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[4307] 薔薇色の十字架 (マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:46367299
Date: 2008/09/28 07:24
マリみてのオリ主ものです
オリ主が増えた分減っているキャラは一応いません
まあ、全キャラ出し切る自信はありませんが…

あ、内容はほぼアニメ準拠です
準拠って言っても改変してますが、凡そアニメと同じ流れになります
なので「原作では云々」ってのは勘弁して下さい…正直に言うと原作は読んでないので

それと努力はしますが、口調変じゃね?って所は多いと思うので変な所は直すので教えて下さい

上記を踏まえた上で、拙い所や酷い所は多少我慢してお楽しみください



[4307] 薔薇色の十字架 1話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:46367299
Date: 2008/09/28 07:25
爽やかな……ごめん嘘。別になんの面白味もない普通の平凡な朝
音楽プレーヤーで曲を聞きながら長ったらしい道を進み、我が学舎である『リリアン女学園』の高等部校舎へと歩んで行く
周りには私と同じく登校する生徒達がいるが、特にガヤガヤ話すわけでもないのでイヤホンで音楽を聞く私には何も聞こえない
しかし、クリス・インペリテリのギターソロは良い…心が洗われる。気を抜いたなら、私は前触れなくいきなりエアギターを始めそうだわ……おっと、よだれよだれ
と、曲にバッドトリップしている私の肩を誰かが叩いた
「ごきげんよう、春子さん」
「うっす、祐巳」
「相変わらずだね春子さんは」
「何、ここの挨拶は堅苦しくてね。親しき仲にも礼儀ありかもしれないけど、他人行儀過ぎるのは頂けない」
堅苦しい学風に逆らうことなく、堅苦しい伝統を持つ挨拶に朝から溜め息が止まらない
初めに挨拶についての説明を受けた時なんか、「は?バカじゃね?」と素で言ってしまったりしたし
まあ、周りにはそれが当然なのかもしれないが、外来の編入組でそれが常識じゃなかった私にとっちゃ、そんな挨拶には馴染めっこないのだ
それこそ最初は猫を数十匹でも被っていようかと思ってたけど、卒業まで被り続ける面倒に比べれば、端からこうだと認識させた方が楽に決まってる
……お陰様でクラスメイトは私を絶賛敬遠中だけどね!
ぶっちゃけた話をすれば、私はクラスの中では異物なわけなんですよ
周りを見ればお嬢様お嬢様お嬢様お嬢様……たぶんあっちから見れば、私は羊の群れの中の山羊みたいな感じかな?
実害は起こさないけど、仲間ではないから群れとしては弾かれる的な
そんで、こんな爪弾き食らってた私に近づいて来てくれたのが、この福沢祐巳って美少女
祐巳はこの学園で最初にできた友人で、お嬢様お嬢様した連中より感性が私に近いので、私的には大変好ましい娘っ子だ
そのまま二人でマリア像の前まで歩いて行き、祐巳は目をつむりここの学生恒例のお祈りタイムに入る
そして当然私も、お祈りの体勢に入る
ただ、ほんの少し…ほんの少しだけ他の生徒とはやり方が違う
私はいつも通りマリア像の前に立ち、マリア様に向かって左手を突き出し中指を立てる
―――聖母マリアより早くブラックサバスは私の中ににあった。心はオズに捧げてもいい
―――そして愛すべきオズは言った、「キリストファック!」と…
ならば私にマリア像を崇める道理がない!
他の生徒とは違う行為に、周りのお嬢様方は驚き不審がるも、育ちが良すぎるせいかこれの意味までは判らないらしい
まあ、敬虔なキリスト教徒の学生やシスターにバレた日には、その場での殴りあいか説教は確定だろう。ただし、このハンドシグナルを理解出来る俗な人が居ればの話だが
いつも通りのそんな私を見て、祐巳はかなりキツい苦笑いをしてから教室へ行こうと促してきたので、それもそうだと二人で教室へ向かって行った
――そいや、その苦笑から察するに、祐巳はこれの意味を理解してるって事だよね?


「ごきげんよう、春子さん。祐巳さん」
「おはよ蔦子」
「ごきげんよう、蔦子さん」
この挨拶をしてきた武島蔦子がこのクラスで私に近づいて来てくれたもう一人であり、写真部に在籍して他者の写真を得る為に全力を傾注していて、一度捕捉したなら如何な不利益を被ろうとハイエナのようにしぶとく誰かに食らいつく、ある意味厄介な美少女である
「それにしても、今日はやけに早いわね春子さん」
「たしかに。春子さんはいつものもう少し遅いから、あそこじゃ合わないものね」
「目覚ましが鳴る前に目覚めてね。やっぱし私が早く登校しようものなら、あまりの衝撃にジーザスも月までぶっ飛ぶかしら?」
私の軽いジョークに、祐巳さんは微妙な笑みをして蔦子さんは苦笑する
生憎、今日のジョークは奮わないらしい
「はぁ…それにしても、相変わらず蔦子はそれなの?」
こめかみに左手をあてつつ、右手でファインダーから私を覗くカメラを指さす
「私の感覚だと、春子さんは大物になると思うのよ。大物になるとなった後の写真は大量に出回るけど、大物になる以前のものにはプレミアがつくのよね」
「はぁ…だから、そこで何で私が大物になるってのよ」
「私の嗅覚がそう言ってるのよ」
「あんたの鼻は花粉症にでもかかってるんじゃない?」
これも私と蔦子のいつもの会話
何故か蔦子は私が大物になると言い、理由に関しては第六感的な発言しかしない
そして、そんな事はないと私が否定して、いいや、撮るね!と蔦子にパシャパシャ撮られる1日が始まった


「で、もう昼なの?」
「ぐっすり寝てたわね」
蔦子の言葉に小動物的に小さく頷く祐巳を見ると、なんだか癒された気になる
やっぱり祐巳は癒し系だわ
「じゃあ、昼食にしますか」
「準備がすんでないのは春子さんだけですけどね」
二人は片手に持ったお弁当を掲げ苦笑している
「そいつは失礼…んじゃ、行きますか」
悪い悪いと弁当を取り出し、昼食の為に二人を率いて庭へと出ていく
庭に出て周りを見たあと、蔦子が「あそこのベンチが空いてる」って言ったからそこに行き、三人で席を占拠しての昼食タイムに突入する
「つーたーこー、今日もおかずちょうだぁい」
「…春子さん、せっかく早く起きたなら、お弁当のおかずを作る時間はあったでしょ?」
溜め息を吐きつつ蔦子は自分のお弁当の包みを解くと、小さいお弁当が姿を現した
そんないつもの会話に苦笑しつつ、祐巳も自分のお弁当の包みを解くと小さなお弁当が出てくる
そして、話題の渦中の私も自分のお弁当の包みを解くと、包みの中から大きめのタッパーが出てきた
当然タッパーは半透明で、中の物の色が透けて見えるようになっているが、私のお弁当であるタッパーは上下左右どこから見ても白一色だった
だから、蓋を外せば当然タッパーの中身は銀しゃりのみである
「いい?皆のお弁当の主役である白米は貰えないんだよ。なら、白米だけ持ってきておかずは友情にしたら効率いいじゃん?」
「何で最後は疑問文なの?」
「ゆーみー、蔦子が虐めるー」
私は「よよよ」と泣き真似しつつ、隣で苦笑を続ける祐巳の華奢な肩に抱きつく
うむ。相変わらずの抱き心地
あまりの抱き心地に、左手が勝手に祐巳の腰に回っちゃうわ
「ひゃあ?!」
「はぁ…祐巳さん相手のセクハラ癖は治らないの?」
「手が早いのは不治の病だから無理」
真っ赤な顔でわたわたしてる祐巳を抱きつつ、セクハラだけは治らないと即答する
「けどなに?祐巳が羨ましい?もしかして、蔦子も抱いて欲しいのかなぁ?」
「そんなわけないでしょ」
プイッとそっぽを向く蔦子の耳が赤い事は、友人として指摘しないでおこう
それを指摘した挙句、蔦子が本気でそっちに走ってどっかに連れられて「アッ――!!」てのは、一応ノーマルな性癖である以上はご遠慮願いたい
私の抱きつきはスキンシップの領域であって、性的な意味は一切無いのだ
「は、はは春子さん!む、胸、胸!」
「へ?」
手をばたつかせ挙動不審の領域に入った首まで赤い祐巳を見ると、私の左手はいつの間にか祐巳の腰から胸に移動して揉んでいた
どうやら、無意識の内に移動して揉みしだいていたらしい
意識を向けたからには、とりあえず更に揉んでおく
「祐巳のちっぱいやーらけー」
「ひゃぁぁぁぁ?!」
透き通る青空に祐巳の可愛い悲鳴が響く
こんないつもの風景
当然それを写真に撮って、「やめないと文化祭で展示する」と蔦子に脅されるのもいつもの風景
そして、それに屈伏して食事を始めるのもいつもの風景だった
このまま三人で仲良くゆっくり学園生活を楽しもう
そんな事を密かに思いつつ、今日一日は楽しく過ぎていった



[4307] 薔薇色の十字架 2話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:46367299
Date: 2008/09/28 07:26
「ねぇ……蔦子。何で私がここに居るの?」
「春子さんも祐巳さんの友人でしょ?なら祐巳さんの為だと思って」
私の目の前には、建前で言えば「伝統と趣きのある建物」が。本音で言えば「古いってか、これ建築基準法改正前の建物だよね?耐震性を改築してないなら違法なんじゃね?」って建物である『薔薇の館』があった
「いやいやまてまて、その理屈はおかしいぞ。こんな、七面倒どころか八面倒にも九面倒にもなる場所に用があるなら、部外者の私は居ない方が絶対にいいって。てか、祐巳は祐巳で何したのさ?」
今日一日の祐巳を思い出してみると、不審な所がありまくりだった
今日はさすがにいつも通りの時間で来たら、何やらニヤニヤが止まらないって感じの蔦子に、一人百面相をしたかと思えば途端に上の空になったりと、何やらヤクをキめてそうな祐巳
何もなかったと言われても無理だが、なにもリリアンきっての鬼門である『薔薇の館』に用があるとは思わなかった…
これなら祐巳とはいえアレすぎて素で敬遠せずに、先に食いついてから敬遠すればよかったわ…まあ、今更なんだけど
「せめて、誰に何の用が有るのか聞かせて」
「ああ、春子さんにはこの写真を見せてませんでしたっけ?」
そう言って蔦子は胸ポケットから仰々しく写真を取り出し、私に見せびらかすように見せつける
写真がどうしたってんだろうか?
「この写真がどう―――あぁ?!」
私が写真を見て驚いたのを見て、蔦子は口の端を歪ませて悪人笑いをし、祐巳は輪をかけておろおろしだした
「この祐巳のタイを直してるのは、祐巳の想い人じゃなかったっけ?」
「…間違ってはいないけど、もっと普通に紅薔薇の蕾とか祥子さまとかって覚えられなかったの?」
「いや、名前とかは覚えてないし」
「学内でも有名な人なんだけどなぁ…」
「生憎と」
隣で呆ける祐巳に抱きつき
「ひゃぁぁぁ!」
「興味のある人以外どうでもいいんで」
「…そう」
「当然蔦子にも興味深々だから」
拗ねられても困るので、きちんと蔦子への配慮も忘れない出来る女、私!
と、そんなバカな事を考えていると、後ろから聞いた事のある声がかけられた
「山百合会に何かご用――春子さん」
後ろを見れば、ふわふわした髪をもつ優雅な我がクラスきっての天然美少女である――
「むっ?えっと……クラスメイトの――――」
あれ?名前はなんだっけ?
「…志摩子さん」
すると、蔦子が私の現状に気付いたのか、耳元で小さく教えてくれた
ありがとう蔦子!やっぱり持つべきものは友人だね!
「おおっ!そうそうそれ、志摩子さん。んで、何用かと聞かれると私も知らないとしか言えないんだな、これが」
ぶっちゃけ写真は見たけど、あれだけで用件を察しろというのも無茶だろう
「私と祐巳さんと春子さんは紅薔薇の蕾にお話があって来たの。ちょうどよかった、入りにくくて困ってたんだけど、志摩子さんがとりついでくれないかしら?」
普通に私も頭数に入ってるのね…用件すら知らないってのに
「祥子様なら二階にいらっしゃるわ。お入りになって」
志摩子が私達を先導するかのように扉を開けると、何の疑いもなしに蔦子と祐巳はついて行こうとするが、生憎と私について行く必要は…
「ほら、春子さん行くわよ」
「――ふぅ。わかったわよ」
蔦子に手を握って引かれ志摩子について行くと、とある扉の前で止まった
何で入らないかと言うと、中から怒鳴り散らすようにヒステリックな「横暴ですわ!薔薇様がたの意地悪」って声が聞こえたからだと思う
「むぅ…この扉の『会議中につきお静かに 山百合会』ってのは、皮肉のきいた盛大なとんちかなにかかな?外では黙って内で騒げって類いの」
「祥子さま、居らっしゃるみたい」
うむ。私の発言はスルーされたな
「えっ?今のが祥子様?」
祐巳が素で困惑してるって事は、所謂猫を何匹か被ってて、その被ってた状態が想い人だったわけね
「いつもの事よ」
あれだけのヒステリーをいつもの事とか、志摩子は見かけによらず大物と言うか豪胆と言うか…
しかし、そんな暢気な事を考える暇がある内は幸せだったんだと、後に後悔したくなるくらいそこからは早かった…
何が早かったかって言うと、志摩子が扉を開けようとしたら、中から髪の長いキツめの美女が飛び出したかと思えば、偶々扉の前に突っ立っていた祐巳にぶつかってマウントポジションをとって、謝るかと思えば手を引いて立たせて中に戻りいきなり疾風怒涛の妹宣言…
畜生、何がどうなって……はっ!これはスタンド攻撃か!?
「春子さん、帰って来て」
隣に座った蔦子に袖を引かれ、ようやく正気に戻れはしけど、いつの間に私は座ったんだろ?
正気に戻ってみれば、さっきまではBGMがわりに聞こえてたのは祐巳の自己紹介だったのね
「お姉様がた、そんなふうにして見つめるのは失礼じゃありません?ほら、祐巳がすっかり怯えてしまって」
見知らぬ相手を捕まえて、己の妹宣言する奴が失礼とか礼儀云々を語るなんて、これまた皮肉のきいたジョークだよね
まあ、私は空気を読める女だから口では言わないけどさ
でもさぁ、目端口の端が嘲笑に歪むのまでは我慢できないのよねぇ
「……春子さん、笑っちゃ駄目よ!」
蔦子から小声のツッコミが入ったので、しょうがないので嘲笑をしまい、久しぶりに自分の棚から猫を取り出して数匹纏めて被る
周りは祐巳に気を取られてる筈だけど、どうにも美しいまでにデコを強調した美女がニヤニヤ私を見てる気がするが、何かの気の迷いか自意識過剰の類いだと信じたい…
聞こえてくる口論未満の言い合いには、今現在何をしてるのかの話はあっても、それに至る過程についての話はされていない
ぶっちゃけ、部外者である私達にとっちゃ山百合会の内情なんか知らんわけで、今現在何がどうなって祐巳がああなってるのか判らず三人共々置いてけぼり状態である
「…ごめん蔦子、何がどうなってるわけ?」
「…ちょっと待ってて。はい!」
「何かしら武嶋蔦子さん」
「お見知りおきとは光栄です白薔薇様」
「祐巳さんならともかく、貴女を知らない生徒はいなくてよ」
アレが白薔薇様ねぇ………それより、蔦子ってやっぱり学園規模の有名人だったのか
まさか、そんな有名人な蔦子と一緒に居るからって、私の名前まで売れてないだろうね?
得てして本人は知らずって言うけど、自分の風評って入り難いものなんだから…
「恐れ入りますが、私と春子さんには話が全然見えません」
待て!何でそこで私の名前を出すんだ蔦子君!
そして、名前を聞いてニヤニヤするなデコ!
「そうね、説明しないと失礼ね」
いや、これだけ置いてけかましといて、失礼とか今更ですから
でもまあ、説明を聞かなきゃ判ら「説明なんて必要ありません」……いやいや説明を聞きたいんですが
「私がスールを決めた。それだけのことなんだから。今日はもう解散」
「なに勝手なこと言ってるの」
なんだろう…流れが非常に面倒克つダルい方向に進んでる気がするわ
「…蔦子、貴女達はコレを見に来たの?」
「…そういうわけじゃないんだけど」
「…はぁ。祐巳は役に立ちそうにないし、私がやるっきゃないか」
覚悟を決めて、面倒に対処すべく微妙な雰囲気の中で、私は静かに手を挙げる
「何かしら……えっと」
「初めまして。今日は祐巳さんの付き添いである蔦子さんの付き添いで来させられただけなので、面倒な挨拶等は省略させて頂きますが、現状私達三人はなんら山百合会の内輪の実情を知らないので、どこをどうしてこうなっているのかが理解できません。そこで蔦子さんが説明を求めたのですが、当事者は説明責任を放棄なされたので、我々三人としてはこれ以上理解不能な茶番に付き合ってられないのが本音なのですが」
おうおう、祐巳の想い人がどぎつい目で睨んでくるけど、生憎とこうなった責任は貴女にあるんですよ
事情を知らない他人を巻き込んだ挙句、楽しそうに内輪だけで盛り上がりやがって!私は他人で楽しむのは好きだけど、自分で楽しまれるのは性に合わないのよ
「失礼ですよ!なんなのですか貴女は!」
「なんなのかと問われましても、更に礼を失するようで悪いのですが、私は知識も少なくこれ以上祥子さまでもご理解頂けるよう、先程の紹介について噛み砕いて説明する語呂を持っていませんので」
歯よ砕けろと言わんばかりに歯を噛みしめながら睨んでくるけど、そんなのは生憎糠に釘打ち柳に風とばかりに受け流す
「それ以上、私の妹を虐めないで貰えます?」
「これは失礼。先程までの談笑を伺う限り、これは世間話の域だと思っていました」
私の言い様に、長身でボーイッシュな美女と隣に座るおさげの美少女は目を点にし、蔦子は「我慢できなかったかぁ」と言って溜め息を吐き、祐巳は顔を真っ青にしてしまう
まあ、曰く白薔薇とデコを含むほか二人はくすくすと笑い、祐巳の想い人は視線で人が殺せたら状態である
「言ってしまえば私は傍観者なので特には言いませんが、せめて当事者にさせられている祐巳さんに説明をするのが筋かと」
周りから「もう言ってるし」的な視線がくるけどカット!
「ほら祥子、そこまで言われても説明を拒むのかしら?」
「…………わかりました。大変不本意ですが、祐巳その他に説明いまします」



