社説
2010年3月30日

毒ギョーザ事件/まだ疑問残る中国の説明

 中国公安省が2008年1月に問題化した中国製冷凍ギョーザ中毒事件の犯人として、製造元「天洋食品」の臨時従業員(36)を拘束したと発表した。事件の真相解明に一歩近づいたことになろうが、公表された内容にはまだ多くの疑問が残る。

 中国からわが国への安価な食品、食材の輸出量は増加している。それだけに、国民の命にかかわる毒ギョーザ事件の真相解明は不可欠だ。中国は日本の警察に協力して疑問点を明らかにしてもらいたい。

明確でない単独犯説

 この事件により、千葉、兵庫で10人が被害を受けた。9人が入院、女児は一時意識不明の重体に陥った。現在でも通院を続ける被害者がいるという。中国側は十分な捜査もせず、科学的な根拠も示さずに初めから「中国国内で混入された可能性は低い」と決め付けていた。

 それが、日本で起きた事件後に回収したはずの「天洋食品」のギョーザが中国国内で流通してしまい、事件と同じ殺虫剤成分による被害者が出たことが表面化し、中国での混入説が強まっていた。今回の公表は、中国側に加害者がいたことを自ら認めたことになるが、遺憾の意が示されたわけではなく、疑問もまだ消えない。

 第一に、中国公安省が主張する単独犯説だ。本人の供述では07年10月1日と同月下旬、12月下旬の3回にわたって有機リン系殺虫剤「メタミドホス」を混入したという。だが、福島県内の店舗で有機リン系殺虫剤「ジクロルボス」が検出された「天洋食品」のギョーザは、それ以前の07年6月に製造されている。混入に使用した注射器を盗んだのもその後のことだ。この犯人は別人なのか、共犯関係の可能性はないのか明確でない。

 第二に、犯行に使用したという注射器が、工場内の下水道に捨てたとの供述通りに発見されたが、容疑者の指紋は検出されず、メタミドホスが付着していたか否かも明らかにされなかった。監視カメラの映像もないという。「会社への報復」という犯行の動機と自供があったとしても、それだけで犯人を特定できるのか。

 第三に、中国公安省が当初、日本側に示した日本での混入説の根拠を明確に示すべきだ。例えば、中国側は密封状態の包装紙でもメタミドホスが内側に浸透するとの実験結果のみを示し日本国内での混入の可能性を主張したが、そのデータを示さなかった。科学的にあり得ない話である。もし、データを捏造していたのなら率直にそれを認め謝罪すべきだ。

 わが国の警察が、近く中国を訪れる。日中両政府は5月前にも「食の安全」対策に関して合意する予定でもある。それを有効に機能させるためにも、中国公安省はこれらの疑問に明確に答えてもらいたい。

国民に事実知らせよ

 中国は日本の一部メディアには記者会見をし配慮を示したが、国内の報道は地味な扱いにとどめている。今回の事実をはっきりと自国民に知らせ、食品管理体制の強化など早急に具体策を講じるべきではないか。そのことが失った信頼を取り戻す一助になるはずだ。


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