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大腸菌による植物系バイオマスからのバイオディーゼルの生産
石油や石炭に代わる持続可能で再生可能な燃料や化学製品の材料を、バイオマスから生産する技術開発が精力的に行われている。植物の糖質から微生物を用いて生産されるバイオエタノールがバイオ燃料の中心となっている。一方、植物や動物の脂肪分から化学合成されるバイオディーゼルにも100年以上の歴史があり、年に100億リットル以上が消費されている。これらはいずれも食用との競合や環境破壊の懸念がある。そこで、食用にならないため廃棄されているセルロース系の素材などからの、効率のよい生産法が求められている。
米国エネルギー省のJoint BioEnergy Institute (JBEI)を中心とする研究チームは、大腸菌に種々の改変を施した結果、利用できなかったセルロース系バイオマスを分解して取り込み、これを材料として燃料となるバイオディーゼルや脂肪酸由来の化学物質を直接生産できる大腸菌を作り出すことに成功したことをNature誌に報告している1)。
もともと大腸菌はかなりの量の脂肪酸を生産することが知られている。しかし、この脂肪酸は担体たんぱく質に結合しているため材料としにくく、またその蓄積により脂肪酸の合成が阻害される。そこで担体たんぱく質と脂肪酸を切り離す酵素を細胞質で発現させたところ、遊離の脂肪酸の増加が認められた。この酵素は脂肪酸の炭素数に対する選択性があるため、植物などに存在する異なる酵素を用いることにより、蓄積する脂肪酸の炭素数を制御できる。同時に脂肪酸を分解する酵素を欠失させることにより、さらに脂肪酸の生産量を増加させることができた。
このような脂肪酸を高生産する大腸菌に、エタノールと脂肪酸を反応させる酵素を発現させ、ここにエタノールを添加することにより、バイオディーゼルである脂肪酸エチルエステル(FAEE)が生成した。さらに別の酵素を発現させることにより、石鹸や洗剤の材料となる脂肪アルコール(高級アルコール)やアルデヒド類が得られた。次に上記のFAEE生産大腸菌に別の細菌由来のエタノール合成系の遺伝子を導入・発現させることにより、外からエタノールを加えなくとも、添加したグルコースのみからFAEEを生産させることに成功した。
さらに植物系バイオマスの主要構成成分のひとつであるヘミセルロースという難分解性の多糖を分解する酵素遺伝子を上記の大腸菌に導入・発現させることにより、ヘミセルロースを分解して取り込み、これを材料として脂肪酸とエタノールを合成し、両者を反応させて直接FAEEを合成する大腸菌の作成に成功した。
このように大腸菌に非常に多様な遺伝子改変を加えることにより、これまで利用が難しかったセルロース系バイオマスから、バイオディーゼルや有用な化学物質を単一の菌で生産できる可能性が示された。実用段階に至るにはまだ検討すべき点があるが、セルロース分解酵素の共発現や各段階の酵素の強化等々により、効率が改善されるものと期待される。
参 考
1) Steen EJ et al., Microbial production of fatty-acid-derived fuels and chemicals from plant biomass. Nature. 2010 Jan 28;463 (7280):559-62
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リチウム電池用シリコン負極の充放電寿命が大幅に向上
リチウムイオン電池は、二酸化炭素排出量の低減に大きな効果がある電気自動車などへの利用が期待されている1)。1回の充電での走行距離を伸ばすためには、充放電容量の増大が必要である。リチウムイオン電池の負極にシリコンを用いると、現在用いられている炭素に比べて容量密度を1桁高くできる。しかし、シリコンの負極は充放電の繰り返しに対する耐久性が低いという問題がある。
シリコン負極を用いると容量密度が高くできるのは、シリコンがリチウムと合金を形成することで、多くのリチウムを取り込むことができるためである。ただし、シリコンはリチウムを取り込むと3倍も体積が膨張し、充放電を繰り返すとその体積変化のために電極が壊れて微粉化してしまう。シリコンを細い線状に加工したり、空孔を含む構造にすることでサイクル寿命を向上することができるが、それでも50回の充放電の後に、容量密度が1/4以下にまで低下していた。
2009年11月、韓国蔚山科学技術大学や米国スタンフォード大学の共同研究チームは、リチウムイオン電池用のシリコン負極の容量密度を大きく保ったまま、寿命を大幅に向上できたと発表した2)。
共同研究チームはシリコンを微細なチューブ形状(直径〜200nm、壁の厚さ〜40nm)とし、チューブの表面は炭素の薄膜で被覆した。シリコンを微細な中空構造にすることで、体積変化による応力の影響を緩和する。また表面を炭素で覆うことで、チューブの表面の劣化を防止する。
シリコンのチューブは、微細な空孔を持つアルミナに有機シリコン溶液の浸漬・乾燥を数回繰り返した後、熱処理し、アルミナをアルカリ溶液で溶かして取り除く方法で作製した。
この負極を用いた電池は、初期放電容量密度が約3200mA・h/gと炭素の約10倍であり、200回の充放電後も10%程度しか低下しなかった(図表)。この低下率は、現在市販されている炭素負極のリチウムイオン電池とほぼ同等である。試験後、負極を分析したところ、シリコンの結晶がアモルファス化し、壁の厚さも初期の〜40nmから〜300nmに厚くなっていたが、チューブ形状は保たれていた。
実用的な充放電回数(〜500回)での特性の確認を目指すとともに、さらに形状の最適化
や生産性の検討が必要である。

