに持ち直し、僕を元の世界に送ってくれると言った。

その言葉を信じ(と云っても僕はそこまで人を信じられる性質ではないので、半信半疑で十分だと思っていただきたい)出された隙間に少々怯えながらも、その中に入った

そこで、僕の記憶は一時終わることとなる。





目を覚ましたとき、京極堂が目の前にいた。

途端に恐ろしくなり、京極堂に夢のことを話した。この友人ならば、必ずや解決をしてくれることだろう。

「ふむ、なるほど。それは―――アカエイだよ」

その友人は顎を押さえくつくつと笑い、

「アカエイとは体長三里を上回る妖怪でね。島と何ら変わらない大きさなんだ。この魚の上に乗ると。最初は島と思うのだがすぐ海に戻ってしまう。これはね、関口君。今の君のような状態なんだよ」

この友人はそう言って和綴じの本を取り出し、見せた。

「この世にはね、不思議なことなど――――――そうそう無いのだよ関口君」

そう話す京極堂は、いや、僕が目覚めたときから、顔には出さずともまるで昔から恋焦がれていた初恋の人に出会ったかのような、そんなうきうきとした雰囲気を持っていた。

チラリといつかの隙間が見えた気がしたが、きっと気のせいだろう。

いつもと違い、『そうそう』と言った時、チラリと僕の後ろを見た気がしたが、気のせいだろう。

それより今は、初めて見る友人のとても嬉しそうな雰囲気を、目に焼き付けておくことのほうが大事だろう。





東方眩暈譚  ~赤鱏の俤~ (あかえいのおもかげ)  【了】






どうも、蛇口の蛇です。

気が向いたら、とかいってその日のうちに更新。それが僕のジャスティス。

このお話は前回の京極堂編に続き、関口編となっております。前回の教訓を全く生かしきれておりません。しかし頑張って書いた物なので喜んでいただければ幸いです。

前回の中禅寺は若年時代でしたが、この物語は魍魎の少し前程度と思ってください。

前回にもまして、東方分が不足しております。申し訳御座いません。今度は紫目線とか霊夢目線とかも書いて良いかもしれませんね。

拙い文章ですが、これからもよろしくお願いいたします。







[6755] 東方妖恋話(とうほうようれんわ)  ~隙間妖怪の及~
Name: 蛇口の蛇◆e76c8a41 ID:d75dc90c
Date: 2009/02/21 21:46
このお話は東方京極録  ~隙間妖怪の家~の裏話で、紫視点です。
キャラが壊れている、と思われるかも分かりません。
紫×京極堂です。ラブです。紫は俺の嫁、とか言う方もそうでない方も御注意ください。








扉の開く音がする。

スーッと襖が開き、藍が伝えに来た。

「紫様、人がお見えになりました如何なさいますか」

その問いに「手筈通りに」と短く答える。珍しい、と思う。ここマヨヒガは私の行う神隠しではなく、その名の通り迷わなければ来ることは叶わない。そういえば、少し前にも同じようなことがあった。

しかもその男、事もあろうにこの家のますを持って行ってしまった。

ますを取り返すことは出来なかった。それ自体は別にいいのだが、そのますは境界が弄くられており、人が持つには破格のものだった。何年か過ぎた後、冬に一眠りする前に一杯酒を飲もうとした後、それを唐突に思い出した。しかし、探せど探せど見つからない。ようやく見つけた場所は、墓地であった。

たった数年だ。人間の一生は、なんと短いものなのだろうか。

結局、そのますを取り返すのは止め、別のますを使うことにした。

その後からだろうか、神隠しにて攫った者でなく、迷ってきたものも糧としようと決めたのは。

そう考えると、無性に胸が靄々(もやもや)してきた。丁度いい。暇つぶし程度に、訪問者の動向を探ってやろう。

訪問者は矢張り外の者だった。外界の者でない者が来れば、全て藍が対処し、場合に寄れば私を呼ぶので当たり前と言えば当たり前なのだが。

角度的に顔が窺えないが、服装から見て学生だろうか。今の世情ならば、軍隊学校のものだろうか。

なら気性の激しい可能性もある。私が見る限りそうは見えないが、人は見た目で判断できない。

「ようこそおいで下さいました。この家の主は居りませんが、ごゆっくりしてください」

藍が応対する。手筈通りだ。少々不自然だが、及第点だろう。

「ここは、何処ですか」

そう答える男。漸く顔が見えた。男はまるで、占い師に死期を予告されたような、複雑な表情をしていた。

「ここは、マヨヒガです」

「それは―――――おかしいですね」

そう男は言う。藍も「はい?」と不思議そうだ。

「マヨヒガとは迷い家とも言い遠野物語で紹介されている奇談です。ある男、これは猟師だったりきこりだったり、色々あるのですが、この男がね、山で道に迷って、遭遇するんですよ。迷い家に」

まるで今の僕のように―――と続ける。

「その家には人は居ませんでした。中に入ってみるとしかし、火鉢に火がかけてある。湯も沸いています。人が今先程まで生活していた痕跡はあるんです」

先程までのこの家の状態にそっくりでしょう。と言う。

「それと当家に何の関係が?ただ屋号が同じと言うだけでしょう。私が居ますので、人も生活しています」

藍が反論する。尤もだ、と思う。私や藍が居るのだから、生活痕が無いほうがおかしいだろう。

「そう、それなんです」

しかし男は詰る様子も無く、まるでそう言うのが分かっていたかのように答える。

「僕はこう考えます。迷い家とはつまり『家』の怪異なのだと。故に生活しているものは一人も居らず、それは既に完成したものです。『家』が重要なファクターなのであって『人』は付属品。悪く言えばむしろ邪魔なのですよ」

男が言う。なるほど、と思う。この家は元々在ったものだ。だから、そこまで考えたことは無かった。

藍は少し怒ったように、いや、寧ろ焦っているような早口で、「ですから」と言う。

「ここはその迷い屋ではないです。そのお話は興味深いものですし、あなたの推測も結構なものですがここは私の家で―――「そこです」―――え?」

突然男が語りを止める。

「あなたは、なんと仰いました?『私の家』と言いましたよね。そうですか、あなたの家、ねぇ。ここで生活しているのですか」

なんですか?と聞く藍。私はその言葉の意味に気付いた。

「だってこの家、あからさまな所しか出来ていないんです。必要最低限のところしかない。例えばあなた、トイレの無い家でどうやって暮らしているんですか?外にもありませんでした。他にもここには足りないものが多すぎるんです。物置らしき場所も見ましたが布団は有りませんでした。ベッドも無いです。まるでそういった部屋だけを隔離したかのようだ。牛はいました。しかし牛小屋が無い。鶏が居ました。しかし生ごみも何も無いんです。まるで骨も残さず食べたかのようだ。日本家屋の中心部には必ず太い柱、大黒柱があります。しかしここには無い。この家はどうやって立っているのですか?壁はありましたが柱はありませんでした。最近の家は無いものもあるようですが、この家はわりと古い。確実にある筈なのです。しかし無い。これは、どういうことなのですか」

そうだ。この家は所謂怪異。古くなり廃れてしまった幻想の屋敷を私が作り直したもの。しかしここはあくまで家だ。だからそういう物が無いのはおかしい。

結界を作ったのが裏目に出たか―――少し、残念だ。

「それは・・・・・・・・・・」と藍が詰る。

「いいわよ、藍」

スゥッと襖を開け、そういう。もう騙すのは無理だ。申し訳ないのですが、お帰りくださいと言う。男はそれを了承し、このことを漏らさないよう約束してくれた。

「お名前を、教えていただけませんか」

口をついてしまった。何故かは分からない。だが、思わず言ってしまった。

中禅寺、秋彦。

門を出、こちらを振り向く彼に、この家はもう見えないだろう。

しかし出来れば、もう一度会ってみたいと、柄にも無く思った。







何年が過ぎただろうか。

宴会で酒を飲み、萃香の酒をパク・・・・頂戴しいい気分になって帰る時、霊夢が大慌てで薬師を呼んでいたが、私には関係の無いことだと思った。

さらに幾日か過ぎ、突然霊夢が私を引っ張ってきた。

理由は、外界のものが来たから、だった。

その男は関口巽と言う、何ともうだつの上がらない男で、話を聞けば、中禅寺秋彦と友人だと言うのだ。

私を喜び、すぐに京極堂に関口を送った。

その際に気絶させ、秋彦と話し込んだ。

秋彦は大層驚いた様子で、私を見た。その表情は余り似合っていなかったけれど、それが愛しいと思った。

そうだ。思い出した。

私は、あのますを持っていった男に、恋をしていたのかも分からない。そうでなければ、あそこまで感傷的にならなかっただろう。しかし―――――

今の私は秋彦のことが好きなのだろう。

秋彦とは色々な話をした。あの一件から妖怪の本を読み、妖怪が好きになったそうだ。

うう、と唸る声がする。私は秋彦と口付けを交わし、隙間へと戻った。

秋彦と話をする関口に、お礼代わりに少し手を振る。気付いたかは分からない。しかし、どうでも良いことだ。

アカエイだよと言い、くどくどと蘊蓄(うんちく)を垂れている秋彦に、スッと隙間から手を振る。

「不思議なことなど――――――そうそう無いのだよ関口君」

チラリとこちらを見る。あれは私への皮肉だろう。そういう秋彦に対し、「私は不思議なの?」と聞きたくなった。

数日が過ぎただろうか。小さく天井に隙間を作り、秋彦以外居ないのを確認すると、私は隙間を広げ、秋彦の隣へと降り立った。

今日もまた、愛する人とのお話を楽しもうと、私は柄に沿ってそう思った。




東方妖恋話(とうほうようれんわ)  ~隙間妖怪の及~  (すきまようかいのおよび)【了】






アトガタリ

蛇口の蛇です。
先の二話と書き方が違う気がします。安定しませんね、中々。

さて、このお話、元々は『隙間妖怪の志』だったのですが志、とは違う気がしました。
ですのでこのお話を読んで漢字一字をつける(駄文の『駄』とかでは無く内容でお願いします)とするとどんな物が良いか、とやってみた末、アラレ様の発案の『及ぶ』を使うことにしました。

アラレ様、ありがとう御座います。

毎度毎度拙い文章ですが、よろしくお願いします。



あ、ちなみに僕の『蛇口の蛇』というハンドルネームは『雲外鏡』の「蛇口は蛇」発言から来てたりします。

本っっ当にどうでもいい事でしたね。



[6755] 東方神人伝  ~九尾狐の現~
Name: 蛇口の蛇◆a72358f0 ID:d75dc90c
Date: 2009/02/23 18:59
このお話は今までのお話とはかなり書き方が異なります。御注意ください。








テクテクと道を歩く。榎木津礼二郎は「クァァァ」と鬱陶しそうな声を上げた。

理由は単純である。先程父親(榎木津礼二郎はそう信じていないが)である榎木津幹麿に呼び出されたのだ。

普段ならば絶対に動かないことであるが、以前にも起こったようにまたも幹麿が危篤というので今度こそは、と意気込んで会いに行ったところ、家族が「飛蝗(バッタ)」だの「蟋蟀(コオロギ)」だの叫んでいるところに出くわし、危うく気絶しそうになった。

しかもそれで良くなったというのだから始末が悪い。

腹癒せに和寅や関タツでも苛めようか、と思ったのだが生憎二人とも出払っていた。女房の雪絵に聞いても分からないと言う。

ならば、京極堂にでも、と足を運んでも生憎の留守だ。妻の千鶴子に言わせれば、今日は堺のほうで古本市あるそうだ。大方、そこに行っているのだろう。

鬱屈した気分を少しでも紛らわそうと歩いても、全く気分は晴れない。

ガサリ、と街路樹がざわめき、ケェン、と鳴く声がする。

狐だ。

狐がいる。

サッサッサと道を横断する狐を見て、一気に先程の感情とは別の感情が浮かび上がる。

通ったのは黄色というより金っぽい毛並みの狐。

ふわりとした毛並みに愛らしい瞳。これは、人撫でしないといけない。

たっと駆け出し、狐を追いかける。周りの人間など気にも留めない。元々そんな性格である。

狐を追いかけ、何時の間にか森の中に入ってしまった。その上狐は見失うし、散々だ。

「ふん、この僕に人撫でもさせないとは、中々の狐だ。最低でも、空弧かな」

ふふふ、と笑う。森を出て、暫らく歩くと真っ赤な洋館があった。

面白そうだ。

そう思い門のほうに回ってみると、中国服に身を包んだ人民帽を被っている少女を見つけた。

寝ているので案内させるため起こしてやると、急に立ち上がり、構え、貴方は誰ですか?と問うた。

「分からないか?僕は探偵だ!」

その言葉の意味が分からなかったのか―――――榎木津の変人具合は分かったようだが――――探偵とは何ですか?と聞く。

「神だッ!」

叫ぶ。かなり引いている。

「うん?君は美鈴というのか。しかしそう呼ばれたことは滅多に無いな。ふん、紅・美鈴か。中国でいいか」

見ず知らずの赤の他人に中国呼ばわりされたショックか、彼女は打ちひしがれた様子になる美鈴。

「あの、どうして私の名前が分かったんですか?まさか、心を読む程度の能力!?」

ザッと意味は無かろうが距離をとる美鈴。しかし、榎木津はそんなことお構い無しに捲くし立てる。

「むっ、何だその輪や弾は!色とりどりでとても綺麗じゃないかこのばか者めが!出しなさい、さぁ今スグ!!」

美鈴は驚いた様子で、「ええ!?」と言う。

「だ、弾幕を知らないんですか?」

「弾幕?弾幕というのかその綺麗なものは。どうでも良いから出しなさい。早く!」

「何をやっているの中国」

声のするほうを見ると、何時の間にかメイドが立っていた。

「ヒ、ヒィィィィィ、咲夜さん!さ、サボってませんよ!?」

「・・・・・貴方の私に対するイメージを少し聞きたいところだけれど、この方は」

「うん?君は下着に何を入れているのだ。いや、元々何か入っている奴なのかな」

ブチンと、何かが切れる音がする。

「ヒャァァァァァァァァ!だ、だめですよ見知らぬ人、それは禁句です!お嬢様でさえ迂闊に口には出来ないのに・・・・・・」

ふふふ、と笑い、咲夜と呼ばれたメイドはナイフとカードを取り出す。

「メイド秘技『殺人ドール』ッッッッッ!」

「ハァッ面白い、どんな原理で飛んでくるのかは知らんがこの僕にそんなものが当たるはずが無かろうガッ!」

縦横無尽に飛んでくるナイフの山をまるで雪合戦でもするかのようにかわす。咲夜は驚いた様子だ。美鈴はナイフが刺さって倒れている。

「ハァァァァァァァ!」

「ハッハッハッハァ!」

ナイフを避け、咲夜を狙い走る。

「く、幻幽『ジャック・ザ・ルドビレ』!」

割りと至近距離で放たれたにも関わらず、全て避けきる。ゴスッと鈍い音がし、咲夜は気を失った。

咲夜を倒した後、もっと面白いことが出来る奴に会いに行く、と榎木津は紅魔館を飛び出した。






「ほう、中々良い眺めの山だな」

目に映る山からの見晴らしに、榎木津礼二郎は簡単の声をあげた。

何故かいきなり切りかかってきた尻尾付きの少女も、羽を生やした変な帽子を被った少女も既に倒した。

この先には神社があり、そこには神様もいる、と話に聞いたからだ。

探偵とは神だ。本物の探偵は僕だけなので、僕だけが神だ。

しかし、探偵以外の神がいるのならば、それを見てみたい。それが榎木津の考えだった。

そうしている内に、目的の洩矢神社が見えてきた。

「あれ、よくきたね。まあ御参りしていってよ」

神社の中から現れた少女に言われる。

「君が神か!なるほど中々かわいいな」

そう言いまるでロ○コンの人攫いのように神・洩矢諏訪子を抱きしめる榎木津。しかし、ふっと急に眠くなり、諏訪子を放り投げた榎木津はさっさと寝てしまった。

すうっと隙間が開き、榎木津を寝かしつけた犯人、八雲紫はまるで母親のように謝り、榎木津を隙間に放り込んだ。







「うん、ここは、何処だ」

「気付いたかい榎さん」

横を見ると、京極堂がいる。

「榎さん、あなたはね、山の中で倒れていて、僕の友人が拾ってきたんだ。だから気をつけなよ」

そう言われたが、榎木津はお構い無しに話す。

「京極堂、こんなことがあったんだぞ」

榎木津はメイドと遊んだこと、天狗や犬人間と遊んだこと。それからかわいい子供がいたことを話した。

「―――――どうだ、不思議だろう」

そのことを全て話し終え、それで終わったとき、京極堂はふふふ、と笑った。

「そりゃ傑作だ。だがね、それは―――――九尾の狐だ。狐は天弧以上になると実態を持たないとされる。これは『おぬ』つまり『居ない』が語源とされる『鬼』と同じなんだな。妖弧と鬼は居ない、と言う点で同じなんだよ。そして九尾の狐は天弧より一つくらいが下と言われている。だから九尾の狐は実際にいるんだ。また、狐は八化けする狸や九化けと言われるテンよりも少ない七化けだ。しかし、化かす動物としての知名度としては狸と同程度、テンに至っては殆ど無い。これは、『化ける』意外にも色々なことをするからだと思う。例えば狸火と言うものがある。しかしこれは徳島の一部地域でのみ有名な怪異だ。普通は提灯火だと言う。しかし狐火は全国各地に伝わるんだ。殺生石は『化かす』ではなく『殺す』石だ。特に九尾の狐は強烈でね、全国どころか全世界で伝わる――――――」

そうくどくどと蘊蓄を垂れて、何時もの文句を言う。

「この世には、不思議なことなど何も無いのだよ」

どこかで、ケェンと声がした。






東方神人伝  ~九尾狐の現~  【了】







アトガタリ

蛇口の蛇です。
今までのお話と全く違う作りになってしまいました。やっぱり榎木津さんを出すと変な風に明るくなってしまいます。まだまだですね。僕の文章力。

猛省。

今までの空気が好きだった方はすいませんでした。

今回、榎さんは狐を追いかけて幻想郷は結界の綻びを通り、洩矢神社で紫に京極堂まで送られた、ということです。

京極と紫はよく会っています。通い妻状態って訳ではなく、友人として付き合っています。作中の京極堂の説明は、全て作者の考えです。実際のものとは違います。

今までも罵倒されるかと思いビクビクしていたのですが、このお話はもっとビクビクしています。

この作品を駄文と言うか良作と言うか、普通だというか人それぞれでしょうが、楽しんでいただける人が居れば、幸いです。







[6755] 東方夢現郷  ~枕返しの徒~ (まくらがえしのいたづら)
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/02/23 19:01
このお話は、木場×慧音の要素があります。自分の中で慧音が自分の子を授かっている方は御注意ください。








棒のように突っ張った足を引き擦りながら、木場修太郎は下宿先の家の布団へと寝転んだ。

失敗ではなかった―――――と思う。やり過ぎた感じはあった。しかし、警察たるもの、市民の安全を守り、そのために身を粉にすることが本懐だとも思う。

ゴロリ、と寝返りを打ち、瞼が下がる。フッと気が抜けたような感じがし、何かが飛んでいくような錯覚を覚えた。



「ああ、何処だここは」

ガサガサと草を踏み鳴らし、俺はそこを歩いていた。目の前には、村があった。昔見た時代物の映画で、このような物があった気がする。

「すまん、ちょっと待ってくれ」

村に入ろうとすると、青の混じった白髪の少女に呼び止められた。

「なんだ」

「ああいや、気分を害したのならすまない。ただ人里に君のようなものが居たかどうか、気になってね」

本当にすまなそうに言う少女。それに

「ああ、別にいいよ。確かに俺はここの人間じゃねぇしな」

と答える。

「そうか、まさかとは思っていたが・・・・・・・・私はこの里の守護と寺子屋をやっている、上白沢慧音という者だ。君は?」

「木場。木場修太郎だ」

右手を差し出される。握手、だろうか。此方も握り返す。

うんうんとその答えに満足したかのように首を振る上白沢。

しかしその後、急に深刻そうな顔になり、ぶつぶつと呟く。

「まさかそんなことが・・・・・・・・いや神隠しのような事もあるし・・・・・いやでも・・・・」

「・・・・・・ところで上白沢さん「慧音でいいよ。私も修太郎と呼ばせてもらう」―――慧音さんよ。ここは何処なんだ?」

我ながら荒唐無稽な問いだと思うが、しかし慧音さんはそれが当たり前だというが如く、「そうだな、先ずは――――」と切り出した。

その話を聞いて、少し頭がクラリとする。幻想郷?妖怪?信じらんねぇよ。

「そんなのは、京極堂の領分じゃねぇかよ」

「京極堂?」

「ああ、あんたには分からない事だったな」

ただの戯言だ、というと、慧音さんはいいや、違う。と答えた。

「どこかで聞いた事があったんだ。思い出したよ。確か、さっき言った境界を操る妖怪の八雲紫という方がね、たしかその京極堂とか呼ばれている人に最近惚れ込んでいて通い妻状態で困るとその式に相談された事があった」

思い出した、思い出した。と言う慧音さん。本当かよ。

「あのな、一応その京極堂って野郎は所帯持ちだぞ。ずっと小難しい本ばっか読んでいる変人だ。子供こそ居ねぇが、妻はいるぜ」

なっ、と目を見開く慧音さん。まあそうだろうな。つまりは不倫しているってことだ。

「アレほどまでの大妖怪が一体何を考えて」

「別に、何も考えてねぇんじゃねえのか」

「・・・・・・・・案外、そうなのかもな」

いって、アハハと笑う慧音さん。

「然しよ、ホントどうやって帰ればいいんだよ慧音さん」

そう言うと慧音さんは少し困ったような顔になり、出来れば『さん』付けもやめて欲しいのだが、と切り出した。

「まあ、明日には博麗の巫女にも相談しよう。そういえば前もこんな事があったし、何か対策を打つことは出来るだろう。本当なら成る丈早いほうが好ましいのだが、今は生憎夜だ。妖怪たちも活発になっているだろうし、流石に守りながら、と言うわけにも行かない。だから今日は家にでも泊まっていけ」

なっ、と声が詰る。

「どうした」

「いや、どうしたじゃねえよ慧音。若い男女って程俺は若くねぇがそれでも若い娘さんが早々男を泊めようとかするのは良くねぇと思うぞ」

本心である。自分はそこまで女性が苦手なわけではないが、これは苦手以前の問題であると思う。

しかし慧音はおどけた風に、

「良くないって、良くないことをするつもりなのか?」

といって笑う。

「いや、そうじゃねぇがな、これは道徳的なモンだろうがよ」

言うが慧音は、

「何もしないんだろう?なら大丈夫さ。夜は妖怪の動きが活発になるからこの辺で野宿をする訳にも行かないだろう。かと言って今から人里に行っても起きている人間は居ないさ。さ、こっちだよ」

そう言って手を引っ張ってくる慧音。結局その日、俺は慧音の家に泊まった。




「・・・・・・・朝、か」

あの後、慧音が客用の布団を出してくれたのだが俺はそれを丁重にお断りし、床にごろ寝する事にした。

「おーい修太郎。ご飯が出来たぞ」

慧音が呼ぶ。甲斐甲斐しくメシの世話まで慧音はしてくれたらしかった。

「・・・・・・しかも美味いし」

「む、私の料理が美味いと何か駄目なことがあるのか?」

何が駄目ってこの状況が駄目だよ。

「いや、なんでもねぇよ」

しかしそんな事は口に出さず、言う。

「うん、美味い」

そうか、それは良かった。と笑う慧音。

メシの後、慧音は寺子屋で授業があるというので俺は人里を歩く事にした。

人里には当たり前だが沢山の人がいた。道行く一人に昨日聞いた『阿求』と言う人を探している、と言うと、直ぐに教えてくれた。

人が出来ていると思う。

阿求、と言う少女は紫っぽい髪の色をしていた。妖怪の事について色々聞いていると、京極堂の持っている妖怪の本に載っているような奴は殆ど居ないらしい。

昼に慧音が作った弁当を食った。これも予想通りかなり美味かった。

慧音が合流し、博麗神社に行った。

「待っていたわよ」と金の髪の女――――慧音は八雲紫といっていた――――が言う。

八雲紫の後ろにリボンでくくられた目の大群が出て、俺はその中に入った。

「今までありがとうよ、慧音」

そう言うと慧音は、

「ああ、こちらこそ。楽しかったよ修太郎」

と返した。

その言葉に少し笑いながら、俺は隙間の中へと消えた。






「・・・・・・・・・見慣れた天井だ」

やけにはっきりとした夢だな、と思う。

実は俺は、何か特殊な思想でも持っているのかもしれない。そう考えると身震いが起きた。こういうときの相談相手は、やはりあいつだろうな、と思う。

眩暈坂――――と言うらしい坂を上り、京極堂、と書かれた本屋に入る。

そこの主、京極堂に事のあらましを説明すると、京極堂は大層愉快そうにして、言った。

「それは、枕返しですよ旦那。枕返しはただ枕を裏返すだけでなく、北枕にして人を殺したり、人を夢の世界に誘ったりする事もあるのです」

そう言い、京極堂は頼りがいのある事を言った。

「この世には、不思議な事などないんですよ、旦那」






東方夢現郷  ~枕返しの徒~(まくらがえしのいたづら)  【了】






アトガタリ

どうも、蛇口の蛇です。

今回のお話、慧音と木場のお話なのですが、甘めに出来たでしょうか?出来てないでしょうね。

しかし、敢えて言います!自分で書いといてなんですが、木場が羨まし過ぎると!!!

