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【土・日曜日に書く】政治部・阿比留瑠比 前提失った参政権推進論

2010.4.4 02:51

 ≪強制連行が付与の根拠≫

 出発点と前提条件を間違うと、そこからいかに理論武装しようとまっとうな結論は出てこない。永住外国人への地方参政権付与問題をめぐり、そんな当たり前のことを改めて実感している。

 自民党の高市早苗元沖縄・北方担当相は3月10日の衆院外務委員会で、「複数の閣僚が戦時徴用されて内地に来た朝鮮人の存在、今残っている方々(在日韓国・朝鮮人)の存在を参政権付与の必要性の根拠としている」と指摘し、次のような例を挙げた。

 原口一博総務相「自分の意思に反して(日本に)連れてこられた人が地方で投票の権利を持つのは、日本国家として大事なことだ」(1月14日の講演)

 仙谷由人国家戦略担当相「戦前の植民地侵略の歴史があり、その残滓(ざんし)としての在日問題がまだかかわっている。その方々の人権保障を十二分にしなければならない。地方参政権も認めていくべきだ」(1月15日の記者会見)

 また、鳩山由紀夫首相をはじめ参政権付与推進派が論拠とするのが、平成7年の最高裁判決が判例拘束力のない「傍論」部分で、地方首長・議員に対する選挙権付与は「憲法上禁止されているものではない」と指摘したことだ。

 この判決に加わった園部逸夫(いつお)元最高裁判事は、2月の産経新聞のインタビューではこんな「政治的配慮」があったことを明かした。

 「この時代(平成7年)はまだまだ強制連行した人たちの恨み辛みが非常にきつい時代だったから、それを考え、それをなだめる意味で判決を書いている」

 だが、10日の衆院外務委で高市氏が示した昭和34年7月11日付の外務省記事資料「在日朝鮮人の渡来および引き揚げに関する経緯、とくに戦時中の徴用労務者について」は、こうした「強制連行神話」を根底から覆すものだった。

 ≪戦時徴用残留者は245人≫

 これに関しては、かなり前からインターネット上では34年7月13日付の朝日新聞の「大半、自由意思で居住 外務省、在日朝鮮人で発表」という記事が流通していたが、これまで元資料は確認されていなかった。

 それについて高市氏が外務省に資料を要請し、外務省側は当初は「そんなに古い資料はもうない」としていたものの、最近になってようやく見つかったと報告してきたという。記事資料とは「外務省としての正式発表のうち、外務報道官としての公式見解などを表明したもの」とされ、政府全体の公式見解といっていい。

 資料は、当時登録されていた在日朝鮮人約61万人について「関係省の当局において、外国人登録票について、いちいち渡来の事情を調査した」結果をまとめたもの。「戦時中に徴用労務者としてきたものは245人にすぎない」と指摘した上でこう明言している。

 「現在日本に居住している者は、みな自分の自由意思によって日本にとどまった者また日本生まれのものである。したがって現在日本政府が本人の意思に反して日本にとどめているような朝鮮人は犯罪者を除き一名もない」

 最近の当たり障りのない官庁の報道発表文とは異なり、実に明快で毅然とした内容だ。

 ≪閉ざされた言語空間≫

 「第二次大戦中内地に渡来した朝鮮人、現在日本に居住している朝鮮人の大部分は、日本政府が強制的に労働させるためにつれてきたものであるというような誤解や中傷が世間の一部に行われているが、事実に反する」

 資料はこうも指摘する。さらに(1)20年8月から21年3月までの間に、帰国を希望する朝鮮人は政府の配船によって約90万人、個別的引き揚げで約50万人が引き揚げた(2)政府は21年3月には残留朝鮮人全員約65万人について帰還希望者の有無を調査し、希望者は約50万人いた。だが、実際に引き揚げたのは約16%の約8万人にすぎず、残りの者は自ら日本に残る途(みち)を選んだ−ことなども説明している。

 これら当時の政府見解について、10日の衆院外務委で高市氏が岡田克也外相に「現在も有効か」とただしたところ、岡田氏の答弁はこんなあやふやなものだった。

 「急に聞かれても私、把握していないので分かりません」

 岡田氏は、永住外国人への参政権付与を「民主党結党以来の悲願だ」と推進してきたが、背景にある事実認識はこの程度なのか。

 そして、この高市氏が発掘した資料については、国会で取り上げられたにもかかわらず、産経新聞を除くメディアはほぼ黙殺した。自分たちの論調に合わない情報は報じたくないのだ。

 評論家の江藤淳氏が「閉ざされた言語空間」と呼んだ占領時代に起因する情報空間のゆがみは、今も堅牢(けんろう)に日本社会を覆い続けている。(あびる るい)

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