百合根

マイナー作物であるが為の生産者の嘆き。(2003 7月)
ゆり根は作物で言えば、マイナー作物なのです。タマネギはいろんな技術体系があり、病害虫防除も薬剤がそろっています。
同じ仲間なのに、作付けが少ないマイナー作物と言うことで、技術体系は遅れていますし、病害虫防除も登録薬剤が少ないのです。
ゆり根は、ウィルスが大敵なのです。葉枯れ病も大敵なのです。でも、薬剤が少ないので、販売するまでに2,3年かかるその間は、網質で隔離するのです。
隔離しても、葉枯れ病とアブラムシはどこからか進入するのです。アブラムシが進入して、ウィルスを伝播すると、翌年は収穫できないのです。
だから、百合を作る人たちは、アブラムシや葉枯れと少ない薬剤で格闘しているのですよ。
農薬登録の少ない品目は、経過措置として産地が要望して使用薬剤を経過的に認めてもらうのですが、アブラムシの薬剤は、タイプの違う4パターンが必要なのです。
葉枯れ病もタイプの違う3、4パターン必要なのです。同じ剤では限界があるのです。
他の作物とは違い、ゆり根は、販売球と一緒に養成、鱗片種球も同時に栽培しているので、(一般馬鈴薯と種子馬鈴薯を栽培しているような物)羽をダメにすると、
その後数年間は、販売面積に影響するのです。
だから、生産者は必死なのです。此処を見ている方がおられましたら、生産者の厳しい状況をどうか理解して下さい。
北海道に来て、ゆり根の葉が、茶色になって枯れていたら、其れはおそらく、天候のせいもあるのでしょうが、防除が完全に出来なかった結果なのです。
販売球がダメなら、せめて種球だけでも種馬鈴薯の防除に準じること(同じウィルス防除=アブラムシ防除)が出来たらなあと言うのが、生産者の本音なのです。
タマネギのように白斑葉枯れ病や灰色腐敗病に準じる防除(おなじボトリチス系のカビ)が出来たらなあ、と言うのが本音なのです。


経過措置により数種類の殺虫剤と殺菌剤の使用が可能となりました。いろいろ論議していただいた、関係各位に対して深くお礼申し上げます。
(2003 8月)

始めに
百合根に関する資料は、ネット上では少ないようです。 ここでの百合根の記述は、個人の主観等が入っていたり、間違いがあるかもしれません。 ネット上への掲載に対して、以上について注意しておりますが、その旨ご理解いただき、ご指摘等があればメールなどで頂ければ幸いです。
  *参考 北海道の野菜 食用ユリ編(農業技術普及協会)、東山地区百合根部会20周年記念誌


百合根について
百合は、カサブランカに代表される「花百合」と食用の「百合根」に分かれますが、ここでは、後者の「食用百合」について述べます。
百合は、分類上ではゆり科に属する作物です。ゆり科は、小区分のネギ属に玉ネギ、長ネギ、ニンニク、ニラなど、アスパラ属にアスパラ等があります。食する部位が違うので、同類とは思えませんが、親戚なのですね。

百合根は、日本の中でも北海道での栽培が多い作物です。 主な消費は、伝統的に関西が多いのですが、かき百合(パック詰めのかいたゆり)の普及により、 関東などでも消費が増えています。 関西では、「松茸同様高級志向の食材」です。
対し、かき百合は、百合の玉(根)をかいてバラバラにしたものを真空パックに詰め、安価な価格で供給し一般消費者への供給としています。

北海道の産地としては、全道一面積の多い真狩方面、富良野方面、道北方面(剣淵名寄方面)、空知方面等があります。
富良野地方での栽培は、大正頃より一部始まっていたと思われ、本格的に栽培されたのは、昭和30年代のようです。
現在は、全道で、約200ha 約40万ケース(5kg)程度の生産があります。 うち富良野の中の当東山地区では、17ha 約4万ケース(5kg)を生産しております。生産者約40名。
1ケース4000円として、ざっと1億6千万円ほどの売り上げでしょうか。


百合根の品種
百合根は、花百合でもそうですが品種の多い作物で、百合全体では、100種類ほどもあるようです。
ただ、食用の百合根の場合、花百合と違い、複数の品種が出回る例は少なく、その時代の最も有効な品種が栽培されます。
昔は、いわゆる職人気質の百合に対し情熱を持った農家の方たちが、品種改良(ある百合を選抜交配し新たな百合を品種として固定)していましたが、昭和57年頃より、ホクレンの手で「ウィルスフリー化」した「白銀」という品種を供給して現在に至っております。

「ウィルスフリー化」
百合根の場合、ウィルスによる影響が特に強く、減収したり品質低下の原因となります。
しかし、ウィルスは、作物の成長点部分(芽の周辺など)にはきわめて少ないことから、元となる百合根の成長点から、バイオテクノロジー(茎頂培養)により細胞を取り、それを培養し増殖しています。
これを、「ウィルスフリー化」と呼んでいます。

