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[4113] コードギアス 幸福のルルーシュ
Name: G-Say◆d47f5322 ID:c3c3e432
Date: 2009/11/03 17:13
 このお話のコンセプトは
『戦うだけが生き方じゃない』
    と
『ささやかな幸せ』
  の2つです


世界への憎しみに向ける力をナナリーを守る為だけに向けたルルーシュ
ナナリー中心に行動するルルーシュに否が応でも巻き起こる非日常への誘い!

幾度もの苦難を乗り越えた先に、果たして普通の日常は……そして優しく幸福な世界はあるのだろうか!?

乞うご期待!

作者の知識はアニメ全話とドラマCD数本とナイトメア・オブ・ナナリー全巻です。
アリス大好き。





・最新話に対する所見 on 第15話

よく分かんない画像認証で疲れましたが、なんとか書き込めて良かったです。
次回宣言なんかしません、書けたら載せます。

しかし業者対策とはいえ画像認証の字の汚さはヤバい。全然わかんない。



[4113] 第1話
Name: G−Say◆d47f5322 ID:9b87aab6
Date: 2008/09/05 11:56
──ただの学生に世界は変えられない──


世界を席巻し続ける超大国ブリタニア。
ここ日本に…エリア11に戦線を布告した7年前とは比べようもない力を保持し、今も尚その力を増している。

階級社会であるが実力主義社会的な観念も持ち併せてはいる、だから出世するという意味では学生でも何とかなるが…そんなものは結局飼い犬の未来だ。

一個人としての突出した力…権力でも良い、武力でも良い、それがあったとして──ブリタニアは小揺るぎもしない。

当然だ。
現在三つの勢力に分けられる世界情勢だが、ブリタニアの軍事力は圧倒的であり、簒奪したエリアも含めるなら国土も長大、世界の代名詞としてブリタニアの名を挙げても何ら不思議ではない。

つまり世界を変えるという事はブリタニアを変えるという事に置き換えられる……そして結局はこの答えに落ち着く。

何の力も無いただの学生に世界を変えられるのか?────否、と。

それが7年という歳月を掛けてまで見つけ出した俺の答え。
『ブリタニアをぶっ壊す!』
……なんて出来もしない事を誓った、愚か者の少年の夢の跡。





TURN 01 反逆?何それ





「もう無い物ねだりをする歳でも無いしな……」

「あ〜?何か言ったのルルーシュ」

「別に……それより、まだ着かないのかリヴァル?」

「ああ、何か事故があったみたいでさ〜?今迂回してるから、あと3分って所かな。
まっじーな、おっちゃん粘ってればいいけどな〜」

そう、幾らハシャいでも根気良く頑張っても一学生に出来る事なんていい成績を取っていい大学に行くか一流企業に就職するか、だ。

俺は進学する気も無いし、ブリタニアの為に汗水流して働く気もさらさら無い。
なら今何をする?

答えは何もしない。

ただどうしようもない感情の捌け口を求める為に、最もブリタニア人らしいブリタニア人……つまり貴族をおちょくって溜飲を下げるぐらいが俺の関の山。

チェスは唯一と言っていい俺の趣味だ。
小さい頃から周りにはただ1人を除いて相手になる人間は居なかったし、自分が学生に負けるなんて微塵も思っていない貴族の実力なんて本当に笑いが出るぐらい弱い。

それでもプライドだけは一流だから賭チェスで負けたら出し渋りはしないが再戦を求められた事は一度も無い。
つまり俺は賭チェスにおいてのみ権力を…力を持つ者を打倒できるって訳だ。

全く、滑稽だよ我ながら。ブリタニアを破壊するなんて絵空事もいいとこだ。

「別に急がなくてもいいさ、例えチェック手前でも問題なく勝てるからな」

「そりゃルルーシュの実力は信じてっけ──うぉわ!!?」

ギャリッ!

「…………前向いて運転してくれ」

「わりっ!」

そう、俺が学生で居る内に世界を変えられるなんて事は有り得ない。
無力な学生は世界の一部にすらなれないのだ。

だからと言って卒業した所でどうにかなるものでもない、そう……社会に出て力を付けるなんて選択肢は俺には無い。

7年前、祖国に…実の親であるブリタニア皇帝に捨てられた俺“達”には。



──────────



「いやーさっすがルルーシュくんだねー!今日は最速記録更新のオマケ付きだっ!」

「緩いんだよ貴族って、特権に寄生しているだけだから」

そういう俺はブリタニアの皇子だったんだがな……まぁ特権階級を謳歌した事なんか無いからセーフだろう。

そう、俺はブリタニアの元皇子……何者かに暗殺された母マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの遺児。

妹のナナリーはその襲撃に巻き込まれ目と脚の自由を奪われ、俺達兄妹は遠い日本へと人質同然に送られた。

まぁ結局ブリタニアは俺達兄妹が居るに関わらず戦争をしてきたんだから、俺達には人質になる価値すら無かった訳だ。

「………チッ」

虫唾が走る。
俺はまだ良い、目も見えるし脚だって動く。
体力は無いがそれでも五体満足だ、だが妹は違う。

母を失くし、視力を失い脚の自由も奪われた、それでもやっと日本で居場所を造り上げたと思ったら──この有様だ。

強者が弱者を食い荒らす、そんな国がブリタニアだ。
力が無ければ生きている事さえ罪になる。
もし俺達が生きていると知ったらまた外交に利用するだろう、下手に力を付けて目を付けられても同じだ。

だからこそ俺はナナリーが、せめてナナリーだけでも幸せに暮らせる世界を造る為にブリタニアを──

「おいおいルルーシュくん、さっすがだね〜」

「…ん?何がだ?」

「わお!気付いてもらっしゃらないとは(笑)
ほらアレだよ、クロヴィス殿下の」

「………?あぁ、アレか」

植民地となったエリアには大抵は皇族が総督としてブリタニア人が暮らすゲットーに赴任し治める事になる。

そしてエリア11に赴任してきたのがクロヴィス、第3皇子がわざわざ来るんだからエリア11は人気なのかね。
はは。

そして今テロリストによって死んだブリタニア人数名と大勢のイレブンを悼む放送をしている。

俺の兄であるあの男、クロヴィスの演技力だけはなかなかの物で見応えがある。
この間なんか、ブリタニア人が1人イレブンが100人超の死者を出した大惨事があったが……あの男はその報を聴いて涙を流しながら冥福を祈った。

言葉面だけはイレブンの死をも悼んでいる風に見えるが、その実はたった1人のブリタニア人の死へ流された涙だ。
奴にとってはイレブンなんて文字通り数字の存在でしかない、労働力としての。

にも関わらずイレブンの中のクロヴィスに対する評価は決して悪くはない、馬鹿な奴らだ。
見下す……いや違うな、もはや同じ人間としてみていないだけだと言うのに。

だからこそ涙ぐらい流して死を悼むフリも出来る、ペットが死んだから悲しい……その程度の感情と感傷。

「あれ、黙祷やんないの?不敬罪になんない?」

「別に良いだろリヴァル、こんなの聞いて遅れたらまたシャーリーに怒られるからな」

「あーそりゃそっちの方が恐いや」

「だろ?」

「ですな」

ああいう奴が皇族なんだ、そりゃ下も腐っていくさ。

俺達も見つかったら
「死んだと聞いていたから驚いているよ、国民のみなさん!解りますか?我が愛する弟の生存に私は涙を禁じ得ない!!」
とばかりに泣きに入るだろう、あぁ嫌だ。
絶対に見つかる訳にはいかない。

ともかく、ナナリーだけでも幸福に生きられる世界を俺は目指した──いや、目指していた。

“ブルルル………ン”

けれど俺は学生で、相手は世界そのもの。
見つかった時点で俺の目的は瓦解する賭にもならない戦い。

勝利確率は0、限りなく0に近いのではなく0、何もない。
分が悪いどころじゃない、ブリタニアを壊すどころかブリタニアの使いっ走りにされるだけ。

ならいっそ──現状維持をするだけで良いんじゃないかと、最近は思うようになってきた。



──────────



「明日も入れておいてくれよリヴァル、出来れば賭のレートをもっと高くしてもらえると助かるな」

「はいよ、ってかさぁ…俺はいんだけど最近かなり賭チェスしてんじゃん、何か欲しいもんでも出来たわけ?」

「あぁ、ちょっと…ナナリーの為にな」

「ヒューヒュー、相変わらずナナリーちゃんには弱いねぇ〜ルルーシュお兄様は♪」

「ばーか、茶化すなよリヴァル」

ナナリーだけでも幸福に生きられる世界──それを目指した俺の末路はもう語る必要もないだろ?

確かな未来を描けなくなった俺は愕然とした、けれどその時確かな確信を抱けた。

『別にナナリーが今不幸な訳じゃない』って。
そんな当たり前の事を。

未だに脚…は兎も角、目すら開けれないナナリー。けれどそれは不幸な事だろうか?

ナナリーは一言も辛いなんて言わない、ただ今の状態を有りの儘に受け入れている。
確かに不便ではあるが、それだけだ。

それを知った時、イヤでも気付かされたよ……俺はナナリーの幸福を祈るばかりにナナリーが“不幸だと決めつけていた”事に。

ナナリーは特別な事を望んじゃいない、ただありのままに傍らに存在する幸せを感じられるだけで幸福なんだ。
……そういう優しい子なんだ。

ナナリーが幸福だと言うのなら、俺が無茶をしてナナリーの幸福を壊す訳にはいかない。

生徒会のメンバーはナナリーに優しく接してくれる、俺は1人しか知らないがナナリーに同い年の友人だって出来た、7年前に全てを無くしたと絶望し怒り憎んだ俺だが……本当に大切なものは無くしてなんかいなかった。常に身近にあったんだ。

そう、俺にとってナナリーが幸福ならばそれで良い。
それが今の日常だと言うならば、俺はそれを守る為だけに力を尽くそう。

例え世界を壊せなくっても、たった1人の妹の日常を…幸福を守ることぐらいは出来る筈だ。

“ファン!ファーーン!!”

「うぉっとっとっと、ヒュー危ねー!」

「何だったんだ?今の」

「わけわかんね、何か今日は騒がしい日だねぇ。
貴族との賭チェスに、テロ報道に暴走トラック。
お!?見ろよルルーシュ、ヘリまで飛んでるぜ!!」

「……れやれだな、人の日常を…!?」

“ガッシャン!”

「……まさか俺達のせい?」

「まさか」

『──────』

「?何か言ったか、リヴァル」

「あぁ言ったよ!
エナジー線が切れたかもってな!!」

「あぁ悪い、手伝う」

何か聴こえた気がしたが………気のせいか?



──────────



別に交通事故に出会したのは今回が初めてじゃない。

「やれやれ、事故るなら他人を巻き込むなって」

「全くだね〜」

別に助けてやっても良いんだが──悪いな、お前達への優先順位は今の俺には遥かに低い。

エンジンが壊れた訳で無いのだからまた動き出す可能性は高い、俺達に直前まで気づかずに高速で接近したぐらいだから腕は悪いんだろう。
加えて、まるで何かから逃げているような…そんな挙動のおかしさもあった。

となれば、迂闊に近付けば急発進の巻き添えを喰う可能性が高い。

冗談じゃ無い、これから帰って退屈な授業を受けた後にナナリーとの大事なティータイムが待ってるんだ。
馬鹿に付き合う程、俺はお人好しじゃない。

「よかったなリヴァル、プラグが少し外れてるだけだ、エナジー線だって替えがあるしな」

「さっすがルルーシュ!頼りになるなぁ〜」

「お前のなんだから、いい加減修理ぐらい覚えろよな、手間賃ぐらい払えよ?」

「ん〜…じゃ今年のバレンタインにナナリーちゃんから貰った義理チョコでどうか一つ」

「また何かあったら遠慮なく俺に言ってくれよリヴァル!なに気にするな、俺達は友達だからな!!」

「まいどあり〜♪」

どうだい?
別に世界を壊そうとしなくても幸せってのはこんな簡単に降ってくるものなんだ。
こんな当たり前の、変哲の無いもの。

“ギャギャギャ!…ギィィイイイイン!!”

そしてあっちは、ふん…読み通り。

ホラな、あっちに行ってたら今頃はどうなっていた事やら。
少し前の俺なら誰も助けに動こうとしないブリタニア人に苛立ち、見限って助けに行ったかも知れない。

けど今の俺にとって大事なのはナナリーの幸せ、それにあのトラックの人間の生死も目的も何ら無関係。

何かを為そうとするなら相応の覚悟が必要だ、俺にナナリー以外の事で無意味な事をする覚悟は無い。
それでも無理に関わった場合、最悪命で贖う羽目になる。
そんな事はゴメンだ、ナナリーが悲しむじゃないか。

「よっし、これなら授業にギリで間に合うぜルルーシュ!」

「あぁ、行こう」

ただの学生に世界は変えられない。

あぁそうだ、俺はあくまでただの無力な学生。

けれど、ナナリーの幸福の一部でもある。

それだけで俺は充分だ、高望みはしない。
ずっとナナリーの幸福だけを考えて細々と生きよう。

プライド?それがナナリーとどう比べられるんだ。

『─つけた───私─の──』

幻聴が今度はハッキリと聞こえたが、俺はキッチリと無視した。
“日常”に“幻聴”は存在しないから。





[4113] 第2話
Name: G-Say◆d47f5322 ID:c3c3e432
Date: 2008/09/10 10:08
「もう!また賭チェスなんかしてたのねルル!?」

「ほらほら、授業始まっちゃうぞシャーリー。
お小言は後で、な?」

「んもぅ………逃げちゃダメだからね、今日こそ危険な事を辞めさせるんだからっ!」

「ハイハイ」

結局、この日も放課後まであしらわれるシャーリーであった。





TURN 02 覚悟を持て





「………報道は特になし…大した事件でも無かったのか…な」

(しかし帰りに見た軍の航空機からKMFが出ていたからかなりの大事の筈なんだが。
いや、それなら無事な可能性は極端に低いからどちらにしろ構わないのか?
……仕方無い、久し振りにハッキングして)

「あ、ルルーシュ?この書類もお願いねー」

ドサッ!

「…まだ有るんですか会長?」

「仕方ないじゃなーい、シャーリーじゃ難しくて解んないって言うしー」

「なら自分でやっ──
「ガーーーッツ!」
──はぁ、今回だけですよ?」

「よろしい♪」

例え何があっても世界は変わらずに動いている。

ルルーシュにとってもそれは変わらない、事故の切っ掛けを作ったなどと言い掛かりを受けナナリーに被害が出ると困るので暴走トラックに関する情報を探ったが特にめぼしい情報はない。

それだけに集中していられる程ルルーシュは暇では無かった。

授業は終わり放課後、会長であるミレイに押し付けられた書類の山に埋もれていく形で、些末事は日常からも記憶からも掻き消えていった。

今向き合うべき書類を見上げ、その量に嘆息する。

「遅れるって電話を……いやいや、俺が遅れるなんて有り得ない。
間違っているぞルルーシュ……俺は遅れたりしない、そうだろナナリー……」

それよりもルルーシュが思いを馳せるのは愛しの妹ナナリーとの時間。

その為に邪魔な物は全て片付ける、文句を言っている暇があるなら手を動かした方が良いとルルーシュは経験則から知っていた。

隣ではそんな少年に惚れている、ある意味で可哀想な少女が今日も虚しく説得を続けていた。


「ねぇルル、どうして賭け事を辞めれないの?」

カッ…カカッ…

「んー……何でだろうなぁ」

カッカッ…カッ

「私はね、知ってるんだよルル。ルルは本当は頭が良いって、だからね?もっとそれを役立てる事をした方が良いって私思うんだ」

カッカカッ…

「ああ……そうだな、シャーリーの言う通りだ」

カッ……カッ…

「だ、だよね!でしょ?
だったらもうしちゃダメだよ、ナナちゃんだってあまり良く思って──」

「ナナリーは『何時もお兄様は私に掛かりきりですから、ご友人のお誘いぐらい楽しんできてくださいね』と言っていたから問題は無いさ」

「……何でナナちゃんの名前を出した時だけ生返事じゃなくなるのよぉ」

シャーリーの魂の説得は虚しく、カッカッと書類を片付ける筆音が響いているだけだった。
暖簾に腕押し。

因みにルルーシュが先程まで気にしていた当のトラックには日本解放を謳うレジスタンスが乗っており、ブリタニアに対して懸命に奮闘している熱いヒューマンドラマが展開されており自分達に構ってる暇も無いわけだが……ルルーシュには既に知る気も由も無かった。

幸か不幸かルルーシュが関わらなかった事で1人の少年が己の矜持を曲げずに済んだ。
1人の少女を独断で逃がすなんていう軍規無視を行い結局は撃たれたが。

その独断のツケが廻ってクロヴィスの指示によるシンジュクゲットー壊滅命令と過剰なまでの武力投入が発生、ヘタレジスタンスのリーダーは初期も初期から抗戦を諦めた。

時間だけはたっぷり出来たのでメンバーが数人死に、一名が負傷しながらもシンジュクゲットーに居た日本人を出来る限り逃がしたりした。

勿論限界はある、かなりの死傷者が出た上にシンジュクゲットーは壊滅したが……そんな事はルルーシュに関係無かった。

しかしその一連のどさくさに紛れて逃げ出した1人の少女との出会いは、確実に迫っていた。

それは間違いなくルルーシュにとっては不幸を与えるファクターの一つに違いない。



──────────



「………………」

カッカッ…………タン

「よし、終わりましたよ会長。それじゃ」

タッタッタ………

「あ!ダメよルル、まだ話は………行っちゃった」

シャーリーが伸ばした手は常の動きとは違い早すぎるルルーシュの肩を掴む事なく名残惜しげにわきわきさせているだけ。

そんな姿を見つめていたミレイの視線に気付いたシャーリーは、途端に頬が熱を持つのを感じた。

「シャーリーってば可愛いわね~♪
好きな男の子には強く出られない?んふふ、尽くす典型のタイプね」

「う~~~、良いなあナナちゃんは。私もルルと一緒にお茶したいなー」

「ムリムリ、ルルーシュの予定は8割ナナリーちゃんだからな。
俺だって最近、アイツと遊んでねーもん」

「うぅ…ヒドいよリヴァルったら」

最近のルルーシュの1日はナナリーから始まる。

朝は爽やかなナナリーの笑顔を見る事から始まり、いまだに上手く食べれず偶に零してしまうナナリーの手伝いをしながら朝食を楽しむ。

その日が学校ならナナリーの友人のアリスに中等部へ送ってもらい、楽しみのなくなった灰色の1日を賭チェスを嗜み資金調達しながら潰す。

休日ならばもう1秒たりとも離れはしない、一緒にあやとりをしたり折り紙を折ったり近くの公園に森林浴に行ったりして日がな一日を妹とゆったまりまったり過ごす。

夜にはナナリーが寝付くまで傍に居て子守歌を歌い、ナナリーの寝顔を確認してから就寝する。

何処にも他の要素が入り込む隙は無い。
スーパーメイド咲世子さえ必要としない実に慈愛に溢れた自然な介護技術。

洗練されたシスコンにとって妹との時間は何物にも代え難いものなのだ。

ルルーシュの1日の終わりもまた、ナナリー。

「この前はダージリンだったから……今日のローテは緑茶か。
ん、悪くない」

自然と綻ぶ笑顔がしまりのない顔に変わっている事に気付く筈もなくルルーシュはナナリーの元へと急いだ。

つい数ヶ月前まで何処か焦っていた少年の陰は無く、ただ当たり前に家族を愛する1人の兄がそこに居る。

ただ……傍迷惑な運命の針は、彼の日常へ棘の様に突き刺さる瞬間を刻一刻と機を窺っていた。



──────────



「大丈夫だったかカレン?怪我は…」

「平気、少し打ち身気味ですけど……へっちゃらです!」

ルルーシュが危うく死亡フラグに巻き込まれかけた相手、トラックに乗っていたヘタレジスタンスグループのメンバーは辛くも命を長らえた。

そのメンバーの中でも特にKMFに並々ならぬ適応性を持つ少女カレン。
彼女の頑張りがこの結果を生んだ。

卓越した操作技術を持つ彼女だが、世代間で性能差が歴然と違う上に旧世代機では辺境伯であるジェレミア・ゴットバルド率いる純血派部隊には手も足も出なかった。

無事に逃げられただけでも、如何にカレンが優れているかが解る。

しかしその輝きも弱小ヘタレジスタンスに埋もれていては活かせない、その不幸をリーダーである扇は何時も考えている。
『誰か優れた指導者が現れてくれれば……』と。


「チッキショウ!ブリキヤロウめ、ふざけた真似しやがって……!イチチ」

「おい玉城、手が折れてんだから静かにしてろって」

「け、けどよぉ……」

ヘタレジスタンスが撤退する決意を固めさせた原因の一つが彼、玉城の怪我によるものだ。

いつも威勢良く張り切るのだが、その思いに4乗反比例して成果はあげられない。
ハッキリ言って足手纏いなのだが、そう組織力や人材が豊富なレジスタンスで無い事が彼の評価を誤認させていた。

曰わく『勇敢である』と。
無謀と勇敢では話が違うのだが今そんな事を語る必要もない。


「…シンジュクゲットーは壊滅か、くそっ!」

「ごめんなさい、私はナイトメアを使ってたのに…こんな…ッ!!」

「いや、カレンはよくやった。悪いのは俺だ、俺がもっとしっかりしていれば」

口々に悔しさや反省を語り出すメンバー、そうやって慰め合って正しく現状を見つめず心に満足感を得ているだけだと……誰も気付けない。

彼らには指導者以前に……絶対的な“覚悟”が足りない、日本を取り戻すと叫ぶ裏腹で誰もが「ブリタニアには敵わない」と思っている。

確かに真実の一面でもあるが、それでは何も変えられない。
そう……変えられないのだ。

クロヴィスによるレジスタンスへの対応は今回の様な急事で無い限り非常に甘い。

それはイレブンへの慈悲では無く、優秀な帝国親民の命が無意味に失われる事を愁いているからに過ぎない。

それに加えエリア11は戦争初期にかなりの余力を残して降伏した事もあり数々の抵抗戦力の温床となっており、残存戦力は他エリアの比では無くクロヴィスはKMFによる物量と時間で押す消耗戦を選択した。

そして反抗勢力の掃討は既に時間の問題だろう事は、火を見るよりも明らかだろう。

絶対的な力の前に、覚悟の無い人間は余りにも脆弱だった。



──────────



「ただいま、ナナリー!咲世子さん」

「あ、お帰りなさいお兄様!」

「お帰りなさいませルルーシュ様」

最近の兄は弾むように軽やかな足取りで自分に会いに来てくれる。

それがナナリーには嬉しかった、相変わらず賭チェスに没頭してはいるがそれ以外は常に自分と居てくれようと時間を合わせてくれる。
申し訳ないと感じてしまうぐらいに、兄はとても優しくて暖かい。

時折だが見せていた焦りや悩み事の様な物が解決したからだと、そうナナリーは前向きに捉えていた。

「咲世子さん、俺の分も用意してもらえますか?着替えたら直ぐに来ますから」

「はい、ルルーシュ様。
ですがその前に……ルルーシュ様にお客様が来ておられますよ」

はて、と内心で呟くルルーシュ。

わざわざ此処まで来る様な人間には数人しか心当たりが無く、その数人とて先程別れたばかりなので相手方の見当が全くつかない。

自分が追い抜かれた可能性も、否定できないのだが。

「へぇ、誰です?名前は?」

「それが、お名前は話そうとされないのです。
ですがナナリー様とルルーシュ様の小さい頃をよく知っておられましたし、見た目は同年代の方ですから御学友では?と。
客間にご案内しておきましたが……」

如何いたしましょうか?
言外に含む意図にも気付きながらルルーシュは記憶の海へと埋没していく。

「誰だ、そんな知り合………!」

ハッとなり口を紡ぐルルーシュ。

当たり前な話だが学園の生徒には心当たりが無い。

だが……そう、何も学園の生徒だけが来るとは限らない。

自分達の小さい頃を知っているとなるとその対象は大ざっぱで2つに絞られる。

ただ1人の親友と、或いは自分達の正体を知っている者の2つに。


後者なら拙い、拙いが咲世子に動揺は見られないのだから少なくとも今は害悪でも無いのだろう。
いや、牙をひた隠しにしているだけかも知れないのだが。

希望としては前者だったが

「咲世子さん、その人の性別は?」

「女性の方です」

呆気なく否定された。
これで後者はほぼ確定したと見て良い。


となれば何の目的で──それは今は問題ではない、今どうするかだと思考を巡らす。

「……咲世子さん、“客間”に案内したんですね?」

「はい。
“客間”で御座います」

「…………」

最悪、今日で何もかもが終わるかも知れない。

こういう事を予想しなかった訳では無いが、それでもこの数年ほどは自分でも気付かない内に日和見主義になっていたのかも知れない。

自分が何をすべきか?そんなものはとっくに決まっていた。

「咲世子さん…………」

ボソりと耳元へ呟きその場を後にするルルーシュ。

何が待っているかは知らないが、彼はその歩みを止めない。

彼にとっての全て、ナナリーの日常を守る為に進み行く。
その為に必要なものが有るとすれば……それは“覚悟”だろう。

そんなモノは、ルルーシュにとっては今更だった。
覚悟など……とっくに済ませているのだから。





[4113] 第3話
Name: G-Say◆d47f5322 ID:c3c3e432
Date: 2008/09/16 23:21
「まだ見つからんのか! こんな体たらくを許す為に与えた殲滅許可では無いのだぞ!!」

普段は温厚なクロヴィスが激昂している。

バトレーは主の叱咤に激しく動悸し、汗を拭うハンカチは既にびっしょりと濡れていた。

「申し訳ありません殿下……現在不休で瓦礫跡を探させておりますが、未だ何の報告も。
ご指示通りイレヴンの遺体の埋葬も行っており追悼番組を製作させておりますが、如何せん数が多く」

「言い訳はよいバカ者!
本国には区画整理を兼ねた演習とだけ伝えてあるのだぞ? “アレ”を見つける為に全ての隣接ゲットーを区画整理しろとでも言う気かバトレー!?」

「ハハァッ……弁解のしようもございません」

「アレ万が一にでも父上に伝わろうものならば私は廃嫡ものなのだぞ……えぇいっ!!」

ドン!
壁を叩いてこの怒りを発散させようとするが、どうにも収まらない。

焦る頭は良策を思い描けず、いたずらに過ぎ去っていく時が尚更にクロヴィスを追い詰めていた。

普段の優雅さをかなぐり捨ててでさえも、何を求めていると言うのだろうか?