[4307] 薔薇色の十字架 3話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:46367299
Date: 2008/09/28 07:27
説明を聞かされ思った事を素直に言うならば「何でこんな茶番に付き合わないといけないの?」って感じ
蔦子も少々の飽きれ顔を表情に滲ませているし、祐巳に至っては自分が今現在ここに召喚されている意味を理解したのか、かなり重苦しい何かを背負っている
ぶっちゃけ、誰だって憧れの人に呼ばれた理由が『嫌な事を避ける為』とかだったら凹むでしょ…
てか、祐巳の想い人より偉いっぽい人が、「品位云々」とか言ってるけど、その程度で疑われ失墜する品位に価値なんてないんじゃないの?
そこで、ふと、今の今まで気にならなかった事が鎌首をもたげて私の中に渦巻いた
別にどうでもいい事だけど、気になったら止まらない
判らない事は、判ってる人に聞かなきゃ…
「……ねえ蔦子」
「…何、春子さん?」
「…どれが誰?」
「…………」
返事がなくて無視されたと思って蔦子を見ると、困惑したような呆れたような間抜け面の蔦子の顔がそこにあった
………ちょっとその顔が可愛いのは内緒だ
「…今更それを…まあ、春子さんらしいけど」
「…で、蔦子が判るのなら教えて欲しいんだけど」
そこまで言うと、蔦子はコホンと小さく咳をしてから先生のようにわかりやすく説明をしてくれた
「…右から行くと、おさげをしているのが島津由乃さん。隣がその姉で黄薔薇の蕾である支倉令さま。そして正面に行って、右でヘアバンドをしているのが黄薔薇様である鳥居江利子さま」
ほう、黄薔薇一族はこの三人なのか
それより、偶に私に視線を寄越してくるデコは、よりによって黄薔薇様だったんですか…
「そして、先程から祐巳さんを妹にする事に文句を言っているのが、現紅薔薇様である水野蓉子さま。その隣で髪の色素が抜けたかたが」
「白薔薇さま」
「その通り。名前は佐藤聖様。左に行って聖様の妹で…って、クラスメイトの説明はいらないわね。最後に、祐巳さんを妹にしたがっているのが小笠原祥子さま」
「ふむふむふむふむ。あいわかった、ありがと蔦子」
有名人揃いの山百合会も、私にとっては興味もなかったので名前なんか全然知らなかった…
教えてくれた蔦子に軽くウインクして、それを返礼にさせてもらう
それにしても、早く帰りたいなぁ…
周りは未だヒートアップしてるらしく、話が纏まる気配すら見せてないし
…そんな風に気を抜いていたから、まさか隣に誰かが近づいて来てたと私は気づかなかった
「…さっきから蔦子さんとひそひそ話して、どうかしたの?」
「…うぇっ!?えっと、ロ、ロサ・ギガンテス?!じゃなくて、ロサ・ギガンティア?!」
「「プッ!」」
あまりの驚きに言い間違えたよ私…
しかも、蔦子と黄薔薇に笑われた…
まあ、言われた本人はまだフリーズ中なんですが
生憎、他に聞こえてないのが救いか
「きょ、巨人族…プププ」
「し、白薔薇様じゃなく巨人族…プッ」
「「「???」」」
今にも腹を抱えて笑いだしそうな蔦子と黄薔薇に、内心腹を立てつつも顔が赤くなるのを止められない
偶々話していて聞こえなかった黄薔薇の蕾とその妹と、あまりに離れていて聞こえなかった志摩子は首を傾げて二人を見て呆然としている
まあ、紅薔薇一族+祐巳は未だ白熱してるらしく、誰も気付いてないみたいだ
「…しかも、複数形ってことは志摩子も…ププッ」
「それ以上笑わないで江利子…」
フリーズから復旧した白薔薇は、少々むくれつつも未だに笑うのを止めない黄薔薇に釘をさすが、黄薔薇の笑いは止みそうにない
「まったくもう…」
笑いを止めるのに諦めたのか、腰に手をあてて溜め息を吐きつつじと目で見てきた
ごめんなさい白薔薇様…わざとじゃないんです
「まあいいや、蓉子、そっちはどう?」
「どうあろうと今日初めて会った人と姉妹になるなんて、私は認めません」
「だよねー」
あっちは議会が回るけど、話は進まないらしい
「ちょっと待って下さい。春子さん達は、ここに祥子さまを訪ねに来ました。なら、初めて会ったのではないのではないでしょうか?」
志摩子の提言に、三薔薇は志摩子を見つめて、三人で目を合わせる
祥子に何か用事が合ってここに来たんだったよね?
えっと……しまった、用件は結局知らないよ私
けど、蔦子の感じだとあの写真が用件だとおもうんだけど、って、あの写真に写ってるのは祐巳と祥子だよね?
なら、事前にあってなきゃあの写真はありえないわけで……まあ、蔦子が持ってる時点でコラじゃないだろうし
蔦子は祐巳への援護射撃とばかりに、祐巳にいぶかしんだ視線を送る三薔薇に事の発端たる写真を見せる
と、三薔薇はあっさり祐巳と祥子が事前の知り合いだと信じ込んだらしく、今までの議論はなんなんだってくらいあっさり謝罪していた
その謝罪に、我が意を得たり状態の祥子が、あれよこれよとまるで往年来の友人同士であるかのように、三薔薇に巧みに説明して晴れて姉妹の許可がおりていた
――ぶっちゃけ、その写真を見た瞬間の祥子が「いつ会ったのかしら?」って溢して、それが聞こえた私は棒のような涙を流す祐巳を視界に収めつつ、いつか祥子を泣かすと祐巳の流された涙に誓った
ただそのまま話はトントン拍子に進むかと思ってたけど、どうやらそうは問屋が卸さないらしい
「姉妹になることは認めましょう。でも―――シンデレラを降板するのは許可したわけではないわよ」
「約束は…」
まるで妹を作る=降板となる約束があったかのように言っているけど、さっき聞かされた説明にはそんな約束はなかったし、説明し忘れならそんな重要事項は他人から捕捉されるだろうし
てことは、この面倒は祥子の一人相撲?
まあ、紅薔薇の発言以降、頭の中が鏡を片手に許可しなぃぃぃぃ!降板は許可しなぃぃぃぃぃ!で一色の私にはあまり関係ないけど
「劇を考えれば今更配役変更なんてできるわけがないでしょ」
「……帰ります」
「ちょっと待って!…あっ」
「……何かしら?」
気付いたら私は大声を出してた…
私も帰りたいのに先に帰るなんてって思ってたら、口から止める言葉だけ出たみたい…
どうしよ!どうしよ!別に話す事なんてないよ私!
けど、この場のこの空気で「ごめんなさい。なんでもないです」なんて言う勇気なんて持ち合わせてないし……
「よ、用済みになった祐巳―さんを、捨てるの?」
適当に場を壊さないような言葉が思いついた私は偉いと思うんだ
「どういう意味かしら?」
「貴女は主役を降板する為に祐巳さんを求めた。でも、祐巳さんが居た所で、貴女の望みは叶わない」
場は無言。ただただ無言で、部屋の全員が私に視線を向けてくる
やめて…もっと気楽な空気になって
「なら、今の貴女に祐巳さんは用済み。不要となるわけですが、それでも姉妹だと言うんですか?」
私からの即興の問いかけに、今度は全員の視線が祥子に向かう
しかし、そんな視線等はものともせずに、祥子は私を力強く見つめて言い放った
「もちろん、祐巳は私の妹ですわ。貴女は私を侮辱なさるのですか!それではまるで、私が祐巳を利用する為だけに妹にしたみたいではないですか」
そう言って私と祥子は無言で睨み合うと、その空気を緩めるような雰囲気で紅薔薇が
「よかった。その質問の返答次第では、私は祥子との姉妹の縁を切らないとならなかったわ」
と爆弾発言を投下した
この空気だから爆弾は不発だったけど、たぶんみんな張りつめてなければ爆発しただろう
紅薔薇にバトンを渡し、何とか山を乗り切った私は祥子から視線を外し、未だにポカーンとしている蔦子に向き直る
「…何よ」
「…春子さんが、あの場で発言なんてすると思わなかった」
「…色々あったの」
うむむむ…耳が熱い
どうにも話はロザリオの受け渡しに移ってるようだけど、思いの外テンパってた私はあまり聞いてない
少しニヤつく蔦子から顔を背けると、そこでは祥子が祐巳にロザリオを渡す場面だった
祐巳、とうとう妹になってしまうのか……虐められたら私に言いなさい。相手に兆倍にして返してあげるからね
そんな、厳粛とまではいかなくとも厳かな雰囲気は、ふわふわ髪の志摩子によって無粋にも粉砕された
なんでも、妹になる祐巳の気持が問題だとか
私の後ろに未だに立っていた白薔薇は、眉間に手を押しあてて軽く溜め息を吐いている
まあぶっちゃけ、こうなるように仕向けた最初の発言をしたのが志摩子ならば、なったらなったで粉砕したのも志摩子だった
「…白薔薇さま、志摩子さんはどっちの味方です?」
「…あの子も悪い子じゃないのよ」
それにしても、三薔薇は志摩子の意見は聞いてみるんだな
「申し訳ありません…」
な…祐巳?!
「私…やっぱり、祥子様の妹にはなれません」
場が凍るって、こういうのを言うんだね…
何を言い出すんだい祐巳?
祥子を盲信してたんじゃないの?
姉へのあてつけでの姉妹宣言でも、しちゃったもん勝ちなんだよ?
姉妹関係に行き詰まっても、話を振ったのは祥子なんだから、そこを果敢に突いて慰謝料を…
「どうしてって――聞く権利くらい私にもあるわよね?」
本当に悔しそうに、本当に悲しそうに、祥子が祐巳に問いかけると、祐巳から要領を得ない返答だけが虚しく帰って来た…
私から言わせて貰えば、私等を巻き込んだ罰だ



[4307] 薔薇色の十字架 4話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:46367299
Date: 2008/09/28 07:37
祐巳の要領を得ない返答の後、山百合会の面々は連敗街道まっしぐらな祥子を慰めつつ、シンデレラの詰めの話をし始めた
もう帰っていいのかな?
祐巳さん祐巳さん、祥子をふっといて助けに行くのはどうかと
てか、祥子も「まだいらしたの」は無いだろ…
「ねえ、君はこの場合どうしたらいいと思う?」
後ろから白薔薇の問いかけに、私は少し悩んで間をとる
冷静に考えれば考える程に、いま何故私がここで頭を捻らないとならないのかが判らない
「それは、山百合会の問題なので、内輪で解決するのが一番じゃないですか?」
「内輪での結論は蓉子の言ったままなんだよ。だから、内情を知らない第三者な君の意見を聞きたいんだよね」
ふむ…理にはかなってるけど
「何かしらの司法取引的な事は出来ないんですか?」
「司法取引?」
「言ってみれば譲歩です。ここでシンデレラをやれば、今後の何かで優遇するとか」
「祥子がシンデレラをやるくらいの優遇かぁ……それは無理だなぁ」
「なら、この際姉妹の縁を盾に脅迫するとか」
「……もっと穏便な方向で」
「最後に、今やっていた妹が出来ないなら云々を、明確にルール付けてその景品として降板を。ベット金は自分の出演を。とか」
「つまり、今日と同じく妹を作らせるか、主役かの二択になると……どっちに転んでも、うちには損が無い。ただ、普通に妹を作らせずにルールを………」
思いの外私の提案にはまったのか、白薔薇は自分の世界に入ってしまった
まあ、どうなろうと私にゃ関係ないし
蔦子は心配そうに祐巳をみつめているけど、私そろそろ帰りたいの…
「嫌がるのを無理矢理やらせるのも…」とか聞こえるけど、さっきまでアレだけやれやれ言ってたのは誰よ…
「一つ、賭けをしましょう」
全員の視線が白薔薇向かう
白薔薇は、不敵に笑いつつ賭けの説明に移った
「頭ごなしにやれって言っても、嫌なものは嫌でしょ?なら、祥子に選択肢をあげる。賭けに勝てば、シンデレラの劇自体から降板しても構わないけど、逆に負けたらきちんと主役をやってもらう。やるからには、勝っても負けても反故に出来ない契約だ」
「わかりました。その賭けとは?」
「祥子が祐巳さんを妹に出来るかだ。一度断られた相手を妹にするのは至難の業だよ。それと、祥子が可哀想だからってその気もないのに受けちゃ駄目だよ。それで空いた劇の穴は、君に埋めてもらうんだから」
確かにこれなら劇に穴は空かない上に、祥子に妹ができれば儲けものって話だろう
いやはや、白薔薇はなんてしたたかなんでしょ
「あ、それと」
白薔薇は、ふと何かを思いついたかのように笑い
「それで劇を降りる場合、君も空いた端役で出てもらおうかな」
なんて私の肩に手を置いて言ってくれやがりました
「な、何故に私も!?」
「この賭けの企画原案は君でしょ?だったら、君も祐巳さんの友人だし一蓮托生で」
あ…ありのまま今起こった事を話すわ!
『私はは白薔薇に聞かれて答えたら、それを理由に私も劇に出ろと言われた』
な…何を言ってるのかわからないと思うけど、私もなんでそうなったのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…関係無いだとか横暴だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない
もっと恐ろしい山百合会の片鱗を味わったわ…
「ロザリオを受け取った時点で貴女は祥子の妹。お姉様が空けた穴を埋めるのは、妹である貴女の役目でしょ?君はまあ、祥子が降りた時はお願いね」
私の肩をもう一度ぽんと叩くと、そう朗らかに言ってのけた
そんな風にされても、石化した私の精密コンピュータ(8bit)は何もアクション出来なかったけどね…
視界の片隅では、黄薔薇が今度こそ腹を抱えて笑ってた


「どうしてOKしないかなぁ。祐巳さんが妹になれば、祥子さまとの交渉もしやすくなったし、それに…」
蔦子は自分の右手に繋がれた春子の手を見て溜め息を吐く
「春子さんもこんなにならなかったのに」
それでも、春子の手を引くのを役得だと思えるあたりは、蔦子の性根も太いのかもしれない
「蔦子さんは、私じゃなく写真の心配をしていたわけ?確かに春子さんについては、私が巻き込んじゃったんだけど…」
祐巳は祐巳で、春子に関してやはり多少なりと罪悪感がわいているらしく、蔦子に引かれた春子を見る祐巳は少し暗い
そんなこんなで色々あった一日だが、マリア様の前に着いた祐巳はマリア様に平穏な日々を願い、蔦子はさすがに春子の家まで引く気はないので起こしにかかった
「起きて、ねえ起きて春子さん」
「……………」
「起きてってばぁ」
「…………す」
「へ?」
「絶対泣かす!」
「「ひゃぁ!」」
「んあ?マリア像の前?」
私は確か薔薇の館に居たはずなんだけど…あれ?
いま私はマリア像を見て、これだけは絶対に言わなきゃいけない事がある
今しがたちょっと飛んでた記憶が戻った……用も知らず薔薇の館に連れられて、何故か争いに巻き込まれ、何故か場合によっては文化祭の劇にでなきゃならなくなった
だからこそ、大声で吼えてやる!
「神は死んだ!」
うん。落ち着いた
「気は確か…?」
「大丈夫。今なら銀杏並木に効率的に火を放てるよ」
「だ、駄目よ!」
「ジョークよ」
後に祐巳は語る。『春子さんの目は本気だった』と
「えっと、あ、マ、マリア様の心ね」
「ほ、ホントだ!あ、幼稚舎の頃からずっと不思議に思ってたんだけど」
バレバレな二人の話題転換でも、春子はなんら言わなかった
ぶっちゃけ、自分の為に二人が何かしてくれるのが春子は嬉しかっただけなのだが
「青空、柏ノ木、鶯、。そこまではわかるのよ。マリア様のお心を美しいものに例えてるの。でも、どうしてサファイアなんだろう?」
「そんなこと、疑問に思ったことも無かったけど…」
「春子さんはどう思う?」
祐巳に問われた内容を反芻し、自分なりに考えてみる
言われてみれば、確かに他は自然の美しさに例えてある。まあ、貴金属だって自然現象で生まれてるんだけどね
「そうだなぁ…最後にサファイアが来るあたり、貴金属からお金を連想させて、どんな聖人も最後の御心はお金次第って締めたいんじゃないの?」
「そんな理由じゃないと思うんだけど…」
私の持論に苦笑しまくりの祐巳と、一理あるかもと考えている蔦子に持論の根拠を話してあげる
「いい、祐巳?マリア様を信じる者は多いけど、信者と書いて儲けと読む。で、信者が多いってことは、即ち儲けが多いって事だ」
「………」
なんだろう?祐巳の綺麗な視線が痛い…
きれいに落ちてるはずなんだけどなぁ
「とにかく帰ろ。随分と、遅くなった」
マリア様から目をはなし、後ろを向いて歩きだそうとしたところで、ある声に出鼻を挫かれた
「お待ちなさい」
驚いた祐巳が一番早く振り返り、それに続く形で私と蔦子も振り返る
「覚えていらっしゃい。私は必ず貴女の姉になってみせるから」
祥子そう言いたいことだけ言って、「ごきげんよう」と去って行った
祐巳!貴女がきゃつの妹になった日には、私は…私は!



翌日、リリアンに来るとそこは―――「祐巳さんはどれ?」「祐巳さんは」「祐巳さん」「祐巳」「祐巳」「祐巳」「祐巳」「春子」「祐巳」「祐巳」……
って、ちょっと待て!私が目当てで来た人が居たよね?!
何?何の噂が流れたの!
「落ち着いて春子さん…」
「これが落ち着けるか蔦子!あっちもこっちも祐巳祐巳祐巳祐巳と、祐巳は動物園のパンダか!」
桃組の前には山のような野次馬が集まっていて、私達に――主に祐巳にだが――無遠慮な視線を投げ掛けてきて、思いの外疲れて機嫌が悪い
部外者の私ですらこんななので、祐巳の心労は計り知れないだろう
学園に来て判ったのは、どうにも昨日の内容が"部分的にぼかして"学園内に噂として流れているらしかった
当事者でなければ判らない内容が、噂として流れている以上はほぼ完全に内部犯の仕業だと考えられるだろう
何故なら、流された噂が単純に『祐巳が祥子のスールを断った』としか流れてないからだ
もし噂の元凶が外部犯の場合、偶々扉の外で聞いていた事になる
確かに建物も古く、防音性能の低い薔薇の館ならそれもあり得るけど、聞こえていたなら何故祥子のシンデレラ話が流れない?
ここで仮定として、流した外部犯が祥子信奉者だとして、自分の『愛すべき紅薔薇の蕾がシンデレラを降りる為に妹を云々』の話をうやむやにしたいから流してないなら、元よりこんな噂は流れないだろう
そこまでの信奉者なら、シンデレラの一件以前に『愛すべき紅薔薇の蕾がフラれた』だなんて、まかり間違っても流さないだろう
それでも流れるなら、内容は『愛すべき紅薔薇の蕾に言い寄った祐巳がフラれた』に改竄されるだろう
まあ、客観性もない先入観で作った理論だけど、あながち大外れって事も無いんじゃないかな?
だとするならば、次は犯人と目的だ
山百合会の面子には昨日あったけど、とりあえず先入観だけで見れば志摩子は白だろう
別に、白薔薇の蕾にかけた訳じゃないよ?
動機がないし、志摩子が流したなら多少の取り巻きが志摩子に生まれるはずだし
その理屈で行くと、令と由乃も白だろう
ただ、昨日会って大笑いしてた黄薔薇が犯人の場合、駒として動いてるかもしれないけど
祥子なんか真っ白も真っ白、あれは座して死ぬと決めれば土壇場でも足掻かないタイプだ
間違ってもこんな搦め手は使えない
そうして絞れるのは、三薔薇の誰かだというまで
それ以上は、先入観から一歩飛び出た決めつけの域に入る
あ、当然私と蔦子は白ね
生憎祐巳を売る気はないし、蔦子も態々リスクを冒してまでこんな真似はしないだろうしね


後書
現在のところここまで書かれてますが…文才は無いので毎週更新だなんて狂気は出来ないので間が開いちゃうかも
内容は面白くと心がけますが、空回りするところも多々あると思いますが、主人公の春子を生暖かく見守って上げてください
あ、それと後質問ですが、1話分の文量は少ないですかね?
一応この後も1話分はほぼ同じ分量で行こうと思いますが、短いなら2話を繋げて次回から1話にします



[4307] 薔薇色の十字架 5話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:59dfd718
Date: 2008/10/03 12:53
「もしかして、春子さんか蔦子さんが話したりしてない?」
「私が祐巳を売る卑劣漢に見える?」
「…見えない」
「犯人がまったく判らないのが、祐巳さんの幸せなところであり不幸なところね」
祐巳は本当に純粋で可愛いなぁ
それにしても、今回のこの噂工作は祐巳の心が綺麗だからこそ、いまのように効果を発揮してる
私や蔦子にこれをしたら、どう転んだところで山百合会に根深い不信を残すだろう
どう考えても、犯人はその中の誰かなんだから
「昼休みの間は教室に居ない方がいいかもしれないわね。新聞部の取材が来るという情報もキャッチしたし」
「新聞部が来るな、祐巳は逃げた方がいいんじゃないかな?もし巻き込まれたのが私や蔦子なら、この瓦版の記事を使って事態の沈静化をはかるけど、祐巳はいらんこと言いそうだし…表情でだいたい駄々漏れだし」
長く付き合っている友人の考えは顔を見れば判るって言うけど、祐巳の場合、付き合いが長かろうと短かろうとだいたいバレる
「けど、とうすっけー?何処か静かに昼食をとれる場所はある?」
「私は知らないなぁ」
「私も…」
ダメダメな三人だった
そんなダメダメな私と祐巳の肩を叩く手があり、ソッチを見ると志摩子が立っていた
「春子さん、祐巳さん。こっち」
「志摩子さん?」
「蔦子…任せた」
「貸しね」
「その貸しは当然祐巳にだよね?」
「正確には二人に…だね」
「……はぁ。じゃあ、志摩子―さん。逃げ場があるなら連れてってくれ」


「――どうしよう」
「どうかしたの春子さん?」
「?」
逃げ場を得て来て食事を始めようとして気付いた
「蔦子が居ないとおかずが…」
私のタッパーには、今日も今日とて米だけが詰まっていた
「あ、あはは…」
祐巳…目をそらしながら苦笑するんじゃありません!
「申し訳ないんだけど、志摩子、さんもできればおかずを分けてくれないかな?」
「はい。あと、呼びにくかったら呼び捨てでもいいですよ?」
「ありがとう、志摩子」
あまりの嬉しさに、笑みが駄々漏れですよこりゃ!
右手で箸をもつ志摩子の右手を掴み、ぶんぶん振り回す
いやー、人情が身に染みるねぇ
「それにしても、志摩子さんはいつもこんな所で食事をしてるの?」
「季節限定よ。春と秋のお天気の良い日」
志摩子と祐巳はほのぼのと「夏は?」とか「銀杏は」といった話に花を咲かせてるけど、あれ?私は別に来なくても良かったんじゃない?
「ねえ志摩子、なんで私まで連れてきたの?」
「えっ?だって、春子さんの噂も細々と流れてるんだもの」
畜生、やっぱりか!
「ち、ちなみに、なんて流れてるのかね志摩子君?」
「その…本人にロサ・ギガンテスと言ったと」
悪意がそこはかとなく透けて見えるぜ!
まさか、こんなちゃちい嫌がらせというか報復が来るとは…
内容があれ過ぎて、文句を言う気にもなれないわ…
って事は、あの時教室で聞こえたのは気のせいじゃ無かったのか…
「春子さん、それ本当?」
「あーっと、間違ってはいない…」
祐巳から「えーっ!」って視線が刺さるけど、言っちゃったもんはしょうがないじゃん!
えぇい!冷えろ私の頬!
「ふふふ。祐巳さんも春子さんも面白い。お近づきになれて良かったわ」
志摩子に微笑ましく笑われたよ…
こんな私を癒してくれるのは、フラットタイプの祐巳のちっぱいだけだよ…
そんな事を思いながら、癒しを求めて祐巳を抱こうとしたら、そこにはやたらとシリアスな祐巳がいて抱きつきなんざ許されない空気を醸していた
「志摩子さん。聞いていい?」
「何かしら?」
「志摩子さんは、どうして祥子様の申し出を断ったの?」
「祥子さまには私では駄目だと思ったの…逆に私にも祥子さまでは駄目なのよ」
「どういう意味?」
プロデューサー!シリアスですよ、シリアス!
……おっと、シリアスな空気に頭が少し無個性になってた
志摩子の話は続き、その説明を聞くだけで祐巳は相変わらずの百面相を発揮して、祥子が祐巳にフラれて凹んだと聞いて目が落ちんばかりに見開いていた
「祐巳さんは、どうして祥子さまの妹にはなれないって言ったの?」
「……………」
「―――はぁ。志摩子、祐巳。チャイムが鳴ったし、教室に戻るよ」
私が行こうと言って質問をうやむやにすると、志摩子の質問で生まれた重苦しい空気は霧散していった
まあ、祐巳の苦い表情は変わらないけど、この問題は最後に結論を出すのは祐巳だから、祐巳が気持の整理をするまで待つしかないからなぁ
その結論によって、私も被害を被らにゃならないのが納得いかんけどねぇ…


