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中国:麻薬密輸罪、日本人の死刑執行 日本政府は懸念どまり 関係悪化を避ける

 <分析>

 中国で麻薬密輸罪による死刑判決が確定していた赤野光信死刑囚(65)=大阪府出身=の刑が6日、大連市看守所で執行された。中国での日本人の死刑執行は1972年の日中国交正常化以降初めて。中国は、さらに日本人死刑囚3人の刑執行を予定している。日本政府は「刑が重すぎる」と懸念を表明しているが、中国側は薬物犯罪には厳罰で臨む姿勢を崩していない。【隅俊之、吉永康朗、大連(中国遼寧省)浦松丈二】

 ◇昨年12月、廃止国・英は猛反発

 中国では、09年12月に麻薬密輸罪で死刑が確定した英国人男性(53)にも刑が執行されている。ブラウン英首相はこの時、「最大限に強い言葉で非難する」と即座に反発。ロンドンの中国大使館前で抗議集会が開かれ、英メディアも中国に批判的な報道を繰り広げた。

 一方、鳩山由紀夫首相は6日、首相官邸で記者団に、「残念だ。(日中関係に)影響が出ないように国民も冷静に努めていただきたい」と表明。岡田克也外相も「これ以上のことはないと思うが、すでに(中国の程永華駐日)大使を呼び、懸念を伝えてある」と述べた。

 外相の「懸念」表明には、中国をけん制する姿勢を国内に見せることで対中感情の悪化を避け、中国にも日本側への配慮を促す狙いがあった。外務省筋は「日中関係は、まだまだ脆弱(ぜいじゃく)なので、ささいなことでも関係悪化の火種になる」と話し、事態を荒立てたくないという本音をうかがわせる。

 背景にあるのは、ロシアを含めた主要国すべてが死刑を廃止した欧州と存続させている日本の温度差。民主主義国同士でも死刑廃止国かどうかで対応は大きな差を見せており、主要国で日本以外に唯一死刑を残している米国では死刑廃止国であるメキシコとの間でのあつれきが目立っている。

 02年には、メキシコ人死刑囚(33)の刑執行を停止してほしいという要請を拒否されたとして、ブッシュ米大統領(当時)の招待を受けたフォックス・メキシコ大統領(同)が訪米を拒否する外交問題に発展した。

 ◇アジアの16カ国、薬物犯罪で極刑

 覚せい剤を密輸した場合、日本では覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)に問われ、最高刑は無期懲役と罰金1000万円。被告の役割や覚せい剤の分量で量刑は違うが、最近では、千葉地裁で3月、覚せい剤約2・8キロの密輸の罪に問われたシンガポール人の男に懲役9年▽福岡地裁で2月、覚せい剤約1・1キロの密輸などに問われた元暴力団組員に懲役13年--などの判決例がある。分量1キロが死刑の目安という中国の量刑は、日本と比べて格段に重い。

 だが、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、アジアでは、中国やシンガポール、マレーシアなど計16カ国が薬物犯罪で死刑を科している。マレーシアでは、東京都の元看護師(35)が覚せい剤4・6キロを持ち込んだとして起訴されており、有罪なら法定刑は死刑だけだ。

 ただ、中国の死刑には「あまりにも多すぎる」という批判が強い。中国では薬物犯罪以外にも、スクラップとして売るために電線を盗んで死刑になることも多いのだ。停電による大きな社会的損失を重視した結果だというが、国際的基準からは疑問が残る。

 アムネスティが3月に発表した報告書によると、中国の昨年の死刑執行は少なくとも1000人。中国以外で100人を超えたのはイラン(388人)とイラク(120人)だけだった。

 ◇「北朝鮮製」の流入急増

 【大連・浦松丈二】中国が赤野死刑囚の死刑を執行した背景には、中国東北地方(遼寧、吉林、黒竜江の各省)で暗躍する覚せい剤密輸組織を寸断し、北朝鮮から中国への覚せい剤流入ルートを先細りさせる狙いがあるとみられている。

 中国捜査当局によると、赤野死刑囚は06年4月初めに中国の大連を訪れた直後から「容疑者」としてマークされていた。北朝鮮から持ち込まれた覚せい剤609グラムを押収した際、売却先の一人として赤野死刑囚の名前が浮かんだからだ。当時、赤野死刑囚は覚せい剤を探して北朝鮮国境の遼寧省丹東や吉林省延辺朝鮮族自治州延吉などを訪ねた。最終的に中国人の協力で仕入れ、06年9月に大連の空港から仲間の日本人と持ち出そうとして共に逮捕された。捜査当局がこの2人から押収した覚せい剤は純度95%。粗悪な中国製ではなく、国営企業の厳格な管理下で製造される北朝鮮製とみられる。中国で出回る量が急増しており、友好国・中国の捜査当局が北朝鮮の容疑者逮捕を発表し、警告を発したこともある。

 こうした背景には日本が北朝鮮からの日本向け海上密輸ルートの監視を強化した事情がある。01年に鹿児島県奄美大島沖で北朝鮮工作船と日本の海上保安庁の巡視船との銃撃事件が発生し、工作船が覚せい剤を密輸していたことが発覚。新たに陸続きの中国経由ルートが開拓されたのだ。

 消息筋によると、中国当局は大連に本社を置く北朝鮮のIT企業に目を付けている。中国の雲南省昆明や新疆ウイグル自治区ウルムチなどに支社を置き、密輸組織と接触していると疑っている。

 一方、中国が8日にも麻薬密輸罪で刑を執行する3人の中で、名古屋市の武田輝夫死刑囚(67)は日本側密売組織の主犯格とみられ、03年6月に大連で仕入れた約5キロの覚せい剤を日本人5人の「運び屋」に指示し密輸しようとした。

毎日新聞 2010年4月7日 東京朝刊

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