慧音は僕の嫁なのに・・・・・・・・。

あと作中での通い妻発言。アレは本人たちの友人付き合いは周りから見れば唯のバカップルだと言うことです。

それでは次は『いさま』か『多々良』か『堂島』になると思います。

それでは、次のお話で会いましょう。






[6755] 東方老河抄(とうほうろうがしょう)  ~迷わし神の肴~
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/02/23 19:02
このお話のにとりは、少し性格が違ったりしているかもしれません。御勘弁ください。








キィ、とまだ暗いうちからドアを開け、出かける。

オブジェのところに休業中と書かれた札を刺し、歩く。

目的の場所は、実は無い。夢で見た湖が、川が、とても綺麗だったから、山を流れる川で釣りをしようと思ったのだ。

ガサリ、と草を掻き分け進む。山を目指していくと、案外簡単に川を見つけた。

折りたたみ椅子を広げ、座る。釣り針に餌を付け、ポチャン、とさらさらと揺れる水面に投げ入れる。

「おじさん、釣れてる?」

暫らく釣りを楽しんでいると、川から水色の髪をし、緑の帽子を被った少女が話しかけてきた。

「うん、ぼちぼち」

そう言って魚籠(びく)を見せる。へえ、結構居るもんだね、と言った。

「うん。いい川だよ。ここは」

そう言う。少女はへへへ、と笑い、言った。

「私は河城にとり。にとりって呼んでよ。おじさんは?」

「伊佐間一成だよ。よろしくね。にとりちゃん」

そう言って手を出す。にとりちゃんは握り返してくれた。うん、やっぱりいい子だ。

「しかし大変だったでしょうおじさんも、ここまで来るのは。いろんな妖怪とか獣も出るし」

その言葉に首をかしげる。獣、と呼べるほど大きな生き物には出会わなかった。その上妖怪など、京極堂の本くらいでしか見た事が無い。

「妖怪?なに、それ」

「ええ!?」

知らないの?とにとりちゃんは驚く。知らないも何も、あれは京極堂の本や言葉の中にだけあるようなものだと思っていた。

「そっかーじゃあもしかして、おじさんは外から来たのかもね」

外?と聞く。にとりちゃんはうん。と答えた。

にとりちゃんの話を聞き、少し考える。外の世界と幻想郷、か。

「私も河童なんだよ、おじさん。他の人はそう考えてないけど、河童と人は友達でね、私は人が好きなんだ」

他の河童は川に流されるような間抜けじゃないとそうそうこんな所には来ないよ。と、にとりちゃんは笑う。

「ふぅん。あ、かかった」

竿がピクリピクリと動く。タイミングをはかり、吊り上げる。

「わー結構大きいのが釣れたね」

うん、と頷く。

「あげる」

そう言って釣った魚を渡すと、にとりちゃんは良いの?と聞き、それに頷くと笑ってありがとう、と言ってくれた。

つくづくいい子だと思う。

椅子をたたみ、竿を肩にかける。この辺に湖はあるかと聞くと、にとりちゃんは、

「人里とか一部を除いたら幻想郷は妖怪が出るし、そこは妖精が出るから、気を付けてね」

と言って湖までの道を教えてくれた。しかし途中で何か思いついたように、ポン、と手を打った。

「ああ、じゃあ私も付いていくよ」

そう言ってにとりちゃんは手をとって走っていった。




「きゅう~~~~~~」

湖。

にとりちゃんが案内してくれた所は、妖精というものがたくさん居た。しかしにとりちゃんは光る弾を発射し(これがにとりちゃんの言う弾幕だそうだ)撃退して行ってくれた。

後ろには青い服を着た子供が居る。雪ん娘のチルノと言うらしい。最強と言うわりには案外簡単に負けていた。

「結構釣れるね。妖精がいっぱいいるから居ないんじゃないかと思っていたよ」

その言葉通り、スイスイ釣れる。俗に言う、入れ食いだろう。

「うん。いっぱい居るよ。またかかった」

すい、と吊り上げる。さっきまで暴れていたとは思えない。

「本当に良く釣れますね。チルノちゃんが良く凍らせていたのでカエルは居ると知ってたんですが」

大妖精ちゃんも簡単の声を上げる。

何時の間にか昼が過ぎ、にとりちゃんは時計を見て「そろそろ帰らないと本格的に妖怪が出てきて大変だよ」と言ってくれた。

「うん。じゃあ、帰ろうか」

と言って大妖精ちゃんに別れを告げ、にとりちゃんに連れられて帰った。

通ってきた山を通る。その前に、水の入った魚籠を見た。内側に葉っぱを敷き、水が漏れないようにしたそれの中には、魚が何匹か泳いでいる。

「じゃあね」

と言い、山を通る。暫らく歩くと、見慣れた町が見えた。

オブジェに刺さっている休業中と書かれた札を取り、中に入る。

水槽を出してきて、魚籠に入っている水ごと、魚を入れた。

楽しそうに泳いでいる。ゴカイを入れると、先を争うように食べた。

少し思うところがあり、京極堂に電話を入れた。

「やあ、京極堂。久し振りだね。今日こんな事があったんだよ」

そう言ってことの顛末を話すと、京極堂はハハハと笑い、言った。

『それは迷わし神だ。人を迷子にさせる妖怪でね、『迷う』は『惑う』に通じる事から幻覚を見せる事もあるんだ』

そう言って京極堂は少しためを置き、言った。

『この世には、不思議な事などなにも無いのだよ伊佐間君』

その後、そろそろご飯にしようかと釣具を片付け、魚の変わりに貰った傷薬を手で弄び、大事に箱にしまってから台所へ向かった。

今日は何を作ろうか。

そうだ。魚と胡瓜で和え物でも作ろう。





東方老河抄(とうほうろうがしょう)  ~迷わし神の肴~    【了】







アトガタリ

蛇口の蛇です。

如何だったでしょうか『東方老河抄』。伊佐間とにとりのほのぼの加減が表現できていればいいのですが。

やっぱり京極堂に締めを任せると簡単ですね。

毎度毎度読んでくださっている方、ありがとう御座います。これからもどうぞ、御贔屓に。



[6755] 東方変異帳  ~辻神の古~(つじがみのいにしえ) 東方風
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/02/22 19:25
これには東方風と書かれていますが、別に『東方妖恋話(とうほうようれんわ)』のようなものではなく、ただただ京極のほうよりも出てくるキャラが一人多いというだけです。

御注意ください。









ザッザッザッザ。

足を踏み鳴らす音がする。

軍隊である。銃を肩にかけ、歩いている。

「よし、止まれ」

そう中隊長の大尉が声を張り上げる。皆思い思いに休憩を取る。

「軍曹、周りを見渡してどうした」

私は中隊先任の軍曹に声を掛ける。軍曹は何時もの如くひょうきんな口調ではい、と答える。

「この辺りは自分の故郷なのですが、この辺りは神隠しが良く起こると言われていまして。それも夏になると一層多くなるのです」

そう頭を掻きながら言う。しかし私も何時もの口調で、

「何を言っているんだ。この世でそんなばかげた事が起こるわけが無いだろう。そんなものは大抵人攫いか遭難だ。冬山なら兎も角、今は八月だ。八甲田山じゃないんだぞ。それに、陸軍の一個中隊を攫おうとする豪快な人攫いが居てたまるか」

そう答える。軍曹は、『勇敢な小隊長殿で心強いです』と笑った。

「おい、小隊長は集まれ」

中隊を率いる大尉が呼ぶ。じゃあな、と軍曹に別れを告げ、大尉の元へ行く。

「どうされました」

「ああ、これは他の兵には内緒だぞ」

実はな・・・・・・・・と切り出す。

「もうとっくに山頂についていてもおかしくない頃合なんだ。それに、空気がおかしい。木も種類が何時の間にか変わっている」

何か知らないか、と聞く大尉。

「軍曹が言っておりましたが、ここは夏場は特に神隠しが盛んになるようですが」

先程宮城の言っていた事を言う。すると中尉が、

「そんな事、あるわけが無かろう」

と言った。

「まあ、何でもいい。とにかく気をつけて――――「ギャーーーーーーーーーーー!!」―――――何があった!?」

「報告します!」

叫び声が聞こえ、軍曹が息を切らせて飛び込んで来る。

「奇妙な異国の童女が現れて、妙な光弾を放ちながら隊員を食っています!」

なにィ、と中尉が叫ぶ。

「そんな事があるわけ―――「総員戦闘準備!」―――はい?!」

一瞬で判断を下した大尉は、銃を持って軍曹の前を走る。

「わはーーーー♪」

そこでは確かに、異国の少女が妙な弾を放ちながら隊員を貪っていた。

中尉はそれを見てどこかへ逃げてしまった。大尉は陣を組ませ、銃を撃たせた。

しかし、当たらない。

当然だ。幾ら兵隊といえど人間。空を飛び何も見えない暗闇を撃つ戦闘など、これが初めてだろう。

暗闇は球状になっており、ふらふらと動いている。少女を中心として出てきた闇だ。それが空でフラフラと蠢いている。

「くそ、少尉、貴様は有りっ丈の兵を集めて逃げろ」

その言葉に失っていた意識を取り戻し、私は兵を呼び寄せた。



「少尉殿、大丈夫ですか」

一面の向日葵畑。私は軍曹に連れられ歩いていた。

あの少女を撒いた後、西洋の妖精の様なものがたくさん現れ、残った人間は数人になった。

「・・・・・・・中尉」

呼ぶ。途中で見つけた中尉はガチガチと振るえ、既に正気を失っていた。

「くそ、この世にこんな事があるわけが」

「あら珍しい。外の人間がそんな大勢来るなんて。自分で死地まで歩かせるなんて、紫も趣味の悪い事をしている、ってとこかしら」

声のするほう――――即ち上空を見上げると、緑の髪の女がいた。

「なっ」

「ふふふ。あら、そこの貴方。なに食べているの?」

目線を辿るとそこには、向日葵に齧り付いている中尉。

「あらあら面白い事をやっているわね。死になさい」

ドドドドドドとあの光の弾が飛ぶ。咄嗟に伏せた何人かは生き残ったようだが、そのほかのものは肉片さえ残らなかった。

「あら、若干生き残っているわね。まあ良いわ。さっさとここから立ち去りなさい」

そう言われ、出方が分からない、というと女は

「そうね。とりあえずその辺り歩き回っていたらここからは出られるんじゃないかしら。まあ、私が出してあげても良いのだけれど」

そう言い、コキリ、と指を鳴らす。ヒィ、と銃を構える隊員を必死になって抑える。

「我々も帰りたいのだが、この一面の向日葵では何処へ行けばいいのか見当も付かない。東西も分からず困っている」

「なら、前に進めば?」

前向きなのは良い事よ、とクスクスと笑う。

「・・・・・・・・・中隊、前へ」

それじゃあね、と言う女の声を聞きつつ、前に向かう。

暫らく歩き、一人、また一人と部隊にいた人間は死んでいき、ついに私独りになった。

「違う、ありえない、こんなことがおこるはずが無い、この世には、この世には、この世には―――――――――」

ザリ、と音がし、私は前を見やる。

そこには、内臓が吹き飛び、頭も四分の一ほど無くなっている軍曹がいた。




ふと気がつくと、見慣れない天井があった。

どうやら私は倒れているのを地元の村人に発見されたらしい。

大隊付き参謀が私を引き取りにき、事のあらましを説明した。

「こんな奇妙な事が、起こるはずが無い」

参謀の呟きをを聞いた。駄目だ、それを言ってはいけない、と自分に言い聞かせる。しかし、言ってしまった。

「参謀殿」





「この世には不思議でない事などなにもないのですよ」





『事故』で壊滅してしまった部隊の唯一の生き残り、堂島静軒が発見された、ある夏の事である。




東方変異帳  ~辻神の古~(つじがみのいにしえ) 東方風 【了】





アトガタリ

蛇口の蛇です。

やはり難しいですね。ちょっと変になっちゃったかな。

感想お待ちしております。







[6755] 東方変異帳  ~辻神の古~(つじがみのいにしえ) 京極風
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/14 00:30
このお話は、『東方変異帳  ~辻神の古~(つじがみのいにしえ) 東方風』を、改定し、別の物語としたものです。御注意ください。







ザッザッザッザ。

地元の者でさえ滅多に入らないという深い山に、足を踏み鳴らす音が響いた。

これから三日間、この山で訓練をする事になっている帝国陸軍の歩兵中隊である。

「よし、止まれ。大休止」

中隊長が声を張り上げると、兵たちは皆ほっとした顔になり、水を飲んだり用を足すために藪に入ったりした。


兵の様子をそれとなく見ていた私は、全員が安心しっきている中で、一人だけ浮かない顔をしている者を見つけた。

「軍曹、どうした。腹でも痛いか?」

私は小隊最古参の軍曹に声を掛けた。

彼は何時もの如く、いかにも古参の下士官といった気張らない口調で、いえ、下らん事なのですがと答えた。

「この辺りは自分の故郷なのですがね、神隠しが良く起こると言われていまして。

それも夏、丁度この位の季節になると一層増えるそうで。ちょっとその事が気になりま
して」

と、頭を掻きながら言う。

私は出来るだけ将校の威厳を込めようと努力しつつ言葉を発した。

「軍曹、御一新(明治維新)前じゃないんだぞ。神隠しなんて非科学的なものが存在してたまるか。

この世に不思議な事なんてなにもないんだ。

そんなものはな、大抵道に迷ったか人攫いにあったかだ。

冬山なら兎も角、今は八月だ。八甲田山じゃあるまいに。

それに、完全装備の一個中隊を襲おうとする命知らずな人攫いが居てたまるか」

そう答える。軍曹は、『勇敢な小隊長殿で心強いです』と笑った。

その時、伝令兵が近づいてきて私に声をかけた。

「お話のところ失礼します。中隊長殿がお呼びです」

じゃあな、と軍曹に別れを告げ、兵たちが休んでいるところから少し離れた中隊長の元へ行く。

するとそこには既に他の将校たちが集まっていた。

「申し訳ありません。遅れました」

「かまわん。みんなそろったな。

話の内容を兵たちに聞かれないように注意しろ。士気に関わる」

中隊長はいつに無く深刻な表情で、実はな・・・・・・・・と切り出す。

「さっきからどうにも様子がおかしい。持ってきた地図によると、もうとっくに森を抜けているはずだ。不審に思って手持ちの兵を斥侯に出したんだが、2時間たっても戻ってこない。山に慣れた奴らを選んで、地図やコンパスも持たせたから、まさか道に迷っている訳でもないだろうが」

何でも良い、何か不審に思った事はないか、と中隊長は周囲を見渡す。

私はふと思いついて先程の軍曹との会話の事を説明した。

すると第二小隊を預かる中尉が、馬鹿にしたように鼻で笑った。腹が立ったが、珍しい事ではない。私はこの神経質な先輩と折り合いが悪いのだ。

それに、この場合は神隠しなどと口走った私のほうも悪い。

「まあ、少尉の言う事はおいといてだ。何らかの対策は必要だろう。場合によっては訓練を中断して山を下りる事も考えねばならん」

険悪な空気を嗅ぎ取ったらしい中隊長が、助け舟を出してくれた。

ここら辺の心配りが部下たちに慕われる所以だ。

「まあ、何でもいい。とにかく気をつけて――――『ギャーーーーーーーーーーー!!』―――――何があった!?」

「報告します!」

叫び声が聞こえ、中隊長付きの伝令兵が走ってくる。

「空を飛ぶ異国人の童女が現れて、妙な光弾を放ちながら兵を襲っています!」

なにィ、と中尉が叫ぶ。

「そんな事があるわけ―――『俺の後に続け』」

中尉のヒステリックな叫びは、中隊長の怒声にかき消された。中隊長は拳銃を抜くと、真っ先に駆け出した。一瞬遅れて私や他の将校たちも後に続く。

「わはーーーー♪」

そこでは確かに、金色の髪を持った異国人風の童女が妙な弾を放ちながら兵士たちを襲っていた。

自由自在に空を飛び回っては兵士たちを光弾でなぎ倒していく。

兵たちも散発的に打ち返していたが、空を飛んでいる敵に中々当たるものではない。

私はあっけにとられて立ち尽くしてしまった。

童女こっちに飛んでくる。とっさに拳銃を構えて引き金を引くと、偶然童女に命中した。

しかし効かない。

「いったーい。よくもやったなー、許さないんだから」

童女はその外見に似合った可愛らしい声を上げるといったん上空に飛び上がった。

体勢を立て直すつもりか。

中隊長はこの機会を見逃さなかった。即座に戦闘準備を下令する。

理不尽な事態に怯える一人の人間から、軍隊と言う戦闘装置の歯車へと変化した兵士たち

は、日ごろの訓練どおりに密集隊形をとり、銃口を四方八方に向けた。



私は僅かに生き残った兵と共に山道を歩いていた。

中隊は一時は持ち直したものの、あの童女の圧倒的な力に一時間を待たずに全滅した。

中隊長が戦死した後は、それこそ総崩れだった。

最後まで勇敢に戦おうとしていた彼の頭が一撃で吹き飛ばされるところを直接目にした。

他の将校たちも恐らくは皆戦死してしまったのだろう。

私は自分の小隊の生き残りを連れて撤退した。

二十人足らずに減った我々には更なる困難が待ち構えていた。

羽の生えた小さな少女の大群。

おかしな向日葵畑。

私たちは一人、また一人と数を減らし、いつしか生き残ったのは私と軍曹だけとなった。

そこで私の記憶は一度途切れる。



私は朦朧とした意識の中で、誰かに背負われていると気付いた。

夜のようだった。

気力を振り絞ってかすかに目を開くとそこには見慣れた軍曹の顔があった。

「すま・・い。ありが・・・」

「しゃべらんで下さい小隊長殿。もうじき村があります。小隊長殿は助かりますよ」

確かに道がだんだん開けてきている。

農家のわらぶき屋根を見たとき、私は安心感から意識を失った。



気がつくとそこには見慣れない天井があった。

私は山のふもとで地元の農民に助けられたのだという。

ここは村長の家だということだ。

少尉の階級のおかげかもしれないが、村長は私を丁重にもてなしてくれた。

しかし、ありがたく粥をいただきながら、一緒に助かったはずの軍曹の事をきくと、村長は怪訝な顔で

「はあ、あの死体でしたら・・・」
と言った。

まだ寝ていなさい軍隊に人をやりましたからもうすぐ医者も来ます、という静止の声を振り切って、私は村長の家の納屋に寝かせてあるという軍曹の遺体を確認した。

死んでいた。間違いなく。

それも、そこに在ったのは軍曹の上半身だけだった。

そのときになって、思い出した。

彼はあの向日葵畑で下半身を吹っ飛ばされたのだ。

彼が私を背負ってきてくれたはずが無い。

理屈に合わない。

しかし、心のどこかで、私を助けてくれたのは軍曹だと確信していた。

あの声が耳に残っている。

そんな事もあるのかもしれない。あの場所なら。

いや、あそこに限った話ではないのかもしれない。

そう。この世には。この世には。


大隊付き参謀が自ら軍医と兵を連れてやってきたのはそれから半日ほど後だった。

参謀は『唯一の生き残り』である私から事情を聞きたいとのことで、私は問われるままに全てを語った。

童女の事。

妖精の事。

向日葵畑のこと。

軍曹の事だけは言わなかった。

「馬鹿な。しっかりしろ。この世にそんなおかしな事があるか」

参謀殿は声を荒げた。

違いますよ。参謀殿。

この世には

そう、この世には

「この世には不思議でない事などなにも無いのですよ」

そう言って、

私は

愉快そうに

笑った。




『事故』で壊滅してしまった 中隊の『唯一の生き残り』堂島静軒少尉が発見されたのは、

ある夏の盛りの事である。









東方変異帳  ~辻神の古~(つじがみのいにしえ) 京極風






アトガタリ

どうも、蛇口の蛇です。

このお話の辻神は堂島の事です。堂島(=辻神)の昔(=いにしえ)ということです。念のため。









[6755] 東方蟲鳥造(とうほう こちょうづくり) ~病虫の貢~
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/26 08:27
「さあキリギリスちゃんたち、餌だよ」

そう言って更々と匙で掬った粉を撒く。また、楊枝で胡瓜を刺し、砂に突き刺す。

トクン・・・トクン・・・

何時も元気で可愛いこの子達だが、今日は何故か元気が無い。

トクン・・・トクン・・・

キリギリスのケージの蓋を閉め、蟋蟀(コオロギ)のゲージを開ける。

トクン・・・トクン・・・

その繰り返しで松虫、飛蝗(バッタ)、鈴虫、轡虫(クツワムシ)。《トクン・・・》沢蟹(サワガニ)や蝸牛(かたつむり)など、《トクン・・・》一つ一つ丁寧に餌を与える。

最後のケージ。蛍の幼虫のケージを開ける。《トクン・・・》隣にある餌箱から巻貝や蚯蚓(ミミズ)を何匹か取り出す。

トクン・・・トクン・・・トクッ・・・・・・・・・・・・

体から力が抜け、前に倒れる。「旦那様、旦那様!」後ろから僕を抱き起こす使用人の声がする。

しかし、そんな事に構っていられない。僕には蛍ちゃん達に餌を与えると言う重大な役目があるのだ。離しなさい。蛍ちゃん達が死んでしまうじゃないか。死んではかわいそうだ。離しなさい。離せ、離しなさい。

