三重県名張市で1961年、女性５人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」で、殺人罪などで死刑が確定した奥西勝元被告（84）＝拘置中＝の第７次再審請求について、最高裁第３小法廷（堀籠幸男裁判長）は６日までに、審理を名古屋高裁に差し戻す決定をした。再審を認めなかった高裁決定について「科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、推論に誤りがある疑いがある」と指摘して取り消し、ぶどう酒から検出された毒物を鑑定し直すよう求めた。差し戻し決定により死刑は執行停止となる。
決定は結論の方向性までは示していないが、差し戻し審での証拠調べの結果次第では再審の可能性も出てきた。
2002年４月の第７次請求から約８年。名古屋高裁はいったん再審開始を決定したが、検察側の異議申し立てを受けて取り消したため、元被告側が特別抗告していた。最高裁が再審請求の審理を差し戻したり、科学鑑定のやり直しを指示したりするのは極めて異例。同小法廷の５裁判官全員一致の判断により、三たび高裁で審理される。 審理では、ぶどう酒に残った毒物が、奥西元被告の自白した農薬と一致するかが争点になった。飲み残しの酒からこの農薬に含まれるはずの成分が検出されておらず、弁護側は「毒物は別の薬。自白は強制されたもので虚偽だ」と主張した。
検察側は「加水分解したか、混入量が少なかったと考えられ、科学的に矛盾はない」と反論したが、同小法廷は「（検察側主張では）成分が検出できない理由を合理的に説明できない」と指摘。
弁護側が保有するニッカリンＴの提出を受け、事件当時とよく似た条件で試験するなど再鑑定を行い、「審理を尽くす必要がある」とした。
このほか弁護側は、別人の犯行の可能性や、ぶどう酒の開栓方法の矛盾についても主張したが、同小法廷はいずれも「無罪を言い渡すべき新規・明白な証拠には当たらない」として退けた。
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