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[15727] とある風紀の矛盾回路 【とある魔術の禁書目録】【とある科学の超電磁砲】
Name: 猫世◆ccb0c5e0 ID:f6c4f25d
Date: 2010/01/20 08:18

皆さん、どうも初めまして。猫世(ねこぜ)と申します。
ライトノベル作家を目指して、執筆する日々を送っていたのですが
修行が必要と思いまして、修行の意味も込めて、
--そして二次小説を書きたいという衝動が止まらなかったので!!
今回『とある魔術の禁書目録』並びに『とある科学の超電磁砲』の二次小説を書き始めました。
第三者視点で書くという自身初の試み(挑戦)。
個性あるキャラクターを創造する力を養う意味も込めて、主人公はオリジナルキャラとしておりま

す。
原作に登場する物語と、独自の物語を織り交ぜて展開していこうと計画しています。

まずオリキャラが主人公という時点で萎えたという方、申し訳ございません。
ですが、一度でも目を通して頂ければ幸いです。

厳しい意見等も大歓迎です。
猫世さんは決してMではありませんが、それが自身の向上に繋がるのであれば
何時だってドMになろうと思います。

一言だけの感想でも頂ければありがたいです。
更新速度は遅くなるかもしれませんが、今後ともよろしくお願い致します。

2010年1月18日。

短い序章だけで本文を投稿せず、「せめてある程度の量の文章を書いてから投稿を」という
指摘を受けましたので、一度削除させて頂きました。
指摘していただいた方、ありがとうございます。
また、序章の書き方としての意見を下さった方もありがとうございます。

書き直し、ある程度の文章量を持った一話が出来上がりましたので
改めて投稿させていただきます。

2010年1月20日。



[15727] 1/序章 とある少年の一面 [一部改訂版]
Name: 猫世◆ccb0c5e0 ID:f6c4f25d
Date: 2010/02/05 12:59
1/序章 とある少年の一面


「あ~る~はれた~ひ~る~さがり~いちば~へつづ~くみち~♪」

 高校制服を身に纏った十五、六歳程の少年――七代歪(ななしろひずみ)は、まるでその
曲調とは正反対に、陽気な声で歌を口ずさんでいた。その調子の外れた歌に、そしてその声
とは正反対の表情に、すれ違う人々は首を傾げたり、変人を見るような視線を送ったりして
いる。
そんな周りの学生の反応など気にも留めず、肩に届きそうで届かない髪とは反対側――短く
切られた左側頭部をポリポリと掻きながら、歌の続きを紡いでいく。

「に~ば~しゃ~が~……って、やっぱ明るく歌ってみても気分は晴れんねぇ……」

 そもそも曲の選択に問題がある事に気付いていない七代は、顔に憂鬱の二文字を貼り付け
たまま、のっそりと歩いていた。
 ――そう、こんな気分になったのも全てはあいつらのせいだ! と七代は内心叫ぶ。
 クラスの友人達である三バカ『デルタフォース』の騒ぎに巻き込まれ(普段は煽るだけで
その後は傍観)、鉄壁の女こと吹寄制理に文字通り鉄拳制裁を受け(普段は傍観しているだ
けに見えるので受けない)、授業を全く聞いちゃくれない事に、どう見ても十二歳くらいの
少女にしか見えないクラス担任である小萌先生が涙目で訴え、大多数の刺すような視線を受
け、再び吹寄によって鉄拳制裁を受けた。
 そもそもの原因である(と七代は考えている)三バカ『デルタフォース』に対し、まるで呪
詛のようにぶつぶつと何かを呟いているその姿は傍から見ても良くて根暗、悪くてキチガイ
さんだ。

「のわっ!」

 俯きながら歩いていた為、七代は急に視界に入ってきた物体にギョッとして、思わず後ず
さった。
(なんだ、なんだ?)
 わずか数瞬で焦点を定めてしっかり見てみると、それは単なるドラム缶のような――自動
清掃ロボだった。
 なんだただの清掃ロボか、と清掃ロボの進路から外れるように横に数歩移動し再び歩き始
めた。
 この街――学園都市は学生が多数住んでおり、街には先程の自動清掃ロボのような大学生
や研究者の実験品がそこら中にある。東京西部を切り開いたこの都市は、外周を高い塀で囲
んでおり、科学技術の流出を防ぐ為にも入出の際にも様々な審査が必要となる。超能力が一
般科学として認知され、科学技術が一歩どころか数歩進んだこの都市と外では、文明レベル
に二十から三十年程差があるとされている。
(だからこそ、外から子供の見学が来たりするんだよねぇ)
 七代の視線の先には保護者同伴の元、この街に見学に来た子供達の姿。ツアーガイドさん
がはしゃいでいる子供達をちょっと慌てながらも落ち着かせようとしている懸命な姿がちょ
っと微笑ましいシーンだ。
 しかし、その様子を七代は何処か冷めた目で見つめていた。

「全く……あの親御さん達は能力開発がどんなもんか理解しているのかねぇ」

 七代はやや大げさに溜息をついた後、視界の端に目敏く見つけたクレープ屋に足を進めた。
 甘い物が大好きな七代は、とりわけクレープが好物だった。若干ながら列が出来ており、
わざわざ並ぶのも億劫だったが気分転換に、と列の最後尾に立つ。
 何となく横目で再び子供達を見やり、そして前へ戻そうとした途中で、七代の視線は止ま
った。その視線は一人の女の子――いや、その女の子の首から提げられた十字のアクセサリ
ーに向かっていた。

「十字架……」

 思わず七代は口にした。何処か切なさを含んだ吐息混じりの声で。
 この学園都市は、科学で立証できないオカルトは批判・非難する傾向にある。科学の最先
端をいくこの街で、科学的以外の見解で示す事は無いといって良い。宗教的な学校も在るが、
それも科学的見解を用いて、というルールの下で成立しているものだ。
 しかし、学園都市の学生である七代は、オカルトという存在を肯定した上で、そう呟いた。
 七代はただ、一般的に知られざるあるモノの事を知っていたに過ぎない。
 七代は懐かしい情景を思い浮かべた時のような、それでいて悲観に暮れた人間が作ったよ
うな笑みを浮かべ、その笑み一つで己の思考を遮断した。
 既に視線はクレープ屋へと移されている。元々列は長くはなかったのでもう少し待てば目
的のものを買えそうだった。暇つぶしに脳内一人しりとりにでも洒落込もうか等と考えてい
た矢先に聞き覚えのある甘ったるい声が七代の耳にツンっと入った。
 思わず振り返った七代とその後ろにいたロングストレートの黒髪を持つ女子中学生の目が
合う。女子中学生はどうも急に振り返った七代に困惑・びっくりしている様子だった。

「……あれぇ? 確かに花さか天使・初春の声が聞こえたような気がしたんだけどねぇ」

 え? とその中学生が声を上げると同時に、その後ろに佇む茶髪の女子中学生の更に後ろ
からひょっこりと花飾りをつけた頭部がひょっこりと現れた。

「あれ? 七代先輩。七代先輩もクレープ買いに来てたんですね」
「おぉ、初春。奇遇だねぇ」

 七代の聞き間違えなどではなく、やはり『風紀委員』(ジャッジメント)第一七七支部の
同僚である初春飾利が其処にいた。
 風紀委員とは、学校内の治安維持を目的とした学生による治安維持組織である。本来学校
別に独立した構成である為、七代と初春は高校生と中学生という立場の違いから支部は違う
はずなのだが、七代が頻繁に一七七支部に出没する為、最早七代は一七七支部のメンバーと
いっても過言ではない状態になっていた。

「あら、七代先輩。殿方にしては背が小さいものだから気が付きませんでしたわ」

 初春の更に後ろから、茶色い髪をツインテールにした常盤台中学の制服を身に纏った少女
――白井黒子がひょっこり顔を出す。
 白井も風紀委員であり、七代と同様に元々は他の支部に所属しているのだが、一七七支部
に頻繁に顔を出すことで、其処のメンバーと化している。
 七代、初春、白井の三人はよく支部でテーブルゲームで遊んでおり、先輩後輩という間柄
というよりも仲の良い友人関係にあると言える。
 先程白井が口にした言葉も、七代が一五八センチという自身の身長に対し、コンプレック
スを抱いていない事を知っているが為だ。とは言っても、七代が自身の身長に劣等感を抱い
ていたとしても、白井はあえて口にしたかもしれないが。

「それはただ単に白井の背が前の御三方より小さいからだと思うけどねぇ。……まぁ、白井
の場合身長以外の所もいろいろと発育がよろしくないように見えるけど?」
「なっ! そ、それはまだ第二次性徴が……って一々貴方に報告する義務はないんですの! 
殿方が異性の身体的な事に口を出すのは謹んで下さいまし!」
「あー、そいつは申し訳ありませんでしたねぇー」

 顔を紅潮させ、威嚇してくる白井を軽くあしらいながら、七代はふと自身と初春達の間に
いる少女二人に目をやる。黒髪ストレートの少女は何だか呆然としているし、その後ろに佇
む茶髪の少女は不思議そうな表情で白井の方へと目をやっている。

「あー、ごめんねぇそこの御二方。気悪くした?」

 少女二人に声を掛けてみると、何だか黒髪少女が何かから目覚めたように身体を一瞬震わ
せた。茶髪少女もその言葉に視線を七代の方へと向けてくる。

「い、いえっ! 別に問題もないですし、お気になさらずー」
「そう? そんならよかった、よかった」

 七代の今の心情は安堵などでは無く、全く持って何も考えちゃいないのだが。
 改めて見てみると、黒髪少女も茶髪少女もどうも活発そうな印象である。いや、元気があ
ってよろしい。と七代は無意識の内に頷いていた。

