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[12379] 【ネタ・処女作】勝手に落下(ネギま!・オリ)
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/12/06 22:08
・作者に文才は無く、拙い表現が多々あります。

・整合性が取れていない場合もあります。

・オリ主転生ものの上に、原作キャラとの絡みは薄いです。

・それでも、よろしければ読んでやってください。



[12379] プロローグ
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:18
 いきなり意識が浮上した。

と、思ったら一定間隔で尻に強い衝撃がくる。
どうやら、足をつかまれて逆さまにつり上げられているらしい。
泣きなさい泣きなさいと急かす声が聞こえる。

え……何、泣けばいいの?
ていうか、目見えないんですけど何これ?
痛っ! ちょっ……!! 痛いって!?
わかった! わかりました!! 泣かせていただきますから、尻を叩くのをやめて!?
たしかにMだけど誰かの悲痛な声を聞きながらパンパン尻を叩かれるのは精神的にきついよ!?

しかし…この快感と罪悪感に苛まれる新感覚……。
あふぅ……これもなかなか悪くないな…。



私は、快感を含んだ声で鳴いた。
しかし、それは誰にも気づかれることはなかった。お尻ペンペンはこの後、30分以上続いた。結果は280パンパン程だったと思う。(体感)






○月 罰日
 私は、コンティニューしたらしい。
わかりやすく言うと、二度目の生を得たらしい。
しかも、前世の意識そのままにだ。強いままコンティニューというやつだ。

視界がやっと回復したと思ったら、周りの物がでかい。
人も物も須くでかい。そして、私が以上に小さい。
いや、驚いたね。死んだときの記憶はあったがあまりにも間抜けな為割愛させていただきたい。これ以上の驚きはないと思っていたら、自分が赤ん坊になっている状況にそれを上回る衝撃を受けた。
さらに、人が事も無げに浮いているのを見て三度目の衝撃。
衝撃のジェットストリームアタックいただきました。

未来都市か!と、期待に胸を膨らませていたら会話の中に普通に“魔法”という言葉が常用されているではないですか。

……ファンタジーだよ、ファンタジーだったよ畜生。
期待させといてそれはないぜ。私の夢は一回死んでも叶えられませんかそうですか。

よしわかった、よーしわかった! そっち(?)がその気ならこの前世から溜めに溜めた怒りをその魔法とやらで存分に発散させていただこうではないか!!

理不尽? 大いに結構!! この理不尽な怒りを味わっていただこうじゃぁないか!?

ワハハハハハハハハハハハハ!!……ふぅ。



[12379] 一話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:19
 今、私は祖父・祖母から魔法とここでの教養を学んでいる。
ここでのというのも、ここは自分がいた世界ではないことはわかってはいたが
まさか、“魔法世界”なるものだとは思わなかった。
初めて知ったときは鼻水を噴くほどの驚きだった。
生まれ変わってから驚いてばかりのように思うが仕方ない。

ここには、独自の教養・教育制度や法律体系があるのだが、こうも前世のものと食い違いがあると学ぶのも一苦労なのだ。
旧世界とやらもあるらしく、そちらの世界はほぼ前世の世界と同じだとか。
できればそっちに生まれたかったと愚痴を零したいときもある。
そんなときは、某コメディアンの言葉、「だいじょうぶだぁ」を胸に問題を保留しつつ毎日楽しく過ごしている。

私が住んでいるのは魔法界の田舎である。そこで、祖父と祖母に面倒を見てもらっているのだが、両親はなんか戦争(?)で戦死したらしい。
顔はおろか声すらも覚えていない上にこんな状態の人間なので何とも言えない。
というか、両親は軍人だったのか。


「ヤマ、聞いているのか?」


今更ですが、私の名前は『ヤマ・マヤー』という。なんだかイリオモテヤマネコの別称みたいになっているがスルーでお願いしますぅ。
そして、今私を呼んだのが祖父である。名前は何の面白みもないのでここもスルーで。

私の家系は、全員常に中堅扱いの魔法使いらしい。ようするに、可もなく不可もなくなのである。
しかし、ある突出した能力があるのだとか。
それは、


「儂らの本分は“モノヅクリ”じゃあ!! 戦闘がなんぼのもんじゃい!?」


ということらしい。うちの爺様はいつもこの言葉で何かと締めくくりたがる。
癖になっているのだろうか?できれば、家の中だけにしていただきたい。
近所の人たちの生暖かい視線には慣れたくはありませぬ。

父親には、その能力があったにはあったが爺様程ではなかったらしい。
だから軍人になったのだろうか?

しかし、自分には才能があるらしいとのこと。
外身は違うとはいえ中身は物作りの国、日本出身の生粋の日本人である。これは、私の性質にぴったり合う能力なのではなかろうか?
それに、この世界には魔法もあることだしもしかしたら某猫型ロボットも真っ青(突っ込み待ち)の道具も製作可能かもしれないな。

その辺を目標に生きていくのもわるくないかもしれないなぁ……。
理不尽な怒りを叩き付けるといのも並行していけるかもしれないしなぁ。

なんてことを考えながら、今日も元気にがんばります。



[12379] 二話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:19
 爺様の家では、爺様の作った魔法加工された商品を売る店を経営している。
戦時中には国から依頼されて武器やらなにやらを作っていたこともあるとか。なので、店に置いてある品の質は一級品である。

しかし、これぞ田舎! という土地にある上に支店もないので、極偶にくる外の魔法使いの方が買っていく程度といった売り上げである。
爺様も婆様もそれに不満はないらしく特に何か変えていくつもりもないらしい。
質はいいから少し位噂になってもおかしくないんだけどなぁ……?

もう結構年もいっているし、本業が農業みたいになっているので食べるものにも苦労していないのもあるだろう。

そして、私は今本格的に“モノヅクリ”の技術を学んでいる。
転生者である為、早い段階からある程度の魔法技術を修めることができたので、すぐに爺様にそちら方面の教鞭を執ってもらうことができたのだ。


「だからさっきから何度も言っているだろうが!!」

「いや、だって水の中で火に炙るの意味が分かりませんから」

「いいから黙って炙っていればいいんだよ。水の中で」

「理由は?」

「昔からそうだからだ」

「理由になってない!?」


こんな感じで今の所毎日いろんなものを炙り続けています。
科学って何? おいしいの? の連続である。
これは、爺様だけのことなんだろうか?
今まで学んできたことはいったいなんだったのであろうか?
全てが、裏切られた気分であった。
なんで、水の中で火が燃えるんだ。


「おーいヤマ、いるかー!」

「はいはーい! ホントいつもすみません」

「なに、お前の爺さんが若い頃からの付き合いだ気にすることはない」


玄関に運び込まれた箱からはこの世のものとは思えないような色の触手がピロピロしていたり、何だか絶対吸ってはいけない感じのする粉を纏った箱が積まれている。

その横で、虹色に発光している汁が滲んでいる箱をニコニコしながら事も無げに抱えている、老いを感じさせない快活な爺さんが立っていた。

この人は、『ニシさん』という近所の卸問屋の店主である。
学校に通っていない私には年の離れた友達のように接してもらっている。
とても大らかな人柄で売っていいもの悪いもの関係なしに何でも売ってくれる人である。

大らかな人柄では済まないような事柄の上に、なぜ捕まらないかは不明であるが世の中には知らない方がいいこともあるのでここもスルーで。


「どうだ? 修行の方は捗ってるのか?」

「どうにかこうにか、という感じですね」

「そうかい、まぁお前さんには才能があるから何ら心配はいらないよ」

「そうですかねぇ……自分ではいまいちわかりませんが」

「すぐにお前の爺さんも超えるよ、そのときはまた自分とこの店から買ってくれよ」

「ハハハ、大分先の話になりそうですがそうさせてもらいます」

「おぅ! じゃあな、まだ他にも寄る所があるから行くな」

「ええ、お疲れ様です」

「それじゃあな」


そういうと、颯爽と去っていくニシさんを見送り、この荷物をどう運ぶかと問題に取りかかる。

そんな毎日を送っている今日この頃。



[12379] 三話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:21
 どうも、ヤマです。
結構な年月が過ぎたと思いますが、今私は爺様の店を継いで、魔具屋の店長やっています。爺様も婆様も私が店を継げるようになったら安心したのか、二人仲良くぽっくり逝ってしまいました。

ちなみに、ニシさんは何故か衰えることもなくいつも元気です。
爺様と婆様の葬儀を取り仕切る勢いの元気さ加減です。
長生きと元気の秘訣は『茸』とのこと。
どんな茸かは、なんか怖いのでスルーで。

今は、店をなんとか切り盛りしながら新しい魔具やら魔法やらを研究開発しています。機材やら資料やらはニシさんに協力して貰い仕入れています。
……毎度のことながら、一体ニシさんはどこから仕入れてきているのだろうか?

封印処理された魔導書やら物はいいけどどす黒い染みが徐々に広がっていくような機材やら、終いには『別荘』なる便利アイテムまで格安で売ってもらった。
なんだか深い闇に片足突っ込んでるような気がしないでもないけれど、ここでも秘技スルーで。
前世から、磨きに磨いてきたスルー技術が、まさか役に立つ日が来ようとは!
本当に役に立っているか否かは各々個人の判断にお任せします。

そんな過疎化が止まらない田舎でのある日、

いつものように、ニシさんと一緒に茶を啜っていると、唐突に仕事の依頼の話になった。


「商品の腐敗や劣化を防止する魔具か魔法を作ってほしいのだが」

「はぁ……全く構いませんが、防止魔具ならニシさん持っていませんでしたっけ?」

「持っているには持っているのだが、ヤマならもっと良質な物が作れるんじゃないかと思ってな」

「できるかどうかはわかりませんがちょうど、腐敗に関する魔法の研究をしていた所なのでやらさせていただきますよ」

「おぉっ!! そうかい、ありがとう。ぜひ頼むよ」

「ハハ、あんまり期待しないで待っていてください」

「いやいや、期待して待たしてもらうよ」


いつもいろいろとお世話になっているニシさんの依頼を二つ返事で受けた私は、すぐに開発へと取り掛かることにした。
客も来ないし、畑の方も近所のミノフ婆さん(戦闘ランクAA)達にお任せしてしまっているので時間は有り余る程あるのである。
資金の方は、ニシさんの懇意にしているお店の方に魔具を卸してもらい大分余裕があるのでこれも安心だ。

さて、どうしようか。
魔法は完成までの時間が掛かり過ぎてしまうので却下。
魔具にすることにした。魔具といっても薬品系の物にしようと思う。
理由は研究していたものをそのままつぎ込めそうなのと研究も兼ねることができる、というワケだ。

よーしパパ作っちゃうぞー。





ということで出来ました。
端折り過ぎた感が否めませんが、とりあえず試作品完成です。
とりあえず、服用系以外の物は実験も終わり全く問題はなかった。
今日は、最後の服用・食品系物品のテストである。


「えーと、人参にこれを塗ってと……」


その辺で捕まえてきた野兎に食べさせてみる。
さぁ、来いどうだ!!




ゾンビ化しますた。


え? これなんてT—ウィルス?
私これ巫山戯て錠剤化までしちゃったよ。

うわぁ……グロい。これはグロい通り越して神々しさすら感じる。
人間が飲んだらリッパー君じゃないか。シャレにならんぞこれはwww
シャレにならなさすぎて草生やしちゃったよ。


「ちょっとこれは酷いんじゃないかっつー話だヨ」


なんかしゃべり始めたよ。
こいうのって、知能が低下して凶暴化するものじゃないの?
すごい流暢にいきなりしゃべり始めたよこの元ウサギ。


「いや、なんと言いますか……本当に申し訳御座いません。」


とりあえず謝っておく。
本当にどうしようかコレ……。


そんな日常。



[12379] 四話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:22
 どうも、先日やらかしたヤマです。
あれから、どうにかこうにか改良を重ねて行きなんとか腐敗・劣化防止薬は完成致しました。ニシさんも満足な仕上がりに出来たのでほっと一息です。

しかし、多大な尊い犠牲も出ました。
実験するたびにゾンビが増えに増えて数え切れない数になったと思ったら、先日私の使い魔になっていただいた被害者第一号野兎ゾンビの『カイウ』(命名ニシさん)さんから、


「吸っちゃったゼ☆」


と、とても爽やかな報告とともに犠牲者がカイウさん以外残らず消失してしまいました。
あまりにもあんまりな壮絶な最後だった為私は、


「あぁ……うん……そぅ…」


としか言葉を返せませんでした。

ところで何故、カイウさんが私の使い魔になってくれたかというと、見た目が悪くなった代わりに知識と能力が手に入ったので恩を感じてくれているからだそうだ。
そして現在、カイウさんはもう何が何だかわからないモノにレベルアップしている。
なんと吸収した対象の身体的特徴と経験・知識を得ることが出来るのが能力の力だそうです。
いよいよ、リアルバイオハザード化して参りました。

近所では、賢い大きい犬程度の認識なのかお年寄り達の人気者です。
カイウさんも満更ではないらしく、お爺さんお婆さん達の環の中にいるところをよく見かけます。

そんな日々を送りながら今日も店番をしていると、突然店の扉が開かれた。
店に入ってきたのは、まさに魔法使いですと言わんばかりの黒ずくめの格好をしたナイスミドル。
店を継いでから、近所の人以外の初めてのお客さんではなかろうか?
私は、感動にうち震えながら、何度も近所の御老人達相手に練習していた接客を行う。


「いらっしゃいませ」

「……」


どうやら無口なお客さんのようだ。
お客さんは店の商品を、じっくりと観察するように眺めていたかと思うと、一つの商品を手に取った。


「……これは?」

「えぇと、それは私が作った魔法薬ですね。数が少ないですが無料配布しています。」
「……効果は?」

「ゾンビ化します」

「…………え?」

「ゾンビ化します」


ナイスミドルな魔法使いのお客さんは、魔法薬とその他の魔具を買って満足そうな顔で去って行きました。
いやー、あれ処理に困ってたから貰ってくれる人がいてよかったよかった。
捨てるのももったいないですしね。


「ただいマー」

「あっ! カイウさんお帰りなさい! 聞いてください、今日外からのお客さんが来たんですよ!!」

「マジかヨ!? 今日はお祝いだな、豆腐食おう豆腐」

「カイウさん、ゾンビなのに好物が豆腐とおからってどうかと思うんですよね」

「健康的だロ?」




そんな、駄目野郎達の日常。


あとがき
カイウさんの『カイウ』は、飼い兎のかいうです。



[12379] 五話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:23
 どうも、ゾンビ屋ヤマ子です。冗談です。
あながち間違いではないのでは? というご意見・ご感想は、申し訳ありませんが受け付けておりません。

そんなこんなで、研究開発しては失敗作を埋め、研究開発をしては失敗作を埋めを繰り返す日々を送っていたら近くの森が枯れ果てました。
あんなにいた野生動物達が一匹もいなくなり、土の色が紫色と赤黒です。

あれ……? 私、またやらかしちゃった?
ていうか、私が作っていたのってこんなに成る程に有害だったの?


「え……気づいてなかったノ?」

「気づいてたなら教えてくださいよカイウさん……」


わけわからんゾンビでも気づいていたことに、手遅れになるまで気づけなかった私って一体?


「では、ただいまより緊急会議を始めます」

「もう手遅れなのに緊急会議とはこれいかニ」

「黙りなさい。元はと言えば報告してくれなかったカイウさんの責任です」

「俺の所為かヨ」

「いいから、どう処理するか案を出してください。出ましたか?」

「早えヨ。まぁ、普通に処理しても有害であることには変わりはないけどナ」

「それなんて産業廃棄物?」

「産業廃棄物より数百倍質悪いゾ」


いや、いろいろ話し合ってみたけど普通の処理方法では解決しないことがわかりました。
埋められないのは元よりわかっているとして、どんな温度で燃やしても毒素は消えないどころか強くなること等が判明した。
うーん……どうしたもんかなぁ……?

こんなときに、ドラ○もんがいてくれたらなーなんて宣っているいい年をした男がそこにはいた。



ん……? ドラえ○ん……?



そうだ、四次元ポケットを作ろう。



ポケットに開発した魔具を入れよう。
収納空間もなくなってきていたことだし
これで万事解決ジャマイカ!!

あぁ……藤子・F・不○雄先生、あなたはいつも私を助けてくれますね。
キテレツ大百科は、私の生涯のバイブルです。


「ドラえも○じゃないのナ」


そうと決まれば、開発開始だ。

確か、影の中に収納スペースを作れるような魔法があったはずだから
それを応用すれば出来る筈だ。
なんで、その魔法をそのまま使わないのかだって?


だって、最近あんまり魔法使いらしい研究も実験もしてなかったから……。
あやうく本業が農家になりかけてた所だったし
毎日の野菜の健康状態と成長具合の確認が楽しみになり始めた所だったのだ。
実に危ない。
生まれ変わってまで何をしているんだろう私は?


「私は常に夢を追い続ける人間でありたいと思っています」

「え? 何いきなリ……怖い上に寒イ」


自らの使い魔の冷たい視線と言葉の暴力を受け心に傷を負いながら、
巫山戯た理由で巫山戯た研究を始めるアホな魔法使いが一人。


四次元ポケットの開発を始めてから一週間。
休憩中、なんの気なしにそのことを話題に出したら近所中のポケット付きの衣服が集まりました。
噂が広まったらしく四次元ポケットが完成したら付けてくれと依頼が殺到したのだ。
恐るべし田舎の情報網。
しかし、皆さん私のこと裁縫が得意なサザ○さんか何かと勘違いしているのではなかろうか?

それからまた幾日か過ぎた現在、
研究はポケットの中を別次元に繋ぐ段階まで来ていた。
今は、ポケットに新開発した術式を組み込んでいる真っ最中である。
めんどいので集まった衣服のポケットにもまとめて組み込んでいる。


「えぇと、ここの術式がこれでと……」

「あっ、この前言ってたの本気だったんダ?」

「この段階に入るまで冗談だと思ってたの!?」

「だってご主人何処まで本気かわからないシ。森は完全に毒々しい荒野になってるシ……」

「マジで!? 少し見ない間にそんなことになっていたとは……」

「ちなみに俺の友人達の巣窟にもなってまス」

「へぇー…… え? いつご友人方をお増やしになられたの? 巣窟になってんの? なにこの完全独立型使い魔、新天地開拓しちゃったんじゃないのコレとかいろいろツッコみ所満載過ぎて何処からツッコンでいいのかわからなくなってるんですけど」


少し目を離した隙にどうやら大変なことになっているらしい。
これは早々にポケットを完成させて対応しなければならないようです。

よし、これで最後の術式ですね。
さぁ、おいでませ四次元ポケット。私の願いを叶えておくれ!!

って、なんじゃこりゃー!?
黒い! ひたすら黒い光(?)がドロドロ溢れ出て来た!? 
術式が暴走した? なぜだ…… 何がいけなかったんだ!?


「近所の人のもまとめてやったからじゃネ?」

「それだ!!」

「どうせアメちゃんとかしか入れない癖になんでポケット欲しがったんだろうナ、あの人達?」

「物珍しさじゃないですか?」

「きっと孫の手作りみたいな感じだから欲しかったんだろうナ」


そんなアホな会話を暢気に交わしながら
アホな魔法使いとその使い魔はポケットから溢れ出たドス黒い光(?)に飲み込まれていった。



[12379] 六話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:23
 どうも、ポケットに反乱を起こされたヤマです。
結果から言えば四次元ポケットは完成しました。
その代わりにあまりにも大きな物を失ってしまいましたが。


「ねぇ、カイウさん……」

「何?」

「力を抜くと悪魔やら妖怪やらが体のあちこちからぬるぬる出てくる件について☆」

「大丈夫。俺もだかラ☆」


只今、カイウさんと共にこんな状態です。
どうやら、術式の暴走が原因で私たちの体がどうかなってしまったらしい。

テヘッ☆ やっちゃったゼ♪

私の開発した魔具は何かと引き換えにしなきゃ完成しないのだろうか?
なんて親不孝者(?)なんだろう。

なんか、変な悪魔みたいなのの顔がお腹から出て、ど根性ガ○ルみたいになってるし。

カイウさんと、目から心の冷や汗を流して笑い合っていると、
ど根性悪魔が話し掛けてきた。


「ソコノ挙動不審ナオ前タチ」

「うぉウ!? ど根性悪魔がカタコトで話し掛けてきタ!?」

「待て待て落ち着いぺカイウさん落ち着いぺ待て待て待てとりあえず落ち着こううん落ちついぇぺ「マズオ前ガ落チ着ケ。ぺッテナンダ?」……はい」

ど根性悪魔に落ち着かせられる人間とゾンビ。

3分後

「大変お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳御座いませんでした」

「さぁさどうぞ、ご用件の程ヲ」

「結構立チ直ルノハヤイナ……」

ど根性悪魔がヤマの腹部から顔だけ出した状態で話し始める。
それに耳を傾ける、訳わからんゾンビと腹から悪魔の顔と頭から真っ黒い腕が生えてる魔法使い。


あまりにもシュールな光景がそこにはあった。


「トリアエズ俺ヲソッチニ出シテ欲シイ。出シテクレルナ「わかりました。よっこいしょーいちっと」……結構簡単二出シチャウンダ……」

「その年でしょーいちは無いんじゃないノ?」

「エ、気二ナルノソッチ?」


ど根性悪魔のツッコミは華麗にスルーされつつ、やっと話の本題へ入る。


「俺ハコチラノ世界二興味ガアッテナ、前カラコッチニ滞在シタイト思ッテイタンダ。シカシ、召還サレルニハ召還サレルノダガ悪魔ノウエニ、毎回戦闘ノ為ダケニ呼バレルモンダカラ、オワレバスグニカエラナクチャイカン。モシ、コチラニ滞在スルノヲ手助ケシテクレルナラ、出来ウル限リオ前ニ力ヲ貸シテヤロウ」

「まぁ、そんなことでいいならまったく構いませんが」

「ソンナニアッサリ!? 俺自分デ言ウノモナンダケド悪魔ダゾ!? 偏見トカ無イノ!!?」

「俺と一緒に暮らしてるくらいだから無いんじゃないのかネ(笑)」

「ゾンビガ自虐シハジメタ!?」

そんなこんなで、私はど根性悪魔さんと同居することになりました。
ど根性悪魔さんは、爵位級というあっちでは偉い悪魔なのだそうだ。


せっかくなんで早速、今現在の私とカイウさんの状態について聞いてみる。


「オ前達ハ異界ト同期シテイル」

「はい、先生! 意味が分かりませン」

「何ソノノリ……? オ前等ハ同期シタウエニ、異界トコノ世界ヲ繋グ抜ケ道ニモナッテイル」

「抜け道?」

「ソウダ。本来術者ニ我々ガ召還サレ、ソノ術者ノ魔力ヲ借リテコチラノ世界デ仮ノ肉体ヲ得ル。ソウシテ初メテ我々ハコチラニ顕現出来ルノダ」

「何この初知識?」

「……ダガ、オ前トソコノゾンビガ同期シタ為ニ異界ニ穴ガ生マレタ。悪魔ヤ妖怪ガ溢レ出テクルノハソレガ原因ダ。マァ、コチラノ世界ニ出ルトキニオ前ト強制的ニ契約サレテイルヨウダガナ」

「スルーされた……。それじゃあ、私たちはずっとふんばっておかなければ行けないんですか?」

「え、そんなの無理ダ!! 何がとは言わないけド、もう悪魔と妖怪と一緒に何か出ちゃいそうだもン!!!」

「落チ着ケ。ッテ出ルッテ何ダ、何ガ出ルンダオ前カラ!?」

「○露丸飲みます?」

「オ前モ平然ト腹痛薬ヲ取リ出スナ!! 完全ニ直スノハ不可能ダガ、塞キ止メルコトナラ可能ダ。気休メダガナ」

「じゃあ今すぐしてくレ! すぐしてくレ!! オラもう駄目だァ……」

「オィィィィィィィィィィ!? ワカッタ! ワカッタカラ耐エロヨォォォォォォォォ!!?」

「Arrivederci!」

「「ギァァアアァアァァァァアアァァ!!? 何か(カ)出た(タ)!?!?!?!?」」






そんな感じの、魔法使いと愉快な馬鹿野郎達の非日常。




あとがき

主人公組に、さわやか要素及び正義の味方要素は一切御座いません。



[12379] 七話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:24
 どうも、先日めでたく『異界』と夫婦になったヤマです。
人として大切な何かを大方亡くしましたが、
四次元ポケットは完成したので、まぁ良しとしましょう。
近所の方々にも、丸洗い可能等の機能が嬉しかったのか大好評でした。


「やっぱり、ヤマちゃんはすごいねぇ〜」

「なんたって、あの人の孫だからねぇ」

「ほんにねぇ」


と、子供が学校の宿題で賞を取って、地方新聞の記事になったみたいな反応ですが
喜んでくれているのでなによりです。
ポケットには結局アメちゃん位しか入れていませんでした。

四次元ポケットが完成したので、収納問題と有害物質の処理方法も解決です。

ここで一息つきたい所ですがそうも行きません。
また新たに生まれた、『カイウさんのご友人問題』やら『毒々しい荒野問題』等も対応しなければならないのです。

今回はその、現在の毒々しい荒野、『元森』の状態を、公爵さんとカイウさんと一緒に確認しに来ています。

ど根性悪魔さんには、歓迎会を開いたときに名前を教えてもらいましたが、長い上に呼びづらいので、位の『公爵さん』で定着しました。
結構大物なお方でした。


「モウ何モ言ワン……」


公爵さんはとても疲れた様子で、快く承諾してくれました。

そんな感じで、唯一の森への入り口の洞窟を抜けて、やっとこさ到着です。


しかし


「コレはひどいwwww」

「笑っちゃう程酷いだロwww」

「……此処ハ本当ニ地上ナノカ?」


まさに、地獄と言っても差し支えないような光景がそこには広がっていた。

トンネルを抜けると、そこは雪国ではなく、地獄でした。

様々なお姿の異形さん達が跋扈し、そこら中に瘴気を振りまく毒々しい何かが地面から延々と湧き出ている。

見たことがない植物(?)が蠢き、空の青は、淀んだ瘴気と砂塵で、ここからではもう見えない。

公爵級の悪魔すら呆然としている様子である。


「酷い状態だロ……ご主人がやったんだゼ。こレ……」

「オ前……爵位級ノ悪魔デモ流石ニ此処マデハヤランゾ……」

「わ、わざとじゃありませんよ?」

「意図せずニ、ココまで出来るご主人万歳」

「オ前…… 意図セズニッテ…… オ前……」


悪魔にすら引かれたのは少しショックでした。
それにしても、これは酷すぎる。

瘴気が蔓延し、腐敗臭が立ちこめ、日の光は淀んだ空気により届かず、強大な力を持つ化け物共が猛威を振るう。

もう、自然の摂理に添った生き物達は、此処では生きてはいけないだろう。




あれ?