フッと飛ぶような感覚を覚え、僕は何処かへ行ってしまった。




「ららら~~♪鰻ー鰻ー八目ー鰻~~、お客は来ない~~誰一人~~♪」

面白い歌が聞こえる。

「ひ~とり~もこーなーいー♪寂しいー寂しいー鰻屋~~」

鰻~鰻~、と歌う。どうやら二番に入ったようだ。曲調は同じだが、中々上手い。歌詞も楽しい。

「おーいしい鰻~誰もー来ないー鰻屋~~~・・・・・ふー、こんな物かな」

屋台を拭いていた手を止め、額の汗を拭く。今まで隠れていて見えなかったが、声の主の少女は羽が生えていることに気がついた。

凄い。

羽の生えている少女など、今まで見た事が無い。

その少女が『美味しい鰻』と言っているのだ。これは食べないと損だろう。

「確かに美味しそうだねぇ。一つ、頂戴」

聞く。店からは美味しそうな臭いが香る。確かにいい香りだ。

「あら、人間がこんなところに何の用かしら。食べられたいの?・・・・・・まあ良いわ。人間って気分でもないし。はい、これ」

そう言われ、蒲焼を渡される。一口齧る。うん、確かに美味い。

一口、もう一口と齧る。半分ほど食べたとき、誰かが来た。

「やっほーミスチー。あれ、人間?何でこんなトコに居るの?」

それは緑の髪の少年だった。ミスチーと呼ばれた少女の方へ行きつつ問う。

「知らないわ。でもまあ、良いんじゃない?別に。久々のお客さんだし」

ふーん、と唸りながら此方に奇異の視線を向けてくる少年。触角が生えている。

「触角、か。そういえば」

あの蛍ちゃんたちは、大丈夫だったろうか。と呟く。

「蛍?何かあったのおじさん」

少年が異常に食いつく。いやね、と説明をする。

「僕の育てている虫がいてね。蛍ちゃんの幼虫に餌を与えるのを忘れていたんだ」

外国の肉食の蛍にも餌を与えていない。困った事に気が付いたなぁ。と頭をかく。

「・・・・・・虫を飼っているの?」

「飼っているんじゃないよ。育てているんだよ。彼らは僕の子供みたいなものだし、実際自分の子よりかわいいよ」

そう言うと少年は目頭を抑え、そうだ!と言った。

「私は蛍の妖怪のリグル。そんなに虫が好きならこれをあげるよ、おじさん」

そう言い、手を器を持つ様に広げ、二匹の蛍を差し出した。

「それはもう外には居ない、『幻想』になっちゃった種でね、普通の蛍と同じ生態のつがいだから、かわいがってよ」

「リグルは虫の地位向上に努めているからねぇ。分からないでもないかな。私も焼き鳥反対だし」

そう言って二匹の虫を渡してくる。ミスチーちゃんは「あ、あと私は夜雀のミスティア。名乗らなくても知っていると思うけど宜しくね、おじさん」と名乗った。

「・・・・・・ありがとう。そろそろ、僕も行かなきゃならないな」

そんな気がする。早くこの二匹を部屋に入れなければ、という喜びもあるが、それ以上に蛍やその幼虫たちに餌を与えなければならない、という焦りもある。

「それじゃあね。ミスティアちゃん。リグル君」

そう言い残し、去る。後ろから「私は女の子だー!!!」とか聞こえたが、気のせいだろう。「ああ、鰻代貰ってない!」とも聞こえた。しかし、気のせいだろう。




「うん?ここは・・・・・・」

「ああ、気が付いた、良かった」

周りを見ると、どうやら自室のベッドのようだ。礼二郎が頭を押さえている。どうしたのだろうか。

「ああ、思い出した。蛍に餌をやらないと」

そう思い、知らず柔らかく握っていた手を開く。その中には、二匹の蛍握られていた。

「・・・・・・・・この子達の家も作ってやらないと」

そう言い、話しかける。

新しい家族の蛍、リグル君とミスティアに。




東方蟲鳥造(とうほう こちょうづくり) ~病虫の貢~  【了】





アトガタリ

蛇口の蛇です。

お久し振り、になるのかも分かりません。蛇です。理由は、テストがこれを書いている三日後に迫ってきているからです。

さて、今回の『蟲鳥造』。『蟲鳥』とは『胡蝶』、つまり榎木津幹麿は胡蝶の夢のようなものを体感したという事です。

毎回呼んでくださっている方々、ありがとう御座います。

蛇でした。







[6755] 橋姫の疑
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/09 16:45
このお話は東方が最後の最後しか出てきません。御注意ください。




【千鶴子】

パタパタと埃を払い、せかせかと畳に落ちた塵を掃く。

周りを見渡せど、本、本、本本本本本本本本。本以外に目に付く物など殆ど無い。

「こんな物ですかね。全く家の秋彦さんももう少し売り物を売ろうと努力なさってくれれば掃除も簡単なんですが」

呟く。実際は売る気が無い上に売れるような本を余り仕入れないだけなのだが、そんなこと知ったことではない。

「あら、何かしら、これは・・・・・・・・・・・・・」

キラリと光ったその糸のようなものを拾い上げる。しかしそれは糸ではなく髪で、黒ではなく金色だった。

「・・・・・・お客様かしら」

言ってみるが、違うとは分かっている。外国の方がいらっしゃったのならば、御近隣の皆様も尋ねるくらいはしそうな物だ。

神職とはそういうものだ。

世間体があるからこそ、すぐにそう言う物は噂になる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ならば、この髪の主は誰だ?

誰も見ない、見られない時分に来たのか、秋彦さんが行って、帰りについたのか。

カツラでも被っているのだろうか?それとも異国の技術でもって髪を染めたのだろうか。そうであって欲しい反面、そんな秋彦さんは嫌だ。

「・・・・・・・・・・・・・・」

敦子さんにでも、相談しよう。

今はそれが、一番だろう。





「ええっ!浮気ですか!?」

そうなんですよ、と叫ぶ敦子さんに答える。

「そんなことが・・・・・・・・そういえばその兄さんは今何処に居るんですか?」

「何でも、神戸のほうで古本市があるとかで、出かけています」

はー、と頭を抱える敦子さん。

「本当何考えてんだかあの風来坊は」

「本当に、敦子さんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいですよ」

そう言って、笑う。

「うーん、それじゃあ身近な人から洗って見ますかねぇ。関口さん・・・・・・・は無理として、多々良先生や沼上さんに、木場さんや榎木津さんですか」

お願いします、と私は頭を下げた。





* 風来坊 何処からともなく現れる人。





【敦子】

千鶴子さんに兄さんの浮気(?)について調べて欲しいと頼まれたとき、凄く吃驚した。

あの書痴は何をしているのか。千鶴子さんのような良い妻を娶り、(恐らく)外国の人と浮気だなんて。

「さて、それじゃあ先ずは・・・・・・・・・」

手帳を開き、中の文字に目を移す。つらつらと綴られた文字は、私の友人や知り合いの住所が書かれている。

「先ずは・・・・・・・・ここですかね」

あの妖怪馬鹿の友人と言えば、この人を置いて居ないだろう。





「おや、君は編集者の・・・・・・・・ヌッ、ヌッ」

「中禅寺敦子です。お久し振りです多々良先生。それと、一応編集の名前くらい覚えておいてください」

そう言って、笑う。多々良先生は「すいません、名前を覚えるのは苦手なもので」と頭を下げた。

「ところで、何のようですか。〆切りは、まだ先でしょう」

多々良先生は現在、《稀譚月報》に《失われた妖怪たち》を連載している。この間までの塗仏や泥田坊を終わらせて、今は手の目と言う妖怪のことを書いている。

河童で二年くらい続けようと言いだしたのは記憶に新しい。連載相談を受けた編集がやつれて帰ってきたのは驚いた。

その後、稀譚社の人間全員に怒られて、流石に自重したようだ。

「それで、何のようですか」

台所からかたかたと音を立て、盆に二つの湯飲みを持った多々良先生が聞いてきた。ありがとう御座います、と礼を言って、口をつける。

「実はですね、私の兄を御存知でしょう」

「ああ、知っていますよ。中禅寺君でしょう。彼とは妖怪仲間でね。よくしてもらっているよ」

途中から少しため口が混じっている。興奮でもしているのだろうか。もしかすれば、昨日はあの家で兄さんと妖怪のことを話していたのかもしれない。

「その兄のですね、奥様から相談を受けまして・・・・・・」

私は、先生に事を伝えた。

「・・・・・・なるほど、浮気ねぇ。中禅寺君が、か。一概には信じられないけど、本当のことなんだよな」

先生は顎を抑え、ぶつぶつと呟く。

「あの、先生。兄に何か変わったことはありませんか」

そうだね、と言う。

「そういえば、最近少し柔らかくなったかな」

「柔らかく?」

「うん。何と言うか、雰囲気がね。少し前までは、死神に食中毒と虫垂炎と胆石が一度に来たような顔だったけど、今は胃潰瘍と盲腸くらいの雰囲気になってる。かなり違うよこれは」

そう言って先生は、あと―――と続けた。

「最近関口君に優しいかな。少しフォローしてる。今までじゃ考えられない事だよ」

そういえばこの前雪絵さんが『タツさんがまた引きこもって中禅寺さんの名前を震えながら呟いていて困っている』と相談を受けたのだった。なるほど、それが原因か。

「そうですか。ありがとう御座いました」

そう言って、私は足早に次の目的地へと向かった。






「おお、敦子ちゃん、久し振りじゃないか!」

《榎木津探偵事務所・薔薇十字探偵団》と書かれた榎木津ビルディング三階の扉を開け、中に入る。

「お久し振りです。榎木津さん。実は折り入って相談がありまして・・・・・・・・・」

言う。榎木津さんは、「相談?ああ千鶴ちゃんのやつか」と言う。

「ええ、実はですね・・・・・・・・」

そう言い、私は滔々と事を話した。



「なるほど、京極堂が浮気か!アッハッハッハ!」

笑い事じゃないですよ、と少し怒ったように言う。

「うん、分かった。この僕が直々に調べてやろう。マスカマや和寅には言わないほうがいいだろう」

お願いします、と私は頭を下げた。





【千鶴子】

「ふぅ、只今帰ったよ」

ガラガラと本を一杯に抱えた手で器用に戸を開ける秋彦さん。お帰りなさい、と少し苛立ちながら答える。

「あ、兄さん。何やってたの!浮気だなんて正気!?」

敦子さんも向かっていく。

「浮気?何の事だい。僕は知らないよ。それよりも千鶴子。お土産だ」

本を床の間に置き、小さな箱を手渡してくる。

「これは・・・・・・・・・」

それは、首飾りだった。楕円の半円上になっており、平べったい方には今日の日付が記されていた。

「何時も何時も迷惑をかけていたからね。少し奮発して買ってみたんだ。その時に知り合いの女性にどんな物がいいか聞いていてね。大方、それを見られたかなにかしたのだろうさ」

そう言う秋彦さん。

「・・・・・・・ありがとう御座います。すいません。疑って」

別にいいよ。紛らわしい事をしていた僕にも責任があるからね。と秋彦さんは言う。

今日の夕飯は、奮発しようと思う。











【オマケ】

「やれやれ、危ないところだった」

中々豪華だった夕飯を食べ終え、僕は本を読み始めた。

「ふふふ、でも良かったじゃない。説得されてくれて。榎木津とか言う人も、知らせてくれたしね」

ああ、そうだな。と横から入ってきた声にこたえる。

「しかし榎さんに借りを作る事になるとはな。それと、今度から気をつけてくれよ。こんな事にならないように」

「善処するわ」

くすくすと隣から聞こえる笑い声。その声を聴きながら、僕は読書に集中した。






題名未定







アトガタリ

どうも蛇です。

このお話の題名は決まっていません。何故なら

『このお話に当てはまる妖怪&漢字一文字が分からない』

と言う問題が発生したからです。

とりあえず東方はオマケにしかないから『東方~~~』て言うのは除けてもいいかな、と思っています。

ということで、皆さんに考えていただきたく思います。え?あ、はい『妖恋話』みたいなものですよ?でもやる気が無いのとは違うんです。はい。

といっても九人くらいしか僕の知る限りの読者は・・・・・・・・・・あれ?十分じゃね?

お願いします。蛇でした。



[6755] 東方神人伝 弐之巻  ~唯一神の暇~(ゆいいつしんのいとま)
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/08 21:07
「ヒマだぞ京極」

「なら帰りなさい榎さん」

出涸らし(寧ろお湯)のお茶を啜りながら京極に注文をつける。

「何か楽しい事は無いのか京極」

「関口君でも苛めてなさいよ」

アレは最近引き篭もっていて楽しくない。そう言うと、京極は苛ついたような顔になり、言った。

「知らないよ。君のところには益田君や安和君だっているじゃないか。何故毎度毎度うちに来るのだね」

「マスカマや和寅は楽しくないぞ。ほら何か無いのか」

「何か無いのかと言われてもねぇ――――「あら、ならこうすれば?」――――なっ!?」

女性のような高い声。その声に驚いた様子の京極堂。その二つを確認し、僕は妙な浮遊感に包まれた。




「む、ここは・・・・・・・・・そうか、いつかの舘か」

目の前には、紅く染め上がった洋館がある。

「ふん、いいだろう。僕が遊びに行ってやる」

「やめてくださいっ!!!」

声のした方へ目を向けると、中国服を着た少女がいた。

「君はいつかの中華人民共和国じゃないかっ!!!」

「違います!中国でもないですからフルで覚えないで下さい!!」

間髪入れずに叫び返す中国。

「今日という今日は許しませんよいつかの人。私が弾幕だけだと思わないで下さい!」

グッと地を踏み、凄い速さで近づく少女。肘を立て、腹に入れようとする。

「ハハハハハッ、中々やるがその程度で僕と戦おうなんて、百年どころか一億年くらい早いぞ北京!」

「都市になっちゃってます!?いや、そんな事よりも早くこの屋敷の前から出て行ってください!」

腕、膝、踵、拳。中国拳法特有の動きで榎木津に攻撃してくる。しかし榎木津は意に介さず、受け流し、払い、攻撃する。

「今助けるわよ南京、いや中国!!」

「咲夜さんまで!?いや、ありがとう御座います」

「む、君はいつかの入れてる人じゃないか!京極に教えてもらったぞ、それはパッドとか言う物なのだろウッ」

「(ピキッ)『デフレーションワールド』っ」

「ヒィィィィィィィ!さ、咲夜さん、それ私にも当たりますぅぅぅ!」

「避けなさい!」

「ハァッハッハッハッハッハ!そんな物が当たるわけ無いだろうこの愚か者めガ!」

サッサッと弾幕を避ける榎木津。咲夜も二回目で慣れたのか少しずつ下がり、距離をとっていく。美鈴はナイフが刺さっている。

「チィッ」

咲夜は舌を打ち、消える。何のことは無い。ただ時間を操っただけなのだが、榎木津には分からなかった。

「消えた・・・・・・なるほど、あの女は透明人間だったのかっ!」

なにやら愉快な勘違いもしている模様である。

「ぅおじゃまするぜぇぇぇぇって、あれ?」

透明人間の足取りを探ろうとしていると、後ろから叫び声が聞こえた。

「む、なんだ君は。おおっ君もあそこの平壌(ピョンヤン)やメイドと同じような事が出来るのか!」

「ピョ、平壌?だれだそれっていうかお前が誰だ!?」

「見て分からんのかッ探偵だッ!!探偵の榎木津礼二郎だこの馬鹿者めが!!」

「それで分かるのはあんたの変人具合だけだぜ・・・・・・・」

「そんな事はどうでもいい。さっさとその眩しい光を放つのダッ」

「な、何か分からないけどその方がいいみたいだな。行くぜぇ!『ブレイジングスター』!!」

目の前の少女から極太の光が放出される。しかし榎木津は怯まない。

「アッハッハッハッハァ!なるほど面白いじゃないか!」

「なっ、この距離で避けただと!?お前、何者だ!」

「神だ!!!」

一瞬にして距離を零にし、まるでいつかの咲夜戦の焼き直しのような鈍い音がし、少女は気絶した。

「・・・・・・・・・・・・・フフフ。割と楽しかったぞ。これくらいで勘弁してやる」

ルンルンと陽気に鼻歌を奏でつつ、榎木津は門へと向った。

「・・・・・・・・・ッハ!待ってください見知らぬ人、ここを通すわけには・・・・・・・・って、アレ?」

「おお台湾。中々楽しかったぞ」

「最早中国かどうかも微妙になってます!?って言うか、もう侵入して、帰る途中・・・・・・?」

「ハハハ、それじゃあナ!」

ハハハハハハハハハハと高笑いをして門を出て行く榎木津の後ろでは、この世の終わりを確信したかのような叫び声が響いた。





「おお、鬼だ、鬼がいル!」

森を抜け、神社を発見した榎木津は、少し面白そうな気配を感じて神社に近づいた。

「わぁっ、な、なんだよあんた」

鬼――――伊吹萃香は突然の闖入者に驚いたようすで、飲んでいた瓢箪の蓋を閉めた。

「しかもなんて可愛らしい鬼だ。角が尖っているじゃないか流石は鬼だ。馬鹿だなあ」

角を持ち、ヒョイっと自分の目線まであげる。

「離せーーーー!」

「あっはっはっはっは。楽しい鬼だな。まるで活きのいい魚じゃないか。なんて間抜け。おや、これは・・・・・・・・・・なんと、戸棚の中に・・・・・・・」

あっ、そこは駄目と言う幼女の声を無視し、神社の中の戸棚を漁る。

「やっぱり。こんな所に羊羹があった。僕はモソモソした菓子は嫌いだが羊羹は好きだ」

包んである紙を外し、羊羹を齧る。うん、甘いと言う榎木津。

「ああ、私が食べようと思ってたのにぃ」

ウルウルと涙を流しながら膝から崩れ落ちる萃香。そんな物は気にせずに、パクパクと食べ進める榎木津。

「うーん、甘かった」

遂に全て食べ終えてしまった榎木津。指先を舐めながら甘い甘いと繰り返していた榎木津だが、急に消えてしまった。

「紫?」

「ごめんなさいね萃香。はいこれ。お詫びに外の世界のお菓子よ」

そう言って渡されたお菓子を見る。あまり見た事の無い形だ。

「チョコレート?また高価な物を・・・・・・・」

「外では割と出回ってるわよ?ここはその前に隔離されたから珍しいでしょうけどね」

そう、ありがたく頂くよ。と言ってチョコに齧りつく萃香。かなり上機嫌である。

「それじゃあね」

「うん、それじゃ」

そう言って紫は、隙間を閉じた。





「全くなんて事をしているのだね君は」

「ごめんなさい。まさかあそこまでになるとは思ってなくて」

本ばかり並べてある居間。そこに中禅寺秋彦と八雲紫はいた。

「少しくらい見当をつけなさい。その気になれば無間の底の深さや北斗七星が北極星を食べるまでの時間も求められると言ったのは何処の誰だね」

「いやいや中々その気になれなくて」

「なりなさい。大体君は思慮深いにもかかわらず自ら考える事を放棄しているように見受けられる」

「この前閻魔様にも言われたわ」

「なら改めなさい。大体――――――」

結局この説教は、日が明けるまで続いたと言う。









東方神人伝 弐之巻  ~唯一神の暇~(ゆいいつしんのいとま) 【了】









アトガタリ

蛇です。

このお話の題名の唯一神とは榎木津教の唯一神です。

魍魎の匣を読んでいて、『ラジオの中に小鬼がいて、声色で浪曲を歌っている』と言う物を萃香で妄想したら超可愛かった。

今題名未定の奴、そろそろ題つけたいけどどうしよう。
あまり東方とか京極とかの妖怪や神様とかは使いたくないけど、仕方ないか。橋姫にしようかな。

蛇でした。






[6755] 東方不死箱  ~死人憑の首~
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/10 22:12

ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。

先程の男は、どうなったのだろうか。

ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。

彼は、幸せになれたのだろうか。

ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。

僕のように。

何時の間にか開いた扉を出、歩く。彼女のことも忘れない

森を歩く。目的地は、ない。

「僕には、君さえいれば何もいらないよ」

語りかける。彼女も確かに返事をした。

「・・・・・・・・・・・あれ?ここは何処かな」

何時の間にか、竹林に出ていた。不気味なところだ。

「おや、もしかして、人間の迷子かい?」

不意に、声がした。声のするほうを見ると、それは兎の様な耳の少女だった。

「ああ、はい。僕は迷子ですよ。人間の」

「こんなトコに人が来るか。いや、人が来るから私がこんな事をしているのか」

少女はそう言ってそれでも最近は滅多に来ないんだけどねぇとケラケラ年齢にそぐわない笑い方をし、此方に向き直った。

「さあ、こっちにおいで。幸せを分けてあげるよ」

そんな事を言う。

幸せを分ける?そんな物、必要ない。

「悪いですが、いりません。僕は今、十分幸せですから」

そう言うと、少女は怪訝な顔をし、そう言えば―――――と話題をあげた。

「あんた、さっきから心底大事そうに箱持っているけど、何が入っているんだい?」

僕は、なんだかとても嬉しくなった。

「気付きましたか。ご覧になりますか?」

そう聞くと、少女は見たい、見たい。と繰り返した。

「これです―――――――――」

その娘は、 ほう と言った。

「―――――――――――っ」

少女は青白く顔を染め上げ、僕の手を握り、付いて来な、と言って空を飛んだ。

・・・・・・・何故だろうか。あの男の反応とは随分違う気がする。

暫らく飛ぶと大きな屋敷が見えた。その中に入り、少女が誰かを呼んだ。

エーリン、エーリンと叫ぶ。

また暫らくすると、先程の少女が白い三つ編みの女性を連れてきた。赤と青の、お世辞にも洒落ているとは言えない服装である。

少女が女性に何か耳打ちし、女性が僕に、

「少し、その箱の中を拝見しても良いでしょうか」

と聞いた。

「ご覧に、なりますか」

僕はまたもや嬉しくなり、蓋を開けた。

やはり、その娘は、 ほう と言った。

「・・・・・・・なるほど、これは――――――助からないわね」

女性は、娘を少し見るとそう言って、蓋を閉めるように促した。

「・・・・・・助からない?誰が、ですか」

貴方も、その子もよ。そう女性は言う。

「どうせ貴方は、その少女を助けたくてここに来たのでしょうけれど、足りない物が多すぎるわ。息をしてはいるから、肺と心臓はとりあえずあるのでしょうがね。月なら兎も角、ここでは無理よ。貴方も、貴方の頭の欠陥は先天的なもの。それで安定しているのだから、ここで弄くるのはよくない」

「ふざけるな!」

僕は、自分でも珍しく怒った。

「この子は生きている。生きているんだ!心臓も動いているし、息もしている!死んではいない。確かに手足はないかもしれないが、それでも生きているんだ。この子は、この子は―――――」



「永遠に、生き続けるんだ」



そう言って、元来た道を辿って帰る。

「あれ?師匠、どうしたんですかあの人」

アルビノ――――と言うものであろうか。矢鱈と目の赤い水兵服を着た兎のような耳をつけた少女が歩いてきた。

「なんでもないのよ。ウドンゲ」

ウドンゲと呼ばれた少女は不思議そうな顔をし、僕を一瞥すると、なんでもなかった様に「御大事に」と頭を下げ、何処かへ行った。

とても、不愉快だ。

暫らく歩くと、何時の間にか竹林を抜けていた。そのまま島根の辺りまで行く。

何日もかかってしまった。一度宿に泊まり、汗や垢を洗い流す。

物部神社と言うところでお祭りがあると聞いた。丁度いい。幸せではあったが、あの時から余り気分は優れなかった。これで良くなるだろう。

次の日、お祭りを見た。流鏑馬や巫女が舞うのを見て、娘に「ほうら馬だよ」だとか「巫女さんが踊っているねぇ」だとか話しかける。

「その箱には、何が入っているんですか?」

人民帽を被った、妙な風体の男が声をかけてきた。

「お気づきになりましたか」

僕は、また嬉しくなって、蓋を開けた。


箱の中の娘は、 ほう と言った。












東方不死箱  ~死人憑の首~      【了】










アトガタリ

どうも蛇です。

このお話の主人公の名前、分かりましたでしょうか。

主人公の能力は《どんな状況でも幸せを手に入れられる程度の能力》です。

蛇でした。



[6755] 東方鬼猫行  ~吸血鬼の猫~ 《前》
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/11 22:32
石垣の壁を越えて外へ出る。