歴代の百合根の品種について
歴代の百合根の品種はその時代の中で、勝れたものが栽培されていました。
普及し広まるにつれ、品種の問題点や退化等につながり次の品種へと世代交代していきます。 一般的に10年ほどが品種の限界と言われておりますが、現在の白銀は次世代の候補の問題もあり、20年近くもその主役の座を保っています。

昭和30年代から40年代 ・・・ 空育シリーズ、北海白、角田百合、和田百合、一色百合など
昭和40年代から50年代 ・・・・ カワイ百合、渡辺百合、夕映など
昭和60年代から現在まで ・・・・  白銀(ウィルスフリー化)

渡辺百合の由来についてひとこと。
昭和50年頃に一世を風靡(ふうび)した渡辺百合は、富良野市山部に住む渡辺さんと言う方が品種を固定したのですが、その元は、当時東山地区に 在住していた刈屋さんという方の花畑にあったそうです。
知り合いの渡辺さんがその百合に注目し、昭和40,50年代に最も栽培された、渡辺百合の誕生となったのです。
甲高の形の良い渡辺百合は、当時最良の品種でした。
ふとしたきっかけで新たなものが生み出された、この渡辺さんと刈屋さん宅にあった百合との出会いは、当時の渡辺さんという百合に情熱をかけた方の意気込みと東山地区の因縁のようなものを感じます。

百合根の栽培
百合根は、管理状況や気象、土壌の条件などが複雑に作用し、それらが病害虫や生育に影響します。 従って、作物の中では、栽培しにくいものの1つといえるでしょう。 メロンやハウス野菜とはやや理由が異なりますが、奥の深い作物だと思います。
以下に於ける栽培は、北海道の富良野(東山地区)における事例を基にしております。

栽培の前の基本事項(単語など)
成球(販売球)= 一般的に販売されている玉百合のことです。
養成球    = 販売球の元種です。販売球を小さくしたものと考えて下さい。1球20から40g程度
子球(木子) = 養成球の元種です。養成球を更に小さくしたものと考えて下さい。1球数gから6g
りん片    = 百合根はリン片と呼ばれるものが集まって球になっています。キャベツの葉が集まって球になっているのと同様です。

品質を考えないで、百合を増やすことは簡単です。販売球を購入し、それをかき百合のようにかいて、土に植えれば、子球(木子)がつきます。この子球を1年育てれば養成球に、もう1年育てれば、成球(販売球)となるのです。現実的には、ウイルスの問題や退化の問題(茎が扁平になったり、球が3つ玉、4つ玉になるなど)があるので、そう簡単には行きません。

栽培の流れ
ウィルスフリー化された、元種(子球)をホクレンより供給を受け、原種ほで栽培します。
原種ほでは、網室栽培やきめ細かな病害虫防除により、ウィルスにおかされていない種を供給できます。
原種ほでは、植えた元種(子球)は、養成球(肥大の良いものは、成球ほどにもなる)となり、更に、子球も新たに着生します。

この種を各生産者に供給、配分し、養成畑では種球を、販売畑では販売球を生産します。
当然、販売に至る前の種栽培(子球など)は、原種ほと同様に網室栽培となります。

生産者は、百合根の販売球を栽培すると同時に、1.2年後の販売球となる元種である子球や養成球を栽培しているのです。
百合根の栽培では、最短年数で販売球に持っていくことが重要です。
つまり、その球の世代が若ければ、肥大性が良く(子球では10倍程、養成球で数倍に肥大)白度のある良い百合が生産されるのです。
栽培前の基本事項でも述べたとおり、販売球から、再度、子球へとフードバックし、販売球にすることはできますが、世代が古くなってしまうことで、ウィルスにやられたり、退化してしまいます。

一般的栽培法
ここでは、東山地区の主流である春植えを例としていますので、ご注意下さい。(他の産地では、秋植えが多い)

・元種の準備
ウィルスにおかされていない種を用意します。 この際、販売用の養成球では、大きさごとに2.3段階にそろえ、球の表面や根が健全なものを選びます。 (例えば種を20g弱、30g前後、40g強などに分けて栽培すると後の管理が楽)

・畑の準備(前年秋より)
春植では、前年の秋に有機質を施します。(米ヌカやケイフンなどを150kg前後) 春雪解け後、畑が乾き次第、土を耕し肥料をふります。(秋植では、10月初旬頃) 野菜用の有機肥料などを10a(300坪=1000u)当たり、窒素成分で15kg前後。 (窒素成分10%の肥料では、150kg前後/10a の使用となります。)

・植え込み(4月下旬ー5月上旬)
植え込みは1条植と2条植(ちどり)とがありますが、10a当たり、2万球から2万5千球とします。 (畦幅70p、株間12pの2条の場合、23800球となります) 植え付けに当たっては、種子の消毒(殺虫、殺菌)を行います。

