「吉牛(よしぎゅう)」の愛称で親しまれている「牛丼」の吉野家。約2年7ヵ月ぶりとなった昨年9月の販売再開以降、業績も上昇カーブを描きはじめた。昨年度の売上高は1,355億円で前期比10.7%増、純利益20億円と3年ぶりに黒字へ転換した。だが、この雌伏の期間に吉野家は社を挙げて新たな戦略構築に力を注いでいた。企画室長の池上常務にお話を伺った。

 

2007年
7月号(Vol.291)
   

■株式会社 吉野家ディー・アンド・シー
常務取締役 企画室長

池上 久

 

いけがみ ひさし
立教大学経済学部卒。1977年西武百貨店入社。レストラン西武(現西洋フードシステム)を経て、1985年ディー・アンド・シー取締役。1988年吉野家ディー・アンド・シー取締役営業企画室長。2000年同社常務取締役企画本部長兼経営企画部長。2003年3月より現職。

 
忍耐を糧に「新生」へのみち
 

── 牛丼復活を告げる9月18日の全頁広告が、この度私共の中日新聞広告賞と東京新聞広告賞のダブル受賞に輝きました。御社にとりましても記念すべき広告での快挙となりましたこと、心よりお祝い申し上げます。

池上 有難うございます。通常であれば、ああいうキャンペーンはテレビや雑誌などいろいろな媒体を使ってPRするんですが、“9月18日”については新聞だけでした。18日の復活へ向けて社内で相当議論を重ねたわけですが、長期にわたって耐えてきた我々としては、原材料の安全性などお伝えしたいことがいろいろあって、テレビの15秒枠ではとても表現できる内容ではないため、しっかりした媒体でターゲットも広い新聞に集中投下しました。その割に、最終的な広告紙面にはほとんどコピーが無いんですけれども(笑)。逆にその結果として今回いろいろな方々の評価につながったようです。広告としての反応はきわめて大きく、費用対効果でいえば満足以上のものがありました。でも、あの新聞を裏返すと、言いたいことが山ほど書いてありますよ(笑)。

 
 「復活」ではなく「再スタート」
 

── 確かにこの広告を見ますと、9月18日に至るまでのご苦労や会社としての思いがドーンと的確に表現されていると思います。コピーは無くとも力強いメッセージ性が見て取れますね。新聞を選んでいただき、広告として大成功だったとのお話を伺うと、我々も嬉しい限りです。発表では、牛丼販売再開後は業績も回復基調ということですが、営業面や社員のモチベーションなど変化は見られますか。

池上 販売の再開にあたっては、社内のモチベーション向上や意識の共有について膨大な時間と手間暇をかけて準備に努めました。牛丼の肉盛りひとつとっても、休止中の2年7ヵ月の間に、店長の1割強は盛ったことがない人間になり、アルバイトに至ってはまず未経験。豚丼とは盛り方が違うんです。だからトレーニングを全部やり直したり決起集会を開いたりしてまいりました。
 業績面ではおかげさまで、だいぶ復活してきた状況です。しかし我々の意識では「復活」というよりは「再スタート」の意識が強くあります。BSEの発生で牛丼をストップさせる前の企業と、今の企業とでは基本的に変わったという意識なんですね。それまでは、それこそ牛丼単品で利益率20%ぐらいの非常に高回転で効率的な経営をやってきました。それは今後も踏襲するんですが、この2年7ヵ月の中で客層も我々の仕事のやり方も基本的に変わりました。だから元に戻すという発想はないのです。新しいものに生まれ変わり、創り上げるという、いわば「再スタート」だと考えています。

 
 新しい戦略に明るい兆し
 

── メニューの多角化等でマーケットの新規開拓を目指しているということですか。

池上 牛丼販売休止中に、メニューの種類が増えたことで客層が広がりました。加えて、「牛丼」が戻ってきたということは、それこそエースで4番の復活ですから大変心強く思います。そのチャンスを活かし、さらに利用機会を増やすために新しい店舗デザインやサービススタイルの実験・検証をしています。
 我々が経営指標として重視している「入客数」は明らかに新しい試みのほうが増えています。いまは実証を確認している段階ですが、期待値は高いですね。

── メニューを増やすとなると、設備投資も含めて結構大変な作業が出てきそうですが。

池上 そうですね。メニューは大体固まりつつありますが、さらにおいしくするためにブラッシュアップしていきます。原材料にしても、生産地の種付け段階から流通過程をくまなくチェックし、改善へ向けての検証を重ねていきます。厨房機器ですとかオペレーションもがらっと変わります。より早くおいしく提供するための機器開発もどんどん進めています。オーダーもこれまでの手書きではなく機械化しなくてはなりません。とにかく、やるべきことが山ほどあって、牛丼復活だけを手放しで喜んでいる場合ではないのです。

 
  積極的に多店舗展開
 

── 今後の店舗展開についてはいかがですか。

中日新聞2006年9月18日付朝刊
(東京新聞朝刊も併載)

池上 この数年間はやはりセーブしつつも出店はしていました。今回業績も上向いてきましたし目途もつきましたので、出店には相当力を注いでいきます。今年度は55店舗の計画ですが、さらに100店以上という形で準備ができています。

── 吉野家さんの場合、やはりお店の多さが力、ということになるんでしょうか。

池上 より多くのお客様に食べる場所や機会を提供するのは必須ともいえることです。我々のようなファストフードの場合はわざわざ行く場所というより、より身近にあったほうがお客様にとっての利便性が高いわけですから。

── 吉野家さんの味が本当に好きで通う人も少なくないようです。みなさんに愛されている「新生吉野家」に私共も期待します。本日はお忙しい中、有難うございました。

◎インタビュアー/安藤靖彦(中日新聞東京本社広告局長)


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