その放射光を取り出し利用するのが「ビームライン」。私は「蛇口」と呼んでいるが、その数は最大で62本。日本のみならず海外の研究者たちが目的に合った「蛇口」に試料をセットして、大発見を続けてきた。企業の専用ビームラインもある。放射光のパワーが6GeVを超える能力を持つ放射光施設は世界に3基しかなく、8GeVのSPring-8は完成から13年になるが、今も世界最強のナンバーワンだ。
利用希望者は多く、供用開始から約12年目の2009年6月5日には利用研究者がのべ10万人を突破したばかりだった。その利用は、「物質科学や環境科学、生命科学・医学利用などの学術利用のみならず産業利用、さらには文化財研究や犯罪捜査などに至るまで」幅広い。原子レベルで素材や医薬品などを設計するナノサイズのモノづくり時代を迎えているだけに、SPring-8への期待はより大きくなっている。
成果や評価とは裏腹に減り続けた予算
では、SPring-8では「2分の1〜3分の1程度の縮減」がなぜ「廃止」を意味するのか。
SPring-8は、国が、日本の科学技術の振興を図るため、あらゆる大学や研究機関が利用できる共用施設であることを定めた「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(1994年施行)の対象施設だ。国会によってその利用促進が決議され、国が税金で支えると決めた施設だ。
しかし、成果や評価の上昇とは裏腹に国は予算を減らし続け、2009年度は約75億円というギリギリの線で運用している。年間6000時間は運転可能で、利用者からの要望が強いにもかかわらず、現在は5000時間止まりである理由の1つが予算不足なのである。
SPring-8の年間の電力使用量は約1億8400万kw/h(一般家庭4万9000軒分)、電力料金は約19億円に上る(2005年度)。ガスと水道の料金も1億円に近い。24時間運転だが、加速器やビームラインの調整や保守、消耗部品の交換などのため、年に数回は実験中止期間がある。中止しても巨大リング内部は真空を保ち続けねばならないため、電気料金などの「固定費」はかかる。リングは止めても、施設の運転や管理の人件費などの「固定的経費」も減らせない。