10年先、50年先の低炭素・低エネルギー社会をイメージし、大胆な変革を続ける。地球温暖化対策基本法は長いマラソンのスタートの合図となるべきものだ。
先頭を走りながら次々と政策を打ち出し、国民を引っ張って行く。それが、温室効果ガス「25%削減」の中期目標を打ち出した民主党政権に期待される役割であるはずだ。
ところが、閣議決定された法案を作る過程で足並みが乱れた。特に、排出量取引制度の方式をめぐる意見の対立は、「25%削減」の本気度に疑問符を付けかねない。
排出量取引は、排出できるガスの上限を企業などに枠として割り当て、削減の過不足分を取引する制度だ。たくさん削減できれば余った枠を売ることができ、排出が枠を超えたら他から買わなくてはならない。
閣僚の間で意見が対立したのは、排出の上限を「総量目標」に限るか、エネルギー効率を示す「原単位方式」も認めるかだ。
効率向上は重要だが、効率を上げたからといって排出総量が減るわけではない。生産量が増え排出量も増える可能性がある。温暖化の国際交渉で、中国やインドなどが掲げているのが、こうした原単位目標だ。
民主党のマニフェストには、総量目標による排出量取引が掲げられている。ところが、法案作成の段階になって、総量規制を嫌う産業界や労働組合などの言い分が、閣僚の意見に反映されるようになった。
結果的に、法案は「総量目標」を基本とすることを明記したが、原単位にも検討の余地を残した。今後は、確実に削減できる制度作りに知恵を絞ってほしい。「政治主導といいながら、利害関係者に左右されているのではないか」という懸念があっては、大胆な社会変革は実行できない。国民の信頼を得るには、今回のような密室での議論もご法度だ。
排出量取引と並んで議論になったのは、原子力発電の位置づけだ。二酸化炭素をほとんど出さない原発は、温暖化対策に欠かせないという見方がある一方、安全性への懸念や廃棄物処理の問題が残る。
法案には原発推進が盛り込まれたが、安全確保や、国民の信頼が大前提だ。地震などで長期に止まると、代替の火力発電で排出増加につながりかねない。地震大国の日本では、温暖化対策を原発頼みにするのは危険だ。
その意味でも、再生可能エネルギーの供給目標をきちんと位置づけたことは評価したい。再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り制度の創設も、着実に進めたい。その結果、電力料金が上がるとしても、将来への「投資」と受け止める。そんな社会の意識転換も大切だ。
毎日新聞 2010年3月13日 2時33分