きょうの社説 2010年4月7日

◎文化産業戦略の策定 地方の施策にテコ入れを
 アニメーションやゲーム、映画など海外で評価の高い日本文化の輸出で経済の底上げを 図る「文化産業戦略」案を経済産業省がまとめた。鳩山政権が6月にまとめる新成長戦略に盛り込まれる予定であるが、アニメなどのコンテンツ産業はかねてより新産業戦略や知的財産戦略の柱に位置づけられ、北陸でもコンテンツ制作者の発掘、育成をめざす見本市が石川県で開催されるなどしている。文化産業戦略とそれを反映させた新成長戦略の策定に当たっては、地方のコンテンツ産業振興の取り組みを検証して、テコ入れを図ってもらいたい。

 経産省の文化産業戦略案では、日本の得意分野である映像などのコンテンツ(情報の内 容)関係の産業強化のため、基金の創設が目玉施策となっている。コンテンツ産業の国内市場規模は、2007年度で約13兆8千億円に上る。08年改定の経済成長戦略大綱では、これを15年度までに19兆円に拡大する目標が掲げられている。

 市場拡大の鍵は、海外展開の促進だけでなく、地方のコンテンツ産業をいかに伸ばすか にある。情報通信技術の発達で地方のハンディは小さくなっており、経産省は06年に各地方経済産業局に専門部署を設け、地方のコンテンツ産業の振興に取り組んでいる。

 北陸3県のコンテンツ制作者の登竜門となっている「石川コンテンツマーケット」はそ の一環であり、今年3月の展示会では39団体の作品や技術が紹介された。

 石川県は、伝統工芸をデータベース化する新情報書府づくりの取り組みをベースに、コ ンテンツ産業の振興を産業革新戦略に盛り込み、金沢市も「ものづくり戦略」の中で、コンテンツ産業の拠点づくりをめざしている。

 中央のプロダクション誘致が金沢市の検討課題の一つであるが、富山県では南砺市に拠 点を置く映像制作会社が人気アニメ作品を次々と送り出し、地方におけるコンテンツ産業の可能性を広げている。経産省は今後、コンテンツ産業の成長戦略もまとめる方針であるが、従来の戦略の焼き直しではなく、地方の取り組みを強力に推進する施策が望まれる。

◎日本人死刑執行 懸案募る中国の司法制度
 中国で、麻薬密輸罪で死刑が確定した日本人の刑が執行され、週内には同じ罪に問われ た別の日本人3人も死刑が執行される見通しになった。犯罪者の処罰は基本的に当事国の司法権に属するとはいえ、これまで指摘されてきた中国の司法制度の不透明さを考えれば、「やむを得ぬ」と簡単に割り切れる問題ではない。

 死刑になった日本人は通訳が十分でないことを訴えていたとも伝えられている。裁判か ら死刑執行に至るまで適正な手続きが担保されていたのかという懸念は残る。

 国際人権団体によると、昨年の中国の死刑執行は千人を超えるとされるものの、執行数 は公表されておらず、「死刑大国」と呼ばれる実態はよく分かっていない。日中両国で行き来が活発になり、今後も中国の法律で日本人が裁かれるケースが想定される。捜査協力は徐々に進んできたが、日本政府としては、死刑制度を含む司法の透明化についても中国に働きかける必要があるのではないか。

 アヘンの蔓延で国が弱体化した歴史的背景もあり、中国は麻薬犯罪について厳罰で臨ん できた。昨年は英国人も死刑になり、中国側は今回の日本人死刑執行について「死刑の適用は薬物犯罪防止に有効」との認識を示した。

 中国では、汚職や脱税、売春などにも死刑が適用されるケースがある。国によって刑罰 の在り方は異なるとしても、中国は国内の安定や社会秩序維持のため、死刑の効果を他の国以上に重視しているように見える。

 国際人権規約との関係で、人の死という結果を伴わない犯罪については、死刑を適用す る「最も重大な犯罪」には当たらないという見解がある。死刑が広範囲に及ぶ中国の制度は、刑罰の国際基準という観点からも議論の対象になっている。

 中国では、死刑執行後に冤罪が明らかになったり、地方では公開処刑が行われたことも ある。取り調べ中の拷問も指摘されてきた。そうした司法への不信が解消されないまま、死刑執行を繰り返せば、国際社会における中国の異質さは際立つばかりである。