放課後の音楽室、掃除も終わったその部屋には、ピアノの旋律と美しい歌声が溢れていた
「―かわいいぼうや、ぼくのところへおいで。一緒に遊ぼうよ楽しいよ♪」
「…春子さん?」
「――怖がるな大丈夫だ。あれは木枯らしが風に鳴っているんだ♪」
「…ねぇ春子さん?」
「―――お父さんお父さん!魔王に連れて行かれるよ♪」
「…ねぇどうしてシューベルトの魔王なの?」
「――――ようやく館にたどりついたが、その腕のなか、子供はすでに息絶えていた♪」
私は曲を歌い終えて、ひとつ深呼吸をして曲の意図を祐巳に伝える
「今のは私が祐巳に捧げる歌。とりあえず、配役はお父さんが私で、息子は祐巳。当選順当にいって魔王は祥子」
この歌の意図は簡単
この歌の登場人物と、それにあてはめられた配役が現状を示しているだけ
魔王祥子は息子である祐巳をたぶらかし、自分のものに射止めんと力を入れて、私は魔王祥子の下に息子祐巳が行かないようにフォローする
…しかし、この歌の最後は息子の死で締めくくられている
正直な話をすれば、私は祐巳をどうフォローすべきなのか迷っている
祐巳が魔王……はもうよくて、祐巳が祥子を敬愛しているのは会う前から変わらず、しかも正確には会ってからより一層尊敬した思う
この件の問題は、祥子と祐巳の二人が使う天秤が、主観の位置によって違うことだろう
祥子の反応を見れば、彼女主観の天秤では二人は釣り合っている
けど、祐巳が主観の天秤では二人は釣り合わない…
何故なら、祐巳の天秤には祥子と自分を比べて生まれた劣等感が、自分の天秤に追加ベッドされている
そう、とどのつまりが、祐巳の劣等感さえ除かれれば問題は解決する
けど、そうすると無駄なリスクと言うか、劇と言う面倒が私に降ってくるやもしれない
だからって、祐巳がここまで祥子を敬愛してると知りながら、私は祐巳を誘導して祥子の妹になる道を閉ざせるか?
本当にそんな人間が、こんな純粋無垢な福沢祐巳の友を名乗れるのか?
だからって、若い頃の面倒は買ってでもしろって言うけど、生憎私は格言通りに買えるほど殊勝でもないし…
「祐巳」
「何?」
「祐巳は祥子の妹になる事を断った……でも祐巳は、祥子が好きなんだよね?」
私は祐巳を見ずに、弾くのを止めた鍵盤を見ながら祐巳に問う
祐巳は息を飲むように少し黙り、二人の間に沈黙が横たわるけど、この沈黙は重苦しい沈黙じゃない
「――わ、私…は」
少しどもった、しかし力の籠った祐巳の声
この返答で、私の指針に道標をなそう
「私は、祥子様が…」
「…私が何かしら祐巳?」
って、空気読めずに本人降臨!?
祐巳の性格上、例え答がどっちだとしても本人が居ちゃ言えないって…
ちょっとばかしタイミングの悪い祥子に、ついつい向ける視線はジト目になってしまうのはやむを得ないよね?
そんな視線に気付いたのか、表情に出さないがそこはかとなく不機嫌な祥子…不機嫌になりたいのは私だ!
「…あら、貴女も居たのね?」
「祐巳、さっきの答えは聞かない。ただ、その答えを結果に反映させるよ」
不機嫌祥子からかけられた言葉はスルー
眉が露骨にピクピク蠢いてるけどスルー
まあ、祐巳の答えは聞かなくてもわかる
――だって、祥子が来てから祐巳の瞳が輝いてるしね
「おっと、祥子さまもいらしたんですか。じゃあ、この場はおいとまさせてもらいますわ」
他人が――しかも私が――居ては、祐巳と祥子が二人の世界に入れないだろうし、気を使って私は帰宅する
そんな私は祐巳の幸せを祈りつつ、如何に劇にでないかの算段を考えていた
でない為には…三薔薇にでも交渉に行く?でも、会った感想を言えば面の皮が分厚そうだったよ?
新聞部にでも事の顛末を売る云々で脅すきゃないかな…
いや、逆に考えるんだ。劇にはでるけどステージには出ない流れもあるよな?
そうと決まれば薔薇の館に…でもあそこには二度と行きたくないし
そんな先に思考を取られていたが、世界はそう甘くはないらしい
「待ちなさい。貴女もこれから学園祭までずっと、放課後はシンデレラの稽古に付き合ってもらうわよ」
「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってー!」
今、私は、聞き捨てならん事を言われた!
「私が劇に出るのは祐巳次第だよ?更にはそこから祥子さま次第になるんだよ?!」
「貴女は祐巳が絶対に私の妹にならないと確固たる自信があるの?」
そこを突かれると弱い…
ぶっちゃけ、祐巳が妹になるのは私の中じゃ決定事項に近いし
「劇なんざやった事はないですよ?」
「貴女が練習にでずに、本番で醜態を晒したいのなら話は別ですけれど?」
「でも今日はちょっと勘弁してもらえないですかね?」
「…何か用事でもあるの?」
「帰り際にゲーセンに寄りたくて…って、あ」
おお…八百万の神よ、我を救いたまえ…
目の前に…目の前に鬼神が降臨なされた…
た、助けて祐巳さん!
「祐巳――体育館に行くわよ」
「はっ、はい!!」
「――当然、貴女もよ」
「サー、イエッサー!」
武力とはかくも恐ろしい…そのバランスが崩れただけで、飲めない要求もあっさり飲めてしまう
返しよ私の放課後…



[4307] 薔薇色の十字架 6話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:59dfd718
Date: 2008/10/14 11:13
「なんつうか、踊りひとつとっても皆優雅だね。ここに混ざれって言われなくて良かったわ」
「………」
「そういえば、あの踊ってるのが貴女の姉よね?姉のいる生活って色々どうなの?」
「………」
「私は姉を作ろうとは思わないからなぁ……あ、足踏んだ」
「……!」
体育館にはダンスの曲が流れ、中心では演劇部が円を作るように踊り、その中では祥子と無言の由乃の姉である令が優雅なダンスを魅せている
私は鬼神に体育館まで連れ去られ、そのまま紅薔薇に引き渡された
そこで聞かされたのが、「出てもちょい役、最悪ガヤ」という素晴らしい話だった
練習する必要も無いし、まるきり台詞がない可能性まである
あまりにも嬉しくて、さっきから椅子に座って真剣に踊りを観る由乃に話しかけても無言でも、問題なしと話しかけ続けてる
「にしても、こういうのを観てると『天つ風 雲のかよひ路 吹きとぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ』ってのも解るね。まあ、乙女の衣裳が制服とジャージってのが頂けないけど」
「……天つ風?それってどういう意味なの?」
「お、やっと興味もってくれやがりましたね!と言っても、踊りを集中して観すぎだっただけなんだがね」
「もしかして、前から話しかけてたの?」
「そりゃもちろん。暇だったから。まあいいや、意味だけど今のは百人一首の和歌ね。内容は踊る美女を天女に例えて、踊る姿を見続けたいから風が吹いて天に戻る路を閉じてくれって話」
まあ、内容的にはわかりやすい俳句だし、男の願望駄々漏れの俳句だと思うけど、この欲望も駄々漏れの俳句を詠んだのが坊主ってのが落ちだ
意味を理解したのか由乃は私に向けた目を踊る令に戻し、小さく頷いた
「…乙女」
話を聞いてから今一度由乃は食い入る様に令を見ているけど、なんか気のせいかさっきまでとは雰囲気が違うような…
ま、会って日もない私にゃ意味は判らないけど
「ちょっといいかしら」
「んあ?」
「江利子様?」
声をかけられた方を見れば、そこにはデコもとい黄薔薇が立っていた
「祐巳ちゃんに聞いたけど、春子ちゃんはピアノが弾けるの?」
私の頭が呆然しているのがわかる…
今、私は、何て、問われた?
『祐巳ちゃんに聞いたけど、春子ちゃんはピアノが弾けるの?』
『春子ちゃんはピアノが弾けるの?』
『春子ちゃん』
「何で私の名前ば知ってるとですかー!?」
「初めて薔薇の館に来たときに、カメラちゃんにそう呼ばれてたでしょ」
「おーのーだズラ!」
私の醜態に黄薔薇はにこやかに笑い、どさくさに紛れて由乃もいい笑顔で腹を抱えて震えてる
「―――ゴホン。ピアノは弾けますが、曲次第ですし平々凡々程度の実力です」
「なら、劇では幾つかの場面で弾いて欲しいのだけど」
「人様に聴かせるようなもんじゃないんですが…」
「それはいいのよ。CDで曲を流すより面白そうじゃない」
「いや、面白そうって…せめて、生の方が臨場感がとかなかったんですか?」
「確かに、それもないわけじゃないわね」
私は今まで中学校小学校で何かとピアノをせがまれたけど、曲を聴きたくてせがむわけでなく単に面白いって理由でせがまれるのは、普通に人生初体験だわ…しくじったら日本初かも
「私としては、是非ともCDをお勧めしたいんですが」
「弾いたらどうです?」
えぇい!おさげは黙っとれ!
「私の拙い演奏だと、面白くなるまえに悲惨なる可能性が…」
「それはそれで、楽しいと思わない?」
「絶対に私は楽しくないですよね!?」
誰かこの黄薔薇を止めてー!ついでにニヤニヤしてる由乃も止めてー!
火消し屋はまだかー!ストッパーの出前を要求しまーす!
「あんまり苛めたらダメだよ由乃」
2年の令さまだ!姉だし由乃の扱いに定評のある令さまだ!
「令ちゃんうるさい」
「ごめん」
弱いよ私の勇者さま!私の未来がかかってるから根性いれてよ!
てか、これだけ見るとどっちが姉だよ!って言いたくなるよね…
そ、そうだ!祐巳を、祐巳をここにもてい!
「し、白薔薇さま!?」
「それ、ワン・ツー・スリー」
畜生、あの娘っ子め!
人がピンチだって時に、白薔薇なんぞとイチャイチャしおって!
そうだ!こんな時こそ癒しをもたらしてくれる志摩子を!
って、体育館に居ないしね…
おお…私が助けを求めたのに悉く駄目だった事を勘づいたのか、もう黄薔薇が笑顔ってのなんの
私の安息はどこへ行ってしまったの…?
「…はぁ」
「溜め息を吐くと幸せが逃げるわよ」
「溜め息なんて、幸せが逃げたからする確認作業の類いですよ…」
何だろう…?私の幸せが逃げれば逃げるほどに、黄薔薇と由乃の笑顔が濃くなってく気がしてならない…
まさか、私の幸せはこいつらに食われてたりするの?
…………ありうるぞ
「なにか変な事を考えてるでしょ?」
黄薔薇の目が…顔は笑ってるのに目が笑ってないよ
って、由乃の視線までも刺々しい…
黄薔薇一族は他人の心を読む能力でも持ってるの…?
「心なんて読めないわよ」
「読まれてるー!?」
「春子さんは考えが顔にですぎ」
「くそぅ…ポーカーフェイスは淑女のたしなみだったか」
もう私は体育館の隅で頭抱えて座ってたいよ…
あーやだ、もーやだ…って、んむ?
「ありゃ、祐巳は?」
「祐巳さんは、春子さんが壊れてから『忘れ物がある』と言って行きました」
「置いてかれたんだ私…ははっ、置いてかれた…」
あまりに理不尽な仕打ちに、私ゃ涙が止まらないよ
世界とはかくも理不尽なものなのか…
「そうだ春子さん。体育館にピアノがあるから、何か弾いてくれない?」
「そうね、私達に聞かせてくれないかしら?」
紅薔薇も笑顔が眩しいっすねー
「春子ちゃんのピアノ聴きたいなぁ」
白薔薇も輝かしい笑顔だねー
「あ、あはは…」
こんな輝いた笑顔に囲まれると、令の苦笑いがとても嬉しいよ
椅子から立ち上がった由乃に手を引かれ、体育館の隅に出されたピアノの前に着席する
どうにも逃げ場は失われたらしい…
「……はぁ。もう弾きますよ…で、何を弾いて欲しいんで?」
「何を弾けるか判らないから、有名な曲なら構わないわ」
そんな注文が一番質が悪いんだよね
有名な曲ねぇ…
「例えばこんな曲とか…」
『ジャジャジャジャーンジャンジャンジャッジャジャーン♪』
「――聞いたことがないわね。聖はある?」
「私も無いかなぁ?江利子は?」
「…さぁ?これは何て曲なの?」
首を傾げる紅薔薇に聞かれて肩を竦める白薔薇
そんな白薔薇に聞かれた黄薔薇もあてがないのか、とりあえず令と由乃に聞かず私に直接訪ねてくる
ゆ、有名な曲なんだけどなぁ…
「これはFC版FFの戦闘終了の曲」
「ふぁみこん版ふぁいなるふぁんたじい?」
首を傾げながら微妙に発音が違う感じで反芻する黄薔薇に、私の胸がちょこっとときめいたのは絶対に秘密だ
「クラシックじゃないの?」
「あーっと、私クラシック好きじゃないんで」
「クラシック嫌いなのにピアノなの?」
由乃の疑問も間違っちゃいないだろうけど、好きじゃないもんは好きじゃないんだよなぁこれが
「長ったらしい上に曲の起伏が微妙だし……いや、せめてビートルズみたいな曲があればクラシックも好きになれるかもしれないけど」
そこまで言って、ピアノでゲットバックを軽く演奏する
やっぱりピアノだけだと曲が軽いね…ドラムの重低音分が足りし、ウーハー分が皆無だわ
「なら…」
「当然、聖歌の類いも不得意ですよ」
「…そう」
紅薔薇が口を開いたので、たぶん聞かれるであろう事を先に答えて発言を潰しておく
どこでどんな発言が私を不幸にするかわからないからね
…これ以上不幸のどん底に堕ちるわけにはいかないのだよ!
「そのポケットから垂れてるのって…」
「これ?私の音楽プレーヤーだけど」
「少し聞かせてくれない?」
「別に貸すのは構わないけど……由乃さんの趣味に合う曲なんか入ってないよ?」
ポケットに入った音楽プレーヤーを由乃に渡すと、ニコニコ笑ってイヤホンを耳にあてがった
蔦子の話を聞く限りは絶対に趣味に合わない曲しかないんだけどなぁ…
清楚な美少女には絶対に不協和音でしかないだろうし、こんな美少女が聞くのは頂けない
…だって、例えば電車とかで偶々近くにいた清楚な美少女のイヤホンから、大音量でスレイヤーとかドラゴンフォースの曲が駄々漏れしてたら、なんかこう…嫌じゃない?
まあ、ぶっちゃけそれは私なんですが
一応の配慮で渡した時に再生フォルダをディープ・パープルフォルダにしたけど、平気かねぇ?
あっちでは私の処遇をどうするか話し合ってるらしく、時より「春子ちゃんには」とか「春子ちゃんを」とか聞こえる
んでもって由乃はと言えば、音楽プレーヤーを思いの外真剣に聞いてるらしく、私としては手持ち無沙汰感が否めない
何て言うか、私がいまここに居る意味無いよね?
もう帰っていい?
暇すぎてピアノ弾く手が止まらないよ……監獄ロックはピアノでも聴けるからいいよね
その時私にもう少し注意力があれば、練習を止めて私を見つめる演劇部の目に気付けたかもしれなかった
まあ、暇すぎで帰りたい私に気付くのは不可能だったかもしれないけど
「あの、すいません三薔薇さま?私は帰っていいですかね?」
「……そうね、次に会うまでには色々決めておくわ」
「んじゃ、そういうことで…って、ごめん由乃さん、それ返して」
「ん…はい。ありがとう」
「いえいえ、不協和音に後で頭が痛くなっても責任はとれないんで」
音楽プレーヤーを回収した私は、荷物を担いで体育館を後にした
さて、ゲーセンに寄って怒首領蜂を攻略しなきゃ
とりあえず、玄関に行って靴を履き替えるかぁ


#10月7日 「俳句」を「和歌」に修正



[4307] 薔薇色の十字架 7話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:59dfd718
Date: 2008/10/07 09:49
「祥子様が本気で私なんかスールにするわけないじゃない!」
廊下を歩いていると、丁度目的地である玄関から聞き覚えのありまくりな叫びが聞こえた
その叫び声の後には、祐巳の嗚咽が聞こえてきたので、いてもたってもいられなくなった私は廊下を全力で走っていた
「ああ、どうしましょう…」
「祐巳!」
「春子さん!祐巳さんが…」
下駄箱を背に、制服姿の女子に囲まれて泣く祐巳を見て私の頭に血が登る
「……誰だ。誰が泣かせた?」
「ご、ごめんなさい。泣かせるつもりじゃ…」
「黙れ!誰が泣かせたかって聞いてるの!それ以外の発言を許した覚えはないわ!」
「ひっ!?」
「は、春子さん落ち着いて」
桂が私を落ち着かせようと前にくるが、私はそんな桂に冷ややかな目を向ける
「貴女もどうやら私の話が理解できないみたいね?誰が泣かせたか。それ以外を話す権利は貴女にも有りはしないのよ」
説得は無理だと悟ったのか、桂が顔を俯けて喋り始める
「私が悪いの。私が祐巳さんを見つけて質問したから、彼女達も質問をしちゃったの…」
件の犯人は私だと自供する桂に対して、私はどす黒い感情が沸き上がる
コイツが祐巳に質問しなければ、祐巳は泣かなかった!
しかし、そんな私の感情は直ぐさま消える事となる
「ち、違うの!私が祐巳さんに質問しちゃったからいけないの!」
「私も、祐巳さんが嫌だと知らずに質問したから…!」
「だから、桂さんだけのせいじゃないの!」
祐巳を囲んでいた三人が口を揃えて自分も悪いと言う
こんな風にされれば、私も怒るわけにはいかない
「……はぁ。わかった。ただ、相応罰は受けてもらう」
私の審判に、桂たち四人は神妙な顔で頷いた
「貴女たちの罰は、わざと泣かそうとした訳じゃないから罪がない事だ。罪が無い以上、貴女たちが赦される事は永遠にない。さて、ほら罪なき者はさっさと行きな」
与えられた罰に俯く四人を追い払い、祐巳の前まで歩いていく
「行こう祐巳」
「………」
「泣いても現実は変わらない。さあ、泣き止んで行こう」
それでも祐巳は泣き止まず、少し私も困ってます
「なあ祐巳、私はこれから独り言を喋ったら帰るからね」
そう言って深呼吸して、私は独り言を始める
「祐巳は祥子とスールになりたいんでしょ?でも、祥子の妹になるには自分が無価値過ぎると思って拒否をする。けど、それは卑下でもあるし傲慢でもある。他人が付けた祐巳の価値を、自分の都合で書き換えてるって事だからね。祥子が祐巳に向ける瞳は本物だ。以前に祥子は『もちろん、祐巳は私の妹ですわ。貴女は私を侮辱なさるのですか!』って言ったけど、たぶんコレは嘘偽りない本音だろうね。でも祐巳はさっき『祥子様が本気で私なんかスールにするわけないじゃない!』って言った。いいかい祐巳?これは、祐巳が泣いてる今この時ですら祥子の心を裏切ってるんだよ」
そこまで言い切って、私は玄関を出て真っ直ぐに家に向かった