なんか今、おかしかったぞ?




じゃあなんで、私普通に此処にいられるのでしょうか?

私、ヒト科ヒト属ヒトでしたよね?


公爵さんに聞いてみる。


「あの、公爵さん」

「ン? 何ダ?」

「何で私、此処にいても平気なんですかね?」

「何ヲ今更。オ前ハ異界ト同期シテイルノダ、平気ニ決マッテイルダロウ」

「へっ?」

「オ前ハ、異界ト同期シテ常ニアッチノ世界ノ物質ヤ魔力ヲ取リ込ンデイルンダ、モハヤ人トシテ定義シテヨイノカモワカラン程ニ、人カラ変化シテイルダロウ」

「えぇ〜……」

ということらしい。
私、もう人じゃなかったんだ……。
知らないうちに、人、卒業しました。
桜の代わりに瘴気が舞う中、
一人ぼっちの卒業式。
あれ、おかしいな……、変な涙が止まりません。
じゃあ、私って一体何なのだろうか?


「大丈夫だってご主人」

「カイウさん……」

「俺なんてもう、ゾンビだか珪素系生物だかわからなくなってるんだゼ?」

「コイツニ関シテハ俺モ全クワカラナイ」

「……ごめんなさい」


カイウさんへの、人生で二回目の心からの謝罪だった。

そんな微妙な空気の中、此処のことに一番詳しい傷心のカイウさんに、説明を受ける。


「ここには、あいつらが逃げないようニ、全域に結界が張ってあル。
認識疎外の結界も合わせて張ってあるかラ、もう訴えられる心配もないゾ」

「裁判沙汰ニ成リカケタノカ」

「それよりこの方達は一体どこから連れてきたんですか?」

「ソレヨリテ……」

「訴えようとした奴らがどうなったのかも含めテ、禁則事項でス☆」

「あれ? そういえばカイウさん、魔法も使えてるみたいだし、いつからヒトガタになれるようになったんですか?」

「禁則事項です☆」

「「……」」


怖くてこれ以上突っ込めなかった自分を、誰か殴ってください。
公爵さんも黙り込まないでくださいよ。


「あト、ここにいる奴らは全員ご主人の使い魔ダ。土地も買っといたヨ」

「土地も!?」

「俺が仲介して契約して置いたからネ」

「大きなお世話とはこのことか」

「オ前等ノ関係ハドウイウ状態ナンダ…… アト、ダレカラドウヤッテ土地買ッタノ?」

「ニシさんに聞いてくレ」

「ニシさん……余計なことを」

「アノ爺サン俺ト同類ジャナイノカ?」


ありえそうで怖い公爵さんの仮定は、聞かなかったことにする。
淀んだ色の空に、憎らしい位いい笑顔のニシさんが見えた気がした。

そのあと、いろいろ説明を受けながら、一通り一帯を回る一行。
皆さん何だかすごく歓迎してくれています。
使い魔であるからなのか、無駄に懐かれました。

ゾンビに。

体中わけわからん汁やら何やらでドロドロです。

視察も終わったのでそろそろ帰ろうとしたときに、
カイウさんから、前例がない程に巨大な爆弾を落とされる。


「あァ、そうそうご主人」

「何ですか、カイウさん?」

「ご主人にはそろそロ、此処に住んでもらうことになるかラ」

「………………………………え」

「結界への魔力供給は異界と同期してるから問題ないんだけド、そろそろアイツらが知恵を付け始めテ、結界を抜け出す技術を持つ奴が出てき始めたんだヨ。
そいつ等の対応は俺じゃ無理だかラ、此処の管理も合わせテ、ご主人がんばってくレ」

「え」

「……因果応報トイウ奴ダナ」

「悪魔が仏教用語使ってる件についテ」



丸二日寝込んだ。



あとがき
カイウさんは、無駄が多いです。



[12379] 八話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:25
 どうも、引っ越したヤマです。
ゾンビの方々の進化速度がものすごく速いので、
早々に引っ越しを敢行しなければいけませんでした。

最近のゾンビさん達は、魔法を使いこなすひと(?)が増えてきています。
カイウさんを初め、上位魔法もちょいちょい使いこなすし、不死身を利用して仲間内で腕を磨き合っているようです。
不死身と言っても、許容量のダメージを超えると一定期間行動不能になるらしい。

ゾンビさんの特性ですが、吸収すれば対象の身体的特徴を得ることは出来ますが、カイウさんのように経験や知識を得ることまではできないようです。
カイウさんは上位個体のような存在であり、あともう少しだけ同じような存在がいるようです。

今現在も増殖し続けているゾンビさんですが、全員が全員不死身ではなく、ある程度の日数を重ねた個体が不死身へとなるようです。
若い(?)ゾンビさん達は不死身になるまでの期間は、仲間内での魔法訓練等には参加せずに、先輩ゾンビさん達から魔法を学んでいるようです。

こうしてみると、知識もあるは魔法は使うは、不死身だはで最強の生物なんじゃないのこの方々と思う今日この頃。
こんなのと戦ったら確実に、人類は衰退しましたである。
しかし、私にはもちろん公爵さんにも、ものすごく良くしてくれているので、もしかしたら人間なんかよりずっと優良な生物なのではなかろうか。
生物なのかどうかは不明ですが、ナマモノなのは確かである。

そのような感じで、ゾンビ達の習性を観察なんかしながら、
なんだかんだで荒野での生活を満喫している悪魔とゾンビと魔法使い。

最近では、南北の大国同士の関係がギクシャクし初めているなか、人外達と円満な関係を築いていく異様な魔法使いが一人、
ここでの生活も悪くないなぁ、なんてことを考えながら思考まで駄目になっていることに気づくこと無く、この世の地獄で怠惰な生活を営む。

ある日、機材や資料等を運んできてくれたニシさんと、公爵さんも一緒になってお茶を楽しんでいると、北の大国領で起こったある事件の話になる。


「そうそう、知っているかヤマ?」

「? 何をですか?」

「テイウカ、コノ爺サン何デ此処ニイテ平然ト茶シバイテイラレルンダ……?」

「ククク…… 公爵よ、秘密は毎日の茸と散歩と肝油だ!!」

「さっすがニシさん!」

「ソノ程度デ!? サッスガ! デ済ム問題カ!!」

「公爵さん…… ニシさんに疑問を持ったら負けですよ」

「儂の秘密を存分に、楽しんでいってね!!!」

「喧シイワ!! コノ爺!!!」


ニシさんの秘密は、公爵位の悪魔でもわからないらしい。
存分に、正体不明の爺さんの秘密を楽しんだ後。
先程の話へと戻る。


「なんでも、北のメセンブリーナ連合領の町や村が、いくつも滅ぼされたらしいんだわ」

「最近何かと物騒な話が飛び交ってますもんね」

「それが、滅ぼされ方が前例の無いやり方らしいんだよ」

「へぇー、どんな風に滅ぼされたんですか?」

「滅ぼされた村や町の住人全員がゾンビ化したんだとよ」

「それなんてバイオハザード?」

「あまりにも、危険だと判断した国が早急に腕利きの魔法使い達を現場に派遣して、なんとか全滅させたらしい」

「そうなんですか、そういうことが出来るのは私だけかと思っていましたよ」

「儂もそう思っていた。世の中は広いということを再度実感したわい」

「世の中にはまだまだ、奇人変人がたくさんいるんですね〜」

「まったくだ!」

「「ワハハハハハハハハハハハハハ」」

「……駄目ダロコイツラ」


それから数日後、
南のヘラス帝国と北のメセンブリーナ連合との戦争が勃発した。
が、特に興味がない為にいつもどおりの生活を続ける。
今日も精進料理かと、ここ最近の献立を振り返りつつ、
ここのゾンビのあり方に疑問を感じていると
ふとニシさんに聞いた例の事件のことを思い出す。

そういえば、討伐されたゾンビは不死じゃなかったらしい。
でも、もし家の子みたいに不死の相手が出てきたときはどうしようか……
めっちゃ怖い。
絶対に殺されるだろ。

等と、詮無いことを考えながらふらふらと荒れた家路へとつく。

地獄のような様相を呈す荒野の中に、ポツンと建つ我が家へと帰り着くと、
そのまま、一つの部屋へと入る。

その部屋の中は、薄暗く
高く積み上げられた魔導書や資料の山が多く積み上げられ、
必要最低限の足場しかない。

奥へと足を進めていくと、そこだけ奇麗に整頓がされている一角がある、
その一角の中央に、鉄で作られた無骨な台座が置かれ、真っ黒な球が掲げられている。

その球へと、手を翳すと、ヤマはその球へと吸い込まれていった。

球の中は、ただ真っ黒な闇が淡々と広がっており、遠くに一軒質素な作りの家が建っているだけの光景だけがある。

ヤマはその家へと歩みを進めていく。

家の扉を開けると、机が一つと椅子が四つ、奥へと続くであろう扉が一つある。
椅子の一つには、よく見知った一匹の悪魔が腰掛けて、古びたカバーの掛かった本を読んでいた。


「なんだ公爵さん、見ないと思っていたら此処にいたんですか?」

「アァ、少シ借リテイルゾ」

「別に構いませんけど、何をしていたんですか?」

「特ニ何カシテイタ訳デハ無イ」

「そうなんですか。でも、いくら外と内の時間の流れが違うからって居過ぎちゃ駄目ですよ、時差ぼけ起こしますから」

「悪魔ニ時差ボケノ心配ハイラン。ソレヨリ、オ前ハマタナニカヲ開発シテイルノカ?」

「えぇ、殺虫剤を少々」

「殺虫剤?」

「カイウさんから、体に蟲が纏わりついて堪らないと不満が出ましてね、なんとかしてあげようと思って作ってるんですよ」

「ゾンビノ蟲嫌イ……」

「さてと、早く完成させましょうかね。カイウさんも待ってることですし」

「俺モ見学シテ構ワナイカ?」

「構いませんよ」


そういって、奥の扉を開く。
その先には上も下もわからないような暗闇の空間
そこに、いくつもの形が違う扉があちこちに浮いていた。

その中の、“工房”と漢字で書かれた扉の中へと入る。

工房は、自作の蛍光灯の冷たい光で照らされ、
本棚には収まりきらなかった本が雪崩を起こし、
薬品と、なぜか硝煙が混ざったような匂いが立ち籠めている。

机の上には薬学書や魔導書、薬草や様々な色の液体、用途不明の機材が乱雑に置かれている状態である。


「いよいよ最終段階ですね。このまま一気に完成させてしまいましょう」

「モウソコマデ出来テイタノカ」

「ええ、あとは水35リットル 炭素20kg アンモニア4リットル 石灰1.5kg りん800g 塩分250g 硝石100g 硫黄80g フッ素7.5g 鉄5g ケイ素3gをこの薬品に混ぜれば完成です」

「オ前ハ一体何ヲ錬成シヨウトシテイルンダ?」

公爵さんの指摘を躱しつつ、作業へと移る。
この世界で、私が作る物の材料に関して気にしては駄目です。

あまり、薬品に刺激を与えても何が起こるかわからないので、慎重に作業を進めていく。
この位強い殺虫剤じゃないと此処の蟲は退治できないですからね。



長く短い、張りつめたような空気が蔓延した時間が唐突に、
ヤマが息をつくことで終わりを告げる。



「ふぅ〜……やっとこさ完成しましたよ」

「……コンナニ緊張ヲ要シテ作ル殺虫剤ナンテ嫌ダ」

「しょうがないじゃないですか、この位じゃないと此処の蟲達には太刀打ちできませんよ」


早速完成した殺虫剤を専用のスプレー缶に入れて、
試してもらう為に、『別荘』を公爵さんを伴って飛び出す。


「おーい、カイウさーん!」

「おッ? どうした、ご主人? 公爵さんも一緒じゃン」


幾人かの、ゾンビさん達と一緒に蟲達と応戦していたのか、
カイウさん達の周りには、大きな蟲達の死骸が散乱している。


「先日頼まれた殺虫剤が完成しましたんで、持ってきたんですよ」

「おぉッ!! そいつはちょうど良かっタ。今殲滅作戦を実行していた所ダ」

「スプレータイプですので使いやすいと思いますよ」

「よっシ! コレで勝つル!!」


勢い込んだカイウさんは、思わず力が入ってしまったのか殺虫剤を誤射してしまい、先日不死になったらしい若いゾンビさんに吹きかけてしまった。

「おおっト、悪い悪イ大丈夫カ?」

「…………………………」

「ン? どうしたんダ、お〜イ?」


と、カイウさんが沈黙を保つ、殺虫剤を誤射されたゾンビさんを揺する。
すると、その勢いのままゾンビさんが後ろに倒れてしまった。

そのあとも、倒れたゾンビさんはぴくりとも動かない。

場の空気が凍り付く中、公爵さんだけが冷静にゾンビさんの安否を確かめる。


「完全ニ魂ガ抜ケテイルナ」

「「「「へ」」」」

「ドウヤラソノ殺虫剤ハ不死ヲモ殺ス代物ニ仕上ガッタラシイ」

「こ……公爵さん、随分と落ち着いてらっしゃいますね……」

「オ前ト一緒ニ居レバ、モウコノ程度デハ驚カナイ程ニハ鍛エラレテオルワ」

「ご主人マジパネェ」




後に『大分裂戦争』と呼ばれる戦いが開戦し、苛烈な戦いが行われている中
人知れず、魔法使いヤマ・マヤー生涯最大の作品『不死コロリアース・ジェットタイプ』が完成した日であった。



完成して即封印されたのは言うまでもない。



あとがき
お願いです! もう少し……もう少し待ってください!!
もう少しで、原作キャラと絡ませられると思いますから!!!



[12379] 九話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:25
 どうも、南のヘラス帝国さんに強制招集くらったヤマです。
どうやら、この前のメセンブリーナ連合領の『バイオハザード事件』
実行したのが、いつぞやのナイスミドルな魔法使いさんだと判明したらしく、
ナイスミドルさんのダイイングメッセージを辿って私の居場所を探し当てたらしい。
しかし、そこには私の店の跡しかなく、近所の方々も結構お年がいった方々ばかりだったので正確な居場所は掴めなかったようだ。
そこで、余計な気を利かせたニシさんが、帝国の使者さんに現在の居場所のことを伝え、そのようなところまで行くのは無理だと判断した使者さん方は
渋々ながら、ニシさんへ書状を託しここへの入り口まで付き添って来て
そのあと、早々と帝国へ帰っていったらしい。
正式な使者さんに、短時間で書状を託されるニシさんもすごいが、
そんなすぐに他人を信用して書状を託して帰らなければならない程
切羽詰まってるんですかね、帝国は?
此処には入って来れないだろうから、私を呼べばよかっただろうにに。
ちょっと、不用心すぎではないでしょうか?
それとも、只単に怖がられてるだけであろうか?

書状を、ニシさんから受け取った後、
逮捕されて断罪されるのでは、とハラハラしながら書状を読むが
そのようなことではないらしい。
どうやら、帝国への強制招集らしい。
あなたの開発した魔具があげた功績を高く評価した為
うんたらかんたらと難しい言葉でそんな感じのことが書き連ねてあった。
ようは、今回の件は目を瞑ってやるから戦争に力を貸さんかいゴルァ、ということでしょう。
よかった、『バイオハザード事件』が戦争の火蓋を切って落とした訳ではなかったらしい。
まぁ、要因の一端を担っているとは思うが、
今回のことを、見なかったことにしてくれるみたいなので、
戦争は恐いがおとなしく従うことにする。

しかし、ここで重大な問題が発生する。

「どうしましょう!! 私正式な場所に着ていくような正装を持っていませんでした!?」

「ソウイエバ、近所ノオ下ガリノ服シカ着テイルトコロヲ、
見タコトガ無カッタナ」

「それしか持ってないんですよ」

「ソノ、今着テイル継ギハギダラケノ服モ、農作業用ノ物ダロウガ」

「とても着やすい上に丈夫なんです」


そう、私は服を自分で買ったことが無い。
全て近所の方々のお下がりで賄って来たのだ。
住んでいる場所が、ど田舎だったのも幸いして、まともな服を
一着も有していない。
破れた部分は繕ってでも使え!!
という、教えが我が家にもありました。

これは困った……。
非常に困ったことになったぞ……。
まさか、我が家の教えが自らの首を絞めることになろうとは。
ニシさんに服を調達して来てもらうにも、それでは召集日に間に合わないだろう。
どうすべきか、頭を悩めているとカイウさんが
待ってましたと言わんばかりに、大きく声を張り上げた。


「そんなこともあろうかト!!」


とそんな、どこぞの科学者のような台詞を叫びながら
何処からか取り出したのはなんと、一着の黒い立派なスーツであった。


「そんなこともあろうかト!!」

「何故二回言ッタ?」

「カイウさん、そのスーツは一体どうしたんですか?」

「ご主人にモ、いつか必要になると思っテ作っておいたんだヨ。
爵位級の悪魔と一緒ニ」

「オマッ……!? 悪魔ニ何ヲサセトルンダ!!」

「夜なべして裁縫手伝ってもらっタ。悪魔って結構器用な上に、
細かい作業好きなんだナ。ニコニコしながら縫ってたヨ」

「裁縫得意ナ種族ダッタンダ、悪魔ッテ……」

「レースとフリルを作らせたら他の追随はゆるさン!! 
って自信満々だったヨ」


悪魔の隠された特技を知るも
公爵さんは、自分の種族の特技に絶望したのか、
項垂れたまま動かなくなってしまった。
そのままの体勢でぶつぶつと、


「フリルッテ……レースッテ……」


と、何か大切なものを失ったような声で呟いている。
目元がキラリと光った気がした。


「本当にありがとうございます、カイウさん!」

「やめろやイ! お礼なら作ってくれタ、悪魔達にいってやってくれイ」

「燻し銀ですねカイウさん!」


そんな、馬鹿らしい会話を交わしつつ
先程貰った、始祖ゾンビwith爵位級悪魔達謹製のスーツを広げてみる。


「それにしても、カイウさん」

「ン?」

「なんだか、随分と禍々しい一品ですね」

「当タリ前ダロウガ」


いつの間にか復活していた公爵さんが、
目元を拭いながらカイウさんの代わりに答える。


「爵位級ノ悪魔ガ、寄ッテタカッテ作リ上ゲタ代物ダ、
異常ナ霊格ニマデ高メラレテイルニ決マッテオロウガ」

「えっ、そうなんですか?」

「そーなのカー」

「オ前等、コレガドレホドノ物カ分カッテイナイダロウ……」


公爵さんに呆れられつつも、試着してみることにする。
黒のスーツは、軽くとても着易い物であったが
相対するもの全てを威圧するような圧力を放出し、
時々ある筈も無い、何かの胎動のような物を感じることさえある。
見る者を恐怖させ、竦み上がらせるには十分な物だろう。
素材はどうやら異界の物が使われているらしく、何か付属効果もあるようだ。


「……これって着ていっても大丈夫ですかね?」

「まァ、そう慌てなさんナご主人」

「えっ?」

「その威圧感を緩和させつつさらニ、和み効果も狙える一品がコレだァ!!」

「そ……それは!!」


何処からどう見ても『ともだ○マスク』でした。
確かに教えた記憶があったが、
まさか、このタイミングでそのネタ振りをされるとは思わなかった。


「カイウさん、正式な場所にこれは流石にまずくないですか?」

「大丈夫! こんなに滑稽なんだ、元ネタ知らなくてモきっと突っ込んでくれる筈サ!」

「そうですかねぇ……?」

「ご主人……。戦争でぴりぴりしている空気を和らげることが出来るのハ、ご主人しか居ないんだヨ!! 皆がご主人ヲ……“○もだち”を待ってるんダ」

「オイオイ、流石ニソレハ……」

「……わかりました、やりましょう」

「ヴォイッ!?」

「私が“と○だち”を演じることで今回の件に目を瞑っていただきました帝国の勝利に、少しでも貢献できるのでありませば不肖な身ながらこのヤマ、やらせていただきます。 …………プスーww」

「笑ッチャッテルシ……ノリノリジャナイカヨ」

「突っ込まれるまでの時間計測はまかしとケwww」

「計測……」


そういうことで、ヘラス帝国には、
完全な悪ふざけで“とも○ち”となって行くことに決定した。
変声魔法も掛けて完璧に演じている。
待っていてください、皆さん!!
絶対笑わせてやりますから!!!


「気合イノ入レドコロガ違ウダロウガ……」



召集日当日。

帝国軍部のとある会議室。
大きなガラス張りの机を囲む、ヘラス帝国軍の軍服を着込んだ
様々な姿形をした軍人達。
今日、そこには帝国軍の将校達が集まっていた。

上座についていた幹部の一人が口を開く。

「本日、午前10:00時に北の魔法使い共を悉く腐敗した
化け物へと姿を変えさせたという、魔具の開発者が此処へと来る」

重苦しい、緊張した空気が流れる中
将校の一人が重々しい口調で質問をする、

「その魔法使いをここに引き入れても、本当に大丈夫なのか?」

「……確証は無い。使者にすら姿を見せなかったという報告を受けているしな……」

「それならば「いや……」」


別の将校の一人の諌める言葉を制し、言葉を続ける。


「いまは即戦力になる魔法使いがすぐにでも欲しい。メセンブリーナ連合には悠久の風の紅き翼がついたというからな」

「奴らか……」

「奴らに対抗するには我ら軍は些か力が足りぬ。
しかし、あれほどの惨事を起こせる魔法使いを
引き込むことが出来たのならば、奴らに対抗まではできなくとも、
他の者よりは厚い壁にはなってくれるだろう」

「確かに……そうだが……」

「何心配するな、正式な決定は今日実物を見てからでも遅くはない。
しかも、ここに居るのは全員我が軍最強クラスの魔法使い達だ、
何があっても心配はいらんよ」

「そうだな……」


不安や不満といったものを拭いきれないまま、約束の時間へとなる。


「……そろそろだな」


誰とも知らぬ、その呟きが漏れたと同時に、扉がノックされた。
部屋に緊張した空気が一瞬にして流れる。
扉が開き最初に現れたのは、顔を真っ青にし脂汗をかきながら、ガタガタと震えている兵士であった。
幹部達は兵士の状態を見て警戒心を限界にまで強め、身構える。
静まり返った部屋に、唾を飲み込む音が響く。


「ふ……腐敗とれ、劣化のまま、魔法使い様、が……ご、ごご到着、いい致しまし、た」


“腐敗と劣化”とは、彼の魔法使いの我らの内での呼び名である。
それだけ伝えた兵士は、一礼をするのも忘れフラフラその場を立ち去っていったが、
立ち去っていった先からは何かが倒れるような音が響いた。
その直後、扉の奥から一人の人物が静かに現れる。

唐突に我慢できない程の怖気と吐き気をおぼえる。
しかし、そこは軍人としての経験が生き、辛うじて耐えることが出来た。
現れた者は、顔を隠すように、白地に黒で目と人差し指を立てた手を象った、
異様な文様が描かれたマスクをし、
黒い、一目で上物であろうことが伺えるスーツを着込んでいる。
多くの上級悪魔と相対したような、禍々しい威圧感を放ち
いままで感じたことの無い異様な質の
強大な魔力を体から溢れさせている。
その人物は、恭しく一礼をし、気味の悪いくぐもった声で
話し始める。


「本日、召集の命により参上致しました」


その者は自らのことを“ともだち”と名乗った。
明らかな偽名であったが、真の名追求することが出来ない程に、
我らは、彼に絶望的な畏怖を感じていた。
あまりに強大な力を前にして自らの多大なデメリットも忘れ、
目の前の呪いの宝具を手に入れることしか考えることが出来なくなり、
満場一致で彼を迎え入れることが決定した。
先程まで、紅き翼共の強大な力に怯えていたのが嘘のように
帝国の勝利を根拠も無く、確信した瞬間であった。




「最後まで笑いもなし、ツッコミもなしでした」

「まだまだァ! これからだゼ、ご主人!!」

「そうですよね……ツッコまれるまで、演じきってやりますよ!!!」

「一周回ッテ尊敬ニ値スルワ、オ前等ノ馬鹿サ加減ニハ……」



[12379] 十話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:26
どうも、あれから只管に前線に駆り出される毎日を、順調に送っているヤマです。
皆さん、私は元気です。
あいかわらず、誰にも突っ込まれないままなので、
もう意地の張り合いになりながらも“ともだち”のまま命ぜられた場所に
赴いては、作戦を遂行しています。
何故か、私に与えられる任務は殲滅やら侵攻の先鋒やらと
危険極まりない物が多いです。
将校の皆さん、凄く恐い顔なのに妙に下から、命令というよりお願いしてくる感じなのに断りきれません。
やっぱり、人間(?)弱みを握られたらお終いですね。

ちなみに私は、外部協力者ということで階級は与えられていません。
何故か、危険視されているようです。
しかし、戦時中はいくら用心深くても足りない位だから当たり前ではあるのですが。
そのかわり、戦果を挙げればお給料を頂けています。
歩合制のバイト君みたいな扱いですね。
…………なんて嫌なバイトなんだろうか、お給料はいいがすぐに辞めたい。
そして、なんだかんだで、悪魔やら妖怪やらゾンビやら魔具やらで、
何とかなっちゃってるのもいけないのでは無かろうか? と、思う今日この頃。
なにせ、私何にもしてないですしね。
ただ、後方で悪魔・妖怪・ゾンビを心太の如く、
体からヌルヌル出しているだけです。
皆さんものすごく強いので、帝国の軍人さん達の御仕事を奪う勢いで
殲滅作戦に嬉々と参加しては、ほとんど予定時間の半分以下で作戦を
完遂してしまう勢いです。
汚いなさすが人外きたない。

今の所、なんたらの赤いなんとかと言うやたらと地上の楽園を目指してそうな、
危険極まりない人達には当たっていませんし、このまま戦争が終わってしまえばいいんですけどね。
いちいち遠くまで出向くのも、いい加減にかったるいですし。
最近カイウさん、むちゃくちゃ大きい腐敗した龍に色々足した姿になってきてるし、それでも抑えているらしいし、野兎から出世しすぎだろって感じだし、
公爵さん戦闘になるとテンション上がり過ぎて恐いですし……。
もう、辞めようかな。
引きこもりの体力と根性の無さ、舐めたらアカンぜよ!!
なんてことを、口に出して言える筈も無く。
胸の内で只管グチグチとぼやいています。


そんな毎日を送っていると、なにやら軍部の中がいつもより慌ただしい。
なにかあったのだろうか?
と、そんなことを思っているといつも通りにお呼びが掛かる。
話を聞くと、この前失敗したウェスペルタティア王国の
『オスティア回復作戦』を再度
行うので、それに参加してほしいというお話だった。
前回は、肝心要の作戦な為に、協力者として日が浅かった私は参加しなかった。
私の面接を行った将校の方々はそれに反論していたらしいが。
今回は、自分でやった訳ではないが今までの功績が評価されたらしく
参加が決定したらしい。
ちっくしょう、余計なことをした。
今日は直帰するつもり満々だったのに帰れなくなってしまった。
この遣る瀬無さををどうしてくれましょうか……。

そうだ、完全武装で出撃しましょう。
どうせ、危ない位置に配置されるのは目に見えてるんだから、
文句は無いでしょう。
この前、創って置いたアレも出しときましょうかね。
ゾンビの方々も全員連れて行くことにします。
ククク……私の帰宅を阻んだ罪は重い。
全員私の特別ボーナスへの礎となるがいい!!!




