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天声人語

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2010年4月6日(火)付

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 若い世代は新語を造るのがうまい。「与謝野(よさの)る」というのがあって、寝癖などで髪が乱れているのを指すそうだ。晶子の歌集「みだれ髪」に由来し、女生徒同士で「すごく与謝野ってるよ」などと言う。新語を集めた『みんなで国語辞典!』(大修館書店)に収められている▼その「与謝野る」に、仲間から抜けるという第2の意味が加わるかもしれない。晶子のお孫さんの与謝野馨元財務相が、自民党に離党届を出した。近く新党を立ち上げるそうだ。政治の閉塞(へいそく)を破る勢力をめざすという。その意気や良し▼と言いたいところだが、予想にのぼる顔ぶれが、どうにも古い。重厚感はなかなかだが、引き換えに清新さは乏しい。古めかしい自民党臭を消すのは、谷垣さんの率いる自民党本体よりも難しいのではないか▼存在感を強める「みんなの党」に刺激されたのかもしれない。だが代表の渡辺氏は、曲がりなりにもまだ政権与党だった自民から飛び出した。下野して沈みかけた船からボートを下ろすのとでは、有権者の目には違って映ろう▼「自民党分裂なんてとらえないで。一人の与謝野馨が去ったと」と谷垣氏に語ったそうだ。祖母ゆずりか、どこか詩的に響く。立役者がこれほど哀感を漂わせる新党結成というのも、珍しく思われる▼自民党はこれを機に「与謝野る」議員が続くのを心配する。鳩山首相は「自民党さんも大変だな……」と自らの苦境を重ね合わせる。〈かたみぞと風なつかしむ小扇(こおうぎ)の要(かなめ)あやうくなりにけるかな〉晶子。いずこも同じに政治の要が危うい。

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