どの国の構成員の資格も持たず、どこの国からも法的に国民と認められない「無国籍」の人たちが国内に約1500人、世界に千数百万人いるとされる。「無国籍者」の存在を可視化する動きがここ数年活発になってきた。「無国籍」の問題が一から理解できる1冊だ。
08年11月に東京の国連大学で開かれたフォーラム「無国籍者からみた世界」の出席者の発言を主にまとめた。無国籍になる理由は国の分裂や紛争後の国境線の引き直し、国同士の法律の食い違いなどだ。国籍がない場合、日本で医療サービスを受けたり、就職、海外渡航をすることは容易ではない。
無国籍の人が日本で実際に経験してきたことや、識者が考える今の制度の問題点などがまとめられ、09年1月に発足した「無国籍ネットワーク」の活動も紹介している。
編集したのは横浜中華街出身で、自らも30年以上無国籍だった国立民族学博物館の女性研究者。長年当事者の苦難に耳を傾けてきた。無国籍の人たちの地位や権利が守られる社会の実現を目指している。明石書店。1890円。【工藤哲】
〔都内版〕
毎日新聞 2010年3月26日 地方版