参 考
1) 河本洋、「自動車用高出力・大容量リチウムイオン電池材料の研究開発動向」、科
学技術動向、2010年1月号、p. 19
2) M. Park et al., “Silicon Nanotube Battery Anodes” Nano Lett., Vol. 9, 3844, (2009)
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N2O発生を大幅に削減できる豚ぷん堆肥化技術
一酸化二窒素(N2O)は、主要温室効果ガスのひとつであり、地球温暖化係数はCO2の約310倍である。一方、最も影響の大きいオゾン層破壊物質であるとの報告もある1)。
N2Oの最大の人為的排出源は農業分野であり、特に家畜ふん尿の寄与率は高く、全人為的排出量の約65%に達する。我が国では、家畜ふん尿は年間約9,000万トン発生し、その90%が利活用されている。しかし、最も一般的な利活用法である堆肥化過程からも多くのN2Oが発生するため、早期に対策を講じる必要があるが、有効な発生抑制策はなかった。
2010年1月、(独)農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所は、豚ぷんを堆肥化する工程で発生するN2Oを、完熟した堆肥中の亜硝酸酸化細菌を用いて大幅に削減する技術を開発したと発表した2)。
豚ぷんの堆肥化過程では、N2O生成の直接的原因物質である亜硝酸イオンが長期間、高濃度で蓄積する場合があり、これがN2O発生量増大の原因になる。開発された技術は、豚ぷん堆肥化過程に堆肥生産現場で容易に入手できる完熟した堆肥を添加し、完熟堆肥に多く含まれる亜硝酸酸化細菌により、N2O発生原因物質である亜硝酸イオンを速やかに酸化してN2Oの発生を抑制する。
堆肥化初期には有機物の分解により堆肥の温度が60℃程度になり、その後の温度低下と共にアンモニア酸化細菌が増殖し、アンモニアを分解して、亜硝酸イオンが生成する。亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化する亜硝酸酸化細菌は、高温に弱いために、その増殖が遅れ、堆肥中に亜硝酸イオンが高濃度に蓄積されてN2O発生量が増大する。そこで、高温発酵後、速やかに亜硝酸酸化細菌を豊富に含む完熟堆肥を重量比で1.5〜10%添加することで亜硝酸イオンの酸化を促進し、N2O発生を抑制する(図表)。その結果、従来の堆肥化に比べ、N2O発生量を最大80%削減できる。
今後、さらに完熟堆肥の添加時期や量などの最適化を進め、実用化に向けた実証試験を行う。また、他の家畜ふんへの適用可能性についても検討を進める計画である。

参 考
1) Ravishankara, A. R. et al, “Nitrous Oxide (N2O):The Dominant Ozone-Depleting Substance Emitted in the 21st Century”, Science 2009, DOI:10.1126/science.1176985.
2) (独)農業・食品産業技術総合研究機構プレスリリース:http://www.nilgs.affrc.go.jp/press/2010/0114/N2Oyokusei_index.html
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流路を形成する必要のないバクテリア駆動マイクロマシン
米国のアルゴンヌ国立研究所・プリンストン大学・ノースウエスタン大学の研究グループは、流路を形成する必要のないバクテリア駆動マイクロマシンに関する発表を行った1)。バクテリアのような微生物によって駆動する人工モーターは、自己修復機能なども備わっていることから、新しいマイクロマシンとして注目されている。これまでにも、バクテリアを動力源とする微小回転モーターが開発されてきたが、バクテリアの運動を1方向に制限するために流路が組み合わされたものである2)。しかし、今回発表された方法では、バクテリアの運動を制限する流路を形成しなくても小型の歯車を回転させることができ、さらに回転と停止の切り替えも実現できる。
通常、ブラウン運動をする分子や粒子からは、有用な仕事を取り出すことはできない。しかし、個々のバクテリアの運動には方向性があるため、バクテリア集団の運動を、非対称歯車を駆動する動力として用いる研究が行われている3)。すでにコンピュータシミュレーションでは、歯車の谷にバクテリアが集まり、歯車を1方向に回転させるという原理は示されていた。今回、上記の研究チームは、このシミュレーション結果を実証してみせた。
研究チームがシリコンウェハーから作成した小型歯車は、直径約380μm・厚み50μmで、非対称の歯の形状を持つ(図表)。歯車を駆動するためのバクテリアには、病原性がなく安全性の高い枯草菌を用いた。枯草菌は、直径0.7〜0.8μm・長さ2〜3μmの棒状である。枯草菌を含む液体で200〜300μm程度の膜を作り、膜の中心部を僅かに凹ませておく。枯草菌を含む流体よりも歯車の密度を高く設定しておくと、重力により歯車は位置の低い中心部に移動する。このとき、枯草菌の数は1cm3当たり2×1010程度である。
このような装置による実験で、毎分1〜2回転程度の回転運動が観測された。枯草菌が集団で自らの100倍以上の大きさの歯車を回転させたことになる。
また、酸素の供給により枯草菌の運動を活発にし、反対に窒素の供給により枯草菌の運動を抑制することができるため、この性質を利用すると、歯車の回転と停止を切り替えることができる。ただし、歯車を連続回転させても、回転速度は徐々に低下し、6〜8分で停止した。また、この場合歯車には回転軸が無いことから、回転中心が±40μm程度移動してしまった。このようにまだ問題はあるものの、従来のようにバクテリアの流路を形成しない新たな構造のマイクロマシンの提案は注目されている。

参 考
1) A. Sokolov, M. Apodeca, B. Grzybowski, I. Aranson, Swimming bacteria power microscopic gears, Proc Natl Acad Sci USA, 107:969-974, (2010)
2) Y. Hiratsuka, M. Miyata, T. Tada, TQP Uyeda, A Microarray Motor Powered by Bacteria, Proc Natl Acad Sci USA, 103:13618-13623, (2006)
3) L. Angelani, R. Di Leonarde, G. Ruocco, Phys Rev Lett, 102:048104, (2009)
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