どこまでいっても、小市民の考え方から抜けられない
魔法使いヤマ・マヤー。
彼の人生は仄暗い。




さて、いよいよ『オスティア回復作戦』泣きの一回当日です。
私は今、一番大きな戦艦に乗っています。
与えられた椅子に座りながら、慌ただしい艦内を見渡す。
バタバタとあちらコチラに走り回っている人々。
整列して、今か今かと出撃を待つ兵士達。
一段上から、ゆったりと椅子にもたれている私。
皆さんやっぱりピリピリしていますね。
一回失敗しているということは、もう後が無いんでしょうか?
今回私は、どうやら後衛で控えていていいらしい。
なんだろうか、嬉しい筈なのに凄く嫌な予感がするのですが。

暇つぶしと不安解消を兼ねて、
内に入っているカイウさん、公爵さんと念話で会話する。


(嬉しいのに嬉しくはないこの感じ……)

(なんカ、いつもより面倒そうだナ)

(今回ハ、何時モノヨウニ只殲滅スレバ良イトイウ訳デハ無イカラナ。
イツモ通リナラバ、我ラヲコンナ所ニ配置セズ前線ニ出セバ良イ話)

(なんカ、壊されたラ困る物でモ有るんかネ?)

(ウム、ソレハ“王都オスティア”ソノモノデアロウナ)

(こんな小国を重要視しているのカ?)

(一応、今回ノ戦争ノ大義名分ノ一ツダカラナ。マァ、ソレモ後付ケノ上ニ殆ド誘導サレテイルヨウナモノダガ)

(へぇ〜、公爵さん、そんなことよく知ってますね)

(幾度ノ戦争ヲ見テ来タト思ッテイル。明ラカニ開戦理由ガ不十分ダッタ、何ラカノ策ノ遂行ニ南北ノ大国ガ邪魔ダッタンダロウヨ)

(じゃあ、裏で秘密結社が糸でも引いてたりするんですか?)

(ソンナヨウナモノダ。我々ニトッテハ関係ノナイ話ダガナ)

(マジだったよ……冗談で言ったのに……)

(今回モ何ラカノ策ガ裏デ働イテイルカモシレヌ)

(ご主人ハ、誰かを悪者呼ばわりできる立場じゃないけどネ)

(傷口に塩を擦込まんでくださいよ、カイウさん……)


自覚が有る分余計に辛い。
確かに、全体的に正義の味方ではないけれど……。


まっ、いっか。


(さすガ、ご主人! 切り替えの早さは天下一品ダ。そこに痺れる憧れるぅゥ!)

(唯一誇レル所ダカラナ)

(ひ……酷い)

(ダガ、今回ノ戦争ハ我等ニトッテハ所詮ハオ遊ビダ。帝国ノ言イ分ニ賛同シテイル訳デモナシ、裏デ糸ヲ引イテイル奴ラモドウデモイイ。
オ前ナラ死ヌコトハ無イダロウカラ小遣イ稼ギ程度ニ考エテオレバヨイ)

(そうですねぇ……わざわざその人達の策に乗る必要も、邪魔する必要も有りませんしね)

(最終的に、大国二つ滅ぶのに放置すル。そんなご主人が大好きでス)


と、ふわふわとものすごい大事件に発展するであろう事を話していると、
外が突然騒がしくなった。
窓の外を遠視すると、精霊砲が放たれたようだ。
どうやら、自分の属している国は利用されている事も知らずに、
本気でオスティアを奪還する気らしい。
大切だ重要だなんだって言ってましたもんね。
私たちが出なくて良い戦局が続くように、いや……この作戦が上手くいくように八百万の神々に拝んでおこう。

悪魔と行動を共にし、生物を腐敗させてはゾンビ化させる。
いままで、一度も拝んだ事が無いくせに都合のいいときにだけ神頼み、
人間の弱さと悪意が服を着て歩いているような姿であった。


(って、うぇええぇええぇ!!? 今精霊砲、掻き消されましたよ!?)

(十中八九“黄昏の姫御子”デアロウナ)

(何そレ? いろんな意味で痛いナ)

(言わないで置いてあげるのが、優しさですよカイウさん)

(ご主人もだけド)

(それだけは言わないでぇ!!)


こんなヘンテコな格好している上に変な二つ名まである奴に、
そのお姫様も痛いなんて言われたくはないだろう。
自分で言っておいて、ものすごく凹む。


馬鹿野郎を地でいく魔法使いを無視して、会話は進む。


(“ウェスペルタティア王国”ノ王族ニハ、稀ニ“完全魔法無効化能力者”ガ生マレルト聞ク)

(それっテ、無茶苦茶珍しい能力だロ?)

(ソウダ。我ラ悪魔ノ天敵デモアル)

(俺等ハ、何にも恐くないけどナ)

(貴様等ニ、対抗デキルノハ、アイツ位ダロウヨ)

(ご主人ハ、マジでなにするかわからんからネ)

(不死ヲ殺ス薬、異界トノ同期。規格外ニモ程ガアルワ)


話が逸れに逸れて雑談になった所で、再び大きな音が響く。


(うぉう!? なんですか!? 今度はなにがあったんですか!!?)


公爵が遠視の魔法で外の状態を確認する。


(ドウヤラ、例ノ奴ラガ現レタミタイダナ)

(“地上の○園”の“赤い○翼”ですか!?)

(“悠久の風”の“紅き翼”だヨ、ご主人)

(ドンナ間違エ方ダ……)

(鬼神兵やられてますよ!?)

(ご主人、内心こんなに慌ててるのニ、外面には一切でないのナ)


ヤマは、内心では恐慌状態にあるが、外面にはその様子が一切現れていない。
与えられた、椅子の肘掛けに腕を置き、一切焦というものが見えない。
椅子に悠然と凭れ掛かり、静かに状況を静観しているように見える。

すると、その姿を見て、今まで紅き翼の強さを目の当たりにし、
恐慌状態であった艦内の者達は一瞬にして落ち着きを取り戻す。
今回の作戦の、最高指揮官も落ち着きを取り戻したのか、
徐々にいつも通りの指揮を飛ばす。
状況は持ち直しつつあるが、戦況の悪化は止まらない。
むしろ、紅き翼達の強大な力の前に、なす術も無く次々と撃墜されていく為
戦況の悪化は加速する一方である。



崩れるように椅子へと座り、
手を顔の前で組み、顔を俯けた指揮官がボソリと呟く。



「もはや、あのお方の力を貸していただく他あるまい……」

「っ……!!! しかし、司令官殿っ! あの者は、悪魔を平然と使役しているような人物です! 確実にこちらにも多くの面から多大な被害が出る事が予想されます、それに、奴が出れば王都も無事では済まないでしょう……」

「このままでは、作戦失敗だけでは済まない程、やつらによって寛大な被害が出る事は確実。風評等戦時中ならばどうにでもなる、いままでもそうであっただろう。ならば、そうなる前に力を借り、撤退に入り次の作戦に備えるのが得策だ。王都は沈めないようになんとか進言はしてみるつもりだ……」

「しかしっ……!!!」

「諦めろ……。あの方の力を借り無ければ、我々など奴らにとっては所詮この程度だ」

「……」




一人の指揮官は意を決して、この世界で最高の戦力であろう人物の元へと赴く。
その者は、搭乗時と変わらない姿でそこに居た。
相対するだけで、吐き気を催す。
これでも、彼はその威圧感を抑えているのであろう。
聞いた話より大分軽く感じる事が出来る。
このような大戦でありながら、戦用の装備など一切無く
いつものように、黒い上物のスーツを着込み、
顔を隠すように異様な文様の描かれたマスクをしている。
近くに立ち、どう切出そう物かと逡巡していると、
一切の感情を感じる事の出来ない、くぐもった声で先に話し掛けられる。


「何か?」


体の随から怖気が走り、震えが止まらなくなる。
喉が潰れてしまったかのように声が出ない、
脂汗が溢れる、吐き気が強くなる。
この一時で、この人物を引き込んだ幹部達の気持ちが理解できた気がした。
今は、この人物が頼もしくてたまらない。


「我々は、これより撤退作戦へと移ります。“ともだち”には奴らの足止めを御願いしたい。……殿など本来あなたには相応しく無いものだが、今は緊急事態である故にご了承願いたい」

「……」


“ともだち”は何も答えない。
やはり、このような無様な姿を晒しては協力等したくはないだろう。
しかし、いくら無様であろうと構わない、少しでも哀れみを感じて
力を貸してくれるのならばいくらでも、その無様な姿を晒そう。



沈黙が続く。



駄目か……と、諦めかけたそのとき


「わかりました」

「え」

「任務の概要の説明を御願い致します」

「はっ……ハッ!!」




この瞬間、我らの生は確約された。



[12379] 十一話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:27
 どうも、殿として放り出されたヤマです。
まさか、単独で殿任務に挑む事になるとは予想GUYDEATH。
皆さん、私の事ヴァルキ○リア人か何かと勘違いしていませんか?
あんなバランスブレイカー性能は、私には当然のごとく搭載されておりません。
やっぱり人間(?)弱みを(ry
あれもこれも全部『紅き翼』とか言う、厨二病全開の
分けわからん人達の所為です。
前回の『オスティア回復作戦』もあの人達に妨害されて失敗したというではありませんか。
あの人達が来なければ、私が出る必要性はなかったんです。

この理不尽な処遇については、後ろめたい事のある私がどうこう言えた立場じゃありませんが、八つ当たりくらい許されるでしょう。
王都を沈めなければおkって総司令官さんも言っていましたし
あの人達には少々私にお付き合いいただきましょう。
倒せれば臨時ボーナスもでるかもしれないですしね。
私、この戦いが終わったら、娯楽施設を造るんだ。
ニシさんにも、遊ぶ場所造ってくれって頼まれましたしね。
パチンコ店でも経営したらぼろ儲け確実でしょう。


「思考シテイル事ニ統一性ガ無クナッテ来テイルナ」

「極度の緊張でどうしようもなくなって来てんじゃネ?」


勝手に、人の頭の中読まんでくださいよお二人さん。
ていうか、帝国の艦隊がどんどん撤退を始めていますね。
切ない気持ちが止まりません。
好きなアニメの最終回EDを観ている時のごとく切ないです。

さて、そろそろ追撃がくる頃でしょうか?


「ご主人ご主人」

「なんですか、カイウさん?」

「あいつらなラ、いよいよツッコミがくるんじゃないカ?」

「ハッ!? いよいよですか、いよいよなんですね……」

「ココまでくる道のりハ、厳しかったなご主人」

「そうですね……いよいよ“ともだち”ともお別れですね。なんだかんだで愛着が湧いてきていたので寂しいです」

「計測がこんなニ、長引くとは思わなかったナ」

「マダ、計測シテイタノカ……」


紅き翼達のツッコミを期待して、
最後まで完全に“ともだち”を正に文字通り
命をかけて演ずることを決心する魔法使い。
そしてそれを、煽るゾンビの大本と呆れ返る公爵悪魔。
斜め上所の問題ではない位に、全方位ズレにズレて
元に戻る事が出来なくなった馬鹿野郎共。
彼らを修正できる者は、この世には存在しないだろう。


(おッ! 来たみたいだゾ)

(ホォ……彼奴等、ナカナカヤルヨウダナ)

(さーて、一丁“ともだち”を演じ切りつつ、任務遂行しましょうかね)


と、気の抜けた気合いを入れた所で、
目の前に、現れたのは『紅き翼』のメンバーであろう者達。
一人は、日本人であろう、眼鏡を掛け刀を持った男。
一人は、落ち着いた雰囲気のある、中性的な顔立ちをしたローブを羽織った男。
一人は、赤髪の、まだ幼さの残る少年であった。


体の内から念話で、公爵さんとカイウさんが話し掛けてくる。


(三人全テガ強力ダガ……アノ赤髪ノ小僧ニ最モ注意ヲシテオケ)

(ご主人“ともだち”を忘れちゃ駄目だゼ)

(オ前ハ……)


緊迫した空気を放つ相手側さんと相対しているなか、
内ではいつもの、緩い空気が流れる。
それに、参加しようとしたとき、中性的な顔立ちの男が話し掛けてくる。


「その文様……あなたが、噂の“ともだち”ですか」

「むっ、コイツが……」

「テメェが“ともだち”か……あんなエゲツねぇことをしやがって!!!」


どうやら、彼らの私の評価は最近の活躍の所為で、
マイナス方向に振り切れてしまっているらしい。
というか、噂になってたんですか……。
あれだけやれば当たり前ですって? 
ですよねー。
辛うじて事件の事は隠匿されてるみたいだから、元凶が私である事は、
バレてはいないらしい。
戦々恐々と言葉を返して時間を稼ごうとした所で、

(ご主人、忘れちゃ駄目だぜィ)

(そうでした、忘れていました)


「そうだよ、僕が“ともだち”だよ」


明らかに、お相手側の逆鱗に触れてしまったらしい。



Side紅き翼

俺たちが、現場に到着したときにはすでに王都は、帝国の侵攻を受けていた。
空を埋め尽くす、高位魔法使い達と巨大な鯨船の大群。
地上には強大な力を持つ鬼神兵の群れ。
美しかった王都には、所々から煙が上がっている。


「くっ、遅かったか」

「ちッ……気に入らねぇぜ!!」


自らの遅れを悔いながら、
王都に向かっている途中、鯨船群から何発もの精霊砲が放たれる。
直撃すれば被害は免れないであろう、強大な魔力の奔流。
しかし、精霊砲が王都に直撃する直前になんらかの力により掻き消され、
帝国軍に動揺が広がる。


掻き消された瞬間を間近で見ていた、一人の魔法使いが状況報告を行う


「せ……精霊砲全弾消失!」

(消失!? 王都の魔法障壁ではないのか!? まさか……!!)


報告を受けた一人が、何かに気づき息をのむ。


「広域魔力減衰現象を確認! 減衰速度加速中……間違いありません!!」

「黄昏の姫御子です!!」


ナギ達は先程の現象について、王都に急ぎ向かいながら考察する。


「黄昏の姫御子……何だってそんなもん!?」


その言葉に、アルビレオ・イマが答える。


「歴史と伝統だけが売りの小国には、他に手はないでしょう」


いくら歴史ある国だと言っても、極小さな為に帝国の侵攻に抗う力はほぼ無い。
唯一の、対抗手段は稀に王族に生まれる「完全魔法無効化能力」のみなのである。


「だが王族だろ!? まだ小さな女の子だって聞くぜ」


実際対抗手段がそれしかないという事であっても、
ナギは小さな女の子が戦争に駆り出されているという事実に
憤りを隠せずに、感情を爆発させる。

それを諌め、落ち着かせるよう、ナギ達の仲間である近衛詠春が声を掛ける。


「冷静になれ、ナギ。やかましいぞ」

「俺は常に冷静だっつーの!」

「戦争ですからね……向こうの真の目的もおそらく。それに少女の年齢も私同様見た目通りとは……」

「くそっ」


アルビレオの、フォローの言葉も意味を成さず、ナギの怒りは収まる事は無かった。




王都で最も高いであろう、塔に一体の鬼神兵が接近する。
その頂上には、この国の王族である『アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア』
『黄昏の姫御子』が魔法陣の上に鎖でつながれ、
その周りには、幾人かの魔法使い達が控えている。

帝国の鬼神兵が、今回の侵攻の目的でもある『黄昏の姫御子』へと、
手を伸ばしていく。
一人の魔法使いが慌てて他の魔法使い達に指示を飛ばす、


「防御結界……」


しかし、結界を展開させるのには時間が足りず
鬼神兵の掌が目前に差し迫って来ている。


「うわあっ!!!」


魔法使い達は、あまりの恐怖に王族を置き去りに逃走を始めるが、
その直後、何かが爆発するような音と共に鬼神兵が倒れた。


「そんなガキまで担ぎ出すこたねぇ」

「後は俺に任せときな」


そこに居たのは、赤髪の少年。
その場に残り、一連の流れを見た王都の魔法使いは驚きを隠しきれていない。

「お……お前は……」

「紅き翼……千の呪文の……」


その少年はその魔法使いの言葉を遮り、自らの名前を高らかに宣言する


「そう!! ナギ・スプリングフィールド!!」

「またの名をサウザンドマスター!!!」


その宣言を聞き、介入者に気づいたのか、鬼神兵達が大きな足音、
羽音を響かせ敵を殲滅せんと襲いかかる。
いつのまにか、後ろに控えていた詠春とアルも鬼神兵達と相対し、
戦闘態勢をとる。ナギもそれに倣い、あんちょこを取り出してそこに書かれている呪文の詠唱に入る。
彼らは、多くの鬼神兵達を前にしても臆する事無く、そこに毅然と立っていた。


「えーと……百十千重と重なりて走れよ稲妻」


呪文詠唱が進むにつれ、手元には雷が収束したかのような光りを
放ち始める。


「行くぜオラァッ!!」

「千の雷!!!!」


呪文詠唱を終え、魔法を発動させたと同時に
鬼神兵の群れへと、凄まじい数の雷が殺到する。
直撃を受けた、鬼神兵は当然ながらひとたまりも無く
すさまじい轟音、衝撃とともに跡形も無く吹き飛ばされた。
詠春とアルビレオも、京都神鳴流や重力魔法を駆使して敵を一撃で沈めていく。
その、圧倒的な力を目の当たりにし王都の魔法使いは声も出せないほど呆然としていた。


「安心しな、俺たちが全て終わらせてやる」


その、ナギの言葉を聞き、呆然としていた魔法使いは意識を取り戻す。


「なっ……しかし……」

「敵の数を見たのか!? お前達に何が……」


いくら、強大な力を持とうとも、たった三人で帝国の軍勢に挑む等
自殺行為に等しい物だ。
あまりにも、無謀すぎるその言葉に再び呆然となる。
しかし、サウザンドマスターと評されるその少年は、


「俺を誰だと思ってる、ジジィ」


それはそれは自信満々に言って退けた。


「俺は、最強の魔法使いだ」


魔法学校だきゃ中退だがな、と最後に付け加えながらも
自らは最強の魔法使いであると断言したのである。


「なっ……」


それを聞いた魔法使いは、あまりの大言壮語に言葉を失わさざるを得なかった。
一仕事終えた、アルビレオが帰還し静かにナギの近くへと降り立ち
チャチャを入れるように言葉を掛ける。


「あんちょこ見ながら呪文を唱えてるあなたが言っても今ひとつ説得力がありませんね」

「あーあー、るせーよ。だから中退っつてんだろ」

「それに……あなた個人の力が、いかに強大であろうと世界を変えることなど到底……」

「るせーっつってんだろアル。俺は俺のやりたいよーにやってるだけだバーカ」


アルビレオと、そんな会話を交わしていると
黄昏の姫御子と呼ばれる、王族であろう少女がこちらを
ジッと見ている事に気づいたナギは、その少女に目線を合わせるように
屈むと、口元の血を拭ってやり、少女を繋ぐ鎖を外す。
ナギは、相手の王族と言う身分を気にする事も無く、
本来なら不敬罪にあたるであろう、いつも通りの口調で話し掛ける。


「よう、嬢ちゃん名前は?」

「ナ……マエ……?」


少女はぼんやりとした眼差しのまま、ゆっくりと、名をナギに伝える。


「アスナ……」

「アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア」

「なげーな、オイ。けど……アスナか、いい名前だ」

「よし、アスナ待ってな」


そういうと、勢い良く立ち上がるナギ。
そのままの勢いで戦場へとなんの気負いも無いように
勇敢に歩みを進めて行く。


「いくぞ、アル! 詠春!」

その言葉に続くように、後の二人も、やれやれはいはいと呆れながらナギの後ろをついて行く。


「敵は雑魚ばかりだ、行動不能で十分だぜ!」

「雑魚といっても、数はシャレにならんぞ」


などと、いつもと変わらない会話を交わす彼らの後ろ姿は
ウェスペルタティア王国の姫君の目に映り続けていた。







「帝国の奴ら、撤退を始めたぞ」


ナギ達が参加したことによって、
あっという間に帝国軍はその数を減らしていた。
たった三人の魔法使い達によって、
優勢だった戦況が劣勢に覆されたのだ。


「よっしゃ! このまま追撃に行くぜ!!」

「待ってください、ナギ。何か様子がおかしい」


アルビレオが何かに気づき、追撃へと向かおうとするナギを止める。


「あぁ? 何だよアル、速く行かなきゃ逃げられっぞ」

「よく、周りを見てください。殿部隊がどこにも配備されていません」

「……確かに、これは妙だな。足止めも無しに全軍で撤退、何かの罠か?」

「そんなの関係ねぇっての、罠なんて物は掛かってからどうするか考えりゃ良いんだよ!!」

「あっ! こら、待たんかナギ!!」

「何か嫌な予感がしますね……いくらナギだと言っても不安です、私たちも行きましょう詠春」

「……あぁ、わかった」


先行して、撤退して行く帝国軍を追撃するナギ。
それを追うアルビレオと詠春。
しかし、一向に敵の殿部隊の攻撃や罠が発動される気配はない。
聞こえてくるのは、遠ざかって行く帝国軍艦隊の大きな駆動音、
鬼神兵達の足音と羽音、軍人達が風を切り空を飛んで行く音。


「気味が悪いな……」

「えぇ、本当に……。ナギは大丈夫でしょうか?」


思った以上に距離を離されていたのか、ナギの姿は未だ確認できていない。
だが、帝国軍にも攻撃受けたような感じは見られないので追いついているということもなさそうだ。
彼の速さであれば、もう十分に追いついてもおかしくはない時間が経過している為、さらに不安が膨張する。
そんなことを考えながらも、周囲に細心の注意を払い進んで行くと、
見慣れた赤髪をやっと捉えることができた。
安堵のあまり、詠春が彼に声をかけようとするが、
その言葉は発される事は無かった。
そこに居たのは彼だけではなかったのだ。
奥に、静かに浮遊している影が一つ。
その人物が居る場所だけ、ぽっかりと穴が空いているようだ。
いくら、ナギの事を心配していた為といっても、
彼らは世界でも最強クラスの魔法使い達である。
そんな彼らが、ここまで接近するまでその人物を認識できなかったと言う事実に驚愕の色を隠せない。
急ぎ、ナギの近くまで身を寄せ戦闘態勢に入り、相対する。
沈黙が続くなか、突然に、アルビレオが驚いたように声を漏らした。
それには、二人も驚き、思わずアルビレオの方向に視線を向けてしまいそうになるが、かろうじてその人物から目を逸らす事は無かった。
そんなこと気にもならないかのように、少しの怯えを感じさせるような声音のまま、
何かを確信したかのように言葉を紡ぎ続ける。


「その文様……あなたが、“ともだち”ですか」


それを聞き、ナギはおもわず警戒を解いてしまう程に
驚き、次に憤怒の感情が止めどなく溢れ出す。
“ともだち”は、北では実体のない都市伝説かなにかのように語られていた。
なぜならば、“ともだち”の明確な情報は、
北の連合に一切届いてないからである。
しかし、火の無い所に煙は立たない。“ともだち”の存在が連合領で囁かれ始めたのは、既に滅んだある町の奇跡的な生き残りが、死ぬ直前に残した言葉を聞いた一人の兵が最初であった。


「…………」

ガタガタと震え焦点の合っていない眼差しで、虚空を見つめ続ける生存者。

「無事か! どうした、一体何があった!?」

「……」

青年は何も答えない。
無為に時間が過ぎて行く。
すると生存者の青年は、力の籠らない腕で地面に指で何かを描き始める。
正に、死力を尽くし何かを伝えようとする彼を兵は止める事が出来なかった。
その様子を、固唾をのんで見守る。
どの位時間が経っただろうか、青年は描き終えた何かの文様を指差し
もはや何の力も感じられない、弱々しい言葉で呟いた、


「と……と、“ともだち”、に…………み……み、ん……な……こ、ろ……さ……れ…………………」

「“ともだち”?」


兵は何の事かわからず、詳しく聞こうとしたが青年はそのまま息絶えていた。
初めは、自らの友人が犯人である事を伝えたかったのかとも考えたが、
明らかに彼は地面に描かれた文様を指差し“ともだち”と伝えたのだ。
その話が、“ともだち”と言う人物の存在を噂としてのみ北に広めたのである。


「むっ、コイツが……」


詠春も冷静に言葉を返したようだが、その内心は未だ信じられないという
感情で一杯であった。
なにせ、それはただの“噂話”の域を出ない存在であったからだ。

だが、ナギは違った。

持ち前の勘の鋭さで、目前の人物が“ともだち”という、邪悪な存在であることを見抜いた。
いくつもの町や村を悉く滅ぼし、そこにいた住人達に生存者はいない。
ナギには、この世の邪悪な害意が凝り固まったような化け物に見えていた。


「テメェが“ともだち”か……あんなエゲツねぇことをしやがって!!!」


目一杯の殺気と怒気を込めて声を張り上げるも、
“ともだち”に一切の変化は見られず、怯んだ様子も無い。
それどころか、悪気も何も感じていないように平然と言葉を返して来た。


「そうだよ、僕が“ともだち”だよ」


そのあまりの自然体に、三人は底の見えない穴を覗き込んだような感覚に陥り、その身を震わせた。



あとがき
最近、大正野球娘への愛が止まらない。



[12379] 十二話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:28
 どうも、先程頭の中で遺言を書き終えたヤマです。
清書は出来ませんけどね。
冷静になって考えてみたらヤバいです。
公爵さんの死なない発言を鵜呑みにして、
“ともだち”を演じたのが運のつき。
異常な強さを誇るであろう事が、確定している三人組と
現在、睨み合いが続いております。
睨み合いといっても、私はマスクをしてるので顔が見えていないのを
良い事に止まらない目からの滂沱のように、心の汗を流し続けております。

不味いですよ……これは、非常に不味いですよ。
あの艦隊群を、生身の体一つで沈めるような方々相手に私が勝てる訳が無い。
なんてたって、自他共に認める運痴の私があんなめちゃくちゃな
動きをする人に敵う筈がありません。
何なの? 馬鹿なの? 死ぬの? 死にますとも!!
助けてください、神様、仏様、妖神ゴブーリ○様。
ラムネ○位なら倒してみせますから。
初代は無理ですけど。
って、そんな事言ってる場合じゃなかった、
この状況をなんとか打破しなければ。
幸いにも、現在の私は完全装備の上に、
ゾンビさん方も全員連れて来ている。
私には勝てなくとも、彼らならやってくれる筈さ!!
ということで、先手をとって三人組からこの前作った転移魔法
を使い距離を取り、ツッコミが未だこないので駄目押しで一言、


「ナ〜ギ〜君、あ〜そび〜ましょ〜」


そして、自分を、解き放つ!!