「検問は張っておるのだろうな!」

「ハ! 今も隣接するゲットーを親衛隊に虱潰しに捜させております、虫一匹さえも逃がしませぬ」

「余り派手にやるでな…………いや、待て」

落ち着きなくうろうろと歩いていた足が不意に止まる、何事かと顔を伺ったバトレーの前には笑みを浮かべるクロヴィスの姿があった。

「そうか小娘め……あそこに居るやも知れん。
いや、やられたよ。ふはははははは」

顔を手で抑え、込み上げる笑いが止まらないのか延々とクロヴィスは肩を揺らし続けた。





TURN 03 鳥籠の中の自由





「ふぅ……」

この壁一枚を隔てた先に待っている人間が自分達の運命を左右する──となれば、扉へ手を掛ける事も些か躊躇われる。

対応策は考え尽くし、出来るだけの手も打ってある。
身体能力に関しても自信がある、下手をすれば小学生女子にすら負けかねない程に圧倒的な体力不足としての面でだが。

ハッキリ言えば、会うだけでDead or Arive

「……気配はない、扉の前には居ない?」

スーパーメイドなら喩え扉の先にいる人物であろうと正確な数や行動さえ気取れ下手をしたら性別すら判るだろうが、生憎とルルーシュはそこまで人間を捨てていない。

後手に回っているのだ、既に条件は最悪。
どちらにしろ此処で引くという選択肢は無い、意を決して扉を開けた先に──

「久し振りだな。
とは言え、其方は覚えておらんかも知れんが」

──果たして、少女は存在していた。

気安く話してくるその態度に即応的な行動を起こす気は無いと悟り、常ならば話を合わせようともしたがルルーシュからの言葉は出ない。

パクパクと口を動かす様は、まさに開いた口が塞がらないとばかりに異常事態を分かり易く告げていた。


「……」

「どうした? 待ってやってたんだから、礼の一つぐらいは欲しいんだがな。
黙っていては話が進まんぞルルーシュ?」

「…………バカな」

「バカとは何だ。
レディーに対する礼節を7年も時間があって習わなかったのか坊や? いや、失念したのか」

「………………バカだろうが」

今ルルーシュは不退転の覚悟で臨んだ訪問者である少女と顔を合わせていた。
極度の緊張の中でも身は軽く、襲撃に対する備えと策を弄し、万が一の際の闘争手段を持つ──その全て抜かりなく。

先ずはあくまで友好的に会話し、イニシアチブを取ろうと望んでいたルルーシュだが……漸く絞り出せたのは先程の言葉だけだった。

何も敵対意識を向ける気は無かった。
無かった……が、客間の惨状を見たルルーシュに動揺するなと言うのが無理な話しだろう。

まだ茫然としながらも、先程からの疑問に答えを求めんと少女へ話し掛ける。それを片付けなければ自分は前に進めないと、そう感じた。

「……何を、食べているんだ?」

「ピザだ」

そう、何故かピザを食べながら無駄に優雅に脚を組み、不適な笑みで此方を見据えている何故か所々に銃創や出血痕のある妙な服を着た少女が居たのだ。
まるで現実感の無い、バカみたいな光景。

これを見て動揺するななどと言う人間が居るならば、全く愚にもつかない本物のバカ者だ。

(バカなバカなバカな!!!? 何だコイツは、こんな行動は予想外だ、対応策に無いぞ。
そもそも何故ピザを喰わえている? いや違う、そもそも“何故此処にピザがある”んだ?
持ち込み? いや違う、まだ湯気が出ているくらいだから少なくとも配達から5分前後……咲世子か? 咲世子が受け取って渡したのか!? あの天然メイドが原因なのかっ!?)

立ち眩みに似た感覚が襲う膝を、折れそうな膝を何とか支えながらルルーシュは漸く潤滑に巡りだした思考で再度現状を認識し直し

「……訳が分からない」

その結論に達した。


「それは此方のセリフだ、ピザが欲しいならそう言え。
1ピースなら考えてやるぞ」

「…………ッ!」

違うんだよバカがッ!!
そう口汚く罵りたい衝動をグッと堪えた、やられた……上手い策だと内心で褒める。
何のつもりかはこの際問題ではないだろう。

要はこのバカらしい光景に自分は精神を乱したのだ。場の精神的優位は向こうに掌握された、此方のペースに今から取り込むには余りに状況がイレギュラー。
ピザだぞピザ?

そもそも拘束に備えてビクビクと入室し、銃を隠し何時でも取り出せるようにと後ろ構えにしていた自分が堪らなく惨めだった。

何をする訳でなく、此方を値踏みするように見てくる少女の口には何度見てももピザの欠片が付いている。
それが……妙に癪に障った。

(チッ! 何なんだコイツはッッ!!!)

忌々しいにも程がある、こんな奴の為にナナリーの日常が侵されると思うとルルーシュは腹立たしくて仕方がなかった。
これ程に心の底から湧き上がる怒りは7年前以来久しく覚えがない。

そして漸く何時もの調子を取り戻したルルーシュは、目の前の存在を『交渉相手』から『排除対象』へと認識を改める。

この女に真面目に関わっていてはロクな事態にならない、それを理屈ではなく魂で悟った。


「で、俺に何の用なんだい? 悪いが君みたいな子は学園では見た事が無いし7年前……とやらにも覚えがないんだが」

「当たり前だろうルルーシュ・ランペルージ? いいや……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
マリアンヌの息子、随分と捜したよ。お陰で服はこんなにボロボロだ」

「!!……そうか、やはり知っているか」

最初の狼狽は無かった事とし自分の中に折り合いをつけた。
先ずは少し当たり障りの無い会話の応酬をして探り合おうかと思えば、呆気なく目的を告げた少女。

ランペルージとしてではなくブリタニア皇子としてのルルーシュに用がある、と告げたのだ。

そして捜していたとは間違い無く自分達をブリタニアに連れ戻し、あわよくば自らの利益と成す腹積もりだと。
そう思って間違いないだろう。

ますます厄介だ。

「そちらから話してくれたなら都合がいい……ハッキリ言おう、何が目的だ? 出来れば放っておいて貰いたかったのだが」

「……フフ」

行方不明、いや死亡したと伝えられていた皇族を2人も見つけたのだ。
使い道など掃いて捨てる程に有る。

褒賞が目当てか? それとも自分達を足掛かりにして出世への道を歩む道具とするのか?

どうするにしても、それが自分達の……ひいてはナナリーの幸せを掻き乱す事であろうとは想像に難くない。
それだけは許してはならない、喩え自分自身に何が起ころうとも目の前の存在を放逐する選択肢は無い。

「それを答える気は無い、と……そうか。
それも良いだろう、ならば」

『徹底的に排除するまでだ』

カチッ

左手に手にした趣味を疑うスイッチを押す。

無骨な金属音と共に内装が変わる、4方の壁を覆う様に出現した金属板が部屋中を包み込み絢爛な装飾で彩られていた部屋は無骨な空間に。

ルルーシュと少女が居る空間を中央で別つかの様に、格子が現れ変異が収まる。
ルルーシュが背にする扉以外には脱出不可能の簡易的な密室が誕生し、少女は閉じ込められた。

少女に失敗があったとしたならば、それは間違いなくノコノコと自分の前に姿を現した事に他ならず──今こそが逆転への最終幕。

「何だコレは……?」

「占領エリアってのは租界に居たとしても物騒だからな、防犯意識は高すぎるに越した事は無い。
それにコレぐらいは何処の家にでも有るだろう? 初歩の防犯装置だよ」

「よく言うよ……フフ。
見ただけでも随分と頑丈そうじゃないか。
これは、そうだな強いて言えばまるで鳥籠のようだな」

ぐるりと囲まれた部屋を見渡し、何ら不安を持たない不適な笑みでからかう少女。
何をされようが問題はない、と。余裕の現れ。

それを聞いたルルーシュも、爽やかに笑い言葉尻を接ぐ。
少女が何を企んでいようとも、この部屋に通した時点で優位は揺るがないと確信し。

「鳥籠のよう? そうだよ、此処はな……鳥籠なんだ。
無力な存在でしかない俺達兄妹はこのアッシュフォードと言う名の飼い主に与えられた鳥籠の中で、仮初めの自由を与えられているだけの鑑賞鳥なのさ」

「へぇ」

「だけど飼われている鳥にだって譲れない部分ってのは有る、想いが有る、護らなくちゃいけないテリトリーだって……なら哀れな飼い鳥はどうすれば良いと思う?」

「……さぁな」


傍にあった椅子に座り、自身も少女と同じように脚を組み暗くニヤリと嘲笑を浮かべるルルーシュ。

少女も笑いを崩す事は無く、互いの笑みが交わされる中点ににこやかな殺気が生まれていた。

「同じ鳥籠なら、せめて自分達に居心地が良いように作り替えればいいんだよ。飼い主にバレない様に秘密の抜け道を造れたならば尚良しだ。
さぁ、今はそんな事より……“7年振り”の再会とやらを祝って今宵は語り明かそうじゃないか」

「語り明かす?
尋問と監禁の間違いだろう?」

「まさか、そんな事を“善良な一市民”である俺に出来る訳が無いじゃないか。
俺にはただ、真摯に“お願い”する事しか出来ないよ」

「……全く、母子揃って意地の悪い」





[4113] 第4話
Name: G−Say◆d47f5322 ID:bd71945f
Date: 2008/09/28 18:25
「咲世子さん、お兄様はまだいらっしゃらないのでしょうか?」

「お客様がいらっしゃいましたので対応中でございます。
お茶のお付き合いが出来そうにないかも……とボヤいておられました」

「そうですか……でしたらそのお客様も一緒にお茶しませんか?」

良い考えだと思うんですと無邪気に笑顔を向けるナナリーに咲世子は困り顔になる。

ルルーシュからの合図次第ではナナリーを連れ逃げなくてはならない、ミレイにもその際は伝えねばならないだろう。

のんびりしている暇は無いのだが、それはナナリーに伝える訳にはいかない。

「ナ〜ナちゃーーーん!!」

「この声……シャーリーさんですか?
すみません、生憎とお兄様は今お客様と一緒なんです」

「あれぇ、そなんだ?
うん、でも良いよ。
このパンフ持ってけって会長に言われただけだから」

手渡しされた書類を感覚頼りで知覚し大事に抱え込む。

何も出来ない自分だからこそ、ほんの少しだけでも出来る事が有るなら自分でやり遂げたい。
その一つがルルへの取り継ぎ。

「はい、確かに預かりました。そうだ……シャーリーさんはお暇ですか?」

「私? うん、今日は水泳部の活動も無いしね。どうかしたの?」

「はい、もし宜しければ一緒にお茶を飲んでお兄様を待ちませんか? いつ終わるのかは私にもわかりませ──キャッ!?」

話の途中で急に掴まれた手の感触に驚き少し悲鳴を上げてしまった。

手の感触からシャーリーであると解るのだが、それとこの状況が繋がらない。

「うん、超〜暇、待つよ! 私待つ待つ待つー!!!!!!」

「そ、そうですか」

よく解らないが、シャーリーが喜んでくれた事は分かり自分も嬉しくなったナナリーだった。





TURN 04 毒





「いい病院を紹介してやろうか? でなければ大した夢想家か宗教信者だな、どちらにしろ話にならん」

「……理由を言ってみろルルーシュ、何故この提案を断る?
悪くない取引だと思うが」

明から様に小馬鹿にした様な態度で少女に対して頭の上をくるくる指差すジェスチャーをする。

残りのピザを食べながら、端的に要件を述べただけでこうだ。

「取引?
ふん……第一に、C.C.だったか?
本名なワケではあるまい、自分の素性さえ明かそうとしない奴を信じる度量は俺には無い。
第二に、お前が単独犯であり俺達に危害を加える気はなく、寧ろ力を与えようという主張……信憑性のカケラも無い。
そして最後に、その力とやら……超常の理? 王の力? ギアス?
ハッ……これで『では俺にその力をお与えください』なんて言う奴が居るんなら見てみたいものだよ」

「…………」

「生きる目的なら確かに俺にもある、知らねばならぬ真実もな。
だがそれは見ず知らずの他人であるお前の力を借りる事でも無いんだよ!
……ではな、ゆっくり“泊まって”いってくれ」

そう言い残し席を立つルルーシュ、もはやマトモな情報は聞き出せないと判断し対話を打ち切った。

扉を閉められ、残されたC.C.はぶつぶつと喋り出す。

「やれやれだ……すっかり嫌われたよ」

「……あぁそうだ、中々に頑固だな。
お前の子どもらしいよ、マリアンヌ」

「帰る?
バカを言え、そのつもりなら私は最初から出たりはしない」

「ゆっくりやるさ、なに……今さら急ぐ気も起きやしないよ」

誰へともなく交わす会話、親しい友へのメッセージ。

それは誰にも伝わる事はない、鳥籠に残された彼女は服を脱ぎ捨て備え付けのソファーへと体を任せた。



──────────



(ちっ、肝心な部分は何一つ訊き出せなかったな。
まぁいい、電波は遮断してある……通信が途絶えたと知れば仲間が動き出すやもしれん。
そうなればまだ打つ手も……)

「あ! ルル来たよナナちゃん、おーーい! ルル〜♪」

「シャーリー?
どうしたんだ、こんな所に居るなんて」

「私がお引き留めしたんです、1人でお茶は寂しかったものですから」

「そうか……悪かったなシャーリー、ゆっくりしていってくれ」

「う、うんうん!
ひ、暇だったし……それにナナちゃんに誘われただけだし、うんゆっくりしてくっ!」

「ああ。咲世子さん、俺の分もお願いします」

「かしこまりました」

アッシュフォードには高度なセキュリティーが施されてある。
お坊ちゃまお嬢さま学園だから当然だ。

加えてルルーシュ自身が仕掛けた監視カメラと連動した警報装置も存在する、不審者が居れば直ぐにでもナイトメアポリスが駆けつける手筈だ。

ある程度の時間の猶予は出来た、一先ず落ち着いて状況を整理すべきだ──そう思考を移したルルーシュの前にパンフレットが差し出された。

「ん……? ナナリー、これは」

「シャーリーさんからのお届け物です、こんなに早くお話が終わられると思いませんでしたから私が預かってたんです」

「そうかい、ありが……ん?」

パンフレットとはどうやら今度生徒会で行く旅行先の草案らしい。

受け取り、数枚ほど捲ったところでひらり──と一枚のメモ用紙が落ちた。

取り上げ、それがミレイ会長の殴り書きの字面であると悟り苦笑しながら読み───ルルーシュの顔から表情が消えた。

「………………」

「どうしたのルル?」

「お兄様?」

「え? あ、いや何でもないよ2人とも。
ほらナナリー、慌ててカップを置いたから服に跳ねちゃったぞ」

「あ、ごめんなさいお兄様」

ハンカチで服に付いた水滴を拭き取る。

それから先は、シャーリーと一緒に学校での話をナナリーへ聞かせたり、一週間後に友人が泊まりに来る旨をルルーシュへ伝えたり、賭け事を辞めさせようとする説得がまた虚しく終わったりした。

日も落ち掛けた所でお開きにし、また後日学校で会う事を約束し別れる。

その間中、ルルーシュの胸ポケットにはミレイからのメッセージが書かれた紙がくしゃくしゃに仕舞われていた。

『クロヴィス殿下 近日中に疎開慰問 アッシュフォード学園にも !?』

と書かれたメモが。



──────────



「違う……俺が知りたいのはこんな情報じゃない」

カタカタカタ
乱雑に、しかし的確に打ち込まれるキーボード。

自身のPCだけで無くアッシュフォード学園のネットワーク等も使用しての多重ハッキング。

危険だが、どうしても気に掛かる事柄が存在したからの行動。
狙いはブリタニア軍内部の機密情報領域、隠された真実があるとするならココしかない……KMFによるゲットーへの進行……テレビで何の情報公開もない“不自然”さ……自分の前に突如として現れた謎の少女……クロヴィスの時期はずれな突然の慰問……何かが繋がりそうだった。

「違う…………!
見つけた、シンジュクゲットーの……“殲滅命令”だと!?
ならアレは、テロリストだったワケか……毒ガスを奪取、拡散した可能性を考慮して殲滅命令を出した?」

忘れかけていた出来事を思い出す、暴走トラックに出会した時の幻聴。

その声を自分は聴いた覚えはないか?
いや、つい最近に話した事さえ──

「まさか!?」

直ぐに侵入痕跡を消しに掛かる。

1分ほど掛けて逆探査の場合のダミーを幾つか設定しウイルスを混ぜアクセスを消し完全にオフラインになった事を確認し部屋から出た。


コツコツと夜のクラブハウスに足音が木霊する、見回りをしていた咲世子がその音に気付くが直ぐにルルーシュのものである事を理解した。

その足音も、直ぐにある場所で消える……そこはクラブハウス唯一の客間。

「……起きているか」

「ああ」

「そうか……訊きたい事が出来た、付き合ってくれ」

「何だ、私は病院に行った方が良いんじゃなかったのか?」

気怠げに起きあがるC.C.、一糸纏わぬその姿から目を背けずに話を続ける。

「……正直に答えてくれ、そうすれば非礼は詫びよう」

「そうかい?
まぁ私は気にしていないんだがな……ホラ、話してみろ」

では、と一呼吸し言葉尻を継ぐ。

「お前は俺と7年前に会った、と言ったな」

「Yesだ」

ゆっくりと中央へ向かい歩みを進めるルルーシュ、その手にはスイッチが握られていた。

それに合わせるかの様にC.C.も中央へと近付く。

「では訊くが……最近、そうごく最近だ。
“俺と出会わなかっかた”か?」

「Noだ、ルルーシュ。
“会った”のはお前が帰って来てからだよ」

「……では質問を変えよう、今日“トラックに乗って”いなかったか?」

「それは、そうだな……ある意味でYesだ」

含み笑いを零すC.C.、質問の先が読めてきたらしい。

「ではお前はテロリストの仲間か?」

互いの距離が近付き、残るは檻が2人の邪魔をしているに過ぎない。

じっと互いの目を見つめ真偽を、目論見を読み合う。

「Noだ」

「そうか……ではコレが本題だ」

「ああ」

「お前が…………“毒ガスの正体”か?」

「……Yesだ」


ニヤリと笑うC.C.。

ルルーシュもそれを見て笑みを……得心がいったとばかりに笑みを浮かべる。


「違和感があったんだよ……あの暴走トラックに会ってからな、妙に気になっていた。
まぁ正直その事は忘れていたんだがな」

「では何故そこに思い至ったんだ?」

「クロヴィスは器量は低いがバカでは無い。
たかだかテロリスト如きにナイトメアを何騎も投入、イレブンの起こした事件であるに関わらず偏向報道は一切無し、加えてシンジュクゲットーへの殲滅命令。
確かに毒ガスがバラ撒かれたのならイレブンの居住するゲットーなど破壊するだろうさ……だがやり方が安直だ。
ナイトメアを投入する手間よりも爆弾を落として焼き払った方が兵の安全に繋がり、殺菌にもなって確実だ」

「ふん……?」

「にも関わらず、ブリタニア軍は執拗にシンジュクゲットーを、そこに居るイレブンを確実に殲滅する事に拘った。
ナイトメアまで駆り出してな」

「考えすぎだとは思わなかったのか?」

「ただ毒ガスが奪取されたなら幾らでもプロパガンダに使える、イレブンが多くのブリタニア人を殺害しようと毒ガスを使用しようとしていた……とな。
だがクロヴィスは殊更に殲滅に拘った、これはおかしい事なんだよ……あの男らしくない。
まるで都合の悪いものを押し潰そうとしている風に見えるんだ。
あんな奴でも俺の義兄上だからな、分かるんだよ」

「ではお前は毒ガスの正体である私をどうするんだ?」

「……クロヴィスが租界への慰問を始めるそうだ。
表向きには、最近よくあるテロなどで不安を感じている租界民への激励……だが、その実は」

「…………」

「お前を“捜して”いるんじゃないのか?」

「…………だろうな」

「大した毒だよ。
あぁ……俺にとっては特にだ」

ピッ!

機械音と共にC.C.を捕らえていた鳥籠が消えていく、しかし動こうとはしない……それが何よりもルルーシュの推測が正解だと告げていた。

「何故、私を解放した?」

「これ以上の論議は必要ない」

パン!
客間に乾いた音が響いた。

抵抗する暇もなく、逡巡する間もなく放たれた弾丸はキレイにC.C.の眉間へと吸い込まれる。

鮮血が部屋中に飛び散り、ぐらりと力なく倒れテーブルへと突っ伏すC.C.を冷ややかな目で見つめる。

「ナナリーの日常を壊す者に容赦はしない。
お前の死体をブリタニア軍に差し出せば全てが解決する、慰問目的はお前の捜索だからな……お前さえ見つかっていれば隅から隅まで人を捜しはしないだろう。
そう…………死んだ筈の皇族などな」

後ろを振り向き、部屋を出て咲世子を捜す。
程なくして見付かった彼女に死体の始末の仕方と部屋の内装処理を任せて外に出る。

月を見上げ、腰を据えて校舎の方を見渡す。

今更ながら震えている手に気づき、これでよく撃てたものだと自嘲する。

「………そう言えば、詫びを言ってなかったな。
言っておけば良かったか……クソっ、寝覚めが悪くなりそうだ」

殺人の嫌な感覚が頭から離れない。
早計だったのでは? 自分の内から湧き上がる疑念に推し潰されそうだった。

そんな時だ

「───ああ、別に今からでも遅くはないぞ」

「……!!!」

二度と聴く筈の無い声が、自分の後ろから響いたのは。




[4113] 第5話
Name: G−Say◆d47f5322 ID:ff4ad0d0
Date: 2008/10/06 19:03
「ようルルーシュくん、どうだい? 今日はちょいと大口の件があるんだけども」

「悪い、パス」

「なんだよルルーシュく〜ん、んなこと言わないでさ……ってぇ!?
どったのその顔?」

「……気にするな。
ああそうだ、明日から暫く休むって会長に伝えておいてくれ」

「お、おう……お大事に…………な?」

「ああ」





TURN 05 袋小路





「…………ここは」

真っ白な天井が見える、だが記憶がスムーズに繋がらない。

何処に居るのか確かめようとし、自分の体を包む柔らかな布団の感触に気付く。
膨れ上がる戸惑いを抱きながら彼は……スザクは起き上がろうと力を入れる。

記憶が確かならば自分は拳銃で撃たれ倒れ伏した筈だ、今でもしっかりとアスファルトへと崩れ落ちた感触を覚え──

「っ……! …………っはぁ」

──そこまで思考し、わき腹の痛みに悶絶した。

それを切っ掛けとしてか次々に体の節々が痛み出す、頭がクラクラする……熱もあるようだ。
余りに高い為に認識さえ出来ていなかったのだろう。

だが銃弾にしては随分と軽い怪我だと「ダメよスザクくん! まだ起きちゃダメっ!」触れて確かめようとした手を、いきなり入室した見知らぬ女性に取られた。

「あ、あの……」

「いいスザクくん、あなたは撃たれてこの医務室に運ばれてきたわ。
弾は取り除いたけれど生きているのが奇跡の状態なの!!
暫くは絶対安静よ、いいわね、これは命令よ!?」

「い、イエス・マイロード!」

喋る間も与えて貰えなかった。

目の前の女性が本当に上官なのかは判別し難いが、此処が軍の医務室だと言うならば民間人が居るとも思えない。

それに何より──ナンバーズである自分より階級の低い軍人が居るワケがない。

だからこそ素直に従う、横になり冷静になれば起き上がろうとした自分がどれだけ馬鹿だったのかがよく分かる。

病気で寝込んだ時等とは比べようもない疲労感に全身が襲われている。
だからこそ余計に気になった。

「なぜ……自分は…………生きて」

「あなたの持ち物のアンティークな時計、これがスーツ内での跳弾を防いでくれたの。
とは言ってもそれは一発だけ、残り三発は奇跡的に重要器官をすり抜けていたの」

「……確かに…………奇跡です、ね」

どうやら自分の記憶は間違っていなかったらしい。

それが分かると新たな疑問が湧いてくる……どうして自分が生きて───いや、何故“生かしているのか”という事。

自分が撃たれた理由は命令無視もそうだが、決して見てはならないモノを……見てしまったからなのだから。


「……あなたの身柄は一私達、特派が預かる事になりました。
一週間後に正式な通知が下る筈だから、それまでは今まで通りの配属なんだけどね?
階級は上がらないけど、武器の携帯は許可されるわ、特別報奨も出ます」

全てを話す事は目の前にいる見知らぬ女性をも巻き込む事になる。
だからその旨を上手く隠して尋ね返ってきた答えがこれ。

更に詳しく言えば第二皇子シュナイゼル直々の要請らしく、クロヴィスは最初こそ渋ったが『兄上に貸しが出来た』と考えスザクを受け渡した。

『C.C.に関わった者全ての抹殺』という命令を遂行しきれなかった不始末の発覚を畏れた親衛隊がスザクについて話さなかった事も大きい。
これが伝わっていればクロヴィスは絶対に拒んだだろう。