「と言う訳だから蔦子、私を新聞部に連れてって」
「放課後になったばっかりなのに唐突だなぁ…」
「そう、蔦子なら連れてってくれるって信頼してたのになぁ」
信頼と言う言葉に蔦子の肩がピクリと動く
あと一息かな?
「はぁ…蔦子は私の事が嫌いになっちゃったのかなぁ…」
「そ、そんなことないよ!」
「じゃあ連れてって」
「こっちよ」
行き過ぎた友愛すら使って見せるなんて、私は罪な乙女だわ…
蔦子に引き連れられてある一室の前に止まる
「ここが新聞部の部室」
「ありがと蔦子」
蔦子にウインクをして、ドアをノックして部室に入る
「いらっしゃい。新聞部に何のご用……って、蔦子ちゃんは転属でもしてくれるのかしら?」
「私は春子さんの付き添いです」
何か蔦子と新聞部の人で微妙な空気が…もしかして、蔦子が居ない方が良かった?
「面と向かっては初めまして。1年の宇垣春子です」
「新聞部部長の築山三奈子よ。で、何の用かしら?」
「今日は簡単なお願いに来ました」
「お願い?」
「福沢祐巳さんに関する取材についてです」
私の発言に部長は意図がわからず顔をしかめるが、私は構わず話を続ける
「いま渦中の祐巳さんは、新聞部の取材に追われて憔悴しています。なので、取材を緩めてもらえないでしょうか?」
「それはできない相談ね」
「当然ただでとは言いません。幾つかの条件を付けた上で、祐巳さんの取材をして頂けます」
「条件?」
「条件としては、一つ、祐巳さんへの取材内容を事前に私に渡す。一つ、不適切な質問には答えない。一つ、本人に会っての取材は間に私を立てる。一つ、記事の内容は取材結果に準拠すること。これを守って頂ければ、新聞部の取材から逃げる祐巳さんの記事を書いて頂けれます」
その条件を聞いて、部長は腕を組んで考え込んでしまう
悪い条件だけではないだろう。なんせ、逃げ続けて取材を受けない祐巳に取材できれば、新聞部としては御の字だろうし
「そして最後の条件ですが、この全ての条件は祐巳さんが山百合会に入ったら全て破棄します」
「………悪い話じゃないわね。了解したわ」
「ありがとうございます。それともう一つお願いがあるんですが、来週号の新聞の端に小さな記事を出して貰いたいのですが」
「あまりスペースが残ってないから、4行2段で平気なら構わないわ」
「重ね重ねありがとうございます。記事を書いたら持って来ますので、今日は失礼します」
私はポニーテールの部長に頭を下げ、蔦子を連れて部室を後にした
「ねぇ春子さん…祐巳さん抜きで勝手にあんなことを決めちゃっていいの?」
「勝手に話を進めたのは悪いけど、これも祐巳の為だし…けどこれで祐巳の新聞部からの逃走生活も終了。晴れて自由の身ってやつだ」
「それと、春子さんは新聞の記事を書くの?」
「ちょっとばかし山百合会に報復をね…」
「なにかあったの?」
「――昨日、玄関で祐巳が泣いてたんだ」
「えっ?」
「生徒が祐巳に祥子との事を質問したら泣いたらしい。別にそこに悪い奴は居ないけど、強いて挙げるなら悪いのは噂の出所でしょ?だから、少しの報復と牽制をする為に新聞部に足を運んだわけよ」
それを聞いた蔦子は、開いた口も塞がらないといった感じに呆然としている
「義を見てせざるは勇なきなりって言うけど、私にゃ勇気なんざカッコイイものはない。でも、祐巳には恩義がある。その恩義に報いないと、私が私じゃなくなる」
さて、さっさと帰って書いちゃいましょうかね
「あ、待って春子さん!」
「んあ?」
「あれは、由乃さん?」
声の方を向くと、テケテケテケと小走りに由乃が寄って来る
「お姉様がたが呼んでるので、体育館に来てもらえますか?」
「私を?蔦子を?」
「春子さんをです」
「んー…何かあんの?」
「今日は衣裳合わせと立稽古だから来てほしいと」
正直言うと行きたくないなぁ…でも行かないともっと面倒になりそうだし
「わかった。蔦子はどうするの?」
「私は劇の関係者じゃないから今日は帰るわ」
「んじゃ、また」
「ごきげんよう、春子さん。由乃さん」
「ごきげんよう、蔦子さん」
蔦子と別れた後は、また由乃に音楽プレーヤーをせがまれたので体育館まで貸してあげる
今日は私が聞いたままで貸したから、由乃のイヤホンからは大音量でスリップノットの曲が流れてるはずだ
それでも顔色変えずに聞くってのは、メタルも嫌じゃないって事だよね?


「んでさあ、体育館に誰も居ない風に見えるのは、私の目が疲れてるのかな?」
「おかしいなぁ…立稽古どうしたのかな?」
かれこれ10分は体育館にポツーンと二人きりで突っ立っている私と由乃
これはまさに無駄な時間ってやつですね!
「とにかく、これが春子さんの衣裳です」
渡された服に唖然とする…
「何でチャイナドレスなのよ!?」
「黄薔薇様が決めました」
「畜生、あのデコ助め…」
「プッ!」
「ああ、ごめんなさい。由乃さんの直系の姉だったね」
にしても、あのデコは私に恨みでもあるのか?
「それにしても、由乃さんはその曲は気に入ったの?」
貸しっぱなしにしてる音楽プレーヤーを指差して聞いてみる
ぶっちゃければ、蔦子に聞いた人物像とは合わない音楽だからなぁ
まあ、他人様の音楽の趣味にあれこれ言う気はないけどね
「…これ、CMで聞いたことあるわ」
「ん?ああ、それは…ビールのCMの曲だね。ジプシーキングスの曲は他にも鬼平犯科帳とかで使ってるけど」
「ホントなの?!」
「ほ、ホントだけど」
食付き良すぎじゃね?
ここまで食付きがいいと、流石の私様も引くよ?
「にしても、由乃さんは随分噂と違うね?」
「…どんな噂?」
「んー…情報源が蔦子だってのもアレだけど、何でもおしとやかで学園内の何ちゃらNo.1だとか」
たしか、蔦子が山百合会と祐巳が関わるようになってから私に一通り説明してくれたはず
ぶっちゃけ全員分の評価なんぞは覚えちゃいない
「…春子さんが見た私の印象は?」
「難しい事を聞くね…まだ会って間もないから性格はわからんし――まあ、メタルを愛せるならいい友達にはなれると思うよ」
メタル好きに悪い奴は居ない!これは摂理だ法則だ!
私は由乃の手を握ってぶんぶん振り回して、そして手を離した
「さて、日も完全に傾いたし、私ゃもう帰るわ」
「お姉様方には伝えておきます」
「ん。ありがと由乃」
「名前…」
「あっと…ああ、ごめんごめん。じゃあね由乃さん」
「志摩子さんや蔦子さんを呼ぶように、私も呼び捨てで呼んでいいですよ」
「そう?んじゃ、バイバイ由乃」
私達二人は体育館を後にし、由乃は薔薇の館へ私は校門へと別れて行った



[4307] 薔薇色の十字架 8話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:59dfd718
Date: 2008/10/07 09:50
文化祭前、薔薇の館には劇の準備が忙しい人と、リリアン瓦版を片手に小さな記事を神妙に見つめる人に別れていた
『昨日、新聞部の部室にある匿名の投書が届いた。その内容は、いま学園内で有名な噂である紅薔薇の蕾の話だ。その投書には、藁しべ長者等と書かれており、その内容は信憑性の調査中なので具体的には明かせないが、調査終了次第読者の皆様にいち早く届けたい』
別に新聞部がゴシップ要素を扱うのは今に始まった事じゃない
それに、火のない所に煙を立てるのが新聞部である
ただ、今回の記事は話が違った
まず投書が何なのかが判らない
これも、噂話ですら記事に取り上げる新聞部を考えれば別段変な所はない
今回の記事の何が異常なのか――それは、記事に書かれた投書の内容である
『藁しべ長者』
これは、祥子に向かって聖が言った言葉で、実際にあのやりとりを知らないと書けない文である
偶々偶然投書に同じ文が書かれた可能性もあるが、そんな馬鹿げた可能性よりも聖の言葉を聞いた人物が書いた方がしっくりと来る
書いた人物は十中十九で春子だろうが、それでも疑問がつきまとう
「何故?」



「――それで私が呼ばれたと?」
「そうなるわね」
薔薇の館には今、私を含めて4人しか残っていない
ここに居るのは志摩子と由乃、そして私の正面で紅茶を飲む紅薔薇
呼ばれた理由は判ってる。だって、新聞は今日発行されたから
「で、私はそんな投書など書いてませんが」
「けど、内容を知らないと書けない投書だと思うわ」
正直言うと、私は投書なんざ書いてない
投書を書いちゃいないけど、まるで投書があったかのように記事は書いた
「さぁ………祐巳さんの噂も流れましたし、偶々誰かが聞いてたんじゃないんですか?」
「ふぅ……新聞部の部長にはもう伺ったわ」
「なら、最初からそう言えばいいじゃないですか?」
「そんな風に言われなくても白状してくれると思ったのよ」
二人で目を見て黙る
室内の空気が重くなり、志摩子と由乃の心配そうな視線を感じる
「そうですね、一つ紅薔薇さまに聞きたいんですが、貴女にとって祐巳さんは何ですか?」
私の質問が予想外だったのか、紅薔薇の眉根が寄る
「祥子の妹候補……かしら?」
「そう、妹候補って事はまだ他人だから祐巳さんに考えが回らない。薔薇さまってのは、周りから注目を集めて学園生活を送ってきたから当たり前かもしれないけど、祐巳は違う」
自分が特殊な状況に居ると、感覚が狂って自分が普通だと思っちゃう
他人に注目されるのが当たり前だった薔薇さまは、普通の生徒にとって注目がどれほど重いのかを完全に忘れてる
「祐巳は平凡な娘っ子だよ。他人から注目される事に慣れてないし、自分を記事にする為に追われた事もない」
祐巳は普通の優しい女の子
クラスでこんな私に声をかけてくれた女の子
「学園で祐巳が他人に注目されて、どれだけ辛かったか考えた事はありますか?心ない質問を受けて玄関で泣いていた祐巳に、紅薔薇さまはなんら思う所はありませんか?」
やっと私の言いたい事がわかったのか、紅薔薇は目を大きく広げて私を見つめる
紅薔薇にとって、祐巳が泣くなんて想定外もいいとこだと思う
それ以前に、いいお姉さんである紅薔薇の想定には祥子だけの機微が入っていて、祐巳の機微なんて然程入ってないだろうし
だから、自分の妹が妹を作る為に噂を流した……祥子が本当に祐巳を妹にしたいなら、あの噂は祥子からしてみればさっさと消したいだろうしね
ただ、この噂には祥子を行動させるって腹積もりだったと思うけど、祐巳の心境は勘定に入ってない
「私は祐巳を泣かせる奴は何人たりとも許さない」
「……ごめんなさい。春子ちゃんは祐巳ちゃんが好きなのね」
「祐巳には恩義がありますから」
「祐巳ちゃんには私から謝っておくわ。さて、私達も体育館に行きましょうか」
四人で薔薇の館から出て戸締まりをして、劇のチェックの為に体育館に向かうと、さりげなく志摩子が寄ってくる
「春子さん…」
「ん?どうした」
「私達のせいで祐巳さんが…」
志摩子の顔が思い詰めたように曇るけど、別に志摩子が悪いわけじゃない
「志摩子がなにかしたわけじゃないんだし、志摩子が思い詰める理由なんてないんだよ」
「でも…」
「本当に悪いと思うなら、いつか祐巳が困ってる時に助けになってあげて。喜ぶだろうからさ」
私の思いが通じたのか、志摩子の顔から曇りが消えて微笑んでくれる
この笑顔マジでキュンと来るわー
「ほら、春子ちゃんも早く行くわよ」
「へいへい、お待ちくだせえ」
……………あれ?祐巳は結局祥子の妹になってないし、私劇に関係なくね?



今日は待ちに待った文化祭!
天候にも恵まれ、晴天の下で乙女たちが楽しんでいる!
「最高にハイってやつだわ!」
「…随分自棄ね春子さん」
「だってさ、だってさ、ほら」
私はアッパー系をきめた様なテンションで、鞄の中から事前に渡されたブツを開帳する
「劇のパンフレット?」
「そうそう。で、このパンフのこの部分」
「何々…伴奏・宇垣春子?」
「正解正解大正解!結局私は劇に出るんだってさ!…………でもね、私はこの程度で取り乱すようなデリケートなハートは持ってないんだ」
そう、この程度は悲しいが想定済み
あれから練習に出させられ続けて、今更話がたち消えるなんてあるわけがないから、最低限の覚悟はあった
―――ちょっとポツリと聞こえた蔦子の「デリケートよりバリケード」ってのは、後で蔦子と真剣に話し合いをしないとならないかも
でも……でもこれだけは想定外!
「なんでこんなポスターなの?!」
「ポスター?」
「ああ…蔦子はまだ改訂版のポスターを見てないのね」
蔦子の手を引いて、校門前の掲示板に貼られた目立つポスターを指差す
指を指すのはポスターの右下
「何で私まで写真が入ってるの?!立場的に言えば、私なんて脇役も脇役だよ!何で急遽私を入れて刷るの…それ以前に、私がピアノ弾いてるのなんていつ撮ったのよ」
「あ、私の写真だ」
「つーたーこー!」
犯人の 正体見たり 蔦子かな
私は蔦子の背に抱きつき、犯人を取っ捕まえてやる
「ひゃぁ…で、でも、この写真は志摩子さんが欲しいって言ったから」
「志摩子?てことは、白薔薇にそそのかされたか…」
あんの癒し系ふわふわ天然娘め!
いつか必ず白薔薇共々揉み倒してくれるわ!
そんな文化祭の当日
ぶっちゃけ、校門前でわめく春子はかなり目立ち、そして春子を見た人が劇のポスターに春子を見つけて劇を見に行く人数が増えたとか増えなかったとか…


「劇を観ました!」
「あー、ありがと」
「頑張って下さい!」
「どもども………………はぁ。ねえ蔦子、今ので何回目?」
劇が終わった後に、反省会と片付けを断固として拒否した私は、また蔦子と二人で文化祭の各クラスの出し物を見学に回ってた
すると、偶に――ホントに偶にだけど、さっきみたいに中学生の女の子が謎の応援をして去って行く現象が起こり始めた
これ、絶対に劇に出たせいだよね?
「さあ?10回を過ぎてから数えるのをやめたので」
それでも2階の窓から下を見て思う――主役級でも準主役級でもなくて良かった
校庭には幾つかの人だかりが出来ていて、たぶんそのどれの中心にも山百合会の面子が居るだろうから…
……祐巳の人だかりってあるのかな?
祐巳の周りに出来る人だかり
みな祐巳に握手を求めて劇の感想を言う
その総てにテキパキ対応して握手を求められればして、感想を言われれば感謝する祐巳
その笑顔は取り巻きのハートを掴み、ファンが新たなファンを生む
そんな祐巳……ごめん。言ってて何だけど想像できないわ
「祐巳はどうしてるのかな?」
「祐巳さんなら、あっちに人だかりが出来てるらしいわよ」
「嘘っ!?」
「薔薇様方や薔薇の蕾より少ないらしいけど」
「…………祥子も居るだろうし、私が行く必要はないかな」
流石の私も恩義があっても過保護になる気はない
「って、そろそろ後夜祭かぁ。長かったような短かったような…そんな文化祭だったわ」
「春子さんは色々あったものね」
「色々ありすぎ…普通の人は平穏からの変化を求めるけど、私は平穏の維持を求めるのよ」
そうよ、宇垣春子は静かに暮らしたい
まさに私の人生の永遠のサブタイだわ
「校庭でキャンプファイヤーの準備があるらしいから、行きません春子さん?」
「キャンプファイヤーねぇ…確か紙ごみも燃やすんだよね?」
「え、ええ…たしか」
「紙ごみ…ポスター………ふふふ……………汚物は消毒だぁ!」
気付いたら私は学園中に貼られたシンデレラのポスターを回収しに走っていた
後でそれを蔦子に聞いたら、何でも目が血走って雰囲気も恐くて止められなかったらしい
テヘッ、春子ちゃんのお茶目♪
…………素で私キモっ?!


「ハッハァ!燃えろ燃えろ燃えろ!」
隣に立っている親愛の友人である春子さんは、キャンプファイヤーが始まってから人が変わった様に炎を見つめて叫んでいる
正直恐いけど、私のカメラにすら気を回す余裕がないのか、さっきから何枚も撮っているが一向に何も言われない
最近は祐巳さんを助ける為に春子が動いていて、それで私の扱いが悪くて少し不満だけど、それが春子さんらしいと言えば全て春子さんらしい
「さてと、蔦子」
「何?」
「ちょっとばかし、最近祐巳にかかりきりになってたからね。踊りにに行くよ。シャルウィーダンス?」
笑顔で差し出された春子さんの手
その手を握って踊りに行く時には、もうさっきまでの不満は無くなっていた現金な私だった



[4307] 薔薇色の十字架 9話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:46367299
Date: 2008/10/11 22:03
「待って、ねえ待って由乃。何で私が薔薇の館に連行されるのさ」
「お姉様方が呼んで来いと」
「だからって、何で行かないとならんのさ」
文化祭も終わり、平穏な生活に戻って教室に行こうとする私の前に、由乃が立ち塞がった
何でも三薔薇のどれかが私を呼んだらしく、由乃は晴れてそのパシりを仰せつかったらしい
「OK、OK…行くから抱えた手を離しなさい」
私の手は由乃に抱えられていて、少女特有の柔らかさと祐巳では感じられない程度の膨らみを享受している
しかし、私の主張は言っても無視されて、そのまま薔薇の館へ連行されてしまった
にしても、久しぶりに早く学園に来れたかと思えば、それが裏目に出て連れられるとかマジ…
「やっと来たわね」
「来る予定なんて毛頭無かったんですけど」
「ほらほら春子ちゃんも、そのカップを持って」
山百合の人数分より1つ多いカップを渡され、そこでもう既に私を巻き込む気が満々だとわかる
「春子ちゃんも来たし、乾杯しましょう」
――なんだ、打ち上げか
「まずは、文化祭の成功を祝って」
「かんぱ…………ゴホン」
元々無言の会議室に、重い暗雲が立ち込める
乾杯でしょ!?そこまで言われたら皆で乾杯するんでしょ!?
私がもしかして間違ってるの!?
なんで無言でカップを上げるだけなの、ねえ答えて!
ああ、紅薔薇は怪訝そうな顔で私をみるな!
黄薔薇と白薔薇は笑うな!
まさか、笑われる為に私は来たの?!
もう今の私にゃ祐巳の苦笑すら重荷だよ…
「ところで、私はこれだけの為に?」
バックで行われる祥子と白薔薇の応酬はスルーの方向で
「いいえ、重要な用事よ。新聞部から一両日中に、由乃ちゃんと令を取材したいって言って来てるの」
「えっと、それが私に何の関係が?」
「そのついでにと、山百合会に正式に春子ちゃんの取材がしたいと依頼が来たの」
へー山百合会にそんな依頼がねー………あれ?
「何で山百合会に私への依頼が?」
「何でも、劇以来新聞部に春子ちゃんの質問が殺到したらしいよ」
「ハッハァ、そんなまっさかー」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「えっ、何でみんな黙っちゃうの?ねえ、何で?」
そんな風にされると、流石の私も凹みますよ?
「とにかく、受けるか受けないかは春子ちゃん次第よ」
「いやいや、当然私は山百合会の関係者じゃないし受けないっすよ?」
「そう。伝えておくわ」
「用件はそれだけで?」
「ええ」
「じゃあ、私はこれで」
軽く頭を下げた私は、一息でカップを空けて薔薇の館から出て教室に向かった
未来の春子は、ここでの選択を悔やみ切れなかった
なんで、受けてしまわなかったのか
新聞部がゴシップ要素を扱うのは普通だって知ってたのに…


さて、今日も概ねいつも通りの一日だった
放課後担任に職員室に呼ばれて「もう少し喋りかたを直せないの?」と聞かれて「私ですから」って答えて納得されるのもいつも通り
でも、職員室の外は未知の領域だった
「1年桃組の宇垣春子さんですね?」
「人違いです」
私はさらっと嘘をついて、私を尋ねた人を避けて歩きだす
だってさ、メモ帳にペン持って呼び止められたら逃げたいでしょ?
「あ、ごめんなさい」
「いえ。それでは」
「ごきげんよう」
さーて、さっさと帰っぺー
それにしても、さっきのは新聞部だよね?
何で取材が来たの?紅薔薇が断ったんじゃないの?
まあ、別にいいけど
って、ありゃ由乃と令?…ああ、取材受けてたんだっけか
「へろー」
「あ、春子さん。丁度良かった、春子さんからも言って下さい」
そう言う丁度良かったって、絶対に私的にはタイミング最悪だよね
「お姉様ったら、私が心配だからって部活を休むって言うんです」
「私は由乃が心配だから…」
「ほら」
何々、要約するに令がかかりきり過ぎて鬱陶しいと?
まあ、オブラートに包んで言うけどさ
「由乃的に、心配性過ぎてウザイと?」
「春子ちゃん…全然オブラートが破れてるよ」
畜生、だから私は担任に呼び出し食らうのか…
って、令の視線が痛いよ!怒んなよ!フォロー入れるから怒んなよ!
「ごめん、私は心に素直だから」
「フォローになってない…」
やっチッたァァァァーッ!!
令の声まで怖いよー!
でも、由乃が神妙な顔でさっき頷いたのは気のせいかな?
「あいや、私は逃げるアルねー!」
令の刺々しい視線に晒された私は、チキンハートを刺激されたから走って自由へと逃げ出した



