社説
名張事件 再審に門戸を広げねば(4月7日)
最高裁が1961年に三重県名張市で起きた「名張毒ぶどう酒事件」の審理を名古屋高裁に差し戻した。
奥西勝・元被告が犯行に使ったと自白し、有罪の証拠にもなった農薬について、最高裁は「科学的知見に基づく検討をしたとはいえない」と指摘。あらためて審理を尽くすべきだとした。
この事件では、2005年4月に名古屋高裁が再審を決定したが、検察側の異議申し立てを受けた同高裁の別の裁判長は06年12月、決定を取り消していた。
同じ高裁で判断が真っ二つに分かれる異例の展開だったが、最高裁がかつての農薬鑑定に疑問を呈し、事実が未解明とした判断は重い。
物証が少なかった事件だけに、凶器の特定は事件解明の何より重要な鍵になる。
凶器となった農薬が別物だったということになれば、犯罪の構図そのものが成り立たなくなる。
「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法の鉄則に沿った当然の判断だ。むしろ遅すぎた。差し戻し審で証拠を厳密に調べ、再審に門戸を広げたい。
専門家の中には、この段階で差し戻すのではなく、再審開始決定を下すべきだったとする声さえある。
事件は地域の懇親会で農薬入りのぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡、12人が中毒になり、元被告が逮捕された。一度は自白したが、その後否認し、一貫して無実を訴えている。
発生から間もなく半世紀。当時35歳だった元被告は84歳になった。
残された時間は少ない。差し戻し審では、真実の解明に向けて迅速で的確な審理を行ってほしい。
一審は証拠不十分で無罪となったが、二審は一転して死刑、1972年に最高裁で確定した。元被告は7度の再審請求を重ねてきた。
ぶどう酒に混入された農薬は、元被告が自白した通りのニッカリンTだったのか、別の物だったのかが大きな争点になった。
再審決定では、ニッカリンTなら検出されるはずの副生成物が飲み残しのぶどう酒からは出なかったとしたが、異議審では「検出されないこともありうる」との判断を示した。
なぜ、そうした違いが起きたのか。最高裁は差し戻し審であらためて科学的な鑑定を行うよう求めたが、当然の判断だろう。
一審は、無罪を言い渡したなかで元被告の自白に信用性はないとした。足利事件や富山・氷見事件を見るまでもなく、捜査官に虚偽の自白を強いられた例は珍しくない。
差し戻し審では、自白の任意性や信用性についても十分な検証を行うべきだろう。
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