「……黒子、アンタに男の知り合いが居たとはねぇ。知らなかったわー」

 茶髪少女がにやけた顔で白井に声を掛けている。その言葉を受けた白井はぎょっとした顔
で両頬に手を当て、何やらわなわなと震えていた。

「お、お姉さま? 七代先輩はただの風紀委員の同僚であって……その、黒子は……黒子は
お姉さま一筋ですのよー!」

 目の前に居た初春を押しのけ、白井は茶髪少女に抱きつこうと両手を広げて接近するが、
それは茶髪少女から発せられた電流によって阻害された。

「ふぎゃっ!」

 パチッと軽い音を立てて地に落ちる白井を見下ろして、茶髪少女は何やら溜息を吐いてい
た。まるでこの光景が日常茶飯事に起きているかのような気軽さに、七代の頭にある単語が
思い浮かんだ。

「あー、もしかして君が超能力者(レベル5)『超電磁砲』(レールガン)の御坂美琴さんだ
ったり?」

 能力開発をする学園都市において、学生はその能力の強さ等によって六段階にランク分け
されている。学生の六割が無能力者(レベル0)なのに対し、頂点の超能力者など学園都市
に七人しか居ない。
 その七人の内の一人がこうして目の前にいるのかと思うと七代の心に緊張が走ったが、何
となく茶髪少女の威厳といった言葉とは程遠い――気さくな印象に、すぐさま肩の力を落と
す。
 声を掛けられた茶髪少女は誇示とは無縁の、至って普通な表情をしていた。

「ん、そうだけど。そういうアンタは? 黒子と初春さんの同僚の七代さんでよかった?」
「うぃ。七代歪、高校一年生。白井と同じく大能力者(レベル4)でーす。……其方の黒髪
さんもよろしくねぇ」
「え? あー、佐天涙子です。初春の親友で無能力者(レベル0)でーす」

 急に話を振られた黒髪少女――佐天は、少々慌てながらも口を開いた。しかし、どうも自
身が無能力者である事に劣等感を抱いているのか、その単語にはやや棘があるようにも思え
る。
 だからこそ、七代は至って普通に返事をした。

「うぃ、よろしくねぇ」

 何処までも普通の返答に、佐天は多少驚いたように肩を震わせた。これじゃあ何だか劣等
感を抱いている自身が馬鹿らしい、とでも言うような感じである。
 するとそれまで黙っていた初春が補足説明するように口を開いた。

「七代先輩は大能力者ですけど、あまり能力を行使しないんですよ」

 それは佐天に向けてされた補足説明だったのだろう。え? という佐天の呟きに反応した
かのように、七代が口を開く。

「んー、まぁねぇ。能力を使う必要性が感じられないなら別に使う必要はないしねぇ」

 今度は佐天と御坂の二人の口から疑問の声が上がる。しかし、何時の間にか列の最前に居
た七代はその声を無視して、自身の注文を店のお姉さんに述べる。

「えーっと、お釣り要らないんで、これでフルーツ詰めれるだけ詰めて下さい。種類は何で
も良いんでお願いしますねぇ」

 そう言って七代は五千円札をお姉さんに手渡す。ちなみにクレープ一つの値段は一番高い
ものでも千円を超えることは無い。お姉さんは困ったような表情を浮かべていた。

「あの、クレープ一つにはそんなにフルーツを詰めれないので、どうしても複数のクレープ
が出来上がってしまいますが……」
「あー、それじゃあクレープ五つお願いします。一つはフルーツ盛り合わせのやつで、後の
は……後ろの女の子四人に聞いて下さーい」

 ほら、好きなの頼むといいよー、と軽く言いながら振り向く七代に、佐天、御坂、初春の
三人は恐縮したように断りを入れようとする。白井だけは「あら、それじゃあ納豆と生クリ
ームのクレープを」とお姉さんに伝えていたが。

「後ろにも並んでいる人はいるんだし、気にしない、気にしない。ここは素直に奢られよう
ねぇ」

 七代の言葉を受けて、三人は感謝の意を唱えながら、お姉さんに注文を伝えていく。その
様子を満足げな顔で見つつ、我先にと注文を言った白井の方を見やると、何故か白井は思案
顔で顎に手を当てていた。何やら「一人が五人分を注文すると」とか、「あの両生類は……」
とか呟いている。
 どうやら大した事では無さそうなので放っておく事にした七代は、視線を前へと戻した。
同時にお姉さんが「お待たせしましたー」、と声を出し、クレープを一つ七代に向けて差し
出していた。
 手を伸ばしてクレープを受け取った七代はすぐさま列から外れようとするが、お姉さんが
何やらレジ下のカウンターから何かを取り出して七代に向けて差し出していた。

「はい、どうぞ。最後の一個ですよ」

 とりあえず条件反射的に受け取ってしまった七代は、改めて手の中にある何かを見る。
 ――それはスーツを着こなし、髭の生えた両生類だった。
 何やら後ろからドサッという音がしたが、白井が呟いていた両生類とはこれの事かー、と
納得した七代は、何やら怨念めいた声を出して地面に座り込んでいる御坂を視界の端に入れ
ながらも、白井に向けてカエルのストラップを放り投げる。へ? という声を出しながらも
投げられたそれを慌てて掴む白井に七代は一言。

「何か両生類がどうとか呟いていたけど、それが欲しかったんだねぇ。俺には必要ないしあ
げるねぇ」

 またしても、へ? という声を出す白井に対し、御坂の怨念めいた声は膨らんでいく。佐
天と初春の何やら慌てている様子を視界に入れながら七代は、とりあえずクレープを一口齧
る。

「ん、美味しいねぇ。……お姉さん、この店これからご贔屓にさせてもらいますねぇ」
「な、何をそんな暢気な! あのお姉さまの様子を見てよくもまぁそんな暢気な――」

 ニコニコと笑顔を浮かべている七代と、困惑した様子の店のお姉さん、焦っている白井に、
何やら慌てた様子の佐天と初春、そして怨念めいた声を上げ、今にも白井に飛び掛らんとし
ている御坂という何とも言えない状況が此処に生まれた。

「く~ろ~こ~! アンタ今まで散々ゲコ太を貶しておいて何? 実は欲しかったってそー
ゆー事? それともそれを餌に私に何か要求するつもり? いい度胸してんじゃない」
「ひぃ! お、お姉さま! 私何も欲しいだなんて一言も言ってないですわよー!」

 さっさと渡せば良いものを、何故か両生類のストラップを握り締めながら後ずさる白井と、
それを追い詰めていく御坂の追いかけっこが始まった。
 その様子に何やら溜息を吐いている佐天と初春は、一人二つずつ――白井と御坂の分のク
レープもお姉さんから受け取って、少々離れた所で白井と御坂の追いかけっこを観戦してい
る七代の所へと向かう。

「わざとですね? 七代先輩」

 初春はジト目で七代を見ていた。まるで確信しているようだが、その通り。七代は御坂が
あのストラップを欲しがっていた事を理解したうえで白井にそれを放り投げたのだ。七代が
煽るだけ煽ってその後は傍観というスタンスを好んでいる事を知っていた為に、初春は確信
していた。

「もちろん。……まぁただの八つ当たりというか何というか」

 その言葉に首を傾げている佐天と初春を余所に、七代はただ苦笑いを浮かべるのみだった。





 結局、七代の「さっさと渡せばいいのにねぇ」の一言で追いかけっこは終わり、現在はベ
ンチ付近でのんびり五人でクレープを食べていた。

「そう言えば七代さん。さっき能力を使う必要性が感じられないとか何とか言ってましたけ
ど、あれってどういう意味ですか?」

 佐天はふと思い出したように口にし、その言葉を聞いた御坂も思い出したのか、七代の方
へと視線を向けた。その目は説明を求む、と有無を言わさぬような鷹の目だった。
 一方の七代はそんな目を受けても至って暢気にクレープを咀嚼していた。

「……ん? あぁ。単に能力使わなくても、犯人確保出来たりするよってなだけの話」
「七代先輩は喧嘩というか戦闘慣れしていまして。本当に能力を使わずして犯人を確保出来
てしまうのですわ」

 言い終わると同時に最後の一欠けらを口に入れる七代に変わって、白井が補足説明をする。
聞いた佐天と御坂は驚いて、更なる疑問を七代にぶつける。

「……それって相手が能力者でもですか?」
「……んー、ある一定以上だと無理だねぇ。強能力者(レベル3)は能力によってはって感
じかな。俺の能力じゃあ如何に能力を張り巡らせた所で超能力者には敵わないし、同じ大能
力者にも敵わない時だってある。それならそれ以外で補強(カバー)するしかないよねぇ?
それと大抵の能力者は自分の能力が効かない、もしくは使えなくなったら何も出来ない。能
力に頼りきっているからねぇ。そういった慢心を捨てる為にも、格闘技とかって重要だと思
って学んだんだけど」

 七代は食べ終わったクレープの包み紙を丸めながらそう口にした。その言葉を聞いた佐天
は何やら深く考え込んでいる。それは御坂も同じだった。
 無能力者と超能力者。立場は違えど何かお互い思う所があったのかもしれない。
 そんな二人を余所に初春は何やら道路の方を眺めていた。