今日も今日とて薔薇の館に連行される私…
最近は由乃は学園を休んでるらしく、専ら祐巳と志摩子に連れられる
「ねえ祐巳」
「なに、春子さん?」
「そろそろさ、私が山百合会とは無関係な人だって気付こうよ」
「今日も紅薔薇様がお呼びだから…」
「あーわかってるわかってる。だから志摩子もそんな顔すんな」
相変わらず志摩子は責任を背負おうとするなぁ
「にしてもさぁ、こう紅薔薇の蕾の妹と白薔薇の蕾に引き摺られてると、やたらに視線を感じるねぇ」
二人とも身に覚えがあるのか、満面の苦笑をして私を引き摺る
けど、こっちを見てる何割かは祐巳が私の名前を呼んで、それからマジマジと私を見た気がするんだけどなぁ?
そのままドナドナのように連れられてドアを開くと、妙に顰めっ面の紅薔薇と笑顔の白薔薇黄薔薇が私を待っていた
「ねぇ志摩子、帰っていい?」
無言で頭を下げないで志摩子!無理って言われるより絶望するからやめて!
「態々呼び出してごめんなさいね春子ちゃん」
「いえいえ、謝らないで下さい。謝るなら帰らせて下さい」
「私達的には、いつ春子ちゃんが来るのか身構えていたけれど、その様子だと知らないみたいね」
「え、何この空気?私が何かしたの?何でそんな重い空気の理由を知ってるのに、白薔薇さまと黄薔薇さまは笑顔なの?」
「はいこれ、今日発行された新聞。見てないでしょ?」
笑顔が眩しい白薔薇に渡されたのは、曰く今日発行された新聞
一面は由乃と令の取材内容だけど、それが何か…この間も同じようなやりとりをした思い出が
「左下の記事を見てもらえる?」
黄薔薇に促されて視線を左下に移動すると、そこには小さな記事が書かれていた
その見出しには
「何々…『謎の少女は誰だ!?』えっと、『先日大盛況に終わった文化祭で、一人の少女が話題になった。その少女は、どの薔薇の蕾でもその妹でもないのに薔薇の館に足繁く通い、シンデレラの劇ではピアノの美しくも激しい旋律を弾き……中等部を中心に人気……薔薇十字様と呼ばれ…………』って、これはドッキリの類いですかー?」
「「「いいえ」」」
「人違いですかー?」
「「「いいえ」」」
「もしかして、書かれてるのは私ですかー?!」
「残念ながら」
「書かれてるのは」
「春子ちゃんよ」
あっ………綺麗な川だね。対岸に居るのはフレディ!待ってて、いま渡るわ!
「帰ってきて春子さん!」
「―――――はっ!祐巳?あれ、フレディやジミ・ヘンドリックスは?」
私の為のギグに集まってくれたメンバーは何処へ行ったの?
「話はそれだけじゃないんだよねー春子ちゃん」
ま、まだ話があるって言うの?!
私、マジでぶっ倒れるよ?
「ほらほら、その記事の最後の方まで読んでみて」
「『なお、新聞部は現山百合会は一人欠けた状態で運営されており、山百合会は薔薇様を筆頭とする姉妹で運営されているので欠けた人数は増やせないが、新たに山百合会の姉妹を新設することで、山百合会を増員するべきではないかと考えている。新聞部では、近日中に署名活動を展開し、紅薔薇・白薔薇・黄薔薇そして新たに増えた薔薇十字の姉妹による新生山百合会の発足を目指した……い』――――あんたのせいかーーー!」
白薔薇の胸ぐらを掴み、頭を思いきりガクガク振ってやる
最初は笑ってた白薔薇も、段々と顔色が蒼くなってきたが手は止めない
白薔薇がッ泣くまでッ頭をガクガクするのをやめないッ!
離せ志摩子!後ろから抱きつかれると、白薔薇をガクガクできないじゃない!
「ゲホッゲホッ…酷いな春子ちゃん。それとも、薔薇十字さまって言った方がいいかな?」
「黙れ!そこに直れ!修正してやる!第一、何で私が薔薇十字なの!次に生まれるのは黄金の夜明け様かフリーメイソン様か!?」
黄昏の錬金術様とかだったらどうするんだ!
「は、春子さん、論点がずれてる気が…」
私は秘密結社の首領か?世界を裏から支配しちゃうのか!
「それよりも何よりも、なんで私に人気がでるのさ?」
「春子ちゃん自覚ないの?」
「春子さん、劇の伴奏で練習の時とは違って、途中から格好良く弾いて下さったじゃない」
…えっと、そういえば久しぶりに大人数に聴かせるから、調子にのって魅せる弾きかたをしたようなしないような
思い出してみれば、無駄に合間合間に気合いでピアノ早弾きとかしたような気までするし…
「―――――あれ、これもしかして自滅?」
「ちなみに、私は新聞部に『春子ちゃんへの依頼だけど、春子ちゃんは山百合会のメンバーではないから本人は断るそうよ』と伝えたわ」
「とりあえず、新聞部の事だし冗談の類いだろう。安心していいと思うよ」
おお、そう言ってくれる令さまが心の癒しだよ…
「普通に考えれば、そうそうあり得ない話だよね?」
うん、無い!
別に、問題ないよね
うんうん平気平気、私なら平気!
「だってさ、そんな簡単にそんな事は出来ないだろうし」
こんな簡単に増えるなら、今頃山百合会は大家族になってるだろうしね
そう考えれば、なんで私はこんな簡単な事に迷ってるんだろ
ここまでわかっちゃえば、むしろさっきまでのドキドキを返せって感じだわ



[4307] 薔薇色の十字架 10話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:59dfd718
Date: 2008/10/14 10:38
えっと、何か学園内の空気がおかしくね?
「ねーねー蔦子、何か知らん?」
「見てないの号外?」
「号外って何の号外さ?」
「由乃さんが令さまをふったの」
「えっと、だから何の号外?」
どうにもまだ耳が疲れてるらしく、蔦子が何て言ったか私にゃ聞き取れなかったらしい
「だからリリアン瓦版の号外!」
「で、どこのなにがしがどこのそれがしをふったって?」
「島津の由乃さんが、支倉の令さまをふったらしいのよ」
「そないなバカな事がありまっかいな」
「この瓦版」
蔦子に渡されたのは、いつもとは違いモノクロのリリアン瓦版
その瓦版のトップ記事は『破局!!黄薔薇革命』と書かれていて、二人の写真が割れている
「こいつはまたぶったまげたね。てか、黄薔薇革命ってネーミングセンスが読者をくすぐるわ」
「ネーミングセンスって、問題はそこなの?」
「外見のインパクトで『破局!!』って書いて、ただ破局じゃなく説明として『黄薔薇革命』と書く。大変素晴らしい。ただただ破局じゃ眉唾物だと思うけど、黄薔薇革命って書いてあったら読みたくなるでしょ?」
「確かにそうですけど…」
「まあ、とりあえず読まずば事は進むまい」
ふーん、号外の癖に文章が纏まってるねぇ
しかも、事細かに内容まで書かれてるし、こりゃ現場でも新聞部にすっぱ抜かれたのかしら?
「ほうほうほう…ふむふむふむ……ベスト・スールに選ばれたって書かれてすぐってのもミソだね」
この内容と周りの雰囲気から察するに、なにこれチョーあり得ないんですけどー。てか、チョベリバーって感じ?
……リリアンの娘っ子はチョベリバとか言わないね
………それ以前に、今時の娘っ子もたぶんチョベリバは言わないね
「おおよその話は理解したけど、結論として私にゃ関係がないってわけね」
「春子さんは由乃さんの友人でしょ?だったら、何か思わないの?」
ちょっと蔦子の目が冷たいけど、これに関してはしょうがない
「確かにあっちがどう思ってるかは知らないけど、私は由乃の友人だよ。だから、何か本人に聞かれれば答えるし相談されれば悩んでぐらいならあげられる。でもさ、これは由乃が考えて悩んで決めて行動しただけだし、別段私からそれについて諫言を言う必要なんてのはないし、やったからには責任は由乃について回るだけさ。少しばかり、瓦版がそれを煽ってる風にも見えなくはないけど……そっちに関しちゃ新聞部の責任だし、もっと関係ないね」
助けるのとお節介なのは私の中では分別されてて、ここで自分から動くのはお節介だろう
だって、明らかに間違っていると言える内容じゃないし、本人に良い結果を与えるかもしれない
もしかすると悪い結果が出るかもしれないけど、それもそれだしね
「何にしても、こうなった背景をよく知らないし。とにかく今は蔦子」
「なに?」
「教壇に先生が居るから席に座ってやんな」
「武嶋さん、席につきなさい」
「す、すみません!」
先生に言われて慌てて席に着く蔦子を尻目に、私は祐巳に視線を向ける
祐巳は私が蔦子から説明を受けてる間に、桂と何かの話をしていて、後半から顔色とか挙動とかが不穏だったけど祐巳は優しいから動くんだろうなぁ
祐巳に一緒にって言われたら動くんだろうなぁ私
いやいや、祐巳は責任感が強いから自分一人でとか考えて、自力で解決?しますって行動するかも
でも、祐巳だしなぁ……いや、祐巳だからこそなぁ
けど、祐巳って事はなぁ…しかし、祐巳なんだからなぁ
「――さん」
蔦子は…特に自分から動く理由もないし、静観以外はしないだろうなぁ
「――さん」
でも、祐巳が動きだしたら…事の静観から祐巳を傍観する立場に変わるんだろうなぁ
「春子さん!」
「うわっちょー?!」
「もう放課後ですけど…大丈夫?」
「放課後?」
周りにはもう既に居ない人もいるし……あれ?授業受けた覚えが…
「どうしたの春子さん?」
「私の昼飯は?」
「一緒に食べたでしょ?」
あっるぇー?確かにタッパーが空になってるけど、あちしはいつ食べたんだー?
「春子さん…保健室に行く?」
何か蔦子の目が生暖かいよ?
怪しい方向で心配されてるよ?
「ゴホン……えっと、祐巳は?」
「祐巳さんなら、放課後になったらすぐに『令さまー!』って叫びながら、教室から出ていきましたよ」
「…祐巳の奴も、随分とまたクレイジーなスイッチが入ってるなぁ」
「祐巳さんも春子さんには言われたくないと…」
「蔦子。だめ、それいじょう、いけない」
蔦子の肩を掴む手に力が入るのもしょうがないよね?
「さて、祐巳も居ないとなれば私にやることはないし、帰ろっかなぁ。蔦子はどうするの?」
「私は……写真部に寄ってくわ」
「じゃ、また明日」
「ごきげんよう、春子さん」
蔦子と別れて帰途に着こうとすると、校舎を出てから中学生に声をかけられた
「ば、薔薇十字様!私も署名に記入しました!頑張って下さい!」
「…署名?」
「はい。新聞部が主催で春子様を、山百合会の幹部にする署名です!」
マジで動いてんのか新聞部!?
「あーっと、ごめん。その署名って、いつ何処でやったの?」
「今日のお昼に教室でですが」
「貴重な情報ありがとう!」
情報料として中学生をハグしてやって、一路新聞部の部室に向かおうとして…どうせ署名が集まっても実現しないだろうと思い、私は帰宅した



「ところで蔦子、情報網を持ってる貴女なら知ってると思うけど、昨日の署名運動はどうなったか知ってる?」
ふむ…流石の私の声も少し苦いものが混じってるね
「聞いた話では、中等部でそこそこ集まって、高等部で少し集まったらしいわ。ただ、これは突発的に行われた1回目って話しも出てて…」
「まだやるかも、と」
「そうなるわ。ところで、昨日のお昼の事を思い出したの?」
「……色々あってね」
確かに昨日の私は昼についての記憶を失っていたが、帰り際に中学生と出会って全てを思い出した
そう、私達のクラスにも昨日署名の用紙が届いて、それに嬉々として祐巳と志摩子と蔦子が署名したのを見てから、自分の中で昼は無かった事として封印されていた
封印なんてもんじゃなくて、本当に無ければよかったのに…
ベットに入ってからその封印が解けたせいか、微妙に寝れずに悶々としたわよ…
「しかし、そうだとするなら変な言い方だけどちょっと安心かな?」
「安心?」
「だって、このままなら署名を何回かやったところで集まるのは中等部がそれなりで、問題の高等部はそれほど集まらないっしょ?なら、元々低い確率が更に低空飛行までしてくれれば安心じゃない」
そう、どうせなら低空飛行から墜落してしまえばなんて良いか!
「確かに今の所、高等部で署名が多く集まる事はないわね」
そんな事をサラリと言ってのけた蔦子に、私は極上の笑みを向ける
そして、すわ何事かと顔を赤らめた蔦子の額に手を押しあて、大きく深呼吸………額を握り潰してやる!
「ぬぅん!」
「痛い痛い痛い痛い!」
「何が高等部で署名が多く集まらないだ!その希少な署名に一筆しおって!」
「痛い痛い…だって、春子さんに薔薇十字様になって欲しくて」
痛みで少し目が潤んだ蔦子が、顔を少し俯かせて上目遣いで私を見つめる
そんな目に負ける…もんか……負ける…負け
「蔦子ー!」
自制が利かず私は蔦子をガバッとしてグワシッとする
蔦子がわたわたしてるが気にしない!
「――――ふむ、余は満足じゃ」
見よ、この蔦子をもふり倒して満足そうな私の笑顔!
………まだまだ志摩子も祐巳ももふってやるわよ!
そう言う訳だから
「はーるこちゃん」
「ボディがガラ空きだぜっ!」
事前に背後から不穏(桃色)な雰囲気を感じたし、更に視界の端にいた志摩子の表情と視線から、その存在は既に理解してたんだよ白薔薇ぁ!見せてやる!私の抱きつきを!
背後からの抱きつきに、さっきの蔦子でゲージが溜まってた私は白薔薇の腕をかい潜る様にして、ガラ空きのボディに逆に抱きついてやる
「ひゃ…バレてたの?」
「志摩子の表情と視線で」
「志摩子かぁ…」
やれやれと溜め息を吐く白薔薇を解放して、とりあえず一番重要な質問をする
「ところで、何用で?」
「志摩子と…当然春子ちゃんにも」
「じゃあ、私はこれで…ぐぇ」
私にも用があると聞いて、即座に戦術的撤退を敢行しようと後ろを向くも、今度こそ白薔薇の餌食となって抱きつかれてしまう
「春子ちゃん…花も恥じらう乙女が『ぐぇ』って」
しょうがないでしょ!偶々抱きつかれた時に気を抜いてて、思いの外強く抱きつかれたんだから!
そりゃ、未来の貴婦人と呼ばれる私でも蛙が潰れたような声か出るって
「春子さん大丈夫?」
「大丈夫だと思うなら蔦子が代わってくれてもいいよ」
本音を言ってやったら、蔦子は苦笑なんぞしおって…
「何のご用ですかお姉様?」
「おっと、忘れてた」
「そのまま忘れて迷宮入りってのはどうですかね?」
ついでに、私に降ってきた問題も迷宮入りしてくれれば、いったいどれだけ素晴らしいことか
「そういうわけにもいかないのよ。とりあえず、これ」
渡されたのは、小さなメモ用紙
そこには、こじんまりとした綺麗な字で何処かの住所が書き込まれていた
「…………何処?」
「ここだけの話なんだけど、由乃ちゃんは入院しててね」
「はぁ…で、見舞いに行ってくれと?」
「色々あったんだろうし、二人とも同じ学年でしょ?私達が行くより話しも咲くでしょ」
「まあ行きますけど、それなら黄薔薇の蕾……は無理だとしても、黄薔薇さまに行かせれば良かったんじゃないです?」
「江利子はちょっと、今は立て込んでてね……」
何かその白薔薇の苦笑の理由が気になるけど、絶対に面倒臭そうだから聞かないよ!
危険は極力回避する。それが私のジャスティス!



[4307] 薔薇色の十字架 11話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:59dfd718
Date: 2008/10/28 09:37
「いよぉう由乃、元気してるかーい?……さん、はい」
「い、いよぉ…………」
「えっと…何?」
病院のロビーで由乃の病室を尋ねた私と志摩子は、二人で由乃の病室にお見舞いにお邪魔していた
病室に入った私は、とりあえず思いついたフレーズで挨拶をしてみて、ついでに志摩子に強要してみたりした
そしたら志摩子ったら、顔を真っ赤にして俯いちゃったわ
やっぱり可愛いなぁ
「ほら、志摩子が続かないから、由乃が困惑した目で私を見てるよ」
「…………」
「…………」
志摩子はまだ恥ずかしいのか黙ってるし、由乃は由乃で中々に呆れて私を見てる
「とりあえず、はい。これ、見舞品」
空気も微妙になったので、とりあえず場の空気を正常にする為に由乃に見舞品を渡してしまう
「これは…?」
渡したのは一枚のディスクケース
「本を渡すには、どんな本が好きなのか知らないし。普通に果物を渡すだけじゃつまらない。だから、私からの見舞品はCD」
由乃は渡された白いCDをマジマジと見ている
渡したCDのジャケットには、私の字で名曲選と書かれている
「それは私の独断と偏見で選んだ曲が入ってるCDだから聞いてね」
「私からはこれを」
志摩子は鞄から小さな袋を取り出し、未だにCDを睨めつけるように見ている由乃に、少し微笑みながら渡した
「ちょっと待って志摩子、それは何さ?」
「…ぎ、銀」
「……志摩子さん?」
「……銀杏」
……病室内に沈黙が横たわる
見舞品が銀杏て…いや、私も言えないけどさ
確かに秋の味覚だし…うーん?
「ま、まあ、見舞品に必要なのは気持だよね?」
「そ、そうですね。ありがとうございます春子さんに志摩子さん」
そう言って見舞品?をしまう由乃
今更思いついたんだけど、先入観で言うけど由乃って絶対にCDプレーヤーとか持ってなさそうな気がする
コンポの類いなんかもっと無さそうな気がするけど……まあ、PCぐらいは持ってるよね?
さすがにCDは額縁に入れて飾るようには出来てないからなぁ
「って、志摩子志摩子」
隣で少し頬を赤らめながらも儚げに佇み、由乃の近くを向く天然無自覚な娘っ子に一応注意してあげる
「由乃に銀杏を渡してから顔が悲しそうだし、視線が微妙に由乃からずれて銀杏をしまった方を向いてるよ」
「えっ、あっ、その」
指摘された志摩子は、今度は耳まで赤くしてわたわたしてる
うむ。可愛い
「ふふっ…志摩子さんも面白い」
「良かったじゃんか志摩子。由乃が誉めてくれてるよ」
「……………春子さんと由乃さんの意地悪」
ポツリと言った志摩子の言葉が聞こえて、それが由乃はツボに入ったらしく小さく笑い続けている
緊急開催!第一回藤堂志摩子を愛でる会
主催 宇垣春子&島津由乃
協賛 佐藤聖
主賓 藤堂志摩子
会員 随時募集
……っと、また頭が疾走してたわ
恐るべき志摩子の可愛さね…
その、少し頬をふくらませて可愛く睨むさまなんて、その気がなくたって悶えそうなほど可愛いわぁ
「そういえば、春子さんは私の好きな本がわからないと言いましたが、私と令ちゃんが取材を受けた新聞は読んでないんですか?病院に通院する予定があったので、アンケートに答える形になってますが、好きな本について書いたんですが」
「取材を受けた新聞?あー?……あー、アレはちょっと読んでないね。私的にはそれどころじゃない記事があってね」
あんな記事は、正直なところ思い出す事すら憚られるわ…
「それどころじゃない記事?」
「…どうって事はないゴシップ記事だよ」
「由乃さん、これ」
って、なに当たり前に新聞渡してんのよ志摩子ー!?
「―――えっ、春子さんが薔薇十字さまになったの?」
「それはない。それだけはない。未来永劫にない」
それについてなら、私は「イエスと言え!」と脅されても「絶対にノゥ!」と即答するわ
「それにしても……あれ?アンケートの結果が間違ってるわ」
「んー?何が違うん?」
「好きな言葉と好きな本と趣味と好きな音楽が入れ換わってるの」
内容が気になった私は、とりあえず由乃が見ている新聞をぶんどって読んでみる
志摩子と由乃の微妙に冷たい視線は、いつもの如く無視する
何々、由乃の好きな言葉が『真心』、好きな本が『少女小説全般』、趣味が『編物』、好きな音楽が『クラシック』
令の好きな言葉が『先手必勝』、好きな本が『池波正太郎全般』、趣味が『スポーツ観戦』、好きな音楽が『カッコイイ洋楽』……『洋楽』?
「言われてみれば、確かにおかしいね。令さまがイケイケのロックとかメタル好きなら、私ともっと話が合う筈だし」
ふーん、あの破局記事をすっぱ抜いた新聞部にしては、随分とまたボーンヘッドをするもんだね
「でも、だとすればまた……令さまが家庭的で由乃がアウトドア派みたいなあれなわけ?」
世間様の話しとは天地の差じゃない?
まあ、私の世間様はメイドイン蔦子だけど
「ほら、これ」
ベットの隣に積まれた小説を取り、由乃が表紙を志摩子に見せている
「剣客商売?」
「そう、これ全部池波正太郎の小説なの」
そう言って笑う由乃に、志摩子はぶったまげた…とは言わないけど、それに近い表情をして固まっている
「いや、それにしても私としては、由乃が好きな音楽として『カッコイイ洋楽』って書いてくれた由乃に感動を禁じ得ないわ」
普通のリリアン生なら「ロック?メタル?」って言うだろうし、聴いても「うるさい」とかしか感想がないだろうし…
私の感嘆に、由乃は微笑みで応えてくれた
ってか、そういえば大事な事を私は知らなかったんだよ…
「ねえ志摩……あー、いや、由乃」
「なに春子さん?」
「私的に今更な質問があるんだけど、いい?」
疑問符が頭にいっぱいの志摩子と、何を聞きたいのか逆に興味が湧いてる由乃
そんな由乃に、物凄く今更な質問をしてみる
「あのさ――――そういえば、由乃は何で入院してるの?」
「「…………」」
黙るなよ!二人とも黙るなよ!
「えーっ、今更その発言ですかー?ってのはわかるんだけど、素で知らないんだよね…」
「ふふっ……春子さんらしい」
「笑うなー!」
いい笑顔を魅せるんじゃない由乃!
微笑みながら暖かい視線を送るんじゃない志摩子!
「―――私はね、産まれた時から心臓が普通じゃなかったの。心室の壁に孔があって……今は生活に支障はないけれど、大人になれば症状が悪化することがあるらしいの」
「それって痛い痒いは無いの?」
「特には。ただ、一応の為に通院したりしたけれど」
「痛い痒いがなくて、今まで通院で済んでたのに今回は入院って………」
これってのはアレ?もう通院じゃ済まないってこと?
「あ、別に今回の入院は悪化したわけじゃないんです」
「あれ、違うんだ?」
「祐巳さんと春子さんと話して、手術を決心したんです」
あれ?そんな話し何てしたか私?
まるで身に覚えがないぞ私
そんな私を見て、由乃は微笑みながら説明してくれる
「身に覚えがないって顔ですね?私と令ちゃんが新聞部の取材を受けた後で病院に行く前に、私達と会った事は覚えてますか?」
そう言われてみれば、会ったような会わなかったような…
「そこで、春子さんは私に言ったんです『由乃的に、心配性過ぎてウザイと?』って。さすがに私はそこまでは思わなかったんですが、春子さんから見て令ちゃんが心配性で過保護だって言った……私も前々からそう思ってて、その日も剣道部の大事な交流試合の前なのに、私の病院に付き合うって言って部活を休むって言うし…」
あー!あー!あの令に睨まれた日か!
でも、私そんな恐れも知らぬような発言したっけ…?
「その後に、二人とも別れて教室に忘れ物を取りに行ったんですが、そこで祐巳さんと話して…それで決心したんです」
あ、それで祐巳はあんな感じなわけなのね
「って、私の適当発言が思いの外に影響だしすぎじゃんか!?」
「春子さんには適当でも、私にとっては大きなきっかけです」
なんて言うか、適当発言に比重を置かれると忍びないと言うか…んー
「さっきのアンケートの話しに戻るけど、春子さんがダンスをしてた令ちゃんを乙女って言ったけど、令ちゃんは女の子なの。だけど、病気のせいで対照的な私と一緒にいるせいで、令ちゃんは男の子みたいに見られてる」
そこまで言って、由乃は可愛く肩を竦めて「アンケートの入れ替わりがいい証拠」って言った
まあ、"あの"蔦子ですらそんな本質に辿り着けてないわけだし、由乃か令と非常に近しくないかぎりはわかんないんじゃないかなぁ?
「じゃあ、由乃さんが令さまを振ったのは…」
「このままじゃ、二人ともダメだと思ったから…だから、お互いの関係を少し白紙に戻したの」
まあ、考えは人それぞれだからなぁ
って、由乃から凄く熱い視線が…
「春子さんは、私に特に何も言わないの?」
「誉めて欲しいの?怒って欲しいの?」
「そうじゃないけど…」
「私にゃ姉が居ないから判らないけど、実の姉妹のようにずっと一緒に居たんでしょ?それを白紙に戻すなんて、それこそ由乃が熟考して出した結論なんだから…私から言える事は無いよ」
第一、姉妹のなんたるかを知らない私に言える権利はないだろうし
「それでも……由乃からの相談なら、私も喜んで――とはいかないけど、いくらか乗ってあげられるよ」
「―――ありがとう春子さん」
その後、由乃が志摩子に銀杏の調理法やら何やらを聞いて、私達はゆったりとした時間を三人で過ごしていた
まさか、あんな事になってるとは知らずに…



