スポーツである以上、難易度の高い技にこそ高評価を!
私が思うに、現状の採点の問題は、難易度の高いジャンプの評価が低いことにある。
現状、トリプル・アクセルの基礎点は8.2。しかし浅田のプログラムを見ていくと、後半に組み込まれたトリプル・フリップ+ダブル・ループ+ダブル・ループのコンビネーション・ジャンプの基礎点は9.35になる。
キム・ヨナのプログラムで目立つのは冒頭のトリプル・ルッツ+トリプル・トウループのコンビネーションで、基礎点は10.00。どの選手よりも高い基礎点をたたき出す。
つまり、現状ではトリプル・アクセルに挑戦するよりも、コンビネーション・ジャンプの精度を高めた方が得点を稼げるのだ。
このままではトリプル・アクセルに挑戦する選手は消えてしまうだろう。
難易度の高い技に挑戦すること、それを奨励する採点システムであって欲しいと思う。なぜならフィギュアスケートは、純然たるスポーツだからだ。
今季フィギュアスケート界を振り返って見えてきたこと。
競技面の方に視点を移すと、世界選手権の採点表を見ていて気づいたのは、キム・ヨナはプログラムの冒頭に大きく点を稼ぐ技を持ってきていることだった。おそらく体のフレッシュな時点で、基礎点に加えて加点を確実に稼ごうという戦略だったのだろう。
対する浅田はトリプル・アクセルを前半に持ってきているが、なにせ基礎点がコンビネーション・ジャンプに及ばない不運と、加点がキム・ヨナに比べて少なかった。
むずかしいのは、加点や総構成点に関して言えば、一朝一夕には点が上がらないということだ。審判団の選手に対する印象が大きく、これは選手が秋に始まるシーズン全体を通して、どんな滑りが出来るのか、それを常に印象付けておかなければならないことになる。
その意味で、浅田は秋の出遅れがオリンピックまで響いてしまった気がする。
フィギュアスケートの一筋縄でいかないところは、オリンピックや世界選手権は一発勝負ではなく、シーズンを通して、どんなプログラムを作るのか、どれくらいの技をどれほどの確率で成功させられるのか、時間をかけて審判団にプレゼンテーションしていくスポーツだということだ。
その過程はやはり一年ほどかけて国家元首を選んでいく、アメリカ大統領選挙の仕組みと相通ずる部分がある気がする。
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筆者プロフィール
生島淳
1967年気仙沼生まれ。早大卒。NBAやMLBなど海外ものから、国内のラグビー、駅伝、野球など、全ジャンルでスポーツを追うジャーナリスト。小林信彦とD・ハルバースタムを愛する米国大統領マニアにして、カーリングが趣味(最近は歌舞伎に夢中)。
著書に『慶応ラグビー「百年の歓喜」』(文藝春秋)、『大国アメリカはスポーツで動く』(新潮社)、『監督と大学駅伝』(日刊スポーツ出版社)など。『BSベストスポーツ』(NHK・BS1毎週日曜21:10~)、『生島淳のアクティブスタイル』(TBSラジオ毎週日曜正午~)にも出演中。