この小説は、百%趣味で書かれています。両作品ともに設定に綻びはありますでしょうが、温かく見守ってください。
また、この作品は題名で分かった方もいらっしゃるでしょうが、京極夏彦先生の作品と東方作品のクロスオーバーです。御注意ください。
森の中を歩いている。
はて、僕は何をしていたのだったか。
そうだ。学校の課外授業の最中、迷子になったのだったか。
歩いていると一軒の家があった。
道を尋ねるため戸を叩き中に入る。人の気配は無かったが、何故か入ってしまった。
囲炉裏があり、湯も沸いていた。しかし、人はいない。火鉢には火もついている。全く、無用心な家だ。
台所、居間、など渡り歩き、雪隠を探し大広間に来た。
ふと何かの気配を感じ、後ろを向こうとした。しかし、向けない。何かに気圧されるような感じがする。
「――――ようこそおいで下さいました。この家の主は居りませんが、ごゆっくりしてください」
嘘だな、と思う。話し方が妙だ。ところで、と話を切り出す。
「ここは、何処ですか?」
転りと後ろを向き、尋ねる。金色の髪をした少女は少し驚いたようすで、「ここはマヨヒガです」と答えた。
勘が当たった。むっと眉を動かす。
「それは―――――おかしいですね」
言う。少女は「はい?」と不思議そうに返事をした。
「マヨヒガとは迷い家とも言い遠野物語で紹介されている奇談です。ある男、これは猟師だったりきこりだったり、色々あるのですが、この男がね、山で道に迷って、遭遇するんですよ。迷い家に」
まるで今の僕のように―――と続ける。
「その家には人は居ませんでした。中に入ってみるとしかし、火鉢に火がかけてある。湯も沸いています。人が今先程まで生活していた痕跡はあるんです」
先程までのこの家の状態にそっくりでしょう。と言う。
「それと当家に何の関係が?ただ屋号が同じと言うだけでしょう。私が居ますので、人も生活しています」
「そう、それなんです」
「僕はこう考えます。迷い家とはつまり『家』の怪異なのだと。故に生活しているものは一人も居らず、それは既に完成したものです。『家』が重要なファクターなのであって『人』は付属品。悪く言えばむしろ邪魔なのですよ」
そこまで言うと少女は少し怒ったように、ですから、と言う。
「ここはその迷い屋ではないです。そのお話は興味深いものですし、あなたの推測も結構なものですがここは私の家で―――「そこです」―――え?」
「あなたは、なんと仰いました?『私の家』と言いましたよね。そうですか、あなたの家、ねぇ。ここで生活しているのですか」
なんですか?と聞かれる。
「だってこの家、あからさまな所しか出来ていないんです。必要最低限のところしかない。例えばあなた、トイレの無い家でどうやって暮らしているんですか?外にもありませんでした。他にもここには足りないものが多すぎるんです。物置らしき場所も見ましたが布団は有りませんでした。ベッドも無いです。まるでそういった部屋だけを隔離したかのようだ。牛はいました。しかし牛小屋が無い。鶏が居ました。しかし生ごみも何も無いんです。まるで骨も残さず食べたかのようだ。日本家屋の中心部には必ず太い柱、大黒柱があります。しかしここには無い。この家はどうやって立っているのですか?壁はありましたが柱はありませんでした。最近の家は無いものもあるようですが、この家はわりと古い。確実にある筈なのです。しかし無い。これは、どういうことなのですか」
「それは・・・・・・・・・・」
「いいわよ、藍」
襖の開く音がし、声が聞こえる。振り向くとそれはこれまた金の髪をした女だった。
「初めまして。私はこの家の主、隙間妖怪の八雲紫と申します。早速ですが、お帰りいただけないでしょうか」
「ええ。結構ですよ。僕も正直、そろそろ帰らなきゃならない」
「申し訳ありません。・・・・・・・・・ああ、それともう一つ。ここは貴方の仰るように迷い家と呼ばれるものです。しかし、ここであったことは、どうか御内密にお願いできませんでしょうか。詳しくは話せませんが、ここの事が外に漏れてしまうと、大変なことになるのです」
了解しました。とその申し出を受ける。ありがとう御座います、と八雲紫は頭を下げる。
「それでは、僕はこれで」
待ってください。と声をかけられる。何でしょうと聞くと、もう一つお願いがあるのですが・・・・・・・・・と言われた。
「お名前を、教えていただけませんか」
名乗るほどの者でもないのですが、と前置きをして、答える。
「僕は、中禅寺秋彦と申します」
では、失礼を。といい、門を出る。山道を下る前に、来た道を振り返ってみる。矢張り、何も無い。分かっていたことだ。遠野物語でも、二度と行く事は叶わなかった。
「妖怪、か」
空を見上げてみる。蒼い。帰ったら、妖怪本でも見てみようか。
少し行くと、同級生の一人が探しに来た。
「何やってたんだ中禅寺」
「いや、少し迷子になっていただけだよ」
答える。するとこの同級生は、「へえ、君が迷子になるなんて、不思議なこともあるものだな」と言う。
「・・・・・・・・この世には、ね。不思議なことなど何も無いのだよ関口君」
答える。へえ、そうかい。と答えられた。
――――――そう、不思議なことなど、何も無い―――――――
――――――だから、いつの日かまたあの家に、あの少女たちに会うことがあっても、それは不思議なことではないのだ―――――
東方京極録 ~隙間妖怪の家~ 【了】
どうも、蛇口の蛇です。
はじめましての人ははじめまして。そうでない人はお久し振りです。この小説は前述もしましたが、百%趣味で書かれていますので、両作品の設定などに多少の綻びは御座いますが、温かく見守ってやってください。
また、中禅寺の言葉が未発達、元作品のような憑物落としが出来ない程度のものしかないのは、まだ関口といる時間が少ない(あっちに行った関口君を元に戻すという経験が憑物落としを昇華させたと蛇は考えます)のと単純な妖怪・怪談に対する知識、人生経験の不足が原因と思ってください。
また、この作品の中禅寺が『家』がおかしいのか『居住者』がおかしいのか分からない言い方をしていますが、それは作者の筆力不足です。
それではお付き合いありがとう御座いました。書くことがあれば、また別の作品でお楽しみ頂けるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。