これまでも述べてきたとおり、中京地方経済を支えてきたトヨタは、ハイブリッド車を機軸とした「従来型の次世代自動車ロードマップ」にとどまり、電気自動車に対しては保守的な立場を続けている。その反面、事実上のフランス系外資企業である日産は、電気自動車の早期量産化を強く推し進めている。高度経済期における日本自動車産業界は、「トヨタの行く方向に付いていけば、間違いない」が定石だった。その法則が今、戦後初めて通用しないのだ。

 そうして、先行き不透明感に嫌気を示したティア2、ティア3の転業、または隠居生活が相次ぐことになりそうなのだ。

 これも、日本の国策として、次世代自動車開発の方向性が見えないことの弊害である。技術力のある多くの中小企業が今、自ら刀を収めようとしている。

④生産拠点、開発拠点が、日本国外に移転する可能性が高い現状で、次世代自動車開発と共に、自動車の代替製造産業の育成が必要。だが、その動きが弱い。

 CO2削減問題、労働派遣法改正案問題、財務省の円高容認(=内需主導型経済)発言問題などにより、経団連をはじめとする経済各団体の参加者からは、「このままでは、製造拠点の海外移転はやむなし」との声が多い。

 家電産業、コンピュータ産業、繊維産業などはすでに、中国、台湾、東南アジア各国での製造と日本への完成品輸出が常識化している。自動車産業においても、日産自動車が2012年以降、タイから日本に向けた小型完成車輸出を始める。また、製造拠点のみならず、巨大市場中国での内需を優先した大型開発拠点計画を推進する日系メーカーが多い。

 今後、日本での次世代自動車開発を考慮する上で、日本国内での自動車製造産業の変化とのバランスをどう保つのか?その点について、各自動車メーカーの立場に大差がある。

 当該研究会第1回配布資料5、9ページの図表が示している通り、DRAMメモリー、液晶パネル、DVDプレイヤー、太陽光発電セル、カーナビなど、かつて日本が世界シェアナンバーワンから急速にシェア減少を経験した各分野と同じく、日本の電動化・次世代自動車の国際競争力に大きな変化が生まれる危険性がある。

 次に、電池に関する本当の課題をあげたい。

①閉鎖的な業界体質を見直すことの難しさ。

 当該研究会で討議されていると思われる次世代自動車に関して、電池とは事実上、リチウムイオン二次電池を指す(次々世代の蓄電池開発は、経済産業省所管のNEDO/独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構が担当)。

 周知の通り、次世代自動車用のリチウムイオン二次電池については、トヨタ、日産、ホンダ、三菱がそれぞれ、既存の蓄電池メーカーと資本提携した企業体を有している。

 そうした蓄電池メーカー間での技術競争は誠に激しく、現状で業界全体をまとめることはかなり難しい。各社の蓄電池関係者の話を総合すると、リチウムイオン二次電池の開発には、いわゆる「勘」が必要であり、科学と化学の中間に属する蓄電池開発では、数値化やマニュアル化が難しい領域があるという。そのため、まるで「大間の本マグロの釣り具」のように、旧態依然とした製造技術の機密化が常識化し、閉鎖的な業界体質を生んでいる。

 さらに、米国、韓国、中国などへ日本の蓄電池技術者(または退職者)などが引き抜かれ、結果的に日本の蓄電池技術が海外流出している。

 こうした各社の実情を平準化することは、至難の業である。

 また、次世代自動車用・使用済み蓄電池の二次使用市場の創出がひとり歩きしている。すでに日系商社各社が独自の動きを見せており、国としての指針を早急に打ち出すべきだ。

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桃田 健史 [ジャーナリスト]

日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなど米国レースにレーサーとしても参戦。自動車雑誌に多数の連載を持つほか、「Automotive Technology」誌(日経BP社)でBRICs取材、日本テレビでレース中継番組の解説などを務める。1962年生まれ。著書「エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?」好評発売中


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