ともかくも、計四発の銃弾を受けて尚生きているスザクの驚異的な運が彼の命を救ったのだ。

「…………」

「彼が起きたって本当、セシルくぅん?」

「あ、ロイドさん」

また新しい人物が入ってきた。

どうやら彼が自分を必要としており、その頼みを訊いたシュナイゼルからの計らいで自分は生きている……いや、生かされているらしい。

自分に何が出来るかは疑問だが、組織に従う事こそが優先される。
疑問を抱く必要など無いのだ。生きているならやる事は山ほどにある。

「さてスザクくん、寝てるとこ悪いんだけどさ〜ぁ?
キミぃ、ナイトメアの騎乗経験あるぅ?」



──────────



「おかえりルルーシュ、ピザ喰えピザ」

「おかえりなさいお兄さま、C.C.さんって凄いんですよ? 色んな国を旅してらしてとても博識な方なんです!」

「……ああ、ただいまナナリー」

どうしてこうなってしまったのだろうか、最早ルルーシュには判らない。

口に含んだピザがいやに味気ない、殺した筈の相手からピザを貰うなんて貴重な経験だなと思考が脇道に飛ぶ。

当の相手は平然と生きていて、妹と折り紙で遊んでいる。
何なんだろうかこの状況は。

「どうしたルルーシュ? 昨日の事なら気にしなくて良いんだぞ、私達の仲じゃあないか……なっ?」

「もうお兄さまったら、女性の方を怒らせたらメッ! ですよ?」

「ははは、そうだな。
反省してるよ、その件でC.C.……話が有るんだが、いいかな?」

「もちろんさ。
じゃあなナナリー、また後で折り鶴を教えてくれ」

「はい、お兄さまもC.C.さんもまた後で。
お夕飯、一緒に食べましょうね? 約束ですよ?」

「わかっているよ、なぁルルーシュ」

「……ああ、そうだよナナリー」


ナナリーと別れ自室に赴いたルルーシュ。
思い出すのは昨夜の出来事、平和な日常に紛れ込んできた異端者。
確かに殺した筈の女が……自分の後ろに居た。

『痛いじゃないか、死んだらどうする? ……ふふっ、なんてな』

彼女なりの冗談で場を和ませようとしたのだろう、勿論ルルーシュが笑える筈もなく焦燥に駆られた彼は震える手を必死に押さえ残りの弾を撃ち尽くした。

カシン、カシン、幾止めかの発砲の後響くのは虚しい空撃ち音。

腰は抜けガクガクと震える体を自覚しながらも死を確かめようとし

『言っておくが、たかだか拳銃如きで魔女の私は殺せないぞ?
おや、何だその顔は……やっぱり私の話を聴いてなかったな坊や』

ゆらりと、撃たれた事が何でもないかのように立ち上がってきた。
体を貫通せずに残った弾丸を、傷口から抉り出し血糊がまぶりついたソレをルルーシュに見せ付ける。

流石のルルーシュもこの光景には悲鳴を上げた、それを聴きつけたスーパー家政婦・咲世子と一悶着あったのだが──これは特に語る必要はない。


『お前に残された選択肢は2つだ。
不死身の私を殺す方法を考え出すか無力化して軍に引き渡すか、私と取引を交わし力を得るか……だ』

結果として一蓮托生の間柄となってしまった両者、死を迎えない生命に対してどう対処すべきか……そんなもの判る筈がない。

ただ一つだけ、事態は予断を許さない所まで差し迫っているという事実だけが判っている。
当面の問題はそこだ。

「……なぁ、どのぐらいだと思う?」

「時間、あると思うのか?」

「いいや──多く見積もっても5日、悪ければ3日が精々だろうな」

まさか租界をゲットーの様に破壊するワケにはいかない、その存在の特性上C.C.を知っているのはクロヴィスとその側近と直属……多くて10名といった所。

虱潰しに全域を捜索していき、クリアした場所には警備を増加すればいい。不審な非ブリタニア人を発見したら射殺しろとでも付け加えておけば……何も問題は起きない。

この地道な繰り返しによりおよそ隠匿出来うる場所は絞られてくる、租界全域の場合長くとも10日前後で捜索は完了するとみて間違いない。

悠長に待ちかまえている時間はない、求められるのは迅速な逃走ルートの確保……若しくは隠れ家の確保だ。

前者は問題ない。
状況に応じたプランは既にアッシュフォード学園に来た日から起て尽くした、が……あくまでルルーシュが是とするのは“ナナリーの日常を護ること”であり、アッシュフォード学園を出て行くのはそれに反する事になる──それは許されない。

なら後者はどうだろうか、地下空間に隠れておけば見付からない?
……そんな甘い考えに縋る訳にはいかない、アッシュフォード学園の見取り図は受け渡されるだろう。

かと言ってココ以上に隠れるに適する場所は存在しない、学園の名簿の改竄は済ませているがC.C.は見た目自分達と同学年……紛れ込んでいないか1人1人の顔をチェックするのは確定的とみていい。

それに生徒会メンバーである自分と車椅子のナナリーはいい意味でも悪い意味でも学園内での知名度は高い。
病欠と偽ったとしても確認に来る筈。

自分達の顔が知られていないと仮定するのは、バカの思考だ。
もはや打つ手が何一つ存在しない。

唯一にして上策な解決手段は不死身の魔女の手によって砕かれた。
しかし縋るとするならばもう彼女しかいないのだが──

「どうする気だ、ルルーシュ。私と契約するか?」

「ふん……施しは受けない、あくまでも俺とお前は一時的な協力者に過ぎない」

「ふっ、頑固だな」

──それはプライドが許さない。

だが今こそ敵対の意思表示を見せないC.C.だが……やろうと思えば彼女は自分達を巻き込める。

既にこの身の存命は知られているのだ、つまりあのトラックでニアミスした段階でC.C.から逃れる術を失っていた。

出会ってしまった時点で、協力しないという選択肢は実は存在しなかったのだ。
利害の一致どころではない、一方的な都合ばかり押し付けた脅迫だ。

「……クソッ、どうすればいい!」

焦る心に反して時間だけはその歩みを止めない、それが無性に腹立たしく感じた。

残された道はただ1つだけ───そんな事は、ルルーシュ自身が一番よく理解していた。



─────そうして、2日の時が流れていった─────



「ただいま……」

「お帰りなさいませ、カレン様」

かしづいて来るメイド達を鬱陶しく思い、特にある1人のメイドを視界に入れないよう無視しながら自分の部屋に向かう。

ここ数日は扇グループの再建に努めていたため疲労困憊だ、汗塗れなのにシャワーを浴びる気力も湧かない。

中核メンバーこそ残ったものの、武器や資金は既にカツカツ……当面の目標さえ掲げられないこの状況には、直向きなカレンでさえ愚痴をこぼしてしまう。

「……お兄ちゃん」

机の上の写真立に眼を向ければ、そこには愛しの兄が笑っていた。

柄にもなく昔を思い出して笑ってまう、エリア11がまだ日本だった頃……兄や沢山の友人と過ごした夏の思い出、一番幸福だった時代。
そして母さ───

「……! 何であんな女の事なんか!!!」

せっかくの余韻も何もかもが冷めた。

寝直す気もシャワーを浴びる気にもなれず、ただ今日言われた事ばかりを思い出す。
寝耳に水、今でも実感が湧かない。

「……あたしが、日本解放戦線に…………か」

キョウトからの支援も信頼も厚い日本最大の反ブリタニア戦力。
奇跡の藤堂を始め、数々の名将が集う──正に日本の象徴。

数週間先に行われる予定の一大抵抗活動、その内のKMFパイロットとしてカレンが召集された。
どうやら見ている人間はキチンと見ている……という事らしい、こんな弱小レジスタンスのメンバーをも加えようなどとは。

「……あたし、大丈夫なのかな」

操縦には自信があった。
同性能の機体さえ有れば、自分はブリタニアとも互角に戦える筈だと。そんな自信が。

それがいざ現実になると思うと……堪らなく怖い自分が居た。
それに何より、兄の残したグループを抜けるという事実がカレンの決意を鈍らせていた。

果たして自分の取るべき選択とは────その答えは、容易に出るものでは無さそうだった。





[4113] 第6話
Name: G−Say◆d47f5322 ID:82bb3fc0
Date: 2008/10/16 11:51
「バトレー、成果は?」

数日前は我を忘れる程に激昂していたクロヴィスだが、今日は和らいだ表情をしていた。
余裕すら漂う様には、何処か貫禄すら伺える。

それは傍らでかしづいているバトレーも同じであり、片手に持っている報告書を捲る手も非常に滑らかだった。

みっともなく狼狽し汗を拭いていた彼はと同一人物と思えない。

「ハッ! 不法滞在者を数名ほど、複数のレジスタンスグループ構成員を確保いたしました。
C.C.は未だ見付かっておりませんが捜索は租界全域の23%まで終了しております」

「ふむ……思い付きで始めた事だが、存外治安維持にも繋がるものだな。
これならば本国にも良い報告が出来そうだ」

「流石はクロヴィス殿下、凡夫とは発想の域が違いますな」

「フフフ……そう褒めそやすものではないぞバトレーよ。
この調子で往けば……あと5日程あれば捜索は終了するか」

「C.C.の痕跡が発見された今、確保までは既に時間の問題かと……」

「うむ、よい報告を聞けた。
では私は戻るが……よいな、誰にも気取られるなよ?」

「ハ……承知しております」





TURN 06 やるしかないだろ?





クロヴィスによる租界慰問は、多くの讃辞を持って支持されている。
メディアでも報道され、連日特番が組まれている。見たかった番組があったんだがな……何処までも邪魔をしてくれるッ!!

先日アッシュフォード学園への慰問日時が確定した──僅か3日後。
会長は直ぐに俺達を逃がす為の算段を立ててくれたが……それは断った。

逃亡するだけの資金は腐るほど有る、こういう時の為の賭チェスだ。
だが万が一、逃亡中に奴らに見付かれば俺達を匿っていたアッシュフォード家は取り潰しの憂き目にあうだろう。

喩えそこに打算的な思惑があったとしても俺達がアッシュフォードに保護されたお陰で今の生活が出来ている事に変わりはない。
恩を仇で返す無様な真似はしたくない。

それはナナリーの意思でもある、今後クロヴィスらに俺達の身柄が見付かる事が有れば──素直に従いアッシュフォードの顔を立てる。

それがナナリーの意思である以上、俺がどうこう言う筋は無い。
だが、俺はそれでも諦めない。

『それがミレイさん達の、良くしてくれているアッシュフォードの皆さんの為になるのなら、私は構いません……お兄様』

嘘だ。
脚は動かせず、眼も見えず、日本に人質として送られた……それを、そんな扱いを納得出来る人間がいる筈が無い。

他の誰が解らなくても、俺だけは解る。
共に7年こちらで過ごした俺には、俺だからこそ理解できる!

利用され、利用され尽くして最後はゴミの様に掃き捨てられる──そんな生き方をナナリーにだけはさせない。
……させてたまるか!

だから決めた。
条件は全て不確定、分が悪いどころでは無いが……やるしかない。
後に引く事は出来ないのだから。

「C.C.」

「どうした?
まだ配達されるには早過ぎると思うんだが───」

「……頼みがある。
とても重要で、大切な話だ」

「───訊かせて貰おうか」



──────────



「ほんと凄い回復力ね、普通ならあと4日は絶対安静なのよ?
……もう傷がうっすらとしかないわ」

「そうでしょうか?
自分は昔から怪我をしても直ぐに治ってましたから、そういう事はよく分かりません」

「興味深いねぇ〜……解剖して良い?」

「ロ・イ・ド・さ・ん・?」

「ウヒィッ! ごごごめんなさいぃぃやめてぇええっ!!
…………ぐぇ」

枢木スザクの退院は入院から僅か3日で行われた。これは異例の記録である。

担当医が診断した初見は『全治2週間』だったのだから。
これは傷の治癒だけの想定であり、復隊までのリハビリを考慮すれば全治1ヶ月以上なのだが──どういう理屈か平然な顔で退院し、特派のトレーラー内に居た。

正式な移動こそ5日後だが、実質的な身柄は既に特派預かりとなっている。式典警備には強制参加だが、それ以外は自由にして良い。

これにロイドは諸手を挙げて喜んだが、セシルは常識的な観念でナイトメア騎乗を止める様に説得している。

しかし医学的に枢木スザクは『健康体』であると証明されているので、乗るか乗らないかは本人の選択次第なのだ。

「で、どうする?」

「やります、やらせて下さい」

ナンバーズがナイトメアに乗るなど異例中の異例だ。
一部の裏部隊では“居る”という噂だが真実かは知らない。

それを自分は許可され、それも最新鋭機に騎乗できるのだ──目的に一歩近付けるかもしれない。
喩え体が万全でなくとも乗らない選択肢は有り得ない。

「はぁ……それでは私達が開発した試作嚮導兵器Z01・ランスロットについて説明するわね」

「はい、宜しくお願いします!」



──────────



「あーあ、ルルが居ないんじゃ学校に来る意味ないじゃない……」

「おいおい、その発言は生徒会メンバーとしてどうなのよ?」

「えー? だってだってだってぇ〜!」

何時も笑顔で元気印なシャーリーだが、今日ばかりは違っていた。
机に体を思いっ切り投げ出し目を瞑っている、油断すれば即夢の中だ。

ぶつくさと此処に居ない少年の名前を呟き、自分に押し付けられた書類を更に隣の少年に押し付けている。
自分がやる気はさらさら無い。

『肉体派の私に書類作業とは何事ですか!?』

とはシャーリー談。
何かが間違っているが、それを正す度胸はリヴァルには少し欠けていた。

「はぁ、アイツが居ないと作業が捗らねぇ。
あ〜早く体治してくれよルルーシュー!!」

「ルルーシュくんが居ないと……困っちゃうね」

「だよなニーナ、会長も居ないし俺ってばやる気でないなー」

「仕方ないわよ、クロヴィス殿下がいらっしゃるから式典作業に大忙しなんだしー。
お陰でプール使えないしー……うぅ」

運動部と一部の文化部は歓迎式典の飾り付けや特設ステージの組み立てに駆り出されている。
会長命令だ。

本来ならシャーリーもその1人だったのだが彼女は生徒会メンバーの一員でもある。

ルルーシュが病欠(という扱い)している間に溜まってしまった書類や生徒会業務を優先すると言われれば誰も疑わない───だが彼女は見事にそれを裏切ってだらけていた。

それが部活仲間や友人にバレてこっぴどく叱られるのは、また後日の話。

「ナナちゃんナナちゃん、ルルってば大丈夫?」

「あ、はい。
まだ上手く起きあがれませんが、そんなに悪くはないです」

「そっか〜お見舞い行こっかなー、う〜……! でも恥ずかしいなぁ〜///」

生徒会室内こそ平穏でだらだらと過ごしているが、今や全校を挙げてのお祭り騒ぎになっていたりする。
中等部もその例外ではない。

だからだろう、何時もより元気のないナナリーの姿に誰も気付かなかったのは。
いや、正確には1人だけ居たのだが。

「ねぇナナリー、折り鶴ってコレで良いかな?」

「んー……うん、コレで間違いないよアリスちゃん」

「そう? 良かったー、あと999羽も折らなくちゃいけないのに1羽めから間違えちゃうとこだったわよ」

眼が見えないナナリーの手をそっと握り、折り鶴を確かめさせる。
彼女こそナナリーの微細な変化に気付いた唯一の人間にして一番の親友であるアリスだ。

本来ならナナリーと同じく生徒会メンバーでは無いのだが、ミレイからすれば高等部生徒会準会員らしい。
キチンと名簿に載せている辺り、ソツがない。

特に悪い気もしないし、こうして面倒事をサボれるので今の立ち位置は重宝している。
それもこれも彼女がまだミレイの悪ふざけに付き合わされていないからだったりするのだが、近日中に死にたい程後悔する羽目に陥る。

「……ね、ナナリー。
今日はお茶しに行っていい?」

「うん、いいよ大歓迎だよ! 美味しいお茶がね? 昨日やっと入ったんだー♪」

「ふふふ、実は私も美味しいお茶菓子を用意して来たの♪
調理部の冷蔵庫を借りてるからちょっと行ってくるわね、一緒に帰りましょう?」

「うん!」

中等部の2人は他の3人以上にこの一時の平穏を甘受していた。

その裏で動く2人の男の思惑を、誰も知る由もない。
そうしてあっという間に、3日という時が過ぎていった。



──────────



「神聖ブリタニア帝国第3皇子、クロヴィス殿下……おなーりー!」

ワアアアアアァァァ!!!!

一斉に上がる歓声に対しクロヴィスはにこやかに手を振り応える。

眉目秀麗な顔を見る度に女生徒からの黄色い声援が挙がる。
男子生徒も無論、クロヴィスの来訪に心躍らし歓声の叫びを挙げていた。

本来、これ程まで近くに皇族が訪れる事は有り得ない。
しかもクロヴィスからの計らいで堅苦しい挨拶や無作法を見逃すと言うのだ、ブリタニア国民において皇族はアイドルよりも人気が高い。
更に地位を鼻にかけないその態度にファンも多い。

故に熱気は収まる事なく、晴れ渡る空模様や浮き足立った雰囲気が此処にいる全ての人間の心を象徴しているかの様だった。

「ようこそいらっしゃいました。
私、ミレイ・アッシュフォードで御座います……この度は殿下直々の慰問、我々一同心から感謝いたします」

「ははは、これだけの歓迎傷み入りますよ。
皆様の心の支えになると思うと、嬉しくて仕方ありませんな」

「その様な御言葉……勿体ありません」

常は破天荒で何処か突き抜けている印象を与えるミレイだが、こと今日に至っては粛々としていた。

アッシュフォード学園の制服でなく、少しだけ着飾ったドレスを着ているのは名を落としたとは言え貴族の矜持。

あわよくば此処で再び皇族への繋がりを確保せんと、家族からキツく言い含められていた今日のミレイは間違いなく淑女であった。
今日“だけ”は。

「綺麗です……会長…………」

そんなミレイを見て邪な思いを膨らましている少年が居たと、此処に記す。


「殿下は既に式典に参加なされた、我々の使命は……解っておるな?」

「イエス・マイロード!」

「では散れ、何としてもあの女を見つけるのだ……それ以外、我々が生きる術はない」

バトレー傘下の直属部隊、そして幾人もの兵が華やかな正門の裏側でひっそりと動き出した。
目的はただ一つ“C.C.の確保”だ。

何も知らない兵達には簡易的なスキャナーとブリタニア学園生徒名簿が与えられている。

合致しない人物や、不審人物は躊躇いなく撃てと言われた彼らは疑うことなく命令に励むだろう。

自分達がC.C.を見付けて確保するか、彼らがC.C.を撃ち死体を確保するか……どちらにしろ悪い手ではない。

「おい名誉共、もしブリタニア人に傷一つでもつけてみろ……それが貴様等の最後になる」

「イエス・マイロード!」

「ふん、では貴様等も行け」

表向きはテロの警戒てしてブリタニア軍人を放ってはいるが、一線級の警護システムと多くのKMFによる護りを突破できるテログループが居る筈が無かった。


カレン・シュタットフェルトも今日ばかりは学園に来ていた。

その目的は扇グループのメンバーを租界内に手引きする為だったのだが──

「……聴こえますか扇さん」

『ああ、大丈夫だ』

「作戦遂行は不可能と断定しました、扇さん達は直ぐ租界から離れてください」

『解った、済まなかったなカレン……』

今、租界全域は異常警戒状態と言って過言ではない。

ブリタニア人としての一面を持つカレンは別だが、他のメンバーは租界の端に近付く事すらままならない。

今クロヴィスが居るアッシュフォード学園に近付くなど、夢のまた夢だ。

「…………やっぱり、このグループじゃ限界がある、かぁ」

この状況が、カレンの決意をある意味で動かしたのだが──それを語るのは、後日。





[4113] 第7話
Name: G−Say◆d47f5322 ID:b6f166f9
Date: 2008/10/20 23:48
「……始まったか、予想以上に警備が多いな。
いや、却って好都合か」

アッシュフォード学園内のとある一室、そこで一連の騒ぎをモニターで眺めている一組の男女の人影があった。

男の名をルルーシュ・ランペルージ。
本名をルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、クロヴィスの腹違いの弟。

「本当にやるのか?
今更だが、私は兎も角としてお前は隠れていなくとも……」

そしてもう1人、ボロボロに破れた白い拘束服の代わりに咲世子に似た服を誂えさせた動きやすい軽装を纏った女性。

名をC.C.……このクロヴィス訪問の真意。

「確かに一般兵になら俺達皇族の顔は解らないだろう、だが俺が居るという証拠をわざわざくれてやる必要は0だ。
それに心配する必要は無くなってきたよ……この情報を見てみろ」

「……警護方針の変更について?」

「この数日、軍内のホストコンピューターに登録された情報だ。
クロヴィス1人が全ての場所へ訪問出来るワケが無い、そして皇族を直接見る事が出来る機会は稀でこんな機会を市民は逃したくない」

「ふん?」

「そして外面の良いクロヴィスは体面上そんな市民の思いを無碍にする事は出来ない、とすると慰問先にはそれなりの知名度や敷地面積が必要となる。
慰問は示威行為でもあるからな、その点で言えば此処は打って付けだ。
入場規制により生徒や訪問客・TV局員が居られる空間はグラウンドだけ、校舎区画とは完全に断絶している……条件は完成されつつある」

「……確かにその通りだが、それがどう都合が良いんだ?」

「なんだ、判らないか?」

ナナリーは既にあの日から咲世子に一任したままにしてある。
藤咲流の当代である彼女が本気になればクロヴィスの暗殺すら可能だ、自分が生き残る保証は無いが。

そんな彼女が本気を出せばナナリーを高々ブリタニア軍から匿うのは造作もない。
だが匿えるのはナナリーだけだ、ルルーシュとC.C.はその限りではない。

持ち駒は4つ。

地理を把握している事による有利性、警備システムを利用した監視網、この地で築いた人脈、そして……元凶にして救済・協力者C.C.。

この4つを武器に、ルルーシュは運命に抗う。
ただ1人の妹……ナナリーの平穏の為、ささやかな幸せの為に。

「判らないならそれでも良い、どちらにしろ今回の正否には無関係だ。
大切な事は“俺の指示通り”にお前が動けるかどうかだ」

「フッ、責任重大だな。
だが安心しろ……又と無いアピールチャンスだ、それに“約束”したからな。
では私は先に行く───期待していいんだな、ルルーシュ?」

「あぁ忘れていない、お前こそしくじるなよ。
さて義兄上?
7年ぶりに遊びましょうか、心行くまで…………ねぇ」





TURN 07 残り25分





「お前達は中等部の校舎に向かえ、いいな」

「イエス・マイロード!」

捜索部隊は全4つで構成されている。

クロヴィスから与えられたバトレー直属の部隊が1つ、その部下の部隊が1つ、名誉ブリタニア人の部隊が1つ。
そして最後に、ジェレミア辺境伯率いる純血派の部隊。

前者3隊と後者1隊では指揮系統が違っている、後者は主にクロヴィスの周辺と訪問者への対応をしている。

これは純血派の存在理由に直結しており、クロヴィス自身も信奉的な忠誠を誓っているジェレミアを重宝していた。
有事の際は命を賭す事に躊躇は無いから。

これにより、実質の捜索部隊は3つだが……それでも過剰人数である事に変わりはない。

「お前達は高等部校舎だ、我々はクラブハウスから探索する。
何度も言うようだが、怪しい奴は絶対に逃すな!」

「イエス・マイロード!」

彼等、特に親衛隊はC.C.捜索に余念がない。

何故ならばC.C.を見つけられるか否かが文字通り進退(身体)を別つのだ。

クロヴィス滞在がおよそ3時間……如何に広大な面積を誇るアッシュフォード学園と言えど充分に捜索は可能。

そして彼等は苦もなく見つけるだろう、C.C.と──忘れさられた皇族を。

「……まったく。
元はといえばあの猿、バカな名誉が勝手な真似をするからこうなるのだ」

思い出すのも忌々しい数日前の出来事。

親衛隊である自分達が犯してしまったミス、そのたった一度のミスで評価は地に落ちた。
特に指揮官であった自分は重責だ、首がいつ跳んでもおかしくない。

名誉ブリタニア人のしわ寄せというのが益々神経をささくれさせる。
だが数発撃った事で溜飲は下げれた、その当人がまさか今回の捜索に平気な面で参加しているとは思い至る筈も無かったが。

苛立つ感情は思考を鈍らせ日々迫るタイムリミットに胃が痛くなる。
役立たずの部下達と名誉へ一通りの愚痴を零し、気分転換として煙草に火を点けようとした時ようやく部下から待望の知らせが入った。

『ナンバー26からの情報です、ご報告を申し上げます。
不審人物が中等部校舎へと逃げ込みました』

「ほぅ……特徴は?」

『白い服……それと、碧の長髪……性別は判別できませ』

「逃がすなっ!
そいつを何としても捕らえろ、そうすれば貴様らの昇進を私が直々に掛け合ってやろう!」

『…! ハッ、イエス・マイロード!!』

どうやら神はまだ自分を見放していなかったらしい、煙草を入れていた逆ポケットから携帯端末を取り出す。

そこに映し出された女と特徴を照らし合わせ口元が歪に吊り上がる。

ジクジクと痛んでいた胃が、今では妙にスッキリと感じるのだから不思議なものだ。

「クッ……フフフ、見つけたぞ女ぁ。
全部隊に告げる、不審者が1名ほど学園内に潜んでいる事が判った!
我々は殿下の御身を何としても護らねばならぬ、各自持ち場を離れるなよ! いいなっ!!」

『 『 『イエス・マイロード!!!』 』 』



──────────



「こちらC.C.、聴こえるかルルーシュ?
ポイントJに到着した、指示を頼む」

『あぁ聴こえている。
指揮官殿の対応は……ふっ、予想通りだな。
そのまま中等部校舎を抜けろ、まだ捜索部隊は到着しない。
残り20分』

「了解」

短い通信を終え再び走り出す。
拘束されていた期間の分だけ相応に体力が落ちているものの、そんな事を気にしている余裕は無い。

この数日間で頭に叩き込んだ地形図と深夜に警備員の隙を突いて走った記憶とを照らし合わせ、無人の校舎を駆け抜ける。

程良い緊張感が身を引き締めているようで体が軽い、今までで最高のタイムで扉に辿り着く事が出来た。

ゆっくりと開けた先には、確かにまだ捜索部隊は到着しておらず少しだけ緊張を解く。
久々にゆっくりと深呼吸をしながら通信機を起動させた。

「着いたぞルルーシュ、どうだ?」

『ふむ……思ったよりは優秀なのか?
B−2プランに変更、様子を見たい。
残り15分だ』

「了解」

即座に校舎の取っ掛かりを掴み体を振り子の様に跳ね上げ校舎二階へと侵入する。

下からは死角で此方からはギリギリで下が見渡せる場所のカーテンを締め、息を殺して待ち構える。

約2分後、数名の部隊が更に分隊を作り突入して行った。
下に残された人員は1人、出て来る人間を警戒しているのだろうが……その姿は隙だらけだった。

不審者が1人だけと言う情報を鵜呑みにして警戒がそぞろなのだろう、末端に緊張感を持たせられない指揮官は無能でしかない。

本来なら指揮能力の欠如を具申すべきだろうが───

『何人残った?』

「1人だ、いい的だな」

───それは、ことルルーシュにとっては好都合でしかない。

ほんの少しの安堵と嘲りを籠めた溜め息を吐き、作戦継続に支障は無いと断定する。

『そうか、最低の選択だが第一段階はクリアされた…………やれ』

ゴキッ!
うっすらと太陽が陰ったと思った次の瞬間、甲高くも乾いた音と共に倒れ込むブリタニア兵。

彼は自分がどうやって倒されたかも解らないだろう、薄れ往く意識の最中……淡い碧が離れていく姿が目に焼き付いた。

「残り13分……楽しいかくれんぼだな」

『油断はするなよ、仕掛けの数は限られているんだ』

「解ってるさ」

この一撃を皮切りに、ルルーシュの作戦は第二段階へと移行した。



──────────



「バカ者が、何を手間取っている愚か者共がッ!」

『も、申し訳ありません』

最初の報告からおよそ10分、中等部校舎で目撃された人物は数名を昏倒させながら敷地内を移動し続けていた。

情報に記載されていなかったC.C.の戦闘能力、そしてルルーシュの指示により油断を突いた事で生まれた必然の結果。

まるで遊ばれているかの様に姿を見る事は出来ても一向に捕らえられない、それを部下の怠慢からくる失態と考えイライラが募る。

だが本当に失態を犯していたのは果たしてどちらだろうか?

