苦境にあえぐゲーム業界
復活に向けた未来への処方箋

 以上のまとめとして、ソフトメーカー、およびソフトハウスのための未来への処方箋を考えてみたい。

◆処方箋その1:大ヒットハードに依存しすぎない。

 どんなにあるハードが大ヒットしていても、ひとつのハードに依存しすぎるのは大変危険だ。ハードメーカーによる護送船団に慣れきってしまうと、ハードのエコシステムが消滅したときに経営体力が持たない。

 バンダイナムコホールディングスの石川祝男社長は、以前ゲームスの社長だった時に「儲かるのであれば、どんなハードとでも組む」と話しており、実際マイクロソフトの家庭用ゲーム機「Xbox360」で「アイドルマスター」をヒットさせている実績がある。それぞれのハードが持つ市場の特徴を捉えて、ハードメーカーと付き合う能力が求められる。そのためには、日々の研さんを積み、オンリーワンの開発力向上にいそしむことが不可欠だ。

◆処方箋その2:儲かっているときこそ内部留保の充実を

 会社経営にも、開発力アップにも欠かせないのが、お金だ。任天堂は毎年経営戦略説明会で内部留保の多さを指摘されるが、昨今の大不況でもびくともしない現在の任天堂の状況が、その方針の正しさを証明している。

 ゲームビジネスはいつもうまくいくとは限らず、近年のような不景気に襲われることもある。さすがの任天堂も不景気の影響を受けて、10年3月期末決算は下方修正に追い込まれたが、それでも純利益で2300億円という高水準を維持できているのは、潤沢な内部留保が企業活動を支えている結果と言えるだろう。

 また、資金調達ルートを持つソフトメーカー(パブリッシャー)はともかく、中小のソフトハウスは特に経営体力をつけることを第1に考えた方がよい。ある関係者の話によれば「あるハードメーカーは、ソフトハウスにはスキルと同じくらい、経営能力を求めている。いくら腕がよくても、お金の使い方が甘い会社とは付き合いたくないと話していた」という。シングの倒産から、ソフトハウスが得る教訓は多いはずだ。

◆処方箋その3:ニッチ産業としての誇りを持つ

「最近10年のゲーム産業は変な期待を背負いすぎ」と指摘するのは、小山友介芝浦工業大准教授だ。ゲーム業界はハイテク、マルチメディア、IT、ネットベンチャーなどの旗手として世の中が寄せる期待を、受け止めすぎているという。確かに、業界に対する今までの世間のイメージが悪すぎたので、なんとかイメージアップを図ろうと背伸びしていたのは事実だ。

 小山准教授は「ゲーム産業はもともとニッチ産業だった。ニッチでいいじゃないですか」と語る。オールマイティな能力ではなく、ひとつだけは誰よりも上手にできる。そのような能力形成が求められている時代なのだろう。

 そのためには、福岡の関係者が目指してきた「自立と共存」が不可欠だ。それぞれが自立しつつ、共存できるような関係性の構築を目指していくべきだと考えられる。

<筆者プロフィール>
石島照代(いしじま てるよ)
1972年生まれ。1999年から業界ウォッチャーとしての活動を始める。現在は「夕刊フジ」本紙とウェブ媒体「ZAKZAK」(産業経済新聞社刊)、「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)で執筆中。著書に『ゲーム業界の歩き方』(ダイヤモンド社刊)。明治大学文学部を経て、早稲田大学教育学部に在学中。

(注1) レベルファイブ:1998年設立。創業者は日野晃博社長。「レイトン教授」シリーズ、「イナズマイレブン」(ニンテンドーDS用)などを制作。

(注2) ガンバリオン:1999年設立。創業者は山倉千賀子社長。大人気マンガ「ワンピース」シリーズ(ニンテンドーDS用)のゲームソフト開発で知られる。

(注3) サイバーコネクトツー:1996年設立。創業者は松山洋社長。大人気マンガ「NARUTO」のゲームソフト開発で知られる。「愛のないキャラゲーは作ってはいけない」が口癖。 

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