水俣病不知火患者会が、国と県、チッソに損害賠償を求めた訴訟で和解の基本合意が成立した。しかし、訴訟は県関係だけでも▽水俣病被害者互助会国賠訴訟▽棄却処分取り消し・認定義務付け訴訟▽川上不作為違法確認・認定義務付け訴訟▽溝口棄却処分取り消し・認定義務付け訴訟--の四つの訴訟が続くとみられる。
水俣病被害者互助会は9人が07年10月、国と県、チッソを相手取り提訴し、1人あたり1600万円(うち1人は1億円)の損害賠償を求めている。胎児~幼少期に受けた水銀の影響で水俣病になったと訴える原告は「国や県は水俣湾内の魚に有害な物質が含まれていると分かっても販売を規制しなかった」などと責任を追及し「患者である根拠が不明」とする被告と真っ向から対立している。佐藤英樹会長は「あくまでも裁判で解決する」と話す。
04年10月の関西訴訟最高裁判決で勝訴した原告が県の認定を求めている訴訟は二つが係争中だ。80年に県から認定棄却の処分を受けた女性は07年5月、認定義務づけを求めて提訴。88年に関西訴訟の原告となり、司法判断では「水俣病患者」とされたが、行政上は認められていない。国は最高裁判決後も認定基準を維持しており、原告側は「基準は誤っているのが明らかだ」と主張している。判決は5月14日の予定。
関西訴訟で原告団長だった川上敏行さん夫妻も同じく07年5月に提訴した。川上さんは73年に県に認定申請したが、保留されたままになっている。
溝口秋生さんは母チエさんの認定棄却処分の取り消しを求めて01年12月に提訴した。チエさんは74年に認定申請をし、77年に死亡。県は95年、申請を棄却した。溝口さんは「行政の判断基準は誤っている」と訴えていたが、熊本地裁は08年1月「水俣病だという客観的な証拠はなかった」などとして請求を全面的に退けた。翌2月に控訴し、現在は福岡高裁で係争中となっている。
いずれの裁判でも原告が勝訴すれば、行政と司法の認定基準の違いが改めて明確になることは必至で、大きな混乱が生まれる可能性が高い。【遠山和宏】
毎日新聞 2010年3月30日 地方版