彼にもう少しだけ落ち着きがあれば気付けただろう一つの事象。
それに未だ気付けていない事こそが彼が犯した最も愚かしい失態なのだが、それを気付けと彼に求めるのは──少し酷だ。

良くも悪くも彼はルルーシュが想像しえるブリタニア人そのものであったのだから。

「次はクラブハウス……奴め、手こずらせてくれるわ」

次々と上がる報告に一喜一憂していた自分を落ち着けさせようと点けていた煙草の先から灰が落ちていく。

5本目を吸い終えた頃には発見の報告から悠に20分が過ぎようとしていた。その間まったく良い報告が聞けず積もり積もった怒りは爆発寸前だ。

その時だ。

『た、隊長ォッ!』

「何だ騒々しい、不審者を確保したのか?」

『そ 、それが────』



─────同時刻─────



「ジェレミア辺境伯、ご報告が」

「何事だヴィレッタよ?
今は殿下の演説の最中である、些末事はそちらで処理せよ」

ある意味でミーハー地味た生徒達やTV局リポーターの視線と違い、ジェレミアは心底からクロヴィスに尊敬の意を以て話を聞いていた。

良くは知らないが、ヴィレッタを初めとする部下達はジェレミアの皇族への感情は信仰を通り越して信奉地味ている事を知っている。
故に本来なら話し掛けるべきでは無い。

実際に今も粛々と一言一句を聞き逃さないよう聞き耳を立てていた。
それを邪魔されたのだ、腹心の部下からの報告と言えど気分が悪くなっているのは目に見えていた。

「申し訳ありません、ですが緊急事態ですので判断を伺いたく……」

「……申せ」

そう言った性質を理解しているヴィレッタだが、今回ばかりは事情が違っていた。

ジェレミアとて此処まで食い下がってくる時は嘘偽りなく急時であると知っており、無碍に追い払いはしない。

「実は────」

「────ほぉう、殿下の御前を汚すというか。
ヴィレッタよ、私の騎体の準備は出来ているだろうな?」

「既にあちらに待機させてあります。
学園内の警備はキューエル卿が主導して強化させております」

「うむ、キューエルにならこの場を任せておいて構わんだろう。
純血派の忠誠を示す絶好の機会である、赴くぞっ!」

仰々しくクロヴィスの居る方角へ一礼し踵を返す、式典用の服飾を傍にいた一般兵へ渡しヴィレッタの先導に従い走り出した。

向かう先はアッシュフォード学園より1kmほど離れた先。
そこには今厳戒態勢を敷いている租界に存在する筈の無い“武装レジスタンス”が居た。





[4113] 第8話
Name: G−Say◆d47f5322 ID:c3c3e432
Date: 2008/11/27 11:43
「……つまらんなぁ」

クロヴィス慰問という大事。公に現れた皇族を映すチャンスに燃えるTV班取材クルー。

にも関わらず妙にやる気の欠如した人間が1人だけ居た。
だがそれに苦言を呈する者などいない。

ディートハルト・リード

彼にとっては学生や市民が黄色い歓声を上げる皇族など興味の範疇外。
類い希な手腕により数多のスクープを映し続けた彼にとって、この様な誰にでも撮れるニュースなど先程食べたカップラーメンにすら劣る素材。

TV映えはするが、それだけだ。
適当に部下が撮影した映像を編集すれば嫌でも高視聴率番組の出来上がり、自分がする事など編集点を幾つか指示するだけ。

全く……つまらなさの極み。
どうせならこの前の様にレジスタンスグループが一暴れでもしてくれれば良いと考えたが、それは不可能だろう事も理解していた。

「この警備網を抜けれる輩など、存在しないだろうからなぁ……」

「はい? 何か言いましたか先輩」

「独り言だよ。
トイレに行ってくる、キチンと殿下の画を抑えとけよ!」

わかりましたー! と無駄に元気の良い部下に現場を任せてトイレと逆方向に歩き出す。
わざわざ何日も休日を潰してこんな茶番に付き合っているのだ、いい加減に疲労も困憊気味だ。

このまま煩い演説が終わるまで静かな所でサボっておこう……そう考えていた時だ「─ジスタ───襲撃─────トメア──」1人の軍人が上官へ何かしらを報告するのを耳にしたのは。

「……?」

独特の感性が彼の心に何かを訴えた。
衝動に従い詰め所へと踵を返す、どうやら今日は久々に仕事のし甲斐があるのかもしれない。





TURN 08 舞台





─────3日前─────

『敵の狙いはお前1人、即ち奴らを撹乱するのに最も効率的なのもお前という事だ』

『ああ』

『勝利条件は二つ。
一つは学園内を決して捜索させない事、もう一つはお前がこの学園に居ないと思わせる事。
その為に必要な事はコレだ、覚えてもらう』

そう言って学園内の見取り図を出す。

一定の場所に赤い線で引かれたラインと幾つかに太字で書かれた番号が割り振られたそれと、作戦内容の簡易的な流れ。

それを渡されたC.C.が眉をしかめた。

『多いな……コレを全て覚えろと?』

『それぐらいはやって貰う。
元々はお前が巻き込んだんだ、それぐらいの努力はしろ』

やれやれと溜め息を付きベッドに腰掛ける、じぃっと素直に地図を見つめていたC.C.だったが、徐に口を開いた。

『そうだルルーシュ、一つ約束をしないか?』

『約束……?』

『あぁそうだ、コレが無事に成功したら私はお前の事を誰にも話さない。
何時まででも協力してやる』

『それは頼もしいな……で? 俺は何を約束するんだ』

『ふふっ……なに簡単な話さ。
ただ黙って──ギアスを受け取ってくれれば良い』

『!!!!』

それは約束としては破格の条件だろう。

C.C.の不死性と共に彼女が話した王の力“ギアス”とやらは確かに存在を証明された。
大事な部分こそはぐらかすものの嘘は付かない、ギアスとやらは確かにルルーシュの力となるものだろう事は推測でしかないが、全くの見当違いでは無い筈。

口約束とはいえ最も懸念していた裏切りは回避された、何一つルルーシュに不利となる要素は存在しない約束───だからこそ怪しい。

何のメリットも存在しない約束事を結ぶ程にお人好しで無いことぐらいは理解している。

『何度も言った筈だ、施しは受けないと』

『施しじゃあないさ、好意だよルルーシュ。
私からのプレゼントだ、使うか使わないかはそちらが決めてくれれば良い』

『…………』

クスリと笑うC.C.の笑顔は確かに何ら疚しさを感じさせるものでは無かった。

だが目の前の女は不死者、只人とは在り方が違う者。
そんな相手の甘言を額面通り受け取り真っ向から信じるには、互いの事を知らなすぎる。

『疑問点がある。
お前の言う力が絶大なものなら、お前自身の身の安全の為に今直ぐにでも俺に与えた方が確実じゃないのか?』

『施しはいらないんだろう?
それに、お前の手腕に興味もあるしな……どのみちこの程度をしくじる様なら力を与える意味がない。
それに、こう見えても私は尽くす女なんだよ……ふふ』

暫く悩み、ルルーシュは一つの選択をした。

『……考えるぐらいはしてやる』

『それで充分だよ──今はな』

それっきり途絶えたC.C.の言葉を反芻しながらルルーシュは再度考える。

果たしてこの選択が正しかったのかどうか……そんな出る当てもない、無意味な思考を。

─────現在─────



「想定ルート通りなら4分後にレジスタンスとの合流が可能の筈。
それまで下手に動くな、ダミーは4つまでしか無いからな」

『了解した』

今はまだ避難指示は出ていない。

流石にクロヴィスの警護ともなると先鋭が出ているらしいな。
だが時間の問題だ、人間の作ったモノには必ず弱点や付け入る隙が生まれる。

そこを的確に突けば守備部隊を抜けてレジスタンスが学園に接近する事も可能だ。
いや、来て貰わなければ意味がない。

「ま、生きて此処から逃げられないだろうがな……ククク」

未だ式典の喧騒に紛れて聞こえ辛いが、戦場は間違い無く近くにまで移ってきている。

当然だ、俺の退避ルートの一つを潰してまで与えてやったチャンスなんだ……精々粘ってくれよレジスタンス諸君。

この俺の手のひらの中で、な。

『……見えてきたぞルルーシュ、KMFが2騎と装甲車両が3台だ』

「ふん、予想より少ないな……だが充分だ。
これだけ居れば作戦に支障は無い。
第三段階だ! タイミングを合わせろよC.C.!!」

『判っている!』

さぁフィナーレですよ義兄上……アナタの為に作った舞台です。
劇はお好きでしょう? ごゆっくり楽しんでください。



──────────



「殿下、お耳を……」

「なんだバトレー、騒々しいぞ……気品さを持ちたまえ」

にこやかに自身の歓迎セレモニーを観賞しているクロヴィス。

彼の心は今非常に穏やかだった……未だ捕らえるにこそ至っておらぬものの、C.C.らしき不審者発見の報告は耳に届いている。故に余裕。

自身の提案した作戦と効果が非常に有益だった事が証明されたのだ、シンジュクゲットーに関する不始末など誰も気取る者などいなくなる。
そんな確信を抱いている。

「畏れながら……此処にレジスタンスが接近しているとの報が」

「ふっ何をバカな……我が軍の警備網を抜ける者など居ようものか。
そうであろう?」

「ハッ、殿下の仰る通りなのですが……その」

一笑に付すクロヴィス。
その態度を見て何とか危機感を理解して頂く為の説得を開始しようとしたバトレーと、無線機から緊急の報告が入ったのは全くの同時だった。

『ご報告を申し上げます! 敵勢力は我らの警備網を悉く突破、一部隊がそちらへと向かいましたっ!!』

「何だと!?」

直ぐ様バトレーは今回の警備配置を思い出す。
C.C.捜索の為に歩兵こそ多くしているが、KMFは一部の部隊を除けば会場にはおらず周辺に一騎ずつ旧世代騎を配置しているにすぎない。
だがレジスタンスはその配置の更に内側から出現したのだ!

これには明らかな油断が有った。
シンジュクゲットーの壊滅を強行して周辺レジスタンス勢力は慎重になっているだろうと、だから警戒を強化した租界周辺はネズミ一匹すらも通れはしない。
故に皇族を警護するには異例に少ない警備部隊、油断は確かにバトレーの心に存在していた。

それはクロヴィスにとっても同じ事だ。
自身が敷いた警備網を抜ける存在が居るなど、そして直ぐ近くにまで接近されている等とはとても信じれない事態だ。

有り得ない現実に少しだけ声を荒げるが、それはセレモニーの音の中に埋没していった。

「純血派はどうした、こういう時の為の純血派であろうが!」

「既に出払っております。
ですがどう急いでも第二次警戒ラインを割る可能性が出ております、此処は危険です、退避を!」

その言葉にクロヴィスの表情が変わった。
不測の事態に混乱していた頭を真横から叩き直すようにガツンとした衝撃が走る。

その衝撃の正体は矜持。
ブリタニア第3皇子である自分が高々レジスタンス如きに右往左往するなど、逃げ出す事など、そんな事は許されない。

来ると言うならば真正面から打破し、自らの有能性を知らしめる事こそが皇子である自分に求められる……幸いにもTVが近くにいる。

お誂え向きの舞台だと微笑む。

「レジスタンス共めが……この第3皇子クロヴィスに刃向かう事の愚かしさを教えねばならんようだな」

そう呟き不意にクロヴィスが立ち上がる。
先程観覧客へと挨拶をした壇上へと向かい歩を進める。

その姿は1000人に迫る数で埋め尽くされたアッシュフォード領においても目を引いた。
どうしたのだろうと注目が集まり全ての音が止みしんとした空気が張りつめる、それを境にこの場はクロヴィスの支配する劇場へと様変わりするのだ。

「帝国親民の皆様、我が名クロヴィスにおいてお話があります!」

高らかに響き渡る声を皮切りとしショータイムが始まる。

自身の名声を衆人環視の元に理解させる為の舞台、愚かしきレジスタンスを始末しC.C.の身柄を手土産として帰る───そんな筋書きを描いて。

だが本当にこの劇場を支配する者は別に居る。
そうとは気付かずに彼は上がっていった、偽りの主役を与えられた一世一代……世にも滑稽な舞台へと。



──────────



「嘘……?」

クロヴィスから伝えられた情報をカレンは惚けた表情で聞いていた。

自分が数日かけて見聞した情報が確かならば、今の重警備を抜けて租界に侵入してこれる人間など居る筈がない。

にも関わらず、レジスタンスがもう直ぐ近くにまで迫って来ていると言うのだ……驚きよりも先に困惑した。

一体何処のグループなのだと、もしかしたら扇グループが無理矢理に入って来たのかと──気付いた時には携帯を握り締め確認を行っていた。

『まさか!? そんな奴らがいるのかっ?』

扇の声には純粋な驚きが籠もっていた。
聞けば今も警備は変わらず、どうにか付け入る隙を遠距離から探していたが手詰まりらしい。

それが当然だ。
中にいる自分でさえどうやれば良いのか分からない侵入を外に居た筈のレジスタンスが見付けて──しかもクロヴィスへの王手を掛けているのだ!
そんな事が起こり得るのだろうか。

「そんな……」

呆然としていたカレンの手を数人の女生徒が引っ張った。

どうやら惚けている間に建物内部への避難指示が始まったらしい、恐怖で怯えていたのだろうと勘違いしてくるクラスメートが代わる代わるに声を掛けてくる。

煩わしい。
だが、それにやんわりとお礼を言いながら1人の女生徒がその流れに逆走している姿を偶然にも目が捉えた。

「……誰?」

流麗な碧色をした長髪を靡かせた人形細工の様な顔立ちをした綺麗な少女。
これだけ目立つ容姿をした娘がいれば偶にしか学園に来ない自分でも知っている筈。

なのに全く心当たりが無い──だからだろうか、少女から目を離せなかった。
まるで騒ぎに紛れ込む様に身を低くしてその少女は人混みを抜けている。

少女が駆けていく先───それは、今や間近に見える程に粉塵が舞い銃撃音の響く場所。
戦場の方向だった。




[4113] 第9話
Name: G−Say◆d47f5322 ID:c3c3e432
Date: 2008/11/06 14:39
喩え話でもしようか?

AとBという二つの事象があったとする、互いは独立して存在しながらCという要素においてのみ通じ合う。
では二つに関係性はあるのか? それは違う、この二つに関係性は無いんだ。

だが……なまじ筋が通っていた場合それが間違いである可能性は──黙殺される。
それは何故か?
簡単だ、人は間違いを認めたがらないから。

誰もが自分を優秀・特別だと思いたいもの。
クロヴィスもこの部類に当てはまる、租界慰問……便宜的にC.C.捕獲作戦とでも称しておこうか。

租界全域を外周区から虱潰しに捜し出すこの作戦は、成る程悪くはない。
必要になるのは時間だけだ、効果は覿面で確かにC.C.まであと一歩まで迫った。

故に慢心。
恐らくクロヴィスはC.C.を捕まえるのは時間の問題だと思っている。

奴に伝わる様にC.C.自身を囮にしたのだ、今奴の頭から失敗の二文字は消えている。

それが此方の狙い。

追い込まれたと思わせる事で行動の選択肢を限定する。

時間的にレジスタンス接近の報せも受け取っている筈、奴が取るだろう手段は多くて三つだが───ほぼ間違い無く正面からの迎え撃ちだろう。

当然だ、たかが一レジスタンスがクロヴィスを殺害できるか?
否だ。 それにプライドの高い奴が逃げを良しとするワケが無い。

直にレジスタンスは掃討されるだろう、だが……それこそが最悪手となる。





TURN 09 心理/信裏





「どうしたイレヴン! それで我が忠義を崩せるつもりかぁッ!!」

また一騎行動不能にしたKMFを見下ろす、ジェレミア率いる純血派の進行にレジスタンスは只いたずらに損害を多くするだけ。

二部隊に別れていたため一部隊には出し抜かれたが、焦るには及ばない。
キューエル率いる別働隊が純血派にも存在するのだ、万が一にも学園内には辿り着けまい。

歯ごたえのない型遅れのKMFを蹂躙しゆるりと帰還するだけ。
誰もがそれを疑わない、疑う必要がない。

「ヴィレッタよ、此処はお前達に任せた。
私は奴らの本陣を叩く!」

「ハッ! お気を付けてジェレミア卿」

「フッ……誰に言っているのだ?」

捨て身の特攻を仕掛けてきた敵騎に合わせてカウンターをコックピットブロックに叩き込む。

爆炎に包まれた騎体でそのまま加速し、熱源センサーを狂わせレジスタンスの騎体群を抜ける。

慌てて撃ち落とそうと振り返った二騎がスラッシュハーケンとライフルの猛射で撃沈。

騎体性能とパイロットの習熟度でも圧倒的な差を見せ付け次々と撃破していく純血派。
レジスタンスの操縦に脅えが混じり始めた頃には終結は秒読みに入っていた。

「ジェ……ジェレミア卿!」

「何だヴィレッタ、此方はもう直ぐカタが付──」

「それどころではありません! 殿下の居らせられるアッシュフォード学園に襲撃があった模様です!!」

「バカな、キューエルは何をしているっ!?」

「確認中です……ですが、通信障害が酷くて」

思わず動きの止まったジェレミア騎にビルの後ろに隠れていた4騎からの攻撃が迫った。

間一髪コックピットへの一撃には反応したジェレミア騎だが、ライフルの一斉掃射により左腕部前方を失いランドスピナーの制御機関に異常が起こった。

「くっ……不覚!」

「ジェレミア卿!!」

「私の事など放っておけ!
今は殿下の御身に急ぐのだ、任せたぞヴィレッタッッ!!!」

その言葉を最後に通信が途絶える。
まさかジェレミア卿ともあろう者がやられる筈が無いと判断し、急いでクロヴィスの元へ駆ける純血派。

その心中、誰もが等しく言い表し様の無い不安を抱えていた。



──────────



「伏兵だと!?」

目に見えるKMFや装甲車に注意を引かれていたキューエル率いる部隊は、対KMF用のランチャーを装備した歩兵部隊に統率を崩されていた。

全くの不意打ちと同時に迫るKMF──加えて予め租界内に潜伏していたとしか思えない大量の伏兵──そして教本の手本のような戦術フォーメーションで迫るレジスタンスにたかがイレヴンと侮っていた部隊は危機に陥った。

無論だからとて易々とやられる無様な者は居ない、だが僅かな防勢時間を利用され数騎を取り逃がしてしまう失態を犯してしまう。

この戦場での敗北とは何か?
部隊の壊滅?
違う、最終的に純血派の全員が死のうとも敵を片付けられるなら問題は無い。
では敗北とは……そう、クロヴィス自身が被害を被る事。

これに比べれば自分達の命はおろか租界居住区に住むブリタニア人全ての生死さえ問題ではない。
彼ら純血派の在り方とはそういうモノなのだ。

「くっ! 全員気を引き締めろ!!
コイツらを早急に片付け殿下の元へ急ぐのだっ!!」

「 「 「イエス・マイロード!」 」 」

冷静で在ろうとする割に感情の沸点が高いキューエルはこの時ミスを犯してしまった。

徐々に、本当に徐々にだが退却を始めたレジスタンスの姿を好機とし追いすがる純血派。

彼らに純血派を叩く意思は無く、出来る限り長くこの場へと押さえ込むという目的があったのだと気付くのは何もかもが終わった後だ。



──────────



「皆さん、どうか落ち着いて避難してください!
我らブリタニア軍はレジスタンス如きに遅れを取ったりなど! 決していたしません!!」

自信に溢れた声で避難誘導をするクロヴィスだが、内面は面白い程に困惑していたりする。

先行した部隊がレジスタンスを取り逃したこと、それを迎え撃った備部隊までも突破されたことによって。

ここアッシュフォード学園に残された部隊は数で言えば純血派などと較べようもなく多いが───ジェレミア辺境伯率いる純血派の面々とは操縦技術で圧倒的に劣るという事実。

高い実力を持つ彼らさえ突破されたという事実は、否応無しに心に不安の楔を打ち付ける。
たかがレジスタンスと侮りロクに守備体勢を整えていなかった残留部隊はKMF起動に追われていた。

エナジーフィラーからエネルギーを取り出すまでの準備時間───それがレジスタンスの到着に間に合うかは本当に運任せだ。

そんな不安は隠していても人心に伝搬するもの。
ましてや平和な世界と日常に生きている民間人が冷静さを保つなど到底不可能だ。
ゆったり進めば滞りなく終わる避難も、恐慌状態ではつつがなく終わる筈も無い。

「……ったくあの坊ちゃんったら、状況理解してんのかしら?」

避難所たる学園内に殺到する人混みから外れ、アリスはただ1人だけ呆れるほど冷静に状況を見届けていた。

レジスタンスの襲撃に屈する様な連中がクロヴィスの護衛部隊に選ばれる筈がないと理解しているから。
心配な事は今日は休んでいるナナリーの事だけだが、一番安全と言って良い場所に居るのだからどうという事は無い。

残る問題はキャーキャー騒いでいる連中ね……と溜め息を付く。

「余計な事してる暇があるんならさっさと動きなさいっての、まったく。
───っ痛! ちょっと、どこ見てるのよ!?」

集団から溢れて来ただろう少女が正面からぶつかって来た。

鼻に思い切り頭をぶつけられた様で痛みが半端では無い。
直ぐに文句を言ってやろうと少女を見ると、何故か集団から離れて行く後ろ姿が見えた。

「っ〜〜〜〜何なのあの娘? 焦って方向でも間違えてる……?」

言いながら多分そうでは無いなと直感する、何を考えているかは知れないが走る姿には迷いが見えない。
では何故あんな方向に───その答えは出ない。

どうしても気になって見続けていた後ろ姿は、避難を誘導する兵士に視線を遮られた次の瞬間には消えていた。
まるで初めからそんな存在は居なかったかの様に。

「…………?」

不思議に思ったが自分もそろそろ命がおしい、マヌケな軍人が一騎ぐらい防衛ラインを割らせるかもしれない──そうなれば目も当てられない。

「やれやれね……私も参加してれば良かったわよ。
洋菓子店壊されてなきゃいいけど、お見舞いに行く前に壊れてたら怨むわよ? バカレジ……」

やり切れない痛みや不満を迫るレジスタンスへの愚痴に換え学園内へと入って行く。

脳裏にはこの場に居ない大切な親友と、自分にぶつかって来たイヤでも人目を引く鮮やかな碧髪の少女の姿を思い浮かべながら。



──────────



「くそっ……しくじったな」

『安心しろ、このペースを保てば時間には間に合う筈だ。
その為にお前の走る速さも計ったんだからな、感謝しろ』

「っく……冗談を言え…………ハァ……キツい!」

『ハハハ、我慢しろよ魔女』

「走らないお前に言われたくは……ない……なっ!
この…………モヤシが……!!」

先ほどまでC.C.捜索に割り振られていた人員の大多数は避難誘導へと廻された。

残る者達も、パニックに陥った民間人を掻き分けて進むには骨だろう。

事前に構えていた此方は団子状態になる前に抜けれたが、まさか人混みの直ぐ近くに立っている人間が居るとは想定外だった。

お陰で余裕を以て進んでいた計画がもう少しでご破算になる所だ。

「来たか……!
……よし、間に合ったぞルルーシュ!!」

『ああ、此方もモニターで確認した』

厳重な警備網を抜ける事が出来る最初で最後のチャンス、KMF部隊はレジスタンスに、内部に残された部隊は人混みに足を取られる。

それを可能にする為にわざわざ捕まる危険を犯してまで相当数を反対方向へ誘導したのだ。
狙いはそれだけでは無いのだが。

『タイミングはジャスト5秒後だ、一気に駆け抜けろ!』

首尾配置についたKMF部隊から拡声器での最後通告が為されるが、これにはカメラサービス的な意味合いだけしか含まれておらず殺る気満々と言った所。

互いに銃を構えいよいよ最終交戦が開始されようとする近くを再び全力でC.C.が走り出す。
ある建物に向かって。

『……3……2……1……』

その姿に気を取られた両陣営騎のモニターが突如として出現した噴煙で遮られる。
プシューと溢れ出すそれは学園内の各部所に設置された消化用の粉末材であり、同時に校舎奥側から爆発音が響いた!

避難を続けていた人々は前後から聞こえた爆発音に脅え更に混乱する。

「ヒィッ?!」

クロヴィスもまた唐突に遮られた視界と爆発音に情け無い悲鳴を上げる、TVクルーのみが意地とプライドで微動だにせず撮影を続ける最中その姿を捉えた。

レジスタンスを殲滅する画を撮ろうと向けていた方向、一台のバイクに乗って走り抜ける人影を見出す。
片手で抱えた筒からは信号弾の様な物が上がり、それを合図としてか次々と対戦車砲弾が学園方向に向かって空を舞う。

本来なら迎撃して然る筈の護衛部隊は未だカメラレンズに付着した消火剤に気を取られ気付けないでいる。

数騎のパイロットがセンサーに表示される飛来物を認識した時には既に着弾は終了していた。

“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゥゥ…………ン!!”