「初春? どうしたんですの?」
「……いえ、あそこの銀行なんですけど、何で昼間から防犯シャッターおろしているんでし
ょうか?」

 白井と御坂、七代が疑問の声を上げると同時に、爆音と共に銀行の防犯シャッターが吹き
飛んだ。
 周囲は日常から切り離されたその音と光景に騒然となる。はしゃぎまわっていた子供達は
すぐさま保護者に抱きつき、ツアーガイドのお姉さんは困惑しながらも、避難誘導を始める。
クレープ屋に並んでいた列はすぐさま崩れ、思わぬ出来事に腰を抜かす者も居た。
 白井はポケットから風紀委員の腕章を取り出して腕につけた。そしてすぐさま初春に向け
て指示を出す。

「初春! 『警備員』(アンチスキル)への連絡と怪我人の有無の確認、急いで下さいな!」
「は、はいっ!」

 白井の指示通りに初春は携帯を取り出し、警備員への出動要請連絡をする。白井は次に自
身の上司である七代の出方を伺おうとして後ろを見やるが其処に七代の姿は無かった。

「七代先輩は……ってもう既に行動開始してますわね」

 前を見た白井の視線の先で、風紀委員の腕章を右腕につけた七代が黒服とマスクを着けた
強盗犯三人組と対峙していた。
 それならば、と白井は初春と共に怪我人の有無の確認に当たる事にした。七代は自身と同
じ大能力者ではあるが、その能力値は超能力者に限りなく近い事を知っている。あちらは任
せて大丈夫だと確信していた。
 その七代は、逃走を邪魔されて立ち止まっている強盗三人を見て、自身の口を吊り上げて
いた。

「風紀委員だけど、器物損壊及び強盗の現行犯で拘束される覚悟は出来たかねぇ?」

 その声は騒動の中でもはっきりと強盗犯三人の耳に響いた。強盗犯のみでなく、離れた場
所にいるはずの白井達四人の耳にもはっきりと響いていた。
 そしてその声は冷気を帯びて、強盗犯三人の膝を震わせた。まるでもう既に勝者と敗者の
構図が生まれているかのような圧倒的で理不尽なまでの暴力そのもののようである。
 強盗犯の内の一人、やや肥満体型の男が恐れを振り払うかのように唇を噛み締めて、七代
の方へと突貫する。

「なんだてめぇはよぉ! ガキは大人しく引っ込んでやがれぇ!」

 叫びと共に肥満男は右手を思い切り振りかぶる。大振りのその拳を七代は左に半歩ずれる
事で簡単にいなし、高速でアッパーカットの要領で右腕をコンパクトに振り上げる。七代は
その右手で相手の顎を打ち抜くことはせず、拳で軽く顎先を叩いて引いた。
 コツンという軽い音と共に巨体の身体が沈む。肥満男の意識は既に遠のいていた。

「――なっ!」

 その光景を見ていた残り二人は驚愕、そして茶髪ロン毛の男が恐れをなしたのか逃走を図
る。黒髪短髪はその場を動かず、左手に炎を生み出していく。
 その様子を見て、七代は冷静に分析していた。茶髪ロン毛の男は公園寄りの車道に向かっ
て走っている。今、自身がそれを追ったとしたら、其処に黒髪短髪の男の炎が迫ってくるだ
ろう。それを対処する術もあるが、能力を使用して防いでいる間に茶髪ロン毛が人質をとら
ないとも限らない。危険は〇に抑えるべきで、万が一は許されない。
 そう判断を下した七代は五メートル程先にいる黒髪短髪の方へと走りながら、白井に指示
を出す。

「白井! その茶髪ロン毛を拘束!」
「――了解ですわ!」

 白井が空間移動で茶髪ロン毛の前へと現れたのを視界の端で確認し、七代は自身の標的を
見定める。
 黒髪短髪が炎を繰り出そうと左手を大きく右に振りかぶったその隙に、七代は身体を沈ま
せて地面を蹴って加速し相手の懐に潜り込む。そして左手で相手の左腕を掴んで封じ、相手
の左横に身体を滑り込ませ、その頸部裏を右の拳で軽く叩く。
 先程の肥満男同様に身体は沈み、意識が遠のいたことで生み出された炎も消えていく。
 白井の方も終わったようで、茶髪ロン毛は地に伏せ、長い釘のようなもので地面に縫いと
められて拘束されている。
 それを確認した七代は、ふっと軽く息を吐いた後、地に倒れている肥満男と黒髪短髪をポ
ケットから出した手錠で拘束していく。
 ――所要時間は数分と経っていない。銀行強盗事件は風紀委員によってあっけなく幕を下
ろした。





「すごいですね。本当に能力を使わないで相手を確保するなんて」

 一仕事終えて戻ってきた七代は、感心した佐天による言葉の砲撃を受けていた。どうやら
能力が無くとも、悪人を拘束できるという事実が無能力者である佐天にある種の勇気を与え
たようだった。
 褒め称えられているはずの七代はただ苦笑して佐天の言葉に相槌を打つのみだ。それは照
れからくるものなどではなく、七代の使った格闘術が一般的に普及されている格闘術とは違
うものであるからだった。
――軍人用格闘術。相手の命を掠め取る事に重きを置いた、所謂殺人格闘術だ。
 風紀委員としての活動においては、工夫をこなして相手の意識を掠め取る程度にしてある
が、さすがに佐天に教えられるようなものでは無い。
 そして先程の姿は、能力開発において無能力者の向上心をへし折るようなものだ。能力が
無くても大丈夫だという見解が生み出す怠慢に、佐天を陥れかねなかった。
こんなはずじゃあ無かったのになぁ、と七代は内心愚痴りながらも佐天にかける言葉を探し
ていた。

「――佐天さん。能力が使えなくても悪人を拘束できるからといって、能力に対する向上心
は忘れてはいけないよ。人には向き不向きっていうのは確かにあるし、誰だって超能力者に
なれたりするもんじゃないけど……人は努力を続ける事である程度まではきちんと出来る様
になるはずなんだからね。厳しいことをいうかもしれないけど、どんな物であれ楽して得ら
れるものはないはずだから」

 佐天はその言葉を聞いて、先程までの穏やかな表情から一転、はっとして何かを思案して
いるようだった。その様子を見ながら、七代は再び言葉を紡ぐ。

「自分の過去を振り返って、現在を見つめて、未来を考えて――そうして『自分だけの現実』
(パーソナルリアリティ)を時間をかけて見つけ出していけばいいと思うよ。俺は教える事
は出来ないけど、格闘技だって必要を感じれば学べば良い。佐天さんはまだ中学生なんだし、
先はまだまだこれからだよ。此処でへこたれちゃいけないと思うけどねぇ」

 そう言って七代は佐天の頭を優しく撫でる。佐天はただ俯いてその行為を受けることしか
出来なかった。ただ、それは反抗する子供のような理由からではなく、七代の言葉を真摯に
受け止め、理解しようと努めているからである。
 それを理解した七代は、もう言うことは無いだろうと佐天の頭から手を離し、警備員に連
行されていく強盗三人に視線を向けた。
 何やら白井が強盗犯の内の一人、『発火能力者』(パイロキネシスト)に向けて何やら喋っ
ているが、きっと自身が佐天に向けていった事に近い事を言っているのだろうと推測した。
 きっとあの能力者も、自身の壁にぶつかって立ち止まってしまった人間であると七代は思
っていたから。
 黙ってその場を離れようと反転した所に、七代の背中に向けて佐天が声を放った。

「……あの、ありがとうございます。ちゃんと自分と向き合ってみて、それからまた考えて
みようと思います」

七代は振り向く事無く、ただその言葉を受け止めた。ただ、笑ってその言葉に対する返答を
するのみ。

「うぃ、頑張れ」

 そう言って少し歩いた所で、今度は初春と御坂の二人組みに捕まった。

「七代先輩、ありがとうございます。……佐天さんの事」

 初春は律儀に頭を下げて、七代に感謝の言葉を向けていた。何だか急にむず痒くなってき
た七代は、先程佐天に向けて言い放った言葉の臭さにとても逃げ出したい衝動に駆られた。

「い、いやいや。ただ思った事を言っただけで……ねぇ?」
「いや、私に同意を求められても。……でも、良い言葉だったと私も思うわよ?」

 思わず同意を求めてしまった御坂にまでそんな事を言われ、七代の顔はだんだんと紅潮し
ていく。
(いや、何? このシチュエーション。何かこう年下の女の子に立て続けに褒められたり感
謝されるとか、そんな事初めてなんだけどねぇ。むしろ貶されるべき存在だと思うんだけど
ねぇ、うん)
 最早身体中が痒くなってきたような気がした七代は、「そ、そういやもうすぐ夏休みだね
ぇ、あはははは。た、楽しみだねぇ」と強引に話を変えようと試みたが、初春と御坂は一瞬
ぽかんとした表情を浮かべた後に、七代が照れているという事実に気付いて、思わず吹いて
笑い出してしまう。初春と御坂には、目の前に居る高校生が小さな子供にしか見えなかった。




[15727] 1/第一章 意図的な再会 [改訂第三版]
Name: 猫世◆ccb0c5e0 ID:f6c4f25d
Date: 2010/02/07 04:21