あそ〜れ、ぐるぐるにゃー





………………………これは、ヤバくないかい?
空と大地が真っ黒です。
もう、王都周辺が一切何も見えなくなりました。
何処まで続いているのかもわかりません。
初めて本気出してみたら取り返しのつかない事になったでござる。の巻き。
いやいやいやいや、これは流石に無いでしょう。
悪魔らしい悪魔さん、妖怪らしい妖怪さん、そして我らがゾンビさんは、
ものの○姫に出てくる祟り神様、禍々しい鎧を着込んでいる多手多足の鎧武者、
大百足、目隠し仮面をつけてメイド服を着た筋肉質の大男etcetc……
バラエティーにとんだ皆様方にお越し頂きました。
皆さんゾンビらしいですけど、今までに見た事も無いし
ゾンビをかたるには少々心許ない方々ばかりです。
統一感0、そしてなにより生気に満ちあふれている。

と、どうしようも無い状況に現実から逃避していると、
一緒に出て来ていたカイウと公爵が横につく。


「今日モ絶好調ダナ」

「いやァー、こりゃあ壮観だねェご主人!!」

「カイウさん、とりあえず体から出て来てる悪魔さん止めて止めて」


なんてことを、暢気に嬉しそうに言っているカイウさんの体からは、
止めどなく悪魔達が流れ出て来ている。
さすがにこれ以上は不味いと思い、体に栓をし流れを止める。
どうやら、相手方さんもビビっているようだ。
そりゃそうですよね、やった自分でもビビってるんですもん。
体から出て来た皆さんは未だ沈黙を保ったまま、御三方を取り囲んでいる。
あれは、相当なプレッシャーだろうな。
私だったら、一瞬で臓器全体に満遍なく穴が空く事請け合い。
なんて考えていると突然横に居る公爵さんの、猛禽類のような鋭い目が凶悪に歪み弧を描いて、
奇麗な口元が動き、牙を剥き出して指示を出す。


「奴等ヲ殺セ。タダシ王都ハ沈メルナ」


「それじゃアご主人、ちょっくら行ってくるネ」


まさに、地獄から響くような声で、
簡潔に言葉を発した瞬間公爵さんが弾けるように飛び出す。
それを、合図にゾンビ、悪魔、妖魔の混成部隊も彼らの息の根を止めんと
殺意や歓喜といった感情を伴って殺到する。

うぼぁ、恐ぁ。公爵さんめちゃくちゃ恐ぁ。
カイウさんも行っちゃたし大丈夫かな?
ちなみにカイウさんは、人間形態で行きました。
なんか、本気出すと此処等一帯のものが全部腐り落ちるらしい。
人外含めて。
恐すぎるだろう、それは……。

もはや、御三方のいた場所には黒い団子ができている。
中身までぎっしりだ。
さすがの彼らでもこれは堪らないだろう。
などと考えながらその様子を遠くから眺めていると、
突然黒い球状から強い光が漏れる、
それと同時にいままで彼らを囲んでいた人外達が
ぼろぼろと墜落しながら消滅する。
うへぇ……あれでも平気なのか、もはや人類じゃないね彼ら。
こんな所に出て来てないで、背中に鬼の顔が浮かび出る人とでも戦ってろ。
と、声を大にして主張したい。

異形達の包囲網を抜けたは良いが、さすがの彼らも傷だらけだ。
それに対して、異形達の数は減りを見せていないように、夥しい数を残している。
異形は初めのようにただ殺そうと飛び出さず、距離を取り警戒しながらも再び包囲して行く。




ナギ、詠春、アルビレオはとてつもなく焦っていた。
“ともだち”が居た空間だけが、くるりと紙のように回転したかと思うと、
奴は転移を果たした。
さらに、これほどの数の異形を一瞬で召還し、
その召還された異形達の強さも一級品。
魔法障壁を容易く貫く程の貫通力まで備わっているときた。
本来ならば、術者の魔力を借りこの世に顕現する彼らをこの域まで到達させる事は不可能である為、このような事態に陥る事はありえない。
しかし、“ともだち”はそれを実現させたのだ。
我々は、奴を警戒していながらも、心の底では自らの力を過信し侮り、力量を見誤った。
あの数に一斉に囲まれ、延々と攻撃を全方位から受け続け呪文を詠唱する時間すら与えられず、無詠唱呪文では焼け石に水状態であったが
なんとか連携を取り、上位魔法の詠唱に成功し
殺到してきた異形達を退けることに成功した彼らは、打開策を探る。


「ぐっ……まさか、これほどまでとは……油断していたとは言え、不味いな」


傷を負った詠春が焦りを感じさせる声音で言葉を零した。


「まったくです、まだまだ我らも修行不足のようですね」


落ち着いたような口調ながらも、額から血液を滴らせ、微かに息切れを起こし肩で息をしている。
その姿に、いままであった余裕は一切見えない。
いつもならば、悪魔など彼らにとって、取るに足らない相手であっただろうが
さすがに、この強さと数で押されてしまえば抑え込まれざるをえない。
しかも、未だ敵の軍勢はその数を減らさず、光を遮りながら世界を覆っている。
すると、いままで沈黙を保っていたナギがその口を動かした。


「流石の俺等でも、この数と強さの異形共を全部相手にすんのは無理だ」


彼らの知っている、いつものナギからは考えられない程弱気な言葉が放たれる。
その事実に、驚きと絶望が溢れ出る。
彼らの知る中で、最強の魔法使いすらこの状況を打破するのは無理だと
断言されたのだ、致し方ない。
しかし、ナギの言葉は続く、


「だが、この状況打開する策はある。そんなこと、お前等も気づいてんだろ?」

「……」


ナギの策は、二人が初めに思いつき断念した策であった。


「大本のあの覆面野郎をぶっ倒せばいいんだよ!!!」


予測はできていた、しかしそれを実行するには不安要素が多すぎる。
まず、この数の異形の壁を突破しなければならない
そして、“ともだち”の元へと辿り着いても奴を倒せるという確信は無い。
これほどの状況を一瞬で作り出し、すべてが未知数の相手に戦いを挑み勝てる確率は、彼らをもってしても高い物ではないだろう。


「しかし……それはあまりにも危険すぎます。これほどの相手に何の情報も無しに戦いを挑めばいくらあなたでも死にかねません」

「そうだナギ、それはあまりにも愚策が過ぎる」

「でもよ、この状況じゃ長い時間保たねぇだろ? 異形共を全滅させるのも無理、時間もねぇ、それだったらやるこたぁ危険だろうがなんだろうが決まってんじゃねぇか」


ナギのいうとおり、あと数回あの数で襲撃を受ければ保たない。
仲間達の救援を待つ時間もないだろう。
いくら危険とはいえこのまま何もせずにいれば、死ぬのは確実だろう。
アルビレオと詠春は少し考えた後に決断を下した。


「ナギの言う通りですね。ここで何もせずに殺されるのは御免です」

「だな、ここで殺されれば死体すら残らん。仲良く奴等の腹の中だ」

「それか、あの魔獣のようにされてしまうかもしれませんよ?」

「それは、死んでも嫌だな」


冗談めかしたように、アルビレオと詠春が言う。


「よっしゃっ!! それじゃあ決定だ、あの化け物をぶっ倒しに行こうぜ!!! 姫さんにも約束しちまったしな」


自らの体を魔力で強化し準備を整えて行く。
アルビレオは本当に微かな“ともだち”気を探り位置を計り、絞って行く。
異形達はそれに臆したように周囲を回っている。
しばらくし、三人の準備が全て整う。


「わかりました、おそらく“ともだち”の位置は此処より北北東に三十八・九五キロの所にいます」

「よしっ! それじゃ一丁行くか!!」

「ふっ……異形共は俺達にまかせろ」

「おうっ、俺の命はお前等に掛かってんだからな。本当に頼むぜ?」


軽口を叩きながらも精神を極限まで集中させて行く。
集中が最高潮に高まった瞬間、合図も無く示し合わせたかのように
一直線に飛び出す。
ナギは凄まじい速さで飛びながら、右腕に魔力を補填していく。
そのナギを守るように、次々と襲いかかってくる異形達をアルビレオと詠春は打ち倒して行く。

どのくらい時間が経っただろうか。
永遠のように感じる凶暴な闇を突き進んで行くと、
遠くに白い覆面が見えた。
その横には、いままで落として来た悪魔とは一線を画す雰囲気を醸し出す
高位悪魔と、一際巨大な魔獣が控えている。
その二体がこちらに気づくと、全速力でこちらに向かって来た。
詠春が叫ぶ。


「ナギ!! あいつらは俺たちに任せろ!! お前は“ともだち”を討てっ!!!」


詠春とアルビレオは強大な力を持つ化け物を辛うじて止める。
魔力で限界まで強化した体でも、完全に圧倒され徐々に後ろに押し戻される。
吹き飛ばされそうになるのを辛うじて耐えている状態である。
二人の護衛を失ったナギには次々と、“ともだち”の周りに控えていた上位個体であろう異形が純粋な殺意だけを携え襲ってくる。
だが、ナギはそのままの勢いで傷つきながらもどんどんと接近して行き、
射程内に“ともだち”が入った瞬間に魔力を限界まで充填した腕で殴りつける。


「オォォオォオオォォォォオオォオオオオッ!!!!」


光を遮られて、暗闇が支配していた空間に青白い光が満ちる。
“ともだち”を中心に光が広がり異形の軍勢の一部を巻き込んで行く。
魔力の光はどんどん広り、光の飲まれた邪悪な存在は、その悉くを浄化される。


だんだんと光が収まり、全方位黒に染め上げられていた空間にぽっかりと
穴が空き王都の姿を自らの目でやっと捉える事が出来た。
ナギは魔力切れを起こしたのか、力なく異形の群れの中へと落ちて行く。
それを、素早く詠春が抱きかかえ穴が閉じる前に外へと脱出に成功する。


「……何とかなる物だな」

「えぇ、まったく。ナギには感謝しなければなりませんね」

「へっ……あんな奴……たい…した、こ、と無かった……ぜ……」


ナギは不適な笑みを浮かべ、ざまぁみろと異形の群れへと向かって言ってのけた。
それに苦笑しながらも安心したような雰囲気を出す二人。
だが、その直後空気が一変する。
ここら一帯の空気全てが腐り落ちたかのような息苦しさ、寒気が走り多くの蟲が体中を這い回るかのような感じた事が無い嫌悪感、自らの物とは違う邪悪で異質な魔力の奔流が起こる。
それが起こった中心に目を向けると、
そこは先程倒した筈の“ともだち”が立っていた。
違うのは体の一部が抉れていたり片腕、片足が落ちているということだった。
しかし、“ともだち”は痛覚が無いかのように、変わらずそこへ直立の姿勢のまま浮遊している。
直後、異質な魔力が胎動したかのように蠢くと、傷口から夥しい数のおどろおどろしい色をした腕が現れ、次々と他の腕と組合つかみ合う。
すると、抉れていた部分は元へと戻り、落ちていた筈の腕と足が形を成し新たに生まれ出る。
数秒も経たぬうちに、“ともだち”は何事も無かったかのように、傷が消え失せた姿でそこに存在していた。
すると、その横に先程倒した筈の上位悪魔と魔獣が静かに現れ、
“ともだち”の体からは倒された分を補充するかのように異形達を再び生み出し始めた。


「「「…………………」」」


さすがにこの絶望的な状況下を覆すことは出来ない。
相手は、事実上無傷なのだ。
もはや、打つ手も無くなり死を待つ事しか出来なくなった三人は
言葉を無くしたまま、立ちすくんでいた。
横についている悪魔が静かに腕上げ、振り下ろそうとした瞬間、
動きが止まる。
訝しげにその様子を眺めていると、初めて出合ったときと変わらぬ
くぐもった薄気味悪い声で、“ともだち”が告げる。


「どうやら撤退が完了したそうです。それでは皆さん、バッハハ〜イ」


と、巫山戯たことを言ったかと思うと、
瞬く間に異形の軍勢と共に跡形も無く姿を消した。
もはや、空には先程と違い一点の曇りも無い晴天が広がっていた。
太陽は明るく大地を照らし、静かに雲が流れ、
先程までのことは、全て夢幻であったかのように感じるほど穏やかな時が流れている。
しかし、現実であったことを示すかのように目下には、まだ所々煙が上がり
外縁部が腐り落ちた王都がそこにあった。




無事帰還を果たしました。
あれは、死んでましたね。確実に三回は死んでました。
まさか、あの包囲網を抜けられるとは思いもよりませんでしたよ。
腕や足なんか落ちてましたもんね、私。
今、普通にありますけど。
でも、私は生きています、とっても元気です。
妖神○ブーリキ様のおかげですね、Gなだけに。
まさか、まさかのとんでも能力が瀕死の状態のヒーロが
新たな能力に目覚めるがごとく。
ヒーローみたいな、爽やかさなんて皆無ですけどね。
傷口からヤバい色の腕が、どばぁーっと出て来たと思ったら
傷が癒えていた時は驚いたなぁ……。
私も、いよいよ魔法使いの仲間入りですね。
しかし、なにはともあれ


「いや〜、生きてるって素晴らしい!」

「赤髪ノ小僧ノ力ヲ侮ッテオッタワ。アンナニボロボロニサレルトハ思ワナンダ……。マァ、彼奴等ヨリ、カイウヲ抑エツケルノガ一番苦労シタノダガナ……」

「馬鹿ご主人……。いますぐに、いろいロ流れ出たのを返してくレ」

「うぇあ……本当にすみませんでした、まさかあんな事になるとは思いませんでしたし……ていうか、いろいろて。しかし、死にかけて手に入れる新能力なら、もっと爽やかでかっこいい物がよかったですねぇ」

「ダカラ何度モ死ナント言ッタダロウガ」

「えっ、あれってそういうことだったんですか? 誰か、守ってくれるからって意味じゃなかったんですね……。ていうか、私の体の事私より知ってますね公爵さん」

「態々卑猥ナ言イ回シヲスルナ!!」

「ご主人の大馬鹿野郎」

「あれ? 公爵さんはいつものことながら、カイウさんにも怒られた……」


なんとなく、釈然としなかった。




あとがき
おじゃんでございます。



[12379] 十三話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:30
 どうも、先日九死に一生を得たヤマです。
いやはや、我ながら良くやった方だと自分で自分を褒めたいです。
軍部の御偉いさん達からも、大変感謝していただきました。
本来なら、こういう場合の対応は昇進がデフォらしいですが、
私は外部協力者ですしそれに、
色々難しい大人の事情の為公には出来ないという事でした。
別に私は一向に構わないのですが、軍部中枢の方々まで出て来ていただいて大童でした。
昇進の代わりといってはなんなのですが、帝国の魔法技術を提供していただきました。
本来は国の技術が個人の手に渡る等、あり得ない事なのですが
今回の功績に報いる為には報奨金程度では足りないと、軍部の御偉いさん総出でなんとかしてくれたようです。

そんなに大変な事だったんだ。
いろいろ、大変だったんだろうな……。
黒い匂いがぷんぷんしますが、久しぶりにここはスルーで。
スルーライフ実践者の真骨頂此処にあり!! みたいな感じでやっております。
それに、私の転移魔法が今開発してる大規模転移魔法の完成に
大分貢献したらしいので、それも技術提供していただいた要因にも
なったらしいです。
まさか、ペーパーマリ○を唐突に思い出して、巫山戯て作った転移魔法が
役に立つとは思いませんでした。
世の中何が役に立つか、全くわかりませんね。
しかし、皆さんも喜んでいらっしゃったので良しとしましょう。

帝国側から頂いた技術には、軍部の高機動鯨船や鬼神兵の製造方法等がありました。
素晴らしいですね。
さすがは国が確立させた技術、私が作った物と比べれば月とスッポンです。
あたりまえなんですが。
でも、鬼神兵の製造方法は大変嬉しいですね、この前○リオと一緒にメカゴジ○と、ナウシ○を思い出して画期的な閃きがあったんですよ。
閃いたのは良いのですが、なかなか上手く行かず行き詰まった所での
帝国からの特例技術提供。
これは、日頃の行いが良い私に仏が味方したと言っても過言ではないでしょう。
あんな、死にかけた思いをしたかいがありましたよ。
ほとんど、私は何にもしてないんですけどね。
後ろで突っ立って、結局粉々にされただけでした。

……嫌な事は忘れて、前を向いて歩こう。
下を向くと、目から出てくる水が止まらなくなるから。

さぁてと、それじゃあ軍部の方々から与えていただいた
研究室にでも籠りましょうかね。
でも、私みたいな人間がこんなに優遇される日が訪れるとは……。
人間なにがあるかわかりませんね、死んで転生した時点でおかしいのですが。
細かい事は気にしないで、アレを完成させましょうかね。

所変わって、軍部の研究所内。
帝国最新鋭の技術が注ぎ込まれた機器が一杯です。
使い方がわからないし、壊すと弁償が恐いからあまり使用してませんけどね。
さて、私の研究を完成させるにはまず、基盤を作らなければいけません。
まずは頂いた技術にあった鬼神兵精製術式に、
いろいろ手を加えて屈強な鬼神兵を作る。
元々硬く大きい鬼神兵を、更に硬く!! 更に大きく!!
……なんか卑猥ですけどスルーで。
さて、出来た鬼神兵はこちらです。
この重量感、そしてこの流麗且つ熱いフォルム。
超合金にも負けぬ、素晴らしい鈍い光沢を放つボディ。
男子であれば誰でも心奪われる事請け合いである。


「ふはははーすごいぞーかっこいいぞー!!」


あまりの出来の良さに、思わず一人で叫んでしまった。
大声を出したので、広い研究室に声が木霊する。
木霊した声が徐々に小さくなり、やがて消える。
……空しい。誰か一緒に来てくれれば良かったのに。
皆さん観光旅行に出てしまっていて置いてきぼり食らいました。
戦時中なのに、平気のへの字でしたもんね皆さん。
今頃どこら辺に居るんでしょうか?
切なくて胸に穴が空きそうです。
この、切なさを拭い去るには何かの作業に没頭するのが一番です。
皆さんが、お土産持って帰ってくるまでに絶対完成させて驚かせてやろう。
それにしても最近独り言増えたな。
年かなぁ……。

なんてことを、その独り言に気づかないで
ぶつぶつと呟く魔法使いが、だだっ広い部屋に一人。
哀愁を振りまきながら作業に没頭していた。

とりあえず、何パターンか鬼神兵を作ってみました。
既存の鬼神兵術式に、『火星の5の魔法陣』や『安倍晴明紋』を足したり、
終いには『長い声の猫』の魔法陣まで足して、
いろんな鬼神兵を誕生させる。
なんか、○ルトラマンみたいなのや体から黄金の蝶が出て来てるもの、
長い声の猫そのまんまの奴まで居ます。
これは、存外に楽しいですね。
まだまだいろいろとやってみたいですが、今は置いておきましょう。
精製した鬼神兵の中から、最も硬く重い鬼神兵をチョイスする。
これを、基盤にしていよいよ最終段階です。
基盤は案外、頂いた技術で簡単に何とかなりましたが、
ここからはそうはいかんざき。
今回最も重要なのは、肉付けですからね。
さぁて、楽しくなって来ましたよ。
この体に宿る、モノヅクリの血が滾る!!
爺様、婆様。
私はやり切ってみせます!

基盤に生命操作術式・魔力回路結合術式等を丁寧に込めた、
異界で大量に取って来てもらったなんだかよくわからないけど、
凄い生物の生肉を取り付けて行く。
それにしても、これはなんの生物の物なのだろうか?
目玉が数え切れない位に付いていて、細切れにされているにも関わらず
目がギョロギョロしてるし、一つ一つ隔離して置いておかないと
少し目を離した隙に、くっ付いて再生しようとします。
どんな生物か気にはなるのですが、取り返しのつかない事になるのは
確実なので、愚かな好奇心は封印します。
平常心平常心っと。

地味で膨大な作業を黙々と一人で続ける。
作業着や手、顔には肉の破片や黒い血がこびり付き
謎の生物の肉片に術式を組み込んでは、機能性のみが追求された
であろう本来の神々しさの一切を取り除いた、禍々しい形をした巨大な鬼神兵へと取り付けて行く。
ぐちゃぐちゃと不快な音が薄暗い広い部屋に響き、
何かが腐敗したような匂いと、
血液のが混ざったような匂いが立ち籠める部屋に
すると突然、膨大な数の異形達がその部屋に現れた。
その中で、異彩を放つ人の形を取っている二体が真っ先に声を上げる。


「おーイ、ご主人! ただいマー」

「今帰ッタゾ」

「「「「「ただいまー」」」」」

「おかえりなさい。随分速かったんですね?」

「今は戦争中だからネ、回る所が結構少なくなってたんだヨ」


皆さんから一人一人から、各地のお土産を頂きながら話を聞く。


「ダカラ初メカラ言ッテイタダロウガ」

「しょうがないでしョ、皆こっち初めての人(?)が多かったんだかラ」

「ソレハソウダガ、モット効率的ニダナ……」


どうやら、公爵さんにはいろいろと不満が多い旅行になったようだ。
キッチリしてますもんね、公爵さんは。


「まぁまぁ、公爵さん。皆さん楽しかったみたいだし良いじゃないですか」


とりあえず、宥めるように言葉をかける。
すると公爵さんは、短く唸り悔しそうに黙り込んでしまった。
皆さんは満足げに、各地で手に入れた物を抱えている。
戦時中にも関わらず、どうやら相当楽しんで来たようだ。
どこに行って来たんだろうか?
少し、羨ましい。
私も、戦争が終わったら旅行に行こう!
と、心の中で固い決意を結んでいると、カイウさんが不思議そうに
開発途中の作品を指差して問う。


「ご主人、アレは何を作ってるんダ?」

「あぁ、アレですか? アレはですね、“巨神兵”って言うんですよ」

「巨神兵?」


公爵さんも不思議そうに声を出す。
他の皆さんも興味津々のようだ。


「先日、いろいろ前の事を思い出しましてね。そのときに閃いたのがこの巨神兵なんです」

「前の事についテ詳しク、簡潔ニ」

「神アニメ・神特撮・薙ぎ払えー」

「イツモノコトナガラ、サッパリダナ」


さらりと貶された感じがしていなくもないことを感じながらも、
まぁそれも致し方無しと、どこかで納得している自分がいる為に
何も言い返せないこの歯痒さ。
それを、飲み込み説明に戻る。


「この“巨神兵”は5割が趣味、3割が悪ふざけ、2割が思いつきで出来ています」

「「「「「なんだいつもの病気か」」」」」


皆さんが私の事をどう見ているのかが、垣間見えた瞬間だった。
前を向いていた筈が、いつのまにか体全体が俯き加減になり
止まった筈の水が溢れて来て止まらない。
そうか、病気か、病気だったのか…………。
心の準備も侭ならぬまま、自らの本質と向き合ってしまい
盛大に傷つくピュアハート。
または、蚤の心臓とも言う。
踞って意地けているいい年をした男を慰めるように、公爵悪魔と始祖ゾンビが肩を叩いたり、背中をなでたりしながら声をかけて行く。


「そウ落ち込まんト、ご主人。そこがご主人の良い所だヨ」

「ソ……ソウダゾ! ソレハオ前ノ個性ダ!」

「そういウ駄目な所も大好きだゾ☆」

「ソウダトモ!!」

「…………もぅ、いいです」


結局駄目人間であるという事に変更はないらしい。
よし、忘れよう。
諦めて覚束ない足取りのまま、作業へと戻る。
結構時間を掛けてはいたが、人一人では半分も作業は終わらせられていなかった。
旅行から帰って来て、疲れているだろうと気を遣ったが
皆さん、元気が有り余っているようでそのあとの作業を
ものすごい速さで手伝ってくれました。
さすが、爵位級悪魔に高位妖魔、術式を組み込む作業はお手の物ですね。
ゾンビさん達は、振り分けで力仕事の方を担っていただきました。
いや、本当に皆さん頼もしいですね。
私、いなくてもいいだろ的な感じだけど、そこは敢えて見ない振りをする。
数時間経たない間に、すべての肉片に術式を組み込み、
その取り付け終わりました。
初めから、手伝ってもらえば良かったよ。
さて、いよいよ最後の大仕事。
悪魔さん・妖魔さん・ゾンビさん共同謹製の、
真っ黒な球状の物体、通称『○化の秘宝』を
“巨神兵”の核として中に埋め込む。
すると、沈黙を保っていた“巨神兵”の肉体は、凄まじい生命力を宿し、
産声であろう咆哮を上げた。


