甲子園が絵になる。巨人戦が絵になる。そして満員の拍手喝采を浴びるお立ち台が、絵になる男だ。2010年、聖地初試合。伝統の一戦の幕開けは、4番・金本の劇的なメモリアル弾が勝負を決めた。
「やっぱり初の甲子園。相手が巨人。2倍、3倍うれしいですね」
同点の六回一死一塁。カウント2−1から、藤井の甘く浮いたスライダーを逃さなかった。右中間最前列へ飛び込む決勝の2号2ラン。「追い込まれていたんで甘い球が来てくれと。本塁打になってよかったです」。
長嶋氏に並ぶ史上13人目の通算444号をG戦で決めた。しかも3連敗中の負の流れを、4番のひと振りで断ち切った。
「本当に、恐縮というか…。まさか長嶋さんに並んでいるなんて、考えられないですね」
六大学のスターから巨人、球界のスターへ。ミスターはまぶしいほど憧れの存在だが、“真逆”を歩んできた金本は、反骨心がここまでの道を築いてきたのかもしれない。1浪して入った東北福祉大で、打倒・東京勢を胸に日本一。プロでも広島、阪神で、打倒・巨人を原動力にしてきた。
444号は奇しくも阪神での通算200号。虎1号もタテジマで初めて巨人と戦った日(2003年4月11日、東京D)だったのは、偶然と思えない巡り合わせだ。さらに2球団での200発は中日・落合監督以来史上2人目の快挙。こちらも阪神1年目のオフ、打撃改造のため著書を読み、心酔した大打者に並んだ。
上がらない右肩の状態は芳しくない。本来のスイングには程遠い状態だ。ナゴヤドーム3連敗でも1安打。打率も1割台。それでも打つしかない。4打数1本塁打3三振という結果が現実であり、主砲としての責任感だ。着弾の瞬間、腰のあたりで握った両コブシ−。
「ガッツポーズじゃない。ヨッシャや」とは試合中の談話だが、お立ち台では「どうしても勝ちたいという気持ちですね。普段はあまりしないんですが、自然と出てしまいました」。試合が終わるサヨナラ以外でガッツポーズしないのが主義。自身の禁を思わず破るほど、気持ちが乗り移っていた。
「445本目も、巨人戦で打てればと。本当にまだまだ始まったばかりなんで。巨人を倒して、波に乗っていけるようにがんばりたいです」
勝てば大統領、負ければ戦犯。それが4番。苦闘は続く。しかし責務と宿命を跳ね返すことが、偉大な4番打者たちから受け継ぐ、主砲の系譜のはずだ。(堀 啓介)