CNNといえば、米国を代表する世界的な報道専門ケーブルテレビだが、米国内では視聴率を下げ続けている。断トツなのは保守系のFOXニュース、次いでMSNBCのリベラル色の濃い報道番組が続く。
FOXがオバマ政権と民主党を批判すれば、MSNBCは共和党を手厳しく攻撃する。事実報道を重視するCNNはそのはざまに埋没した感がある。
この傾向は、昨年来の医療保険制度改革論争で定着したように思う。「国家はどこまで医療市場と市民生活に介入できるのか」。保守、リベラル双方が改革の中身ではなく、理念を巡ってテレビを通じて火花を散らした。
専門家や「お上」の権威を嫌う風潮のある米国社会にあっては、理詰めで改革の意義を説くよりも、単純化して人々の信条や心に問いかける方が効果的なことが多い。オバマ政権が科学的データを示して地球温暖化の脅威を強調すればするほど、世論調査で「脅威ではない」と答える割合が増えているのもその一例だ。
「訴えが人々の感情に届かず、むしろ高慢に聞こえるからだ」。科学コラムニスト、シャロン・ベグリーさんはニューズウィーク誌で指摘する。
FOX、MSNBCが2強争いを繰り広げているのも「理」よりも「情」に勝るキャスターたちの活躍のためだ。
「情」が先行しているから議論はかみ合わず、対立が深まるばかり。保守もリベラルも極端な方向に振れる気配さえ漂う。ノンフィクション作家、レン・ブラッケンさんは「人々の視野が狭くなり、調和ある社会が再生できるのか気がかり」と言う。
「理」を重視し「議論をしよう」が信条だったオバマ大統領にとってもCNNの退潮は計算外だったろう。(北米総局)
毎日新聞 2010年4月5日 東京朝刊
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