[4307] 薔薇色の十字架 12話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:59dfd718
Date: 2008/10/28 09:38
「予想通りと言うか、やっぱり黄薔薇革命の件で新聞部に訓告が入りましたね」
「まあ、教師側から見れば件の話を煽動した先鋒だからね…。正直言っちゃうと、別に新聞部が何かしなくても由乃の話はそれなりの爆弾で、周りに漏れれば引火する状況下にあったってのに、新聞部は態々その爆弾を火元に置いた訳だからなぁ」
どうせ薔薇様姉妹なんてビッグネームが破局すれば、どこかしこから生徒に漏れるのに…態々紙面に取り上げて大々的に広告するなんて
それより、由乃を見舞いに行って本人に聞いたけど、あの内容はすっぱ抜きじゃなくて大半が妄想による美化された文章だったんだって!
まったくもって、新聞部の株価が私の中で連日ストップ安だよ!
「なんでも、この件には黄薔薇さまが腰を上げてつついたらしく、それで教師が動いたとか」
「へぇ。姉らしい事が出来るんだあの人」
そんな風に動くんだ
新聞部と違って私の中で株価が大幅に上昇ですよ黄薔薇!
「ところで、祐巳は?」
「祐巳さんは由乃さんのお見舞いに、ホームルームが終わってすぐに行きましたよ」
…最近祐巳が冷たいよー
「じゃあ、私は写真部に用事があるので」
「そうなん?じゃあね蔦子」
「ごきげんよう春子さん」
いそいそと新聞部に向かう蔦子と別れて、ふと思う
―――久しぶりの安息じゃない?
これは大変素晴らしい!
私は自由の徒だ!自由万歳!びばコールドプレイ!美しき生命万歳!
だから見えないぞー!だから聞こえないぞー!
見たこともない中学生からの熱い視線も、薔薇十字様なんて呼び声もまったくだぞー!
「って、志摩子?」
銀杏並木を歩く志摩子を発見!即時接近します!
「今日は薔薇の館に行かないの?」
「あ、春子さん。えっと、黄薔薇さまが今日は重要な会議をするから1年生と2年生は帰りなさいって」
「重要な会議ねぇ……新聞部に対する制裁を決める会議だったりして」
そうだったら面白いけど、まずないだろうね苦笑を滲ませた微笑みを見せる志摩子は可愛い…って、最近志摩子に惚れ過ぎじゃね私?
「冗談はさておき、じゃあ志摩子はもう帰るんだ」
「はい」
「んじゃ、バイビー志摩子」
「ごきげんよう春子さん」



いつもより遅く、ホームルームにギリギリ間に合うくらいで教室に入った私は、教室内の空気の違和感と言うか…おぞましさと言うか異常を明確に感じる事ができた
まず第一に、担任がちらちらと私を見る
第二に、祐巳と志摩子がすまなそうな顔をして私を見る
最後に、蔦子が素晴らしくいい笑顔で私を見る
とりあえず、何をされたのかわからないけど後で蔦子をとっちめよう…じゃないと、何故だか腹の虫が収まる気がしないわ
まあ、そんな事を考えているうちにホームルームは終わり、期せずして担任を除いた件のメンバーが私の周りに集まった
さあ、私による私の為の私の戦争を始めよう
「祐巳、もしくは志摩子。言いたい事があったら言った方が身のためだよ」
「あ、あははは…その、ごめんなさい春子さん」
「さあ、謝る前に謝る理由を話すんだ」
「お姉様がたを止められなくてごめんなさい…」
苦笑を続ける祐巳に、とにかく謝る志摩子…とりあえず犯人は薔薇様か蕾か
蕾は…志摩子は人畜無害だからないし今の令はリビングデッド状態だし、残る祥子は祐巳とラブラブだし…
 ま た 三 薔 薇 か !
あの三人は私が嫌いなんだよね?そうなんだよね?
「お姉様がたは、私と春子さんが由乃さんのお見舞いに行った日に薔薇様がたで、春子さんの支持を決定したらしく…」
「その日は、黄薔薇さまに『今日は用事があるから解散』って言われて、お姉様と二人で帰ってて…」
私の支持?!てか、黄薔薇が祐巳を薔薇の館から遠ざけたのは確信犯だよね!
「昨日は重要な会議をすると言って教師を呼んで、結果として教師の薔薇十字運動賛成を確約させたとか」
「奇しくも昨日の春子さんの話が実話になって、新聞部の活動は一定期間停止にされて更に先生がたの傘下に…それでこれを」
志摩子に渡されたのは、縁が有るのか無いのかリリアン瓦版の、しかも号外
トップにはデカデカと書かれた薔薇十字運動に、私の様々な写真が随所にちりばめられている
「なっ?!」
内容を読むと、そこには恐ろしい事が書かれていた
「ば、薔薇十字運動を教師側が『容認』だとっ!?」
本文を要約すれば、『山百合会も人数は変動する。現在それが顕著にでて人員減少が否めないので、もしもを考えて今後は山百合会に姉妹新設も前向きに検討する』と書かれている
そして、その号外には人数を増やすだの減っただの書いてあるけど、一切その原因となった黄薔薇革命についてが書かれていない
まさか、黄薔薇革命から姉妹新設に目を向けさせて、姉妹離反が下火になることをを狙って私を祭り上げて生け贄にしたの!?
下衆の勘繰りかもしれないけど、教師に売られた感は否めないよ!
「『次回の署名運動ば24日の昼』…なんで土日を挟む?ここまで号外を出したなら、今日の昼か放課後にでもゲリラ的にやれば効果があるのに…」
「何でも、それは黄薔薇さまが決めたとか」
「お姉様も、今回は黄薔薇さまに全てを任せているそうです」
「…だとすれば、この空白の土日が味噌になると」
この土日は何?何かあるの…?
「そう言えば…」
「ん?祐巳は何か心当たりがあるの?」
「土曜日には剣道部の交流試合があって、令さまが出場します」
「その日は、由乃さんの手術の日でもありますね」
浮かび上がった交流試合と手術という点と点…そこから導き出されるのは!
「わからん…」
私は頭を抱えて机に伏せた
体は美少女、頭脳は普通じゃ解決できないのか…畜生なんて時代だ!
まあいい…祐巳と志摩子はどうしようもなかったんだ。LV1の勇者未満が二人いたところで、ラスボスの倍は強い裏ボスなんかにゃかなわないんだから
打つ手が無かったんだ…だから許すしかない
そして、私は二人から視線を外し、集まってから笑顔で沈黙を守り続ける蔦子に視線を向けた
「さて、蔦子。知ってる事を全てキリキリ吐いてもらおうか」
「今回の話は、山百合会の要請で春子さんの写真を提供しかしてません」
なんだ、蔦子は実は関わってないんだ………って、この写真はやっぱり貴様か!
なにさも当然みたいに言ってるの!正直私自身さも当然のように流しかけちゃったよ!
「いやいや蔦子君、私の了解なしに写真を提供しないでくれたまえ」
「黄薔薇さまに頼まれて断れませんよ」
「……ドン・フィクサーは黄薔薇か」
黄薔薇全てに関わってね?
「要注意人物はわかった。わかったけど、全ては遅きに失した気がするわ…」
もう私には手の打ち用がないし…いや、無いわけじゃないけど
例えば校庭で奇声を発しながら踊れば黄薔薇の謀略を潰すことが出来るだろうけど、そんなことをした日には私の明るい学園生活も潰れるだろうし…
反対運動したっていいけど、反対運動の旗頭が本人てのも絞まらんよなぁ。てか、今更過ぎるし
とにかくいまわかってるのは
「春子は諦めるしかないのでしたとさ」
今の状態でセーブして、あとでロードすれば楽なんだけど……人生にそんな素敵機能ないからなぁ
まあ、人生なるようになるさ!なるってよりならされてる感が否めないけどな!
「祐巳ー、人生ドロップアウトしたくなってきたよ」
「あ、あはははは…」
私の平和と安息はすっぽりと祐巳の小さな胸の中にしまわれてしまったのね…
「ひゃぁぁぁ!」
「…おっと失礼、手が勝手に」
「うぅー」
また祐巳の胸について思考していたら、手が勝手に胸にいってたわ
ちょっと泣きそうな虐めてオーラ全開の祐巳に睨まれると、私ももうそっちでもいいかなって思ったり思わなかったり
まあ、私はノンケだけどね
「しっかし、授業まであと数分だけど…腹を割って話そう。ぶっちゃけ、三人は署名運動の成功確率をどう思う?」
緩い空気を払拭し、真面目な雰囲気を醸し出して三人に問いかける
その問いに三人は少し悩むが、祐巳から順に応えてくれた
「私としては春子さんに薔薇十字になってほしいかな…だから、成功して欲しい」
「私も祐巳さんと同感で、春子さんに山百合会一員になってほしいです」
「私は「蔦子には質問を変えるよ」――なに?」
最後に応えようとした蔦子の発言を潰して、蔦子には違う質問をする
「蔦子はこの署名運動に失敗はあると思う?」
「―――無いかな。今回は緊急事態と言った要素もありますし、学園側が春子さんに太鼓判を押しているので成功率が高いと思います。それに、瓦版を読む限り署名運動で必要な最低限の人数も書かれていないので、そこそこ集まったら晴れて春子さんは山百合会入りかと」
蔦子の答えに、私はますます気が重くなる…
私の考えと蔦子の考えは大筋で一緒だ
これは喜ばしいことじゃない…何たって、自分が袋小路に居る事を他人からも教えられてるんだから
「おお、神よ…私が何をしたと言うんです?」
「…日頃のお祈りが」
ポツリと呟いた祐巳の言葉は私の耳に痛い…
しかし、神を崇めれば場は好転するかなぁ?
「さて、みなさん席について。授業を始めます」
教室に入って来た先生の一声で、私の周りに集まった三人は自席へと戻って行ってしまった
んー…何と言うか、やっぱり困った時の神頼みって言うからなぁ
とりあえずやってはみるか…
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ…よりも、いあ いあ はすたあ!」
「宇垣さん、授業中は静かに」
「………はい」
二度と神頼みなんかするもんか!



[4307] 薔薇色の十字架 13話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:59dfd718
Date: 2008/11/18 10:06
名前を呼ばれ、仰々しく立ち上がりステージへと向かう階段をゆっくりと登る
そしてステージの上に立つと、全校生徒の好奇の視線が全身に突き刺さる
そこで私は一度ばかし溜め息を吐いて、大きく息を吸い――――
「わしが山百合会薔薇十字、宇垣春子である!」
轟け迅雷とでも言わんがばかりの大声を、マイクという名の集音器を通してスピーカーから拡大し、耳をつんざく美声を全校生徒にお届けしまーす
どうだ畜生、おもいしったか!
――――なんて出来れば世界は私に優しいんだけどねぇ…
いや、まあ署名で受かった時点で世界は私にかなり辛く当たってるけどさぁ
「えーっと、ご紹介に与りました宇垣春子です……この度は、皆々様のせいで…ゴホン。皆々様のおかげで、晴れて薔薇十字にならされ…ゴホン。薔薇十字にならせて頂いたことを、深く遺憾に…じゃなくて、深く感謝しています」
頭を下げて礼をすると、劇のように割れんばかりには遥か届かないけども拍手が鳴り響く
…こんど屋上に行ったら、胸に薔薇を挿して「世界を革命する!」って叫んでやる


扉を開けるとそこは…
「いらっしゃい春子ちゃん」
黄薔薇の満面の笑みだった
「すみません。間違えました」
とりあえず、イラッときたから扉を閉めてやる。と、閉まりきるまえに扉をガシッと止められた…
「いらっしゃい春子ちゃん」
笑顔の黄薔薇に腕を引かれ、為す術もなく会議室に入るとそこには笑顔の白薔薇紅薔薇に、苦笑する蕾たちと祐巳の姿があった
流石の由乃も手術してトントン拍子に来れるようになるわけ無いよね
てか、令も居ないけどさ
「おめでとう春子ちゃん。今度こそ本当に薔薇十字さまって呼ぶべきかな?」
まさか本当にそう呼ばれなきゃならない日が来るなんて…
「おめでとう春子ちゃん、江利子が頑張ったかいがあるわ」
止めようよ!そこは止めようよ!
「…おめでとうございます春子さん」
ありがたくはないけど、まったくありがたくないけどありがとう祥子
けどそれより、君の大好きなお姉様に黄薔薇を止めるように掛け合って欲しかったかな
というか、私が泣かすまで絶対に許さないよ
「私からも、おめでとうございます春子さん」
そんな純粋に嬉しそうな視線を私に向けるなよ志摩子…まったく嬉しくない私の少ない良心が痛むわ
「お、おめでとうございます春子さん」
ああ、祐巳…君の苦笑が私の心労を全て物語ってる
「どうして笑わないの春子ちゃん?」
「無茶言うな!」
さっきから無言でしかもしかめっ面だった私は悪くない!
こんな風な目にあって、尚更犯人が笑顔で前にいれば顔もしかめるって!
「――そういえば、何でも黄薔薇さまは悲惨な目にあったって白薔薇さまから聞いたけど、見た感じあれは嘘だったんですね」
「悲惨な目?」
「あー、江利子が立て込んでるって話したね」
「あのこと?あれは先生がたと会議をしたり、新聞部に要求したりと立て込んでたのよ」
「…それならそうと、何で普通に伝えないんですか?」
「そんなの面白いからに決まっているじゃない。それに、一度言ってみたかったのよね、ニード トゥ ノゥって」
……嫌がらせ目的に、私が姉かなんか作って継承問題でも勃発させてやろうかしら?
所謂薔薇十字革命ってやつ?薔薇十字事変の方がいいかも
「「「春子ちゃんに姉は無理でしょ」」」
「いいっ!?な、何を急に言うんですかな?」
「顔に書いてあったよ」
「書いてあるからって、そこを見て見ぬふりをするのが淑女ってもんでしょ」
顔に書いてあるだなんて言ってくれた白薔薇に、淑女のなんたるかを語ってあげたら「あははは!春子ちゃんに淑女について語られたー」だなんて笑いやがったよ!
私は祐巳と違って百面相じゃないんです!
……やっぱり素早く手早くポーカーフェイスを取得しなきゃならんね
「とにかく春子ちゃんは、本当に運命の人と出会わない限りは出来る限り姉は作らないで欲しいの。本当に出会った時は私達に相談してね」
「春子ちゃんじゃ無理だろうけどねー」
「やってみなきゃわからんさ白薔薇さま!例え天文学的な数字でも、例え那由多の彼方でも…私には十分過ぎる!」
猛っている!私は猛烈に猛っているぞ!
そこまで言うなら、姉の四人や五人作ってみせようじゃないか!姉しかいない後宮を作ってみせようじゃないか!年下の姉を作ってみせようじゃないか!!
そんな猛る私に突き付けられたのは、これまた笑顔が止まらない黄薔薇の言葉だった
「本当に姉が作れるの?」
その言葉に、私の頭脳と言う小型生態コンピュータをフルに駆使して、あらゆる状況を想定しあらゆる可能性を想像しあらゆる未来を空想する
その過程に内容に結論に、私の表情は辛く苦く苦しく厳しく成っていき、更には両手で頭を抱えて唸りだした
そんな私を心配そうに三薔薇以外が見つめるなか、私は床に膝と手を着いてうなだれた
「姉が居る生活はやっぱり思いつかない…」
ダメだよ、姉とキャッキャウフフしてる私なんて想像出来ないよ!無理ってかあり得ない!
そんな私の肩に手が置かれた
置かれた手の主にすがるように視線を向けると、その手の主は命題を前に苦心する聖者のように神妙な顔をした…黄薔薇?
「私は春子ちゃんのそういう所が面白いから好きよ」
「ぐはぁ!?」
その神託は私にとって止めだった…
そして思う、普通の生徒は黄薔薇が凄いだの何だのいうけど、一番凄いのは絶対に令だよね……だって、言っちゃ悪いけどコレの妹だよ!?四六時中とは言わないけど、長い時間一緒にいるんだよ!?
あれで私の見るかぎりで真っ直ぐ純粋に育ってるとか、それこそどんな奇跡だよ…




明くる日のリリアン瓦版の一面に、大きな記事が載せられた
『黄薔薇の蕾とその妹が復縁!』
その記事は、黄薔薇革命に翻弄されてロザリオを返した妹達を震撼させた
記事の内容としては、令と由乃が復縁して姉妹に戻ったということと、由乃は自分の真似をして軽挙妄動にも姉妹の縁を切った妹が数多いと知って悲しんでいると書かれていた
この記事の効果か、学園内では姉妹の復縁運動が起こり全てが元の鞘に納まっていった
……元の鞘に戻れない私は涙が止まらんのですよ
それはさておき
「まだ由乃が退院してないのに復縁なんて記事を書いていいの?」
「いいのよ。そうでしょ、令?」
「春子ちゃんが薔薇十字さまになったって由乃に報告した時に、ロザリオを求められたんだ」
そう言って本当に暖かい笑顔を魅せる令を見て、「だからいいのよ」と黄薔薇は言った
「言ってなかったけど、お医者さまの話だと由乃はもうすぐ退院できるらしいんだ」
「これで全員が揃うのね」
笑顔のままで退院について語る令の笑みにひかれて、紅薔薇も笑みを深めて感慨深そうに言った
そこで、ふとした疑問が私の中で鎌首をもたげた
「それにしても、黄薔薇さまは何故に私に謀略を?」
「謀略?深謀遠慮と言って欲しいわね。理由は当然、初めて会った時に春子ちゃんが面白かったからよ」
「こんな鬼謀を見せつけておいて、本当にそんな理由だけなんですか?」
「鬼謀?神算と言って欲しいわね。当然それだけよ」
うふふと笑う黄薔薇、だけど目だけ笑ってないってばさ!
「あーもう、陰謀でも謀りでも何でもいいですよ…」
「ありがとう春子ちゃん」
「まったくもって誉めてなんかいないんですけどね」
今度こそ目もうふふ笑いをする黄薔薇に溜め息が止まらない…やっぱり不幸の元凶はここだよね
そんな風に笑っていた黄薔薇が、うふふ笑いからニヤニヤとした笑いに変わって私を見る
何か嫌な予感しかしないんですが…
「そういえば春子ちゃんは暇よね?」
「暇っちゃ暇ですが、茶飲み仲間ならどうぞ自分の妹を誘ってくださいな」
「以前新聞部から春子ちゃんに取材申し込みがあったのは覚えてる?あの時は『山百合会と関係ない』からって断ったでしょ?」
あー…そんなこともあったかなぁ?
「それで関係者になった以上、どうしても取材したいって言っててね。新聞部はまだ自由に記事を作れないから、先生がたにどうしても取材させてって言い続けて、その熱意にほだされちゃったらしいの」
………あれ?マジでやばくないかな?
「だから、このまま春子ちゃんは新聞部の取材を受けてきてね」
「お断りします」
「記事の指定は先生がたに権限があるから、この取材は先生からの要請でもあるのよね」
け、権力をちらつかせたー!?
しかし、この宇垣春子は権力如きには屈しない!
権力の前に奮い立つ民衆の力を思い知るがいい!