我が主は良く分からない人間である。何時間も動かずに本とやらを読み漁っていれば、何時の間にか来ている人間に妖怪の事をペラペラペラペラ喋り倒す。

主は色々ととやかく人に注意を促しているようだが、私は主にその辺り自重しろと言いたい。

我が飼い主殿によれば、あれは石地蔵だそうだ。良い事を言うと思う。確かにあれは、地蔵のように動かないし、一応は神職である。

しかし、幾ら主が偉かろうが私には関係がない。飼い主殿のように私の世話もしてくれぬし、大体一家の長などと言う肩書き、この様な時代には通用せんだろう。

ダラダラといい加減な傾斜の坂―――――眩暈坂というらしい――――――を下り、林のほうへと足を進める。

『あらぁいやだ。ザクロさんじゃあないのサ』

石垣の上から声が聞こえる。知っている声だ。大して驚かん。

『ふむ、久しいなお七』

お七と言うのは艶やかな雰囲気を持っている猫で、私の友人である。と言っても、私は大陸から連れられてきた身であり、あまりあの家から外に出ないため殆ど会う事はなく、会ったとしても向こうから来たときだけだ。

『珍しいじゃないのヨザクロさん。ずっと寝てばっかのあんたがあの家から出てくるだなんてサ』

『珍しくなんかないさ。私だって偶には外出をする』

ホント〈偶に〉だけどネェ、とお七はケタケタと笑う。

『それじゃあな』

『なによぅ、もう行くの?もう少し位ゆっくりしていったって、バチなんて当たらないでしょうが』

『まあ待て。私はこの道を行かねばならぬのだ。理由はないが、な。しかし我らは、元来その様な物であろう』

そう言うとお七はそうかい、そいじゃあね。と言い、消えた。

スゥ、スゥと道を歩いていると、神社があった。

『ふむ、このような場所にこのような神社が果して在ったか・・・・・・・む』

いつの間にか暗くなった夜道。私の六感が告げている。この場には、危ない何かがある、と。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

しかし、如何せん猫である私の好奇心は強い。それは、異国の諺にも現れている。

Curiosity killed a cat――――――好奇心は猫を殺した―――――――

元々は、心配が猫を殺すだったらしく、心配のしすぎを戒める言葉だったらしいが、今では生命力の強い我ら猫でも、好奇心に身を滅ぼされると言う風に変わっている。

しかし、そんな物はどうだっていい。

私はそっと襖を開け、宴会をしているのかギャアギャアと五月蝿い者どもの脇をすり抜け潜り抜け、食事にありつこうとつまみの皿へ足を運んだ。

恐らく、ここにいる者達は全員、否、殆どが化生若しくは妖怪の類だろう。数少ない人間も、かなり強い事は想像に難くない。

「あら?あれは・・・・・・・・」

その中でも一際力を放っていた物が私に気が付いたようだ。私はそんな力もなく、唯の普通の猫なのだが、気付くものなのであろうか。いや、気付くのであろうな。私はさほど力がないから満足に気配も消せないのだ。直ぐに気配に気付くのであろう。その他の力を持っていそうな奴は殆どが酔いつぶれて寝ているか、酒盛りに熱中している。あの妖怪もご多分に漏れずかなり飲んでいたように見受けられたが、それでも気付くと言うのはやはり、年季の違いとやらであろうか。

「あれは秋彦の・・・・・・・・・・」

我が主の名を言い、それきり黙りこける。よく観察すると、どうやら眠ったらしい。良く分からん奴だ。

『ああ、そうか。彼女は主の・・・・・・・・・・』

何故主の名を知っているのか気になったが、思い出した。彼女は八雲紫。主の不倫相手だ。尤も、主は否定しているようだが。

まあそんな事はどうでもいい。今はこの目の前の馳走に舌鼓を打つ方が先だ。

「どれ、いただくとするか」

料理の並んだ皿に近づく。殆ど食べ物は残っていなかった。だからといって私は直接口をつけるなどと不衛生な真似はしない。これでも若し化けられるようになったときの為という名目で主に一通りの芸を仕込まれているのだ。

近くの小皿を持ってきて、皿の端にある物を両手で掴み、引き出す。持ってきた小皿の上に落とし、それを幾度か繰り返し自分が食べられる分だけをとり、離れる。

実に紳士的。しかし主よ。このような物を仕込む前にもう少し考えてみればどうか。

このような事が出来る猫は、それだけで十分凄いだろう。何が期待はずれだ。猫に何を期待していたのだろうか。

前足の二つをうまく使い皿を端のほうに持っていく。しかし、そこで誤算があった。

「あら、猫?」

蝙蝠のような羽の少女が私を見て言う。しまった、やってしまったと思うがもう遅い。少女は私の首を掴み、持ち上げる。

「ふうん、何の力もない普通の猫ね。いや、寧ろこれは好都合だわ。咲夜、この子を連れて帰るわよ」

「畏まりました」

少女の横には何時の間にかひらひらとした西洋の侍女服に身を包んだ女が立っていた。女は少女から私を受け取ると抱きかかえ、空を飛んだ。

「それじゃあ私はもう帰るわ」

少女がそう言い、飛んでくる。横につきふふふ、と笑うその姿は、中々絵になっていた。





「お姉さま?」

紅い洋館、紅魔館とやらに連れてこられ、地下に運ばれてきた。そこには、金色の髪をした少女がいた。

「フラン、貴方にプレゼントよ」

パチン、と少女が指を鳴らし、私を差し出す侍女服の女。

「猫?」

ふみゃあ、と欠伸をする私を少女は不思議そうに見つめ、抱きしめた。

「ありがとうお姉さま。大切にするわ!」

「ええ、フラン。だけど約束して。絶対にその子を傷つけたり殺したりしちゃ駄目よ。その子を大切に飼うの」

「うん、約束する。ありがとうお姉さま!」

そう言って、満面の笑みで此方を見据える少女。

「貴方の名前は、うーんと・・・・・・・・・・そうだわ!ザクロにしましょう!さっき欠伸したときの顔がこの間食べたザクロにそっくりだったわ!」

あの主と同じ名付け方で少し肩透かしを食らった気分になったが、その時の笑顔に私は、それも良いかと思った。

其れは兎も角、そろそろ離してはくれまいか。内臓が口から出そうだ。うぉええ。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁザクロォォォォォォォ!?」

「・・・・・・・・・・・・一寸無茶だったかしら」

「・・・・・・・・・・・・恐らく」

そこの二人、見てないで助けてくれ。









東方鬼猫行  ~吸血鬼の猫~《前》   【続】











アトガタリ

蛇です。

このまま続けても良かったのですが、切りが良さそうなので二つ三つに。

感想・批判お待ちしております。

蛇でした。



[6755] 東方鬼猫行 ~吸血鬼の猫~ 《後》
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/12 22:54

「ご馳走様」

ここ、紅魔館での暮らしも早一週間。私は大分ここの暮らしにも慣れた。

しかし、あの時は驚いた。・・・・・・・ここに来て、三日目くらいだったか。

一日目にフランドールに殺されかけた後、レミリアの友人であるパチュリーと言う魔法使いのおかげで何とか生きる事が出来た。

かなり大変な状態だったらしい。安定してから竹林のほうへ行き、医者に見てもらった。獣医でもない限り動物は専門外だろうと思っていたが、割と普通に見てくれた。

何でも、天才だそうだ。天才ならば仕方あるまい。

その後、医者の勧めで二日目を休み、そして訪れた三日目。

私は一晩中付き添ってくれたフランドールに言った。ありがとう、と。

言った。言ってしまった。言えてしまった。

『ニャア』でも『ミー』でもなく「ありがとう」と出たのだ。人の言葉で。パチュリー殿の弁に寄れば、魔法をかけたのと、少しでも化けたり化かしたりといった適性のある大陸の生まれである私が魔力気力色々なモノの充満した場所にいた事が原因なのかもしれないとか。

『』から「」に括弧のつけ方が変わっているのは、詰りその為である。猫の言葉も話せることは話せるが、態々通じない言葉を話すこともなかろう。

「おーいザクロ。本読んでー!」

主、フランドール・スカーレットが呼ぶ。折角話せるようになったのだから私の博識を伝えると共に本でも読んでやろうか、と考えたのだ。するとそれが気に入られた。読み方が上手かったようだ。

私は主のところへ走り、今日もこのひと時を楽しもうと思った。






「狸は老婆を撲殺し、その肉を煮込み、婆汁を拵えました。暫らくして老人が帰ってくると、狸は老婆に化け、狸汁と称し、老人に食べさせました・・・・・・・・・・」

私は今、かちかち山を読んでいる。主殿は綺羅綺羅と目を輝かせ、早く早くと続きをせがむ。

正直、どうかと思う。しかし、しょうがなかったのだ。この娘、かちかち山以外では『シンデレラ(原作)』や『おぞましい二人』などこれまた残酷物しか持ってこなかった。

この娘の未来が心配になる。

「・・・・・・・・・・・・・『ガバァ!?グバッ!た、助、け・・・グブッく・・・・れ』狸は兎に助けを求めました『婆さんの敵だ!』しかし兎は艪(船の推進力を得るための器具)で叩き、狸を沈め溺死させてしまいました」

「ヒャー!」

「五月蝿いわよそこ」

「む、すまなかったなパチュリー殿。もう直ぐ終わるのでこれを読み終えたら直ぐに何処かへ行こう」

「ザクロ、続き続き」

「うむ、兎はおばあさんの敵を取り、・・・・・・・・・」

主殿は私を抱きながら実に楽しそうに笑う。このお話で楽しそうに笑える感性が私には恐ろしいが、人の性格をとやかく言うのも失礼だ。教育や躾は全てレミリア殿に任せてしまおう。

「・・・・・・・・・・・めでたし、めでたし、と。主よ、次の本は部屋で読むぞ。何にしたい」

「うん、えーっとね、えーっとね・・・・・」

本棚のほうへ飛んでいく主殿。心配なので私も付いていく。

「じゃあこれ」

そう言って差し出されたのは『ギャシュリークラムのちびっ子たち―――または遠出のあとで』

「却下だ」

えー、なんでーと不満を言う主。当たり前だ。

「もう少し別な種類の作品はないのか。・・・・・・・・・あるじゃないか。『100万回生きた猫』にするぞ。子供が死ぬ話よりは良いだろう」

そう言うと主はえ゛と漏らし、言った。

「でもそれ、猫が・・・・・・・・」

ああ、なるほど。

『100万回生きた猫』は、初めの何頁かはただ只管猫が死に続ける話だった。主は、私に気を使ってくれていたのだ。

「そうか、だが安心しろ。私はその程度気にせん」

「でも・・・・・」

「いいのだ」

私は声を大きくして言う。

「私はな、主よ。私は今が幸せなのだ。主はその私の幸せも奪う気か?」

そう言うと主は「うん、ありがとう」と言って私を抱きしめた。初めて会ったときとは違う、優しい抱擁。

「・・・・・・・・・・・・空気の読めない発言で悪いけれど」

パチュリー殿が言う。

「五月蝿いから、さっさと何処かへ行ってくれないかしら」

分かった。分かったから睨まないでくれ。書痴の類は本能的に苦手なのだ。





「・・・・・・・・・猫は、もう二度と生き返りませんでした、と。どうだ、主よ」

そう言って上を向く。顔に塩辛い水が滴り落ちた。

「う゛ん。ヒッグ、ヒッグ。やっぱり、何回聴いても良いお話だね」

それは私もそう思う。確かにこれは名作だ。しかし、図書館にある絵本を読み始めた時からずっと思うのだが、このような本が外に出ていたか?若しかしたら、時間の流れが違っているのかもしれない。

それが私の通ったらしい裂け目だから起きた事なのか、それともこれが通常なのか、判断は出来ないけれど。

「フラン、フラン何処に居るの・・・・・・・・・ああ、ここに居たの」

「おお、レミリア殿」

「お姉さま!」

そう言って抱きつく主。レミリア殿はそれを受け止め、言う。

「フラン、そろそろお茶にしない?」

時計を見る。時計は確かに三時を指していた。気が付かなかったな。

「ふむ、それでは行ってくるがよい主殿。私はこの本を返してこよう」

そう言って、絵本を背に乗せる。生憎のところまだ弾幕を出したり空を飛んだりは出来ないものの、この位は出来る。元々、猫はバランス感覚がいいからな。

「うん、それじゃ、お願いねザクロ」

「任されよ」

そう答え、歩く。途中、取り落としそうになるが妖精メイド達に助けてもらったり壁を上手く使ったりして何とか持ちこたえた。

図書館で小悪魔殿に本を渡し、主の元へ向う。主の他に座っているのは何時もなら一人、主の姉にして紅魔館当主のレミリア殿のみなのだが、今日はもう一人いた。

「あら、やっと来たようね」

それは宴会のときに初めて私に気が付いた妖怪の八雲紫だった。

「石榴、でよかったわよね。まさか暫らく見ないうちに喋られるようになっていたとは思わなかったけれど」

「何のようだ八雲紫よ。幻想郷は何でも受け入れるのじゃないのか」

それはそうなのだけれど・・・・・・・・・と言う八雲。

「貴方の飼い主さんの千鶴子さんがね、何時もは寝てばかりのあなたが急に居なくなったから心配しているのよ。だから、任意で連れて帰ってくれと頼まれてね」

いやー良い人と結婚したわねーと笑う八雲。

「・・・・・・ザクロ、帰りなさい」

「ちょっと!お姉さま!?」

帰れ、と言うレミリア殿に反論する主殿。

「・・・・・・・・・安心しなさいフランドール。私はちょくちょく向こうに行っているし、石榴が住んでいた辺りは昔から神隠しと言うか、裂け目の多い場所でね、この子ならいつでも来られるわ」

そう言われても、でも・・・・・・・と食い下がる主。

「・・・・・・・良いのだ主殿。私は、帰る」

「何で!?私の事、嫌いになった?」

涙目でそう訴えかけてくる主。

「違う、私は主が好きだし、感謝もしている。だがな主よ、私が元々居なければならない場所は、向こうなのだ。本当にすまない」

そんな、そんな、とえづく主しかし、しょうがない事なのだ。

「泣くな、主よ。私は今まで楽しかったぞ。最後まで、笑顔で居てくれ」

そう言って頬を舐める。主は涙を拭き、うん、と言った。

「なに、八雲紫が言っているように何時でも此方にこれる。偶には遊びに来るよ」

「絶対?約束だよ」

「ああ、約束だ。行ってくるぞ、主よ」

そう言い残し、隙間へと飛び込む。

「行ってらっしゃい。約束だよ」

隙間が閉まる直前、確かにそう聞こえた。







「む、石榴、やっと帰ってきたのかい」

気が付くと秋彦殿が居た。いや、私が帰ってきただけだろう。

「にゃあ」

そう言って、私は塀を越えた。

『やぁザクロさん。一週間ぶりだねぇ』

石垣の上から声が聞こえる。知っている声だ。大して驚かん。

『ふむ、久しいな、お七よ』

猫語で話す。久しいって程でもないけどねぇ、とお七が言う。

『如何でもいいが用が無いのならば先に行くぞ。割と急いでいるのだ』

『そうかぃ、まあ、人のコトに口を出したりゃしないけどねぇ』

そう言って消えるお七。奇妙な奴だ。

スゥ、スゥと道を歩きいつか見た神社を見つける。既に知覚した事があったからだろうか。幻想郷に入れたと言う事が分かった。

気配を消し、森を歩く。妖精の出る湖まで行けば、後は楽な事だ。

湖を大きく迂回するように歩き、赤に染め上げられた建物に入る。とりあえず、図書館に向おう。

図書館に居たのは赤い髪の小悪魔、紫の髪の魔法使い。そして―――――金の髪の吸血鬼だった。

「ただ今、主よ」

そう言う。主は、私を優しく、けれども力強く抱きしめた。

―――――お帰り、ザクロ―――――











東方鬼猫行 ~吸血鬼の猫~ 《後》   【了】





アトガタリ

蛇です。

御感想、お待ちしております。この猫結局空も飛べてませんけど、そのうち飛べるようにしようかな。



[6755] 東方夢物語   ~獏の呪~
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/14 20:19

その時、俺は相当頭に来ていた。

理由は明白である。毎度の事ながら、全米が震撼する程の腹回りと妖怪についての知識を持つ、多々良勝五郎センセイの所為である。何故か。

簡単だ。遭難したのである。他でもない、多々良センセイの所為で。

昨日だったか。センセイが中禅寺君の所に行くぞ。と言ってきたのである。中禅寺とは、数少ない妖怪研究者である我々とためをはれるくらいの妖怪好きで、非常に博識な古本屋のことだ。とは言っても古本屋は本業で、家業が神主で、副業に憑物落としだとか言うものを持っている。憑物落としとは、はっきり言って良く分からない。俺も幾度か遊びに行き、憑物落としの手伝いをしたことがあるが、それでも憑物とやらを露呈させるところまでである。俺のような人間は憑物と言うと犬や猫、死人や蛇を思い浮かべるのだが、そういうのとは少し違うようだ。人の奥底に眠る良心や悪心に妖怪の名前をつけ、落とすのだと思うが、そんな物本人に聞けるわけもないので明瞭にはならない。

しかし、京極堂まで何をしに行くのだろうか。俺は毎日センセイと一緒に居るわけでも、居ないといけないわけでもない。全国津々浦々、伝説や伝承の類を探しに行くときくらいだ。それも、毎回一緒に行くわけでもない。

然しながら、センセイに誘われるまま中野まで足を運び、古本屋へ向う。古本屋、京極堂の主が目の前に居るそこで、先生は言ったのだ。

「最近、この辺りで神隠しが起こるという噂を聞いたんだ」

と。

その後、天狗隠しだとか何だとか色々な伝説を例に挙げ、センセイは中禅寺さんと小一時間話し合っていた。その帰り道。

「沼上さん、中禅寺君は何か隠しているよ」

そういったのだった。

「隠しているって何を?」

「何かだよ。多分、中禅寺君は珍しく動揺して何かを隠すのに必死だったんじゃないか?」

そういえば、途中から神隠し~天狗隠し~天狗と速やかに話題が変わっていた。しかし、

「そんな事で隠しているって言うのは一寸早計過ぎやしないか」

そうだ。元々中禅寺さんは話をすり返るのが上手いし、全く別の話をしていたともいえない。

「それはそうだけどさ」

センセイは尚も食い下がった。

「それでも中禅寺君は何かを隠しているよ。最初に話題を振ったときに眉が少し動いたし、話題のすり替えもかなり強引だった。いつもにして見ればだけど」

「気のせいじゃないか?」

「いや、気のせいじゃないね」

センセイは胸を張っていった。

「中禅寺君は何か隠しているよ。隠しているなら何かあるだろ。とりあえず、そこの森へ行ってみよう」




そして、今に至る。

「・・・・・・・あー、お腹がすいたよ沼上さん」

「知らないよ。誰のおかげで迷っていると思ってるの?センセイ。良いから、さ。早くこの森を抜けて村か何かを探そう」

そう言いながら、草を払う。かれこれ五時間ほど迷っている。その上、霧のようなものが出ているし、周りには絶対に食べられそうにない柄の茸が。

「知らないって沼上さん。僕がこの体型を維持するのにいったいどれだけのエネルギーを必要とするのか、分かっているでしょう」

「知ってるけど知らないよ。じゃあもうその辺の茸でも食べたら?」

そう言うとセンセイは、あんな柄の茸が食べられるわけがないじゃないか、と怒った。

「あー、もう一歩も動けないよ。何時の間にか霧も変な色になってきたし、もう帰ろう」

「一歩も動けないんじゃないのかよ。だからさ、帰れないから困ってるんだって。って言うか変な色って?」

「気付かないのか。ほら、霧がだんだん橙色になってきたじゃないか。鳥もギャーギャー言っているし、もう帰ろう」

「そんな事にはなってないけど」

周りを見渡す。橙色にはなっていないし、鳥の鳴き声も聞こえない。なにを言っているんだろうと倒れているセンセイを見ると、何時の間にか気絶していた。そのまま足に力を感じ、視線を動かすと、俺の足に蔦が絡んでいるのに気付いた。

「うわ、取れない」

いくら引っ張ってもビクともしないそれどころか、どんどん絡まってくる。

「あれ、こんな所に人か?二人とも幻覚の見すぎで一寸やばい事になってるな。連れて帰ってやるぜ」

首まで蔦が伸びてきて、意識が朦朧としてくる中、金色の髪で黒い服を来た少女がそう言っているのを聞いた。




「・・・・・・・・・ここは」

「気付いたようだね沼上さん」

「私の台詞だぜ・・・・・・・・」

目を覚ますと、知らない天井があった。顔を上げると、センセイと先程の少女がこちらを見ていた。

「ああ、君が助けてくれたのか。ありがとう」

そう言うと、別にいいぜ、と言い、それよりも・・・・・・・・と続けた。

「この多々良って言う奴は何なんだ?話が噛み合わないし、変な妖怪の事を延々とまくし立てて困ってるんだ」

疲労困憊といった様子で言う少女。だって沼上さん、とセンセイが反論する。

「この辺りは本物の妖怪が出るって聞いて、この子も魔女だっていってさ。魔法を見せてくれたから信じたんだ。それなのにさ、こう言う妖怪は居ないって言うんだよ」

そう言ってセンセイはリュックから『今昔百鬼捨遺』を取り出し、広げて見せた。

その項には白澤の絵が載っていた。横っ腹の辺りに三つ目があり、頭にも三つ目がある牛のような妖怪である。頭に二つ、胴体に四つの角があり、荒々しげな姿だが、これでも麒麟や鳳凰と同じ類の徳の高い妖怪だ。