『グォオオォオオォオオォオオォオオオォオオォオォオォオォオォオオオッッッッッッッッッ!!!!!!』


世界全体に轟くのではなかろうかと思う程の、恐ろしい咆哮を上げた
生まれたての我が子である“巨神兵”を見て一言。


「テヘッ、やりすぎちゃった☆」


皆さんからは、


「これはないだろ……」

「さすがご主人……自重という言葉を腹の中に忘れて来たな」

「下手すると世界が滅びるぞ、冗談抜きで」


等と、心の声の吐露が止まらないご様子でした。


ちなみに後日、話し合いの末に名前は『花子』に決定した。




Side ヘラス帝国軍部

広大で豪奢な飾り付けがなされ、
中心には高級感漂う魔法石で作られた机が、
そして、部屋の壁の至る所に帝国の象徴である文様の描かれた
国旗が取り付けられている。

その部屋に、将官級の人物達が険しい表情で椅子に座り、
先日の『オスティア回復作戦』の報告を受けている。
報告の内容は芳しくはない。
いくら作戦の報告を受けようと、その結果は前回と同じ失敗である。
それも、主因がまたも『紅き翼』の連中であると聞けば、
あまりにもおもしろくない話になるため、自然と全員が苦虫を噛み潰したように顔を歪めるのは仕方の無い事であろう。

しかし、今回の作戦の内容は前回と異なる項目があった。
それは、自軍の被害総数である。
今回の作戦も、前回と同じく『紅き翼』の襲撃で多大な被害を受けたと
予測していたにも拘らず、被害数が前回に比べると極端に少ない。
指揮官が優秀で引き際を間違えずに、撤退を指示していたとしても
追撃を受けて被害は出るものである。
この数字は異常な程低かった。
何かの間違いではないかと聞き直してはみるものの、作戦に参加していた者達
全ては、首を横へと振った。
更に詳しく、作戦時の様子を聞き進めて行けば信じられないような事を話し始める。

なんと、殿はたった一人の外部協力者であると言うではないか。
その者は一人で、あの『紅き翼』のメンバー三人。
しかも、あの最強とうたわれる『サウザンドマスター』を含んだ三人を、
一人で退けたということらしい。
その者は自らの事を“ともだち”と名乗っている魔法使いらしい。

その者の事は私も知っている。
“ともだち”は、強大な力を持つも、平然と悪魔の軍勢を使役し、
正体不明の魔獣達を手足のよう自在に扱う。
そして自らも異常な魔法を使う魔法使いである。
“ともだち”が考案した、今までに無い画期的な転移魔法により
現在、帝国が総力を挙げ開発している『大規模転移魔法』の開発にも貢献していると聞き及んでいる。
しかし、この『魔法世界』ではあまりに邪悪な存在であることは確かである為。
この者の存在は、帝国軍部内で完結させている。

この者の存在が公に知られれば、いくら戦争に勝ったとしても
不利な状況へと追い込まれてしまう。
軍部内で完結させる為の、外部協力者としての地位なのである。
階級も与えられず、公に表彰される事も無いというのに、“ともだち”は、
何一つ文句を言わず、我々の命に従っては黙々と任務へと赴いている。
任務の成功率は120%。
まさに、化け物の名を冠するに相応しい存在である。
そのような存在が我らの軍部内にいるというだけで恐怖で鳥肌が立つ。
彼に対する牽制や対応等限られている上に、ほとんど意味を成さない。
いつ帝国に牙を剥いてもおかしくはない状況である。
まさに、諸刃の剣を携えている状態なのだ。

暗殺も考えはしたが、すぐに却下する。
あの、最強の魔法使いと紅き翼のメンバー二人を相手取っても、
平然と帰還してくるような奴だ。
“ともだち”を倒せる者等この帝国内、いや、この全世界中を探しまわった所で存在はしないだろう。
それに、下手に刺激すればこの帝国でも、
砂で出来た城のように、あっという間に崩されてしまうだろう。
軍部には、“ともだち”に心酔している者も多い。
もはや、この問題は手の付けられない所まで進行しているのかもしれない。
まだ、戦争で負けた方が未来があるのではないかと思えてしまう程に、
危険な蟲を内に入れてしまったことを後悔する。
あの『紅き翼』が可愛く見える日が来ようとは、いままで思いもしなかった。
そんなことを考えつつ、頭を抱えながら彼は、深い深い全てに絶望したかのような、溜め息をついた。
その瞬間、今まで聞いた事も無いおぞましい魔獣のような
咆哮が轟いたかと思うと、私の体は硬直してしまい、そのまま気を失った。
後に報告を受ければ、軍部の研究員のミスであった事が判明したという。
その、者達は降格処分を受けていたのでそれ以上の処罰は与えなかった。
新開発した魔法の暴走であったと聞いたが、あの気を失う前に聞いた
咆哮は一体なんであったのだろうか?




あとがき
巨神兵の姿は、腐った状態がデフォです。



[12379] 十四話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:31
 どうも、再び大規模作戦に参加させられたヤマです。
なんと今回は、連合の喉元である全長約三百キロの
巨大要塞『グレート=ブリッジ』に攻め込むというではありませんか。
しかし、帝国からは距離もあり要塞を陥落させるには、
それ相応の戦力も必要である。
これは、無理じゃね? 常識的に考えて。
という、状態であるが、そこは流石魔法世界。

今回紹介するのは、なんとこちら。
先日、実践段階まで一気に仕上げた『大規模転移魔法』です!!
『オスティア回復作戦』を二度も失敗したこともあり、
さすがに後がなくなった帝国は、まだ完成に至っていない
不完全状態の転移魔法を実践投入することを決定したのだ。
なんと言っても、前例の無い規模を一度に転移させ
突然襲撃を掛ける作戦である為、
成功すれば連合相手に一気に王手をかける事になるが、
失敗すれば魔法により、多大な被害を受けることとなり、
逆に連合に食われる事となりかねない。

まさに一か八かの作戦。
そんな大事な場面で私を参加させないでほしい。
やはり、今までの行動で挙げて来た功績が響いているのか
何か大きな作戦を行う時は必ず呼ばれるようになってきました。
シャレになりませんよ本当、何回死にかけたかわかりません。
今回も下手したら一人で要塞に送り込まれそうになったのですが、
当然のごとく反対意見多数で却下されました。
やっぱり、国の面子やら建前やらで大変ですもんねわかります。
その場はそれで良いかもしれませんが後々面倒な事になるのは確実。
それならば、最初からしなければ良いのです。
あたりまえだろこの大馬鹿野郎共!?
まず、私一人をそんなところに送り込む案が出てくる時点でおかしい。
皆さんやっぱり私の事、アームスレイ○か何かと勘違いしてますね。
そうなんですね。

なんてことを、再び胸の内でグチグチと只管にぼやいている現在
私は、再び帝国艦隊の中でも一際大きい鯨船に乗っています。
今回は、椅子だけではなく個室を頂けました。
さすが帝国、太っ腹ですね。
まぁ、転移が失敗すればどこぞとも知れない場所に飛ばされるか、
死ぬかのどちらかですけど。
メリットに対してデメリットが釣り合わない程にデカイ。
いますぐお家に帰りたい所存であります隊長!!!
……そういえば、隊長さんの顔もよくわからないな私。

現在の私は完全装備で作戦に挑む事を常としている。
紅き翼に殺されかけた日以来、備えを怠らぬようにしているのだ。
いくら平和惚けした私でも、何回か死にかければそのくらい学習します。
今回の作戦も後衛待機ながら、あのときのようなことが起こらないとは限りません。
なので、ゾンビさんや先日作った“巨神兵”の『花子』、それに自作の鬼神兵さんも連れてきました。
これに加え、悪魔さん、妖魔さん方も付けば安心です。
おぉっと!? そんなこと考えている間にいよいよ出撃のようです。
神様仏様邪神様どうか私を守りたまえ!
払い給え清め給え……。

すでに、何が何やら解らない事になっていると、一瞬の浮遊感が起こり
それが収まったと同時に艦内が湧いた。
どうやら無事に成功し、要塞付近まで転移が成功したようだ。
ふいぅ〜……肝が冷えましたね。
もう二度とやりたくないというのは、帝国軍の総意であろう。

そんなこんなで、なんとか成功した大規模転移魔法により
あっけなく巨大要塞は陥落しました。
皆さん、オスティアの件もあり結構落ち込んでいたのですが、
それらの失敗を一度に挽回できる程大きな作戦を成功させたので
大変嬉しそうです。よかったよかった。
なにより私が、戦いに出なくてよかった。
出る幕が無い程に圧勝でしたからね。

もはや、帝国の勝利は確実と言っても過言では無い戦況へとなり
先勝ムード漂う中、なぜか私だけ本部へと呼び戻されました。
勝って胄の緒を締めよ、というわけで本部の護衛へと回される事になったそうです。
少しは、空気読んでくださいよまったく。
私が言えた立場じゃないんですけどね。
本部へ一人寂しく戻る時に、一つのことを思い出す。
そうだ、もし何か有った時の為に、花子を渡しておこう。
花子がいれば、ある程度強い人達が来ても安心でしょう。多分。
備えあれば憂い無しと言いますしね、何かの役には立つでしょう。
司令官さんは、最初何故か相当渋っていましたが、
なんとか最後には受け取っていただけました。
さてと、これで此処での私の役目は終わりですね。
さっさと戻ってプリン食べよ。




しかし、プリンは私の帰りを待つ事無く旅立った後であった。
カイウさんの腹の中へ。
私は、泣いた。





Side『大要塞グレート=ブリッジ』侵攻作戦部隊 指揮官

『大要塞グレート=ブリッジ侵攻作戦』が実行される事が決定した。
しかしながら、作戦を実行するには様々な問題が解決されていないまま
残っており、決定したはいいがこのままでは決行出来ない状態であった。
そのことを再度進言しようと口を開こうとした瞬間、
上官から信じられない言葉が飛び出した。


「“ともだち”による新たな転移魔法の技術提供により、大規模転移魔法を実践に投入できる段階まで完成させる事が出来た」


その話を聞いた瞬間、そこにいた全員の時間が止まった。
今まで、様々な高名な魔法使い達が多くその研究に参加しながらも、
完成させる事が出来なかった魔法が、たった一人の魔法使いの手により
実践投入可能な段階まで押し進められたのだ。
これが驚かずにいられようか。

しかし、その反面“ともだち”という言葉が出ると
細かい事情など気にならない程に、たったそれだけの事で
此処にいる全ての人間は納得してしまった。

もはや、帝国軍部内には“ともだち”に対して不信感を抱く者は
ほとんどいない。初めは、その風貌や悪魔を使役している事等から
畏れられ時には、魔法使いの行動原理から外れていると批判も多く有った。
だが、今は世界を二分する大戦争の真っ最中。
そのような甘いことを言ってられはしない。
力が無ければ一方的に殺されるだけであり、
勝ったほうだけが正義であると“ともだち”から
世界の道理を見た者が軍部には多い。

戦争中でありながら、今までの教えに囚われ死んで行った者も数多くいた。
そのような中、“ともだち”から得た真理に基づき行動した者は生き延びた。
平和な世の中であれば、今までの教えの中で生きて行くことは大いに結構、
それはさぞや美徳として讃えられる行動になるだろう。
しかし今は常に死と隣り合わせの、戦争の中に身を置いている。
それでも、『立派な魔法使い』として行動し続け、それに殉じて逝った者は
素晴らしい誇りとともにあっただろう。
しかし、それまでだ。
死んでしまえば、いくら素晴らしかろうが、
誇ろうがそれで全てが終わりなのだ。

その先には、何も無い。
それならば、私は今までの教えを捨ててでも生き延びたい。
生きて生きて生き抜いてその先の未来を掴み取りたい。
私たちは、魔法使いである前に、この世に生を受けた生物なのだ。

現在我々は、連合の巨大要塞を陥落させる為に魔法陣の上にいる。
大軍勢が理路整然と、不完全だと断言された魔法陣の上に並んでいるのだ。
しかし、不安は見られない。
なぜならば、世界最高の魔法使いの手を借りて作られた魔法である。
不完全とはいえ、失敗する気が欠片もしない。
部隊全体にも、多少の緊張が見受けられるがそれは、魔法に対する
物ではなく大要塞に対したものであろう。

それにしても、このような肝心要の大作戦でありながらこの落ち着き様は
異常であるとしか言えない。
不完全な魔法の行使、敵国の喉元である大要塞への侵攻。
普通であれば、緊張に緊張を重ねた冷たく重い空気が蔓延っていても
おかしくない状況である。

それもこれも、全ては一人の魔法使いのおかげであろう。
その魔法使いは、いつもと変わらぬスーツと覆面を身につけ
鯨船へと静かに乗り込んで行く。
その、戦いに赴くのに何の気負いも感じさせない姿を見た者達は
さらに、緊張を解き自らの勝利を確信したような目へと変わる。
全ての準備が整い、魔法陣が光を放ち始める。
一瞬の浮遊間を感じたかと思うと、既にそこは大要塞『グレート=ブリッジ』
と目と鼻の先の位置。

そのまま、大要塞へと侵攻を開始しほとんど時間を掛ける事なく陥落させた。
ここを、落としたとなればもはや帝国の勝利は確実。
侵攻部隊内には、既に先勝ムードが漂い大騒ぎが起きている。
それも無理は無い、オスティアでの失敗もあり沈んでいた矢先の
出来事だ、当然であろう。
これが騒がずにいられようか?
私も、その雰囲気に酔いしれ浮かれていた。

“ともだち”に本部への帰還命令が出され、彼が帰還する際に
渡した“ソレ”を見るまでは。


「総司令官殿」


“ともだち”がいつもの如く、感情の感じられない声を発する。
慣れたとは思うが、未だに冷や汗が出る。
初めのように吐き気を感じることが無くなったのは
大きな進歩であろう。


「ハッ! 何でありましょうか?」

「これを、お持ちください。何かあった時に役に立ってくれるでしょう」


“ともだち”から手渡されたのは、
掌に丁度収まる大きさの宝石のような物であった。
琥珀のような色をしていて、それはまるで透けた何かの卵の様でもあった。
その中には、何かが蠢き続けているような感じが見受けられ、
さほど重さはないはずなのに、世界の命運を握ったような重さを感じる。
手が震えて落としそうになるが、なんとか握りしめ落とすことは無かった。


「こ、これは……?」

「それは、私が創った“巨神兵”というものです」


“巨神兵”
聞いた事の無い言葉である筈なのに、何故か身震してしまった。
さらに深く説明を受ける。
なんと、この“巨神兵”は鬼神兵を骨組みに精製された、
魔法生物であるということだった。
あまりの発想に驚かざるを得ない。
今まで、このような試みをした者は皆無である。
鬼神兵はその形で完成しているものであると誰もが思っていた。
その為に、鬼神兵は少しずつ質を上げて行く程度の進歩しか無かった。
なのに、“ともだち”はその完結している物を、新たな局面へと進めたのだ。
こんな大変な物を平気で私に渡して来られても困ってしまう。
“ともだち”にそれを返そうとするも、


「いえ、これは必ず必要となるでしょう。どうか、お持ちください」

「で……ですが……」


何度返そうとしようとも、最後にはやんわりとした言葉で
受け取る事となってしまった。


「その力が必要になったときは、それに魔力を流してください。ただし、できるだけ遠くへ退避した後にでお願いします」

「ハッ! 了解致しました!!」


それだけ聞くと、“ともだち”は会釈し転移魔法によって姿を消した。
こんな物をここに残していかなければならない程のことが、
はたして起こるのであろうか?
確かに、此処を取り戻そうと連合は躍起になるだろう。
しかし、それでも我らが率いている軍勢で十分対応できる筈だ。
“ともだち”は何かを知っているのか?
なんとも言えないような不安が胸に去来する。
あっというまに、今まで感じていた先勝ムードは消え失せ
軍全体の警戒レベルを上げるよう、すぐに命令を出す。

それから、しばらくの月日が経ち連合の要塞奪還部隊が編制され
戦いが勃発した。
なんと、その中にはアルギュレーの辺境へと追いやられていた筈の
『紅き翼』共がいたのだ。

我々の防衛ラインは紙のように次々と破られ、落とされていく。
“ともだち”がいない今、我々でなんとかしなければならない。
全員それは理解しているのか、決死の覚悟で戦いを挑んでは散って逝く。
『紅き翼』が相手についているなか、大激戦を演じるも
戦況は悪くなる一方。
被害数の増加も止まらない。

司令室の椅子に、項垂れるように座り込む。
ここまでか、と諦めかけるも、ふとある物が目に入る。
そこには、封印処理が施された魔具。
“ともだち”から渡されていた魔法生物が封印されている宝石があった。
それは、その中から出ようとしているのか封印されているにもかかわらず
蠢き続けている。
それを見た瞬間、何かに取り憑かれたように生への執着が溢れ出る。


(奴等を殺さなければ未来は無い……)


すると、どこからともなく一つの声が聞こえた。


(ソウダ、コノママデハ只無惨ニ惨メニ殺サレルダケダ)

(……お前は誰だ?)

(ソノヨウナコトハドウデモイイ。某ガ問イニノミ答エヨ、生キタイカ?)

(…………生きたい……生き延びたい……無惨に惨めったらしく殺される等御免だ!!!)

(ナラバ某ヲ呼ブガヨイ。某ヲコノ世ヘト顕現サセヨ。某ノ父ノ名ニ賭ケテ敵ヲ全テ滅ボシテミセヨウゾ)




その言葉に操られるかのように、一人の男はふらふらと
一度でもくらえば死に至る火力を持つ
魔法が飛び交う戦場へと歩みを進めて行く。
部下達が何とか止めようとするも、声が届いていないかのように
虚ろな瞳をたたえたまま歩いて行く。

気がつくと私は一人で『紅き翼』共の目の前だった。
奴等が何か喚いているようだが、もはや何も聞こえない。
私は手に握っている、魔具へと魔力を流し始める。
奴等はそれに気がつくと、慌てたように私へと殺到するも
それよりも先に、私と奴等の間に壁が迫り上がる。
その直後、私は意識を手放した。



[12379] 十五話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/05 00:30
 帝国に奪われた『グレート=ブリッジ』を奪還し戦況を回復させる為に、
連合はアルギュレーへと追いやっていた『紅き翼』のメンバーを呼び戻し
『グレート=ブリッジ奪還作戦』へと起用することを決定した。
まさか帝国が、『大規模転移魔法』を実践投入してくるとは、
連合にとって青天の霹靂であり、もはや『グレート=ブリッジ』を落とされた連合は風前の灯。
このままでは帝国に侵攻されるのをただジッと待つことしか出来なくなる。
そうなる前に、如何なる方法を使ってでも、要塞を取り返さなくてはならなかったのだ。
しかし、帝国の戦力は強大で今の戦力では取り戻せるかどうかもわからない。
そこで、『紅き翼』である。
メンバーの一人一人がそこらの魔法使いとは一線を画す実力を持っている。
辺境へと追いやったこともあり、都合の良いように扱っているようで心苦しいが、
今はそのようなことを言っている場合でもないので、納得いかないであろうが了承してもらうしか無い。

『グレート=ブリッジ奪還作戦』開始時から、彼らは予想通りの活躍をしてくれた。
大要塞の名を冠するに相応しい防御力に加えて、帝国の強大な火力を持つ大戦力を軽々と殲滅して行くその姿はさながら、戦の神のように美しかった。
我らも、彼らの援護を行いながらメガロメセンブリア主力艦隊旗艦スヴァンフヴィートを使い、敵の召還獣を殲滅して行く。
順調に敵の防衛ラインを突破し戦力を削っていくも、敵の抵抗は激しさを一向に衰えさせない。
帝国は徹底抗戦の姿勢を崩さず撤退する気配もない。
兵士達は傷だらけになりながらも特攻を仕掛けてきては
一矢報いて死んでいく。
帝国では『連合の赤毛の悪魔』等と呼ばれている我らが『千の呪文の男』ナギ・スプリングフィールドや目に見えて勝てないであろうことが解る他のメンバーを目にしてもそれは変わらない。

今までの帝国では考えられないような、何かに操られているかのような戦い方に微かな不安と恐怖の火が胸に灯る。
帝国の変化について考え込んでいると、扉をノックする音が耳に入る。
思考に気を取られすぎていたのか、部屋の扉がノックされていることに気づかなかったようだ。
私は、その主に声をかけ部屋の中へ入るよう促す。
入って来たのは一人の兵士であり、敬礼すると戦況報告へ来たということであった。
報告は帝国の最終防衛ラインを紅き翼達が破り、要塞内へと侵攻を開始したという報告であった。

それを聞き自分の心配が杞憂であったことへ自然と安堵の息が漏れた。
兵士もそれをみて、硬い表情を崩し苦笑を漏らしていた。
本来指揮官がこのような姿を部下へ見せるのは言語道断であろうが、今だけは自らと自らの国の命を繋ぎ止めた今だけは許してほしい。
私は、再び気を引き締め要塞の制圧の準備へと移るよう命令を出す。
彼らが中に入ってしまえば勝負も決まったようなものだと、油断したのがいけなかった。
突然外が明るくなったかと思うと、艦隊郡の一部が一瞬にして跡形も無く消滅した。
その光景を見て一時呆然とするも、何事かと報告を待つこと無く艦の管制塔へと急ぎ、息を整えることも無く自らの目で現在の状況を確かめる。
艦の大画面には、先程紅き翼が取り戻した筈の『グレート=ブリッジ』が映っていた。

だが、それだけではなかった。

そこには、大要塞を覆い隠すのではないかと思う程巨大な『ナニカ』が映っている。
人のような形をとっているも、体からは自らの肉がボタボタと垂れ落ち、
所々から骨のようなものまでが覗き、今にも崩れ落ちてしまいそうでありながら、凄まじい威圧感と生命力を感じる。
顔は影が掛かり未だはっきりと捉え切ることは出来ないが、その目は爛々と輝いていた。
帝国の新兵器であろうか。
いや、そのようなことはどうでもいい……。
我々はそのとき確かに『死』の足音を聞くことが出来た。
それは、あまりにも近づかれ過ぎてしまい人間らしく、
恐怖を感じさせてくれる暇さえ与えてはくれなかった。




Side紅き翼

一時はアルギュレーの辺境へと追いやられるも、『グレート=ブリッジ』を帝国に奪われた連合から掌を返したように、奪還作戦への参加要請が伝えられた。
確かに納得いかない部分もあるが、世界を二分していた大帝国同士の戦争。
仕方ない部分もあったのだろうと自分たちを納得させ、その要請に応じる。
久しぶりに連合へと訪れたはいいが、少しの休みを挟みすぐに招集が掛かる。
そこで、今回の奪還作戦の説明を受けるも紅き翼には必要最低限の命令に従ってもらうというだけで、あとは自由に動き帝国の戦力を削ってほしいということだけが伝えられた。
あーだこーだと小難しい命令に従うよりは数百倍マシだと、彼らは笑い飛ばす程の余裕を見せていた。

作戦日当日。
連合からは『千の呪文の男』と呼ばれる最強の魔法使い、ナギ・スプリングフィールド率いる紅き翼のメンバー全員は、現在帝国の激しい攻撃の中にいた。
大要塞から豪雨のように降り注ぐ、殺傷力を伴う光飛び交う中彼らは悠々と空中を舞うように飛び、魔法や自らの戦闘技術を行使し向かってくる敵軍の兵士達を打ち倒して行く。
しかし、彼らは出来る限り敵を殺さぬようにしているような節が見え隠れしている。
だが、帝国の軍人達は攻撃を受けボロボロになりながら自分を役立たずだと判断した瞬間に、自らの体へと自爆術式を組み込み特攻を仕掛けては道ずれにと連合の兵士達の命も奪って行く。
死ぬ直前の彼らは、何も映していないかのような濁った目をしたまま逝く。
まるで、何かに操られているかのように。
その異常に初めに気がついたのは、ナギであった。


「なぁ」

「何ですか、ナギ? 今は無駄話している暇はありませんよ?」


ナギの呼びかけにアルビレオが、いつも通りの様子で真っ先に答える。


「なんかよぉ、帝国の連中ちょっとおかしくねぇか?」

「……うむ、確かにいままでの戦い方とは全く違うな」


詠春がそれに賛同する。
その話を聞いていた他のメンバー
ラカンとゼクトも敵の攻撃を捌きながら、会話へと参加する。


「そーかい? それだけ奴等も本気なだけじゃねぇのか?」

「それもあるじゃろうが、それにしても目が異常じゃなあれは」

「だろ? それに微かだけど、要塞の内部から感じたことのある嫌な感じがしてよ……」


その言葉を聞いたアルビレオと詠春の体が微かに強張り、顔が歪む。
二人の様子を目敏く捉えたゼクトが予測を口にする。


「それはおぬし達が前言っていた“ともだち”という者のものか?」

「あぁ……間違いねぇ、あいつのもんだ。この薄らさみぃ感じは忘れやしねぇ」

「……そのようですね。ですが、“ともだち”本人がいるという訳ではないようです。微かにですがあのとき感じたモノとは違いがある」

「ということは、警戒に警戒を重ねても足りないことは確かだな。奴のことだ何が出て来ても不思議じゃないぞ」


この三人を持ってしても、ここまで言わしめる“ともだち”なる人物への評価を、ゼクトは改める。
自分自身でみたことはないが、話を聞く限り優良な人物ではない上に、
相当の実力者であることが伺える。


「まぁよ、こんなところで手を拱いてもどうにもなりゃしねぇ! 今度こそアイツの余裕をぶっ壊してやんぜ!!」

「おうよっ!! よく言ったぜナギ、それでこそテメェだ!!」


そういうと、ラカンとナギは再び戦場に飛び出して行く。
その、様子を見て苦笑するゼクトだが二人の表情は険しい侭であった。


「ゼクト……本当に気をつけてください。“ともだち”は甘くないですよ……」

「要塞内部に入る時は万全を期して行かなければな……。体系を崩されれば殺されるかもしれん」

「……うむ、わかった」



新たに不安要素が増え、警戒しながらも戦いは進んで行く。
その会話がなされてからどの位の時間が経ったのだろうか。
帝国は未だ徹底抗戦の姿勢を崩さぬままだが、大分戦力が削られているのか
徐々に攻撃の手が少なくなっていた。
そして、帝国の最終防衛ラインがついに破られ、
現在紅き翼は帝国の総司令官と対峙していた。
その司令官の男は、装備を身につけず軍服のみを着込み目の前に現れた。
降服し投降の申し出かと思ったが、男の目は死ぬ間際の帝国兵以上に
澱み濁っていた。
何度も降伏勧告するも、何も答えようとしない。
すると、突然男は手に持っていた魔具へと魔力を流し始める。
その直後辺りに腐敗臭が立ちこめ、空気が淀み魔力が異質な物へと変化する。
慌てたように、その男へ殺到するもそれを遮るように何かが顕現した。
彼らは慌ててその場から撤退し離れた場所から要塞を見る。