1/第一章  意図的な再会


 料理なんてものは自身には全く似合わないと常々思う。それを象徴するかのように、ゴミ袋
の中は弁当の空箱や冷凍食品の空袋でぎっしりと詰まっている。
 七代歪はまた新しい冷凍食品の空袋をゴミ袋へと突っ込んだ。中身である中華まんは既に電
子レンジへと突っ込まれている。ピンポーン、と呼び鈴のような音を鳴らして電子レンジは自
動で中華まんを吐き出す。七代はそれを手にとって、ふらふらとベッドの所まで歩くと、ポス
ンと力なく座り込んだ。
 まだ部分によっては若干冷たさが残っている中華まんを齧りながら、七代は部屋を見回した。
 一人暮らしにしては中々の広さがあると言っていいだろう。ベッドや箪笥、机を置いても部
屋はまだまだ利用できるスペースが有り余っている。割と綺麗に整頓されており、本棚にはび
っしりと参考書等が詰められている。其処に漫画本の姿は無い。机の上では一台のコンピュー
タがその存在を主張しており、他にこれといって物は置いていない。
 質素な部屋だ、と見る者は言うだろうが、七代にとってはこれで十分だった。エンターテイ
メント性を発揮するような物は置いていないと言っている為に来訪する者はまず居ないし、七
代自身其れを楽しむような人間ではない。
 残りの中華まんを口に放り込んで、七代はベッド脇に置いてある学生鞄を手にとって立ち上
がった。まだ朝方である。部屋に日の光こそ差し込んでいないが、それはカーテンで光を遮断
している為であって、既に学校へと向かわねばならない時間であった。
 この部屋と生活を見れば、七代を知る人物ならば疑問に思ったであろうが、家とはその人間
が帰る場所であり、その人間の性格が反映されるものだと七代は考えている。だからこそこれ
が在るべき風景であると七代は改めて思いながら、玄関へと向かった。
 全くと言っていいほど使われていない台所を通り抜け、玄関で靴を履く。そして、脇にある
洗濯機のスタートボタンを押して、七代は玄関扉を開けて光を浴びた。

「さて……と。そんじゃあ今日も一日張り切って生きましょうかねぇ」

 首の骨をコキリと鳴らして、欠伸を噛み殺しながら、七代は歩き出した。楽観的でいて気だ
るそうな表情を貼り付けて。
 七代の部屋は学生寮の八階にある。外装も内装も割りと綺麗な寮で、それは寮というよりも
最早住宅マンションに近い。七代が通う高校にも比較的近い場所にある為、少なくとも友人達
よりはゆったりとした朝を過ごせていると思う。
 エレベーターで一階まで一気に降りると、エントランスを抜けて大通りへと躍り出る。
 七代の通う高校はスクールバスによる通学を推奨しているが、如何せん料金が馬鹿高い。推
奨している為に電車通学は原則禁止されている。お金に困っているわけではないが、スクール
バスなんて窮屈な代物に乗るのも気が引ける為、七代は徒歩で通学していた。

 約一駅分程の距離を歩くと、目的地である高校に辿り着く。大して疲れも感じていないが、
何故だか多少の達成感さえ感じられる。季節は絶賛夏真っ盛りなので、若干汗で身体に張り付
いたシャツが気持ち悪いが、それも後々どうにかなるだろう、と大して気にも留めていなかっ
た。

「おーっす。七代ー!」

 名を呼ばれた七代がパッと振り返ったその先に、小走りで近づいてくるツンツン頭と幸薄そ
うな顔が印象的である彼のクラスメイト――上条当麻がいた。七代は声の主が上条であると分
かるや否や、途端にその表情を悪戯坊主のソレに切り替えた。

「やぁやぁ、上条。今日も不幸なオーラが身体から染み出ているよ? いや、元気そうで何よ
り」
「勝手に不幸=元気とかいう公式を立てやがらないで下さい! ま、お前も暢気そうで何より」
「暢気さなら誰にも負ける気はしないからねぇ」
「……いや、お前それ張り合って何になるんだよ」

 互いに軽口を叩きながら、並んで歩く。何か重しでも乗っかっているかのように猫背スタイ
ルの上条を横目で見つつ、七代は苦笑した。
 上条当麻という人間は生まれもって不幸体質である。しかし、それを心の底から迷惑がって
いないようにも見える。内に篭らず、それを受け止めて尚歩みを進める上条は『強靭な意志を
持った人間』であると、七代は考えていた。
 別段その強さに嫉妬しているわけではない。しているわけではないのだが、自身と比較して
しまうと、とても自分が矮小なる人物であるかのように感じてしまうだ。

「それで? 今日は一体どんな不幸な目にあったの? ちなみに俺の予想じゃあ足の小指を箪
笥にぶつけて悶えていた時に勢い余ってキャッシュカードを踏み潰したとか、そういうパター
ンじゃないかと思っているんだけど。それとも財布でも失くしたとか?」
「俺が既に不幸な目に合っているって決め付けないでください」
「何だ、つまらんねぇ。……あぁ、何だかやる気が損なわれていく」
「俺の不幸はそんなに面白い事ですか!」
「いやー、上条が慌てふためく姿は面白いけど?」
「性質悪ぃな、おい!」

 そんな言い合いをしている間に、上履きへと履き替えた二人はクラスの方へと向かって歩く。
 ホールルーム開始時刻までまだ数分という時間が残っている為、周囲には人がまばらにはい
るものの少ない。それでも活気付いた声が響いてくる事から、この高校に通う学生元気の良さ
が分かるだろう。
 二人が一年のクラスが並ぶ廊下へ出ると、前方に何やらプリントの束を抱えた小学生が居た。
高校という小さな世界において、その存在はとても目立つ。一見迷い込んだ小学生であるよう
にも思えるのだが、上条はさも当然であるかのようにその人物に声をかけた。

「あ、小萌先生ー! おはようございまーす」
「むむ? あ、上条ちゃんおはようございますー。七代ちゃんもおはようございますですよ?」
「あー、おはようございます、小萌先生」

 どう見ても小学生の容姿をした人物――月詠小萌は七代達のクラス担任、つまり先生である。
未だに目の前の人物が教師である事が不思議で仕様が無いと七代は思うのだが、実際小萌先生
は二十歳以上であるらしく、子供扱いされる事を相当に嫌う。
 身長一三五センチというその容姿は、安全面を考慮してジェットコースターの利用を断られ
た程で、学園都市の七不思議に指定される程の幼女先生である。
 朝の挨拶を受けた小萌先生はにぱぁ、と満面の笑みを浮かべるが、その手の属性を持った方
達にとってそれは必殺の一撃だろうと思う。

「朝から一緒に登校なんて、二人は仲良しさんですねー」
「偶然会ったからっていう理由なんですけどね。いや、全く。仲が良いのは否定しませんが」
「それも主人と奴隷という関係の下でですけどねぇ。小萌先生、上条はひどいやつなんです。
さっきなんて鞄に指を滑らせて、「何? この埃。お前、学生鞄はちゃんと綺麗に扱えってあ
れ程言ったでしょ!」とかぐちぐち文句を言い出して。全く、お前は小舅かってねぇ」
「テメェ何勝手に話を捏造してやがりますか!」

 上条は七代の台詞を聞くや否や、ぐるんと頭を回転させて七代の方へと固定し、七代の後頭
部目掛けて拳を振り下ろした。――ゴツン! と割と痛そうな音と共に七代は倒れ、軽いつっ
込みのつもりだった上条は「い゛っ!」という声をあげて僅かに身体を後退させた。
 七代が倒れた事で、二人も自然と立ち止まる。小萌先生の眉は若干吊り上がり、口を窄めて
上条の目をじぃっと見ていた。上条の目は泳ぎまくっている。

「上条ちゃん、幾ら何でも殴るのはいけませんよ? 気が早いのは上条ちゃんのいけない所な
のです」
「……すいませんでしたー!」

 小萌先生には逆らえない。上条は目を伏せ、頭を下げ、誠意をもって謝罪スタイルに入る。
放っておけば土下座までしそうな勢いだ。先日、居残りさせられた記憶が思い出されたのかも
しれない。

「上条ちゃん、謝る相手が違いますよ? それと、七代ちゃん。何時までも倒れていないで起
き上がるですー。昨日だって鉄拳受けてたのに平然としてましたですよ?」

 小萌先生は七代に視線を向けてそう言ったが、その対象の人物は一向に起き上がる気配が無
い。小萌先生は屈んで七代の肩をゆさゆさと揺らしながら、再び口を開いた。

「七代ちゃん? 暴力に出た上条ちゃんも悪いですけど、そもそもの原因を作ったのは七代ち
ゃんなのですよ? いい加減起きないとすけすけ見る見るですよー?」

 すけすけ見る見るとは所謂目隠しポーカーである。透視能力(クレアボイアンス)専攻の時
間割(カリキュラム)であり、一〇回連続で勝たなければいけないという、事実上の居残り罰
ゲームである。
 透視能力を専攻している訳でもない七代にとっても苦痛であるはずなのだが、それを聞いて
も一向に起きる気配が無い。
 さすがにこう反応が無いと小萌先生も上条も焦り出す。殴った張本人である上条は特に。
 小萌先生に代わって、若干顔を青くしながら力強く七代を揺する。

「お、おい七代? さすがにこう冗談がきついと寿命が縮んでしまうのでそろそろ起きて欲し
いなぁとわたくし上条さんは思うのでせうが! ちょっとちょっとこれはやばいかもしれない
とか思いながらさっきよりも強く揺すってみますが起きてください七代さーん!」