「あ、ああ。でもまあ、私の知ってる白沢は人とのハーフだから、姿はかなり違うぜ。でも、そんな感じの妖獣はいるけど・・・・・・妖怪は・・・・・・・・」

見た事がないぜ・・・・・・・・・と呟く少女。どんどん語尾が小さくなっている辺り、気圧されているらしい。

「セ、センセイ、諦めるのはまだ早いです。他にもほら、鬼だとか天狗だとか河童だとか・・・・・・・」

「かっ、河童!河童は如何だ魔理沙!」

どうやら少女は魔理沙さんというらしい。魔理沙さんはえーっと、と唸り、言った。

「い、居る事は居るぜ・・・・・・・・」

「ど、どんな感じだ!?色は?生態は?」

い、いろぉと詰る魔理沙さん。

「え~っと、まぁ普通に・・・・・・肌色だぜ」

「河童は赤だーーーーーーーーーー!」

叫ぶセンセイ。魔理沙さんは泣きそうになっている。

「くそぅ、紅魔館の奴と言い、外に普通の人間は居ないのか・・・・」

「いや、コレを基準にしてもらっても困るんだけど」

「ええぃ、魔理沙ちゃん!」

ひっ、と怯える魔理沙さん。なに精神的外傷植え付けてるんだこの人。

「外へ連れていけぇ!そして片っ端から妖怪に会わせろぉ!」

一寸人間変わってきているな、センセイ。そこまでショックだったのか。




「と、とりあえず神社に来たぜ」

箒に跨り、飛ぶ魔理沙さんと箒にぶら提げたデカイ籠にのる俺とセンセイ。何処にあったんだこんな籠。

「あら、魔理沙じゃない。だれ?その人達」

「森で倒れてた外の人間だぜ。妖怪に会わせろって五月蝿いんだ・・・・・・」

へぇ、変な人ね。という少女。

「僕は多々良勝五郎と言います。外の世界では妖怪を研究していまして。この機会にどうしてもちゃんとした妖怪に会いたいのです」

「・・・・・・・・・・・・ふぅん。でも生憎のところ、今ここには妖怪は居ないわ。昔は居たような気がするけど。萃香も居ないし」

「そこの池に玄爺が居ただろ。あれの事を丹亀の類だとか言えば良いだろう。実際あんま違わないし」

「・・・・・・・・去年の冬だったかしら。お金がなくてね、ご飯も作れず、ひもじい思いを仕掛けた事があったの。餓死で死んでもおかしくなかったわ」

どこか遠い目をして語りだす少女。

「そんな事があったか?私は見なかった・・・・・・・・まさか」

魔理沙さんの額に一筋の汗が流れる。丹亀とか言っていたな。ならば亀の類ってことだ。もしかして・・・・・・・・・・

「ええ。美味しかったわ」

腹を擦る少女。魔理沙さんはがっくりと項垂れて、言った。

「霊夢・・・・・・・お前」

「五月蝿いわね魔理沙。仕方ないでしょ。生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだから」

「うーん、それじゃあ妖怪には会わせてもらえないのか」

「ええ、残念ね」

そう言うと少女、霊夢は賽銭箱を指差し、言った。

「因みに素敵な賽銭箱はあそこ」

「・・・・・・・・・・人里に行くぜ。二人とも。さっき言ったワー白沢のところに連れて行ってやる」

魔理沙さんはそう言って、俺たちを籠に入れて飛んだ。

結局付き合ってくれている辺り、かなりいい子だ。悪い子ならば良いのかと言う話になるが、良心が痛む。

暫くすると幾つもの家が見えてきた。ここが人里なのだろう。

「この時間なら・・・・・・・寺子屋にいるか帰っている時間か。近くで下りてからいくぜ」

そう言って下ろす。魔理沙さんは箒を持ち、こっちだ、と手招きした。

人里に入ると、すぐの所で魔理沙さんが何かに気付いたように、手を振った。

「おーい、慧音。お客さんを連れてきたぜ」

その目線の先には、青と白の入り混じった髪の色を持ってドレスのようなものを着た女だった。

「お客さん?私に何の・・・・・・・・・」

「ちがうっ!」

慧音さんとやらが言い終わる前にセンセイは叫んだ。

「これは白澤じゃない!白澤は元々大陸の妖怪で牛のような身体つきで頭と背中に計6本角を持ち頭と横っ腹に計九つの目がある、徳の高いものの前に現れる妖怪なんだ!麒麟や鳳凰と同じであり、麒麟は交わらずに出生すると言われることから僕はある程度以上の徳を持った妖怪は雌雄同体、若しくはそもそも雄雌が無いのだと思っている。雄である必要も、雌である必要もないんだ!だから白澤は女の姿なんかしない!」

急にまくし立てたためか、慧音さんはポカンとしている。魔理沙は諦めたようだ。

「センセイ、落ち着いて」

「落ち着いていられるかぁ!魔理沙ちゃん!次だ、次!」

「は、ハヒィ!分かったぜ」

そう言って箒に跨り、籠を持ってくる魔理沙さん。その間、俺はセンセイを落ち着かせたり、慧音さんに謝ったりと大忙しだった。




「あれ、魔理沙?どうしたの」

妖怪の山、と言うところに入ろうとしていると、青い髪で緑のリュックを背負った少女がいた。

「お、おおにとりか。なんでもないんだ。なんでも無いから何処か行ってくれ」

「なにそれ。ひどいなー」

どうやら魔理沙さんの知り合いらしい。所で、と言い出す少女。

「その人は何者?この前文が言ってたべら棒に強い外の人?」

俺たちを指差し、言う。センセイは、申し遅れました、と言った。

「僕は妖怪を研究しております。多々良勝五郎と申します。ここの妖怪に会いに来たのです」

「へぇ、それなら私が河童だよ。知ってるでしょ?河童」

待て、と魔理沙さんは止めるが、聞こえなかったように自己紹介をする少女。

「嘘をつくんじゃない!!河童は赤色と相場が決まっている!甲羅や皿が無いのはまあ良いだろう。しかし、毛も無い牙も無いとはどういうことだ!!」

「ヒィィ!?」

少女はセンセイの恫喝に恐れをなしたようで、悲鳴を上げて逃げてしまった。

「センセイ、大人気ないよ」

「あっちが悪いんだよ。河童の名を不当に騙ったからさ」

「あやや、大きな声がしたと思ったら何やってるんですか?」

声のほうを向くと、羽の生えた少女が居た。

「っ文!逃げろっ今すぐ!」

魔理沙さんが叫ぶしかし少女は良く分かって居ないようで、はい?と言った。

「・・・・・・・・・・君は、何の妖怪なんだい?」

「私ですか?私は鴉天狗の射命丸文と言います。あ、若しかして最近よく来る外の世界の人ですか?」

わー、スクープですねー、と言って写真を撮る文さん。センセイはプルプルと震えている。

「ほぼ完全に人型なのは目をつぶる。カメラを持っているのも別にいい。だが・・・・・・・・・・・・」

溜める。そして、爆発した。

「女の子しか居ないとは一体どういうことだーーーーーーーーーーーーー!!!!」

センセイの叫び声が響き渡る。文さんは何かを察知して何処かへ行ってしまった。

その時、ふと後ろに気配を感じ振り返った先に居たのは、金の髪をした女と、たくさんの目の窺える隙間だった。








「うん・・・・・・・・あれ?」

起きる。目の前に広がるのは青い空。隣ではセンセイが同じく上を見上げている。

「詰り、さ。沼上さん」

センセイは僕の言いたい事を察知したかのように言う。

「アレは、夢だったんだよ沼上さん。それも飛びっきりの悪夢だ。だから僕は獏に頼むよ。もうこんな夢を見ないように。一種の呪いをしてもらう」

センセイは、この夢を、獏にあげます、と言った。たしか、そう言うともうその夢は見ないのだったか。

獏が食べてくれるらしい。

「君もいいなよ。沼上さん」

そう言うセンセイ。俺は、後にするよ、と言った。

俺は結局、その呪いは使わなかった。











東方夢物語   ~獏の呪~        【了】









アトガタリ

どうも、蛇です。

何時もより長くなりました。いやあキーボードの進む事進む事。

蛇でした。




[6755] 東方未詳話  ~似津真天の礎~
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/15 22:21
パタリ、と本を閉じる。

「どうしたの、秋彦」

横に居る女、紫が聞く。こいつは妻、千鶴子が亡くなってからよく世話をしてくれていた。姿かたちは、焦がれた時のあの姿から、何一つ変わって居ない。

「いや、昔を思い出していただけだ」

昔は良かった等というのは現状を受け入れられない人間が言う言葉であるが、今と昔、どちらをとるかと言われれば、それは当然のように昔を取るだろう。紫がこうして傍にいてくれているのは嬉しいが、思い出というのは常に何よりも上にあるのだ。

「・・・・・・・・・関口君や千鶴子が死んで、旦那もかなりの位に上がりとっくの昔に退職した。榎木津だって財閥の長となり殆ど現れないし、多々良君や沼上君も然りだ。君が隣にいてくれていても、僕が直に居られなくなるだろう。分かっていたし、納得もしていた、と思っていたがね・・・・・・・・・・」

そう言って、自分を嘲る。全く、何て愚か者だ僕は。昔は僕ももう少し達観していたはずなのだが・・・・・・・・・・・

「歳だな、これは。こればっかりは如何にもならない」

そう言って、再び本を開けようとする。しかし、横から伸びた手が本を奪ってしまった。

「・・・・・・・・・・少し、お話しましょうか」

紫は本を持ちニコリと笑う。お話って何だい?と聞くと、紫は手を前に突き出し、何かを切るような動作をした。

「これは・・・・・・・そうか。過去と昔、否、夢と現の境界を弄ったのか」

「ご明察。さあ、貴方をごらんなさい。貴方」

そう言って、僕を指差す。それはとても怖い、死神が盲腸を患ったかのような顔である。

「・・・・・・・・・・・僕はあんなのだったかい」

「最初会ったときくらいには、もう原型は出来ていたわ」

クスクスと笑う紫。僕は自分を見る。襖が開き、見知った人間が出てくる。関口君だ。

『・・・・・・・・・また君かい。今度はどうした。僕はこの本を捌くのに忙しいんだ』

『ああ、京極堂。実はな、結婚しようと思うんだ』

『・・・・・・・・結婚?くはははははははははは!だ、だれだ相手は?なんにしても止めなさいそれは明らかに詐欺か何かだ』

僕は大声で笑った。この後千鶴子に叱られてしまったな。

『・・・・・・・・・それで、これを機に小説に専念しようと思うんだ』

『止めなさい。それは絶対に止めなさい。君が書ける訳が無いじゃないか。よしんば書けたとしても君の鬱が加速するだけだぜ。それに本全体の価値が下がってしまうかもしれないじゃないか』

『そこまで言うこと無いだろ・・・・・・・』

急に真顔になり言う僕と落ち込む関口君。

「それじゃ、次よ」

そう言ってパチン、と指を鳴らす紫。目の前に広がるのは、黒い着流しに鼻緒だけが赤い和服を着た僕と、一人の少女。

『―――――――貴方が、蜘蛛だったのですね』

これは、憑物落としだ。織作茜の。

「・・・・・・・・・・中々かわいい子ね。知ってはいたけれど、羨ましいわ」

紫がそう言っている。僕はフフ、と笑った。

「何かムカついてきたから次、行くわよ」

またパチン、と指を鳴らす紫。

景色が変わり、映っているのはかなり昔の僕だ、旧制高校の制服を着ている。・・・・・・・・森の中に居るようだ。

「これは、そうか。あの時の――――――」

「ええ、貴方と最初に会ったときよ」

僕は家を物色し、藍と会話をしている。

「・・・・・・・・この頃は、今と比べると未熟だったわね」

「まあね。今ならあの位の会話で藍の心を折る事も出来る」

まあ怖い。仕事が溜まっちゃうわ、とおどける紫。パチン、と指がなり、元に戻った。

「・・・・・・・・・・私が言いたい事、貴方なら、分かるでしょう」

そういう紫。僕は頷いた。

「大丈夫だ。もう僕は、踏ん切りがついたから」

なるほど、これは清清しい気持ちだ。紫なりの、憑物落としということか。確かに、いつまで想い出を引きずっているのか。

これからの無い、死体の如く。

「紫」

「なに?秋彦」

名前を呼ぶ。

「外へ出る。大判焼きでも買ってこよう」

「お供します」





外は肌寒く、冬のような秋のような、どちらともいえる天気である。大判焼きの袋を片手に抱え、公園に通りかかったとき、ぬらりひょん、と言う声が聞こえた。

あれは――――ああ、南極夏彦先生か。七年ほど前まで本を出し、その小説は関口君の小説よりも最低だった。版元は、そうだ。集英社だったか。ならば居るのも納得と言うものだ。

「それが、例えばぬらりひょんだろうがひょっとこどんぶりだろうが、そんな事は構わないことなんだ。私は―――――」

すっと足を踏み出す。いい機会だ。

「紫、本家の憑物落としを見せてあげよう」

「楽しみにしているわ」

紫は隙間を少しだけ開け、返事をした。

「失礼しますよ。聞くとはなしに聞こえてしまったもので―――――」

そう言い寄る。心当たりがある、と言って話を聞くと、南極先生は怪異だ怪異だと軽薄に騒ぎ立てた。

「この世には不思議な事など何も無いのですよ、南極さん」

僕の話が終わり、大原はかなり怒っている様子だ。ぬらりひょん、否、両津勘吉と言う憑物を別のもの、詰り感情にかえる。これも一種の憑物落としだ。

「お互い、非常識な友人を持つと苦労が多い。ごたごたに不本意に悩まされますからね。でも―――――――」

思い出す。迷惑な知人を、非常識な友人を、愛した妻を、楽しい友人を、そして

「老いてしまえば、凡ていい想い出ですよ」

好きな人を。

僕は、私の店はあの坂の上です、と指差し、隙間に向けてニヤリと笑った。












東方未詳話       ~似津真天の礎~       【了】











アトガタリ

どうも、蛇です

kno様、やってやったぜぇぇぇぇぇ!!

書いてるうちに楽しくなりました。特に妖怪の名前をつけるのが一番楽しかったです。丁度手元に『南極かっこ人』があってよかった。

感想、批判お待ちしております。

蛇でした。




改定しました。kno様、御指摘ありがとう御座います



[6755] 東方幻夢療  ~少彦名の幻~(スクナビコナのまぼろし)
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/18 20:20

「山に行ってキノコを採って来い」

ある夏、いきなり事務所に呼ばれた僕は出会い頭に放たれた言葉に耳を疑った。

「キ、キノコですか?何で急に、ていうか何処にあるんですか?」

「食べたくなったからだ。京極のところの裏にある林。そこの籠に入れていけ」

是非も無い。まるで王の如き我侭である。否、この人なら神の詔だ、供物は民衆の嗜みだ、とでも言うのだろうか。

「いえ、あそこは確か竹林でしょう。筍なら兎も角キノコは・・・・・・・・・」

「なら筍を採ってくればいい話だろウ!!違うか!!」

違うと思う。

しかし僕はそんな事を言える口は持ち合わせていない。何かが飛んでくる前に、僕は尻尾を撒いて退散した。




「いや、そもそも筍なんてこの季節無いだろ」

竹林についてようやく思い至った。しかし、榎木津ならこの皮の付いているだけの竹も食えるかもしれない。

案外、喜ばれるかも。

「・・・・・・・・・・・・あれ、ここはどこだ?」

何時の間にか知らない場所に出ていた。不気味な所、としか形容できない。

僕のボキャブラリの少なさが原因なのか、それとも別の何かか。

「おや、こんな所に人か。ここは危ないから帰ったほうがいいぞ。ああ、いや、帰れないのか」

「・・・・・・・・えと、君は?そんな危ないところで何をしていたんです?」

僕が質問をすると、少女――――モンペをはいている――――は、ああ、と言った。

「私は藤原妹紅と言う。何をやってるかと言えば、そうだな。うん、この先にいる宿敵と少し喧嘩をしにきたんだ」

いや、そんな居酒屋に行くような気軽さでなに?喧嘩?

「だ、駄目だって女の子がそんな気軽に喧嘩なんてさ」

そう言うと少女は、心配しているのか?平気だよ平気。と笑って言った。

「い、いや、平気じゃあ・・・・・・・・あれ?」

グラリ、と世界が揺れ、僕は倒れた。足が少し剥れている。捻ったのかもしれない。しかしそれとこの眩暈は関係が無いだろう。妹紅さんは僕を揺すって何か叫んでいる。しかし、僕には届かなかった。

僕は、少し眠った。





「・・・・・・・・・・・・・・あれ、ここは・・・・・・・?」

気が付けば何時の間にか和風な建物―――――恐らく家であろう―――――で布団に入っていた。

「気が付いたか」

後ろから声がする。モンペをはいた少女、藤原妹紅が居た。いや、妹紅さんだけではない。その後ろには黒い髪の美少女(別に妹紅さんが美少女じゃないと言うわけではない)も居る。

「あれ?ここは・・・・・・」

「さっき言っていた宿敵のところさ。永遠亭と言う」

「・・・・・・・・喧嘩とか、していませんよね?」

しないよ、病人背負って喧嘩なんて、と妹紅さんは言う。確かに、まともな人間ならば急に倒れた人間を背負ったまま喧嘩をしたりなどしないだろう。

「ていうか、妹紅さんが背負ってきてくれたんですか」

「他に誰が居る」

なるほど、確かにそれもそうだ。妹紅さんはあの竹林を危ないところだと言っていたが、若しそうなら普通他の人なんていないだろう。

「ありがとう御座います、妹紅さん」

「ああ、別にいいよ」

お礼を言う。妹紅さんは手を振っていいと言った。

「あら、お礼なら私にも言うべきじゃないかしら」

今までずっと蚊帳の外だった黒髪の美少女が急に入ってきた。

「一応、貴方を介抱してあげたのは私(の従者)なのだけれど」

「そ、そうだったんですか。ありがとう御座います」

何か間に入っていた気がするけど、お礼を言う。妹紅が言う。

「ハッ、『私~なの』の間に『従者』が抜けてるぞ」

何か抜けていると思ったらそれか。

「五月蝿いわよ妹紅。・・・・・・・・殺されたいならここでやってもいいけど」

「こっちの台詞だ」

「え、一寸待って二人とも、女の子が喧嘩とかは・・・・・・・」

「「一条戻り橋は黙っていろ(いなさい)!!」」

「い、一じょ、ええ!?」

一条戻り橋!?何処から出てきたんだそんな名前。

「へ、違うの?」

「違います。何処から出てきたんですかそんな変な名前」

「・・・・・・・・・お前の持っていた籠に書いてあったぞ。一条戻り橋京助」

「ありえない名前ですね。とりあえず、それは違います。僕の名前は―――――」

「あら、こんな所に居たの輝夜」

名前を言おうとしていると、赤と青の二色の服を着た美人さんが襖を開けて来た。

「お早う。ああ、私は八意永琳。貴方はまだ寝ておいたほうがいいわよ。二条城さん」

「何で変わったんですか!?」

「え、違うの?」

「そうよ永琳。彼は三条畳蔵之助」

「何で一々名前が違うんですか!?」

さっき一条戻り橋だとか書いてあるって言っていたのに何で変わってるんですか?

「師匠、姫様、騒がしいけど何かあったんですか?」

又もや襖が開き、兎のような耳の少女が入ってきた。

「あら、ウドンゲ。少し楽しい事があってね。そういえば貴方の名前も変だったわよね。鈴仙・優曇華院・イナバ」

「それは師匠のネーミングセンスが・・・・・・・」

「何か言った?」

「言ってません。そう言えば四条市さん」

「本島です」

「―――――四条市さん、体は大丈夫ですか?」

無視された。何で一つづつあがっていくんだよ。

「ええ、それは大丈夫ですが・・・・・・・・」

「さっさと帰ったほうがいいわ。もうすぐ夜だし、迷いの竹林を抜けても生きて帰れるかは分からないし」

「あの、それでですね。生きて帰れないかもしれないとはどうい、うっ・・・・・・・・」

ドスっと音がし、僕は倒れた。目の前にはニヒルに笑う永琳さん。それに拍手を送る黒髪の美少女と妹紅さん、そして優曇華院さんは笑う女の人を青ざめながら見ているのが分かる。

「さ、早く元の場所に戻しておきましょう。・・・・・・・・何か五条大橋さんって、何処と言う事も無く苛めたくなるわね。ウドンゲと似たタイプだわ」

「あの師匠?それってどういう・・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・出来れば分かりたく無かった。





「あれ?ここは・・・・・・・」

ふと気が付くとそこは夜で、しかも榎木津ビルの中に居た。

「ああ、本島さん気が付きましたか。中禅寺さんのところの竹林で倒れてたんですけど大丈夫ですか?」

そう言ってくる安和さん。何時の事ですか?と聞いた。

「いつ、ですか?そうですね。確か――――五時間前のことじゃなかったですか?そいで足の筋肉が切れてね、それを直した後があるらしいんですわ。余程腕のいい医者がやったような感じだとか」

いやでも、と安和さんは続ける。

「本島さんがここを出たときから発見されたときで六時間くらいしか経ってないんですよ。それくらいで治る怪我じゃないらしいんですよねぇ」

いやー、不思議だなあ、という安和さん。ああ、そうそう、と言う。

「ポケットにこんなのが入ってましたよ。診断書、なのかなあこれは」

そう言って渡されたそれには、筋肉断裂と偏頭痛と書かれていて、診断者の欄には八意永琳と書かれていた。

「変な名前ですよねぇ。『はちい・えいりん』かなぁ」

「いえ、恐らく『やごころ・えいりん』だと思いますよ」

僕はそう言って。願った。信じては居ないが基督でも仏陀でも何なら榎木津さんでもいいから、もう絶対にあんな所には行かないように。









東方幻夢療  ~少彦名の幻~(スクナビコナのまぼろし)  【了】










アトガタリ

どうも、蛇です。

もう妖怪とか関係ねぇし。唯一神とか出た時点で気付いていたけど。スクナビコナは古事記に登場する神様で、大国主と共に病の治療法を定めたって言われているらしいです。ウィキペディア調べ。間違っているかもしれませんが。

これは・・・・・・・・一寸好き嫌いが分かれるかも。ああ、まって!石を投げないで!

感想・批評お待ちしております。

蛇でした。



[6755] 東方日常記
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/26 08:19
久々の注意書き。このお話は作者の都合で書かれている節があります。元となった作品とは違う設定、背景が出てきても、見逃してください。







八雲藍は大妖怪・八雲紫に仕える式であり、自らも徳の高い化け狐である。九つの尻尾、そして輝くような黄金色の毛並み。それは伝説にもある『九尾の妖狐』と重なり、それならばかの有名な玉藻前、所謂白面金毛九尾の狐の様にかなりの力を持つ大妖である。

・・・・・・・・・・・・・あるのだが。

「らーん、ごはーん」

そんな事を知ってか知らずか、紫の式使いは荒い。紫自身、毎日ぐっすりと寝る上に冬眠までするのだから眠っている間の仕事は全て藍がやっている。その上、昔来た事のあるあの無表情な男のところへ週に一回は(冬眠中を除く)必ず通っているから、その為に時々夜も寝るようになってなお仕事の時間は減る。

減ると言っても、焼け石に水程度の時間なのだが、本気になった時の紫は凄まじく強く、緩やかに淡々と仕事をこなす。

やれば出来る子なのに、と藍は母親のような悩みを持つ。

「はーい、紫様、もうすぐ出来ますよ」

料理を皿に盛り、主の前に持っていく。橙を呼び、ご飯をよそう。

こうして、八雲藍の朝は始まる。





「・・・・・・・・あれ?何だこの本」

紫の自室を掃除しているとき、ふと見つけた本を手に取る。余り見ない装丁だ。恐らく、外の世界のものなのか。

「日記、か」

表紙に筆で書かれている文字を見て、言う。『ゆかりんの日記』と年甲斐も無く、その上丸文字で書かれているそれを眺めると、少し見てみたいと思ってしまう。

「いや、でもそんな・・・・・・・・・・うん、そうだな。ばれなければ如何ということ」

机の上に置いたり、また手に取ったりと挙動不審な真似をして、覚悟を決める。

ペラリ、と頁を捲る。鉛筆の黒い線が表紙と同じ丸文字で書かれている。どんな事が綴られているのだろうか。楽しみである。

『○月×日
今日から日記をつけることにした。懐かしい。確か、昔もこのような事をした覚えがある。そう、あれは富士山が爆発したときのこと。私はそれに衝撃を受けてその記録をとろうとして、ついでに日記をつけ始めたのだ。・・・・・・・・・・・・三日は続いてたっけ』

「・・・・・・・・・・・・」

日記じゃない。

一日の事を記してないですよ紫様。

もう挫折しそうになったが、諦めずに読む。その後は殆ど詩である。一日目で早くも痛い詩を詠む主に泣きたくなってきた。

『○月△日
昨日はもう日記じゃなかった。正直言うと消したい黒歴史だったのだが、繰り返し読んでいると何だかいい詩を書いたような気分になってきた。そういえば私は何で日記をつけ始めたんだっけ。大変だ。これでは今日は良く眠れないじゃない。――――――思い出した。あの関口とか言う人が来て、秋彦に会えた記念とか何かそんなのだった気がする。そう言えばあの宴会の時萃香から貰ったお酒は辛口で美味しかった。酒虫が一寸本気で欲しくなった。あれ?アレって酒虫で良かったっけ?とりあえず秋彦に会えてよかった』

「・・・・・・・・・グス」

一寸涙が出てきた。紫様は最近少しお変わりになられたようだ。出来ればなって欲しくない方向で。

あと紫様、あの詩はそんなにいい詩じゃないです。痛いですよ紫様。

余り見たく無い主の痴態を飛ばし、ニ三頁後を見てみる。

『×月△日
結界の裂け目を通って榎木津とか言う人が来た。紅魔館の門番とメイドに喧嘩売って、天狗達を倒し、神社の神様を抱きしめると言う暴挙に出た。大変だったけど見ていて楽しかった』

「・・・・・・・・・・これって、あの一時期凄い伝説になっていた気の違った自称神のことか?」

思い出した。紅魔館や妖怪の山で外の人間が暴れ回り、複数の怪我人を出したと言う事件があった。

「・・・・・・・・・しかもこれ、あの秋彦とか言う人の友人みたいだ」

無駄に広い交友関係を持った人間だ。

『×月×日
今日は、霊夢とか慧音に頼まれて外の世界の人間を元のところに戻した。最近は外の世界の似たような場所から来る人間が増えた「若しかすると、結界の裂け目が出来ているかもしれない。また少し調べてみる必要がある」』

「ああ、よかった。やっと仕事をしてくれるかも―――――――――あれ?」

途中から音読になっていた。紫様の、声?

