●「SPring-8」についての意見は約1300件
○事業仕分けの結果に賛成する意見はごく少数であり、例えば「今経済が困窮している中で、この事業がないと国民が困るとは思えない」、「多額の運営経費を投入する必要性の説明が不十分」といった意見。
○事業仕分けの結果に反対する意見がほぼ全てであり、例えば「我が国の科学の進歩に大きく寄与しており、実際に多数の利用実績・研究成果を上げていることから、引き続き現状の利用環境を維持していくべき」、「研究は予想できない部分がほとんどで、国は研究基盤を用意し、短期的な収支見込みだけでなく、長期的な視点で支援すべき」、「予算削減により、利用者の料金負担が高額になれば、研究者による利用は著しく困難となる」、「1/2から1/3の予算縮減では、施設の維持・運営自体が不可能になる」といった意見。
5万件以上の意見が寄せられた事実は、「事業仕分け」の方法や結果に対して多くの国民が熱い意見を持っていることを意味している。このことも、「事業仕分け」の検証や評価が必要であることを物語っている。
予算縮減のビッグサイエンス続々
ビッグサイエンス(大きな資源の投入を必要とするプロジェクト)に対する「事業仕分け」は、2009年11月25日にも第3ワーキンググループによって進められた(「事業番号3-15 国立大学運営交付金」)。この枠内で「事業仕分け」の対象とされた「特別教育研究経費」には、SPring-8と並ぶビッグサイエンスが多く含まれていた。どのような意見があったのだろうか。
仕分け人 プロジェクト分と、あと大学改革共通課題分というのがありますけども、事業の、大学の先端的取り組みと重なっているところはないんでしょうか。
説明者 特別教育研究経費、779億円がプロジェクト経費となっておりますが、このうちのかなり多くの部分はいわゆるビッグサイエンスでございます。ハワイの「すばる天文台」でございますとか、高エネルギー加速器研究機構の「B-ファクトリー」、あるいは東京大学宇宙線研究所の「スーパーカミオカンデ」、こういう日本にひとつしかない、世界にいくつしかないというところの・・・。
議事進行者 (発言を遮って)あのー、簡潔にお願いいたします。
日本のビッグサイエンスに触れたのは、このわずか約45秒を含めて3分にも満たなかった。プロジェクトの名を挙げていくだけでも十分な時間ではない。それが「簡潔に」と強引に遮られ、議論すら行われなかった。そして結論。
議事進行者 「特別教育研究経費」については、予算要求通りが2名、廃止が6名、予算要求の縮減が6名となっており、結果にばらつきがあったものの、グループとしては「予算要求の縮減」ということでお願いしたい。
「事業番号3-51」の配布資料には、「特別教育研究経費」にどんなプロジェクトが含まれているかの明確な記載がなかった。そのため仕分け人の多くは、予算要求の縮減が日本の先端科学にいかに深刻な事態をもたらすかを理解していなかったのではないか。ちなみに、仕分け人の3分の2は科学技術は専門外の人たちだった。
この「特別教育研究経費」で「予算縮減」の対象とされた高エネルギー加速器研究機構(KEK)の鈴木厚人機構長(日本を代表する素粒子研究者)は、5日後の11月30日、「予算の事業仕分けに物申す」という声明を発表している。
今回の事業仕分けで目につくことは実態把握の不十分さである。(略)ただ唖然とするのみである。議論と査定がまったく相関していない。なにを根拠にこのような査定に至ったのか理由を記すべきである。(略)「特別教育研究経費」は高エネルギー加速器研究機構において、共同利用・研究で使用される研究施設・装置の運転、維持、管理経費に使用される(略)。これらの大型実験装置・設備の運転によって、素粒子、原子核、物質科学、生命科学に関する世界を先導する研究成果、昨年のノーベル物理学賞に貢献した小林−益川理論の実証、数々の先端技術開発の成果がもたらされる。それに加えて、毎年、40〜50編の博士論文、〜80編の修士論文が国内外の大学院生によってまとめられ、大学院生は第一線の研究者として巣立って行く。特別教育研究経費“廃止”と査定した委員は、これらのことを理解した上での判断なのかどうか問いたい。事業仕分けを充実させるには反論の場を提供し、それに明確な返答をすべきである。その上で、良いものは良い、見直すべきものは修正するという仕分け作業過程を踏むべきである。