第128回患者塾が3月27日、福岡県水巻町の遠賀中間医師会館で開かれた。医師が使う言葉と患者の使う言葉。全く同じ言葉を使っているのに双方の理解が異なる。そのことが時には重大な結果につながることも。おのむら医院(福岡県芦屋町)院長の小野村健太郎さんが「患者塾」で連載中の「患者語・医者語」などを題材に、出席した医師が議論した。
小野村さん 「忙しくて来られない」(参考<1>)という言葉がありますが、産婦人科も、お産の時だけ来る妊婦が増えているようですね。
下川さん 妊婦健診に「忙しくて来られない」というのは、お産への安易な考え方と、公費負担が始まったものの経済的な負担があるからでしょう。
小野村さん 症状があると忙しくないんだけど、良くなってきたら忙しい人が多いですよね(笑)。でも「忙しくて来られない」と言われ、それほど悪くなかったら、こちらもあまり強く言えないかなと思ってしまいます。
仲野さん 診療時に「この人は本当に次も来てくれるかな」といつも考えています。重症度について医師の考え方を患者さんにどうきちんと伝えるかがポイントです。「あすもう一度必ず来てください」と説明して「あす出張がある」と言われた時、私は会社にまで電話します。結果的に空振りになっても「私はあなたのことを心配している」という思いで伝えないといけないと思っています。
伊藤さん 患者さんと話す時はいつも「こっちの言葉を使ったほうが分かりやすいかな」ということを考えます。医療のことを一番知っている医者だからこそ、分かりやすく説明できるはずです。
小野村さん 患者塾のQA原稿(参考<2>)で「だめなら異なる作用機序の薬に変えます」と書きました。医師にとって「作用機序」は、とても便利な言葉ですが、事前に原稿を見た患者さんからは「『作用機序』という言葉が分からない」と不評でした。
毎日新聞・御手洗恭二デスク 最初に原稿を読んで引っかかったのが「作用機序」という言葉でした。読者に理解してもらうのに、この言葉がなくても文章の意味が通じると思いました。
仲野さん 私は「作用機序」という言葉を載せてほしい。確かに専門用語ですが、大事なキーワードだからです。例えば4種類の薬を飲まなくてはいけない結核の患者さんから「何でこんなにたくさん飲むのか」と尋ねられた時は、「作用機序」という言葉を使います。4種類飲むのは作用機序が違うから、つまり薬の効く場所が違うからです。単純に別の薬に変えるのではなく、きちんと考えて薬を変えていることを患者さんにも知ってもらいたいのです。
下川さん 「だめなら異なる薬に変えます」としては全然意味が違います。「作用機序」が同じでも異なる薬はたくさんあります。「だめなら別の種類の薬に変えます」とした方がいいでしょう。
伊藤さん 私はあくまでも専門用語は医療スタッフの中で使う言葉だと思います。医療スタッフ以外の人が分からない言葉であれば、全く違う言い方をしなければいけない。「作用」は一般的にも使う言葉なので「作用する場所が異なる薬に変える」と言い換えるのがいいと思います。
「患者塾」の会場では、医療の専門的な内容について、医師が丁々発止のやり取りをします。そこから役立つ情報と塾の面白さを分かりやすく伝えます。このほか、小野村健太郎さんによる「患者語・医者語辞典」「患者力トレーニング」「相談室」と多彩なコーナーがあります。今月から熊本、鹿児島の地域面でも掲載します。ご愛読ください。
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■参考<1>(09年8月18日付 福岡面)
◆おのむら版患者語・医者語辞典
患者語:ある程度忙しいのは本当だが、医者嫌いで受診したくない時に用いる慣用句。
「検査をしますから、今度の月曜日に来て下さい」
「ああ、その日はちょっと出張でして。ちょっと忙しくてしばらく来られないですね」などと用いる。うその証拠に「ちょっと」などの修飾語が頻繁に挿入される傾向がある。
医者語:本当に忙しくて、どんなにがんばっても来られない時に限って、「忙しくて来られない」と言う表現を用いる。
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長い間医者をしていると、つらい思い出がいくつかあります。10年前にこんなことがありました。コレステロールが高くて不整脈のある患者さんが来院しないので電話をしたら、「忙しくて……」という返事が戻って来ました。その数日後に心筋梗塞(こうそく)で倒れてしまいました。「忙しいなんてうそです。医者嫌いで……」と奥様は肩を落としていました。「忙しい」と命を落とすこともあります。忙しいのもほどほどに。
■参考<2>(10年3月30日付 福岡面)
◆相談室
Q・朝はしばらく動けない
朝起きてからすぐに活動できないので悩んでいます。家族からは「気合が足りないだけだよ」とか「夜更かしするからだよ」と冷たく言われます。思いっきり気合を入れても、起きてしばらくしないと動けません。何か変な病気でしょうか。(東京都、44歳、女性)
A・薬で血圧を少し上げて
仕事で福岡と東京を行ったり来たりの生活のようですね。ホテルで「チェックアウトの時間が気になるのに体が動かないことがある」のでは、本人にとっては深刻な状態だと思います。
最初に疑うべきは「本態性低血圧症」でしょう。私が電話を受けた時、その場で血圧を測ってもらったら「82/38」でしたから、薬で血圧を少し上げると楽になるように思います。
血圧を上げる薬には、いくつか種類があります。まず1種類を試して、だめなら
(最初の原稿・異なる作用機序の薬に変えます 実際の紙面・作用する所が異なる薬に変えます)
ほとんどの方はそれでよくなります。それでもだめな時は、別の病気の可能性も考えて詳しい検査が必要です。
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下川浩さん=エンゼル病院(北九州市、産科・婦人科)
伊藤重彦さん=北九州市立八幡病院副院長(外科)
仲野祐輔さん=八屋第一診療所院長(福岡県豊前市、外科)
津田文史朗さん=つだ小児科アレルギー科医院院長(福岡県水巻町)
小野村健太郎さん=おのむら医院院長(福岡県芦屋町、内科・小児科)
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〒807-0111
福岡県芦屋町白浜町2の10「おのむら医院」内
電話093・222・1234
FAX093・222・1235
〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2010年4月6日 地方版