・・・・・たけるちゃん・・・・・・
やめてくれ。
・・・・・たけるちゃん・・・・・・
もう、疲れたんだ。
・・・・・たけるちゃん・・・・・・
なあ、お前も疲れただろ?
・・・・・たけるちゃん・・・ねえ・・・たけるちゃんは私を愛してるよね・・・・・・
ああ、俺はお前を愛してるよ。だからさ、もう休ませてくれよ。
・・・・・だから・・・・・・
やめてくれ。
・・・・・今度も・・・私だけを愛してね・・・・・・
第一話 「逃避」
だんだんと意識がはっきりしてくる。
そして、ベットに横になっていることに気づく。
ゆっくりと目を開けるとそこには白い天井が目に入る。
窓に目を向けると壊れた巨人、撃震の姿がある。
「ああ、またか。」
口に出たのはそんな諦めにも近い言葉だった。
すでに状態は把握している。
なんてことはない。
今までと同じだ。白銀武はまた戻ってきたのだ。
この終わりのない地獄へ・・・。
気づいたら走り出していた。
そう、あのよく知る桜並木から逃げるように。
あそこへ、国連横浜基地に行けばきっとまた繰り返してしまう。
頭の中には幾度となく再開を繰り返した仲間の顔が浮かんでいく。
207Bの連中は今頃グラウンドを走っているのだろうか。
もしかしたら委員長と彩峰がけんかして冥夜が仲裁し、たまはおろおろしているのかもしれない。
まりもちゃんは相変わらずみんなをしごいているのだろうか。
相変わらず夕呼先生にからかわれて遊ばれているかもしれない。
A01の人たちはシミュレーターで訓練でもしているのだろうか。
宗像中尉がからかい、速瀬中尉が暴走して、伊隅大尉が声を上げているのかもしれない。
頭の中にはそれらの光景が次々と浮かんでいく。
そして、それを振り切るようにがむしゃらに走る。
「くそ、くそ、もういいだろ。俺だってがんばったんだ。俺にできることはすべてしたんだ。だから・・・」
それは誰に対しての言葉なのか。
自分に対して?基地にいるみんなに対して?
「もう自由にしてくれ!」
そして最後に浮かぶのは、大きな黄色いリボンをした彼女の姿だった。
「・・・い!・・・・夫夫・・・?・・・・・・・・・・ろ!」
「・・・・・しま・・・・・・・・・こち・・・・・・・・・」
白銀武の2度目の目覚めは最悪だった。
ベッドに寝かされているのはよかったが、手足がゴムチューブのようなものでベッドに縛り付けられている。
「病院か。」
部屋の中を見ると白いシーツに、白いカーテン。そして自分の腕には点滴のチューブ。
ただそれだけ、まったくといっていいほど飾り気のない部屋である。
視線を横に向けるとナースコールらしきものが目に入った。
「とはいえ手足は拘束されていて動かせない。とりあえず誰か来るのを待つしかないか。」
それにしてもいったい自分はどこにいるのだろうか?
ただひたすら横浜から逃げるように走っていたのは覚えているが、そこで気を失ってしまった。
おそらくそこを通りがかった人が保護してくれたのだろう。
「でも、どう考えても一般人じゃないだろうな。」
ため息をつき、自分の手足を見る。
少なくとも普通の人が保護した人を拘束しようとして手足を縛ることはないだろう。
「となると軍の関係者か。それが国連でないことを祈るかな。ん?」
ガチャ
扉が開く音がしたのでそちらを見ると、白いナース服を着た女の人だった。
「あ、気がつきました?」
「ええ。先ほど。」
特に警戒するそぶりは見せずにこちらに近づいてくる。
「どこか調子の悪いところとかありませんか?一応先生からはただの過労と言われているのですが。」
「ええ、特にありません。しいて言えばこれですね。」
彼女にわかるように拘束された手足を見せる。
「すみません。それは勝手に外さないようにと言われているんです。」
彼女は困ったような顔をしてこちらを伺う。
そもそも過労で倒れた人間を縛る時点でおかしな話だ。
おそらく彼女自身あまり詳しいことは説明されていないのだろう。
まあ、元からたいした期待はしていない。
そもそもそんなに簡単に外すようでは初めから拘束などしないだろう。
「そうですか。それでは仕方がないですね。そういえばここはどこなのですか?病院のように見えますが。」
「ええ、ここは日本帝国東京第二病院ですよ。」
「帝国ですか・・・」
「はい、そうですよ。」
正直安堵した。
帝国の病院ということは少なくとも国連関係者に見つかったということはないだろう。
後は今後をどう切り抜けるかだけど・・・
「とはいえ俺は本来死んでいる人間だからな。」
「はい?どうかしましたか?」
「あ、いえ。なんでもないです。」
つい独り言を言ってしまったが、実際どうしたものか。
少なくとも白銀武の戸籍の再登録をしてもらわないといけないのだが・・・
いや、そうすると夕呼先生に怪しまれるな。
あのシリンダーの中の脳が鑑純夏であることには気がついているのだから、その縁者も当然監視の対象に入ってるはずだ。
そんな中俺の戸籍が復活したとなると、当然怪しむにちがいない。
なら別人としてなら「あの、どうかしましたか?」
「あ、いえ。ちょっと考え事を。」
「考え事ですか?あ、そういえば意識が戻ったのなら連絡しないといけないんでした。今からあなたの発見者の方を呼んできますね。」
彼女はそう言い、病室を出て行った。
「発見者か。」
今までの情報を総合すると、ここは帝国の病院で、かつ発見者は拘束を指示するような人物。
「まあ、帝国の軍人か、もしくはその関係者だろうな。話のわかる人だといいんだけど。」
コンコン
「失礼する。」
先ほどの女性の看護士が出て行ってから数分の後、ノックの音とともに碧の髪をした女性が入ってきた。
その姿を見た瞬間、武は自分の運の無さを呪った。
しかし、よく考えればこれはある意味当たり前の結果なのだ。
横浜基地周辺には本来基地関係者しかいないのだ。
それにもかかわらず横浜基地に連れて行くのでもなく、帝国の病院に保護するとなれば必然的に人物は絞られてくる。
そう、彼女は・・・
「さて、貴様にはいろいろ尋ねたいことがある。黙秘権はあると思うなよ?訓練兵。」
彼女、月詠 真那はにやりと笑みを浮かべた。
あとがき
反省中。
つらつらと書いて、アップしてしまった。
とりあえず数話アップして、勢いに乗れば続けるかも。