・管理作業1 病害虫(6月より9月末まで)
植え付け後、高畦(土を高く盛る、いもの培土と同様)とし、必要に応じて雑草を除去します。
萌芽以降、6月中旬頃より病害虫防除をします。
ウィルスには、アブラムシが深く関与しているので、アブラムシに注意し、網室栽培やアブラムシ防除につとめる。
6月中旬以降、温度が上がり降雨が多いとカビ系(ボトリチスなど)の病気が発生するので、カビ系に効果のある殺菌剤を使用します。

百合根の主要病害虫
アブラムシ ウィルスを伝播する主犯であり、殺虫剤や網室より防除又は隔離が必要。
ネダニ   百合根の根部に寄生する。土壌中の害虫であり、地上からの防除は困難であるため、植え付け前の種子消毒や植え付け時に薬剤の土壌混和等の処理をします。
葉枯れ病  ボトリチス(カビ系)により、百合の葉先や頂葉から枯れる。カビ系に効果のある薬剤で防除.。 夏場の降雨の多い条件では、数日で多発することがある。
葉枯れ症状 ウィルスにより葉が枯れる症状。アブラムシの防除対策必要。 白銀では、複数のウィルスの重複感染により、過激に葉が枯れる場合がある。摘らい前後での過激な葉枯れは、この可能性が高いと思われる。

・管理作業2 摘らい(7月上中旬)
摘らいとは、百合の花のつぼみを取ることです。咲かせるときれいなのですが、百合根はその名の通り根の肥大が全てです。花を持つと肥大に影響するようなので、必ず早めに摘らいをします。 摘らいの時期として、つぼみ下の茎のようなものが、1,2p伸びた頃が作業性の面からも目安となります。この際、無理に取ると周囲の葉(止葉)を痛めるので、注意します。

・収穫(9月ー10月)
こちらでは10月には霜が降り茎が枯れる(球の肥大が止まる)ので、収穫時期となりますが、販売や労力の問題により8月以降から順次時差収穫します。 収穫は、畑で堀取り後、茎と根(球)を分離し傷を付けないように、慎重にミニコンテナなどに入れて畑から持ち出します。

・根切り・選別、出荷
根切りは、球の下の根をテングスなどで、まきながら引っ張り切断します。 その後、水で土や汚れを落とし、傷や変形などを除き規格ごとに箱詰めします。 この際、百合は打撲に非常に弱いため、卵を扱うように慎重に取り扱いをしなければなりません。

・百合根の保存法
百合根は、芋や玉葱と違い比較的日持ちの悪い野菜です。 保存に当たっては、なるべく涼しい場所で、若干湿らせたおが屑(片手で握ると軽くかたまり、ひび割れする程度)などに入れて、保存すると良いでしょう。


百合根の栄養価
高級食材としてのイメージが強い百合根ですが、滋養強壮、抗ガン作用などに勝れていると言う報告もあります。
表にある通り、ジャガイモ同様、澱粉質が多く炭水化物中心ですが、タンパク質やカルシウム、リン等は、ジャガイモより多く含まれます。

表 - 作物100g当たりの栄養価
作 物 名 エネルギー 炭水化物 タンパク質 カルシウム リ  ン ビタミンB1 ビタミンB2 ビタミンC
百 合 根 124Kcal 27g 3.7g 10g 70g 0.08g 0.07g 10g
ジャガイモ 80Kcal 17g 2.0g  5g 55g 0.11g 0.03g 23g



道産百合根の課題と問題点
・品種の問題・・・栽培者側から
現在「白銀」が栽培されておりますが、次世代の品種が決定していません。 それだけ白銀は勝れていると言うことであり、ウイルスフリーの体系がしっかりしていると言うことでもあります。
しかしながら、野菜では複数品種が棲み分けし栽培されていることを考えると、異例のことと言わなければなりません。
もしこの品種が何らかの原因でダメになったら、そう考えると、早期に第2、第3の品種の出現が望まれます。

・消費の問題・・・消費者側から
消費の問題に触れる前に、北海道で栽培されている野菜の中で、地元で余り消費されていないものの代表として、この百合根が上げられます。裏を返せば、関西に根ざした食材と言うことなのでしょうが、せめて地元でももっと消費して欲しいと思います。
かき百合により、安価な価格で供給され、消費が広がったとは思いますが、百合根はまだまだ高級志向が強いイメージがあります。
それと同時に手軽に料理できる料理法などPR活動は重要でしょう。
ここ数年、バブル後の百合根の価格は散々でした。
品質の問題もありましたが、低成長時代に於ける百合根の新たな位置づけが必要に思います。
生産者サイドの問題で言えば、百合根はその手間と経費を考えるとKg当たり、800円は欲しい品目です。
新たな位置づけの中で、kg800円が魅力となる方策が必要です。