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【在日 外国人参政権を考える】(3)帰化はタブー

民族の血、先祖捨てる心理に

 大阪市内で障害者支援などに取り組むコリアボランティア協会の代表代理で在日コリアン2世の鄭炳熏(チョンビョンフン)さん(58)には忘れられない光景がある。協会スタッフらと韓国旅行を計画し、準備を進めていた10年ほど前のことだ。

 参加者にパスポートを持ってくるように伝えても、なかなか持ってこない在日青年がいた。何度も催促すると期限間際になってようやく持参し、もじもじしながら上着のポケットから取り出したのは日本のパスポートだった。

 「日本人やったんか」

 驚く鄭さんを前に青年はうつむき、正座をしたまま声を上げて泣いた。両親の帰化で日本国籍になったという。

 「韓国人の誇りや民族意識の強い青年だっただけに、みんなを裏切ったような意識が強かったのだろう」。鄭さんは振り返る。

        × × ×

 永住外国人への地方参政権付与をめぐり、「日本に帰化すれば済む」との反対論は強い。しかし、在日社会では帰化が進む一方で、戦後65年を経てもなお“帰化タブー”が存在する。

 鄭さんもそんな感情を共有する一人だ。

 現在87歳になる父は昭和18年に「いい仕事がある」との誘いを受けて行き先を告げられないまま渡航、終戦まで北海道の炭坑で過酷な労働を経験した。粗末な食事、相次ぐ事故で仲間の死を目にし、左手の指2本を失った父は「炭坑から2度脱走を図り、いずれも捕らえられて罰として切断された」と話したという。

 鄭さんは「両親の苦労を知る2世の世代までは、気軽に帰化の話題を口にできない雰囲気がある。1世が日本にいい感情があるわけないから。中には『帰化しないの』と聞くだけで傷つく人もいる」とし、参政権についてこう話した。

 「周囲で議論になったことがない。なくても困らないし、個人的にはいらない。ただ、在日社会全体でいえばもらう権利はある」

        × × ×

 日韓の歴史や文化をテーマに評論活動を行う韓国出身の呉善花(オソンファ)拓殖大教授は、帰化タブーを民族特有の感情と指摘した。

 呉教授によると、米国やカナダなどに移民として渡った韓国人はその国の国籍を熱心にとる。多民族国家では民族感情を維持できるからだ。ところが日本では抑止力が働くという。

 「日本と朝鮮半島は世界でもまれな“単一民族国家”。国家と民族の区別ができない。特に韓国人は全部血がつながる親戚(しんせき)のような感覚もある。日本国籍を取るということは、民族の血や先祖をすべて捨てるような心理になってしまう」

 呉教授自身、日本に帰化した際、韓国に住む家族から「縁が切れてしまったようだ」と嘆かれた。

 「今はもう慣れて言われなくなった。タブーは極めて感情、情緒的で、親に申し訳ないという気持ちも同じ。そうした理由で国籍を変えない人にまで、国家がエネルギーを消耗して参政権を与えるのはおかしい。政治的な権利がほしい人には帰化を勧めればいい」

 在日1世 昭和20年の敗戦までに朝鮮半島から日本に渡航し、戦後も日本に残留したコリアン。在日本大韓民国青年会が全国の1世を対象に57~58年に実施したアンケート(1106人回答)によると、日本に来た理由は経済的理由が39・6%と最も多く、続いて結婚・親族と同居が17・3%。戦後、本国に帰国しなかった理由は「生活のめどが立たなかった」との回答が6割を占めた。

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