最高裁決定の要旨 名張毒ぶどう酒事件名張毒ぶどう酒事件の最高裁決定(5日付)の要旨は次の通り。(新証拠番号は決定書原文のまま) 【新証拠1】 本件ぶどう酒と同じ形状の栓や瓶を使って開栓したことが分からないような偽装的開栓が可能とする実験結果の報告書など。偽装的な開栓があったことをうかがわせる証拠はなく、抽象的可能性を示すにとどまる。現場状況などから、奥西勝元被告がぶどう酒を公民館に持ち込んで以降、人が集まり始めた午後5時30分ころより前の段階で公民館内で封かん紙を破って耳付き冠頭(外栓)を外し、傷を残すような方法で四つ足替栓(内栓)の開栓も行われ、替栓が再び閉栓されたと推認できる。 特異な開栓方法や、宴会の準備で開栓する必要性がなかったことを考えると、この機会に毒物混入が行われたとみるのが相当だ。 【新証拠2】 確定判決でぶどう酒の瓶に装着されていたものと認定された四つ足替栓の足の1本にある極端な折れ曲がりが人の歯で生じさせることは不可能とする鑑定書など。しかし折れ曲がりが、歯または歯とほかの力の複合的な作用によって生じた可能性を否定するまでの証明力はなく、歯で開けたとする自白の信用性の判断に影響を及ぼさない。 【新証拠4】 火挟みで耳付き冠頭を突き上げて開栓する方法では、封かん紙の破片のような形状が生じることはないとする鑑定書など。元被告は封かん紙をどうしたのか覚えていないとも供述しており、自白の信用性は損なわれない。 【新証拠5】 農薬のニッカリンTには着色料が含まれ、混入後のぶどう酒は赤色になったはずとする報告書など。現場に残っていたぶどう酒にその形跡がなく、本件の毒物は元被告所持のニッカリンTではない、とする主張だが、自白に基づく量を注入しても色に変化がないことは、一審の実験結果回答書などで立証済みだ。毒物がニッカリンTでないことを証明しない。 【新証拠3】 毒物にはトリエチルピロホスフェートが含まれていないことを明らかにし、本件の毒物が同物質を含むニッカリンTでなく、同物質を含まない別のものだった疑いがあるとする2通の鑑定書など。毒物が元被告所持のニッカリンTではなく、犯行に使ったとする自白が信用できないことを立証しようとするものだ。 異議審は、当時の三重県衛生研究所のペーパークロマトグラフ試験でトリエチルピロホスフェートを検出できなかったと考えることも可能としたが疑問だ。各成分の重量比などを考えれば、別成分は検出され、トリエチルピロホスフェートだけ検出限界を下回った理由を合理的に説明できない。 異議審が科学的知見に基づき検討をしたとはいえず、推論過程に誤りがある疑いがある。事実は解明されておらず、審理は尽くされていない。 県衛生研究所の試験で検出されなかったのは、事件検体にニッカリンTが含まれていなかったためか、検察側が主張するように事件検体にニッカリンTが含まれていたとしても濃度が低く、発色反応が非常に弱いことが原因なのかを解明するため、事件検体と近似条件で試験を実施するなど審理を尽くす必要がある。 【田原睦夫裁判官の補足意見】 事件発生から50年近くたち、再審申し立てから8年近く経過した。差し戻し審での証拠調べは必要最小限の範囲に限定して効率良くなされることが肝要だ。化学反応への見解が学者によって対立することは理解に苦しむ。効率的な証拠調べで対立点の早期究明が求められる。 【共同通信】
|