地響きをも伴う爆発に5騎のKMFが機能停止になり、少なくとも20騎以上が運行に支障を来すダメージを受けた。

その間すら尚も撮影を続けていたカメラマンが漸くバイクに乗る人間を輪郭だけだが捉える。
白を貴重とした服装に真逆の黒で染められたバイク、更に陽の光を受けて褐色良く輝く碧の長髪──体型的に女性だろうそれは、数人のレジスタンスの援護を受けながら学園地区から離れていくのが判った。

「くっ……バカ者どもっ! おぉおお落ち着いて対処をせよ、これ以上私に恥を晒させる気ぃかァッ!?!」

声が裏返りながらも必死に指示を出すクロヴィスを画面に収める。

その顔は脅えと、微かに流れ始めた涙や鼻水に塗れており、これはとても見せられない画だな……とカメラマンは内心で苦笑した。

攻撃は未だ止む事は無いが、落ち着きを取り戻した護衛部隊によって段々と、だが確実に殲滅されてゆく。


遂にレジスタンスを殲滅し終えた頃には───もう誰もC.C.の姿を目撃する者は居なかった。





[4113] 第10話
Name: G-Say◆d47f5322 ID:c3c3e432
Date: 2008/11/09 23:44
「どうした、何を見ているんだルルーシュ?」

「ん? ああ、動画だよ動画……くくっ」

「動画? …………これはあの時のか」

「そ、けっこう裏じゃ有名な動画なんだよ。
『さすが殿下(笑)』ってタイトル、再生とコメント数が半端じゃなく削除されても3分以内に再アップしてくる。
いい仕事だ。
クロヴィスのマヌケ面を満遍なく映しているし何より編集が神懸かっている……狂おしい程の才能を感じるな。
ほら、喩えばこのシーン 『ヒィッ?!』 だってさ、くっ……あはははははははっ!」

「……お前達母子は本当に性格が悪いな。
ナナリーが遊びに行ってくると言っていたぞ、見送りに行かなくて良いのか?」

「あぁ。
無意味に干渉し過ぎるのはナナリーの為にならない、俺は空気の読めない兄じゃないのさ……それに 『ヒィッ?!』 ププッ…………プハハハハハ!」

「……つっこまないからな」





TURN 10 幕間





さて、あれから3日が過ぎた。

予想通りC.C.逃亡を伝えられたクロヴィスは軍を一斉に撤収した。
租界慰問の表向きの理由に反し租界がテロ活動の被害に遭ったことも関係しているが、な。

あの日アッシュフォード学園に居た貴族連中からの批判が膨れ上がったらしく、レジスタンスを摘発し損なった失態が不評を買いクロヴィスは本国に召還された。

シンジュク・ゲットーの件も問題視されている。

とは言っても理由の半分はさっきの動画だ、ナイト・オブ・シックスのアールストレイム卿が任務の途中に動画を発見し皇帝に伝えたらしい。
案外と暇なんだな、ラウンズって。

今回の作戦は概ね上手くいったのだが少しだけイレギュラーも起きた──これはまぁ良い。

だが反省も必要だろう、今回は予想外に綱渡りに過ぎた。
相手がクロヴィスだからどうにかなった程度の話だからな。
そう、正しく───さすが殿下。


第一段階としてC.C.の存在を匂わせ捜索部隊をC.C.に集中させる事により俺の安全を確保する。

俺が居たモニター室に近寄らせない事とクロヴィスら上位陣にC.C.の存在を匂わせる事がこの作戦の成功条件──これは上手くいった。


第二段階としてC.C.自身を囮にし正門と真逆の方向に誘導する。

だが実際にC.C.自身を囮としたのは途中まで、特徴的な姿をしているC.C.に似せたダミーを5ヶ所に設置し、一瞬だけ見せて誤認させる。
視覚情報なんていい加減なものだ、それは訓練を積んだ兵士も関係ない。

これにより万が一見つかったとしてもC.C.は捜索部隊の総数よりもかなり少数の包囲から逃げるだけで済む。

成功条件はクロヴィスに油断をさせる事と捜索部隊の誘導──これも悪くはない。


問題は次だ、第三段階としてレジスタンスの襲撃。

もう少しでC.C.を捕まえられると考えたクロヴィスが逃避する筈もなくTVクルーが居る事で示威行為に使えると判断し抗戦を開始。

事前に伝えていた内容通りレジスタンスが動くかが賭けだったが、租界内に手引きをした謎の協力者“ゼロ”の口車に上手く乗ってくれたらしい。
敵の敵は味方だと勘違いしているんだよな、全く……甘いお考えの日本人様々だよ……ククッ。

此方が伝えた協力条件は一つ『逃亡の際に花火を揚げる、その地点へ向けて対戦車砲弾を発射せよ』とだけ。
デメリットが無い様に思えて実はデメリットだらけなのだが……目先の利を優先してくれて助かった。
さすがレジスタンスとでも言っておこう。

資金提供してやったのも効いたんだろう、お陰で俺の口座から0が幾つか減ったがな。
ピザ代についてはそろそろ諦め始めている、下手にアッシュフォードの金を廻したらどんな足が着くか判らないからだ。それだけのレベルで減る──ワケが分からない。

話が逸れたな。
事前にレジスタンスと護衛部隊を文字通り煙に巻いた事が幸いし、予想以上の効果を挙げた。

成功条件はC.C.逃亡の達成、ならびに逃亡したと誤認させること──動画を見れば一目瞭然の成功だった。

問題なのはただ一つ、C.C.との通信が途絶えてからの俺自身の退避速度に問題があり予定外の事態が発生───結果的に上手く行ったが、正に紙一重だ。


そして後始末、いや口封じはKMF部隊が勝手にやってくれた。
通信ログは辿れないようにしたし、辿り着いたとしてもゴミ箱からPCが見つかるだけ。

後は簡単、C.C.が混乱に乗じて学園の地下排水施設へと向かい、奴らを迎え入れた地点にバイクを置き去りにする。

以上までの流れを踏まえるとクロヴィスはこう考える筈だ。
『C.C.はレジスタンスと通じており逃亡の為に協力を仰ぎ租界から逃げ出した。
もう何処に行ったか掴むのは容易ではない』といった風に。

「実はまだ租界内、それも学園内に居るとは思わない。
いや、思えないように思考誘導したんだが」

「なるほどな……というかそこまで考えていたのか」

「当然だ。
クロヴィスは大局を考えるには向いていないし、レジスタンス到来とC.C.逃亡を同軸に考える時点で既に詰んでいる。
あいつ等は勝手に暴れて勝手に死んだだけ、そして此方の目的は逃亡そのものではなくあくまで“偽装”する事。
そこに思い至るには……義兄上の頭は穏やかでらっしゃるからな」

「ぷっ……酷い言い草だな」

「そうでもないさ、感謝してるぐらいだ。
“俺の思惑通りに動いてくれてありがとう”ってな、何もかも大好きな義兄さんのお陰だよ。
さて……悪いが出て来る」

「? 何処にだ?」

「秘密、だ」



──────────



『ヒィッ?!』

それは何度となく紡ぎ出される一場面。

クロヴィスの醜態を記したソレを当人たるクロヴィスが聴いている、本来なら激高して然るべきだが──今はただひたすらにうなだれていた。

いや違う、ある男の前で膝を付き頭を垂れていた。

「クロヴィスよ……此度の失態、どう責任を取る気でおるのだ?」

『ヒィッ?!』

「ハッ、それは……」

しどろもどろになりながら言い訳を紡ぐ、だがそれも長くは保たないだろう。

目の前に居るのは只人に非ず、超大国ブリタニアの総てを統べる男──第98代神聖皇帝シャルル・ジ・ブリタニア──で在るのだから。

その眼光に見咎められている以上、下手な言い訳などは通じない。
ましてや2人きりの空間の空気は酷く重苦しく、また息苦しかった。

次第に口数が減り、遂には言葉すら発せぬ有り様になった折──再びシャルルが口を開いた。

「我が息子クロヴィスよ……お前をエリア11の総督から更迭する。
暫くは本国に留まるが良い、後任は既に──コーネリアに任せてある。退がれ」

「なっ! 父上、それは……!?」

「…………」

『ヒィッ?!』

思わず反発しかけたクロヴィスを睨み付ける、直ぐに消沈し黙って頷き退室した。

まるでその心境を見透かされたかの如く映像の自分が合いの手を打ったのも作用した……流れ続ける醜態に心が折れたのだろう、この場に残り続けるのは苦痛でしかないのだ。

その後ろ姿は中々に哀愁が漂っていたが、唯一それを見るシャルルは特に意も介さず見送った。

1人きりになってもクロヴィスの醜態は流れ続けたまま。
いや、この場に居るのは本当は“3人”なのだが。

「……どうかしら? 私の息子の出来は」

シャルルしか居ない筈の室内に幼い少女の声が響いた、それを見やりふっ……とシャルルが表情を和らげる。

気易いものにしか見せる事のない、とても穏やかな顔を。

「クロヴィスでは及びもつかぬようだな、全く相手になっておらぬ。
あ奴めは自分が誰に負けたかも理解しておらぬだろう……そう、強大な武力を用いながら義弟1人に敗れ去ったとはなぁ」

『ヒィッ?!』

クスクスと忍び笑いが響いた。
喜んでいるのか、それとも流れ続ける醜態がおかしかったのか──それは声の調子からは判らなかったが。

うっすらと見える輪郭はとても幼く、対等な口調で話す姿は年不相応であらながらも何故か艶美さを感じさせた。

「それ、私が編集し直したのよ。
最高でしょ? もうおかしくってw “この娘”も珍しく笑ってたのよね♪」

「ふむ……それよりも、だ」

「ええ……C.C.も映ってるわ、声だけは聴いてたけど元気そうな姿を見るのはまた別ね」

クロヴィスの醜態に焦点を当てたソレに比べ極短い時間、本当に短い時間だがC.C.は映っていた。

そうと知る者が見れば簡単に判別が出来るだろうソレを見て、シャルルは溜め息を吐く。

「既にギアスの契約は終わったものと考えておったが……存外、あ奴も強情な様だ」

「アナタへの反逆心は無いらしいわ、残念ねシャルル……反抗期終わっちゃったみたいよ?」

「…………」

「ま、母親としては私の敵討ちに頑張って欲しかったかもだけど───まぁ良いわ。
もうコレで当分あの子は平和だし、加えて新総督は武闘派のコーネリア・リ・ブリタニア…………ん~少し過保護かしら?」

「…………」

矢継ぎ早な質問に答える声は無いが、僅かに歪んだり崩れる表情から意を汲み取っているらしく───満足そうに頷いた。

「クス……あら残念、もう直ぐV.V.が帰ってくるわね。
それじゃまたねシャルル……久々に話せて嬉しかったわ」

「放っておいて良いのか?」

「ん? あぁ……良いのよ、たった5人だけの同士だもの。
だからお願い、アナタも好きにさせてあげてね?」

「…………」

再びの沈黙を答えと認識し、カツカツと足音だけを響かせ声の主は闇へと消えていった。

今度こそ誰も居なくなった空間でシャルルはゆっくりと立ち上がる。
其処には先程までとは全く異なった趣の笑みを纏ったシャルルの顔があった。

「我が息子ルルーシュよ……果たしてギアスを受け入れぬお前が何処まで世界に抗えるか───アーカーシャの剣が完成するまでの楽しみとしよう。
コーネリアがお前の道を阻むのならば排除するが良い」

向けた視線と言葉の先は只の壁だが、彼はハッキリて見つめていただろう……その視線の先を、エリア11を。

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを。



──────────



ナナリーがアリスと出掛けて1時間。
クロヴィスの租界巡りにより敷かれていた厳戒態勢が解かれ、租界は僅かな傷跡を残しつつも活気に包まれていた。

日常に降って湧いた戦禍など多くの彼等にとってはあくでも無関係。
かつての平穏とした生活に戻っていた。

そんな街中を進むルルーシュにとっても、あの事件が心に残すものは無かった。動画は別だが。

かつて破壊され尽くした居場所に対して掻き立てた反逆心は既に枯れ果てたのだ、ナナリーさえ平穏無事に過ごせるのならば世界がどうなろうとも構わない。

喩え簒奪者の理論だとしても、今更そんな事でルルーシュの心は揺れたりしない。
だが今日は、昔の自分が唯一心に秘めていた悩みが解消されるかもしれない──そう思うと、何故か胸が痛んだ。

感傷なのだろうか。

「この辺りと言っておいた筈なんだが……あぁしまった、携帯が止まってやがる」

どうやら充電もロクにせず動画を見続け過ぎてしまったらしい。

これでは向こうからの通信も受け取れないと悩み──杞憂だったなと顔を上げた。

1人の男が、何時の間にか目の前に立っていたから。

「久しぶりだな……今度は3日ぶり、だ」

「ああ、そうだね。
3日ぶりだ……会えて嬉しいよ」

にこやかに話しかけてきた相手を見やり、自分の頬が緩むのを実感する。

遠い記憶の果てに置き去りにした鬱屈とした過去の中でさえ、絶えず光り輝いていた思い出が鮮烈に蘇る。

最初は反目し殴り合った事もあった、けれどいつしか歩み寄り、遊ぶようになり、そして今や──掛け替えのない存在となった。

「今日はヒマなんだろ。
さて……何で軍に居たのか、ゆっくりと言い訳でも訊かせて貰おうかな? ───スザク」

「あっはは……。
お手柔らかに頼むよ───ルルーシュ」

枢木スザク──最初にして唯一の親友。

七年の時を経て再び巡り会った彼の笑みを見て────やはり何故か、胸が痛んだ。





[4113] 第11話
Name: G-Say◆d47f5322 ID:c3c3e432
Date: 2008/11/19 11:32
「名誉ブリタニア人として軍に入って、今は技術部に所属しているよ。
とは言っても、配置換えされたばっかりなんだけどさ」

「そうか……中からブリタニアを変えようとして、ねぇ?」

「うん。
今の僕に出来る事なんて少ないけど……それでも、やってみたいんだ。
……こういう考え、キミなら笑ってしまうのかな?」

「いいや。
そんなワケないだろ、大切な友人が決めた事さ、応援するに決まってるだろ。
そうだな寧ろ───羨ましいぐらいだ」

「? そうかい」

「ああ、そうさ。お前は凄いよ……スザク」





TURN 11 速





「それにしてもアレだ、いきなりクルクル空中を飛んでくる奴があるか。
軍では格闘技じゃなくて曲芸でも教えてるのか? ん?」

「いや、アレはほら……不審者だと思ったからてっきり、ねえ?」

「凄い痛かった」

「ご、ごめん!」

パシンと手を合わせ心底からすまなそうに謝るスザクを見ていると、何故だか昔に戻った錯覚をするものだから不思議なものだ。

七年経って少し大人しくなった印象を受けたが、根っこの所は変わらないものだと微笑む。
とても真面目で、実直なまま。

「冗談だよ……ま、悪いと思ってるならナナリーに会ってやってくれ。
とても喜ぶ筈だから」

「! あぁ勿論……そっか、ナナリーも居るんだよね。
安心した、キミと会った日からずっと気になってたんだ」

「当たり前だろ。
そうだ、今日は泊まっていけよ。それから────」

談笑しながら7年間の空白を埋めるように互いの身の上を話す2人。
そんな2人の様子を窺うようにして見つめる視線には全く気付かない。

両者共に、久々に会えた喜びで緊張感が削がれているのだ。

ともすれば致命的になるやもしれない元皇族と元日本国首相の息子という2人の組み合わせ……だが今回は、多分に運が良かった。
……のだろうか?

「ルルーシュさん楽しそうね……いっつも仏頂面なのに」

「お兄様は気難しいだけで本当は凄く優しい方なんだよ。
でもお兄様がそんなに笑ってるなんて……どんな方と一緒なのアリスちゃん?」

「ん~……知らない顔ね、学園じゃ見た事は無いわ。ただし中々にイケメン。
でも私は好みじゃないわねぇ、でもナナリーは好きそうな感じ♪」

「あぅ……そんな事じゃなくって」

「クス……冗談だってば」

見方によっては不運なのかもしれない。
アリスに見つかってしまったという一点のみでだが。

『あれ? 今のって…………』

アリスがルルーシュの姿を見かけたのは本当に偶然だった。

ナナリーを迎えに行こうと街を歩いていた彼女の直ぐ近くを若干だが急ぎ足で通り過ぎる彼の姿を見かけた。
たったそれだけの事、街で知り合いと擦れ違うなど誰にだってある話だ。

それがアリスにも起きただけの話。
しかし結果が違った……という。

『(…………怪しい)』

特に他人に対して興味を持ったりはしない彼女だが相手はナナリーの兄であるその人だ。

自然と視線で追ってしまうのも仕方がない。
しかしそれ以外にも所謂“乙女の勘”と言うものが働いていたのだ。

これは何かある……半ば彼女の中で確信に至ったソレはある意味では実に的を得ていた。

合流した後それとなくナナリーに訊いても外出する予定など聞いてないらしい。
酷く驚いているナナリーの姿は、まるで夫の浮気をほのめかされた妻の様にアリスには見えて苦笑してしまったのだが。

『これは匂うわね』

──秘密の香りを嗅ぎ分けた彼女は親友の為に(という体で)ルルーシュの動向を探ろうとナナリーに話を持ち掛けた。

『えと……う、うん! 追い掛けようアリスちゃん!』

完全に興味本位の野次馬的根性からだったが、思った通りナナリーも乗ってきた。
ナナリーとて止めれば良いのにホイホイと付いて来たのは、ルルーシュの事が心配でならない証拠だろう。

アリスから言わせれば「ナナリーってばブラコンよね」と言いたい所だが、シスコンの自分が言う資格は無い事ぐらいは承知していた。

「お……立ったわね。
それじゃ行くわよナナリー、お兄さんの秘密! このアリスちゃんが暴いてあげるわ!!」

「み、見つからないようにしてね? アリスちゃん。
きっとお兄様はそんな趣味の方じゃ……」

耳年増で更には何か勘違いしてるだろうナナリーを率い、斯くして2人による追跡劇は幕を開けた。

そうして不運は加速する──やはりルルーシュはついていなかった。



──────────



「……どうしたスザク?」

「しっ───このまま黙って歩いて欲しい」

唐突に雰囲気の変わったスザクを訝しむが、黙って従う。

学園までの道のりをルルーシュから聞き出し、若干だが遠回りになるよう角から角へと隠れる様に進む。
時折ふ……と後ろを確認し小走りになったかと思えば、唐突に立ち止まったりを繰り返す。

2度目辺りでルルーシュも薄々とだが事態を理解していた。
となれば、打開する策を考え出すのは自分の領域であるに違いなかった。

「心当たりは……あるに決まってるよね」

「ああ。
それよりいつから、何人か、教えてくれ」

「───確信したのは5分前、人数は判らない。
けど1人だけ明らかに訓練を積んだ足運びの奴が居る」

曲がり角の度に交わす短い会話。
最低限の情報伝達で取り交わした情報は余りに拙いものだ。

けれどどちらも焦りはしない。
今横にいるのは自分が最も信頼する相手だからだ、2人で組んで出来なかった事など無い───その絶対的認識は今も変わりはしない。

自分達を何故、どうして尾行してくるのか……それは今考えても仕方がない。情報が圧倒的に足りない、ならば捕獲して吐かせば良いだけだ。

「…………」

盗聴されている可能性も有る、だから会話する必要はない。
互いに通じる最低限の“不自然で自然な動き”を行い意思疎通を図るルルーシュ。

それは間違い無くスザクに伝わる。2人だけの秘密のサイン。
緊張感を持ちゆっくりと速度を落としながら建物を曲がったと同時にスザクが壁を垂直に駆け上がる。

同時にルルーシュはスザクの馬鹿馬鹿しすぎる体技に唖然としながらも、目立つ様に手を大振りにしながら走り出す。

「─────!」

そのルルーシュを確認した追跡者が僅かに洩らした焦りの気配に的確に反応し「────ふっ!」三角蹴りの要領で空に舞ったスザクが錐揉み回転しながら踵落としを打ち込もうとする。

瞬間───その追跡者の正体に気付く
(!! 女の子っ !!?)
咄嗟に止めようとする意思に反し、足は綺麗に延髄へと向けその力の解放を待っていた。

数秒を待たずして訪れる残酷なその光景を幻視し強張るスザクだが───何時の間にか振り向いていた少女と目が合った「え?」気がした。

「──うわっ!?」

相手を確認した瞬間に半ば自失気味だったスザクの意識は誰も居ない空間を空振りした勢いのまま地面へと打ち付けられた感触で覚める。

痛みを堪え直ぐに少女の無事を確認しようと顔を上げ、背筋に走る悪寒から逃げるよう咄嗟に地面を転がる。

“シュッ”

耳障りな音と、頬に残る熱に意識を再び戦闘に傾ける。顔が切れたらしい。
幾度も急所へと的確に、躊躇なく、無慈悲に繰り出される少女の手刀をギリギリで避けながら後ずさる……内心で舌を巻いていた。

大振りの蹴りで牽制し距離を開けようとするスザクに対し、少女はその足を軸点としくるりと空中で一回転し内へと潜り込む。
勢いそのまま先程のスザクの様に踵落としを仕掛けるが、その速さはそれ以上だ。

体勢を崩されたスザクは左手で反射的に防御するが、ミシリ……と鈍い音と鋭い痛みを覚える。
想像よりも速く重い一撃に加え更に残った方足で頬を蹴り飛ばされ後方に転がる。

急いで起き上がったスザクが見たのは、少し前屈みになりながらも体勢を全く崩さずふわりと着地し、直ぐにまた距離を詰めようと駆け出して来た少女の姿。

(不味い、この娘───強い!)

事ここに至り漸く自分の勘違いに気付く。
相手が少女であると油断し、手心を掛けた最初の一撃……アレが自分にとって最大最後のチャンスなのだったと。

自分より上の技量を持つ相手に対してしてはならない最悪手を打ってしまった事を遅まきながらも理解する!

自分が抑え込まれている間にルルーシュの方へ追跡者が向かったかもしれない。
スザクが追跡者の1人を直ぐに行動不能にし、付近を見渡せる場所で待機していたルルーシュが倒れた追跡者を見て動揺し不自然な動きをする者を見つけだすという当初の計画は頓挫した。

だが焦っている暇はない、右拳を後ろ手に構え前傾姿勢のまま向かってくる少女を先ず倒さなければ話にならないのだ。

受けてみて理解したが、速さは別として単純な力なら自分が勝っている。
鍛えているとはいえそこは男と女、強引に攻めれば無理やりにでも活路が拓けると判断。

相打ち覚悟で正面から打ち合えばダメージは残るかもしれないが倒せるかもしれない──少なくとも戦力を削ぐ事が出来る──少女が接近戦を望んでおり恐らくは得意領域であるのも理解していたが、自分より格上を打倒するにはもうこれしか方法は無かった。

故に飛び出したスザクの判断は限りなく正答だった「────クス」相手が彼女でさえなければの話だったが。

少女が笑ったと理解した瞬間、その姿は唐突に・呆気なく・跡形もなく目の前から霞の如く“消え失せて”いた。

「──な!?」

驚き目を張るスザク、だが何が起こったかを理解する前に彼の体は空中を飛んでいた。

激しい痛みが全身を駆け抜ける、見失った瞬間反射的に防御へと意識を回していなければ意識が刈り取られていたかもしれない。

「っ───がはッ?!
ど……どこか………………ら」

背骨が軋む、肋骨辺りが骨折とまでいかずとも罅が入っているだろうと激痛の中で自覚する。
何時の間にか消え失せていた筈の少女が、真隣で自分を見下ろす様に立っていた。

下手を打った───執拗に距離を開けず接近戦へと持ち込もうとしていた彼女の思惑ごと打ち砕くつもりが、無様にもやられてしまった。
何時の間に後ろに回られたのかも気になったが、それ以上にルルーシュの事が気掛かりだ。

このままトドメを刺されればルルーシュに抵抗する手段はないだろう。
親に捨てられ、兄妹の2人で見知らぬ土地に送られ、やっと出来た居場所さえも壊され、そしてまた何者かに理不尽にも自由を奪われようとしているルルーシュ達の運命───それを思い、歯軋りをしながら少女を睨み付ける。

(それを黙って……許容するワケにはいかない!)

最後の力を振り絞り、せめて目の前の少女を倒してルルーシュが逃げる時間を稼ごうと限界近い疲労を無視し立ち上がろうと力を加え──「アリス?」──ルルーシュの間の抜けた声が聞こえ、がくんと力が抜けた。

「…………はい……どうもこんにちは、です、ルルーシュ……さん」

「何で君が? 確か今日はナナリーと」

「あー……はい、えと……まぁそうなんですけど────」

バツが悪そうに消え入りそうな小さい声を出しながら少女───アリスは手を頭に付け小さく「やっちゃったー……」と呟きながらルルーシュと話し出した。

ワケが判らず、どうやら知り合いらしい2人を見上げスザクは溜め息を吐いた。
何だか知らないが助かったらしいと────そう実感した瞬間、スザクの意識は途切れた。

ただその前

「あの────あった──すか?
アリスちゃ─、そ───兄─?」

薄れいく意識の狭間で、とても懐かしい声を聞いた気がした。





[4113] 第12話
Name: G-Say◆d47f5322 ID:c3c3e432
Date: 2008/11/27 11:24
「今の感覚……バカな! ギアスユーザーだと!?
まさかマオ────いや違う」

相も変わらずピザを喰わえ寝転んでいたC.C.の感覚に干渉した存在。
つまりギアスユーザーの存在に感づき、C.C.は訝しりながら起き上がった。

「おいマリアンヌ、お前何か知っているだろ? 話せ、今話せ」

「……はいはい、相変わらずだなお前は。
違う私は帰らんと何度も……あーもう良い! 訊いた私がバカだったよ」

ぶつくさとベッドの上で寛ぎながら独り言を呟き続けるC.C.。
それ自体は見慣れたものだが、今日はひと味違っていた。

急に立ち上がったかと思えばうろうろと部屋の端から端へ移動しつつ、右手を顎にあてがいながら口元はモゴモゴと動き続けていた。

流石に気味が悪くなった咲世子が声を掛けようとし ──「ああ!! アイツか!?」── ビクッと体が縮こまる。
思わず動きの止まった咲世子に気付かぬ様子でC.C.はノロノロとベッドに戻り、突っ伏した。
既に興味自体を逸したらしい。

一連の奇行の意味は判らないが、少なくとも自分が今しようとしていた事を思い出し咲世子は再び口を開いた。

「C.C.様……あの」

「ん? どうしたんだ咲世子??」

「……何をお悩み────いえ、お茶にいたしますか?」

「あぁ」

訊けなかった。
この日この瞬間、誰1人として気付かぬままに異常事態は終わりを告げた。

それ即ち、咲世子が空気を読んだという異常事態が……だが。
それはそうとて咲世子は直ぐに茶を煎れる為にキッチンへと向かった。

「…………巻き込まれるなよ、馬鹿ルルーシュ」

か細く呟いたC.C.の言葉を、拾い上げる存在はもう誰も部屋には居なかった。





TURN 12 真実 の 馬鹿





「…………」

「……私、謝りませんので」

「あ、アリスちゃんってば……ごめんなさいスザクさん。
でもアリスちゃんはとっても優しい娘なんです、ホントなんです!」

「あぁ、良いんだよナナリー。僕が悪かったんだし、うん。
えと、ごめんねアリスちゃ 「ハァ?」 ……ごめんねアリスさん」

『租界内は安全?』

『租界内なら大丈夫?』

そう思うんならこのカフェで休憩していきな、ラブラブカップルでさえ帰る頃には冷め切っちまうぐらい最低な場所さっ!