「ねぇ藍、主の秘密は楽しかったかしら?」

振り向くと、もの凄い笑顔の紫様が居た。笑顔だが、目が笑っていない。

「あ、あの、紫様、これは・・・・・・・」

「ふぅ、残念ね、藍。・・・・・・・・いいわ。今回は特別よ。許してあげるけれど・・・・・・・・次は、無いわよ」

隙間を広げ、私の顎に手を添える。はい、と頷いた。

「良く出来ました。それじゃあ藍、今日は海老が食べたいわ」

「すぐ用意します!」

叫んで、急いで部屋を出る。肩の震えを止め、深呼吸する。

さて、海老を買いに行こう。






「ふう、藍にも困ったものね」

ゆかりんの日記と書かれたノートを手で弄び、紫は溜息をつく。

「しかし、読まれたのがあそこまでで安心したわ。いや、だからってそれで良い訳でもないけど」

ペラリ、と先程読まれていた頁を捲る。そこには、何も書かれていなかった。

「この私が、一週間で飽きたなんて知られたら、藍に格好が付かないものね」

クスリと笑い、隙間を広げる。隙間の中にそのノートを投げ入れ、隙間を閉じる。

「ふふふ、さてと。それじゃあご飯まで一眠りしましょうか」

海老~♪海老~♪と歌いながら布団を被る。

すぅすぅと寝息が聞こえるようになるのは、そう遠くは無いだろう。







東方日常記       【了】




アトガタリ

どうも、蛇です。

榎木津と同じく紫も偶に書きたくなります。あれぇ?最初は中禅寺とゆかりんのラブい話を書こうとしてたのに気が付いたら藍メインの変なお話。なにコレ?

蛇でした。



[6755] 東方豆腐怪  豆腐小僧、神の機嫌を損ねる
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/15 20:24
むかしむかし、と言うと戦国室町、飛鳥や奈良、若しかしたら弥生や古墳の時代の事を思う方もいらっしゃるでしょうが、これはもう江戸も終わった明治の中頃辺りのお話で御座います。

八百八の狸の戦いを止め、親子姉弟の対面を済ませた御存知豆腐小僧は、滑稽達磨の止めるのも聞かず化物屋敷を飛び出した後、未だに全国行脚を目指し歩いておりました。

ヒタリ、ヒタリ、ヒタリ、ヒタリ、と歩く豆腐小僧は、何時しかのあばら家を出たときとは違い胸を張り、長い舌を使いぺろぺろと自前の豆腐を舐めておりました。

ああしかし、こうして見ると全国津々浦々、様々な妖怪がいる、と感心する豆腐小僧で御座いますが、何時しか滑稽達磨大先生や家鳴り、猫又などに付けてもらったあの心根も少々衰え、今では妙に自身のある唯の豆腐を持った小僧へと変貌していました。

しかし全国行脚を思い立った理由は忘れませんし、修行もきちんとやって居りますれば、中々殊勝な小僧でございます。

さてこの豆腐小僧で御座いますが、今現在、迷子になっております。とは言ってもこの小僧、自身だけは一人前にあるので自分が迷子などとは全く持って思っておりません。しかし運命とはまた読めぬ物でして、盆に入った豆腐を持ったまま、そのまま石に足を取られてすってーん、と転んでしまったので御座います。これは危ない、と思った豆腐小僧は自らの命ともいえる豆腐の事を確認いたしました。

「え・・・・・・・・・・・・・・・」

しかし見えたのは真っ二つに割れた盆と散らばった豆腐。豆腐小僧の意識は、そこで一旦途切れます。




「おや、珍しいね。まだ寿命のある妖怪がこんな所に来るなんて」

目の前に下りますのは先の曲がった鎌を持った女性。少々江戸町の言葉遣いが現れております。しかし豆腐小僧はそんな気軽に返事の出来る状況じゃありません。自らの命である豆腐が無くなった、と言う事は自らが亡くなったのと同義ということで御座います。『寿命が残った妖怪』なんて、聞こえるはずがありません。元々心の弱い小僧なのです。

「あー、あのさ、お前さん妖怪、だよね。えっと、違うかな?違ってたらごめんね。何でそんなに泣いてるんだい?」

女は慌てております。それも当然でしょう。妖怪というのは大抵―――――まあ件なんかの例外も降りますが―――――長生きで、長生きな分気が強かったり現実を受け入れたりと、言ってみれば達観しております。そして妖怪と言えばその様なものを相手にしていた女にとって、現れたと思ったら三途の川をも溢れさせん勢いで泣き出したら、それは驚きもしましょう。

「いえ、手前はこの若い身空で死んでしまいまして、親姉弟にせめて一言申したかったなと思い・・・・・・・・」

そう言うと小僧はまたえーんえーん、と泣き出します。

「いや、だからまだ死んでないって」

「死にましたぁ!!」

突然顔を上げて叫ぶ豆腐小僧。なんだなんだと周りで漂っていた人魂のようなものも集まってまいります。

「手前は豆腐を持った小僧として描かれ出されたもので、豆腐を持っていなくば唯の小僧です。いや、このような小僧は元々居りませんので唯の小僧も居りません。手前は消えてしまったのでございますぅ!!」

「消えたって・・・・・・・・お前さんちゃんとここに居るじゃないか。消えてなんか無いよ」

そう女が言うと小僧はえ、え、と自分の手を眺めまして、本当だ、ある!と叫びました。

「ああ、そりゃ良かったな。じゃあ帰りな。お前さんは帰らないといけないよ」

女は少々、否、かなり呆れた様子でシッシッと手を前に振ります。しかし豆腐小僧は礼儀正しく一礼し、言いました。

「ありがとう御座います。助かりました。良ければ、お名前と御職業を」

「ああ、あたいは小野塚小町。ここで三途の川の船頭をしている死神さ」

女―――――小野塚小町はさっさと帰って欲しい一身で言いましたが、すぐに自分の犯した間違いに気付きました。

「うあああああああああああああああああああああ!!!!!し、死に神!やっぱり死んだんだぁぁぁぁぁぁ!!!」

咄嗟に耳を押さえて後ろに下がる小町。この判断はとても良いものと言えましょう。何故なら、豆腐小僧は頭を振り回して周りの魂どもをも頭突き倒しているのです。豆腐小僧は小僧ですし、小町はかなり背の高い女ですから、当たれば横っ腹の辺りになり熱心な愛好家の方々には決して見せられないような物を口から出していたことでしょう。それほど小僧の勢いは凄まじかったのです。

「(あ、危なかった・・・・・・・・)ちょ、ちょいとお前さん」

「なんだなんだ、煩いなあ。小町、何か変なものでも居るのか」

小僧の後ろからそう声をかけるのは、小町の持つ鎌よりもスラリとした鎌を持った男でした。

「おお、小僧。何を泣いているのだ。あの威勢のいい立ち回りはどうした」

「知り合いかい?」

ああ、と男は言います。そう、原作を御覧になっている方にはお解かりになるでしょうが、あの侍の魂を持っていき化物屋敷でも現れ、小僧を褒めたあの死に神です。姿かたちは中年くらいの目付きの悪い男と変わっておりますが、この作品と交差させるに当たって仮令男であっても此方の世界のものが不細工では駄目だろうという作者の配慮が見受けられます。

「昔ちょいと縁があってな。ほれ小僧。泣くな、泣くな。どうしたのだ」

エグ、エグ、と泣く小僧は知った声を聴き、ハタリ、と泣くのを止め、身の上を語りました。

「ああ、死に神さん。この度は、突然の不幸に会い・・・・・・・・」

「不幸に会ったのはお前か小町だ。一体どうした」

「ええ、実は手前は自らの命とも言える豆腐を落としてしまい、行き着いた先が死に神様の下でして。ですから手前は死んでしまいました」

「・・・・・・・・・・・まあ分からんでもないがな。しかし儂はお前を連れてきてないぞ。儂しか魂を持ってくるような死に神はおらんしな。」

勿論嘘です。妖怪の魂と言うのは勝手にあの世へと行くものです。しかし嘘も方便。このくらいの物は閻魔様も見逃してくれるでしょう。

「ええ、じゃあ手前は死んでは居らんのですか!?」

「だからさっきから言ってるじゃないのさ・・・・・・・・」

ひゃあ、し、死に神、と小町を指して言う小僧ですが、儂も死に神だ馬鹿者、と言う知り合いの言葉に我に返り、ああ、そうか、と言いました。

「分かったか。じゃあ早く帰れ」

「うわァァァァァァァァァァァ!!!し、死に神、死に神ィィィィィ」

どうやら小僧、先程の言葉は小町を恐怖対象から外したのではなくて、両死に神を恐怖する前段階、と言うわけだったようです。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♯」

ゲスッと小町の無言の蹴りが炸裂し、小僧は完全に沈黙しました。流石に面倒見のいい小町も腹に据えかねたと見られます。

「良くやった小町。どれ、この際閻魔様にでも叱ってもらおう」

どうやらこの死に神も内心怒っていたようです。額に血管が浮いているのが分かります。

豆腐小僧は死に神の男に首根っこを掴まれ、閻魔のところへと向ったのでした。






「あれ、ここは・・・・・・・・・」

「気付きましたか」

意識を取り戻した豆腐小僧は周りを見渡し、そう言ってくる緑の髪の少女を発見いたしました。

「あのぅ、ここは何処ですか・・・・・・・」

「ここは、地獄の裁判所です」

「ヒィィィィ!地ご・・・・・・・・・・「黙りなさい!いいですか!?貴方は少し人の話を聞かなさ過ぎる!あまつさえ自分の知人を罵倒するとはどういった了見ですか!!」・・・・・・ハヒィィィィィィ!!」

二人の死に神の話を聞き、閻魔様、四季映姫様も怒っているのしょう。しかし、事の大きさに気付いたのは二人の話ではなくて『仕事をしないような者が何を言っているのか』と言われた小町がまともに仕事をし始めた事によるものが大きいようですが。

結局、このありがたく口うるさいお言葉は五時間にも及び、次の日四季様の声はしわがれてしまっていた事は、言うまでも無いでしょう。






「は、ここは!?」

小僧が気付いたとき、それはもうとっぷりと日も暮れた真夜中の事でありました。豆腐小僧は跳ね起き、豆腐の無事なのを確認すると、閻魔様のお言葉を思い出しながら、ゆっくりと眠りました。













東方豆腐怪  豆腐小僧、神の機嫌を損ねる       【了】







アトガタリ

どうも、蛇です。

書いてしまった。書いてしまいましたよ。この僕は。京極シリーズや巷説百物語を書かずに『豆腐小僧双六道中』ですよ。笑え!笑うがいい!

すいません、取り乱しました。

感想、批評、お待ちしております。

蛇でした。



[6755] 東方兢々虚  ~目競の鎖~ (めくらべのくさり) 1
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/26 12:42
このお話は論理的、または現実的ではないかもしれません。気を付けてお読みください。








目競―――――大政入道清盛、ある夜の夢に、されかうべ東西より出て、はじめは 二つありけるが、のちには十、二十、五十、百、千万、のちにはいく 千万といふ数をしらず。入道もまけずこれをにらみけるに、たとへば 人の目くらべをするやう也しよし。平家物語にみえたり                         今昔百鬼拾遺







「・・・・・・・・・・判決。地獄行きです。等活地獄にて、その罪を償いなさい」

卒塔婆をかざしてそう言うと、その者は泣き崩れたように見えた。当然である。死よりも辛い獄門がくると知って、平気な顔をしている人間などいるはずがない。

彼女は自殺をした。それは許されざる罪である。しかし、それにも事情がある。彼女は、子供を殺された。偶然でなく、明らかな悪意を持って。子を殺された悲しみで、この世を儚んだ末の自殺。確かに、自殺と言う一点だけを見ればそれは罪であるが、その背景には理由がある。

向こうの世界には『情状酌量』と言う制度があったか。是非とも、我々の裁判にも導引してほしいものである。

「・・・・・・・・・」

胸がチクリ、と痛む。胸に手を当て、私は思う。

本当は、こんな仕事はやりたくない。

「・・・・・・・・・いえ、いけませんね」

パンパンと頬を叩いて、自分に言い聞かせる。そのような考えは罪だ。第一、私達閻魔がそのような迷いを持ち裁判をしてはならない。それは、罪以前の問題だ。

「・・・・・・・・大体、他の閻魔のことも考えて見なさい」

虚空に呟く。彼ら彼女らも嫌々、とまでは言わないが大好きで大好きで、俗に言うワーカーホリックのようなものはいないだろう。

そんなことを考えていると、次の魂が入ってきた。

8才程度だろうか。私は胸に痛みを覚えつつ言った。

「・・・・・・・・・・・・・貴方は、賽の河原へ行きなさい。子を失った親の苦しみを味わいなさい。それが、貴方の罪に合う罰です」

しかし――――――と思う。

子を失った親の気持ちなど、まだ生命の意味さえ知らないような子供には分からないだろう。子を失った親の気持ちが分かるのは、子を失った親だけだ。こんな罰はないだろう。彼は、何の罪も犯していないのだ。自殺や自らの不注意に寄る死なら兎も角、彼には何の過失もない。

「はぁ。・・・・・・・・・小町は、どうしているでしょうか」

ふと、あのサボり癖のある部下を思い出す。今日は割と仕事をしているようだが、それもそろそろ終わるだろう。昨日は一日中寝ていたようだから目が冴えているのだろうが、それも一時の物だ。

しかし、そんなことはどうでも良い。彼女は、このような悩みを抱えているだろうか。彼女は仕事柄、魂との会話をすることがある。相談や愚痴聞きもするそうだ。ならば、案外悩んでいるかも分からない。

――――――否――――――有り得ないな。

彼女は、言っては何だがそんな細かい性格はしていない。何だかんだ言って結局幸せに寝ている。

神経が太いのだ。

私の神経が細すぎるのかもしれない。

「そろそろ業務終了の時間ですか。・・・・・・仕事仲間に声をかけて帰りましょうか」

そう言って、家に帰ろうとしている仲間のところへ行く。

「不満?」

仕事仲間に愚痴を聞いてもらい、友人の閻魔から最初に漏れた言葉がそれである。

「不満、と言うと?」

仕事にだよ仕事に。と呆れたように言う。

「お前はそんなこと、考えるだけで罪って言いそうだがなあ。意外だよ。お前にそんな質問をされるのは」

「・・・・・・・そう、ですね。不満なのかもしれません」

具体的には?と続けて聞いてくる。

「具体的に、ですか。そうですね。何の罪も無い人や十分償った人が地獄に送られていくこと、ですかね・・・・・・・・」

「ふーん。お前さ、この仕事に誇りとかないの?」

聞いてくる。無くは、無い。人の幸不幸を扱い罪を償わせるのは嫌なこともあるが、その功績を認め、極楽へ引導を渡してあげることは、私にとって喜びのひとつだ。

「あるって顔だな。うん。良いんじゃないか?一つでも良い事があるなら、それをやるのは間違ってないよ」

背中をたたき、友人が言う。そうだな、と思う。今まで私は暗いことばかり考えていた。ちゃんと明るく物を考えよう。

「そうそう。そうやって物を見なよ。一気に世の中が楽しくなる」

ありがとう御座います。と言って、私は家に帰った。

次の日。

私は幻想郷まで降りてきた。何時もなら説教をするのだが、今日は和やかに森を歩いたり買い物をしたりして、休もうと思う。幽香の向日葵畑に行くのも良いかもしれない。どこか山にでも登ろうか。そう言えば、妖精がある山に変な花がたくさんになっていると言っていた。そこにも行ってみよう。

一週間がたった。

「それにしても、いい花ですね」

一日を楽しみ、ストレスを発散したあの日、例の山に生えていたお花を四、五本摘んで花瓶に入れた。少々傷がついていて、其処から変な汁が出ている。萎びかけのその姿がなんだか昨日までの自分みたいで、ついつい摘んでしまった。

お茶にしたら割と美味しかった。

――――――――耳の奥からなにやらガヤガヤと聞こえる。

「何でしょうか一体・・・・・・?今度、永琳さんに見てもらいましょうかね」

布団を敷き、眠ろうとするがしかし、ガヤガヤと何かの声がして眠れない。

ふと、家の前に何かの気配を感じた。

「誰かいるのですか?」

そう言ってみるが、返事は無い。

「誰ですか?一体・・・・・・・・・・え」

家の前には、頭蓋骨があった。

睨んでいる。

髑髏が――――――

頭が―――――――

頭骨が――――――

ドンドン増える。増殖する。

目が――――――

眼が――――――

瞳が――――――

眼球が――――――

上へ、下へ、右へ左へ動き回る。

目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が目が――――――――――――――――

「――――――――――あっ」

四季映姫・ヤマザナドゥが突如無断欠勤を繰り返すようになった、その前日のことである。





[6755] 東方兢々虚  ~目競の鎖~ 2
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/26 12:36





「ファーア」

死神・小野塚小町は口を押さえることもせず、豪快に欠伸をした。

「・・・・・・・・・・・・・しっかし、珍しいこともあるもんだねぇ。映姫様が欠勤なさるだなんて」

否。

珍しいどころの騒ぎではない。あの堅物が無断で欠勤するなどとは、天地が引っ繰り返っても起こるはずの無いことだ。

「・・・・・・・・・・・・・なーんかあったっぽいねぇ」

そう言えば――――と小町は思い出す。

「そう言えば昨日、映姫様が山にあった綺麗な花を下さったっけ」

そう言って、小町は先の曲がった鎌を手に持って辺りを見渡す。

「誰もいない、よね」

当たり前だ。いるのは霊魂だけ。口煩い上司はいない。寧ろ、その上司のために行こうとしているのだ。

「私も殊勝だねぇ。上司のために大事な仕事を犠牲にするなんて」

かはははははは、と笑い飛ばす小町。しかし、当然の事ながらそれは建前である。

「そうだ!ちょっと映姫様のところへ行ってみよう。面白そうだ」

そう言って、飛ぶ。

正直者な小町だった。




「えーいきッさま!どーこでッすか!」

ガタガタと家に入り、叫ぶ。返答は無い。

「おかしいな。何処に――――――おやぁ」

ガタリ、と物音が聞こえた。寝室の辺りだ。

「入りますよ映姫様ァ!!お見舞いに来ました!」

どう見てもお見舞いに来た雰囲気ではないが、小野塚小町はそう言って襖を開けた。

「こ、小町ですか。た、助けてください!庭に髑髏が、髑髏が睨んできます!髑髏が動いて、襲いに来ます!」

そう言って映姫が抱きついてくる。

「へ、ドクロ?なんですかそれ」

必死に外を指差す映姫。小町は、外を見やる。ごつごつとした岩があり、数本の木がある。しかし、髑髏などない。

「・・・・・・・・何もありませんけど」

「他の人には見えないのです。小町、助けてください!」

怖くなった。

必死に縋り付く映姫に心のなかで謝りながら、小町は映姫との距離を離す。

「小町・・・・・・・助けて・・・目競が」

ポロポロと涙を零しながら、映姫は迫ってくる。何かを言っているが、小さくてよく聞きとれなかった。小町は距離を操り、一気に遠くまで逃げる。

家の外。小町、小町と呼ぶ声が、響き渡っていた。




「なるほど。それで私のところに来たのね」

「はい」

博麗神社境内。そこに小野塚小町と八雲紫がいた。

「お願いします。助けてください。サボれるのは良いんですが、この一週間昼寝をしても映姫様の顔が浮かんで如何しても悪夢になってしまうんです」

「寝なければいいと思うけど。それか薬師にいい夢を見れる薬を見繕ってもらうとか」

「試しました。でも如何しても映姫様が入り込むんです。今日の昼に見た夢は、あたいがグッスリ眠っていたら映姫様が数人寄ってきて、口々に言うんです。小町、小町、サボらないで仕事をしなさい、と」

大変気持ち悪かったです。と涙ながらに語る小町。上司の心配より自分の睡眠か。しかも気持ち悪いとは。

「それは――――大変ね。睡眠はとても尊いものだわ」

「なに同意してんのよ紫」

腋が出た妙な形の巫女服を着た少女、博麗霊夢が突っ込む。

「それはもう殆ど異変じゃない。それも、私じゃ手に負えない類の。紫、貴方が『異常と正常の境界』を弄れば全部終わる話でしょ」

「嫌よ。大体そんなことしてもまた変な幻覚を見て終わりね」

はぁ、と溜息をつく霊夢。紫は、頼れるところが無いわけじゃないけど――――と切り出した。

「あるんですか!?」

「無くは無い、ってだけよ。有るとは言ってないわ」

「・・・・・・・・・どういうこと」

そうねぇ、と言う紫。

「どうにかできる人は居るのだけど、物凄く偏屈と言うか、頼んでもやってくれないわね。とても怖い人よ」

「怖い?紫が言う怖いって想像が付かないわね。どんな人?身長は何キロくらい?変身は何回するの?」

変身するのが前提である。

「霊夢の私に対する評価が悲しすぎるのは置いといて・・・・・・・そうね。そう言う怖いじゃなくて、何と言う怖いなのかしら。そうねぇ小町。貴方は屋根と壁のある細い一本道の真ん中にいます。前には魔理沙がファイナルマスタースパークを放とうとしていて、後ろには薬師が変な色の液体が入った注射器を両手に構えて手術台を携えて立っています。小町、貴方ならどっちに行く?」

「・・・・・・・・片方は地獄に落ちたほうがまだマシな気がしますから、魔理沙の方ですかね」

「でしょうね。彼は薬師みたいな怖さよ」

「・・・・・・・・・・・でも、少しは望みがあるなら、そちらに懸けてみたいです。このままじゃあたい、サボって寝たりできません!」

かなり屈折した理由である。紫はそう、と頷くと、隙間を広げた。

「なら、案内してあげるわ。来なさい」

そう言って手をとり、小町は隙間の中へと導かれた。





[6755] 東方兢々虚  ~目競の鎖~ 3
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/26 12:37