「おいおいおい……なんだありゃあ………」


南で最強の拳闘士と謳われたラカンや、ナギの師匠のゼクトすらあまりの驚きに感情を隠すことが一切出来ない様子であった。


「邪悪じゃな……アレを創ったのは邪神か何かかのう?」

「正確には邪神ではありませんが、それに限りなく近いでしょうね」

「アル……冗談を言っている場合ではないぞ」


ナギ以外はあまりの出来事に感情や思考を落ち着かせ切れていないのか、
呆然と巨大な化け物を眺めるにとどまっている。
すると、ナギが一人で化け物に向かって飛び出そうとしていたのを、詠春が止める。


「待たんか、ナギ!! 一人で行ってどうするつもりだ!!」

「決まってんだろうが! あのデカブツぶっ倒しに行くんだよ!!!」

「落ち着かんか馬鹿者。おまえはその“ともだち”を直に見たんじゃろ? それならばあれがどういうものかも多少理解できる筈じゃ」

「……」

「そうです、まずやらなければならないのは連合軍を撤退させることです。このままでは全滅しかけません。ラカン、あなたもですよ」

「わかってる、俺もあんなモノに一人で突っ込む程馬鹿じゃねぇ」

「「「「…………」」」」

「なんだよその沈黙は?」




行動方針が決まり、いざ行動に移そうとした瞬間突然辺り一帯が光に包まれる。
その直後爆音が轟き、大地を揺るがす衝撃波が巨大な光の十字架を中心に起きていた。
光の十字架がたっているのは連合艦隊が控えていた場所。
それは一瞬のことだった為に、彼らは対応することも出来ずただ眺めていることしか出来なかった。
十字架は時間を掛けゆっくりと消えていき、徐々に爆心地の様子が明らかになる。
艦隊は辛うじて爆心地を避けた数隻を残し、跡形も無く大地の一部と共に消失していた。


「……………まさか、これほどまでとは」

「これが“ともだち”の力か……その名はまったく相応しくないのう」


彼らは全ての計画を廃し、既に全力の力をもって『ソレ』を抑え込んでいた。
だが、ソレはそんなもの気にもしていないかのように二発目を放つ為に、
その口内全体にある牙を剥き出しにして、腐りかけの顎に魔力を集め始める。


「これでも平気で動くのかよ、この腐りかけはよぉ!?」

「ラカン、お師匠!! そのまんま何とかそいつを抑え込んでてくれ!」

「まったく、無茶をいうのう……たいして保たん、急げ」


そういうと、ナギと詠春、アルビレオは抑え込むのに使っていた魔力で呪文詠唱を始める。
大火力の古代呪文の詠唱、魔力による身体強化を完了して攻撃を放ち、
全てがその腐り落ちていく巨体へと殺到し、直撃する。
爆発により煙が立ち籠め、視界が遮られ、
その煙の中から五人は飛び出して来る。
これほどの攻撃を受ければ、どのような化け物であれただでは済まない。
だが、ソレはこの世に新たに生まれでたであろう魔法生物。
しかも、“ともだち”の手によって創られた物モノであるので
警戒を緩めず再び取り囲み抑え付ける。

煙が晴れ、再び姿を現したソレは腰から下が完全に腐り落ち
二本の腕だけで体を支えている状態であり、攻撃を受けた体はあちらこちらが焦げて抉り取られたようになっている。
その瞳には、先程のような狂気的な光は既に宿していない。
その姿はさながら枯れ果てた大木のように静かであった。
ここで初めて五人は息をつこうと体から力を抜いた瞬間、
ソレに強大な魔力が流れ込み始め、再び砲撃を放った。
砲撃の軌道上にいたナギをゼクトが素早く掴み退避させる。
ソレから放たれた砲撃の光は、次々と先程と同じ巨大な光の十字架を生み出して行く。
大地は十字架に埋め尽くされ、一瞬で焦土と化してゆく。
ソレは、砲撃を終えると溶けるように崩れ落ちていき、男の持っていた宝石へと吸い込まれ、完全に姿を消すと宝石とともに渦を巻いて無くなった。
そこに残ったのは、未だ光を放ち続ける死んだ者達の墓標のように立ち続ける十字架だけだった。





「ご主人、“完全なる世界”って人が来てるヨ」

「どうせ“完全なる世界教”とか“完全なる世界新聞”でしょう。新聞は軍部でタダで読めるし、宗教に興味は無いんで帰ってもらってください」

「わかりましタ〜」

「あっ!? また、プリン固まってないや……何がいけないんだろ?」

「160度デ一時間ダゾ、温度ガ低カッタンジャナイノカ?」

「そ、そうだったのか!? 公爵さん、やけに詳しいですね」

「べッ、別ニ調ベタリナンカシテナイカラナ!!」

「え」




あとがき
砲撃のイメージは、エヴァンゲリオンのサキエルより。
カイウさんの女性型イメージは、真・恋姫†無双の張勲。
七乃と美羽が至高と言うと、生暖かい目で見られます。



[12379] 十六話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:34
 どうも、プリンを上手に作ることが出来ないヤマです。
まさか、こんな所に最大の強敵が潜んでいたとは思いもしませんでした。
前と今、合わせて味・難易度全てが最強だと思います。プリン強ぇ。
なんて悠長なこと言ってる場合ではありません。
先日落とした筈の『グレート=ブリッジ』が連合に奪還されたらしいです。
しかも、田舎に左遷されていた『紅き翼』が戦線に復帰して早々ですよ。

……うん、これはしょうがない。

あの人達相手じゃ流石に無理ですね。
帝国の総司令官さんも行方不明らしいじゃないですか。
しかも、大要塞一帯は不毛の大地と化してしまっているという話です。
情報が錯綜していて確かなことはまだ不明ですが、帰還して来た軍人さんの話では、連合の艦隊すら巻き込んだ大立ち回りだったのだと。
あの人達本当に容赦しませんね、戦争ですから仕方ありませんが。
でも、味方まで巻き込むのは不味いんじゃないでしょうかと言いたい気持ちは無きにしもあらず。
言わないんですけどね、ていうか言えないんですけど。
それと“花子”はどうしたんだろうか。ちゃんと無事に帰ってこられるかな?
それとも、あの人達にやられてしまったのか……。
うぅ……花子、まだ生まれたてだったのにあんな所に置いて来た駄目な父親を許してください。
お父さんが悪かったよ、お前があんまりにも力強く逞しかったから父さん勘違いしてたよ。謝るから、無事に帰って来ておくれ、花子。

花子の身を案じていると、カタンと音がする。
音のした方に目を向けると、何処から入って来たのか目の前に
一人の少女が、あちこちボロボロで黒い染みやら煤やらにより薄汚れた、ぶかぶかでサイズの合っていない帝国軍の軍服を身に纏い、大きな帽子で顔が隠れてしまわないように一生懸命小さな手で抑えながら、奇麗にまっすぐな背筋をさらにピンと伸ばした姿勢で大きな瞳をジッとこちらに向けている。
しかし、私と目が合うと慌てた様子で下を向いて逸らされてしまった。
初めは、帝国の軍人さんが呼び出しに来たのかと思ったが
それにしては幼すぎる。
確かに、人間に比べれば帝国の人達は若作りだが、これはさすがに無いだろう。
その娘を不思議に思い、何故こんな所にいるのか聞こうとすると
突然何かを決意したかのような瞳をたたえ、グッとちからを入れた顔を勢いよく上げた女の子が口を開き声を出した。


「父上殿只今帰り申した」

「…………へ?」


何を言ったのか理解が及ばないまま、その娘は次々と早口に言葉を捲し立てていく。


「かたじけない、艦隊は滅し切りしござるが 伍輩のみにて殺しきれませなんだ……」


そういうと、目に涙を一杯溜め零れないように耐えたまま、
帽子を落としたことを気にも留めず、艶やかな黒髪のおかっぱを振り乱して頭を深々と下げた。


何を言っているのだろう、この娘は?
なんか、さらりと危険な発言があったような気がしましたが
今はそんなことよりこの娘の父親発言の行方ですよ。
どうやら、私のことを父親だとこの娘は言っているらしい。
しかしながら、私は未だ娘息子ができるような経験も無いし、相手もいない。
自分で自分に言い聞かせると、他人に言われたのとはまた違う痛みがありますね。
今まで目を背け続けただけに痛みの度合いが尋常じゃない。
胸がズキズキじゃなくて、シクシクと痛む新しい痛みを覚えた私。
この程度じゃ挫けないぞ……負けないぞ……。
というか、この状況どういう状況なの?
あまりの状況変化に、思考が追いつかず何も答えずに呆然としていると
女の子は先程より悲しみの感情が色濃く出た表情で、不安そうに自らの名を告げた


「ち……ち、父上殿……某“花子”にご、ござ……います……」

「え……花子?」


“花子”は確かドロッドロッでぐっちゃんぐっちゃんで、この娘の何倍もデカかった筈ですけど。
それ以前に、人間には似ても似つかないんですけどね。


「ほ、本当の本当にあの花子なんですか?」

「はい! 然様にございます、某は、花子で相違ございません!!」


そんな、太陽のような笑顔で頬を真っ赤にしながら、
嬉しそうに返事を返されても……。
疑うのは可哀想ですが、もしかしたら連合の軍人さんかもしれないしな。
大要塞を奪還された帝国が仕掛けてくるのを警戒して、斥候の動きが大きくなっているのかもしれないですしね………。
あれ? じゃあ、別に私の所にくる必要無くね?
たかだかバイト君扱いの私に求める物なんて無いですし。
いや、待ってくだい。
結構大きな作戦にも参加させられていますからね、
正規の軍人さんより情報を引き出し易いと判断したのかも。
さすがプロ、正にそのとおりです。
私だったら拷問なんてされる前に知っている限りのことを、
あらん限り吐き出します。
し……しまった、こんな危険性を見落としていたとは。
その危険性を目の前で放ったらかしにしたままなのも忘れて
現代人であることを、またも後悔し始める平和惚けが抜け切れていない現代人。


「あっ、あの! かような姿しからば疑わらるるなりはいたし方ござりません。某が花子にて相違無いという証拠をばお見せいたすがにて、 どうか……」


そう言うなり目の前の少女は、私が目を逸らす前に大きな制服をたくし上げ
自分の華奢な体を露出する。
慌てて見ないように顔をそらすも、服を戻そうとしない。
恐る恐る目を開け、このままではロリペド野郎にクラスチェンジしてしまいそうな状況を恐怖をいだきながら確認する。
しかし、少女の腹部を確認した瞬間、その心配が無用な物だったと理解する。
少女の腹部には、それはそれは立派な黒々とした球状のものが血管を剥き出しにしてドックンドックン脈動していた。
……うん、“進化の秘○”だね。
この子は間違いなく我が子である“花子”で間違いないだろう。
今の姿もこの宝玉で説明がつく。
あまりのグロさに我が子ながらちょっと引いていると、証拠が不十分でまだ信じてもらえていないと判断したのか、何故か慌てて進○の秘宝をお腹から抜き出し始めた。
抜き出された宝玉にはポッカリと開いた腹部の窟から、幾本もの血管が伸び繋がったまま真っ黒な血液を滴らせ脈動を続けている。
窟の中は何処までも続いているような赤黒い暗闇で、数え切れない位の「瞳」が異常な光を宿しギョロギョロと動き、どこから血管が伸びているのかもわからない。

そのあんまりにもあんまりな様に、吐き気を覚えるも相手は本当のことは置いておいて、少女の姿をとっている上に我が子なのでもあるのでなんとか耐える。


「うぷっ……わかった、わかりましたからソレを仕舞ってくださいお願いします」


その言葉を聞くと、花子は先の笑顔よりさらに良い笑顔で喜色に塗れたような声を上げた。
腹に大穴開け腐りやがりながら。


「ち、ち父上殿、わかってくださり申しましたか!?」

「うーぷっ…………げぷっ、も、もちろんだとも!! 花子よく帰って来てくれました、私は嬉しいです! さぁ、まずはソレを仕舞おうか? ね?」


それからなんとか、仕舞ってもらうまでかれこれ一時間程時間を要しました。
現在、どうにかこうにか場が落ち着きカイウさんと公爵さんも交えて、
大要塞で起きたことの説明を受けています。


「ふんふン、つまり媒体にした人間の魔力質が合わないし量も少なかったのデ全員倒し切れる程力が出し切れなかったト、そういうことですナ?」

「然様でございます」

「部隊ヲ壊滅サセタノダカラ十分デハナイノカ?」

「えっ? 何で皆さんそんな平然としてらっしゃるの?」

「いヤ、生まれたてでよくやったヨ花子ハ!」

「ウム、実ニ素晴ラシイ実力ヨ。コイツガ付イテイタラ勝利ハ手中ニアッタナ」

「あの、私の声は貴方方に届いていますでしょうか?」

「ありがたきお言葉、 これよりも重々精進する所存」


誰にも届かない言葉を発するのを止め、冷蔵庫に冷やしてあるプリンに思いを馳せているといきなり話し掛けられる。


「あの、父上殿……」

「ぇあっ!? だ、大丈夫聞いてますよ! プリンのことなんか考えてないよ!」

「最大懸念事項だネ」

「これをお納めくだされ。ほんの手土産程度にてございますが」


そういうと花子は、いきなり手を空中に翳すとそこに何かが収束していく。
青かったり、燃えるように赤かったり、なんとも表現し難い色の物もあった。
それらが一つに纏まったかと思うと、進化○秘宝と同じ位の大きさの球状のものが現れ、それを手渡された。
それは、冷たくも暖かくもなく本当にそこにあるのかどうかすら曖昧な物であり、はっきりとはわからないが何かが渦巻いているようであった。
ひしひしと嫌な予感を感じつつとりあえず説明を促す。


「花子、これは一体何ですか?」

「これは、某がおりき戦場にて死みて参上した者達ことごとくが思念と感情。ようするに、 霊魂がごとき物でございます。某が気に当てらるてしまりていて濁り切りてしまっておりますが」


簡単に言ってしまえば、恨みつらみを抱いて死んでいった方々の人魂らしい。
……怖ぁ。カイウさんや公爵さんとはまた違った怖さですねこれは。
さすがは、魔界の何だかよくわからないけど凄い生物出身の娘だ。
まさかこんな特典が付いてくるとは思いもしませんでした。
完全受注生産、初回限定版であることを切に願う限りである。


「わァ〜、すごいナ花子! いいなァ……欲しいなコレ……」

「花子がよければ是非にも受け取ってください!」

「父上殿が、其れにて宜しければ」

「やっタ!!」

「オ前ハソレデ何ヲスルツモリダ……?」

「禁則事項です☆」


危険物が手元からはなれ安心したのも束の間、嬉々と人魂片手に喜んでいる
カイウさんの様子を見て渡さなかった方が安全だったのでは?
と早くも後悔し始めるが時既に遅し。
カイウさんはいつのまにかその場から消えていた。
公爵さんも着いてったようですが、最後の方「悪魔使って加工」って言葉が聞こえたような聞こえなかったような。
横では説明を終え、安心して疲れがでたのかウトウトしている花子がいる。
その可愛らしい姿に自ら騙され、偽りで心を満たし、先程の言葉を無理矢理忘れ、ささくれだった心を癒す私。
うん、大丈夫大丈夫。
公爵さんも着いてるし、カイウさんも遣りすぎることは無いだろう。多分。
そう自らの内で決定付け、もはや朦朧とした意識で辛うじて立っている状態の花子を抱きかかえて、顔の汚れを拭ってやりながら部屋へと連れて行ってあげることにした。




Sideゾンビ・悪魔・妖魔

「さテ、皆さン。今回集まってもらったのハ他でもありませン」


神妙な面持ちで腕を組み、夥しい数の異形達を前にして仁王立ちしている
正体不明のゾンビ。
その横には、いつものように呆れ返ったような表情をした公爵悪魔が、
いつものように溜め息をつき控えている。
現在、主人の許可無く勝手に空間を弄くった『別荘』に全員集合している。
殺風景だったその空間はいまや、継ぎ接ぎだらけの洋服のような様相をていしいている。
空には、青空や夕焼け・星が煌めく夜空が犇めき合い、白色と黒色の雲が静かに流れている。
大地には何故だかわからないが、優しい風がそよぐ大草原が広がっていた。


「ご主人に新しイ“マスク”を作ってあげる為ニ皆さんを呼びましタ」


その言葉を聞くと、群衆がザワザワとざわめき、次には何故か拍手が巻き起こる。
スタンディングオベーションである。
意味も大してわかっていないのにである。


「オ前モ大概ダガ、コイツ等モコイツ等ダナ……」

「ご主人にハ常に最高の物ヲ身に付けていただきたいのデ、皆さんがんばりましょウ!!」

(オオォオオォオオオォオオオオォオオオオオォオオォオオォオオッッッッッッ!!!!!!!!!)


大草原に異形達の気合いと悪ふざけが籠った咆哮が轟く。


「イツモノコトダカラ別ニイイケドナ」

「材料はコチラ!」

公爵の言葉を無視しどんどん話を進めていく。
取り出したるは先程花子より譲り受けた、採れたてほやほやの“人魂塊”。
元気よく苦しげな悲鳴を上げながら、悲壮な表情をした顔が
あちらこちらから飛び出しては引っ込んで行く。
一体何人が固まっているのだろうか、と公爵は疑問を持つが
そのような考えに至るのは公爵一人だけであった。


「デザインは決めて来たかラ、最終的にこの形になるよウお願いします」


デザインの描いてあるコピーを配り終えて、デザインを確認する。
公爵が顔を歪め一言、


「……何処カラ出テ来ルンダ、コンナデザイン?」

「ご主人かラいろいロ教えてもらってるんだヨ」

「ナンダ、自業自得カ」


カイウに、そういうことを教えたらどうなるかを全く自覚も反省も学習すらもしない馬鹿を思い浮かべ一人ごちる。
その間にも、人外達は何処からとも無く様々な材料を寄せ集めては、いつのまにかあちらこちらに出来ていた工房らしき場所で加工を始める。
散らばりながらも、完璧に連携がとれいているのは人外特有の意思疎通法があるからなのだろうか。
あっちで黒い炎の火柱が上がったかと思うと、こっちでは胸を締め付けるような大きな悲鳴が上がる。
一人の悪魔が人魂塊と似ているようだが、大きさが桁違いのモノを運んで来て
黒い鋼のような板の上にそれを乗せ、火で炙りながら鉄を延ばすように叩いてゆく。
そして、叩いている合間には、黒いドロドロとした液状の物が淀みなく流し込まれる。

一つの机からは、筋組織剥き出しの右腕が飛び出しそれを異形達が抑え込む。
一つの机からは、鉄を熱したような状態の左腕が生まれ出る。
一つの机からは、恨み言を大声で叫ぶ顔が数えきれない程付いている右足が。
一つの机からは、人魂塊を捏ねてそのまま形にしたような左足が。
一つの机からは、未だ白い骨がのぞき全容がわからない頭が。

仮面を作っている筈なのに、全く関係のないような物が次々と作られては、
それらを繋ぎ合わせ、だんだんと形が成されていく。
作業は続き、どのくらいの時間が経過しただろうか。
突然歪な空に、大きな虹が掛かると、空間が大きく歪む。
歪みの中心に渦が生まれ、精製した全てのモノがそこに収束していき
塊が出来る。
全てを吸い込んだソノ塊はぐにぐにと蠢き、形を変え、
一定の時間が過ぎると、全ての行程を終えたのか宙に浮いていたソレは
カランという乾いた音を立てて地面に落下した。
ソレに静かにカイウが近づき、恐る恐る拾い裏と表を確認するように覗き込み、
こんこんと手の甲で出来を確認するかのように叩く。
確認が終わったのか、叩く手を止め、高く“仮面”を掲げ高らかに声を上げた。


「完成でース! 皆さん本当にお疲れ様でしターー!!!」

(ウォオオオオォオオオオオォオオオォオオオオオォオオォオオォっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!)


初めの歓声、拍手よりさらに大きなモノが巻き起こり黒き大海が波打つような騒ぎが起き、強力な殺傷力を伴う大魔法が次々と空に向かって放たれては火花を散らし爆発を起こして空間を歪めていく。
その騒ぎが治まることは、全員が異界に送還されたり行動不能になるまで続いた。




失敗したプリンを起きて来た花子と一緒に食べていると、カイウさんと公爵さんが何故かボロボロになりながら帰って来た。
この大戦争でも無傷を貫いて来た二人がである。
呆然としていた意識を取り戻し、何があったのか聞こうとすると
カイウさんから、ぐいっと何かが入った袋を押し付けられた。
カイウさんはニコニコとしながら、手で開けてみろと促すばかりで
何もしゃべらない。
公爵さんは、眉間に皺を寄せて不機嫌極まりないという顔の侭屹立している。
何があったのか聞くのを止めて、カイウさんから受け取った
それはもう可愛くピンクのリボンで装飾してある袋を開けて
中身を取り出してみる。


「……あの、カイウさん?」

「良いでしョ、ソレ? ご主人もいつもと同じじゃ飽きると思ってネ、皆からご主人にプレゼントだヨ!」


嬉しそうに、邪気の欠片も無い満面の笑顔を浮かべるカイウさんを前に、
私の手の中には、重々しい邪な気を漏らし続ける
ハート形にとげが所々に付いた仮面。
所謂“ムジュラの○面”が収まっていた。

とりあえず、カイウさんと公爵さんの顔の汚れを拭いながら心の平静を取り戻すように努力するも無理だった。




うん、それ無理。




あとがき
カイウさんに覆面及び仮面フェチの疑いが。



[12379] 十七話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:35
 「マクギル元老院議員」


『大要塞グレート=ブリッジ』奪還後
『紅き翼』に新たに加入したメンバーの一人
元メセンブリーナ連合捜査官の、「ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ」が
『完全なる世界』との繋がりがあると思われる、現在の執務官と組織の繋がりを決定づける証拠を持ち、終戦の為の弾劾手続きを行う為にナギとラカンと共に元老院へと赴いていた。


「ご苦労、証拠品はオリジナルだろうね?」

「ハッ……法務官はまだいらっしゃいませんか」


手続きを行う為にここへと赴いたはいいが、部屋にはマクギル元老院議員一人しかおらず、法務官らしき人物は何処にも見当たらない。
マクギル元老院議員が背を向けたまま、
ガトウの言葉に静かに答える。


「法務官は……来られぬこととなった」

「……ハ…?」


ガトウはマクギルの言った言葉を聞き、思わず声を漏らしてしまう。
このような大事に、その要でもある役職の人物が来られない等ということは
本来ある筈がなく。
それを、気にした様子も無く、マクギル元老議員は何故法務官が来ないかの説明へと移る。


「あれから少し考えたのだがね、せっかくの勝ち戦だ。ここにきて……慌てて水を差すのもやはりどうかと思ってね」

「ハァ」

「……」


マクギルは前の意見とは打って変わって、手の平を返したかのように真逆の意見提示して来た。
なんと、折角の勝ち戦を捨てるのはもったいないので戦争を継続することにした、というではないか。
あまりの事に、またもガトウは言葉を漏らす。
その少し後ろに控えているナギは、黙ったままである。
マクギルは、気まずげに頭を軽く左右に振り言葉を続ける。


「いや……その」

「私の意見ではない、そう考える者も多いということだ時期が悪い。時を待つのだ、君達も無念だろうが今回は手を引いてだな……」

「待ちな」

「?」


マクギルが真逆の意見を出した理由を語り終わる前に、今まで黙っていたナギが言葉を遮るように声を発した。
マクギルがそれを聞き、訝しげな表情を浮かべ視線を声の主であるナギへと向ける。
ナギはそんなことに関心を向けること無く、今までの話とはまったく関係のない流れをぶった切るような、突拍子もないことを言い出した。


「あんた、マクギル議員じゃねぇな。何者だ?」


そう言った直後、ナギは火の魔法をマクギル元老院議員へと放つ。
議員は避けることも、その魔法を遮ることもできずに頭に直撃を受け
その体を纏っていた衣服とともに燃やす。
あまりにも突然であり、予想外でもあるナギの行動に流石のラカンとガトウも呆然とせざるを得ない。
消化を行うことも、議員を救出することも出来ずに議員を中心に燃え続けている凄惨な光景を棒立ちのまま見ていることしか出来なかった。


「「な……」」


驚きの声を漏らすと同時に、堰を切ったようにナギへの途切れ途切れの非難の言葉が次々と溢れ出てくる。


「ちょーーーーっ!? ナギおまっ……何やってんだよッ」

「元老議員の頭、いきなり燃やしておまっ」


二人の慌てる様子とは裏腹に、この惨状の原因である
ナギは落ち着いた声で、ガトウによく見ろと視線を促す。


「バーカ、よく見てみなおっさん」

「何っ……」


ナギの言葉を聞き、魔法の着弾点。
炎の中には今も、マクギル議員がいる筈である炎の中へと顔を向ける。
直後、燃え盛る炎が風により割れ、その中からはマクギルには似ても似つかない、白髪の若い一人の青年が微笑を浮かべ平然とした様子で姿を見せた。
左手には何か札のような物を細く長い指の間に挟んでいる。
その姿にはどこか、造り物めいたモノを感じさせる美しさがあった。


「……よくわかったね、千の呪文の男。こんな簡単に見破られるとは、もう少し研究が必要なようだ」


青年は正体がばれたのにも関わらず、焦りを感じさせない余裕のある声でナギへと語りかけてくる。


「本物のマクギル元老院議員は、残念ながら既にメガロ湾の底だよ」

「てめぇっ!!」


平然と議員の殺害を仄めかすような言を吐き、それを聞いたナギは激昂し青年へと一直線に向かって行く。
あと少しで、青年へと届こうかという所でナギの進行方向の左右へ
二人の長髪の男、
青年の仲間であろう人物が虚空からいきなり姿を現し、ナギの侵攻を妨害するように攻撃を仕掛けてくる。


「!?」

「通しませんよ」

「くらえ」


その直後
ナギを挟み込むように、左右から大威力の魔法が確かな殺意を伴い放たれる。
放たれた魔法の巨大な壁同士が鬩ぎあい、大爆発を起こす。
しかし、最強の魔法使いの名を自称とはいえ冠することができる天才であるナギは、本来であれば一撃で躱すことも防ぐこともできず、跡形もなく消し飛んで板であろう魔法を躱し一瞬でラカンとガトウの元へと移動する。