 ピクッ、と七代の身体が一瞬震えると、そのままゆっくりと顔が上がる。小萌先生と上条が
ほっ、と胸を撫で下ろす一方で、七代は「……んー?」と呟いて後頭部を擦りながらゆっくり
と立ち上がり、

「……あれ? 此処学校? 何時の間に? って、小萌先生に上条、おはようございますー。
何だか何時の間にやら学校にいるみたいですが、俺寝ながら歩いてたんですかねぇ? まさか
まさかの多重能力? うわ、嫌だねぇそんな能力発現の仕方。で、実際問題俺どうやって学校
まで辿り着いたんでしょうかねぇ? あれー? 何か知ってます?」

 首を傾げて悩みに悩む七代を見て、小萌先生と上条はぽかん、と開いた口が塞がらなかった。
 直後、上条は油の切れたロボットのように首を回して小萌先生の方を見るが、彼女はとても
にこやかな笑顔を浮かべて上条を見ていた。

「上条ちゃん? すけすけ見る見るとコロンブスの卵、どちらがいいですー?」
「えっ!? いや、ちょっ――! 既に居残りは決定事項ですかって上条さんは問いかけてみま
すが小萌先生目が笑ってないですねー! はい、これはもう逃げられないと悟ってしまいまし
たが七代さん助けてー!! つーかこんな漫画の中でしか見れないような出来事が起こるとはさ
すがにわたくし上条さんも予想外でせうよー!!」

 上条は顔を真っ青にして頭を抱えていた。そもそもの原因であるはずの七代に助けを請う程
に余裕は奪われているが、その七代は頭を傾げるだけで黙ったままである。
 ちなみにコロンブスの卵とは、逆さにした生卵を何の支えも無く机に立たせる難易度超高の
念動力(サイコキネシス)専攻の時間割のはずである。
 キンコーン、とホームルーム開始の鐘の音と、上条の「不幸だぁぁぁぁー!!」という叫び声
を聞いて、七代は僅かにその口を吊り上げた。

(いやぁ、間違いなく主演男優賞ものだねぇ。上条、小萌先生と末永くお幸せに)









 放課後。結局すけすけ見る見るを選択した上条の涙を横目で見つつ別れた七代は、現在『風
紀委員活動第一七七支部』という長ったらしい表札の掲げられたドアの前にいた。
(あー、何だってこんな面倒臭い事せんとならんのかねぇ)
 内心で愚痴を零しながら、指紋、静脈、指先の微振動パターンを調べるという三種の厳重な
るロックを外し、七代はドアを開けた。
 部屋の中はまるでオフィスの一室だ。複数のデスクテーブルが並んでおり、その上には一台
ずつコンピュータが置かれている。見事な曲線美を描く背もたれの付いたキャスター付きの椅
子には現在使用者の姿は無い。白井も初春も、今日は遅れてくる様だ。
 都合が良い、と七代は内心で安堵する。
 七代はドアを閉めて、自分用のデスクテーブルの下へ行き、コンピュータを起動させる。パ
スワードを打ち込んでから、買い置きしてある飴玉の袋を開けると、そのまま口へと放り込む。
いちご味だった。
 その甘ったるさを堪能しつつ、七代は制服のポケットから携帯電話を二台取り出した。その
内一台をわざわざケーブルでコンピュータに繋ぎ(学園都市では無線接続が通常化している)、
キーボードを操作してソフトを立ち上げる。『インフォメーションアップデイター』というタ
イトルと共に、パスワード入力画面がモニターに映されたのを確認すると、七代は携帯電話の
ボタンを操作してパスワードを入力していく。
 そこまでしてようやく完全にソフトは立ち上がった。七代が更に携帯電話を操作すると、コ
ンピュータのモニター画面に文書が表示された。
 七代はその文書にサッと目を通し内容を記憶すると、その文書を削除した。そのままソフト
も終了させ、コンピュータと携帯電話の接続ケーブルを抜いて学生鞄へと仕舞う。携帯電話は
二台ともポケットの中へと仕舞われた。
 一連の作業を短時間で終わらせ、七代は口内の飴玉をガリッと噛み砕いた。

「……んー!! いやぁ、参った参った。第二十二学区かぁ。こりゃ疲れるねぇ」

 首の骨をコキリと鳴らし、身体を解してのんびりとする。
 七代の呟いた第二十二学区とは、面積は最小ながら最も地下街の発達した学区である。地下
数百メートルまで開発されており、下は丸ごと核シェルターになっている。
 しかし、この学園都市には学生や教師にさえ実態を掴めていない場所が存在する。現在いる
第七学区の、学園都市統括理事長がいるとされる『窓のないビル』などが最も典型的なもので
あろう。窓もドアもなくては入れず、中の構造が分からなくては無理もないのだが。
 そしてそれは第二十二学区にも存在する。地底深くでひっそりと蠢く、汚らしい溝のような
世界が。
 七代は弾力性豊かな背もたれに身体を預け、喉を鳴らした。

「……狼は一体何時まで羊を演じるんだろうねぇ」

 七代がそう小さく呟いた直後、ドアの方から足音が複数聞こえ、そしてロックを外す電子音
が彼の耳に入る。
 ガチャリ、とドアが開かれ、見慣れたツインテールと花飾りが目に飛び込んできた。第一七
七支部の同僚である白井黒子と初春飾利である。

「あら? 七代先輩、今日はお早いんですのね」
「七代先輩、こんにちわ。……でも、確か今日は非番じゃありませんでした?」

 こてん、と首を傾げる初春に合わせて、「そういえば……」と呟く白井を見て、七代は苦笑
しながら、

「いやいや、ちょっとした調べ物をね。あと、二人が暇ならテーブルゲームでもして遊ぼうか
なぁと」
「……この前のリベンジ! といきたい所ですけど、生憎暇ではありませんの。むしろ手伝っ
て欲しいくらいですのよ?」
「最近、『連続虚空爆破事件』(グラヴィトン事件)で、大忙しですからねー」

 白井は腰に手を当てて、溜息を吐いている。初春も若干表情を引き締めた所を見ると、どう
やら本当らしい。
 『連続虚空爆破事件』とは、ここ最近で起きている爆破事件である。重力子を爆発的に加速、
放出することでアルミ物質を爆弾に変えているらしい。時間も場所も関連性がなく、その為風
紀委員は犯人の手がかりの調査に頭を悩ませている。
 
「……言ってみただけだよ。俺だって別に暇な訳ではないし。明日からのハードワークを想像
しただけで円形脱毛しそうなくらいなんだよねぇ」

 そう言って七代はキーボードを操作して、モニター画面に学園都市全域の地図を映す。白井
と初春は疑問符を浮かべるが、その様子に目もくれず、更に操作していく。
 タンッ、と強くキーを押す音と共に、モニター画面に第二十二学区の地上映像が映された。
 二人は更に疑問に思った。何故二十二学区の映像を? と。それに答えるかのように七代は
口を開いた。

「第二十二学区の最下層で奇妙な噂があってねぇ。何でも『廃却炉の中から突然男が現れ人を
引きずり込む』とか何とか。ちょっと気になる事があるから此方を調べようかなってね」
「……はぁ。またですか? 七代先輩」

 白井も初春も揃って溜息を吐いている。七代はこれまでにも、『ちょっと気になる事がある』
という言葉と共に独自の調査に当たり、幾つかの事件を未然に防いだりしていた。
 不自然に思う事はあるが、『噂の中から的確な情報を得る』という特技を持つ、というイメ
ージが既に今までの経験から貼り付けられているので、二人は強くは言及しなかった。
 その様子を見て、七代は苦笑した。初めて二人に「ちょっと気になる事があるから」と言っ
て、当時担当していた仕事を放り出した時とはえらい変わりようだ、と。その当時はえらく怒
られ、無理やり抜け出して見事別件を解決させていなければ、現在もまた強く止められていた
事だろう。

「まぁ、そういう訳で。多分忙しくなるだろうから、そっちはまかせるねぇ」
「……はぁ。了解ですの。ですが、報告は忘れないで下さいまし。それと毎度申してますが、
何事もなかった場合は即こちらに戻る事と、お一人で手に負えない場合は応援を要請すること。
……って今回は校外な上に他学区でしたわね。始末書は覚悟しておいてくださいまし」

 白井は淡々とした口調で話す。それはもうほぼこの言葉がテンプレート化している事を意味
していた。
 風紀委員は原則的に校外、所属している学区以外での活動を許されていない。緊急である場
合等でも、規則違反者である事には変わりはなく、白井の言葉通り始末書という物が待ってい
る。
 七代もそこら辺はきちんと理解している為、今回は始末書覚悟で行動するつもりであった。
 七代は軽く頷くと、これまたテンプレート化しつつある返答と共に率直な感想を述べる。

「うぃ、了解。――いやぁ、それにしても。白井は立派な小姑になれそうだねぇ。御坂さんが
結婚でもしたら、その夫に嫌味を言ったり、地味な嫌がらせとかしそうな感じというか」
「――なっ!? 誰が小姑ですの!? それと……お、お姉様が結婚!? 何年先の話をしてますの!?
いや、それ以前にお姉様が殿方と結婚なんて、認めません!! 認めませんのよ!! もしお姉様が
仮に殿方とお付き合いをするというのであれば、せめてこの白井黒子の屍を超えていきやがれ
ーですの!!」