そんな考えが通行人の頭を過ぎってしまうぐらいギスギスした空気を孕んでいるある店のテラスに4人は座っていた。
注文を訊きに行ったウェイトレスが涙目でキッチンへ駆けていく様を見る度に、遠目に成り行きを窺っている野次馬達は同情を禁じ得ない。

最初から此処まで悪い空気では無かったが、この4人の中でも中心人物であり他3人に対する緩衝材となり得る筈のルルーシュが……黙して語らない事が空気の悪化を促していた。

その心中は複数の疑問を提唱する自分とそれに対して答える自分とそれらを客観的に見つめる自分とがない交ぜになったが故の沈黙、だ。

押し黙るルルーシュの雰囲気に充てられ、アリスは内心ではこの場から逃げ出したい程に焦ってつんけんしていた。

そんな風に陥ったそもそもの原因であるスザクが彼女に遠慮がちに謝罪を繰り返し、よく状況を把握していないナナリーが沈みゆく場の空気を盛り上げようと躍起になるが上手くいかない。

流石にナナリーの表情が目に見えて陰り始めた辺りでルルーシュも正気に戻ったのだが……どうやら数分ほど手遅れだったらしく虚しく時間だけが過ぎて行った。

そうして訪れた気まずい沈黙を、なけなしの勇気を出してルルーシュは打開し始めた。

「……な、なぁアリス」

「は、はい」

「あ、あぁ……その…………」

が、すぐに挫けた。

漸く意を決し話し掛けたは良いが何を喋るべきか判断が付かない。
彼女は妹の親友で、自分も信頼している相手であり──スザクを軽くあしらった人物でもある。

イメージされた人物像が重ならない。
いったい自分の前に居る少女は何者なのか? どうして自分達を尾行していたのか? どんな訓練を詰めば人間の限界を踏み越えているスザクを圧倒し得るのか?

彼女が何故ナナリーと友人なのだろうかと考え、瞬時に最低な予想が胸に去来した。
つまり“ナナリーの平穏を乱す敵ではないのか?”と。

そんな疑念を吹っ切りたいが故に、ルルーシュは無理矢理に明るく振る舞う。

「……悪かったな、コイツがあんまりビクビクするもんだからてっきり引ったくりか何かだと思ったんだ。
本当に済まない」

「いえ……その……私も、ちょっと過剰に反応しちゃいまして、ごめんなさい」

「ほらスザク、もっかい謝れよ?」

「ごめんね……アリスさん」

「いえ……別に」

「あのねお兄様?
私がお兄様とスザクさんを追い掛けようってアリスちゃんに頼んだの、だから悪いのは──」

「あぁ、判ってる。
行先を秘密にしてた俺が悪かったんだ、だけどだからって友達を巻き込んでまでこういう事をするのは……感心しないな」

「はい、ごめんなさい……お兄様」

シュンと沈んだナナリーの頭をくしゃくしゃと撫でる。
厳しい事を言ってしまったかな……と少しだけ後悔したが、今ナナリーが無事なのは運が良かったからだ。今でこそアリスの異常戦力を知ってはいるが、何時も出掛ける際に胃が痛くなる程にルルーシュは心配していたのだから。

そう言えばナナリーが外出したがる様になったのはアリスと友達になったからだな──そこまで考え、先ほど意識的に切った疑念が再燃してしまう。

鍛えられた肉体──ナナリーと友達──それはナナリーを皇族と知って?──では外を連れ回すのは拉致の為で──いやそれならばもっと早くに達成して──時を待っている?──では何故?

混濁しかけた思考を外に追いやり、雰囲気の和らいだテーブルを見つめる。

自分が間に入った事で3人の間に流れていた冷たい空気は形を潜めた。
ビクビクしながらケーキや紅茶を運んで来たウェイトレスが笑いながら帰って行ったぐらいだからそれは間違い無い。

そうしてふと視点を戻し見えたのはナナリーに甲斐甲斐しくケーキや紅茶の世話をするアリスであり……その顔に浮かんでいるのは眩いばかりの笑顔だ。

「…………」

不審な点は確かにある、けれど妹と仲良く触れ合っている彼女を見ると──疑っている自分が申し訳なくなる。

そう、彼女は妹が初めて率先的に作った無二の友人なのだ。
それは喩えるならば自分とスザクの関係と変わらないと思う。

少なくともルルーシュにはアリスの笑顔は心からの笑顔に見えたし、それを信じてみたいと考える自分の意思を否定は出来なかった。

無論、静かに……穏やかに……そして冷徹にアリスの正体を見極めたいと考える自分も肯定する。
暫くは泳がせ……そしてナナリーに害する存在と判れば──たとえナナリーの親友と言えども殺す──そう決意し、ルルーシュは笑顔の仮面を被った。

「やれやれ、さてアリス……今日は君もウチに泊まっていくかい?
どうせ明日も学校は休みなんだからさ」

「え? あの……良いんですか?」

「あぁ、勿論だよ。
少なくとも俺は歓迎する……ナナリーはどうかな?」

「お泊まり!
うん、うんうん!
私はアリスちゃんがお泊まりしてくれたら凄く嬉しいよ♪
あ、御用があるんなら……いいんだけど」

「そんな事ないわよ!
うん、お泊まりするわ……あ~だったら今から荷物とか取りに行かなくちゃね!
すいませんルルーシュさん、後で伺いますね~!!」

そう言い残しアリスが席を立つ。
手を振りながら離れていく彼女へ手を振り返し、人混みの中に消えていく姿を見送りルルーシュ達も店を後にした。

領収はスザクが断固として支払いを主張した為にスザク払いで。
申し訳なさそうにお礼を述べるナナリーの笑顔が余りに可愛く、ルルーシュの荒んだ心が癒されたのは余談である。



──────────



「と言うワケだ、客が来るから出てくるなよ?」

『知っているかルルーシュ? 人に頼み事を訊いて貰う為に“必要な3つの条件”という言葉を』

「……ピザでもなんでも好きにしろ、どうせ無駄金だ」

『だからお前は好きだよ、ルルーシュ』

好きなのはピザであって俺じゃないだろと内心愚痴りながら、それでも面倒事にならずに済むと感じホッとする。
言質は取ってあるのだから、邪魔をしてくれば容赦なく殴ってやろうと決意を固める。

実際に殴れるかどうかは甚だ疑問だが。

別にスザクに紹介するぐらいは構わないとも思ったが、スザクはブリタニア軍人である。
末端に、それも名誉ブリタニア人にC.C.の情報は伝わっていない筈と考えるも──その逆なら有り得てしまうと理解していた。

スザクがうっかりC.C.の特徴を洩らし上にいる何者かに伝われば……もはや考えるまでも無かった。

それ以外にもただ紹介が面倒だという小さな幾つもの理由(と言うよりも些細な不満)が存在するのだが。

「へ~スザクさんが技術部なんですか?
何だか意外です、スザクさんは肉体派だと思ってましたから」

「あはは、うん確かにあんまり僕向きじゃないかもね。
でもこの7年で少しは成長したんだ、だから苦手ってワケじゃないよ。
まぁルルーシュみたいには無理だけど」

「クス……お兄さまは凄いんですから当然です。
えっへん」

「おいおい、あんまり褒めるなよナナリー。
何かこう……恥ずかしいだろ?」

「恥ずかしくなんかありません!
私のお兄さまはとってもステキなお兄さまなんですから♪」

7年という月日を経ても何も変わらなかった物があった。
色々と取りこぼし、そして失くしていった自分にもまだ何一つ変わらない宝物があったのだと微笑む。

ナナリーの兄自慢は訊いていて悪い気はしないし、照れながらも本当は止める気のないルルーシュに苦笑する。

今日は色んな事があった特別な日だ。
名誉ブリタニア人として軍属になって以来の初めて感じる晴れ晴れとした心持ちで、スザクは仲の良い兄妹を──親友達を見つめる。

またこうして3人で笑いあえる日が来るなど思ってもみなかった。
弱々しい印象しか無かったナナリーも、不自由な体は変わらずとも強い意思を感じさせる声つきをしている。

ルルーシュもひ弱な外見こそ変わらないが、7年前に別れた日と変わらない──ともすればあの日よりも深く、そして雄大な決意を感じさせる瞳をしていた。

そんな2人に比べると、途端に自分が情けなく思える。
がむしゃらに生きてきて、自分はつい先日にやっと長い階段の一歩を踏み出したに過ぎない。

自分はルルーシュに羨ましがられる程に、何かを成せてはいないのだ。
しかし今は、いまだけはそんな胸のモヤモヤに蓋をした。

「あ、もう直ぐですよ。この匂いは間違いないです」

「匂い?」

「はい、校舎の匂いがするんです。判りませんか?」

「ごめんね、判んないや」

そうですか……と何故か落ち込んだナナリーを見て慌てるスザク。
それをじとっと見るルルーシュの視線はとても人間を見る目には見えない、かつて『ブリタニアをぶっ壊す』と述べた時と同等の憎しみが自分に向かっているようで背中に妙な汗が流れた。

そんな時だ。
ピクリとナナリーの鼻が反応し、喜色満面でクラブハウスへと顔を向けたのだ。

それに釣られて向けた先にいた人物、それは───

「ただいま帰りました! C.C.さ~~ん!!」

「ブフッ?!」

「……あの娘は、まさか!」

「お帰りナナリー。
済まないが私は今から出掛けてくる、じゃあなルルーシュ。
約束守れよー」

其処に居たのは、全く悪びれない様子でむしろ『空気を読んで出掛けてくるからな』と言わんばかりに自信満々な表情で出掛けようとしているC.C.だった。

そしてルルーシュは気付いた“自分が言いたかった意味が全く伝わっていなかった”という事実に。最低な事実に。

「この……馬鹿がッ!!!」





[4113] 第13話
Name: G-Say◆d47f5322 ID:c3c3e432
Date: 2008/12/03 20:43
「痛た……! 
ご、ごめんなさい急いでて」

「ううん気にしないで……ってアリスちゃん?」

「カレンさん?
どうしたんですかこんな所に、お体は……」

「あ、あぁうん……今日はちょっと調子よくて。
たまには外に出ないと、ねぇ?」

「そうなんですか……それじゃすいません、用がありますからこれで。
また生徒会で、お互い頑張りましょう」

「うん……ホント、頑張らなくっちゃねぇ」

「 「 ハァ…………」 」





TURN 13 ギアスユーザー -契約者-




(確かここら辺の筈だったんだけど……)

カレンが無理やり生徒会に入れられてはや2週間以上。
抵抗活動に専念しようと考え休学届けをミレイに出しに行ったのだが……それが失敗だった。

律儀に筋を通そうと考えた日本人気質が、この時ばかりは怨めしい。
黙ってサボり続けていれば良かった。

『ねぇカレンちゃんって部活入ってないよね? だったら生徒会なんてどうかなぁ!?』
『いえ、あの私は休が(ry』
『うんうん理解ってるわよ~! 大丈夫、体の弱いカレンちゃんにも安心☆肉体労働は無いからねぇ~♪』
『いや、だからあの……』
『よーし決定ィ! 実はもうさっそく歓迎会の準備は出来てたりするのよねぇ~☆ ささ主役が遅れちゃダメよぉー!』
『は?』

半ば強引に誘われなし崩し的に休学届けは受理される事なくカレンは生徒会メンバーとして決定されてしまった。
その際、アリスだけが同情的な視線で自分を見つめてきて以来メンバーの中では懇意にしていたりする。

扇達にこの流れを話しても『うん、学生をやってた方がカレンには合ってるかもな』等と反対意見は出なかった。
しかしカレン自身としてはこの現状を何としてでも打破したかった。

確かに普通の学生生活を送る事を兄は望んでいた、それを叶えると思えば学生で居る事もやぶさかでは無い。
それが日本人の学校ならば……と前提が付くが。

何もブリタニア人全て、それも只の学生にまでいちいち憎しみを持つ程カレンは馬鹿では無い。
だが……だからと言って簒奪者ブリタニア人と一緒の空間に居る事は堪えられない。
自分は日本人だという思いが、誇りが、矜持こそが自分を自分たらしめているのだから。

そうして鬱屈とした想いの捌け口を求めていたカレンへ訪れた一つめの天啓、日本解放戦線への誘い。
正直に嬉しかったものの、いざ自分にチャンスが巡ってきたと理解した時には──まるで自信が失くなってしまった。

シンジュクゲットーでの大敗後だった事もカレンの心に陰を落としていた。
死の一歩手前まで追い詰められたという事実、幾ら同世代より遥かに強い心を持つ彼女とはいえまだ少女だ。

拭えぬ恐怖と、なまじそれよりも強い矜持がない交ぜになりカレンの心はささくれ立っていた。

そうして悩み、自分の身の振り方さえ決められないでいた彼女に訪れた2つめの天啓。
何処の誰とも知らない一レジスタンスが見せたクロヴィスへの急襲。

自分や仲間が何度も考え、実行しようとして失敗し壊滅の危機にまで陥ったソレを簡単に成した。。
不可能だと断念していたブリタニア皇族抹殺に──あと一歩という所まで迫ったのだ。

驚愕した。
失敗した事は重要ではない……寧ろほんの少しでも歯車が狂っていればクロヴィス抹殺は成っていたかもしれない。
『かもしれない』等と、所詮は夢想事と笑われるかもしれないが……カレンは半ば、この出来事を切っ掛けに無意識的に扇グループを切っていた。

──扇グループに居ても、何も変わらない……変えられない──

そうして彼女は衝動に突き動かされ行動し、今日に至る。
即ち日本解放戦線への誘いを受け入れて、自分も何かを成す為に。

「……まだ来てらっしゃらないのかしら」

行き交う人々の中に日本人の姿を探す。
待ち合わせの場所にこんな所を選ぶなどと普通では考えられなかったが、それが逆に盲点になるのかも知れない。

腕時計を確かめ、自分が早く来過ぎただけだと気づきゆっくり待とうと思い直したカレンの「いいや、そうでも無い」真後ろから急に現れた気配に激しく振り向いた。

「!!」

「此方だ、来たまえ────紅月カレン君」

「は、はい!」

どうやら舞い上がって周りが見えていなかったらしい。

この調子ではダメだと頬を叩き気合いを入れる、自分がやらねばならない事は日本の解放。
その為に出来る最善を尽くす。

拘らねばならない事はそれだけ、扇グループは確かに兄の残したグループだが“それだけ”だ。

自分に何が出来るかなんて分かりはしないが……それでも漸く、自分が前に進める様な気がした。



──────────



さ あ ど う す る ?

まるで妙案が出ない。
だが考えるんだルルーシュ、C.C.がスザクでバイバイな出掛けてくるからピザハット? ナナリーがお泊まりでアリスがチーズくん?

いや違う!
……落ち着け、そうだ冷静になれルルーシュ。

そう、スザクはただC.C.という女性と出逢っただけだ!
「彼女は誰だい?」
「お客さんさ」
「そっか」
よ、よし完璧だ!

フハハハハハハ!! そうだとも、スザクがC.C.と逢ってしまったとて何の問題がある?

あるワケが無いさ、誰がクロヴィスの捜している人物だと解るものか!
よし、早速スザクに説め──
「キミは確か、シンジュクゲットーで」
──なん……だと……!?

バカなスザク!
何故お前がC.C.を知っている!?
それでは前提条件が覆ってしまう、そうじゃないだろ!? お前はC.C.を知ってちゃいけないんだよ判ってるのかっ!!?

……違う、バカか俺は。
落ち着くんだ、そうだスザクがC.C.を知っている事は変えようの無い事実。何故かはこの際無視する、とすれば俺が採るべき最善手は───C.C.の排斥?

不 可 能 だ !

この状況、単独で俺があの女を行動不能にする?
無理だ、いや大体あのバカ女を見られた時点でこの方法は論外だ!

クソッ!
時間が欲しい、頼む誰か俺に時間をくれっ!

何とかしてスザクを丸め込まないと、いや俺が頼めば黙っていてくれて……あぁもうどうすれば良いんだ!
どうやればこの状況を打破できるっ!!!

「あぁ、何処かで見た顔だと思っていたがあの時の奴か。その節は世話になったな」

「いや、あれは人道的立場で考えて当然の事をしたままだから。
気にしないで欲しい」

───ハァ?

「判った、気にしないよ……おいルルーシュ? さっきから何を黙ってるんだ」

「────待て待て待て、何故そんなに親しげに話しているんだ。
スザクとはどういう関係だC.C.! スザクもだ、何故コイツを知っている!?」

「訊いての通りだ。
恩人だよ……逃がしてくれた、な」

はぁ? 恩人? 誰が?

「そっか、ルルーシュが匿ってくれてたのか。
心配してたんだけど、そっか……ルルーシュの所に居たんだ。安心した」

おいスザク、お前が何を言ってるか俺は理解出来ないんだが?

それじゃまるでお前がこのバカ女を解放して俺が数々の迷惑を被る羽目になったそもそもの元凶みたいに聞こえ……

「だからそう言っているだろう坊や、耳掃除をした方が良いんじゃないか?」

「大丈夫かいルルーシュ? 顔色が悪いよ、横になった方が……」

「───あぁ、そうさせて貰う」

もうイヤだ、今は何も考えたく無い。
何だ何だ何なんだ、人が苦心して場を収めようと思えば勝手に盛り上がりやがって。

俺がこの短い時間でどれだけ苦心したと思っている、そもそも俺がこんなにまで悩んだというのに何故お前はそんなにも涼しい顔でいられるんだC.C.!!

誰の所為だと思ってるんだ少しは考えろバカがっ! 大バカ女がっっ!!
クソッ……本当に今日はついていない。

とんだ厄日だ、まったく。俺にはアリスの見極めという重要事項がだな、あぁそうだ今日はナナリーとまだお茶だって飲んでいないんだ、ふざけるなよ……クソッ。

もう良い。
ナナリーが気に入っていたし肉体戦では勝ち目が無いから放って置いたが……此処までされれば俺にも考えがあるぞ!

そうさ、ピザに睡眠薬でも仕込んでおけば碌に味の違いが判らないこのバカ舌女なら簡単に罠にかかる、後は単純。

ふん……手段を選ばなければ貴様を排斥する方法なぞ腐る程にあるんだ、お前は慈悲深い俺のおかげでピザが喰えていたという幸福を噛み締めながら死んで、いや死にはしないのか───

「ではな、明日の朝には戻るよナナリー。
さてルルーシュ、気をつけろよ」

「ふん……何をだ?
言っておくがお前こそ気をつけろよ、月夜ばかりだと思わないこ「──ナナリーの友人、アリスとか言ったな?
そいつは間違いなく“ギアスユーザー”だ」
……なっ!!!!」

「私が与えた力だからな、間違いない。
しかしこのエリア11に居る意味が解せん──注意しろ。お前には生きる目的が、理由が有るんだろう?」

「……なん……だって」

去り際にC.C.から囁くように告げられたその言葉に俺は呆然と立ち尽くし……振り返った時にはもうC.C.の姿は何処にも見えなかった。
ただ俺の心に、疑心という楔を打ち付けて。

そしてギアス───その力の意味を、重みを、C.C.の願いを、この時の俺はまだ何一つ知らないでいた。



──────────



「ルルーシュさんはお部屋?」

「うん、気分が悪いらしくて……大丈夫かなぁ?」

「風邪の引き始めのようですね、大事を取って寝ておられますから今日は部屋へ入られないようにしてくださいまし」

「判りました咲世子さん……それじゃ私たちだけでいただきましょうか」

「そうだねナナリー、じゃあ──」

「 「 「いただきます!」 」 」

時刻は夜8時を回った頃合。主役の1人を掻いた3人での夕食ではあったが、アリスとスザクの間に昼間の様な剣呑とした空気は無かった。

ナナリーが2人の間を上手く取り持つ形に聞き手に回ったのが幸を爽したのだろう、3人での夕飯は良好に進んだ。

そして、ただ1人自分の部屋に篭もるルルーシュは寝ているワケでも無くただ黙って横になり、何かを考える様に静かに天井を睨み付けていた。

「………………」

昼間アリスが見せたスザクを屈伏してみせた圧倒的戦力。
その正体がギアスだと仮定するなら──成る程、スザクが敗北した事も理解できた。

しかしルルーシュはギアスという力の事を“情報”でしか知らない。圧倒的な“力”を持つという漠然とした情報。

不死を誇るC.C.をして超常の力と謂わしめるそのギアスを持つ者アリス───それがどんな力で、どういう使い方をするのか、そうしてそんなアリスがナナリーの友人となっている事──これは偶然?──それとも必然?──与えられた情報だけでは何もかもが不足していた。

「……危険性は高い、だがナナリーの友達……ナナリーを皇族と知って接触?……ならば何故行動に移さない……待っている?……何の為……」

最悪の可能性として、ブリタニアの先兵として自分達を追い掛けてきた者である。

次点にブリタニア皇族を狙う他国からの刺客。

そして第三、ただ偶然にナナリーと出逢っただけのギアスを持つ少女。

どれもこれも可能性として大いに高く、どれもが決定打に欠ける推論。
いっそ何かしら行動に移してくれれば採るべき手段はそれこそ山程にある───しかし現状、アリスを敵と断ずる要素は“ギアス”しか無い。

ただ闇雲にアリスを排斥するだけでは、それはナナリーの日常を破壊するに等しい。
それが、そんな些細な事がルルーシュに“行動する”という選択肢を奪い去り黙するという答えだけを押し付けていた。

「……監視を強化し、いやそれよりもC.C.にギアスという力の正体を……それよりスザクに……あぁ、くそっ。
何なんだよ、次から次へと」

扉から洩れてくる笑い声に耳を傾ける。

とても楽しげに笑うナナリーの声が押し潰されそうだった心を癒やしてくれるのを感じながら……何時しかルルーシュは眠っていた。

自分の心配が杞憂に終われば良い、と───そう願いながら。
そして、そんなルルーシュにまたも残酷に運命は牙を剥き待ち受けていた。





[4113] 第14話
Name: G−Say◆d47f5322 ID:9214f6b6
Date: 2009/05/15 00:46
「私、トウキョウ租界を出るの初めてなんだよ! わぁ……楽しみだな〜♪」

「うむうむ、アッシュフォード家に感謝するがよいぞ☆」

「はいはい感謝しときますよ会長。あ、リヴァル俺はコーラな」

「おう、アリスちゃんとナナリーちゃんは何にする? オレンジな、んじゃ行ってくるわー!」

「すみませんリヴァルさん」

「あ、私もついて行きます」

さて、何だか随分と久しぶりな気もするが気のせいだろう。
気のせいだな。

兼ねてからの計画により俺たち生徒会御一行様は河口湖行きの電車に乗っている。いわゆる慰安旅行ってヤツだな、それもVIP待遇。
ほぼ貸切なんてやりすぎだろ……没落気味なんじゃなかったか?。

しかし全員集合とはならず集まったメンバーはスザクとカレン以外、スザクは仕事らしいがカレンは病欠。
本当はリヴァルもバイトが有ったらしいがキャンセルしたと、折角の思い出作りだもんな。
無駄だとは思うが頑張れよ。

何にしても久々に心休まる時間を過ごせると言ったところか、懸念のアリスに関しては調べられる範囲で調べたが限り無く───白。
驕るつもりは無いが俺が読み違えるワケが無い、放っておいて大丈夫だろう……今の所は、だが。それにしても面倒な疑いを掛けられたな、いや忘れよう。

残す問題はあのミザ(ミス・ピザ女の略)だけだが、俺に抜かりは無い。
上限をカットしたクレカ+24時間営業ピザハット店による物量作戦によりミザを縛り付ける事に成功した。

万が一に外出しようとしても咲世子が見張っている。体術レベルで同等とはいえ今回は地の利が有る、敗北したとしても最後の仕掛けでクラブハウスを脱出不能にする装置もある。

なに安心しろ、ピザだけは受け渡し出来るスペースは確保してあるからな。ククク、帰った頃には『もうピザには飽き飽きだよルルーシュ!』と俺に泣きついて来ること請け合いだろう。

クハハハハハ!
出費が嵩むのは痛いが、あのバカの間抜けな面を拝めるとあれば安い出費だな。
完璧だ、これでナナリーとの楽しい旅行を満喫出来そうだ。

思えば何時以来だったかナナリーと外出するなんて、もっと外に出してやりたいがナナリーは可愛すぎるからな。
邪な思いを抱えて近寄る性犯罪共を駆逐するには、俺は貧弱過ぎる。

「お、見えてきわー。アレがコンベンションセンターホテルよー♪」

そうだなスザクが居れば安心だろうから帰ったら出掛けてみるかな?
さて、その前にスザクや咲世子さんにはどんなお土産を買おうか?

まったく楽しみな旅行だよ。





TURN 14 ホテル占拠





「僕たち特派は救出作戦に参加する事は出来ないんですか?」

スザクの疑問にロイドは隠すことなくスザクが……イレブンが居るからダメだと告げた。
その返答を予測していたスザクは自分に何も出来ない悔しさを零し、歯軋りをし湖を隔てた先にある建造物──コンベンションセンターホテルを睨みつける。

その先に居るで有ろう人物達、草壁中佐率いる旧日本軍軍人達の行動に対しての怒りを込めて。
そして、其処に居るだろう友人達が無事であって欲しいとの思いを込め。

それはあっと言う間だった、サクラダイトの国際分配会議が行われようとしていた会場に草壁らが現れ瞬く間に場を支配。
全てのブリタニア人が彼らの人質にされ、新総督であるコーネリアへと一方的に要求を告げる。

あらゆる方向からブリタニア軍が突入を試みたが、悉くを防がれる。
八方塞がり、もはやテロリストの要求に屈するしか無いのかと関係者の誰もが思った。

ただ1人、コーネリア総督を除いて。

そんな情勢を知り得る筈もなく人質とされたブリタニア人達の中に生徒会メンバーも居た。

脅えるニーナを抱き締め宥めるミレイ。
気丈に振る舞うものの、内心では涙を流したいシャーリー。
そして目に見えない恐怖に巻き込まれ兄と友達の手を強く握りしめるナナリー。

他の人質達も似たようなものだ、誰もが恐怖に苛まれている。
暴力によって場を支配し、自分達の命など気分次第で奪える絶対強者たる日本解放線戦に逆らおうと思う者など居はしない。

「大丈夫だよナナリー、義姉さんは優秀だったろ?
こんな事件なんか直ぐに解決するさ」

「はい、お兄様……」

しかしだ、その人質達の中で2人……たった2人だけが強く燃える意志を胸にこの状況を打破せんと動こうとしていた。

「ちょっと私離れるけど大丈夫だよ、こんなの直ぐに軍が解決してくれるわ」

「うん、アリスちゃん……」

1人の少女を仲立ちとし4つの眼が重なり合う。ルルーシュ、そしてアリス。
2人の目的は只一つにおいて合致しており今、正に実行の時を迎えようとしていた。

それは人質の解放? いや違う。

それは生徒会メンバーの安全確保? 違わないが正しくは無い。

ならば彼らが共に目指すべき目的とは?