「くっ!」


足下には、先程の魔法で生み出された大量の水が相当の勢いでナギ達の方向へ向かって流れて込んで来ている。
彼らは、水の勢いに足下を掬われることなく、眼前の敵と相対していた。


「強ぇぞやつら!」


ナギがそう叫ぶと、ラカンは嬉しそうに言葉に答える。


「ハッハ! だが、生身の敵だ。政治家だ何だと、ガチ勝負できない敵と比べりゃ」


そこで一旦言葉を区切り、大剣を取り出し肩に担ぎ更に嬉しそうに
大声で叫ぶように言葉を続けた。


「万倍!!! 戦いやすいぜッ!!」


白髪の青年は嘲笑うように口元を歪めると、自らの右耳へと手をやり何かを取り付けるような仕草を起こすと、マクギル元老議員の声を先程と同じように真似、救援部隊へと連絡をとる。


「わ、儂だ! マクギル議員だ……うむ、反逆者だッ! ああ、うむ確かだ。奴らに暗殺されかけたっ……は、早く救援を頼むッ。スプリングフィールド・ラカン・ヴァンデンバーグ、奴らは帝国のスパイだった! 奴らの仲間もだ! 今も狙われている、軍に連絡をッ……」


まさに、今現在仲間であった筈の『紅き翼』のメンバーに暗殺されかけて
慌てているマクギル元老院議員を完璧に演じ、ナギ達をまんまと罠に掛ける事に成功する。


「げっ」

「やられたな」

「……君たちは少しやりすぎたよ、悪いが退場してもらおう」


激しい戦いが行われ、元老院は白髪の青年の魔法による巨大な岩の槍が幾本も突き出し完全に崩壊する。
ナギ達は、増援に来たそれまで味方だった連合の兵士と戦うことができる訳も無く、彼らを倒す事もできずにその場から逃げ出す。
逃げ出す直前、ガトウが彼らに対し一つの質問をする。


「一つ聞きたい」

「何だい?」

「お前達の組織に“ともだち”は所属しているか?」


ピクリと、三人が微かに反応を示す。
これ程の手合いを、言葉一言で反応を示させる“ともだち”の危険度を
更に上昇させる。


「……なんだ、彼の事を知っているのかい? 残念だけど、僕達とは何の関係もないよ。詳しい事も一切不明の人物、いや、人かどうかすらも不明だけど、どうやら僕たちにも、僕たちの目的にも、世界にすら何の興味も無いようでね。こんなに得体の知れないモノに対して気味悪く思ったのは初めてだよ」


一つの組織に二つの旗はいらないのだけどもね、と小さな声付け足すように呟く。


「…………そうか」


ガトウはそれだけ聞くと、先に行ったナギ達を追って行く。
その後ろから、青年の言葉が追い打ちの代わりのように投げかけられる。


「彼には関わらない方が良い。この世界を救うことも、滅ぼすことすらもできなくなるからね。薮を突いて大蛇を出すことに成りかねない、それは僕たちにとっても、君達にとっても望む所ではないだろう?」





空には連合の鯨船が飛び交い、サーチライトが幾本も伸び出ている。
現在、何とか元老院から逃げ仰せる事に成功した
ナギ・ラカン・ガトウの三人は海の中へと逃げ込んでいた。
そんな切迫した状況の中にいようと、ラカンはまたも楽しげに話し始める。


「昨日までの英雄呼ばわりが一転、反逆者か。ヌッフフ、いいねぇ人生は波瀾万丈でなくっちゃな♪」

「タカミチ君たちは脱出できたかな」


一人は現在の状況を何の憂いも無く楽しみ、一人は仲間の安否を憂う。


「……姫さんがやべぇな」


そしてナギは、確実に敵の手が迫っているであろう、
今まで行動を共にしていたオスティアの王女
『アリカ・アナルキア・エンテオフュシア』の身を安じていた。


彼らは、敵の罠にはめられ反逆者へと仕立て上げられ、
英雄であった日常とは一転した、仲間であった連合・相手国のヘラス帝国からもその身を追われながら辺境を転戦する生活へと身を落とした。
敵の組織に捕われたであろう姫君の救出を一旦の目的に据え行動を開始する。
人々を、世界を救う為に。




何の意味も成していない眼鏡をしたカイウさんが、
湯気をたて良く香るコーヒー片手に
それはそれは優雅に、新聞を広げて椅子に座っている。
一口コーヒーを口含み、飲み下すと座っていた椅子の背もたれに更に深く寄りかかりながら、新聞を指差し私の方へと顔を向け、話し掛ける。


「“紅き翼”元老院議員を暗殺未遂だっテ」


どうやら、珍しく身近なヒト以外のことを覚えていたカイウさんは、
その人物達の記事を見つけ気に留めたようだ。
そのままの体勢で、ズレタ眼鏡を直しながら
その記事を読み、私へと伝える。


「へぇ〜、それは大変ですね」

「あレ? ご主人案外驚かないネ?」


いつもとは違う、落ち着いた反応にカイウさんは
髪の毛を揺らしながら首を傾げ不思議そうにしている。


「ふふん、残念ですけど私はこういう手合いの事件には慣れっこでしてね」


そうなのです、皆さんお忘れかもしれませんが私は中身
バリバリの現代人である為、こういういきなりの
有名人によるスキャンダルに対する耐性は、
無駄に鍛えられているのである。
または、全てのことをフィルター越しにしか見ていないとも言います。
そのことを、少し誇らしげにして言ってみると
横で花子を膝に乗せて、本を読み聞かせていた公爵さんが
いつもと同じ呆れた表情で、花子はキラキラとした
長い睫毛の大きな黒い瞳を向けて来ている。


「本当ニ何ノ役ニモ立タナイ耐性ダケハ高イナ」

「父上殿、すごいです!」


公爵さんの、随を的確に抉るような鋭い言葉を浴びせかけ
花子は花子で、本当に純粋に尊敬していることがわかり、
傷に塩水を間断なく注いでくる。
花子……その、可愛らしい八重歯を仕舞って仕舞って。
何故か、カイウさんはニコニコと嬉しそうに
椅子をかたかたと揺らしながら、その光景を眺めている。


「胸が熱い……良い意味でなく、悪い意味で……」


これは薬品による熱さに近いですね。
爛れた胸を抑えながら、机に突っ伏す大馬鹿野郎。
それを、いつもの如く無視して話を進める公爵。
この一連の流れは既に、恒例と言ってもよい程
花子を除いた、三人にとっては定着した物である。
もはや、古参の二人は気にも留めた様子もない。


「ソレニシテモ奴ラ、シテヤラレタヨウダナ」

「だネ〜、そんなことする感じの人間じゃなかったしネ」

「マァ、ドウデモイイガナ」

「ち、父上殿! 元気を出してくだされ、花子はどんな父上とはいえお慕い申しております!」


どこかで聞いたことがあるような台詞で、大馬鹿野郎を必死に慰める花子。
そんな花子へと、ズリズリと頭を机に擦りながら顔を向け手を高く掲げ
一言


「優しく傷薬を塗ってくれる……そんな花子へ盛大に乾杯!」


「中身、巨神兵だけどネ」


冷静なカイウさんにより、厳しい現実へと引き戻された。
まだ、傷は癒えていない。



[12379] 十八話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/01 23:36
 敵組織である『完全なる世界』の構成員「フェイト・アーウェルンクス」の罠に嵌り、
メセンブリーナ連合・ヘラス帝国から追われる身となり、辺境を転戦としている『紅き翼』。
現在、敵組織に捕らえられたアリカ姫救出の為、姫が幽閉されているであろう古代遺跡が立ち並ぶ『夜の迷宮』へ訪れていた。

高台に建つ建築物に魔法による爆発が起き、煙が上がる。
崩れた壁の奥の部屋には、一人の金糸のように美しく長い金髪の女性と、
褐色の肌と二本の角を持つ亜人の少女が狭く細長い石造りの部屋に幽閉されていた。
魔法により崩された、厚い石の壁の瓦礫の上には赤髪の少年
ナギ・スプリングフィールドが杖を携えながら立ち、その後ろに近衛詠春が控えている。


「よお、来たぜ姫さん」


ナギがいつもと変わらぬ調子で、姫と呼ばれた女性に話し掛ける。
それに、アリカもいつもと変わらぬ無表情で答える。


「遅いぞ、我が騎士」


ナギたちは、夜の迷宮のダンジョンの罠や最上位精霊等の多くの障害を越え、
アリカ王女と一緒に捕らえられていたヘラス帝国の第三皇女テオドラの救出に成功し、
タルシス大陸極西部のオリンポス山にある隠れ家へと彼女たちを連れ移動していた。
隠れ家と言っても、彼らは世界全体から追われる身であるのでボロボロで今にも朽ちてしまいそうな部分までもがあるような代物である。
それを、見たまんま歯に衣着せぬ言葉で隠れ家を堀立小屋と称すテオドラ。
助けられた身にも関わらず、その不遜な物言いにラカンが苛立ちを隠す事無く米神に青筋を立てながら言い返す。


「何だ、これが噂の“紅き翼”の秘密基地か! どんな所かと思えば……堀立小屋ではないか!」

「俺ら逃亡者に何期待してんたんだ、このジャリはよ」


その言葉から言い合いがヒートアップしていく。
大の男が年端も行かぬような少女と同レベルの口喧嘩を演じている。


「あのやけに元気な少女が……」

「ええ、ヘラス帝国の第三皇女ですね。アリカ姫と交渉の為に出向いた所を一緒に、捕縛されていたようです」


皇女に対して、少しも敬う素振りを見せず小馬鹿にした態度をとるラカン。
その態度に抗議するテオドラを詠春は呆れるように、アルビレオは楽しそうに離れた場所から眺めている。



そこからさらに少し離れた場所では、ナギとタカミチを連れたガトウが
アリカ姫に現在の自ら達の置かれている現状について話をしていた。


「さーて、姫さん。助けてやったはいいけど、こっからは大変だぜ。連合にも帝国にも」


ナギなりに気を遣ったのか、一旦間をあけ言葉を先の言葉を紡ぐ


「……あんたの国にも味方はいねぇ」


それをガトウが受け継ぎ、話を続ける。
その口調は、ナギやラカンとは違い礼儀を弁え丁寧な口調である。


「恐れながら事実です、王女殿下。王女殿下、殿下のオスティアも似たような状況で……最新の調査では、オスティアの上層部が最も“黒い”……という可能性さえ上がっています」


ガトウは自ら最も辛い役割を担い、事実をアリカに告げる。
その事実を聞いても、変わらない厳しさを感じる無表情でその事を知っていたかのように言葉を呟く。


「やはり、そうか……」


王女の内心を気遣い、誰も言葉を発さない静寂の時間がゆっくりと流れる。
その沈黙が支配する時間は、アリカがナギを呼ぶことで突然終わりを告げた。


「我が騎士よ」


その呼び名は、ナギを自分の物だと誇示するような呼び名であり
ナギはそれを恥ずかしがり、あまり呼び方を好んではいないようだ。


「だぁら、その“我が騎士”って何だよ姫さん!」

「もう連合の兵ではないのじゃろ、ならば主は、もはや私のものじゃ」

「なっ……」


何の恥ずかしげもなく、平然とそんなことを言うアリカに
流石のナギも顔を赤くし、言葉を失ってしまう。
アリカは、その様子も気にすることなく
ナギたちに背を向けたまま先程聞いた現状を確認するかのように淡々と語る。
しかし、その言葉には憂いや悲しみといった感情は読み取れない。


「連合に帝国……そして我がオスティア。世界全てが我らの敵という訳じゃな」


そう言うと、やっと視線を後ろに戻し紅き翼のメンバー達と帝国の皇女へと向けられる。
アリカの整った顔には、その言葉と同様に負の感情は浮かんでおらず
何かを信じ、自信に満ち溢れた表情であった。
その表情にそぐう自信に満ち、確信を伴った言葉をナギ達へと発する。


「じゃが……主と、主の“紅き翼”は無敵なのじゃろ?」


その、アリカの言葉に思わず、キョトンとしてしまうラカンを除いたメンバー達。


「世界全てが敵————良いではないか。こちらの兵はたったの七人。だが、最強の七人じゃ」

「ならば我らが世界を救おう。我が騎士ナギよ、我が盾となり剣となれ」


その呼び名に、自分は騎士ではなく魔法使いだと
未だ若干の不平を漏らしながらも
ナギは目をつぶり、先程の言葉をゆっくりと飲み込むと、
楽しそうに歯を見せ力強い笑みを浮かべる。


「……へ、相変わらず、おっかねぇ姫さんだぜ」


すると、王女の前にナギは膝まづき、アリカは携えていた黄金の剣抜き
高く掲げ、ナギへとその矛先を向ける。
空から降り注ぐ、光を刀身に受け黄金の剣が眩いばかりに
光り輝く。


「いいぜ、俺の杖と翼。あんたに預けよう」


その光を一身に受けたナギ、光を放つ黄金の剣を携えた美しい姫君。
その絵画めいた神々しい光景を、紅き翼のメンバー達は見つめ続けていた。




しかし、その光景を見ていたのは彼らだけではなかった。
空からの強い光を避けるように、光を遮り色濃く影を創り出す一点に
気配の一切を漏らす事無く、全てを恨み呪っているような光を放ち
彼らを見つめる一対の瞳。
一瞬も視線を逸らすこと無く、その光景を眼に納め続ける
おどろおどろしい雰囲気を垂れ流し
見るだけでゾッとするような気味の悪い造形、邪悪な意思を秘めた仮面が一枚。
何の力も借りること無く、自らの力でのみ行動することができる自立した呪物
『ムジュラの仮面』が眩い強い光により生み出された、何処までも暗く黒く濃く、深い影の中に身を潜めていた。
だが、その存在に気づく者は誰もいない。

仮面はその光景を納めると、諾々と続く闇を映す裏側から
幾本もの触手を生やし、その先端を影へとつける。
触手は、その一本一本が別々の意志を持つかのように蠢きながら
影の中に潜り込む。
全体の半分以上が埋まった瞬間、大本の仮面部分を底なしの沼へと引きづり込むように、影の中へと引っ張って行く。
仮面の瞳は影へと完全に沈み込み姿を消すまで、その光景を見つめ続けていた。




「王女殿下、皇女様、あとひとつお耳に入れておいていただきたいことが……」


敵組織である『完全なる世界』の説明とこれからの行動方針が決まり、士気が高まりつつある場面で、ガトウが重々しく口を開く。
暗い表情のまま、なにか考え込むように俯いていたアルビレオと詠春、ゼクトが何かを察したように表情を引き締め、ガトウへと顔を向ける。
先程までの騒ぎが静まり返り、全員の視線が集まったことを確認するとガトウは口を開き話し始めた。


「……“完全なる世界”とは別勢力“ともだち”についてです」

「“ともだち”……とは何だ?」


帝国の第三皇女であるテオドラが、ラカンの上から初めて聞く
その不可思議な言葉に疑問を投げかける。
アリカは変わらぬ表情のまま話の先を促す。


「皇女様の母国であるヘラス帝国は現在、最も完全なる世界の手が届いていない場所でもあるのです。そうは言いましても確かに、上層部には奴らの手下は食い込んでいるのには間違いはありませんが」

「なんと!」

「しかしながら、帝国の軍部はもはや完全に侵されてしまっている可能性があります。奴らとは別の“猛毒”によって」


確証はありませんがと最後に付け足す。

ガトウの言を聞き、新たな勢力によって自らの国の軍部が落とされているかもしれないということを突然聞かされ、驚きを隠せないテオドラ。
ラカンの体にじっとりと汗をかいた手をやり、服を力一杯握りしめる。
テオドラは服を握りしめたまま、恐る恐ると言った感じでガトウへと言葉を返す。


「……それが“ともだち”とやらの仕業なのか?」

「それも現在は不明です。ですが、そういう可能性もあるということを頭の片隅に置いておいていただきたいのです、何かあった後では遅すぎますので……」


今まで、いつものような余裕のある笑みを浮かべた表情ではなく、
眉間に皺を寄せ沈黙を保っていた、アルビレオが重々しく口を開く。


「軍部が落とされているか、いないのかは関係なく“ともだち”が今現在も
帝国内部にいることは確かでしょう。目的も何もまったくわかりませんが」

「しかし、ガトウ。よく奴らとの関係がないとわかったな、いくら探ろうと
一片の情報も見つけることができなかったのに」


軍部の工作によって、彼の情報は最大機密として扱われている為
情報の漏洩は皆無に等しい状態であって。
むしろ、彼に関する情報は帝国の存続自体を危うくするようなモノなので、
完璧なまでに削除され、復旧されぬようさらにプロテクトを掛けられているのだ。


「あぁ、元老院から脱出する際に白髪の魔法使いに聞いた。案外簡単に答えてくれたよ、どうやら相手方さんも奴には一目置いているようだ」


苦笑いを零しながら、忠告を受けたことも伝える。
“ともだち”に散々煮え湯を飲まされ続けた彼らだからこそわかる
その薄気味悪さがさらに増大する。
大国の上層部にまで食い込みほぼ全ての情報を
得ることができる立場にいながらも、その正体の一切がつかめないという
事実に背筋が凍るような感覚に陥る。
まるで、気配が薄弱な亡霊のようだとテオドラとアリカ同じ思いを抱いた。


「今の所、私たちに対する妨害もありません。下手に刺激すればどうなるかはわかりませんが、碌なことにならないでしょう。」

「アルの言う通りじゃな、奴らすらも手を焼くような相手じゃ。あれには相当な理由がない限りは放っておくのが得策じゃのお。まぁ、いつかは戦はなくてはならんのじゃろうが……」


世界最強レベルの魔法使い達が、揃いも揃って一人の人物を畏れている姿に、アリカも思わず驚いたように目を見開いてしまう。
そのような存在の手に、自らの国が落ちているかもしれないという恐怖に
テオドラは思わずラカンにしがみついてしまう。
小さな体は小刻みに震え、先程よりさらに嫌な汗が全身から吹き出る。
それに気がついたラカンが、テオドラを抱き上げ肩から下し
自らの膝に乗せ、その頭を大きな無骨な手で撫でながら話し掛ける。


「何、心配するこたぁねぇぞジャリ。いくらそいつが強かろぉが、この最強の傭兵剣士ジャック・ラカン様にゃあ勝てねえからよ!」


そんなことを言いながら、ラカンはテオドラの髪を掻き混ぜるように撫で回す。
ラカンの言葉に勇気づけられたのか、テオドラの顔には先程まの青ざめ、
得体の知れないモノに対して恐怖していた表情が薄らぎ、笑顔でジャックと戯れ始める。
その様子を、微笑ましげに眺めこの戦いには絶対に負けぬという新たな固い決意を胸に宿し、次の戦場へと赴くまでの短い安らかな時間を仲間達と享受した。




「皆さん、何をしているんですか?」


用事の為に外へと出ていたヤマが、部屋へと帰ってくると
光りを落とし、何処から持って来たのか
部屋を出るまではなかった筈の、映写機を使い映画鑑賞の真っ最中であった。
公爵さんは、既に飽きてしまっていたのかスースーと寝息を立てている。
花子は、花子で映画館にあるような大きな紙製の入れ物に入った
ポップコーンに一生懸命で、カイウさんは何がそんなにおもしろいのか
目に涙を浮かべて笑っている。
鑑賞の邪魔にならないように、腰を低くしながら後ろへと回り
カイウさんの後ろへと付く。
おかえり、と先に言葉をかけてくれたカイウさんへ
ただいまと挨拶を返して、自分も画面へと目を向ける。


「これは……」


画面に映されていたのは、先日指名手配犯へとクラスチェンジを果たした
『紅き翼』の方々。
その内の一人、あの時にいた赤髪の少年が見たことのない金髪の美人さんへと膝まづき、剣を突きつけられている姿が映し出されていた。
何故、こんな物が此処にあるのか? とか、どうやって撮って来たのかとか
聞きたいことが次々と溢れ出るが言葉が出てこない。
ぱくぱくと、口を開閉してやっとこさ出て来た言葉は


「ま……まさか、この年でこんな過激な趣味があるとは!?」


自分の知らない世界に、既に足を進めた年下の少年に対しての嫉妬だった。
あんな、美人さんにあんなことされるだなんて……
なんて、羨ましいんだ!! 私はあえて、言葉は伏せません!!!
醜い黒い嫉妬の炎に身を焦がしていると、カイウさんが


「これ売ったら高く売れるよネ」


ボソリと危険なことを口走る。
即座に、それだけは駄目ですと諌め止める。
いくら、犯罪者だろうが暗殺者だろうが
人権全てを奪われる訳ではない。
他人の趣味趣向、欲望の具現を納めた、『ハメ撮○動画』だなんて
個人情報保護法所かそれに至までに、様々な法の篩に掛けられて
地の底まで落とされること間違い無しです。
そんなものがこの世界にあるかどうかはわかりませんが、
それに準ずる物はあるでしょう。多分!
というか、売るって……。
警察にでも届けましょうよ。

カイウさんは、何故かしょんぼりとしてしまい
俯いてしまった。
そのような自体に一切の免疫がないヤマは、慌てふためき
何とか慰めようとするが、当然上手いこといかない。
なんとかこの状況を打開しようと、頭を捻っていると
カイウさんのこの一言。


「ご主人ニ、おいしいもの食べさせたかったなァ……」


私は抱きしめた。
思いっきり、力の限り抱きしめて、頭を撫で繰り回した。
全ての問題は霧散してしまい、跡形もなく無く消え去った。




あとがき
※全員腐りかけ及び人外です。



[12379] 幕間1
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/10/17 00:41
 「そうだ、電子精霊を創ろう」


全ては、いつもと同じ、この一言から始まる。
『まほネット』に繋いだパソコンの画面に向かって、力強く拳をぐっと握る、
口が×印の某ウサギ絵柄がプリントされた、薄いピンク色のパジャマを着込む魔法使いが一人声を上げた。
画面には、「猿でもわかる! 電子精霊の作り方」の文字が。
それを聞いた、何処にでもありそうな木製の椅子に腰掛けていた公爵級悪魔が、深く深く眉間に皺を刻み込み、読んでいた日本語新聞をぐしゃりと握り潰した。


「……貴様ニ、反省ヤ学習ト言ッタ言葉ハ無イノカ?」


魔法使い『ヤマ・マヤー』の、いい季節になったし旅行にでも行こうか?
的なニュアンスで言い放たれるこの言葉は、意図せずに世界の首に向かって、
ギロチンを振り下ろしたことが何度あっただろうか。
幸いにも、今まで起こして来た全ての事象に対し、
何かしらの妨害が入って来た為、そのギロチンが役割りを果たすことは無かったのだ。
だが、この魔法使いはその自覚が全くない為に、再び何かやらかす気満々なのだ。
これが、溜め息を吐かずにいられようか? いや、ない。
しかも、これを諌める所か、ターボエンジンを搭載せんとする者がもう一匹。


「電子精霊カ〜……いいネ! 夢が広がるねご主人!」

「広がりますね、カイウさん!」


うっとりと恍惚の表情を浮かべる、一人と一匹。
貴様等は一体何処に向かっているのかと、小一時間問いつめたい衝動を、
米神を抑えなんとか耐える。
何を言っても無駄であろうことを悟っている公爵悪魔は、いつの間にか立ち上がっていた事に気が付き、再び椅子に腰を下ろした。
公爵が、崩れるように座り込んだと同時に、奥からとたとたと、甘い匂いをさせながら小さな足音が聞こえてくる。


「ついに完成致しました、父上! お二人も御一緒に、ぜひ御召し上がりください」


可愛らしいフリルエプロンを身につけた、“腐敗巨神兵”の花子が、つい先程完成したであろうプリンを三つ抱えて運んでくる。
ちなみにエプロンは、細かい装飾まで施されている、職人技が光る爵位級悪魔ブランドである。
僅かにかいた汗で、額に張り付いてしまっている前髪を欠片も気にした様子が無く、にこにこと頬を真っ赤に染め、喜びの感情を溢れ出させている花子。
プリンの香りに、即座に反応した一匹は既に席についてこちらも満面の笑みを浮かべプリンに視線を釘付けにし、ヤマはあまりの感動に、花子の頭を撫で繰り回し、抱き締め、高い高いしながら賞賛の言葉を惜しみなく叫び、クルクルと回っている。
一通り済み満足したのか、花子を抱っこしたまま席に着くヤマ。
花子の、前髪を整えてやりながら、頂きますと一言呟き、さっそくプリンに取りかかる。
それに伴い手を合わせ、頂きますと復唱する公爵とカイウ。
三人の様子を、緊張した面持ちで見詰める花子。
しかし、その緊張した表情はすぐに解消される。
一口食べただけで、三人の表情は正に蕩けるという言葉以外で表す事が出来ない表情を作る。
花子はさっきより奇麗な笑顔を浮かべ、その様子を眺め続けていた。

多大な充足感に満たされた心で、後片付けに奔走する花子の後ろ姿を眺める。
今までの出来事、全てを覆い尽くしてしまう程の幸せを噛み締めていると、
さらにそれを覆い消してしまう一言が、カイウの口から飛び出す。


「さテ御主人、それじゃ行こうカ?」

「そうですね、この満たされた気持ちを丸ごと注ぎ込んでやりましょう!!」


そう言うと、勢い良く椅子から立ち上がり、もの凄い速さでパソコンを抱え
どたどたと走り去っていく。
花子の後ろ姿とは違い、世界の全てを抱え込んでいるように見える二つの背中から目を逸らし、花子の鼻歌に耳を傾けながら新聞を広げた。




「御主人は、どんなの作りたいノ?」

「そうですね……とにかく容量が大きくても便利なのがいいですね」




彼らの住処の、とある一室。




玩具箱をひっくり返したように、大きな黒光りしている銃から、魔法少女の専売特許であろう魔法の杖まで、様々な物品が雑然と広がるその部屋に二人は居た。
小さな机に運んで来たパソコンを備え、再び「猿でもわかる! 電子精霊の作り方」が掲載されているサイトを開いていた。


「作り方は、基盤のプログラムに魔法術式と必要なプログラムを組み込むだけみたいだネ」

「おおう、流石カイウさん! 何でもわかりますね、私にはさっぱりでしたよ」

「へへへ、褒められた……♪ 御主人の出来ない所は、まかせテ!」


何気に機械音痴のヤマに変わり、カイウが電子精霊開発の、主導を握ることとなった。
次々と、プログラムと術式を組み込み始めるカイウ。
ガタガタと、キーボードが壊れてしまうのではないかと思う程の速さで打込み、片手間で何故か「強化巨神兵」や「全身から血の吹き出る魔法」等の術式を展開して、
それも組み込んでいく。
ヤマは、つらつらと数字が流れ続ける画面に向かいっぱなしのカイウに、
甘味やお茶をせっせと運び続けている。
三日程その光景が続き、四日目に差し掛かろうとした時点でキーボードを叩く手が止まった。