………そしていま、私は懐かしきあの人と対面している
「お久しぶりね薔薇十字さま」
「…お久しぶりですね部長さん」
「それじゃあ今回はこの紙を埋めて欲しいの」
「インタビュー形式じゃないんですか?」
「……その方が好きなんだけど、質問内容は事前に紙に書いて顧問の検閲を受けないといけなくなってね」
本当につらそうに溜め息を吐く部長を尻目にアンケート用紙に筆を入れていく
「誕生日は『3月24日』で……ふむふむ、趣味は『ピアノ・音楽鑑賞』っと。んー……好きな薔薇は『ビオランテ』で食事は『ご飯派』に朝ごはんは『食べる』。うぇ?お風呂に入ったら何処から洗うかって、これ本当に顧問の検閲済みなの?」
用紙の上から順繰りに埋めていくと、何ヵ所かいかがわしいと言うか、不自然極まりないと言うか悩む質問が入ってた
いや、目玉焼きに何をかけるかとかカレーに何をかけるかとか、こんなの聞いてどうすんのよ?
それよか、好きな本まではわかる。わかるんだけど、好きな辞書の出版社はどこって質問に私は疑問を感じるわ。三省堂とかって答えが欲しいの?そんなの気にして辞書を読んだことないよ私…
って、この好きな女性のタイプって何?他には年上の女性と年下の女性だとどっちが好きとか、どんな髪型の女の子が好きとか………私はまごう事なくノーマルよ!
とりあえず、その系統の質問には女性を性的に愛せませんって書いとこ
えっと何々…最後に一言書いて下さい?
『信用が倒産したので黄薔薇の株式銘柄は上場廃止』っと



[4307] 薔薇色の十字架 14話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:59dfd718
Date: 2008/12/15 09:38
「最近薔薇様がた、こちらにおみえになりませんね」
「平和だ…」
BGMに祐巳と祥子の薔薇様談義を聞きつつ、私は机にぐでっと伏せて寝ぼけ眼を擦る
最近私の中にそれは素敵な素敵な方程式が出来上がった
薔薇様が来ない=平和
みんなは姉が来なくて寂しかろうけど、私にとっては居ない方がオアシスなのだよ
てか、黄薔薇って受験勉強なんかするたまだったんだ…むしろ、私はしないけど、こっちが心配するくらい何もしないのを想像したのに
むしろ「受験勉強が辛くて大変ですわー」なんて言われた日には、それこそ天変地異の前触れかって話だし
いや、待てよ。本当に受験勉強で来れてないならどうする?やっばいなぁ…帰りに水と保存食を買って帰らないと
しかし、こんなバカを考えられる緩い空気は、扉を開けて入って来た令によって粉砕されることになる
「ねぇ…ロサ・カニーナって何者?」
「ロサ…カニーナ?」
「ロサ・カニーナって呼ばれてる2年生が立候補するらしいんだ」
「立候補って…次期山百合会幹部の選挙に?」
あー…そういえば、みんなはもうすぐ選挙なんだよね
「でも、来年度の山百合会の幹部は、蕾のかたたち三人がそのまま引き継がれるんじゃ…?」
「蕾だからと言って、無条件で薔薇様になれるわけではないの。山百合会の幹部である三人の薔薇様は、毎年生徒による投票で選ばれているの。だから、なりたい人が居れば選挙に立候補することができるわ」
「私から言わせれば、このシステムって無駄しかないよね」
「伝統を無駄だなんて…!」
祥子の話を聞いて思った事を素直に言ったら祥子に睨まれた
けど、無駄なのは事実じゃない?
「だってさ、薔薇さま候補はその妹でしょ?で、信任を問うて次代の薔薇になると。これがおかしいって思わない?妹なんてのは能力パラメータの高さで選ぶの?無能な妹だっていたでしょ。なら、山百合会幹部から候補まで姉妹関係なしに最初から投票で選べばいいじゃない」
有能な姉が選んだ妹は有能って考えは変だよね?逸材ってのは得てして眠ってるもんだよ?
「山百合会ってのはあくまで生徒会でしょ?なら公と私、生徒会と妹を切り離して考えればいいと思うんだけどねぇ……まあ、私は選挙にでないから強く言えないけどさぁ」
「春子さんは出馬しないの?」
「あのさぁ祐巳、これは幹部になる人を決める選挙だよ。私は言っちゃえば既に薔薇さまの一人だから。てか、署名で受かって信任で落ちるなんて洒落にならないからさ」
私が薔薇十字さまなった事で幾つかの例外が生まれている
一つはいま言った選挙について
私はあくまで既に署名運動で信任を得ているので、選挙で信任を問うことが出来なくなっている。逆に言えば、他人が薔薇十字さまに立候補できなくなっている
二つ目はそれに伴って、3年間私の薔薇十字さまは不動の地位になった
ぶっちゃけ私がアレな事をしても不信任に出来なくなっている。何でも、多くの生徒が署名をした以上、例え害悪でも3年間地位に留まらせる事が署名をした生徒達の責任らしい
辞める手段まで断つとは、この案を出したのは鬼か悪魔か…はたまた黄薔薇か
「そういう訳だから祐巳君、私に紅茶を淹れたまえ」
「淹れなくていいわよ祐巳」
「つれないなぁ祥子さまよぉ、ぶっちゃけ私のが役職の肩書きだけ見れば私は祥子さまより上だぞ」
「私の方が年上なんだから、そんなの関係ありません!」
「亀の甲より年の功ってかい?いや、私よりお歳を召されてる祥子さまの為に濡れ煎餅でも持って来ようかな」
「―――!!」
「は、春子さん!お姉様をいじめないで!」
「しょうがないなぁ…可愛い祐巳に免じてやめてあげよう」
祥子をどうどうと落ち着けながら、何とも言えない表情で私を見る祐巳に、そろそろ祥子を許してやるかぁと思い始めた今日この頃
「えっと、選挙結果によってはお姉様も紅薔薇様でなくなっておしまいになるんですか?」
「そう。私にも志摩子にも、平等にその可能性があるんだよ」
少し疲れたような令の物言いに、白薔薇候補こと藤堂志摩子は白くないブラックな雰囲気を全面に押し出しながら言う
「可能性は平等でも、確率は違うと思いますけど」
アンニュイな志摩子からは、暗くて正直湿っぽい空気か駄々漏れだなぁ…
「そのロサ・カニーナが2年生なら、むしろ自然なことかもしれませんし」
重いよ…空気が重いよ
もう帰っていいかね私?
てか、『ロサ・カニーナ』って何処かで聞いた事がある気がするんだけどなぁ


私は馴染みのない扉の前に立っている
「ねぇ祐巳、マジで入るの?」
嫌そうな私の声を無視して、祐巳はその扉を開けた
建物の中は広く、大きな棚が数多く並んでいて、その棚には数多の本が所狭しと並んでいた
そう、ここは図書館
私的に鬼門とまでは行かないまでも、職員室に次ぐ嫌なスポットである
何でかと言えば、館内ではお静かに。これにつきる……別段騒ぐキャラじゃないけど、無言は好きじゃない
「薔薇の書かれた図鑑を探しているのですが」
「それは…こっちね」
先行していた祐巳が、黒髪の図書委員に本を尋ねたって…
「あるぇー?静さまじゃんか」
「その声は…春子ちゃんね」
「あー…思い出してみれば、静さまって図書委員って聞いた気がしたりしなかったり」
祐巳はそんな私と静を見て、どこのどちら様と言った視線を向けてくるので説明してあげる
「この人は、他称…自称?歌姫って呼ばれてるか呼ばせてる静さま。んで、こっちは知ってるよね?」
「福沢祐巳ちゃんね。祥子さんに妹ができたって2年生でも話題になったわ」
祥子の妹と言われて嬉しいのか、祐巳はえへへーと笑って自分の頭を撫でている
「お探しは…この本ね。どうぞ」
「すみません」
「薔薇の種類を調べたいの?」
「たしか、ロサ・カニーナと言う薔薇は家の図鑑には載って無かった気がしたので」
「薔薇は品種が多いものね―――どんな薔薇だと思う?」
「どんなって…イメージとしては、黒っぽい薔薇?」
黒薔薇って言われると、何故か頭に三面拳の飛燕が出てくるんだけど……マイナーかつ微妙なところだよね
てか、黒薔薇って実在するの?
「………当たり。ロサ・カニーナは黒薔薇よ。その図鑑に載ってるわ」
イメージだけで当てるとか祐巳 す げ ぇ !
「それから……春子ちゃん。私の歌姫は他称よ」
軽く怒って静は行ってしまわれた
「…んじゃ、ちゃっちゃと調べて帰りますかぁ」
目的の本をゲットしたし、調べてさっさと出ちゃお
と思ったら、背後からほの暗い怨嗟の声をかけられた
「………裏切り者」
「ん?由乃じゃんか」
「いつの間に敵方と仲良くなったのよ祐巳さんに…春子さん」
そして、キッと無言で由乃に睨まれた
「敵ってどこのどちら様?」
「私達の敵と言ったらロサ・カニーナに決まってるでしょ」
「だから、祐巳が『そんな薔薇の名前を聞いた事があるようなないような』って言ったから、私は図書館に拉致られてるの」
「さっきのあの人がロサ・カニーナよ」
「えぇーー!?」
「は、春子さん、声が大き」
「館内ではお静かにお願いします」
「あー…すみません」
驚きのあまり、ついつい図書館だと忘れて声を大にしてしまうと、遠くから澄んだ声で静に文句を言われてしまった…
だってさ、静が件のロサ・カニーナだよ!?
…まあ、あの人の人となりはよく知らないから何とも言えないけどさぁ
「春子さんはお知り合いじゃなかったんですか?」
「いやいや、そんな風に呼ばれてるのなんか見たこと無いし。そもそも、誰がロサ・カニーナか知らなかったし……いや、思い出してみれば遠巻きに聞いた覚えはあるけど」
「令ちゃんが言ったじゃない」
「あれ?………あいや、聞いてなかったわ」
てか、マジでそんなこと言ってたっけ?
まったくもって覚えてないね…
「もう…2年藤組、蟹名静さま。出席番号10番、図書委員」
静について説明を始めた由乃のに祐巳は真剣に耳を傾けているが、ぶっちゃけそれって知ってても何の役にも立たない情報だよね
というか…
私は一歩だけ由乃から身を離し、由乃と祐巳の直線を塞ぐように移動する
「その情報…ストーカー?」
「違う!」
私の疑惑に満ちたジョークに、顔を真っ赤に怒鳴る由乃
いささか図書館で出す声にしては大きい気がしないでもなかったけど…
「図書館ではお静かにお願いします」
予想通りと言うか、また静の澄んだ声が届き由乃が沈んじゃったわ
まあ、敵だ何だ言ってる相手に見えない所からとはいえ、いきなり注意されれば凹むわな
「とにかく、当初の予定を済ましちゃお祐巳」
息苦しい図書館を脱出する為に、由乃の登場で目的を失念している祐巳を急かす
さあさあ、さっさと図鑑を調べてくれたまえ
「あれ?この薔薇…」
「黒くないよね?」
「黒?」
図鑑を開いて調べると、その薔薇は小さな白薔薇だった
「あー…さっき静さまが『ロサ・カニーナは黒薔薇だ』って言ったの」
「黒くないじゃない」
図鑑を確認した私は、わざとらしいまでの格好で本棚に隠れる様に図書の貸出しをしている静に視線を送る
「間違えたのか冗談だったのか…実は静さまってすっとぼけキャラだったり?」
いやぁ…あのキャラは白薔薇ってより黄薔薇の匂いがプンプンするんだけどなぁ
まあ、人は見かけによらないとも言うし…うーん

#12月15日 誤字修正



[4307] 薔薇色の十字架 15話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:46367299
Date: 2008/12/15 09:36
――夕方、それは魔が辻を我が物顔で歩く逢魔ヶ時
――逢魔ヶ時、それは………私の時間!
現状をかっこよく言うとこんな感じ
端的に言っちゃえば、所謂放課後ってやつです
悲しいことに山百合会に名を連ねさせられてしまった今は、私の時間ってより公務の時間だけど
…それにしても三薔薇で見慣れてはいたけど、見知らぬ生徒に挨拶されるのは慣れんね…薔薇の館に行くことすら羞恥プレイの一環に近いわ
なんて言ったらいいのかな?こう…選挙前だから応援が熱いって言うか周りのテンションが高いって言うか
偶に挨拶ついでに「選挙頑張って下さい」って応援してくれる人が居るけど、ぶっちゃけ選管が掲示してるプリントを読んでないんだろうなぁ……とりあえずは「ありがとう」とだけ伝えてはいるけど
「そういう訳だから、私はちゃっちゃか帰るね」
「なにが『そういう訳』なんですか…」
「そんなこと気にしてたら将来禿げるよ?」
外側から会議室の扉を開けて、顔だけ会議室に突っ込んで帰りたい言ってみると祥子から即座に反論が届いた
だってさ、みんなは次の選挙の準備だべ?私はやること無いじゃん
「そんなこと気にしてたら将来禿げるよ?」
「何で2回も言うんですか!」
「重要なことだから」
「……はぁ」
祥子の低い沸点まで達したと思ったけど、ペンを持った手で眉間を押さえ、さっさと鎮火してしまう
張り合いがないねぇ
「って、そういえば志摩子は?居ないみたいだけど」
「志摩子さんは、用事があるとかで先に帰りましたよ」
「ふーん、ありがと祐巳。んじゃ由乃、祐巳、令さま、また明日」
別れの挨拶をすると、室内の気温が下がったかのような感覚になる
「あ、あの、春子さん?お姉様へは…」
「ん?そうだったね、ごきげんよう祥子さま」
「…ごきげんよう、春子ちゃん」
挨拶さえ済ませれば私のもの!さっさと顔を引っ込めて校門へと向かって歩いて行く
最近めっきり寒くなったねぇ。耳当てがわりにイヤホンからヘッドホンに替えようかな…
ついでだし、ワイヤレスヘッドホンを買っちゃうかぁ?けど、ノイズが入るって聞くしなぁ…
そんな事を考えて歩いていると、私の前に見慣れたふわふわ髪が!
「何を見てるん?」
「きゃっ!春子さん!」
「驚かせちゃった?って、むむむ?あれは――ビラまき?」
立ち止まっていた志摩子の視線の先を辿ると、それは校門付近でビラを配っている四人の学生だった
「…あれは、ロサ・カニーナを応援する人達です」
「あー、もうすぐだから知名度を上げなきゃならんしね」
「私と違って自分の意志でなろうと思って、それに全力を傾けてるんです」
「ふむ…要するにビラを一生懸命配ってて、居心地が悪いってか通り難くて立ち止まってた、と」
そこまで言うと、志摩子さんは黙って俯いてから小さく頷いた
なんて言うか、可愛いくていじめたくなるけど私は自制できる女だからね!
「そうだなぁ…別に志摩子は悪い訳じゃないんだし、とりあえず胸を張って歩けばいいと思うよ?ビラを渡されたら笑顔を返せればディ モールト ベネ」
「…そうかな」
「まあ、今日は私も居るし一緒に行こ。何も校門まであと数歩って所で突っ立ってるのもアレだし」
そのまま歩こうとしない志摩子の手をとって、私は志摩子を引っ張って歩く
周りから視線が刺さる
まあ、今話題の志摩子と不本意ながら話題になった私が手を繋いで、人目を忍んで歩くのもダメだけど人前で堂々と歩けば視聴率もうなぎ登りってやつですよ
そんな視線なんて素知らぬ顔で歩いて行けば、問題の校門は目の前
そして運が悪いのか凄く悪いのか、配るのに集中している二人が寄って来る
「次期白薔薇様にはロサ・カニーナをよろしくお願いします!」
配ってる二人が笑顔で渡してくるけど、私と志摩子の顔を確認すると笑顔が凍った
…まあ、私が同じ立場でも思考が凍るね
だって、私は別にいいとしても現白薔薇の蕾が居るんだよ?しかもビラを渡そうとしたうえに、笑顔で『白薔薇の蕾を蹴落として静を薔薇様にして』ってお願いつきで
「…ビ、ビラまき頑張ってね」
「あ…ありがとうございます」
とりあえず、何故か応援が口から出るあたり私もテンパってるわ
って、急に握る手に力が入り始めたよ志摩子!?
たしかに失言だったとは思うけど、無言の抗議はやめて!
あまりのプレッシャーに、私は足早に校門を突破する
走ってはいない。だって志摩子が居るし
ついでにそのまま一緒に帰ろうかと思ったら、何でも志摩子に用事があるらしく別れて帰ることに
――そう言えば、今日はそんな理由で山百合会には来てないんだったよね。すっかり忘れてた



私は罪な美少女…だからこんな風に――
「寒いから暑苦しくはないんですが、歩きにくいんで離れてもらえません?」
「いいじゃんか春子ちゃん。あ、あっちに居るの祐巳ちゃんじゃない」
「あー引っ張らないで…歩きにくい」
――出会い頭に白薔薇に抱きつかれる
掃除を済ませてさあ帰ろうさっさと帰ろうと校舎を出ようとすれば、神様に見放されているのか逆に凝視されているのか、なにやら暇そうな白薔薇にかち合ってしまい、更には祐巳を見つけたのかそっちに向けて引っ張られる始末…
「お、美人さんだなぁ」
その言葉に釣られて祐巳の隣に立つ人を見れば、それは静だった
それにしても、美人さん、か………見事に認識されてないな
そんな不幸な静は私達に気付かず音楽室に入って…あ、引っ付いてる白薔薇と私を見て一瞬眉をしかめた
問題はしかめたのが私に抱きつく白薔薇か、渋々ながらも甘んじて抱かれている私が
「綺麗な娘だねぇ。祐巳ちゃんのお友達?」
「えっ?」
「あれが件の白薔薇候補、静さまですよ」
「白薔薇候補?彼女立候補してるの?」
「…言っちゃえば自分の跡目争いなんだし、もう少しばかり興味をもったら?」
「そうかなぁ?まあいいや、祐巳ちゃんはもう帰るの?」
はい、そうですね。私の話しはまあいいや程度ですね…
「はい」
「じゃあ、帰ろっか」
言うが早いか、白薔薇は即座に祐巳の腕を抱いて歩きだす
いや、だから歩きにくいってば……もういいけどさ
祐巳はまだ白薔薇に抱きつかれるのに抵抗があるらしく、さっきから「離してくれ」だの「恥ずかしい」だの言ってるけど、言って聞くなら私は既に解放されてるよね…
抵抗する気が無い私は、完全に引き摺られながら玄関に連れられた
そこで流石の白薔薇も靴を履き替えるのに私達は邪魔らしく、やっとこさ解放された
…しかし、あの"当ててるのか"ってくらいの胸はズルいよなぁ
「祐巳ちゃん春子ちゃん早く早くー」
「あー、はいはい、行きますよ急ぎますよ。行こう祐巳」
玄関先で喚くわがままな白薔薇の督促に急かされるままに祐巳を引っ張って行く
「山百合会幹部オーディションに出たいって言ってる2年生ってあの娘なんだ」
「オーディションじゃなくて選挙なんですが…」
「いいんじゃない?綺麗な娘だから」
やっぱり顔か…まあ、実務能力は働かなきゃ見れないからしょうがないか
「ちょ、ちょっと待って下さい白薔薇様!」
「「ん?」」
何かが琴線に触れたのか、祐巳が珍しく怒り気味で隣の白薔薇を睨む
はて?いまの会話に怒るべき場所は…あったかなぁ
「普通、こういう場合妹である志摩子さんを応援するものじゃありませんか!」
あー…志摩子の扱いに憤慨してるのね
「でも、志摩子は立候補してないんでしょ?だったら、やりたい人にやってもらえば」
ですよねー、だから薔薇十字ってのも誰かにやってほしいね!やりたい人が居てくれればの話だけど…
そういう言い方をすれば、やりたいって人がいる志摩子は幸せなのかも
「こういう時は、白薔薇様が妹である志摩子さんを説得するべきじゃ」
「志摩子が説得して欲しいって言った?」
「そんなこと言うわけないじゃないですか、あの志摩子さんが…」
白薔薇も人が悪いよね、絶対に言わないってわかってて聞くとかさ
…つーか、私忘れられてる?
「じゃあ説得しない。だいたい3年生に選挙権はないんだし、そんな面倒なことに巻き込まれたくないな」
あれ、巻き込まれたくないとか私への挑戦かなにか?
そんな無駄な事を考えてると、なんて言うかそこには思い詰めた祐巳が
「どうしてそんなに冷たいんですか…姉妹なのに、姉妹なのに黙って見ているだけなんて、寂しすぎます」
堪え切れずに涙が溢れる祐巳に、表面上に出さないけど私と白薔薇はかなり慌ててる
どれくらい慌ててるかと言うと、白薔薇が私に必死でアイコンタクトを送るくらい慌ててる
何かを伝えようと必死な白薔薇は、かなり不自然な感じに目をパチパチさせて……あれ?目を閉じたり開いたりに法則性がある気がするんだけど
私はそれこそ穴があくくらいなまでに白薔薇の目を見つめる
…わかったのは、目にはパターンがあって閉じる・閉じ続ける・開くが交互に―――て、まさかあれはSOS?モールス信号ですか!?
アイコンタクトって目を見て通じるらしいけど、それはアイコンタクトじゃなくね?
白薔薇は私に通じないと思ったのか、重い口を開く
「えっと…私は何か悪い事を言っちゃったかな春子ちゃん?」
「…悪い事を言ったというより、言うべき言葉が足りなかったかと。あとは祐巳が天然記念物ばりの純粋ってのもありますが」
さっきの話だけを聞けば放任主義と言うより、志摩子に無関心てかどうでもいいって言ってる風にしか聞こえないし
そんな話をきけば純粋ですれてない祐巳には辛いのかもしれない
「祐巳ちゃんが泣きべそかくことないじゃない―――――じゃあ、後は春子ちゃんに任せたから」
白薔薇はそのまま手を振ってすたすたと……あ、逃げられた!?