「奴らのリーダーの居場所、それから見張りの数と配置に脱出路の道のり、出来ればコントロールルームの場所を知りたい。
出来るか?」

微かな囁きで簡潔に目的を告げる、見張りは恐慌する人質に怒鳴り散らして気付かない。

「はいルルーシュさん、やりましょう。全ては───」

「 「ナナリーの為に!」 」

そうナナリーの為、ナナリーの安全を確保する為に2人は共に動く。
その為ならば蟠りや疑心や慢心などあらゆる不安要素を心から排除する、必要な条件はやり遂げる精神力だけである。

しかしやはり2人の思考に些細な違いも有る。
アリスはナナリーさえ無事ならそれで良いがルルーシュはナナリーだけでなく『ナナリーの優しい世界を構成する』友人達も助けねばならない。

尤も、その他大勢の人質達は脱出に有益なら容赦なく切り捨てる事で同意しているが。

寧ろその方向で3パターンほど既にルルーシュが考えていると知れば、人質達はどう考えるだろうか。

「では……」

瞬間、まるで初めから居なかった様にアリスの姿が掻き消えた。
唯一の痕跡、ナナリーと同じシャンプーの香りだけが彼女が居た証だろう。

それを見送り、ルルーシュは脱出への糸口を探る思考と別領域でアリスの力──ギアスについてC.C.から訊きだした情報を反芻していた。



「──肉体へ加重力を掛け相対的に超スピードを得る、それがアリスの力か」

「ああ、そうだよ。
ギアスとは理を捻じ曲げる力だとは話したろ? まぁ小難しく考えるな、様は凄い力とだけ覚えておけば間違いじゃないからな」

もう何枚目かようと知れないピザを咀嚼しながら王の力ギアスの概要について話すC.C.。
態度こそアレだが有益な情報である事に間違いは無い、対価を考えれば安いぐらいに。

しかしこう、もう少しこの態度がどうにかならないものかと考える。居候の分際で。
しかしそれよりも、もっとギアスに関して訊きたい欲求が勝った。

「俺がギアスを受け取れば同じ事が出来るのか?」

「無理だ。ギアスは契約者の潜在的な資質が一番に現れる、お前が何のギアスを得るかは私にも今は判らない」

「じゃあ「契約すれば直ぐに判るぞ?」……フン」

その手には乗らんと二の句を止める、今こうして呑気に話をしているだけでルルーシュは己のプライドというプライドをかなぐり捨てているのだから。

ギアスを疑ってはいないが、それを得るかどうかは全く別問題。
要はC.C.個人に対しての信頼度の問題だろう、ならば結果など言わずもがな。

ルルーシュにとって信頼できる人物の内訳にピザが主食な女は存在しない。今も、これからも。

「ありがとうよミザ殿、じゃあな行ってくる。しつこいが出るなよ」

「ああ、行ってこい……ミザ?」

おい待て、それはどういう意味だと騒ぐC.C.を置き去りにしルルーシュは旅立った。



まだ彼らは、彼女が消えた事実に気付けないで居た。

「おい、悪いしょんべん行ってくるわ」

「ああ、早くしろよ」

要所要所に配置された人員、必要最低限度とはいえ素人はおろか優れた軍人でさえ彼らを排除する事なく進む事は不可能だろう───彼女以外には。

ヒュン

「んぁ?……風か」

彼が振り向いた先には誰も居ない、そして背中に赤い点が付けられた事も気付かないだろう。

現時点でその数は10を越えていた。
それを付けた張本人、アリスが死角となる場所に突如として現れメモ用紙に詳細を書き込む。

「……ふぅ、たまんないわね」

人が知覚出来る限界点を遥かに上回る速度で動くアリスによる地道なマッピング作業。

効率は最低、全ての階層を調べる必要が無い事だけが救いだろう。
調べた人物が被らないよう赤ペンで悟られないようマークするのは中々に面倒な作業だ。

それでもやり遂げなければいけない、大事な友人の為に。
もう二度と大切なモノを失わない為に、その為に力を得たのだから。

「コーネリアの性格からして膠着状態が長く続くとは思えない。
最悪コイツらは私達を巻き込んで名誉の玉砕……ったく軍人ってばバカばっか!」

ぶつくさと文句を言いつつ擦れ違う軍人達にマークを刻む、勘の良い人間が何か居た事に気付くかもしれないが……すぐに忘れられる。
目に見えるものだけに注意を払う事は、とても自然な現象だから。

ただ彼らはもう少しだけ注意を向けるべきだった、そうすれば壁や地面に入った真新しい罅痕を見つけられただろうが。

それは、過ぎ去った可能性でしかない。



──────────



「こんな、こんなやり方……!」

真紅の髪と同じぐらいに顔を怒りで真っ赤に染めた少女の怒号が部屋に木霊した。

少女の名は生徒会会員カレン・シュタットフェルト……いや違う、日本人紅月カレン。
くすぶっていた想いを現実のものとする為に行動する事を選び、その為の場所に身を寄せた少女。

しかしどうだ、自分が頼ろうとした組織はこんな非道な行いをするのか? これはブリタニアとやっている事は変わらない、いやさ以下だ。

「バカな、なぜ……!」

しかし、その想いが自分だけのものでは無いという事実が彼女に最後の冷静さを保たせていた。
彼女の前に居る人物達とは数日前に案内されてからの短い付き合いだが、それでも同じ志を持つ仲間である。

彼らを示す名がある、四聖剣。そしてその将『奇跡の藤堂』
初めて会った時は舞い上がった、自分の技量に自信は有ったしどんな人達の居る場所でも活躍できる自負も有った。

しかし奇跡の藤堂だ、日本人なら誰でも……特にレジスタンスならば熱狂的と言って良い尊敬と畏怖の象徴。
厳島の奇跡を起こした誉れ高き軍人。

「キミの噂は訊いている、そして今しっかりと確かめさせて貰った。
何とも心強いものだ」

有無を言わさず行われたKMFによる模擬戦で辛勝したカレンに贈られた讃辞、四聖剣の者達も同様の讃辞をくれた。

一名ほど睨んできたが、自分の実力を彼ら程の方々から褒められた事が嬉しく気にはならなかった。
そう、自分は日本の為に戦えるのだと扇グループに居た頃には味わえなかった確かな実感と満足感が有った。

そんな熱い感情が───冷めかけている。

「どうします藤堂さん、僕達の身の振り方」

「私は反対です、中佐殿の気持ちも理解りますがこれは」

「儂は何とも」

「藤堂さんの指示に従います」

「………………」

暫しの沈黙が流れ、全ての視線が藤堂に注がれる。やがて、ゆっくりと目を開け決意の言葉が告げられた。

「今からでは現場に間に合わん、しかし片瀬殿からの連絡なら草壁殿も真摯に訊いてくださる筈だ」

言い終え藤堂が2人だけを連れ片瀬の元へと向かった、残された四聖剣は食い入るように画面を見つめている。

そして藤堂の答えは、カレンが望んだものと少しだけ……違っていた。
それが、言い表しようも無く寂しかった。

「…………」

握った拳の意味を、カレン自身が理解出来なかった。





[4113] 第15話
Name: G?Say◆d47f5322 ID:9a73e192
Date: 2009/11/03 17:04
状況は絶望的────などでは無い。少なくない割合で俺達は無事に生き残れるだろう。
しかし俺“達”の中に他の人質は含まれていない、それが厄介だ。

アリスの情報に依るが十中八九は他の人質達を犠牲にしなければならないだろう、しかしその場合ナナリーは助かった事よりも助からなかった人質達に対して胸を痛める筈。
それは───選択肢に無い。ああ無い。
だから無茶でも無謀でも全員で助かる方策を考えなくちゃな。そうだろう? ナナリー。





TURN 15 ユーフェミア





僅かな風と共にまるで最初から其処に居続けたかのようにアリスが現れた。目配せをし、胸を抑えるアリスを見て自分の胸ポケットを確認。

其処にも初めから存在したかのように一枚の紙切れが。既に監視の盲点を理解したルルーシュはざっと5秒だけ確認し、細切れにしポケットに直す。

「……よし、条件はクリアされた」

溢れんばかりの感謝を覚えつつルルーシュはある一つのルートを選択した。成功率は100回の試行で90%を越えた、これなら無理はないだろ。そう確信する。

(さて、先ずはコイツらの注意を───)

「い、イレブン」

「! 貴様ァ!」

しかし人生とは須く波乱に満ちているもの、ルルーシュの策は開始前にイレギュラーが発生した事により立ち消えになる。
ニーナだ、イレブンに対して過剰なまでの恐怖を感じる彼女がつい洩らした言葉は、彼らを酷く興奮させる。

心の中で舌打ちし、今すぐ彼らを行動不能にする方法に策を転じようとした考えは「おやめなさい!」またもやイレギュラーによって立ち消える。
声から察するに、どうやら人質の中に肝の据わった女性が居たらしい。

勇敢な事だが、まったく余計な事をしてくれたとルルーシュは苛立ってきた。しかし直ぐに冷静になるべきだと思い直し周囲の音を消し、高速の思考世界へと埋没。

状況把握・終了。
今度は何を変えればいいのかと取捨選択へと移ろうとしたルルーシュの思考は、しかしその声の主によって中断された。

「バカな……!」

驚愕に逸り出した体を静め、今この場で有り得る筈の無い名を発した少女へと振り返る。
だが間違い無い。

あの日から、いやそれ以前から逢えなくなり久しいが見間違える筈もない。忘れる筈もない。忘れようがない。
誰にも洩らさなかった少年時代の淡い恋心と共に、自然と名前が唇から零れた。

「ユ……フィ…………」

か細く喉に阻まれたその音は緊張故か、驚き故か、理由こそ分からないが──大声を上げなかった事だけがこの現状で救いであった事は違いなかった。



「いや~どうやら殿下の作戦も上手くいっていないみたいだね~。
こりゃ僕らの出番も割と直ぐかなぁ、ね、セシルくんどー思う?」

「不謹慎ですよロイドさん!」

「あっはっは!
不敬罪なんて聴かれてなきゃ大丈夫だよ~いざとなったら揉み消してもらえば問題なし、あは☆」

こういう男に権力を与えてはダメなのだとセシルが戦慄している中、一人スザクはランスロットを通じてホテルを見つめていた。いや、その中に居るだろう友人達を。

コーネリア指揮の元、考え得る進入路に対しての再三に渡る試みが行われていた。だが成果は芳しくない。
その特異な立地条件が外敵からの侵入を防ぐ、それを含めて選んだ今回のホテルジャックなのだろう。

そして、今最後の希望路が断たれたとの知らせが全軍に伝わる。それは半ば放置されている特派にも例外では無い。
しかしその通信を受けたロイドは、いやに元気な調子で小躍りし出す。

セシルが入院先の手続きを考慮し出し、スザクも訝しむ瞳でロイドを見る。そこで、思ってもいない報せが届いた事を知る。

『夕暮れと同時に強行突入せよ』

敵性兵器により突入が“不可能”と判断された地下坑道への単機特攻。
囮だ。特派を疎むコーネリアからの裾切りかもしれない。
しかし……

「やります!」

このまま何もせず手を拱いて傍観する選択肢をスザクは選ばない。
いや、選べない。

自身に眠る無自覚な願望と衝動に突き動かされ、遂にランスロットが起動する。



──────────



「すげぇ、俺皇族生で見たの初めてだぜ……」

リヴァルの軽口が何処か耳に遠い。生返事をしつつ状況を再度整理し───凡そ起こり得る可能性をシミュレートしきり、ルルーシュの全身から冷や汗が吹き出していた。


 助 か ら な い


直感的に悟ってしまっていた事実を、それから目を背けようとして考えに考え抜いた結果。
それは何一つ変わらない残酷な事実。

草壁という男をルルーシュは知らない。
だが皇族という切り札を得た草壁がどう扱うかなど思考するに及ばない。
草壁自身は知り得ないだろうがこの切り札はコーネリアに対しては絶大に過ぎる。

コーネリアはユーフェミアを助け出す為にあらゆる手段と出来る限りの譲歩を最終的には受け入れるだろう、最悪人質全てを犠牲にしてでもユーフェミアの助命を乞うかもしれない。
それでは自分達が死ぬ、ルルーシュにとって最も唾棄すべき未来。

勿論ナナリーの生存が最低条件であり絶対条件だ、故に自分達は脱出する。そうすれば草壁はどんな手段に出るか?
繰り返すがルルーシュは草壁を知らない、故に最悪を想定せざるを得ない───つまり、追い詰められた草壁によるユーフェミアの殺害。

それを知ればナナリーの悲しみは、見知らぬ他人の比で無い。それは避けなければならない、だがしかし、ルルーシュにユーフェミアを……ユフィを救い出す力は無い。

「ルルーシュさん、もう直ぐ限界時間です」

「───! あ、ああ」

迫る人質殺害の再開に新たな道筋を考え出す時間も無い。アリスにナナリーを助ける道理は有ってもユフィを助ける道理は無い。
最悪ナナリーだけはアリスの力で助け出せる、ついでに自分も助けてくれるかもしれない。

それだけだ。
それ以上を望むべくもない。ユフィとの関係を、己が皇族であると悟られる訳にはいかない。

「──時間です」

無情にも、ルルーシュに取り得る選択肢は一つしか存在しなくなった。つまり───ユフィを見捨て生き延びる。
ゴリッ、鈍い音と共に噛みしめていた奥歯が砕けた。



「適当な所?───分かりました」

坑道内に響くローラー音、白金の装甲を煌めかせ一騎のKMFが走り出した。ランスロット、現時点最高峰の性能を持つ試作嚮導兵器。

それを駆るパイロット、いやさデヴァイサー・スザク。最大運用可能な彼を以てしても回避率47.8%という敵性兵器。
脱出機構の存在しないランスロットでは、文字通り命懸けのミッションとなる。

そんな最中に居ながら、スザクの心に揺らぎは存在しなかった。不安はない、恐怖もない、躊躇もない、元より戦闘に於いて自身の死をも冷徹に考える彼らしい思考。
しかし、それだけではない。

「ルルーシュ……みんな……」

今までに感じた事のない力が身体中に染み渡っていく様な、不思議な感覚。研ぎ澄まされていく感覚に、騎体を通じて外気さえも感じる様な錯覚。

 カシュン

反響する炸裂音、それに重なる様にランスロットの走行音が響く。進入溝から吹き上がる衝撃波を感じながら、セシルのモニター音声がスザクに情報を与える。

既に中盤まで侵攻したランスロットによって日本解放戦線の注意は此方に集中している。既にコーネリアの目的は達してると言って良い、与えられた役割を遵守するならばこの距離に留まり続け注意を惹く事が最もベストだ。

「………ッ!」

初実戦故のミスか、僅かながら雷光の一撃がランスロットの肩部装甲を穿つ。ロイドが見ていれば叫び出したかも知れないだろう。
だがスザクは更に加速を促す、エナジーフィラーの消耗を考えなければランスロットは更に速くなる事が可能、拡散時の威力がシールドの耐久値以下な事も幸いした。

急速に距離を縮めだしたランスロットの報告が両陣営に伝わる、解放戦線には焦りを、コーネリアには思ってもみない勝機を匂わせる活躍。
だが遂にシールド越しの衝撃でランスロットの機動力を削ぐ程に相対距離が縮まった。

狭まる活動領域、回避率も30%を下回りだした。迷っている暇は無い、今この瞬間にも知らない誰かが……生徒会メンバーの誰かが死んでいくかもしれない。

「セシルさん、此処でヴァリスを使います!」



ほぼ同時刻、見張りを行動不能にして人質達が脱出を試みていた。地下に向かい進む集団、この集団の中核を担う生徒会メンバー。
ユーフェミアの護衛だろう数人とは別れたが、残っている人質達全員が先程までと違う希望に満ちた表情で一心不乱に突き進む。

掴んでいた情報より見回りの数が想定より少ない事も幸いした。何が有ったかは知らないがこの状況は僥倖。不意に遭遇した見張りも、アリスによって音もなく排除される。
幸い趣味で火器の扱いに精通した幾人かに取り上げた武器を持たせてある、もはや人質と言うには少し物騒だろう。

「…………」

全てが順調に動いているというのに、ルルーシュは浮かない顔をしていた。

ナナリーの為だけに生きる。それが自分で決めた自分の進む道。
それに偽りは無い、世界がどうなろうと知った事ではない。けれどルルーシュはもっと、自分自身ですら理解し得ぬ根幹に於いて……甘い。

母を失った瞬間に捨て去った筈の思い出が、すぐ近くに有る。それだけで心がどうしようもなくざわつく。

道ですれ違っていただけならば───どれだけ嬉しかっただろう

テレビで姿を見たのならば────どれだけ嬉しかっただろう

健勝で生活していると風の噂にでも聞けば────どれだけ嬉しかっただろう

ああ、なぜ今なのだ?

「………………」

今、彼女は消えようとしている。殺されようとしている。
結論が出た筈なのに、まだどうにかならないかとルルーシュは無意識に思考を続けていた。

構わない筈だと納得させようとする自分を責める自分が居る。どうしようもないと叫ぶ自分を諫める自分が居る。ナナリーだけを守れればいいと冷めた自分を叱咤する自分が居る。
諦めてはダメだと叫ぶ自分が、助けたいと思う自分が、死なせては駄目だと涙を流す自分が、今の自分を否定する自分が何人も……何人も増えていく。

ルルーシュは馬鹿ではない。この強い思いを持つ自分こそが自分の本当の気持ちだととうに気付いている。同時に感傷に過ぎない事にも。
だけど体は動かない、遠ざかる事を辞めようとはしない。

「あとちょっとエレベーターです、頑張りましょう!」

静かに皆を鼓舞するミレイの声に、静かに湧き上がる歓声。
それに引き擦られる様にルルーシュの思考の海から波が引いていく。

そうだ、もう直ぐ終わるのだ。自分達は助かり、不運な人質が数人死亡するだけの事。
気に病む必要はない、もうとっくに無関係じゃないか、と。

「ルル……顔色、悪いよ?」

「あ、ああ。大丈夫だよシャーリー、ありが……!!!」

ドゴォォォオン!

響き渡る振動に全員が体勢を崩す。
倒れ付した姿勢のまま、この爆音が古い記憶を───とうに引いていた筈の波と共に再び押し寄せるのをルルーシュは感じる。

「……ユフィ」

共に過ごした眩いばかりの記憶が

忘れ得ぬ大切な記憶が

母を失った悲しみの記憶が

日本で過ごした幸せな日々の記憶が

それすらも奪い去った戦争という忌まわしい記憶が

友と再会した時の喜びの記憶が蘇る

「……くそぉッ!」

抑えられない。
一度生まれたこの衝動を直ぐに鎮める事などルルーシュに出来よう筈がなかった……!

愚かだと理解しながらも、草壁やユフィの処へと彼は走り出した。
失いたくないから。



[4113] 特別編 ロリコンのルルーシュ 〜俺はやっちゃいない〜 STAGE 1
Name: G−Say◆d47f5322 ID:4af33f10
Date: 2008/12/15 00:41
  誰が悪いか?

と訊かれれば『俺じゃない』と言おう。喩え信じて貰えなくとも。


  何が原因か?

と訊かれたならば『俺には判らない』と断言する。喩え嘘だと責められようとも。


罪が全て俺に降りかかると言うならば……俺は断固として運命に立ち向かおう。声が涸れるまで無実を叫び続けよう!
そう、これは俺の尊厳が懸かった俺の物語だからだ!!

「人は話せば分かり合える筈です。
先ずはこの縄を解いて冷静に話し合いませんか会長?」

「大丈夫よルルーシュ、あんたがどんな趣味してても……私達は友達だから、ね?」

会長、分かっててからかってるだろ?
笑いが隠せていないぞ……バレバレだこの脳天気生徒会長が!

「ルル……うん、ルルがそういう趣味なら私頑張って胸を小さくするから! 絶食ダイエットするから!」

いやシャーリー……色々とツッコミたいんだが良いだろうか?
絶食をしたら先に減るのは筋肉と水分だからバストのサイズは変わらないぞ? ん?

「ルルーシュくん……ロリ○ンなんだ」

いやニーナ、それは誤解なんだ!
考えてみてくれ、俺がいったい何をした? してないだろう?
これは罠なんだ!

「………………」

そんな目で見るなカレン! 俺は清廉潔白の身であり今回の騒動は事実無根だ!
くそっ、どうすれば信じてくれるんだ。

「へへ、安心しろってルルーシュ……ちっちゃい中等部の娘のリスト後で作ってやっからさ?」

リヴァル……お前がどう足掻こうがお前の恋は叶わないと思うぞ?
裏切り者め……薄情者がッ。会長とのデートのセッティングを二度としてやらんからな!

「ルルーシュ、罪は償わなければいけないんだ。残念だよ」

スザク……お前が話をややこしくしたと気づいてくれ。頼むから。
と言うかお前をこの学園に推薦した奴とやらを連れてこい、殴る!

「お兄様……そういうのは、不潔だと思います」

違う! 違うんだナナリー!!
いや、ナナリーに誤解された時点で俺はもう生きる価値も無い。

クハハハ……そうさ、俺はゴミだクズなんだ死ねば良いんだ。
あぁ、今日は死ぬにはいい天気だ。

「───っ! 俺が何をしたって言うんだァァアアア!!!」

……誰でも良い。

俺には何が起こったのか解りません。

これを見ているあなた、どうか真相を解き明かして下さい。

それだけが……俺の願いです。





TURN EX:1 被告 ルルーシュ





「そう、全てはあの日から始まったのです。
私はあくまでメイド、ですのでルルーシュ様がどの様な趣味をお持ちだとしても……私には……なのに」

そう心情を吐露し泣き崩れた彼女の名は篠崎咲世子。アッシュフォード家付きの名誉ブリタニア人でありルルーシュとナナリーの世話係だ。

当のルルーシュは生徒会室の中央の椅子に座らされ後ろ手にキツく縛られている。
そんな彼を囲む様に並べられた机に生徒会メンバーが座っていた。

ルルーシュを中心にし和気藹々と団欒していると言えば聞こえは良いが、これは紛う事無く裁判である。
但し──弾劾裁判。

被告であるルルーシュに答弁の機会も権利も与えられていない、弁護人も裁判員さえもいない。
無罪など有り得ない、全ての権利を奪われたルルーシュは罪に問われ有罪を言い渡されるのみだ。

ただそれだけの場。
そして言葉が意味を持たない事を、ルルーシュは理解してしまった。
故に沈黙。

「泣いちゃダメ……辛いだろうけど話すのよ。
裏切りなんかじゃないわ、大丈夫! それがきっと、ルルーシュの為にもなるんだから」

「ぐす……はぃ、ミレイ様」

泣き崩れた咲世子を優しく抱き起こしながら裁判は幕を開けた。

第一の証言者咲世子……彼女の発言によれば、全ての発端はアリスとスザクがクラブハウスに泊りに来た日まで遡るらしい。



─────メイドさんは見た─────



「あれはナナリー様やお客様が寝静まった夜中の出来事でした」

その日、咲世子は何時もの様にクラブハウスの見回りをしていた。
静かな夜、誰もが皆夢の中で幸せな一時を過ごしている。そんな彼らの平穏を守り抜く事は義務でもあり咲世子の偽らざる本心でもあった。

そんな夜半、咲世子は一つの人影を見た。
コソコソと周囲を窺いながら、ソロソロと動く一つの人影。
咲世子からすればバレバレも良い所の不審な影は此方に気付く事無くとある部屋に向かい動いていく。

それを見た咲世子は不届き者へ天誅を与えんとその人影を追い掛けたのだが……それがルルーシュだと判ると途端に嘆息する。

ルルーシュが夜中に起き出すのは何も今回が初めてでは無い。
行き着く先は決まってナナリーの部屋であり──今回も彼はナナリーの部屋の扉を僅かに開き中を覗き込んでいた。

溺愛・過保護・シスコン・色々と表現出来る行動だが其処には不器用な彼らしい愛情を感じられる。『いい加減に妹離れをして戴きたいものですね……』そう呟きながら咲世子は自分の職務へと戻った。

そんな、月が綺麗な日だった。


──翌日──


朝食は珍しい事にルルーシュが振る舞った。
別段下手では無く寧ろ上手な彼だが、率先して料理を作るという事はあまり無いのだが。

お客様が来ている事が関係しているのだろうと咲世子は特に不審には思わない。やる事を奪われた不満を少し零すぐらいだ。

しかしその朝食に於いて咲世子は最初の違和感を覚えた。
ナナリーを見つめている事はおかしくは無い、目の不自由な彼女は極偶にだが食材を落としてしまう事がある。そんな彼女を甲斐甲斐しく補助する為に注意は怠らない。

故にそれは全くおかしな事では無いのだが、そんなナナリーの隣に居るアリスをも見続けている事はおかしかった。
溜め息混じりなその表情は、初めて見る姿だった。

『…………?』

何時もならば横で一緒に食べている立場が奪われた事による小さな嫉妬から来たものだと、咲世子は好意的に考える。

昔から随分と落ち着いた人間だったが、こういった可愛らしい部分も間々ある。
それを久々に見れたのだと、そんな風に軽く考えていた。


──夕食前──


気にし過ぎだろうか?
どうにもルルーシュがアリスを見つめている視線に熱が篭もっている気がした。

その日は午後5時前にはアリスは帰宅したのだが、朝食後も昼食時もおやつの時もスザクと話している時でさえずっと注意を向け、時折じっと見つめていた。

流石に鈍い鈍いと定評のある咲世子の脳みそにもピンと来るものがあった。『恋ですねルルーシュ様、わかります』そう断定した彼女はニヤニヤとルルーシュの恋模様を見守る事に決めた。

そう、そんな微笑ましい日常の一ページの筈だったのだ……。


──翌日──


アッシュフォード学園内にて盗難騒ぎが起こった。
被害者は多岐の学年に渡り種別を問わず様々な物が盗まれていった、その被害者の中にはアリスの名も刻まれていた。

『ナナリーは何か失くなってない?』

『うん、私は……アリスちゃんは?』

『最悪! 体操着が失くなってたわ、もう……何処のどいつよ』

金品や女生徒の衣服がかなりの数奪われていたが、その事件は即日で解決される事となった。
学園外周部に備えられた監視カメラが侵入する泥棒の姿を映し出していたから。

紛失した幾つかの品も彼の自宅にて発見されそれが決め手となり、彼は逮捕された。
しかし幾つかの紛失品……特に衣料品に関しては終ぞ見つからなかった。

妙なしこりを残しつつも事件は終わりを迎えたのだ。誰もがそう感じていた。


──数日後──


最近、ルルーシュの動向がおかしい。
挙動不審を絵に描いたようなルルーシュの姿は、とても妙だ。彼らしくもない。

しかしそれを問い質したりはしない。
自分はあくまで世話係であるのだからプライベートに口を出すのは憚られる。

そんな思いを抱えながら咲世子はその日クラブハウスの掃除をしていた。
身綺麗に部屋を使用するルルーシュや余り部屋を散らかさないナナリーの部屋でも月に一度は掃除をしている。

こまめに変える枕やシーツ以外に、何時もならしないタンスやベッド下も丁寧に埃を拭き取る。
段々と輝きを増してくる部屋を見る事はとても楽しい事だ。

『ん……あら?
何でしょうかこれは』

そんな中部屋の隅に無造作に置かれている服を発見した。特に不審には思わなかった、珍しい事だと思いつつ拾い上げ皺を伸ばす。

だが……ふと二度目の違和感が咲世子に訪れた。
サイズが小さいのだ、ルルーシュのものにしては。その時は『サイズ違いを買われてしまったのですね』程度に思ったのだが、よく見れば男物とは明らかに違っていた。

妙な不安感に襲われ、他にも置いてある衣服を掴み確認する。
そのどれもが、女物の服ばかりだった。
サイズに統一性は無いが同一デザインのそれらを見比べるにつれ、咲世子はある一つの確信を抱いた。

『コレは…………まさか』

何処かで見た事があるそれらの正体、それは先日盗難騒ぎで紛失していた筈の女生徒の衣服だったのだ。

そうして咲世子の脳裏に次々とピースが埋まっていく、何ら関係ないと思っていた全てが──真剣にアリスを見ていた事──夜な夜なうろつく謎──挙動不審な態度──部屋から発見した衣服──急速に繋がり完成した真実という名の一枚絵、そこに至り咲世子は驚愕の余りへたり込んだ。

そう、彼女は主人の罪を悟ってしまったのだ。



──────────



「……以上が私の見聞きした全てです」

泣きながら語られた一部始終に皆聴き入った。
ある者は涙を流し、ある者は軽蔑の目を、ある者は面白そうに笑い、ある者は同情の目を。
そしてルルーシュは不服そうな目を。

このメイドは何処まで本気で自分が犯人だと思っているのか疑いの目を向けるも、主人からの裏切りを責められていると感じますます咲世子は涙ぐむ。
天然に何を言っても無駄だな、とそっと溜め息をついた。

「完璧な物証と其処に至るまでの動機、これでルルーシュの有罪はほぼ確定したわね」

ミレイが芝居染みた調子で全員に語り掛ける。
深い頷きと共にシャーリーが溜めていた涙を流し、カレンの視線が益々強くなる。

しかし神はルルーシュを見捨てていなかった。

「でもその窃盗騒ぎがあった日ってルルーシュさんにはアリバイがあるんですよね?」

そうアリバイ。
完璧な物証と、完璧なアリバイ。

両立する筈の無いこの2つをルルーシュは持ち合わせているのだ!
故にルルーシュは無実を確信しており断固として罪を認めたりはしない、しかしそれすらも打ち砕かんとミレイは第2の刺客を放ってきた!

