きょうのコラム「時鐘」 2010年4月5日

 北朝鮮から韓国に亡命した黄元朝鮮労働党書記が、来日前に「日本人拉致は、ささいな問題だ」と話したという。先の大戦中の日本による朝鮮人連行と比較してのことである

亡命前に拉致は知っていたとも証言し、自らの関与は否定した。2003(平成15)年に拉致被害者家族会とソウルで会っているから、発言の一部は繰り返しになるが、来日を前にした言葉としては、あまりに無神経だった

何よりの疑問は、1997(平成9)年に日本経由で亡命した時に、知っているはずの日本人拉致の話を詳細に語らなかったことである。小泉訪朝の5年前のことである。亡命時に拉致の現実を伝えていれば、違った展開もあったろう

拉致事件は硬直したままである。日本政府の当事者も次々と変わり、空しく時間が過ぎていく。家族会も意見が分かれ、かつての事務局長が会を離れた。帰国できた家族と、そうでない家族との微妙な差も指摘されている

時間は溝を深め、事件を風化させる。関係者は老いていく。北朝鮮に非があるのは当然だが、ここ数年の政府の無策も目に余るように思う。