隙間は人目の付きにくそうな小道に繋がっていた。

小さな道を出ると、右手側にいい加減な角度で続いている坂があった。

「さ、行くわよ」

紫はそう言って歩く。あたいも付いていった。

坂を上りきると、京極堂と書かれた看板を掲げる本屋が目に入る。ガラガラと扉を引き、中に入った紫は中禅寺さんはいらっしゃいますか?と声を立てた。

「いるよ」

奥から声がした。現れて帳場の辺りに座る男は、彗星が五つ同時に落ちてきたような仏頂面で、何の用だ、と言った。

「珍しいね。君が外から歩いてくるなんて。急な用事かい?面倒ごとは嫌だぜ」

「つれないわね。私と貴方の仲じゃない秋彦。残念ながら面倒ごとよ」

憑物落しをやってほしいの―――――――と言う紫。

「あの、失礼ですが憑物落しとは何ですか?」

聞く。秋彦さんはムッとした顔になり、こちらの方は、と紫に問うた。

「この子は死神の小野塚小町。小町、この人は私の友人の中禅寺秋彦よ。まあ、京極堂で良いでしょう」

人の呼び方を勝手に決めないでくれるかな紫、と文句を言う京極堂さん。

「いいのよ秋彦。其れより、上がるわよ」

そう言って帳場を越える紫。京極堂さんはまあ良いけどね・・・・・・・・と、諦めたかのように呟いた。

「さて、憑物落しの件だがね、残念ながら、断らせてもらう」

何でよ、と聞く紫。当たり前だろう、と言う京極堂さん。

「いいかい?『憑物落し』とはね、雰囲気が決め手なんだ。こちらの雰囲気に飲ませ、そうだな、例えば腹の中で憑物を溶かしていくわけだ。僕の雰囲気に飲ませるやり方はね。一目で異様だと思うような格好をして、先ずは視線や興味を此方に持っていく。その上で相手の知りたい情報を小出しにドンドンと興味を持たせるんだ。此処までが飲み込まれた状態だね。そして飲み込んだ後は『何故』そうなったかを話す。宗教や歴史、哲学と人によって色々なものを用いてね。そこでやっと胃液に入って溶かされ始めるんだ。そしてその人の行動や動機を『否定』してすべての憑物が落ちるんだ。でもね―――――――――」

京極堂さんは少し溜める。そして、言った。

「胃液で溶かされた後のもの――――――これは多少汚い話になるんだけれども、溶かされたあとは済し崩し的に胆汁や膵液で溶かされていく。腸液まで浴びればもう残ったものは―――――――ただの残りかすだ」

憑物とは、その人間を支えていることも多いしね―――――と京極堂さんは続ける。

「大黒柱を失った家がどうなるかは分かっているだろう?崩れ去るんだよ。かなりの確立でね」

言い終わった京極堂さんは、まあゆっくりして行きなさい。家内がお茶を入れてくれているからと言って本を取り出した。しかしその本は、紫にとられてしまう。

「・・・・・・・・・・・まだ何かあるのかね」

「大有りよ。小町は騙されたようだけど、私は騙されないわ。あなた、結局憑物落しをしない理由を言ってないじゃない」

気づいたか、といって目頭を押さえる京極堂さん。紫は、甘いわよ、と言う。

「面倒臭い、ってのも理由にあるんだけどねぇ。君がそんなに急ぐって事は詰まり急ぐ必要があるだけの人物だ。さっきも言ったけど、憑物は心の拠り所となっている場合が多い。大抵の場合は不幸になる。そんな大物に何かがあったら、幻想郷の力関係が崩れてしまうだろう」

「・・・・・・・・・・半分正解」

京極堂さんの御託に聞き入っていると、紫がそう言った。

「半分、ね」

「ええ半分、よ。秋彦。憑物落しを頼みたい四季映姫・ヤマザナドゥは冥界の閻魔様。幻想郷のバランスには直接は関係ないわ。それに――――――」

紫は其処で少し溜め、言った。

「そんなことで壊れるようなら、そもそも貴方に頼らないわ」

そうかい、と言って京極さんはタバコに火をつける。

「しかしね、それでも憑物落しはしたくないよ」

面倒だからね。と言う京極堂さん。

「だいたい、どんな物が付いているかすら分からないのに何をしろと言うんだい」

「それを調べるのよ」

嫌だよ。と言って京極堂さんは取り返した本を捲る。

「あれ?京極堂さん、それって・・・・・・・・・・」

あたいは京極堂さんの読んでいる本を指差した。

「これかい?これは目競だよ。『平家物語』で平清盛が出会ったとされる怪異だ。最近では髑髏の怪とも言われているね。まあ、平家物語にこの怪異の名前は載ってなくて、鳥山石燕が自著で命名したものだそうだがね。見てごらん。ここに、ほら。『大政入道清盛ある夜の夢』と書いているんだがね、つまりこれは唯の見間違いと言われているんだが――――――――」

「それです!!」

あたいは叫んだ。

「その目競が出たんです!映姫様のところに!」

はぁはぁ、と肩で息をしているのが分かる。久しぶりだ。こんなに叫んだのは。

「―――――――小野塚君。先程も言ったが、これは夢の話。幻なんだよ。本当に起こったとされることではない」

「でも、映姫様は言っていましたよ。髑髏が増えて、そいで動いて襲ってくるって。目競が出たとも言っていました」

あのねぇ、と京極堂さんは呆れた風に言う。

「目競は増えるんじゃなくて合体してドンドン大きくなる物だし、動きはするけど襲ったと言う記述は無いよ。睨むだけさ」

でも、と食い下がる。

「だから、其れは見間違いだ。こんなものはね、まやかしだ。その閻魔殿がその辺りの妖怪を知っていたと言うだけのことじゃないか。そんな物、何の証明にもならないよ」

でも、とまた食い下がる。

「良いじゃない秋彦。話だけでも聞いてあげれば」

紫がそう言って助け舟を出してくれる。京極堂さんは、仕方ないなぁ、と言って、続けた。

「なら、その話とやらを聞かせなさい」

話は其れからだ。と言う京極堂さん。あたいは、はい。と返事をして事をできるだけ細かく伝えるために、お茶を飲んだ。




[6755] 東方兢々虚  ~目競の鎖~ 4 (又は骨休め)
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/26 12:38




『閻魔様?ああ彼女なら知っているよ。何でも心を病んでお倒れになったらしいね。色々な物を買っていて、寺子屋も見に来ていた。かなり楽しそうだったからすごく意外だったよ。子供たちも珍しがっていて、何時もはやんちゃな子供たちが急にピシッと座ってさ、席を動いたり話したりしなくなったよ。まあ、一人その範疇に入らない子もいたけどな。毎回宿題忘れたりする子なんだ。へ、どうしたかって?何時も通り頭突きしたけど?Caved!』



『ああ、この辺りから見えましたよ。森を散歩していまして、凄く癒されてるのが目に見えて分かりました。なんか溜まってたんですかね。知らず知らず紅魔館の近くに来ていたようで、声をかけたら凄くオタオタしていました』



『向こうに有る山で咲いてる、綺麗な花を二三本持っていってた。最近あたい達妖精間で流行ってた花でね、何体かの妖精が其処で急に暴れだしたりもしたよ。まあ最強のあたいが止めてあげたけどね』



『骸骨に襲われて、それで病に臥しているって聞いたけど?うん。このウサ耳にかけて本当だよ。あたしらの所にも来ないし、何か理由があるのかねぇ。・・・・・・・・・ああ、悪戯したい』



『ああ、此処にも買い物に来ていたよ。珍しい客だったからよく覚えているよ。やっぱり霊夢や魔理沙と違ってつけにしないから助かったんだけどね』



『そうね。白玉楼にも話は詳しくは来ないわ。でも、他の閻魔様も大変ね。かなり大騒ぎだそうよ?一人抜けただけで。私には関係ないけど』



『私みたいな鬼も心配だよ。あの巫女は、金も胸も嫁の貰い手も無くて、序でに仕事もしないんだからねぇ。鬼の目にも涙とはこういう事サ。え?いや、これ本人に言っちゃだめだよ。殺されるって私』



『確かに死神は此処に来たわよ。ええ。死神は紫が外へ連れて行ったわ。何でも、怖い人に助けを求めるって。ええ。あら?お賽銭は入れていかないの?いや、そりゃ不思議そうな顔になるわよ。神社と言えばお賽銭でしょってコラァ!逃げんな!!!』







文文。新聞掲載記事
四季映姫・ヤマザナドゥに対しての周辺取材・噂の調査記録より抜粋




[6755] 東方兢々虚  ~目競の鎖~ 5
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/26 12:39





あたい達は映姫さまの部屋の前にある庭―――――例の髑髏の有った場所だ―――――に集まっている。集まっているのはあたいと紫。それと、霊夢、文、そして永琳の五人である。否、よく見ると映姫様も部屋の隅で諤々(がくがく)と震えているので、六人だ

あたいと紫、霊夢と映姫様は当事者として。文と永琳はジャーナリストとして真実を記録したいと言うことと、若しもの為の医療班だそうだ。

「小町、私はこれでも忙しいのよ。大体のところは紫から聞いているけど、早くしてほしいわ」

「そうですね。私も早くしてほしいです。真相を聞きたくてこの両耳が、真実を見たくてこの両眼が、新記事を書きたくてこの両腕がウズウズするんです」

そう言ってくる二人にもうすぐ来る、と言いやんわりと宥めてから、あたいは何故このようなことになっているのかを反復した。





「――――――――――なるほど」

事を説明した後、京極堂さんは顎に手を置いて何かを考える素振りを見せた。

「大体は分かった。ふむ――――――――」

ブツブツと呟いている。ふと顔を上げた。

「小野塚君。閻魔殿の庭の見取りをできるだけ詳細に教えてくれないかな。あと、部屋の見取りも頼む」

そう言って京極堂さんはあたいを見据える。

「――――――――――ってのが庭の見取りですね。ああ、其れと映姫様がこんなのが山で取れたって下さいました」

そう言って花を渡す。京極堂さんは驚いた様子でそれを見ると、言った。

「なるほど、なるほど。そうか、なら――――――いや、こんなことが、でも―――――」

又もや京極堂さんは顎を押さえて呟く。

「何ですか?この不思議な事件の事が、分かったんですか?」

聞く。京極堂さんは面白いものを見つけた、といった風に笑い、言った。

「この世にはね、不思議なことなど何も無いのだよ小野塚君」





「ありますよ。不思議なこと。なんであたいがこんなクレーム対応しなきゃならないんですか」

「自業自得ね」

「因果応報とも言うわ」

紫と霊夢が言う。

「うるさいよ二人と―――――うん?」

何か、音が聞こえた。

こん

こん

こん

こん

ドアをたたく音だ。キィ、と音がして、開く。

「失礼しますよ」

と訪問者は言った。

「この度は、皆様お集まりいただき有難う御座います。付きましては、是から起こる事をその二つの御目で捉えていただければ、これ幸いと存じ上げます―――――――――」

其れは、異様な格好だった。黒の着流しに黒の手甲。黒い足袋に鼻緒だけが赤い黒下駄。

「御託はいいからさっさとしてくれないかしら。私にも用事があるの」

永琳さんが言う。京極堂さんは頭を下げ、言った。

「物事には順序があります。そして、順序を守らねば決して上手くは行かぬ事も。ましてやこれは探偵ごっこ等ではなく憑物落とし――――少しのミスで全てが台無しになる。少しの辛抱ですので、お待ち戴きたい」

永琳は、はいはい、と溜息をつき、言った。

「・・・・・・・・・まず、この状況の説明をしましょうか。今回の事件は『閻魔殿の異変』と『妖精の異常行動』の二つです」

「えっ、何でですか?」

文が言う。

「何で閻魔様の異常と妖精たちの異常が繋がっているのですか?」

「・・・・・・・・・・・・先程も言ったとおりだよ。物事には順序がある。その話は後からするから少し聞いていなさい」

京極堂さんはそう言って宥め、続けた。

「先ずこの閻魔殿の異変。この方には、目競が付いている。ああ、手を上げなくてもいいよ文君。君の聞きたいことはよく分かるから。目競というのは平清盛の出会った怪異のことだ。平家物語によると『清盛ある夜の夢』と書いているんだがね、つまりこれは唯の見間違いと言われている」

「まどろっこしいのですが、それは詰り夢、ですよね。其れが憑くのですか?」

「憑きますよ。夢だろうが幻覚だろうが蜃気楼だろうが、憑く人に会えば憑くのです。占いみたいなものですよ。のめり込む人はのめり込みます。しかし占いは物ではなく動作、方法です。占いでお腹が膨れますか?占いでは喉は潤いません。しかし占いをすればお腹を一杯にすることは出来るし、喉を潤すことも出来ます。憑物とはそう言うものです。憑いた人間に恩恵と不幸を同時に与える」

京極堂さんは言った。

「この夢はですね、雪の見間違いといわれている。ですからまあ、夢と言うよりは幻覚ですね」

京極堂さんは続ける。

「さあそれでは映姫様。その髑髏は見えますか」

不意に後ろに声をかける。映姫様は震えながら言った。

「・・・・・・・・・・・・はい。有ります」

「はぁ、馬鹿馬鹿しい。精神安定剤ならありますから、帰ってもいいですか?」

「何をおっしゃいます!!」

京極堂さんは怒鳴った。

「彼女は狂ってはいません!ただ物を見る角度が我々とは少し違っているだけです。貴方は何です?月人でしょう?しかし僕から見れば唯の人にしか見えませんよ。紫も、小町君も、霊夢君もです。角の生えた人間だって居るのです。良いですか!?一つ物を疑えば総てを疑う事になりかねないのです!!」

「・・・・・・は、はい」

京極堂さんの恫喝に、ばつが悪そうに答える永琳。

「・・・・・・・・・・・・其れでは映姫様。その髑髏は、今どうなっています?」

「・・・・・・・・・・・・此方を睨んでいます。人がいるので増えたりはしませんが、ジッと此方を睨んでいます」

「映姫様、其れは、貴方は何だとお思いですか?」

「あれは・・・・・・・・」



「あれは、私が地獄に落とした人の、頭蓋です」

言う。京極堂はそうですか、と言った。

「何故、そうだと」

「私を、恨んでいるのでしょう。私が、あらゆる人を地獄に落としてしまったから」

「違います。其れは貴方が地獄に落とした人ではありません」

「何故」

「――――――――――これは仏教の考え方ですからこそ、閻魔である貴方に言えることなのですが、貴方が落とした人間はみな魂を浄化し、六道に転移します。餓鬼道、修羅道、畜生道、天上道、地獄道。そして、人間道」

極楽など無いし、恨んでいる暇もありませんよ。と京極堂は言う。

「でも、それでも彼らは私を恨み、目競として・・・・・・・・・・」

「目競は別に恨みのものじゃありませんよ。良いですか?大体、目競は増えも襲いもしません。合体して大きくなりますが、それでも襲ったりはしません。しかし―――――――」

京極堂さんは言う。

「しかし、それでも未だ貴方が目競に襲われるとお思いならば、其れを退治するしかないようですね」

「退治・・・・・・・・ですか?」

ええ。退治です、と京極堂さんは応えた。

「方法は簡単です。睨むこと。睨むという動作はそのまま呪いとしても使われます。清盛もこれで目競を追い払いました」

映姫様は少しおどおどとしていたが、やがて意を決したように何かを睨み付けた。

「――――――――――あっ」

そう言って、映姫様は倒れた。




「永琳さん。容態を」

その声に反応して、上の空だった永琳は映姫さまのところへかけて行く。否、永琳だけではない。この場にいる、紫と京極堂さんと映姫様を除く全ての人間の時間が止まっていた。

「・・・・・・・・・大丈夫です。脈拍も正常ですし、呼吸も安定しています。寝ているだけですね。隈がありますし、若しかしたら、昨日今日は寝ていないのかもしれません」

そうですか。と京極堂さんは落ち着いた声で言った。

「しかし、どういうことですか?」

永琳が聞く。

「どういうこと、とは」

「全部ですよ」

永琳が京極堂さんの言葉に続ける。

「何故、あれで憑物とやらが落ちたのですか?私には、石を紫が消した様にしか見えませんでしたが」

そのままですよ。と京極堂さんは言う。

「言ったでしょう。彼女は物の見方が我々とは違っていると。我々にはただの石でも、彼女にすれば頭蓋骨―――――目競だったのです」

「・・・・・・・・・・・なるほど。詰り我々に対してのあの石を壊すことと、閻魔様の目競を壊すことは同じだったということですね」

ええ。と頷く京極堂さん。あの、と文が手を上げる。

「それじゃあ、妖精の異変との共通点は何なんですか?」

聞く。簡単ですよ、と京極堂は言う。

「その二つの共通点は、ある山に行ってから、もっと言えば、ある山のある花を取ってから、おかしくなったのです」

これが、その花ですが。とあたいの渡した花を見せる京極堂さん。

「それって、若しかして――――――――いや、でもそんな事が」

「おそらく、永琳さんの想像通りですよ。これは、芥子の花です」

「芥子!?」

「芥子って、アヘンの芥子ですか?」

文が質問する。

「ええ。しかし芥子はこんな状態では何にもならない。此処からさらに手を加える必要がある。これは乳液が出ていませんし、数も少なすぎる。しかしですね、これは小野塚君に貰った物です。乳液が出ていないのは傷の付け方が下手だったからで、映姫様の部屋にあったものはキチンと出ていました。その上、それでお茶を作っていたようだ。一週間もアヘンの成分が入ったお茶を飲めばどうなるかは見当が付く」

アヘンは元々吸う麻薬です、と京極堂さんは言う。

「しかし、そんな事が」

「あるのですよ。妖精のほうも単純です。見てくださいこの花。かなり傷が付いています。彼女らが花畑で暴れたのでしょうね。彼女らもアヘンで幻覚を見たのです。然しこれ、二三筋だけとても綺麗に傷が付いています。永琳さん。これも、貴方を呼んだ理由の一つです」

永琳は少し黙り、言った。

「はい。確かにその傷は私が付けた物ですね。しかし・・・・・・・・こんなことになるとは」

「普通誰も思いませんよ。貴方はただ薬の材料を調達しただけです。これは数々の偶然が重なった事故です。それで良いね?二人とも」

京極堂さんは紫と霊夢のほうを向いて、聞いた。

「ええ。私は構わないけど」

「私も、する仕事が減るのは大歓迎よ」

二人はそう答える。

「・・・・・・・・・ん」

映姫様が声を漏らした。

「・・・・・・・・・・・話は、聞きました。つまり私は、麻薬をやってありもしない幻覚を見ていた、ということですね」

違いますよ、と京極堂さんは言う。

「ありもしない幻覚ではないのです。貴方はきちんと幻覚を見ていた。その幻覚を見ることこそが、既に幻覚だったということです。それに貴方が使っていた時点で麻薬と言う認識は誰もして居らず、薬としての認識しかなかった。貴方は薬の服用方法を間違えただけだ。」

何の罪でもありません、と京極堂さんは言う。

そうですか――――――と映姫様は言う。

「私は、今まで目競の鎖に繋がれていると思い込んでいましたけど、鎖の端を握っていたのは、結局は私だったのですね」

ええ、と肯定する京極堂さん。

「当たり前です。目競など、初めからいないのですから」

映姫様は、はい、と頷いた。






[6755] 東方兢々虚  ~目競の鎖~ 6 (又は後日談)
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/26 12:41




「ファーア」

死神・小野塚小町は口を押さえることもせず、豪快に欠伸をした。

「これ、小町」

ピシリ、と卒塔婆で頭をたたかれる。

「仕事もせずに何をしているのですか。私が復帰したからには、もうサボらせませんよ」

「はぁーい」

そう言って小町はフヨフヨと飛んでいく。スゥっと隙間が開き、八雲紫が出てきた。

「おや、貴方ですか。丁度良いです。説教は後にして、少し言伝をお願いしても宜しいですか」

「ええ。結構です。説教が無くなれば、なお宜しいですわ」

そう言って笑う紫。映姫はコホン、と軽く咳払いをして言った。

「では、憑物落しの先生に、貴方が若し此方に来たら、少し罪を軽くしてあげます、と」

「何よりの土産話ですわ」

紫はそう笑い、それでは、と言って姿を消した。

「もう私の鎖を見失ったりはしませんよ。先生」

何処とも知れぬほうを向き、四季映姫ヤマザナドゥはそう呟いた。










東方きょう兢きょう々きょ虚  ~めくらべ目競の鎖~      【了】







アトガタリ

どうも、蛇です。

如何だったでしょうか、この微長編のお話。僕としては、頑張ったんですがねぇ。永琳のキャラが凄く違う・・・・・・・え、えーりん!?落ち着け、そんな蛍光色の液体の入った注射器を構えないでくれ。頼む、助けてくれ、たす―――――――





失礼しました。とりあえず、僕の力ではコレが精一杯です。またもっとマシな奴書こうと努力はしますんでよろしくお願いします。

蛇でした。



[6755] 東方土産典  ~迷い屋の禍~
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/03/27 16:29
待古庵。今川雅澄は自分の経営する古道具屋で、ぱたりぱたりと埃を払っていた。

主にあるのは陶器である。絵や掛け軸はあまり見当たらない。ただ単にあまり取り扱っていないのだろう。

カタリ、と唯一ケースに入れられた枡を取り出す。暫しの間眺めてみる。

「・・・・・・・・・・・・・しかし、本当にこれは妙な物なのです」

少ししまりの無い口を動かす。この枡は、かなりの年代ものだ。それなのに、傷一つ無い。いや、その鑑定が間違っていたと言われれば其れまでなのだが、コレはとある老舗骨董屋が存在すら知らなかった地下倉庫で発見し、不気味だからと転売をくりかえされ、結局今川の手に渡った『いわく』付きの品である。

鑑定などしなくとも、何処まで古いのかはその倉庫を見れば一目瞭然だったと言う。そもそもその地下倉庫を発見したのも、唯の偶然からだった。古くなった床板を張り替えようと引き剥がしたら出てきたものらしい。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

今川は無言で手に持った枡を使って米を計る。計った米を戻し、ひっくり返すと其処には戻したはずの米が。

この枡で米を計れば、米は尽きないのだそうだ。

確かに不気味である。

しかし今川は、その様な不気味な体験は友人連中のおかげでかなりしてきている。精々、京極堂さんにでも御払いしてもらおうかという程度である。

ぽんぽんと又ひっくり返した枡の底を叩く。するともう米は増えなかった。しかし、もう一度米を計れば確実に出るようになるだろう。

「―――――――――ご飯にするのです」

カチカチと音を立てる時計を見て、今川は枡をケースに仕舞い直し、店の奥へと去っていった。

「ふふっ、見つけたわ」

後ろに佇む、大妖怪にも気付かずに。




「止めときなさい。それでは泥棒ではないか。僕は泥棒の友人なんて厭だぜ」

「関口さんが居るじゃないの」

眩暈坂と呼ばれるダラダラといい加減な傾斜で続く坂。その坂の頂上に京極堂と書かれた古書店があった。

「まあ別に泥棒する気も無いけど」

その店の中―――――明らかに周りの雰囲気とは違うものを持った女―――――八雲紫が言う。

「関口君は知人だよ。それに彼はいっその事捕まった方が世のため人のためだ。・・・・・・・・・・・する気が無いのならば別にいいがね」

そう言って、ペラリと本を捲るのはこの店の店主、中禅寺秋彦である。

「しかしだね、その枡はもう諦めたんじゃなかったのかい。それとも、そんなに魅力的なのかな?その枡は」

魅力とかじゃないの、と紫が反論する。

「あれは人が持つには破格の物だわ。なにせ私が境界弄って尽きないようにしているもの。虫が湧くといけないから増えないようにすることは出来るけどね。それでも過ぎたるは及ばざるが如し。使い過ぎれば身を滅ぼすわ。昔なら打ち壊しとかね」

「そんな物いまの時代に起きてたまるか。戦後の初めじゃないんだぞ」

昔よ昔、と繰り返す紫。

「それでもね、もし噂になってさ、そんな不思議なものが幻想じゃなくなったと知れればこっちにも影響があるの。泥棒が駄目なら何とかしてよ」

するつもりだったんじゃないか、と言ってページを捲る。

「自分で何とかしなさいよ。大体、今までは大丈夫だったんだからこれからも平気さ」

「あの人は欲が無さそうだったから無理ね。転売するに決まっているわ。第一秋彦、もし貴方にお払いの依頼が来たら如何するわけ?無理だと言えば貴方の信頼が落ちるし、もし引き受けても私が境界を戻さない限り払えるものじゃないわよ」