「そうね、けれどスザクくん……アナタの出番よ。証言してくれるわよね?」

「はい」

ガタリと音を立て立ち上がるスザク。
そう、ルルーシュのアリバイを成立させる人物にして───最もルルーシュを疑う者。

そんな彼の様子を見て溜め息を吐くルルーシュ……どうすればこの親友(と書いて大バカ野郎)を止められるのか。

ミレイが本気で自分を疑っている訳ではなく、故に繰り広げられている茶番劇が終わる前に何とかして全員を納得させる答えを出さねばならない。難しい事だが、最低でもナナリーへの誤解は解かなくてはならない。

誇張ではなく“ 死活問題”だ。

そうして、ルルーシュは深く深く……意識を思考の海へと沈めていった。

「あれは……僕が学園に来てまだ日が経っていない頃の話です」



To be continued ......





[4113] STAGE 2
Name: G−Say◆d47f5322 ID:bd71945f
Date: 2008/12/22 15:13
「本当は信じていたかった……けれど、僕がどうしても疑いを拭えない事件が起きてしまったんです。
それを皆さんに話したいと思います」





TURN EX:2 7年前のあの日から





どういう経緯か判らないが学園へと入学してきたスザク。
名誉ブリタニア人である彼に殆どの人間は距離を置いて接していたが、ルルーシュを初めとした生徒会メンバーには快く受け入れられた。一名を除いて。

生徒会が率先して友好を示した事により若干名だがスザクに話し掛ける人間も出た、これはスザクにとっては予想外の事で思わず笑みが零れた。

昼過ぎには物珍しげに教室外からスザクの様子を窺う人影も増えた、中にはルル×スザクだとか総受けヘタレ攻めなど意味不明な単語を繰り返す女生徒も居たと記す。

放課後になると『副会長として転入生兼新生徒会メンバーを案内する義務があるから』との名目でルルーシュがスザクを連れ出したが、体の良いサボりの口実半分だったと後に語っている。
訝しがる視線等に晒されながらも、ついでだからと中等部へと案内した。

丁度クラブハウスに向かおうとしていたアリスとナナリーも連れ、ゆっくりと校舎を眺めていた時だ。スザクがルルーシュに不審な態度を感じ取った最初の瞬間は。

「……ルルーシュ!?」

「───! あ、あぁ何だよスザク?
いきなり大声を出すなって」

特に大声を出していたつもりは無かったスザクは妙に思いながらも謝罪した。
しかしこの日ルルーシュの調子は何時まで経ってもおかしかった。

じっとアリスを見つめて何かしらを考えている様子のルルーシュ……細く絞られた瞳の奥にはギラギラとした輝きをも感じさせる。

こうなってしまった時の彼に何を言っても無駄だと知っているスザクは押し黙った。
しかし後に、この時何を悩んでいるかをしつこく問い質しておけば良かったと後悔する事になるとは……この時の彼に知る由もなかった。



─────友として、人として─────



おかしい……どうにもルルーシュの様子が変だ。常に上の空というか、心此処に非ず。

授業中もしきりにぼーっと首を傾げてあらぬ方向……いや中等部校舎の方角を気にかけているし、チラチラと携帯を頻繁に覗いては溜め息ばかり付いている。

何があったんだろうか……ナナリーも何時もと違う様子のルルーシュを心配している。
そんなナナリーの不安気な様子にも気付かないなんて、ルルーシュらしくない……本当に何があったんだろうか?

僕にも何か出きるかもしれないし訊いてみようか、余計なお節介かもしれないけど──ん、特派からの集合要請。

……仕方ない、明日になったらそれとなく訊いてみよう。
大丈夫さ、ルルーシュなら悩み事なんて直ぐに解決する筈だから。



──翌日──



朝教室に入るとルルーシュの姿が見えなかった、リヴァルから今日は風邪を拗らせたらしく休むと訊いて少しがっかりした。

まぁいいさ、帰りにお見舞いに行こう。
そうさ焦る事なんて無い……大丈夫、ルルーシュはルルーシュなんだから。

「ねぇねぇスザクくん」

ふと頭を上げるとシャーリーが居た。
少し元気がないけど何でだろうか、元気付けてあげたいけど僕はあまり彼女を知らないからな。

ん?
うん今日は暇だよ、何?

え、ストーカーに? 誰が……アリスさんが?



──その翌日──



ここ最近だけど自分を尾けてくる人物が居るらしい、最初は気にしすぎかと思ったけど視界の影に誰かが動く姿が見えるそうだ。

それも学園内に居る時に限って……流石に気味が悪くなったらしくシャーリーに相談して、人手が欲しいらしく僕を含めた生徒会メンバーに助力を求めてきたそうだ。

つまり内部犯行の可能性が高いという事、同じ生徒を疑うなんてしたくは無いけど社会のルールを乱す事はダメだと思うから。

「どう、スザクくん……それらしい人影は見えた?」

「いいえ、まだ誰も」

シャーリーとリヴァルとニーナが監視隊、僕と会長が実働隊としてアリスの護衛に当たっている。
ルルーシュは居ない、まだ体の調子が悪いそうだ。心配だ。

それから暫く警戒していたんだけど、どうやら犯人は勘が良いらしい……今日に限ってまったく姿を見せない。
諦めて撤収しようと会長が気怠げに宣言した時、僕は偶然にも何者かが校舎の影に隠れるのを発見した。

「待てッ!」

直ぐに走って捕まえに行く、もし勘違いなら謝罪すれば良いし犯人なら見逃せない!

僕が近付く事が分かったらしく慌てて走り出したその人物を追い掛け肩を捕まえ振り向かすと───それは何とルルーシュだった。

「ルルーシュ? どうして、体調が悪いんじゃ」

「───い、いやな、ナナリーからアリスがストーカー被害にあってるって訊いたから。
俺も、ホラ同じ生徒会メンバーとして、だな?」

───今なら分かる、僕はこの時にルルーシュを疑うべきだった。

「そっか、それなんだけど今日は見つからなかったんだ」

けれどその時の僕は、ルルーシュが無理を推してまで学友の為に頑張っているのだと感心してしまった。
何てバカなんだ、少し考えれば気付けた筈なのに。

そしてストーカーは、この日を境に出現しなくなった。
それをシャーリー達は一層不気味に思ったけれど、僕はその理由に薄々とだが気付きかけていたが黙殺した。



──数日後──



昨日学園内で泥棒騒ぎが起きた。
直ぐに捕まったらしいけど、まだ発見されてない一部の物があるそうだ。

問い詰めてみても『俺はそんなもん盗んじゃいねえ!』の一点張り。
無論、誰も信じる者はなく彼は警察に引き渡される前に複数の女生徒達からひすらに殴られたり蹴られたりした。

何故か顔が苦痛ではなく愉悦に歪んでいたと、此処に記す。
それにしても何故あんなに幸せそうだったのだろうか……アレがブリタニアの文化なのだろう。

騒動が起こった時僕とルルーシュは猫を追い掛けていて全く気付かなかった、騒ぎを訊いて直ぐにナナリーの所に駆け付けにいった姿に少しだけ苦笑した。

7年前も相当だったけど、ルルーシュのナナリーに対する可愛がりは今も益々強くなっている。
流石に兄妹愛なんて禁断の関係に陥る事は無いと思うけど、ちょっと心配かな。

あぁそうだ、どうやら悩み事は事故解決したらしく最近は普段と全く変わらない様子だ。
結局何を悩んでいたかは判らないままだけど、うん良かった。



──数日後──



……嘘だろルルーシュ?

会長が全メンバーを緊急召集して行われた生徒会会議にて取り成された一つの議題、僕は頭にトンカチを叩きつけられたかの様な衝撃を感じていた。

全員とは言っても此処には1人だけ足りない人物が居る、それもその筈今回の議題にて問題となった人物──下着泥棒の容疑者──ルルーシュ。

僕は断固として異議を唱えた、何故なら僕はルルーシュが犯行時間に一緒に居たという確たる証拠を持っていたから。
それはナナリーも知っているし証言してくれるだろう……だがメイドの咲世子さんから語られた一部始終に僕の決意は覆された。

思えばここ最近のルルーシュの様子は確かにおかしかった。
仕切りにアリスさんを気にしたり悩みを抱えていたり、そうかと思えば急に気にしなくなったり。
そして時期を同じくして発生した一連の事件……そうして僕は最悪の可能性に気付いてしまう。


ルルーシュは本当に犯人で……しかも……ロリコンなのかもしれない


そう考えれば、それを肯定する要素は7年前から既にあった気がする。

その頃からルルーシュは幼いながらに立派な男だった、沢山の悲劇に巻き込まれても不満も言わずナナリーを懸命に支えている優しい男だった。
僕はそれを肉親故の愛情だと思っている──思っていた。

しかしだ……もしあの時からルルーシュは特殊な性癖の持ち主だったと考えれば──動機が生まれる。

そう、なまじナナリーに対する愛情の注ぎ方が生半可では無いが故に僕は……僕達は見落としていたのかもないんだ。

高等部と中等部での被害割合は2:8で圧倒的に中等部だ、そしてしきりにアリスを見つめたり中等部校舎を眺めていた様子、今回犯人を発見した監視カメラはルルーシュの指示で設置・増設されたらしい────考えれば考える程にルルーシュの犯行を否定する要素が無くなっていく。

「スザクくん、アナタに頼みがあるの……」

茫然としていた僕に会長からルルーシュの捕縛命令が降りた。

僕は、僕は友達を裏切るなんて──いや違う!
ルルーシュが道を間違えているのなら、それを正すのは僕の役目だ!


──そして僕は今、ルルーシュの部屋の前に立っている。


「どうしたんだスザク、何か用かい?」

「ルルーシュ、答えてくれ!」

「は? あぁ、何だよ」

「僕達は友達だよね」

「……あぁ、7年前からずっとな」

ガシッ!

「ぐ……スザク…………何を……」

「───赦しは乞わないよ、ルルーシュ」

腹部を殴り気絶させたルルーシュを背負い、僕は彼を生徒会室へと連れて行った。
カチャリと落ちたルルーシュの携帯を拾い上げると其処には複数のフォルダがあり───アリスさんを盗撮したらしき角度の画像が幾つも存在していた。

疑いは半ば確信に変わったが、それでも僕もまた罪人である事に変わりはない。裏切り者だから。
恐らく僕は地獄に堕ちるんだろう……それでも構わない。

友達を……ルルーシュを必ず僕が更正させてみせる!



──────────



「辛いわよねぇ……親友を疑わざるを得なかったんですもの。
もう、泣いて良いのよ?」

「ぐっ……す……すぃません! ぅぐっ!」

スザクの話に感化されてか、さめざめと泣く生徒会メンバー達。

ルルーシュはそんな中でも微動だにしない。
外部情報は頭に入ってくるがいちいち取り合っていたら埒があかないからだ。

「どうルルーシュ、もう大人しく罪を認めたらどうなの?」

「…………」

「ふっいいわ、アナタがそこまで自分の罪を認めないって言うんなら私にも考えがあるわ!」

勿論ルルーシュは何も反応していない。
レイが好き勝手に場を煽っているだけだ。

無論そんな事ぐらいルルーシュは元より気付いているし、アリスとリヴァルも薄々とだが気付きかけている。
が、敢えて何も言わなかった。

真剣に兄の罪を嘆き何とかスザクと共に兄を真人間にしようと考えるナナリー、愛はパワーで恋は盲目を地で行く趣味に関してとやかくは言わないわ!なシャーリー、とんだ変態野郎だったわね実は前から怪しいと思ってたわ…なカレン、早く帰って宿題がしたくなってきたニーナ。

場の混迷は、益々に極まりルルーシュの人生も窮まっていく事に。
果たして彼は己の無罪を証明し、未来を勝ち取る事が出来るのか!?


to be continued......





[4113] STAGE 3
Name: G−Say◆d47f5322 ID:02576504
Date: 2009/08/20 11:25
「…………」

状況は理解した。要するに身から出た錆。
成る程、確かに傍目に考えれば俺はいかがわしい行為をしていた様に見えたのだろう。否定はしない……が、後ろめたくなどは無い。

無実だからな、しかし───1つだけ引っ掛かる。
殆どの証言はどうとでも取り合える曖昧なもの、茶番劇とはいえ其処を指摘すれば不愉快な結末となるだろうが無実は証明できる。

けれど証拠、唯一証拠だけがいやに現実的かつマトモ過ぎて厄介だ。

 『先日盗難騒ぎで紛失していた筈の女生徒の衣服……』

幾ら会長とはいえ俺の部屋から衣服類が見付かった事実は無視出来まい、そして此処にいるメンバーの中で最も懸念すべき人物───リヴァル。

会長はああ見えて口は固い、シャーリーも黙ってくれるだろうしニーナはべらべら喋るタイプでは無い、カレンは微妙な所だが……俺の読みが正しければ問題ない、スザクやナナリー……には……くっ大丈夫だ。大丈夫じゃないが大丈夫だ!

だがリヴァルお前はダメだ

先ず間違いなく言いふらす、それも最初から誇張した内容でだ。悪気はないだろう、話のタネ程度で喋るだろうさ。


だ か ら タ チ が 悪 い


普段は口が固いヤツだが内容にもよる、そして今回の出来事はほぼ間違いなくアイツにとって話しても“可”である。

拙い、非常に拙い。

誤解云々の前にこれだけは紐解かねばいけない──思い出せルルーシュ──真実は何気ない日常に隠れ潜んでいる筈なのだから。

誰だ、俺を破滅(ハメ)た奴は!





TURN EX:3 油断 大敵





「…………拙いな、非常に拙い」

「ニャ?」

「まさかこの私がリアルに服を買いに行く服が無いです状態になるとは思わなかった」

「ニャア」

口元にべったりとチーズを付け、服には真新しい汚れが付着している彼女の名はC.C.
チーズくん人形が既に二桁に移行しようとする程のピザ大好き女。

普段から歩きつつ食べ、ベッドに横たわりながら食べ、朝食の後に食べ、昼食の後に食べ、勿論三時のおやつとして食べ、夕食後にも食べる程度に大好きだ。
言うまでもないが食事は全てピザだ。

だからだろう、うっかり服にこぼしてしまうのは遅かれ早かれ必然だった。無論、勿体無いので舐めた。

「うぁ、ベトベトするな……おいルルーシュ!」

「なんだ」

「私に服を買ってこい」

「知るか」

あまりに素っ気ないルルーシュの態度に少し苛つき気持ち目つきを鋭くし顔を見た。
そこにはブツブツと呟きながら幾枚かの写真や数個のモニターをチェックしているルルーシュの姿があった。

何処となく鬼気迫るというか、いや……ハッキリ言えばキモかった。
理由は知っているし、そもそも自分が焚きつけたようなものだが、それでも1人の少女を『フヒッ…フヒヒッ……!』と眺め続ける姿はキモかった。

「…………」

関わらないでおこう。
何故かすんなりと納得し距離を開け蔑む眼差しを向けていると、突如として天啓が訪れた。


今 な ら 外 に 出 ら れ る ん じゃ ね ?


絶対の安心の形を取るためルルーシュの周りをぐるぐる回ったり、ワザとバタバタ足音を立てたりした。
流石に気付くだろうと思いつつタバスコを全力で! 振り掛けたピザを食わえさせたが淡々とモグモグ食べるだけでロクな反応が無い。

完全に意識散漫な状態であると確信しC.C.は一言だけこう伝えた。保険に冷たい水をコップに入れてから。

「そうか、なら勝手に外出するが構わんよな?」

「ああ」

「1日5ピザ頼んで良いよなぁ?」

「ああ」

「お前はナナリーに性欲を持て余すよな?」

「それは無い」

どうせ聞いていないだろうと確信したC.C.はしっかりとボイスレコーダーに証言を吹き込み扉を開ける。
相変わらずナナリーに関する質問だけは完全に理性を保っているのがつまらないと言えばつまらなかったが。

言質は取ったぞと言わんばかりにニヤニヤしつつ、一匹の猫を連れて扉を閉めた。
尚この猫が後に妙な事態を引き起こすのだが、あまり本筋に関係はない。



─────お散歩しましょ─────



「……ふふっ、私は自由だ!」

「ニャア!」

久しぶりに平日の昼間から呑気に歩ける事に相成りC.C.は少し浮かれていた。しつこいぐらい止めてきたルルーシュも今や別件で気も漫ろだ、この期を逃すワケにいかない。

ルルーシュのキャッシュカードも持ったし、小洒落た服を買うなどのショッピング三昧も悪くはないだろう。
別に年中拘束服で暮らしても一向に構わん! な気質だが、これでも服には拘るタイプなC.C.だった。

しかし何事にも順序がある。先立つモノは持ったがまだ足りない、ニートとフリーターを別つとも言われた至高の存在……外出するための服である。

「さて先ずは服の調達だ、しかしどうすれば良いのだろうか咲世子のはぶっちゃけサイズ合わないし……と思っていたらおおっと!? 何故かルルーシュが調べ上げた中等部各教室の時間割りと監視カメラの死角と教師の巡回ルートが有るではないかー」

「ニャ〜」

普段は絶対にしない妙な小芝居や棒読みをするぐらいに外出とは気分が良くなるものらしい。仕方ない事だ、C.C.はニートでは無い。
咲世子に服を買わせれば良いだけの話だったが、敢えてその選択肢を無視しているのだ。

では早速借りパク……もとい一時レンタルといこうか! と歩き出すC.C.。
残念ながらツッコミはいない、C.C.はサクサク進む。止める者などいない。止まらない。
誰も居ない教室に入る、残念ながら若さ故の情動に突き動かされた先駆者の姿は見掛けない。

少し残念に思いながら物色開始。

「最近の娘は発育が良いな、私の若い頃は……いやいやまだ若いがな? 何故なら私はC.C.だからだ!」

「ニャ?」

お供を引き連れたC.C.は変なテンションを持続させつつ目に入った衣服を片っ端から取りつつ校舎内を進んだ。
お子様なサイズから自分よりも上等なサイズの服も全て。

ルルーシュの資料の効果は素晴らしい、誰一人会う事もなく無事にC.C.はルルーシュの自室に戻ってきた。無論、ルルーシュはこんな目的の為に作成したワケではない。

尚、このデータは気を利かせたC.C.が削除しておいたが万が一残っていたらルルーシュは今頃問答無用でぬっ殺されていただろう。

「ただいま」

「ああ」

無造作にバラまき、上下のサイズがピッタリ合うものを探してゴソゴソと着替える。横で見目麗しい美女が居るにも関わらず微動だにしないルルーシュは如何なる賢者だと此処に第三者が居れば思っただろう。
C.C.が偶にルルーシュに似合ってるかを訊くも、返事は曖昧だ。少しおもしろくない。

気分が良かったので制服を着くずしながらベッドで横たわり「や、優しくしてね……?」と潤んだ目と甘えた声を出したがスルーされた。少しプライドに傷が付いた。
これだから童貞坊やはイヤなんだ……と愚痴り、C.C.は中等部制服を今度はキチンと着こなし街に出掛けていった。

「留守を頼んだぞ猫よ」

「ニャッ!」

この時ルルーシュに少しだけ余裕が有れば以後の事件は起きなかっただろうに……哀れ。
そしてルルーシュの記憶にこの一連の事態は、何一つ記憶されてはいなかった。

「………………」

それから数十分後、ルルーシュの資料(隠し撮り写真)を食わえた猫が学園内を縦横無尽に暴れまわり、猫にアーサーの名前が付けられる事件が起きた。



─────覚醒剤<(越えられない罪の重さの壁)<性犯罪─────



「スザクさん、お兄様は大丈夫なのでしょうか? 社会復帰は可能なのでしょうか?」

「大丈夫だよナナリー! 確かにルルーシュの行いは許されないけど、だからって真っ向から趣味を否定しちゃいけないんだ。
僕達が理解してあげるんだ、ルルーシュの事を、ルルーシュの思いを……それからだよ」

ただ2人だけ悲壮的にルルーシュの今後を話すスザクとナナリー。
もはや彼らの中でルルーシュの罪は決定である。無罪なんかあるワケないだろ常考。

「すいません、これから約束があるので……」

私用のあるカレンだけが帰った生徒会室の中は、依然として容疑者ルルーシュとミレイ率いるメンバーの対立が深まっていた。しかし既に纏まりはない。

「胸……いらない……ご飯減らそっかな……そうしよ……」

スタイルが良いのが密かな自慢だったシャーリーはどうにかしてアリスの様な幼児体型(失礼)になれるかを考えつつ、想い人の心を惹き付け(勘違い)たアリスに密やかな憎しみと殺意をたぎらせながらブツブツと今後の予定を考えている。

「ねぇミレイちゃん、帰ってもいいかな?」

ニーナはルルーシュと距離を置いて接しよう、趣味以外はマトモだもんねと気持ちを完結し傍観状態。早く帰りたい。ひたすら帰りたい。

「ん〜ちょっち待ってね? 今ルルーシュに判決を下すとこだから」

ミレイは、さてどうやって終わらせようかと考え始めたものの、もうルルーシュが性犯罪者で良いんじゃないかしら? とも真剣に考え始めている。

「ふっ、俺という親友を持った事を感謝するがいいぞルルーシュくん!」

ルルーシュお勧めのリヴァルは早速ルルーシュ好み(勘違い)の中等部女生徒のリストアップ作業に余念がない。ある意味で今一番生徒会業務を遂行していると思って間違いではない。

「……どうしよ」

アリスは無罪を信じてはいるもののルルーシュへの疑いを拭い切れていない為に口を挟めなくなっていた。

「も、もしかしてお兄様は私の事も、その、そ、そういう感情で……///」

「いや、それは違う! ……筈! ……だったらいいよねっ!!?」

スザクとナナリーは言わずもがな。
ルルーシュは至高の迷路に陥り逆転の布石や材料もロクに出せない。

そして────いたずらに時だけが過ぎていった。


「…………」

そんな生徒会メンバーを外から見つめる視線が1人、誰だ?

「……なんだ、私は知らんぞ。うん」

犯人だ。
“借りた”服も直ぐに返す気だったが完璧に忘れていて、しかも同時刻に泥棒が入っていたらしく大騒ぎになって学園内に入れなかったのだ。

こりゃマズいと思い、なんとか服だけでも回収しようと後日クラブハウスに入った瞬間に咲世子に抱きつかれ「ああC.C.様、私はどうすれば!」と泣きつかれ、急いでいたので鬱陶しくなり「お前の雇い主に聞けばいいだろうそんな事は」と何も考えずに答えてしまいアウト!

せめて話の内容を聞いていればこんな大袈裟な事態に発展しなかっただろうが……後悔先に立たずである。

「……教えてくれチーズくん、私はどうすればいい?」

「…………」←チーズくん人形

「アーサーは何も答えてくれない。教えてくれチーズくん、私はどうすればいい?」

「C.C.ちゃんは悪くないよ、だから帰ってぼく達と遊ぼ!」←チーズくん(C.C.裏声)

「そうだな! チーズくんが言うんだ、うん、間違いない!
ではなルルーシュ……安心しろ、私はお前の味方だからな!」

カチャリと僅かに開いたドアを閉め、いそいそとC.C.は買ったばかりの服を翻しながら自分に充てがわれた部屋へと戻っていった。

唯一の無罪証人と真犯人は消えた!

もはや万事休す、明日から生きていくのが辛いです状態に追い込まれたルルーシュが見せる最後の逆転劇は有るのか?!

はたまた園内中の生徒から軽蔑の眼差しで見られながら卒業まで暮らすしかないのか?!


to be last continued......




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