 白井は顔を真っ赤に染めながら、拳を握り締めて一人燃えていた。そして、その直後ニンマ
リといやらしい笑みを浮かべたのを見た七代は、

「……「いや、そこでわたくしがその殿方をメッタメタにして差し上げて、それを見たお姉様
が「く、黒子……アンタそこまで私の事を……」なーんて言ってわたくしの胸に飛び込んでき
て、そしてその後はあーんな事やこーんな事を……ウエッヘッヘッ、アッハー!!」 ……なん
て思ってる所申し訳ないけど、それ絶対有り得ないからねぇ?」
「な、なな、何故七代先輩がわたくしの計画を!?」
「白井さん。お馬鹿な思考が表情から駄々漏れです」

 驚愕に身体を仰け反らせる白井に、初春は溜息を吐く。
 どうやら御坂も白井も、春が来るのはまだまだ先のようだ、と七代は思ったが口には出来な
かった。










 
 第一七七支部を出て、即座に第二十二学区へと赴く――事はなかった。
 本日の風紀委員活動は既に七代的には営業終了しているのだが、真っ直ぐ家路を急ぐ事もな
い。というのも、七代にはこれといって趣味もなく、帰宅しても参考書を読み漁るか、トレー
ニングをするか、という二つしか基本的に選択肢がない為である。
 本日、七月一七日に限っては、明日からの仕事に備えて簡単な調査、情報収集を行う、とい
う隠し要素的第三の選択肢が現れたのだが、それも今日中であれば急ぐ必要もない。
 そんな訳で、料理のできない(やる気のない)七代は、英気を養うためにも、現在ファミレ
スにて豪華ハンバーグセット(ライス、スープ、デザート付き)を注文し、今か今かと心待ち
にしていたのだが――。

「それでな、ナナやん。舞夏が『偶には外食でもして私の料理の素晴らしさを再度噛み締める
といいぞー』って言うんだぜい! 全く、言われなくても毎度心の中で感動の涙を流しながら
食べてるのににゃー。やっぱりまだまだオレの舞夏への愛が足りてないって事かにゃー?」
「取り合えず、その愛とやらは多分十分痛いくらいに伝わってるから大丈夫だと思うんだけど」
「さすがナナやん!! 分かってらっしゃる! そうなんだぜいそうなんだぜい! オレの舞夏
への愛は無限大だぜよ!!」
「……あ゛-、分かったからそろそろ落ち着いたほうがいいよ。暑苦しいからねぇ」

 七代の向かい側で拳を硬く握り締めているのは、クラスメイトの土御門元春である。金髪に
青いサングラス、制服の下にはアロハシャツという格好で、目立つ事この上ない。
 上条と共に『クラスの三バカ』(デルタフォース)に数えられている無能力者であり、義理
の妹である土御門舞夏を心から愛しているシスコン変態野郎である。
 七代が料理を待っている間に、偶然土御門が言葉通りの理由で来店し合席へ、という流れで
今の状況が出来上がっていた。
 七代は未だ熱く燃え上がっている土御門を片目で見やり、そして直後視界を暗闇にすると共
に深い溜息を吐いた。

「……それで、土御門。さすがに義妹ネタを延々語られるのは聞く側としては非情に辛いもの
があるんで、そろそろ別の話題に移りたいなぁと思ってるんだけど?」
「オレとしてはまだまだ語り足らないんだがにゃー。ま、いいぜい。次はナナやんのラブコメ
話とでも洒落込むかにゃー?」
「……あのー、なんで恋愛系の話限定なんですかねぇ?」
「そりゃーもう、ナナやんに浮ついた話題が一つもない事が、さすがに友としては心配で心配
で仕方がないからだぜい。……で、どうなのよ? その辺」

 土御門は若干身を乗り出しニヤニヤと、七代にとっては全く持って不愉快な笑みを浮かべて
いる。七代は余計なお世話だ、と内心呟いた。

「そんな相手が居たら一人でファミレス乗り込もうなんて思わないと思うけどねぇ」
「……はぁ。困ったさんだにゃー。カミやんでさえ最近常盤台の中学生と鬼ごっこして遊んで
るって話なんだぜい? このままじゃナナやんだけ完全に置いてけぼりだぜよ」
「……蒼髪ピアスは?」
「パン屋の誘波ちゃん。確証はないが、可能性としてある時点でナナやんの負けだにゃー」

 即答だった。
 唯一の退路を塞がれた様な気分に陥った七代は、溜息を吐きながらも、ふと思った事があっ
た。

(そういえば前に上条がビリビリとか言ってたねぇ。常盤台のビリビリ……電気? もしかし
て御坂さんとか? あー、案外有り得るねぇ。想像できるできる)

 視線を虚空へと彷徨わせながらそんな事を考えている内に、土御門が「そういえば」と呟き、
七代が視線を土御門の方へとやり話の続きを待ったが、ウェイトレスのお姉さんが「お待たせ
しましたーっ!」と料理を運んできたので断念する。
 七代の目の前には注文通りの豪華ハンバーグセットが。土御門の前にはドでかいハンバーガ
ーが置かれた。「ごゆっくりどうぞー」というお姉さんのマニュアル通りの台詞を聞きつつ、
七代の目線はそのハンバーガーに釘付けだった。

「うにゃー! やっと来たぜい。デラックスハンバーガー」
「……すごいねぇ。それ」

 土御門が両手で掴んだハンバーガーは、通常のファーストフード店で売られているものより、
高さも幅も二倍はありそうなものだ。二枚のバンズに挟まれた肉の厚さが途轍もない事になっ
ていた。文庫本二冊分程の厚さである。
 土御門は上下のバンズを指先で押し潰し、口を大きく開けて齧り付く。頬を膨らませながら
咀嚼する様を見て、七代もようやく目の前の料理に手を出す。
 冷たいコーンポタージュスープをスプーンで掬い、口に運んだ所で、口内のものを飲み込ん
だ土御門が思い出したように口を開いた。

「そういや『ねーちん』が学園都市に来てるって話だぜい」
「うえぇっ!」

 七代がそれを聞いた瞬間に、顎が外れたようにストンと落ち、タラー、とスープが零れてテ
ーブルを汚した。その光景を見た土御門が「ナナやんは芸人でも目指しているのかにゃー?」
と呟いていたが、その言葉が耳に入らないくらい、彼が言った情報は破壊力抜群だった。

「ね、ねーちんって……神裂さんが? 何で? どして?」
「……まぁナナやんには関係ないから、ばれなきゃ問題はないぜよ」
「イコールそれは引きこもれ、と?」
「この第七学区に来るとは限らないから安心するにゃー。それに第七学区も広いんだぜい?」

 『ねーちん』こと神裂火織とは、土御門と七代の共通の知り合いであり、七代が気まずすぎ
て会いたくない人ランキングトップ3に入る人物である。最もその原因は七代にあるのだが。
 土御門はニヤリ、と口を吊り上げて七代に意味深な視線を向けていた。

「別に謝ったらそれで済む問題だと思うんだがにゃー。何ていうか、そこまでびびる必要はな
いと思うぜい。そしてその後ラブコメすればいいですたい。感動の再会の後のラブコメなんて
王道すぎるがにゃー」
「……信じられないねぇ。そんな言葉。そして無理。あの人はそんな対象じゃないよ」
「相変わらず卑屈で悲観的思考(ネガティブ)だにゃー。ただでさえ結婚適齢期遅れてるのに、
これ以上遅れるとさすがのねーちんも可哀想だぜい?」

 そう言って、土御門は肩を竦めると、デラックスハンバーガーに再度齧り付いた。強くバン
ズを押し潰し過ぎたのか、そのハンバーガーを持つ手がソースで汚れている。
 一旦ハンバーガーを皿に置き、テーブルに置いてあるウェットタオルで手を拭いている土御
門を見ながら、七代はハンバーグをナイフで小さく切って口に運んだ。
 何故だがあまり味を感じられなかった。











 食事を終え、土御門と別れて現在七代は帰宅途中である。
 夏の夜、とはいってもまだ空は明るい。薄っすらと膜が張られたような空を見上げ、そして
辺りを見回してみるが、人気はあまりない。というのも、最終下校時刻を回り、教師陣で構成
された治安維持部隊『警備員』(アンチスキル)が、たむろしている学生達を自宅へと追いや
っている――からでもなく、単に七代が人気の少ない道を選んで歩いているからだ。
 大通りから外れ、七代は路地をのんびりと歩く。錆び付いた鉄製のゴミ箱や所々不可解に曲
がった鉄パイプが、茜色の光と合い重なって、不良学生の青春のワンシーンを思い浮かばせた。
 足元に転がっている空き缶を蹴飛ばす。カラン、という音が狭い路地に響き、一瞬の間の後、
ジャリ、と音が七代の背後から聞こえた。

「……で? 何処の誰かは知りませんが、一体何時まで付いて来るつもりですかねぇ?」

 そう言って、七代が振り向いた先に、見た目十二歳くらいの少女がいた。立ち止まった七代
の三メートル程後ろで同じく立ち止まっている。
 大通りならまだしも、こんな路地では見つかっても無理はない。七代は、その少女からの返
答を黙って待つことにした。

「さすがは七代さん。超感動の再会(意図的)にも動じないとは超やりますね。仮に忘れられ
てるのだとしたら超がっかりですけど」
「……はい?」

 知り合い? と疑問符を浮かべ、七代はじっくりと少女の顔を見つめてみた。少女は真剣な
表情で見つめてくる七代を見て、気まずそうに左頬を人差し指で掻いている。
 しばし無言の状態が続いたが、七代が何かを思い出したように声を上げると、少女も僅かに
安堵の溜息を零した。