「ふィ〜、出来たよー御主人!」


慌ててお茶とみたらし団子を乗せたお盆を置き、パソコンの元へと走って向かう。


「お疲れ様です、カイウさん! 本当にご苦労様でした」

「御主人の為なラなんのそノ!!」


無限の体力を持つゾンビであろうと、労りの精神を忘れないヤマは、カイウさんをソファに座らせて、持って来た甘味を振る舞う。
美味しそうにパクつくカイウさんを横目に、どんな物が完成したのか見させてもらおうと画面へと目を移す。
が、その画面には予想外も予想外の代物が生み出されていた。
ソレに視線を固定したまま、辛うじてカイウへの呼びかけに成功する。


「………………カイウさん」

「ん〜?」


団子の串を口にしたまま、振り返り首を傾げる。


「“デジタ○”があるのですが?」

「いいでしョ〜♪ 多分そろそろ生まれると思うヨ」


そう言うと、ヤマの横に座り並んで画面を覗き込む。
ドットで描かれている“デジ○マ”は、ひょこひょことコミカルな上下運動を繰り返し続けている。
三分程経った頃だろうか、ピリピリと電信音を放ちながら左右に揺れ動いたかと思うとパカリと卵が割れ、新たな電子生物が生れ出た。
“ソレ”は、クラゲのような愛らしい見た目をし、可愛らしく動いてはいるが、その実、想像もできない程莫大なデータを注ぎ込まれた、
“リーサル・ウェポン”であろうことは確実の代物であった。


「“クラモ○”ですね、カイウさん」

「そうだヨ、可愛いでしょ? お父さん」

「そうですね、お母さん」


そんなやり取りをしていると、メール受信音が轟き、
画面に大きく【オナカヘッタ】の文字が。
慌てて、データを叩き込み落ち着かせたのは言うまでもない。









あとがき

逃げ道確保という名の自己満足です。
本当にすみませんでした。



[12379] ネギ編 一話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/11/12 21:18
 どうも、皆さんご無沙汰しております。ヤマです。
御無沙汰なんて言っている場合ではない、約二十年ぶりでございます。
様々な死線を、「運」と「他人の力」だけで潜り抜け、
今私は元気に生きております。

実質、目出度くも終戦日と相成ったその日。


まさか、あんな事になろうとは……。


このお話には、私の臓器に多大な負担を掛ける恐れがあるので、
また調子の良い日にでも、改めてお話しさせて頂きます。


そして、『紅き翼』及び、関係者各所の皆様。
誠に申し訳ございませんでした。
謹んで御詫び申し上げます。


と、紆余曲折ありまして。
現在は、戦時中に暇を持て余していた人外さん達によって、
散々弄くられて『無限ループ』と化した土地に根を下ろしております。
皆さん曰く、「趣味に注ぎ込む力って偉大だね☆」とのこと。
うんうん、確かにそうですね。
それには、同意させて頂きます。
でも、“合戦場で、空の鎧武者が延々と戦い続ける”
のはどうかと思う今日この頃。


等と、何だかんだ言いつつも僅か数日で慣れ。
好きな時に、好きな場所へと行き来出来るまでにはなりましたが。
……自分の順応性の高さが怖い。

今は、何処からか引っ張ってきていた、草木が生い茂り、
豊かな栄養分を含む、広大な大地が広がる世界にて農業を営み生活しています。
いやぁ、これは大正解でした!
前住んでいた土地は、植物を植えると次の日には腐り落ちているか、
“魔獣”になっているかの二択でしたからね。
正に、“DEAD OR ALIVE”
生き抜いても、あんな姿じゃ報われないでしょうに……。
それはともかくとして、
御蔭様で、私も腐った生肉色のお空ともお別れ出来ました!
ヒャッホーイ!!

無限に“魔”を生み出す土地から、生気と光に満ちあふれた場所へと
移住し、今私は満ち足りております。

今日も、過去にいろいろありまして家族になった、
『ケルベラス渓谷』出身の魔獣さん達と一緒に、畑仕事に来ております。
原理はまったく不明なのですが、何故だか魔法が使えないと言われている
大地の亀裂の奥底に住み着いていた皆さん。
初めて会った時は、“お預け”を食らったらしく怒り狂ってはいましたが、
土を耕して、私の畑を拵える際にもお手伝いしてくださる、
大変心の優しい子達です。
見た目は確かに、龍と百足を足して2で割らなかったような姿をしていますし、
魔獣なのに何で、魔法が使えない谷底で生活出来ていたのか?
とか、いろいろツッコみたいところもあるでしょうが、
見て見ぬ振りをし共に生活を続ければ、素直で可愛い子達なんです。

誰に向けていたのかすらわからない弁明を、一通り終えた魔法使いは、
柔らかく耕された土の上にゆっくりと腰を下ろす。
目の前には、自ら手で育て、見事に実った季節感の無い野菜。
その瑞々しさに、思わず目を細めながら、順調な成長具合を確認する。
額から首筋にへと伝い落ちた汗を、真っ白なタオルで拭いつつ、
恍惚の表情を浮かべる。


「最高ですね……」


麦わら帽子を被っているのも忘れ、思わず目元に手を翳し、
青い空を仰ぎ見て至福に満ちた言葉を漏らす。
燦々と照る恒星(?)の光を思う存分体全体に浴び、満足げに息を吐き出すと、
再び屈めていた腰を伸ばし、作業へと戻って行った。


魔法界全体を震撼させた、腐敗と劣化の魔法使い『ともだち』こと
『ヤマ・マヤー』。

彼の存在は、人間と亜人の隔たり等一切関係無い。
世界全土の、知識ある生物悉くを悪夢の濁流へと叩き込んだ。
『完全なる世界』と双璧を成す程、その悪名天を貫く程に名高い。
しかし、僅かながら情報が公開されている『完全なる世界』とは違い、
様々な書物にその存在が書き記されながらも、正体の一切が不明。
『ともだち』の項に描かれているのは、彼の代名詞でもある文様のみ。

魔法使い達は、彼の事を畏怖と侮蔑の念を込め
『腐死の魔法使い』と呼んだ。


そんな、『腐死』の名を冠する魔法使いの真の姿が、今まさにここにあった。


「高野豆腐が無性に食べたい……。花子、作ってくれるますかね?」


横から顔を覗き込んでいた魔獣の、
岩石のように発達した鱗が、隙間無くびっしりと覆う
首元を撫で摩りながら話し掛ける。
それに応えるかのように、グルグルと喉を鳴らしながら、
ヤマの胸元に鼻元を擦り付け、甘えたような仕草をとる魔獣。
意思の疎通が取れる彼には、龍が何が言いたいのかを、
すぐに察することが出来た。
苦笑しながらも、慈愛に満ちた声音で諌める。


「まったく……王女様は駄目ですよ? 諦めてください」


その後も、日課である畑弄りに日がな一日を費やし、
一緒に来ていた魔獣の咆哮を合図に作業を中断する。
毎回、五時丁度に鳴いてくれるおかげで、時計いらずである。
酷使していた腰を重点にストレッチを行い、
固まってしまった体を徐々に解す。
全て伸ばし終えて、欠伸を一つ。

色とりどりの野菜が、一杯に詰め込まれた籠を背負い帰路につく。
魔獣の住む世界を経由し送り届けてから、
やっと自らの家へと足を進め帰宅する。

どの位歩いただろうか。
空を赤く染めていた光は、いつの間にか鳴りを潜め
辺りには暗闇が広がっている。
森を切り開き、整備された道を歩く。
左右に広がる森林からは、鳥や虫の鳴き声は聞こえず、
代わりに、何かが威嚇し合っているかのような低い唸り声。
バキバキと、木がへし折られる音。
終いには、ぐちゃりぐちゃりと不快な水音までもが聞こえてくる始末。

そんな中を平然と鼻歌まじりに、もはや目と鼻の先にまでなった、
窓から光を零す質素な佇まいの家へと向かう。

家の入り口に到着し、木製の扉に手を掛け開く。
ぎぎぎ、と古びて黒ずんだ蝶番が軋んだ音を上げる。
中からは、外とは違う温かな空気が漏れ出し、
慣れ親しんだ我が家へと帰って来た事を実感させてくれる。


「只今帰りました〜」

「父上、お帰りなさい」

「オカエリ」


中に居た、二人の仲間に挨拶を返しながら台所へと行き、
野菜の詰まった籠を下ろして、自分の指定席へと腰を下ろし一息つく。
その横でソファへと凭れ掛かり、日本語で書かれた経済新聞を読んでいる公爵悪魔と、
運び込まれた野菜の土を嬉しそうに洗い流し、夕食の準備を始める巨神兵。

公爵に、さっさと風呂に入ってこい、と急かされながらも。
尚、椅子に座ったまま、辺りをきょろきょろと見回していた魔法使いが
徐に口を開き、未だ確認出来ていない、もう一人の家族の所在を訪ねる。


「カイウさんは、どうしたんですか?」

「サァ? オ前ガ家ヲ出テ、直ニアイツモ何処カヘ出掛ケタキリダガ」

「そうなんですか、何処に行ってるんですかね?」


そう疑問を零すと、台所から包丁で俎板を叩く音と一緒に花子の声が響く。


「何だか、ニシさんの所に行くって言っていましたよ?」

「おぉ、そうでしたか! それなら安心ですね」

「……安心出来ルオマエノ事ガ、羨マシイ限リダヨ」


いつの間にかうつ伏せになり、自分専用のクッションへと顔を
埋めたまま、モゴモゴと疲れたように呟く公爵悪魔。
そんな公爵の髪を、手櫛で優しく梳きながら、苦労性の悪魔を労う。
暫く、頭を撫でながら、延々と漏れ出す愚痴を受け止めていると、
いつのまにか寝息を立てている公爵に気がつく。
起こさないように毛布を掛け、自分もウトウトとし始めたその瞬間。

勢い良く開け放たれ、盛大な音を上げながら破砕する戸口。
三人同時にビクリと体を跳ね上がらせ、心臓が驚きで潰れそうになりながらも、
戦争で鍛えた反射により、なんとか玄関へと顔を向けることに成功する。。

扉を無くした玄関口には、頭にクラゲ型の精霊を乗せ、
右手を前に突き出した状態で仁王立ちする人影が一つ。
逆行により顔を確認する事は出来ないが、長年連れ添っている相手に対して、
そんなことは問題にもならず、すぐに誰であるかを判別することが出来た。


「おかえりなさい、カイウさん! 随分遅かったですね?」

「お帰りなさい、カイウ殿!」


帰還した家族に声を掛けるヤマと花子。
只一人、公爵だけは今までにない程不機嫌そうな顔で、カイウを睨みつける。
そんなこと、意にも介さず返事を返していく。


「ただいマー! いやァ、大分遅くなっちゃっタ、ごめんねェ」


頭をぽりぽりと掻きながら、申し訳無さそうな顔で謝るカイウ。



「疲れたでしょう? とりあえず中に入って、ゆっくりしてください」

「うン、そうさせて貰おうかナ。あっ、でもその前ニ〜……っト」


ごそごそとポケットを弄り、一枚の紙を取り出しヤマへと手渡す。
それを受け取った事を確認すると、一つ頷き奥へと引っ込んでしまった。
まったく説明も無いまま渡された紙を、どうすべきか迷っていると、
不機嫌顔のまま横に来ていた公爵に、手から抜き取られる。

そのままの勢いで、少しの躊躇も無いまま、
折り畳まれていた紙を広げ、読み始める。

それから僅か数秒のうちに、眉間には深い皺が刻み込まれた。
その様子にびくびくしながらも、花子を緩衝剤に横から手元を覗き込む。


“ニシ企画 旧世界観光旅行のしおり”


既に組まれたスケジュール表が記載され、その上部にでかでかと
そんな文字が書かれていた。



[12379] 二話
Name: ナナナし◆de6645a9 ID:7d04721f
Date: 2009/11/19 17:40
 どうも、只今“旧世界”の“摩帆等学園”にまで着ちゃったヤマです。
今回は、ニシさん企画による
『頑張った自分へのご褒美(笑)旧世界観光旅行』へと参加しております。
参加者は、常日頃から頑張ってくださっている皆さん全員なのですが、
諸事情により“私の外”に出ているのはいつもの面子だけです。

いやぁ、それにしても……。
外へと出れない方々には申し訳ありませんが、めちゃくちゃ驚きましたね。

学園都市の名が、建前か何かでは無いかと勘ぐってしまう勢いです。
ヨーロッパですよ、ヨーロッパ。行った事ありませんけど。
唯でさえ狭い日本の国土を使用しての、正に身を削って逝った決死のギャグ。
景観法? 外国人土地法? 何それ、おいしいの? な世界ですね。
初めてGoogl○Earthで見た時には、相当量鼻血出ちゃいましたよ。
さらに、実物を見せて二度驚かせるとは……。
勝手の違う“ヘルズゲー○”のようですな。
今生の日本政府は、前世にも増してやりおるわい。

さて、もう入り口付近でお腹一杯の私は、近くの公立校の学園祭にでもよって
クラスアンケートとか、漫研部員の描いた漫画でも読んで帰りたい所なのですが、
そうは問屋が卸さないようです。


「おおぉおぉおう!!?? 此処が“麻帆良”かぁ!!」


よれよれとした灰色のスーツに身を包み、上等な黒塗りのステッキを握るニシ。
自らの年月を重ねた目を見開き、しかし、一切の衰えを見せない瞳を、
少年のように爛々と輝かせ、被っているチェック柄の帽子を振り落とさんばかりに、
辺りの様子をきょろきょろと観察している。
その横で、眉尻を吊り上げた怒り顔の公爵悪魔が、
ニシに対して呆れと怒りを存分に含ませた声音で、
歯に衣着せぬ鋭利な言葉で厭味をぶちかます。


「年甲斐モ無ク、コノ糞ジジィハ……何時ノ間ニ日本語ナンカ覚エヤガッテ」


吊り上がり過ぎて直視出来ない程、その端正な顔を歪めた悪魔の言葉を耳に入れた老人は、そんなものどこ吹く風といった風に不敵に笑みを浮かべ切り返す。


「ふふ……この観光が決定する三ヶ月前だ。儂に一切の抜かりは無いわぁ!!!」

「さ……流石ニシさん!!」

「黙レコノ化物爺ガ!? イイ加減、日課ノ怪シイ肝油ヲ止メテ地獄ニ堕チロ!!」


沸点を大幅に超え、グラグラに煮えたぎった怒りの感情が爆発し、
これが本当の殺意だと言わんばかりの感情に塗れた、
聞き様によっては悲痛な叫びが響き渡る。

ニシの提案により企画された、この旅行。

それにより、一番被害を被ったのは、
完全に涙目になりながらブルブルと肩を震わせている公爵悪魔及び、
その他の眷属達である。

今居る“現実世界”では、魔法は秘匿されている物であり、
その存在を魔法使いではない人々に発覚させてしまった場合、
本国、つまり魔法世界にて処罰されてしまう。
そんな、結構シビアな決まり事のある現実世界へ、
商店街組合で企画された小旅行的な感じで来た彼らは、
世紀の大戦犯者with今まで類を見ない異形の群れ。
締めには、肝油で長生き死なない爺さんとキテいる。

彼ら異形の持つ異常に強大な魔力、全身隈無く泡が立つような気配、
全ての生物に例外無く吐き気を齎す雰囲気。
それらが数えるのも馬鹿らしくなる程、途方も無い数の群れを成す。
そしてその群れの統率者であり、契約主でもある“ヤマ・マヤー”は、
魔法世界では名を口に出す事すらも忌避される魔法使い。

その素性の一切が割れていないとはいえ、そんな存在達を数が少ないものの、
魔法使い達が存在する学園都市へと赴かせる苦労は並大抵の物ではない。
その事実をニシに伝えるも、玩具を強請る子供のようにジタバタと両手両足ばたつかせ、
どうしても皆で行きたいと一歩も譲らなかったのだ。

そこからが大変だった。
既に立てられていた旅行のプランには、麻帆良学園祭が組み込まれていて、
其処へと予定内に訪れるには後数日も無い。ニシの所為で。
ということは、その短い期間でその問題点を全て解決する術を手に入れなければならないということだ。ニシの所為で。
別荘を駆使しようと、あまりにも時間が無さ過ぎるのが事実である。ニシの所為で。

ヤマの顔に関しては、割れていないので特に問題は無い。
厄介なのは、その身に宿る“力”と“眷属”共。
ヤマに召還された悪魔と妖怪は、本来の召還術とは異なった方法で呼び出される為、
本来の力を大幅に増幅させた状態でこの世界に顕現している。
ゾンビは、悪魔や妖怪を凌駕する力を持ち、その存在そのものが御法度だ。
ゾンビという呼称も最近では怪しくなってきた。

しかも、彼の学園都市には、都市全体を包み込む、
大規模な最高位結界が張られていると聞く。
いや、結界の問題以前に旧世界に一歩踏み込むだけで、
明治の頃より此の国に現れた西洋魔法使いだけでなく、
日本古来より存在し陰陽術を駆使する魔法使いにも当たり前のように勘付かれ、
全てが終いであるのは確定的。
旅行所の話では無くなるだろう。

つまり、悪魔・妖怪・ゾンビ自体と、その内に内包される要素の悉くを、
一片の欠片も漏らす事の無いまま存続させうる絡繰りが必要になってくる。
そう、頭の中で無造作に結論づけると、それを合図にしたかのよう、
即全勢力を注ぎ込み行動を開始する。
公爵が悪魔と妖怪の総指揮を取ることとなり、開発に参加させられている
人外自慢の、膨大な体力をガリガリ削らせながら無理矢理に作業を続けさせる。
開発に携わっている異形達は満身創痍の体で次々と崩れ落ちていき、
異界に送還される者や行動不能者まで出始める始末。

未だかつて無い膨大な犠牲者を出しながら、辛うじて出発一時間前に不完全ながらも、
実用段階にまで漕ぎ着ける事に成功する。
不死身の人外達が、満身創痍の身で横たわるその光景は、正に死屍累々。
誰一人として、ぴくりとも動きはしない。
姿形、精神にまで至り、体のに隅々まで統一性の無い床に倒れ伏している家族達を、
完成したばかりの“ソレ”を身につけたヤマが眠気と疲れを押さえつけながら、
旅行道具一式が詰め込まれたスーツケースと一緒に、自らの腹部に当たる部分へと、
ありとあらゆる法則を無視してポンポン放り込んで行くその様は、
あまりにもシュールだった。

そうした、何もかもが釣り合わない、多大な対価を支払いながらも
この旧世界観光旅行は敢行されたのだ。
公爵の怒りも当然だろう。
子供のようにはしゃぐニシを、今正に挽肉にせんと腕を振り上げた
公爵の背中を、優しくポンポンと叩きながらヤマが宥める。


「まぁまぁ公爵さん、落ち着いてくださいよ」

「ム、ゥ……」


もはや癖になってしまった、不満そうな唸りを上げる公爵を尻目に、
念の為にと、再度魔法を掛け直す準備を行う。
ヤマは、ボス戦の前に必ず二度セーブを行う男だった。


「さて、準備が整いましたので集まってください!」

「エッ!!?? サッキ入ル前ニ掛ケタンダカラ、モウイイジャナイカ!?」


不機嫌だった先程までとは打って変わって、何故かわたわたと顔を赤くして、
慌てたように言う公爵。
それを即座に却下するは、準備万端で後は呪文を唱えるだけの状態となったヤマ。
いつもとは異なる、その真面目な口調からは、今までに無い真剣さが滲み出ている。


「駄目ですよ、公爵さん。こういう時は、念には念を入れておかなければ」

「シ……シカシダナ……ア、アレハ流石ニ、ハ、ハ、恥ズカシイトイウカ……」


それでもなお、食い下がり阻止しようと諦めを見せない悪魔は、
林檎のように赤くなった顔を俯け、再度中止を進言するも、
願いは届く事は無かった。
その様子から、どれほど今から行う行為に対して、抵抗を覚えているかが
手に取るように分かる。


「それでは……」


軽く握った手を口元に当てると、一つ咳払いをし呪文詠唱を開始する。
すると、先程張り巡らした感覚疎外結界の中に、特有の魔力が満ち溢れ始め、
数秒しない間に全員の体へと流れ込んでいく。
周りの音の一切が消え去り、ふわふわと中空を漂う、
青白く光る光球に包まれるその光景は、一種独特の神聖さすら感じる事が出来る。
黄金に輝く、壮大な麦畑のようなものが辺りを支配し、
青白い天空が頭上に広がり、一陣の風が吹きすさぶ。

直後。

ヤマの口から唄うように漏れ出す、天上の音楽、天人の舞を幻視、
幻聴してしまう程霊妙な詠唱を締めくくる一節が放たれた。



「もっちゃらへっぴ〜もけもけさ〜!!!!!」



力強く。
それはもう力強く叫ばれる呪文の最終節。
今まで構築した静謐な空間、厳かな雰囲気、幻想的な光景。
ありとあらゆる物を瞬時にして破壊し尽くす一節は、
同時にとられる奇妙なポーズと共に終焉を迎える。


光の草原が霧散し、結界も解かれ全てが元に戻った。


「ふぅい〜……我ながら今回も完璧でしたね」


全てをやり遂げた漢の顔をマスクで覆い隠し、息を吐く。
その立ち姿には、得意げに光が瞬いているようにも見える。


「父上、凄くかっこ良かったです! 大好きです!」

「うんうん♪ 流石は我らの御主人だネ! 花子の“大好き”よリ大好きダ!!」

「うむ、やはり何度見ても素晴らしいポーズじゃのお。今度、儂にも伝授してくれぃ!」

「っ〜〜〜〜〜〜〜!!!???」


耳にまで朱色が浸食した顔を両手で覆い尽くし、
地べたに座り込んでしまっている悪魔を除いて大絶賛。
三人の拍手喝采を受け、ぺこぺこと頭を下げながら環の中へと戻る。

あまりにも時間が無かったことから、未だ不完全な“完全感覚遮断魔法”。
カイウ曰く「解る人には、洗い損ねたバスタオルの如く、ごわごわとした違和感を感じさせる」とのこと。
そうは言っても、このお祭り騒ぎの中ではほとんど気にならないレベルの話であるので、
特に気にする必要もない。
ここからも、人外達の異常に発達した技術力を窺うことが出来る。
残る問題の、夥しい数をほこる異形は最悪の場合を想定し、
ヤマの体の中へと入れ魔法の制御下へと納めるという方法をとる事となった。
それはいい、ヤマも人外連中も納得ずくでのことだ。
しかし、一つどうしても解かなければならない疑問があった。
それを解決する為、公爵へとヤマが質問を繰り出す。


「でも、公爵さん?」

「……ナンダ」


微かに赤みを残した顔を、手でパタパタと扇ぎながら、いつも以上に
ぶっきらぼうな態度で接してくる。


「未完成の魔法だけでは不安なので、魔具で補完するのは分かるのですが」


疑問を口にしながら、自分の顔に張り付く“魔具”を指差す。
ヤマの顔には、伊賀からやって来た“アノ忍者”の仮面。
それは、とても柔らかな、見れば思わず笑ってしまう
恍けた顔を象った仮面が装着されている。
仮面の放つ微妙な愛らしさも、いつものスーツにより不気味さを演出する、
一つの小物に成り下がっている事に指摘は入らない。


「いよいよもって、私の顔は仮面三重奏なんですけども……」


無論、「ともだち」「ムジ○ラ」「ハット○くん」のことである。


「全テ、カイウノ指示ダ」

「あ、そうですか」


公爵の簡潔な回答により、全ての問題が一瞬で解決に至る。
胸のつっかえが取れ、清々しい気持ちで祭りへと意識を移そうとした所、
いつの間にか、入り口で貰った学園祭案内を黙々と読んでいるカイウと花子。
パンフレットからは目を上げず、カイウがそのまま会話へと介入してくる。


「ねー、御主人」

「はいはい、何ですかカイウさん」

「皆で一緒だと行きたい場所を回りきれないシ、分かれて回らなイ?」

「沢山ありますからね〜、その方がいいかもしれませんね」


主から了承の言葉を得るや否や、先程まで視線を釘づけていたパンフレットから勢いよく顔を上げ、喜びを目一杯たたえた瞳を、最終日ということもあり
最大の盛り上がりを見せている学祭へと向ける。
と思いきや、その視線の先には前世の日本には影も形もなかった“大木”へと向けられていた。
あまりの熱の籠りように思わず引いてしまうも、カイウはそんな事気にした様子もなく上気した頬でいまにも飛び出して行ってしまいそうな姿勢を崩さない。


「いよーシ! それじャ、行って来まース!!」

「うひょひょひょひょ! 遊ぶんじゃー!! 遊び倒してやるんじゃー!!!」

意気揚々と、もの凄い速さで祭りの雑踏へと消えて行くカイウとニシ。
その素早さたるや、歴戦の戦士を遥かに凌駕する身のこなし。
それに着いて行く老人も、もはや人外認定を受けて当たり前の領域へと踏み込んでいる。
暴走する二つの背中を見送り、今だパンフレットに釘付けの花子の手をはぐれないように握ると、残ったヤマ達も祭りの賑わいへと歩みを進める。


「何か美味しいもの食べましょうね、花子」

「はいっ♪」

「アイツ等放ッテオイテ、本当ニ大丈夫カ……?」

「大丈夫ですよ〜。 さすがのカイウさんも、今回は無茶しないでしょうし」

「……オ前ガ無茶シナイトカ言ウナ、オ前ガ」


カイウの暴走を気にしつつも、何だかんだ言って旅行を楽しむ三人。

大勢の人が流れる先には、木製ながら勇壮な佇まいを魅せ、
パリのエトワール凱旋門を彷彿とさせる学祭門。
大結界をまんまとすり抜けた彼らが、門を潜り抜けたその瞬間より、
魑魅魍魎、悪鬼羅刹の巣食う『羅城門』へとその姿を変えてしまった。










誰にも気付かれる事無く。




あとがき
この作品には、序盤に原作キャラの「げ」の字すら出て来ないという、
恐ろしい呪いが掛かっています。
呪いを解くには百万ゴールドが必要です。


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