「そんなもの、どうとでもしてやるさ」

引き受けてから枡を隠して別の枡を与えるとかね、と言う中禅寺。

「・・・・・・・・・・・・・・・ホントに出来そうで怖いわ」

そう言って紫は溜息をつく。

「お願いだから何とかしてよ。何とかしてくれないと千鶴子さんに秋彦が浮気してるって誑し込むわよ」

「止めなさい。・・・・・・・・・・・はぁ、仕方ないなあ」

心底面倒くさいと言う顔をしている中禅寺に対し、紫はフフ、と笑った。





「は?枡を買いたい人がいるのですか?いわく付きと知って」

京極堂。其処に呼ばれた今川は驚きの声を上げた。

「ああ。僕の友人の友人でね、そう言ういわく付の品も扱っている所があるんだ。うちの裏の竹林を歩いたらその内着くさ」

「・・・・・・・・・・・・いやにあやふやですね。向こうから出向いてもらえたりは出来ないのですか?電話で呼び出したり」

「ああ、彼は時代錯誤な男でね。電話を持っていないんだ」

この男に時代錯誤などと言われてはお終いである。

「分かりました。では行ってくるのです」

さあさあと急かす京極堂に押し負け、今川は枡を抱えて裏へと周っていった。

「・・・・・・・・・上手くいったようね」

「当然だよ」

後ろから隙間を開けて言う紫に対し、京極堂は然も当然と言う風に答えた。

「それよりも手筈通りに頼むよ」

「任せといて。神隠しは私の十八番だし、道具屋にも話しは付けてあるわ。かなり渋ってたけど、後でお金は返すって言ったらやってくれるって」

当たり前だよ、と京極堂は言う。

「渋るに決まってるじゃないか。お金は返して当然だね」

それじゃあ、と言って京極堂は読書へと戻る。紫はええ、と言って隙間に消えた。




竹林を歩いていると、目の前に『香霖堂』と書かれた店が見えた。

「いらっしゃい。君が今川君だね。頼んでいたものは持ってきてくれたかな」

向こうから戸を開いて、男が聞いてくる。

「ええ、持って来たのです。しかし、良いのですか?」

今川が聞くと、男は何がだい?と聞き返した。

「この枡はいわく付きなのです。噂とかではなくて、本当に不思議なものなのです。それで良いのですか」

ああ、そう言うことか、と男は言う。

「良いんだよ。それが欲しいと言う人がいてね、僕はその仲介として買い取ろうとしてるんだ」

そう言われて今川は、そうなのですか、と答え、枡を出した。

「・・・・・・・・これがそのいわく付きの物か。なるほど・・・・・・・・・・案外普通だね」

「ええ、しかし噂は本当です」

そうらしいね、と男は言う。

「それじゃあ、お金を持ってくるから待っていてくれ」

そう言って男は枡を今川に返し、店の奥へと戻った。

「・・・・・・・しかし、本当に買ってくれるとは予想外なのです」

いたって真面目そうな好青年だというのにも予想外である。あの死神のような男の友人の友人と言うから、どんな変人かと内心冷や冷やしていた。

「まあ、杞憂でよかったのです」

そうしていると、男が戻ってきた。

「ほら、御代だよ。この辺りは危ないから、気をつけて帰りなさい」

そう言って枡を入れ物にしまう。

今川は、それでは、と言って帰った。





「行ってきたのですよ」

「その様子じゃ恙無く商談は終わったようだね。おめでとう」

京極堂の店主、中禅寺秋彦は本を読みながらそう言った。

「しかし、変な人だったのです。見てください、これ」

そう言って手を差し出す。中禅寺はそれを覗き込むようにしてみる。

「・・・・・・・・・明治の頃の貨幣だね。言ったろう。彼は時代錯誤な男だと」

「これを時代錯誤といいますか」

貨幣を握り締め、今川は言う。

「言うよ。しかしそれを使うのは少し怪しいね。両替してあげようか?」

「いえ、結構です」

今川は言う。

「古銭を集めているお金持ちに何人か心当たりがあるのです。それをあたってみます」

そうかい、と中禅寺は言う。妙なこともあるのです、と今川が言う。

「この世にはね、不思議なことなど何もないのだよ」

そう言って中禅寺は、湯気のたつ茶を啜った。






「いやー、ありがとう秋彦。お陰で枡を取り戻せたわ」

今川が帰った後、隙間から出てきた紫はそう言って笑った。

「まあ良いがね。それよりもお金はちゃんと返したのだろうね」

当たり前じゃない、と紫は言う。

「私はその辺りはちゃんとするわ。・・・・・・・そうだ秋彦、この枡、いる?」

「いらないよ。何で取り返したものをそのまま僕に渡そうとするんだね」

「だって秋彦はマヨヒガに来て何も盗らずに帰ったじゃない。この枡は秋彦のよ。まあ要らないんならあげないけど」

そう言って枡を隙間に投げ捨てる。

「そうだ、紫。酒を貰ったんだが、飲むか?」

「戴くわ」

紫は隙間から件の枡を取りだし、答えた。













東方土産典  ~迷い屋の禍~      【了】









アトガタリ

どうも、蛇です。

今川のお話でした。やっと書けた。長い道程だった。

最近このお話を良作だとか面白いとか感謝してくれてる人がいるようで。ありがとう御座います。褒められると喜びます。伸びます。

蛇でした。




[6755] 東方今昔恋  ~烏天狗の幸(仮)~
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/04/08 22:34
私は山を登っている。

それには明確な理由があった。何とは無しに登っているのではない。

それは、新種の『鳥』を探すこと。そして見つけて由良の名を付けること。それが、債務を肩代わりしてもらった際の条件だった。

新種自体は何匹か見つけている。しかし、父には「端末な発見で名を残すな」と遺言で言われた。

だから由良の名は付けていない。もっと珍しい、それこそ歴史に名を残すような大発見を望む。

「・・・・・・・・・・・・此処は」

「あや?珍しいですねェ。こんな所に人が来ますか」

上空から声が聞こえる。私は上を見上げた。

白い開襟シャツのような衣服を黒いリボンで止め、腰にはスカートがベルトで締められている。靴のような下駄のような、奇妙な赤い履物をしており、頭には四角柱と四角錐の重なったような帽子をかぶっている少女がいる。

しかし何よりも異質なのはその背の黒い羽である。人間には決して持ち得ない、神秘的な器官。そしてそれを当たり前のように生やし、当たり前のように飛び、当たり前のように纏っていた。

それは、その姿はまるで神話の烏のようで神々しく見えた。本能に押し寄せる恐怖を打ち消すほどの神々しさは、八咫烏を彷彿させる。

いや、寧ろこれは鶴かもしれない。白い服に黒い羽。その二色は間違いなく鶴のそれである。吉兆を知らせる美しい白と黒の色調。ならば、あの奇妙な赤い履物は顔に付いているあの赤か。

――――――――黄色がないな。

「あのー、なんか失礼なこと考えてません?」

「ああ、いや、そのようなことは」

そうですか、と言って少女は降りて来る。

「しっかし、あなたは驚かないんですね。普通はこんなの見つけたら飛んで逃げちゃいますよ」

「・・・・・・・・私は、見た目で人を差別しないから。それに綺麗な羽だし、鳥は大好きなのでな」

あ、あややややや、とこれまた奇妙な詰まり方をする少女。

「そ、そうですか。ああ、私は射命丸文と言う烏天狗です。新聞記者をやっています」

丁寧に言って、頭を下げる少女。

―――――――そうか、やはり烏だったか。

「・・・・・・・・だから黄色がなかったんだな。じゃあその履物は関係がないのか」

「・・・・・・・・・・ヤッパリ、失礼なこと考えていたようですね」

少女、射命丸君は腰に下げていた団扇を手に取り、構えた。

「い、いや違う、こちらの話だ」

射命丸君はそう言うと、全く信じていないようではあったがまあ良いでしょう、と団扇を下げてくれた。

「で、あなたは誰なんですか?」

射命丸君は純粋に興味深そうに聞く。

「私は由良という学者で華族だ。由良行房。儒学をはじめ色々な学問を研究している」

「はー、それじゃあ多分本当に外の人ですね。ここに学者さんなんていませんから」

スクープですねー、と写真機を構える射命丸君。どう言う事です、と聞く。

「ああ、ここは幻想郷と言ってですね、そちらの明治何年かくらいに隔離された、所謂別世界なんですよ。妖怪とかもいますし、気をつけた方が良いですよ。特にこのあたりは鬼とかの出る山ですしねぇ」

パクッといかれちゃいますよ、とおどけた風に言う射命丸君。私は、自分でも不思議だが容易く信じた。

「さて、それじゃあとりあえず写真でも撮っておきましょうか・・・・・・・・・・・はーい、出来るだけ自然な表情作ってください・・・・・・・・・・・・・あ、じゃあそれで・・・・・・・・・・」

カシャリ、と言うあまり聞きなれない音がする。

「しっかし表情が硬いですねえ。もっとこう、柔和な感じでお願いしますよ」

まあ、これで良いですけれど。と写真機を撫でる射命丸君。かなり大事なもののようだ。

ドドドドドドッ、と砂煙を上げて何かが近づいてきた。

「あや?これは鬼に勘付かれましたかね」

「どうするんだ?射命丸君」

まあ大丈夫でしょう、と呆気羅漢(あっけらかん)と答える。

「おお、やはり天狗だったか。こんな所まで人間と逢引かい?」

そう言ってヒョコリと出てきたのは、射命丸さんと違い丈の長いスカートをはいた一本角を持つ女性だった。

「いえ、そう言う事ではないんですがね。それにしてもあなたこそ、こんな所までよく来ましたね。妖怪の山とはいえ未だ麓ですよ」

「最近は、この山を狙う烏どもがうるさくてね。結構見回ってる奴らはいるよ。勿論飲みながらだけど」

それは大変ですね、と挑発する射命丸君。私は一触即発の状況にも拘らず、烏はとても良いものなのにな、と思った。

「それじゃあ天狗、古より伝わる鬼と天狗の決闘・・・・・・・・・・・やって見るか?」

「吠え面かかせてあげます」

スゥッと、どちらともなく近づき、二人の距離が凡そ手の届く辺りになったときに、戦いが始まったようだ。

飲み比べの。

殆ど同時に地面に座り、酒を注ぎ飲む。注いでは飲む、注いでは飲む。それを延々と繰り返している。

これが古より伝わる決闘か。実に平和的である。

「おお人間!お前もこっち来て飲め!」

「いやいや、ただの人間が私たちと飲み比べはキツイでしょう」

最早、ただの酒盛りである。

その後、日もスッカリ落ちてきたのでもうお開きにしよう、と射命丸君が言い出し、はれてお開きとなった。

「いや~、すいませんねェ。ウプ、少し飲みすぎましたか」

「大丈夫か?」

私は今、射命丸君の背中に乗っている。どこから来たのかよく分からないので、とりあえず元々いた場所を下っていればその内帰れるだろう、と言う酔っ払いの案を呑んだわけである。

「・・・・・・・・・・・・そう言えば射命丸君。あなたは確か烏だったな」

「正しくは烏天狗ですけれどね。それがどうかしましたか?」

くるりと器用に首を回し、聞き返す射命丸君。

「・・・・・・・・・・また、会えるかね」

「さあ、難しいんじゃないですか?」

クスクスと笑いながら答える射命丸君。

「此処は幻想郷ですからね。完全には隔離されてなかった昔ならいざ知らず、今は出ることも入ることも、普通は出来ないはずなんですよ」

そうですか、と落胆の意を見せると、射命丸君はそれでは、と言ってポケットの中に手を入れた。

「これなんかどうです?一寸煤けてますけど」

そう言って差し出された手には、一つの蛤が握られていた。

「これを割ってですね、それで二人が片方ずつ持つんです。そうすれば、いつかまた会えるってお呪いですよ」

「貝合わせか。・・・・・・・・・・しかし君、それは確か先ほど酒のあてにしていた」

「大丈夫ですよ。食べるでもないですし」

そう言ってパキン、と貝を割る射命丸君。

「はい。それじゃあこちらをあげます。大事にしてくださいね」

そう言って、速度を少し上げる。火照った顔が涼しい風に冷まされ、気持ちがいい。

暫くすると見覚えのある場所に来た。確かに、迷い込んだ場所である。

「それではこの辺りですかね。それじゃあ、さようなら」

「・・・・・・・・・ああいや、サヨナラじゃないな」

このような事を言うのは少し恥ずかしいのだが、言っても良いだろう。

「また会おう、射命丸君!」

そう言うと射命丸君は少し吃驚したような顔をして、言った。

「はい。また会いましょう行房さん」

そして私は、自らの館へと足を運んだ。










「昂允。何をやっているのだ」

白樺湖畔に聳える館、近隣住民の通称は鳥の城。そこの大広間で私は、私の宝を眺める昂允に声をかけた。

「お父様、昔から気になっていたのですがこの鳥は何と言う鳥ですか?」

「これは、烏だ」

私がそう言うと、昂允は不思議そうな顔をして、言った。

「しかしお父様、烏とは確かに黒いものですが、ここまで大きくはありませんでしたよ」

「ただの烏ではないのだ」

私は思い出をかみ締めながら、言った。

「その烏はな、私が昔実際に出会った者だ。人語を解し、人語を話す。心優しく力も強い。酒に矢鱈と強くて・・・・・・・・・・・・まあ流石にそこまでの大きさは無かったが、それでも人間くらいの大きさはあった」

大きく、一見本能的に恐ろしい雰囲気を放つが、よく見ると細々とだが神々しさを持つ。

黒く、奇妙な格好をしているが、美しい装いをしており飛ぶ姿など想像しただけで可憐と分かる。

形こそ鳥のように仕立て上げたが、雰囲気だけは残した。

「へー、大きな烏だったのですね」

「ああ、確か、本人は烏天狗だとか言っていたかな」

しかし、この様な美麗な少女も奴等は受け入れなかった。実際に居たのにも拘らず、誰も信じはしなかった。

「・・・・・・・・・やはり、幻だったのだろうか、射命丸」

首飾りに加工した蛤を見て、そう思う。

「・・・・・・・・・昂允、お前は幾つになった」

「はい、今年でもう二十ですね」

そうか、と呟く。

「・・・・・・・・・・そろそろ、頃合か」

私は使用人を呼びつけ車を用意させると、阿蘇山に向かった。







「あれ?文様、その蛤は何ですか?」

特ダネ写真を取り捲り、ホクホクと空を飛んでいると部下である白狼天狗の椛が話しかけてきた。

「ああ、いつの間にか弄ってたんですね。これはですね、私の宝物です。貝合わせって知ってますか?それですよ」

へぇ、と言う椛。その人との話を聞かせると、椛は興味津々と言った様子で聞いてきた。

「ならその人とは恋人同士だったんですか?」

「どうでしょうかねー。私は好くは想ってましたけど、彼は研究材料として見ていたたかもしれませんね。儒学者で鳥類に詳しくて、私のことを多分最後まで烏と思っていましたからねえ」

どうしてそんな人を・・・・・・・とゲンナリとした様子で聞いてくる椛。多分、いつか来たあの自称神の暴れん坊でも思い出したのだろう。

「そうですね。やはり、初対面で好きだと言われたからでしょうかね。この姿に怖がりもせず」

「鳥として、ですけどね」

余計な茶々を入れる椛。

「良いんですよ。たとえ鳥としてでも」

「何をしているんですか?」

胸に手を当てて乙女チックなムードを醸し出していると、横から空気を読まない閻魔様の声がした。

「ああ閻魔様。明治の辺りから今までで、由良行房って人は居ましたか?」

「え゛・・・・・・・・・そんな前のことを。えーと、はいはい居ました。確か阿蘇山に飛び込んで自殺だったと。貴方に会う為だったようですね。何とも短絡的ですが、無事刑期も終えて今頃転生してるんじゃないですか?」

「そ、そうですか・・・・・・・・・・・・・」

顔が少し沈む。隠すことも出来ない。

「ふむ・・・・・・・・ああ、ちなみに転生先は幻想郷の中。しかも今は人里で暮しているようですよ」

では、と言って飛んでいく閻魔様。

「結構、いい人でしたね。閻魔様。そしてよかったですね。文様」

「あやややややややや・・・・・・・・・・・・」

私は今度は、赤面を隠せないでいるのだった。











東方今昔恋  ~烏天狗の幸(仮)~   【了】









アトガタリ

どうも、蛇です。

今回、椛と勇儀が地味に初登場です。

これは設定改変やキャラ崩壊と言われるかもしれませんが(と言うか言われるでしょうが)その辺りは皆さんの広いお心で愛猫を包み込むように優しく触れてください。

蛇でした。



[6755] 東方目白粧  ~目目連の縁~
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/04/10 23:33
恐い。

見るなと言っても見るなと言っても、皆が俺を見てくる。

怖い。

肌に突き刺さる視線。俺にとって恐怖以外のなんでもないそれは、町を歩けばほぼ確実に刺さってしまう。

コワイ。

見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな、見るな。

「ここなら、大丈夫か・・・・・・・・・・・?」

息を切らせながら言う。誰に言うでもなく、ただ自分のために。

「ふう、良かった。良かった」

繰り返す。今まで見えていた目は見えず、とても心地いい。

「・・・・・・・・・・・森、か。なるほど。誰もいなければ誰に見られるでもないな」

汗を拭う。深呼吸をすると、森特有の良い香りがした。

ふと後ろを振り返ると、緑の髪を髭のようにした女が居た。

――――――――良かった、こいつは俺を見ない。

一瞬びくりとしたが、よく見るとクルクルと回っている。これでは見ることも出来ないだろう。

「あの、すいません」

そう俺が聞くとその女はこちらに気がついた様子で言った。

「ああ、駄目よ私に近づいたら。厄が移ってしまうわ。あなた人間でしょう?」

まるで自分が人間ではないかのような口振りである。

「図星ね。なら、半獣に言われなかったかしら。私は貴方たちの厄を引き受けて、神々に渡してるの。この辺りは現在進行形で厄を引き受けてるから、かなり凄まじいわよ?まあ、大部分が貴方の厄みたいだけれど」

「・・・・・・・・・・あなたは、神なのですか?」

「そうよ。私は厄神。さっき言ったように、皆の厄を集めて、そして神様に渡すの。この山には神様と天狗が沢山いてね、私もその中の一人なのよ。他の人に排他的な神様とかと違って、私は人の味方ね。・・・・・・・・・・・ほんとにハクタクに習わなかったの?」

首を縦に振る。そもそも『ハクタク』とやらに面識が無い。

「あー、じゃあ多分外の人か。・・・・・・・・・・・こう言っちゃ何だけど面倒くさいなあ」

回りながら器用に頬をかく女。その時、ゾクリ、と身に突き刺さるようなチリチリとした不快感を感じた。

緑の髪の少女である。少女がいた。

「あ、ああ、あ」

「お久しぶりです雛さん」

「ああ、早苗ちゃん。丁度良かったわ。あの人外の人なの」

女が、見つめてくる。

「う、うわぁあああああああああああああああああああッ!!!」

咄嗟にノミを持ち、飛び掛る。

「うひゃあ!?」

女が素っ頓狂な声を上げ、手を振るう。途端に風が巻き起こり、俺は飛ばされた。




『気づいたようね』

白い。誰も居ないそこで、音だけが響いた。

『ここは貴方が幽体離脱してきた所。貴方は今、酷い状態なのよ?心がね。体はそうでもないのだけれど』

「私は、死んだのですか?」

『死んでないわ。いったでしょう?貴方は幽体離脱してるの。死んだなら死んだって言うわよ。それで、貴方は何なの?』

「何なの、とは」

『分からない?貴方の心の中よ。貴方は何に怯えているの?』

「・・・・・・・・・・・・視線、です」

言う必要など無いと思うが、その言葉には決して逆らえない気がした。

「俺は、視線が怖い」

『・・・・・・・・・・・・そうなの』

声は、少し落胆したように調子を落とし、言った。

『それじゃあ、これは如何かしら』

振り返って御覧なさい、と言う声に準じて振り返ると、そこにはまたも女がいた。

赤と言うより桃色の髪、絹のように滑らかそうな肌、西洋と東洋を合わせたような装い。しかし、何よりも感じるべきところは、そのようなものではない。

「うわあああああああああああああああ!!」

目が、

目が見ている。

沢山の目が俺を見ている。

「見るなああああああああああああああ!!」

「・・・・・・・・・・・重症ね」

俺が飛び掛ると女は、スッと一歩前に出て、俺の額を押した。

「み、るな・・・・・・・・・・」

「さようなら。詰らなかったわ」

その声を聞いて、俺は気を失った。




「ここは・・・・・・・・・・?」

目の前には知らない天井があった。

「あっ、気がつきましたよ師匠ー」

襖がスーッと開き、ウサギのような耳をした少女が俺に気づき、とたとたと廊下をかけて行く。

「気がついたようね」

そして目に映ったのは、銀の髪の髪の髪の髪の髪の――――――。

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」

見るなぁ!

俺を、見るなぁ!!

「ぎゃあ!」

飛び掛り、ノミで目玉を刺す。女は目から血を流して倒れた。

「うがぁああああああああああ!!!!」

俺は、そのまま部屋から出て、竹林を走り、逃げた。

平野祐吉36歳、ベルナールに囲われる前の、ほんの少しの出来事である。









東方目白粧  ~目目連の縁~  【了】







アトガタリ

どうも、蛇です。

アンケート(と言うか質問)をした結果、早苗と幽々子、咲夜という結果になりました。


おまけ

「し、師匠!?どうしたんですか?」

「いやー、やられたわー」

叫び声を聞きつけ急ぎ足で駆けて来たうどんげを待っていたのは、目から少し血を流しながら佇む永琳だった。

「急に襲ってきて、吃驚して体が固まっちゃってね。眼球をぶすり、よ」

「はぁー、まあ大丈夫そうなんで良いですけど・・・・・・・・・・あれ?師匠、その白いのなんですか?」

ああこれ、と青と赤のツートンカラーの服の肩口を摘む永琳。

「紅魔館のメイドに頼まれて作ってた白粉、こぼしちゃったのよ」

へー、と言ううどんげ。

この二人が目潰しと白粉の関連性に気づくことは、永遠に来ないだろう。


という感じで永琳も。

感想に批判、よろしくお願いします。

蛇でした。



[6755] 一応考えることは考えてますよって言う報告ついでの予告編
Name: 蛇口の蛇◆8e109223 ID:d75dc90c
Date: 2009/06/13 14:02
―――――――――――戦争を、始めよう――――――――――――




「五月蝿い!黙れ侵略者!!」

―――――――――古い記憶。

「何故、この私が誰かの適当に決めたルールに則らなくちゃならないのかしら?」

―――――――――昔の記録。

「地上で温くなったんじゃないですか?話に聞いていたより、大分弱いですよ?」

―――――――――過去の傷。


古い戦いの記憶が、恨みが蘇る。

「何で皆・・・・・・・・」

妖怪たちの間で起こった、異常な数の衝動殺傷。

「俺の戦争は、終わってないんだよ」

妖怪を狙う一人の男。

「・・・・・・・・・・・何これ?」

驚愕する巫女。

「これは・・・・・・・・・・・・・・・・」

妖怪の賢者は、

「彼らに手伝ってもらいましょうか」

決断を下す。



「僕はやらないね。君のことはよい友人だと思っているが、それとこれとは話が別さ」

腰の重い古書肆。

「えっと、・・・・・・・・・・ここは・・・・・・・・?」

アカエイに再び出会った小説家。

「あっはっはっはっはっはっはっは!また会ったなオニ!!」

狂喜する探偵。

「わかったよ。・・・・・・一応、此処も日本だし、俺の管轄なんてあってねぇようなもんだからな。・・・・・・手伝ってやるよ、慧音さん」

異なった世界の者も助ける警官。


「関口君、君には何度も言った筈だが―――――――――――」

口をあける、憑物落し。

「この世には不思議なことなど、何も無いのだよ」


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