「……あぁ、君もしかして!」
「そうです。思い出してくれて超うれしいですよ」

 少女は笑みを浮かべながら、七代の所へと歩いていく。その七代は、何だか唸り声を上げて
少女の顔をまじまじと見ていた。
 少女が思わず首を傾げた時、

「――俺と会った事ないよねぇ?」
「超がっかりです!!」

 少女が言うや否や早足で一気に七代の傍へと近付いてきたので、七代は思わず仰け反った。

「女の子にその反応は失礼だと超思うんですけど、それよりも!! 忘れられてる事に超がっか
りです!! 絹旗です!! 絹旗最愛です!! 思い出しましたか!?」
「いやー、俺には君みたいな際どいワンピース着て太もも露出してる素敵少女さんの知り合い
はいないはずなんだけどねぇ」
「これは角度も視野に入れて完璧に超計算された一品です!! 見えそうで見えないこのチラリ
ズム的な要素が超良いんです!!」
「あー、はいはい。眼福眼福。という訳で用がないなら帰るねぇ」
「あっ!! 結局無かった事にしようとしてやがりますね!?」

 踵を返してスタスタと歩き出す七代の後を絹旗が追う。若干小走りで横に並んだ絹旗を、七
代は横目で見やりながら思考の海へと潜り込んだ。
 何処で出会ったのか。何の目的で現れたのか。――しかし、いくら考えても答えは全く出て
こない。

「七代さん」
「……ん?」

七代があれこれと頭を悩ませていると、絹旗がぼそっと呟いた声が耳に入り、強制的に思考
を中断させられた。
 七代は後頭部をぽりぽりと掻きながら、意識をそちらへと向ける。それを見計らって、絹旗
は言った。



「さっきから超思ってたんですけど。その作り笑いとエセ口調、超キモいです」



「んなっ!?」

 七代は顔の筋肉がどうにかなりそうだ、と思った。鏡で見たら引き攣っている事間違いなし
だろう。喉がプルプルと震え、即座に思ったように声が出せない。

「……つ、作り笑い? エセ口調? 気持ち悪いってそりゃ失礼だねぇ」
「思った事を素直に超言っただけです。つーか何でそんな超別人みたいに振舞ってるんですか?」

 七代はその場に立ち止まり、絹旗の顔を凝視した。その瞳は妙に暗い色をしており、その表
情から感情を読み取る事など出来はしない。
 先程までの暢気、陽気な雰囲気は見る影もなく。しかし、その七代の様子を見ている絹旗か
らは、何処か喜色な様子が伺える。
 七代は静かに息を吐き、汚れを落とすかのように靴底を強く地面に擦り付けた。



「――ふん、どうやら会った事があるってのは本当らしい。それも最近じゃねぇな。少なくと
も一年以上は前のはずだが、悪いが覚えてねぇ。……そんな浅い知人のはずのお前が、俺に一
体何の用だ?」

 今の七代ではない七代――暢気で陽気な雰囲気を持つ彼は、風紀委員に志願する際に作られ
たものだ。とある理由から『風紀委員に志願しなければならない状態』になった七代が、元々
の性格、口調からは適正試験を通過できないと判断した為である。
 風紀委員に所属する為には、九枚の誓約書にサインし、十三種の適正試験を通過し、四ヶ月
にも及ぶ研修を受けなければいけない。
 もちろん今の七代のような乱暴な口調、そして態度では受かるはずもないのである。
 ――最も、それ以外にも理由はあるのだが。
 七代はニヤリ、と口を吊り上げて厭らしく笑った。それに対し、絹旗は変わらぬ様子できっ
ぱりと一言呟いた。

「超会いに来ただけです」
「……はぁ? 俺が忘れてるくらいだから面識は浅いはずだろ。お前はあれか? そんな人間
にもへこへこ腰振って付いていくようなビッチか?」
「ビッチじゃありません。つーか、本当に超会いに来ただけですよ?」
「はっ! 信じられるかよ、んな話」

 七代は軽く舌打ちをして、首の骨をコキリと鳴らした。
 七代歪という人物は本来卑屈で、悲観的思考の持ち主で、そしてすぐには人を信用しようと
しない人間である。だからこそ、自分が納得するような理由がない限り、何度同じ事を言われ
ようが信じる事はあり得ない。
 絹旗もそれを感じ取ったのか。違う言葉をもって七代に真意を伝えようと口を開いた。

「そもそも初めて七代さんに超会ったのは、今の七代さんでもないです」
「……あぁ?」
「覚えていませんかね? 六年程前、同じ施設に超居たんですが」

 六年前、施設と聞いて七代がまず最初に頭に浮かべたのは、この学園都市に来てすぐ入った
児童保護施設である。
 学園都市には『置き去り』(チャイルドエラー)という社会現象がある。学園都市は全寮制
であり、入学した者は原則として学園都市内に住居を持たなければならないのだが、その制度
を逆手にとって、親が入寮費だけを支払って蒸発する事である。

 ――そして、七代歪は『置き去り』の子供であった。

 七代歪は幼少の頃から変わった子供だった。誰とでも仲良くなれるような人格を持ち合わせ
ていたが、同時に何処か一線を引いて接していた部分もあり、何処か冷めた目で周囲を見てい
た。アニメ等は全く見ずに報道番組ばかり見て、「信じられない」が口癖。
 大人からは変な目で見られ、そして敬遠され、それが高じて親へとその攻撃が始まった。最
初こそ無理にでも笑って七代を守っていたが、それも二年で限界が来たのだろう。両親は七代
を学園都市に連れて来ると、そのまま何処かへ消え、以後全くの音信不通となった。
 その後、確かに七代は児童施設に保護された。十数人ほどしか居ない小さな施設で、たった
二年程しか居なかったが、七代は今でも少しは覚えている。
 その中から、あれこれと取捨選択して思い出そうとするも、七代は絹旗に関する事は全く思
い出せなかった。
 後頭部をぽりぽりと掻いて、苦い顔をする七代を見て、絹旗は付け足すように口を開いた。

「『最愛なんて変な名前。君も同じ捨てられた身なのに、何で君の親は愛なんて字をつけたん
だろうな。どちらかと言えば哀しいの哀だろ』。そう言ったんですよ? 超初対面のかわいい
少女に。私も『これから幸せになって超胸張って『最愛』って名乗るんです』って超言い返し
たんですが」

 それを言われて、ようやく七代は断片的に思い出し始めた。後頭部に手をやったまま、ぽか
んと目の前の少女を見て、

「……あぁ、そういや居たわ。妙に生意気なガキンチョが」
「思い出してくれたのは超嬉しいですけど、言っておきますが当時の七代さんも超生意気なガ
キンチョでしたよ?」
「はっ! 全く変わりねぇこって」
「……いえ、超変わりましたよ。大変身って奴です。さぁ、目を超見開いて見やがれです!! 
この超セクシーなボデーを!!」
 
 絹旗はそう言って腰に手を当て踏ん反り返るが、それを見ている七代は呆気に取られて、ぽ
かんと眺める事しか出来なかった。
 その七代の様子を見た絹旗は何を勘違いしたのか。ニヤリと笑って、

「ほほう、さすがは超七代さん。お目が超高い。この私の超セクシーなスタイルに悩殺という
事ですね」
「――はぁ? ちょっと待て。お前、何を勘違いしてやがる」
「勘違いも何も、私は事実を超述べただけです」
「……はぁ、付き合ってられん」

 七代は後頭部をぽりぽりと掻きながら、踵を返した。そして、そのまま早足に歩き始めたの
を見て、絹旗は慌ててそれを追う。

「……おい、何で付いてくる。もう話す事も別にないだろ?」
「いえ、まだ超終わってません。結局、この私の超セクシーなスタイルに悩殺という事でいい
んですね?」
「あー、はいはい。悩殺されたされました! ったく、これでもう用は済んだだろうが」

 絹旗の言葉に、七代は若干うんざりしながら投げやりに返した。それを聞いた絹旗はニヤリ
と笑っている。七代はその絹旗の様子に嫌な予感を抱いたが、黙ってただ歩を進めた。

「……で? 何でまだ付いてくるんだよ」
「何でって……もちろん七代さんの家に超遊びに行こうかと」
「はぁ? 何で?」
「何でって……積もる話も超あるんで」
「ねぇよ。とっとと帰れ」
「超つれないですね。いいじゃないですか。こんなセクシー中学生と家で超二人っきりなんて
素敵なイベントを、七代さんは超見過ごすつもりですか?」
「はっ! お前みたいなガキなんぞと居ても何の感情も抱かんわ」
「はっきりと超言いやがりましたね言いましたよ言いましたね? 超聞きましたよ」
「あ゛-!! うるせぇ奴だな」

 そんな事を言い合っている内に、路地を抜けて大通りへと出る。既に七代宅は近い。
 七代はこのまま素直に帰らずに、何処かで絹旗を撒いてから帰ろうかと思っていた。別に馴
れ合う必要はないのだ、と。
 しかし、絹旗は若干離れた所に見える建物を指差して、

「あー、確かあれです。七代さんの学生寮」
「んなっ!?」

 何で知ってやがる、と問いただしたい所だったが、場所は生憎大通り。つまり学生がまだま
ばらにだが居る。
 七代はスッと一度息を吸うと、楽観的な表情を顔面に貼り付けた。
 