[4307] 薔薇色の十字架 16話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:46367299
Date: 2008/12/26 01:46
Q.ここは何処?

A.人通りの多い玄関前

Q.目の前には?

A.泣いてる祐巳が居る

Q.周りから私達はどう見える?

A.私が祐巳を泣かした風にしか見えません

Q.急に質問形式できた?

A.急や

「薔薇十字さまが紅薔薇の蕾の妹を泣かせて…」
「このあいだ白薔薇の蕾の手を引いているのを見た…」
「祐巳さんは春子さんにふられて…」
「白薔薇の蕾と薔薇十字さまができてる…」「でも、薔薇十字さまは黄薔薇さまとじゃ…」
「白薔薇さまと腕を組んでいるのを見た…」
「薔薇十字さまにとって白薔薇の蕾は遊び…」
「かわいそうに白薔薇の蕾…」

私と祐巳は野次馬生徒に絶賛取り囲まれ中

何だろうか…私を取り巻く環境全てが私に不利な気がするんだけど……とにかく弁護士を呼んでくれ!

とりあえず、色々と聞き捨てならないわ。なんでよりによって『私×黄薔薇』なの…私はノーマルなのに

しかも周りから聞こえるストーリーだと、私は黄薔薇と付き合っていて、更には白薔薇とも関係していて志摩子をたぶらかして弄び、祐巳を手酷く振ってる酷い女…
――あれ、なんだか心から涙が出てきそうだよ?

てか、なんで誰も白薔薇が祐巳泣かしたって思わないわけ?これが世に言う人望ってやつ?

それとも、顔か!やっぱし顔なのか!?畜生面食いめ!

こんな世界に反逆する私の魂の歌を聞けぇぇぇ!

―――って、落ち着け私…「素数」を数えて落ち着くのよ。「素数」は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…こんな私にも勇気を与えてくれはず
落ち着いて気付いたけど、現状に唯一救いがあるとすれば、近くに蔦子が居ない事と新聞部が自由に紙面を作れないことか

もしも今まで通りの新聞部だったなら、明日の1面トップはこの記事で決まりだし、黄薔薇革命云々から立ち直って即座に次のお祭りとか勘弁です…しかも、槍玉に上げられるのが自分とか、もうね…

こう、瓦版のトップに『薔薇十字vs紅薔薇姉妹が冷戦突入!?』とか『宇垣春子の女性関係に迫る!』とか『薔薇の館は薔薇園ならぬ百合園だった!』なんて書かれた日には、あたしゃ率先して学校を休まざるを得ないわ

………さて、現実から目を反らすのはここまでかな?これ以上はそろそろ私の信用問題に発展するわね

てか、現状で全面ストップ安?

私を例えるなら、公共事業費を削られた土建屋か、円高ドル安時の国内輸出産業とか?

そんなわけだから、私もそろそろ一手打たせてもらいますよ

「祐巳祐巳祐巳祐巳よぉ」

泣いている祐巳の後頭部に手を当てて、自分の額と祐巳の額とをくっつける

祐巳が目を見開いて私をみるが、気にしない。て言うか、顔が滅茶苦茶近いから気にしたら私まで恥ずかしくなる

私の視界には祐巳の顔以外が入り込むことはなく、互いの吐息は相手を求めて霧散せずに絡み合う

涙を理由に目元を少し赤らめ、頬はまた違った理由で上気させる祐巳

その目は潤み何かを期待するかの様に唇は小さく震えている

――何か私の置かれたってか作った現状エロくね?

外野もいきなりの流れに戸惑ってか、しんと静まっている

「そうだなぁ…祐巳としては蛙の子は蛙にならなきゃならないって思ってるんでしょ?」
「蛙の子は蛙?」
「姉が薔薇なら、妹はそれを継がないとならんって思ってるんでしょ?」
「それは…」

口ごもる祐巳。少なからず近い考えは持ってるんだろう

「祐巳は紅薔薇の蕾が好き?」
「うん…好き」
「祥子は好き?」
「えっ…うん、好き」
「じゃあ聞くけど、祐巳が好きなのは紅薔薇の蕾って役職かい?とも、小笠原祥子かい?」
「私が好きなのは祥子様です!」

反射的に大声出さないでよ祐巳…耳がぁ

近いんだから!二人とも近いんだからさぁ!

「祐巳は紅薔薇の蕾の妹になったんじゃなくて、小笠原祥子その人の妹になったんでしょ?志摩子だって白薔薇の妹になったんじゃなくて、佐藤聖その人の妹になったんだよ。別に偶々姉が白薔薇だっただけ。なら、白薔薇に説得されて志摩子が立候補したんじゃ、それは嘘になる。姉が白薔薇だったから渋々継ぎましたってんじゃ、駄目だってことぐらいわかるべ?」

ゆっくりと、それこそ祐巳を諭すように言葉を紡いでいく

「姉が妹に求める、妹が姉に憧れる、姉が妹に選ばせる、妹が自ら選びとる。いろんな姉妹の形があるけど、白薔薇姉妹は偶々姉が妹に選ばせる姉妹だったってこと。で、志摩子は白薔薇を見て役職としての白薔薇に成りたければ自分で立候補すればいいし、他に成りたい人が居るならば肩書きなんてあげちゃってもいいし、誰も居なきゃ居ないで肩書きなんて犬か何かにでもくれてやればいいさ。肩書きなんて無くたって佐藤聖の妹にかわりはないしね」

ああ、私も薔薇十字なんて鎖でがんじ絡めにして、ドラム缶に入れてコンクリート流し込んで東京湾にでも投棄したいわ。そうすれば、も少しまともな学園ライフを過ごせるかもしれんのに…

あれ、私まで目が潤みそうです

「まあ私が言いたいのは、志摩子を信じろってこと。祐巳的にそんなに信用ならんかね?」
「し、信用ならないなんて、そんな!」
だから大声はやめてってば…
「なら、外野はどっしり座ってあげよ。周りが慌てても解決には寄与しないし、むしろさっき言った渋々継ぎましたになりかねない」

額をくっつけたまま、祐巳は小さく頷く

けど祐巳よぉ、お前さんは大きな忘れ物をしてるぜよ

「それとだ祐巳」

後頭部を押さえていた手を放し、二人の顔に距離を開ける

だって、言ったら叫びそうだし…3度同じ手を食らったら間抜けだし

「来年の今頃は祐巳も悩むんだよ」
「えっ?…………えぇぇぇぇぇ?!」
「そんなに驚かなくても…」

他人の心配をして自分の想定をしない祐巳ちょうかわかわ

祥子はなぁ…祐巳に紅薔薇を継げとか言わないだろうし、どうこうしろなんて行動指針なんかたぶんにして示さないだろうからなぁ

となるど、来年の今は祐巳はデッドゾーンにいるわけだ

可愛く困る分には許すからな。頑張って可愛く困ってよ祐巳?

とりあえず、わたわた手を振って慌てる祐巳の腕を掴み引っ張って行く

「つーわけだから、さっさと帰るよ祐巳。このままここに居たんじゃ、私は明日後ろ指さされ組になっちゃうわ」

渾名は薔薇十字だけで十分よ

このままじゃ、明日には女たらしとか祐巳の嫁とか呼ばれかねん…まあ、お嬢様はそんなこと言わないかね?

そういうわけだからさぁ、祐巳!いざ行かん自由の地、校外へ!



今日も爽やか胃が痛い!

…何で胃が痛いかって?

そりゃ、リリアンまでアリス・クーパーの曲をを聞きながら登校して、教室で蔦子に挨拶してみれば返事は「春子さんの女たらし」だよ?

周りはきょとんとしてるから知らないんだろうけどさ、何で本当に昨日思った通りに言われるのさ…てか、蔦子はやっぱしお嬢様じゃないのね

それにしても、なんと言うか蔦子の恐ろしいまでの情報網と伝達速度をまざまざと見せつけられた気がするわ

わかったことは、蔦子には本人が居ても居なくてもバレるって事だね
…はぁ

「蔦子、今日の昼にでも薔薇の館に連れてってあげるから、その話しは忘れなさい。当然皆の写真撮り放題で」
「春子さんの写真も?」
「……そんな事より、もうすぐホームルームだから席に戻りな」
「春子さんの写真も?」
「………撮り放題です」
「じゃあ、忘れようかな」

ルンタッタと足取り軽やかに自席に戻る蔦子に、眉間を揉みながらため息ひとつ漏らす

現金と言うか何と言うか、私の写真をそんなに撮りたいのかねぇ?

今は写真とかだけど、しまいにゃ貞操を求められたりして。なーんちゃって!

ハッハッハッハッハ………冗談に聞こえないとこが恐ろしい

…この考えは厳重に封印しなきゃ精神衛生上よろしくないわ

そんなこんなで授業は進み、私の前に立ち塞がるのは英語の授業…

正直に言っちゃうと、私は英語が一番苦手な授業である

だって、あんな暗号文章なんて読めないって!

洋楽はご褒美だけど、言葉の意味はリスニングじゃわからない。歌詞だって文章化された英語じゃなくて、和訳歌詞を読んで初めて内容が分かるぐらいだし

まあとにかく、私には拷問に等しい時間だってことさ…

さあ春子…夢の国へいざ行かん

数多のぬこ達に率いられ、聳える銀の鍵の門を越えん…


「――――!」
「―――」

…肩を揺すられる

「春――ん!」

何かを言われて…呼ばれてる?

「起き―」

意識が表明に浮いて来て…

「………んぁ、おはよ蔦子に志摩子」
「おはようじゃないでしょ春子さん…もうお昼よ?」

教卓を見れば教師は既になく、クラスメートは思い思いに昼食を採ろうとしている

「……ところで、蔦子と志摩子はぬこは好き?」

ふと、浮かんだ疑問を口にする

「「ぬこ?」」

それが何だかわからないと、蔦子と志摩子が首を傾げている

どうやら、まだ頭がきちんと回転してないらしい…ぬこはぬこだけど、ぬこじゃ二人には通じないわな

「猫よ猫」
「猫は好きよ」
「私も好きです」
「それより、アレルギーでも無いかぎり猫嫌いは居ないんじゃないかしら?」

蔦子の言い分にそれもそうかと頷くと、蔦子から「何で急に?」って視線で問われてしまう

言えない…夢の中でラヴェ・ケラフなる人物とぬこについて語り合ったなんて言えない…

「いやいや、まあいいじゃんか。で、どうしたん?」
「だから、お昼よ?薔薇の館に連れて行ってくれるんじゃないの?」
「ああ…それもそうか。それで志摩子も居ると」

志摩子がそれに頷くのを見て、一度軽く目尻をこすって「じゃあ行くか」と席を立った



後書き?
とりあえず文と文の間に改行を入れてみたよ
まだ仮段階なんでどしどし改行について改善点挙げちゃってください
例えば「」と「」の間も改行しろだとか幕が変わるところはもっと改行しろだとかね
当然改行しすぎで鬱陶しいって意見も有りだよ



[4307] 薔薇色の十字架 17話(マリみて オリ主)
Name: 呪人形◆bf19c6e7 ID:46367299
Date: 2009/01/01 22:59
階段を一歩ずつ登ると、その度に足場がギシリと悲鳴をあげる

なんと言うか、そこまで重くないよね私達…実は鶯張りなんだよね?もしくは老朽化だって言ってよバーニィ!

「薔薇の館には久しぶりに入ったわね」
「そう言えば、蔦子が入るのは祐巳のアレ以来だっけか?」
「特に立ち入りに規則はないから、蔦子さんも用事があれば入っていいんですよ」
「とは言われても、敷居を感じちゃってねぇ…」

カメラ片手に他人を激写する蔦子にすら敷居を感じさせる山百合会って凄いよね?

蔦子でこれなら、普通の生徒には薔薇の館はロンドン万博の水晶宮か、聳え立つアルテミス神殿か何かに見えるのかも

だとすると、探せばあと6つはその手の扱いのものがあるってことで、とりあえずマリア様の像は確定だし、もしかしたら温室も入るのかも。けど、あれこそ水晶宮だよね

まあ、色眼鏡がないせいか薔薇の館は私には要改築な小屋なんだけど…

「まあさっさと座った座った。紅茶緑茶珈琲と飲みたかったら、そこで湯を沸かしてね。残念ながら珈琲を水だしする時間は無いから」
「じゃあ私がお湯を沸かしますけど、飲みますか?」
「ありがとう志摩子さん。私の分をお願いするけど、春子さんはどうするの?」
「私の分もお願いで」

志摩子は頷くと、少し多めの湯を沸かす

「ありがとー」と言いつつ、そそくさと昼食の準備をする

今日の昼食は買って来たパン♪

見た瞬間にビビビときた!まるで運命の出会い!

この『焼きそばパン』と、その隣に置かれてた『ナポリタンパン』…そして、この『焼きうどんパン』

焼きそばまではわかる。わかるけど、ナポリタンと焼きうどんって何さ?

いや、全部麺類だからそばかうどんかスパゲティかの差しかないけど、スパゲティとうどんをパンに挟むって想像できないよね

美味しくなくはないだろうけど…やっぱし自分で味は確認しないとさ

つーか、焼きそばパンとか祥子は知ってるのかな?ナポリタンも知らなそうだし…

さすがに志摩子と蔦子は知ってるよね?黄薔薇一家は知ってそうだし、白薔薇も紅薔薇も、当然祐巳も知ってるだろうから知らなそうなのは祥子だけか

今度祐巳を焚き付けて、祐巳経由で祥子に焼きそばパンを渡してみようかな。いったいどんな反応をするのか見てみたいし…

けど、とりあえずは確認すべきだよね

「あのさ、さすがに志摩子と蔦子は焼きそばパンとかナポリタンは知ってるよね?」
「「………」」
「そんな目で見ないでよ。お嬢様的な意味で祥子は知らないだろうなぁ…ってとこから派生して気になったのよ」

何言ってんのこの人的な視線を二人から受けつつ、謝罪って訳じゃないけど言い訳をする

だってさ、リリアンがお嬢様学園なら、二人だって知らない可能性があるじゃん!まあ、この理論だと私も可能性に入ってるんだけどさぁ

うーん…しかし、祥子に色々食べさせてみたいなぁ

あれは弄り甲斐がありすぎるよね

お好み焼きとかもんじゃ焼きとか知らなそうだし

ハンバーガーなんて食べた事が無いんじゃない?ビッグマックとかメガマックなんて見た日には仰天するんじゃ…

てか、何で祥子について考えてるんだ私?まるで恋する乙女みたいじゃない!

………自分で言って違和感満載ですね。まずあり得ない

「春子さん?何を考えてるの」

そんな事を考えてれば、蔦子から急に声をかけられる。当然私は違う事に脳内CPUを使いきっていたので

「え!いや、何と言うかどう祥子――じゃなくて、紅薔薇の蕾を弄くり倒そうかと」

と、どもりつつ本音駄々漏れでダメダメだった

「え?」

志摩子から素っ頓狂な声がでて、室内がしんと静まりかえる

黙るなよ!二人して黙るなよ!

「あーいやいや、寒くなってきたから鍋が食べたいねー」
「そ、そうね。寒くなってきたからね」
余りにも強引な話題転換に、優しき蔦子は乗ってくれる

…志摩子ならまだフリーズしてるよ

「な、鍋だよ鍋!薔薇の館で鍋パーティーでもしようよ!選挙が終わったら鍋だぞ志摩子!」

こんな時は一人でハイテンションになり、心の正常を保たないとね!

これを人は動揺と呼ぶんだけど

「鍋…ですか?」
「そうそう、鍋鍋。祝勝会?ってやつ」
「私が山百合会幹部選挙の祝勝会に?」

降って湧いた祝勝会の話題に困惑する志摩子を尻目に、鍋パーティー構想を本気で練らざるを得ないかと、ハイテンションな中でも冷静な部分が分析する

いや、私と志摩子だけならまだしも、視界の端で蔦子が目をキラキラさせてますから…

流石にコレは新聞にはできないだろうけど、「写真は関係ないよね」的に蔦子が来たいって言うんだろうなぁ。まあ、人数の少ない鍋ほど虚しいものは無いから、人数増加は大歓迎だけど

この際鍋パーティーの幹事を蔦子に丸投げして……いや、由乃と祐巳を巻き込んで幹事三人とかも有りかな?

「でも、私は………」
「えっ?ごめん志摩子、聞こえなかったからもう一度言って」
「私は…まだ出馬するか決めてません」

俯きながら話す志摩子

その声は重く、表情は見えないけど暗いのは確定だろう

「そんな私は、祝勝会には出られません」
「あのね、志摩子。祝勝会なんて建前なんだよ。万に一つで誰かが落選したとしても、その人を励ます為にやるさ。私達はお役目御免を縁の切れ目にするほど薄い仲だったかな?」

例えば紅薔薇一家

祥子が落選した程度で仲に亀裂が入るだろうか?

例えば黄薔薇一家

令が落選したぐらいで周りへの態度が変わるだろうか?

例えば白薔薇一家

志摩子が出馬しないからって皆が縁を切るだろうか?

「それにだ志摩子、私が招待してるのは白薔薇の蕾じゃない。いまそこに居る藤堂志摩子その人を招待してるんだよ。志摩子の価値は肩書きだけ?違うでしょ。肩書きなんてのはただのオマケ。だいたい白薔薇の蕾が藤堂志摩子なんじゃなくて、藤堂志摩子が白薔薇の蕾なんじゃない」

柄にもないことを言いつつ、少し熱い自分の頬を擦る

志摩子もいつの間にか顔を上げて私を見ている

なんか照れるな…

しかしそんなほんわか空間も、石を水面に投げ入れるように、闖入者といった形で崩壊した

急に鳴るノック音に驚き扉を見れば、そこにはよく見ないとわからない程度に少しだけ苦笑した静が居た

「ごきげんよう。入れそうな雰囲気じゃなかったけれど、少しいいかしら?」
「ロサ・カニーナ…」

蔦子が予想外の闖入者に呆然と言葉を漏らす

「今日は志摩子さんにお話があって来ましたの」

つかつかつかと我が家の様に堂々と静は志摩子の元へと歩み寄る。まさに威風堂々ってやつね

しっかし、ここは静に椅子を勧めるべきかね?

でも、馬に蹴られて死にたくはないしなぁ

「お話、伺いますわ」
「どうして立候補なさらないのかしら。締め切りは今日の放課後よ」
「私がどうするか、貴女に報告することではないと思います」

無駄に緊張感溢れる二人の会話に、流石の蔦子も自重して写真は撮らないらしい

この場のこの空気で写真撮影できたら、逆にその空気の読めなさ具合に感動ものだよね…

「ただ、貴女が二年生の身で白薔薇になる事に重荷を感じているのなら、来年度だけ私を利用しなさい。幸い私には妹が居ない…もし私が白薔薇になった暁には、貴女を妹に迎えるつもりよ」

爆弾発言投下だけどさ、絶対静は志摩子が頷かないってわかってて言ってるよね

てか、志摩子を焚き付けてるのかな?

志摩子がこんな提案に頷かない事ぐらいわかる筈だし、じゃあなんでこんな無駄な事を?

選挙後に伝えればいいはずじゃない?それとも義理を通すってこと?

まさか大穴で実は阿呆の子なの?

「――考えておいてちょうだい」

言いたい事が言い終わったのか、静は踵をかえして帰ろうと扉に向かっていた

「まって下さい」

それを止めたのは前を見据える藤堂志摩子

その目には何らかの決意の光が灯っている

「これだけはこの場でお答えします」
「何かしら?」
「今後何があっても私は貴女の妹になるつもりはありません…貴女以外の誰であっても同じです。私のお姉様は、白薔薇様ただ一人です」

きっぱりと胸を張って言う志摩子

あまり感情を出さない傾向にある志摩子も、姉の話しとなっては違うらしい

「そう。わかったわ」

そう言って志摩子から視線を切って部屋を出る静は、まるで何かに安心したかのように小さく笑った気がした

「さて、志摩子。格好いい宣戦布告だったけど、腹は決まってるの?」
「…ええ」
「時間はあるけど有限だ。志摩子がいますべき事は?」
「立候補の届け出をするので、お先に失礼します」
「うんうん、行っといで」

足早に部屋を出る志摩子を、私と蔦子は二人で見送る

「ねえ、春子さん」
「なに?」
「このお湯…どうしようか?」
「え?」

そこには、明らかに二人で飲むにはかなりの量のお湯が沸かされていた


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