「あー、何で知ってるのかねぇ?」


「……今の七代さんは超キモくて超馬鹿七代といったところですかね。超好きになれないです」

 七代が口を開いた途端に、絹旗の表情は一変して不機嫌なものを化していた。本性を知って
いる人間からしたら、違和感だらけでそう思うのだろう。

「別に嫌われてもいいんだけどねぇ? ま、俺も今聞きたいことが出来た事だし、招待するよ」

 絹旗はその言葉に何も返さず、黙って七代の後を追う。
 数分間の静寂の後、七代の住む学生寮へと到着する。エントランスにあるロックを外し、そ
のすぐ傍にあるエレベーターに二人乗り込んだ。
 八階のボタンを押し、二人を乗せたエレベーターは一気に上昇していく。十数秒ほどで八階
に辿り着くと、そのまま廊下へと出る。エレベーターから見れば、山の字を逆さにした様な廊
下である。その真ん中から突き当たりを左へ曲がり、更に突き当たりを左へ曲がる。
 七代の部屋は一番奥にあった。
 鍵を開けて部屋の中へと入る。靴を脱ぎ、後ろに居る絹旗がドアをバタンと閉めた音が聞こ
えると共に、七代は再びガラリと雰囲気を変えた。

「まぁ適当に寛げよ。茶とかは別に勝手に飲んでもいい」

 そう言って、台所を通り過ぎ、スタスタと歩いて手に持っていた学生鞄をベッドの脇に置く
と、コンピュータの置いてある机の下にある椅子を引き出してドカッと座った。
 しばし遅れて、絹旗もやって来るが、どうも異性の部屋に入るのは初めてなのか、若干緊張
しているようにも見える。

「なるほど、これが七代さんの部屋ですか。らしいといえば超らしいです」

 絹旗は質素な部屋を見回して、そう呟くと、ベッドの上にポスンと座りこんだ。そしてスゥ
と軽く空気を吸い込んでいた。
 絹旗が息を吐いたのを確認してから、七代は疑問に思っていた事を切り出した。

「さっき無言で歩いてる時に三つほど疑問が出てきたんだがよ、一個ずつ聞いていくわ。一つ
目――調べたんだろうが、俺の家を知っていたのなら、直接尋ねればいいものを、何で尾行な
んてしてやがった?」
「……それは私の知っている七代さんと、情報が超合わなかったからです。それも七代さんが
超馬鹿七代を演じていたからですけど。風紀委員に所属とか超有り得ないと思いましたし、本
当に私の知る七代さんなのか確証が超持てなかったんで、尾行して超確認してました」

 絹旗は『面倒な事しやがって』とでもいうような視線を七代に向けていたが、七代はそれを
華麗に無視していた。

「二つ目――何で今更俺に会おうなんて思ったんだ?」
「超会いたくなったからです」

 即答だった。しかし、これでは七代も納得がいかなかったので、再度問う。

「その会いたくなった理由は?」
「会いたくなるのに理由が必要ですか? 七代さんもやはり超変わっていませんね。器が超小
せぇ」
「てめぇも相変わらずだな、おい」

 こめかみがピクピクと震えているのを自覚しながら、七代は何とか平常心を保とうとした。
絹旗がニヤリと笑っているのが癇に障ったが、七代は続けて三つ目の質問をする。

「まぁいい、最後の質問だ。――お前、今幸せか?」 

 その質問に、絹旗は大きな目をぱちくりと何度も瞬きさせていた。何処か意外な所でもあっ
たのだろうか。とはいえ、別に問いただすほどの事でもないので、七代は放っておいた。

「まさかまさかの質問ですね。血も涙の欠片も超無いような人だと思っていたのに、そんな超
他人を思いやるような質問ができるとは。訂正します。七代さんは超変わりました。えぇ、私
の超セクシーボデーくらいには」
「うるせぇいいから答えろ」
「――幸せとは超言えませんね。なんで七代さんには私が幸せになれるよう超協力してくれる
と嬉しいんですけど」

 はぁ? と七代が思わず口にするが、絹旗は何故か七代をジト目で見ており、ワンピースの
スカート部分を摘んでいる両手が忙しなく小刻みに動いていた。そして徐に溜息を吐くと、

「それにしても七代さん。本当に超変わりないですね。部屋に男と女が二人っきりだというの
に。何だかショックを超隠しきれません」
「――さっきも言ったが、お前みたいなガキなんぞといたところで何の感情も抱かんわ」
「――はっきりと超言ってくれやがりますね。おーけい、いいでしょう。それは私に対する挑
戦だと超受け取りました。この超攻撃で悩殺されるがいーです」

 そう言うと、絹旗はベッドから降りると、ワンピースのスカート部分に手をかけた。そして
少しずつ、本当にゆっくりと持ち上げていく。

「ほれ、ほれほれ。どーですか七代さん。この超攻撃の前にはさすがの七代さんでも超平然と
してられるはずがありません」
「――何やってんだこのビッチが」
「だぁぁぁぁぁぁぁ!! 超ありえねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 まるで見たくも無い、とでもいうように顔ごと視線を逸らす七代を見て、絹旗は没落貴族の
ように崩れ去った。
 しかし、よく見れば若干七代の頬は赤く染まっている。ふと顔を上げた絹旗は目敏くそれを
見つけると、

「――ほほう? これはこれは七代さん。とんだ超シャイボーイだったんですね。照れ隠しと
はこれまた超かわいいです。やはり七代さんも超男だったというわけですね。ふふふ、それな
ら続きといきましょう。ほれ、ほーれほれ」
「なっ!? こ、こんの――!! いい加減やめろっつーの!!」
「そう言いつつ横目でちらちら超見てますよね」
「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! やめろっつうのがわかんねぇのか!!」
「素直に超見たいと言えばいいのに。ですが、七代さんは既に陥落寸前と見ました。これで私
の勝利は超確定したようなものですね」

 絹旗は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。どうも負けず嫌いな面があるらしい。
 その言葉を聞いて、七代は目を細めた。スゥ、と軽く息を吸うと、

「何やってんだろうねぇ、この絹旗さんは。全く、少しは恥じらいをもって欲しいもんだねぇ」
「やめてください超キモいんですけど」

 絹旗はスカートを持っていた手をぱっと離すと、陽気な表情でHAHAHAと笑っている七
代から視線を逸らした。
 それを見た七代はニヤリと笑うと、

「あー、君みたいな素敵少女さんが同じ部屋にいるなんてまるで夢のようだねぇ。いや、眼福
眼福」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! マジ超キモいんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 絹旗は両手で耳を塞いで叫ぶ。隣の部屋の住人から『うるせぇぇ!!』と壁を何度も叩かれる
まで、二人の攻防は続いた。
 七月十七日、午後八時。七代の部屋は珍しく騒がしかった。



[15727] 1/行間 一
Name: 猫世◆ccb0c5e0 ID:f6c4f25d
Date: 2010/02/06 16:17

1/行間 一



 少年は死骸の群れと戯れていた。
 
 少年のいるその場所は、床も壁も天井も全てコンクリートで覆われている。天井には人工的
な星空が作り出されており、壁には高圧電流線による網が張られている。
 ――まるで、檻の中のようであった。
 しかし、実際見回してみると、建物らしきものも幾つか存在する。この空間が元々少々狭い
のもあり、一区画に建物を詰め込んだような状態になっているが。

 そんな建物と建物の間、僅か二メートル程の狭い場所に、少年はしゃがみ込んでいた。
 少年の前にはたくさんの人が折り重なって倒れており、皆同様に既に命を失っている。その
光景を目に入れながら、少年は立ち上がる。その手にはゴミ袋が握られていた。
 ふらふらとした足取りでその場から出ると、右手にある建物の中へと足を進めた。
 その建物は廃墟のようなもので、内部はガランとしており、物はといえば特大ゴミ袋の残骸
くらしか目に入らない。
 少年は右手に持っていたゴミ袋をドサッと床に落とし、ゴミ袋を乱暴に破り開けて中を漁っ
ていた。
 ガサガサとした物音が数秒間響いた後に途絶え、少年の手には賞味期限の切れた惣菜パンが
握られている。その包装をやはり乱雑に破り開けて、そして一心不乱に齧り付いた。
 少年にとって、ゴミ袋を漁る事も、賞味期限の切れた食べ物を食す事も、そしてそれを手に
入れる為に人を襲う事も当たり前のような事であった。それは少年に限らず、この檻のような
世界に生きる者達にとっては。

 此処は学園都市第二十二学区の最下層――『掃き溜め』(ダストガーデン)。『置き去り』
達が最終的に到る場所である。
 一言に『置き去り』といっても、それは二種類に分けられる。きちんと施設に保護され、真
っ当な道を歩む者。学園都市の研究チームによって、その研究の実験体とされ、辛苦な道を歩
む者。
 この『掃き溜め』に来る者は後者であり、尚且つその研究に役立てなかった者達だ。とは言
え、その全てが此処へと来るわけではない。研究者によってその命を剥奪される事もあるから
である。そうした観点から見れば、この場所に到る事はまだ良い方であるかもしれない。
 しかし、それでもこの場所が辛苦なところである事には変わりはない。
 惣菜パンを食べ終え、新しい食料を物色する為に再びゴミ袋へと手を突っ込みながら少年は、

「――外に出たいなぁ」

 叶わないと知りながらも、毎日のように口にするその言葉を呟いて、少年はガサガサとゴミ
袋の中身を漁り始めた。


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