ツイッターで込み入った話をすると混乱するので、超簡単にまとめておく。けさの日経新聞の「経済教室」(カード番号を登録すれば金を払わなくても読める)に「モデル分析による復活の条件 円安と規制緩和セットで」というロバート・ディークル(南カリフォルニア大学教授)の論文が出ている。
彼のシミュレーションによれば、図1のように現在の円の名目レートは大幅に割高になっており、適正水準は1ドル=110円程度だという。こういう乖離が生じた原因は、当ブログでも紹介したBalassa-Samuelson効果によるデフレで説明できる。理論的な説明は元記事を読んでもらうとして、わかりやすい例でいうと、こういうことだ:
うちの近所の床屋の料金は4000円(理髪組合の協定料金)だったが、最近(たぶん代替わりで)改装して1200円になった。これは直接にはQBなどのディスカウンターとの競争によるものだろうが、ではQBの料金はなぜ1000円にできるのだろうか。それは洗髪など必要のないサービスを省略して生産性を上げたからだ。つまり日本のサービス業の効率が悪いために価格が高かったのが、競争によって国際水準になっただけなのだ(たとえばNYの床屋は10ドルである)。
こうした競争は、製造業ではもっと激烈に起こっている。半導体の価格はムーアの法則によって10年間で1/100になり、新興国との競争とあいまって賃金などの要素価格もグローバルに大きく下がっている。このためパナソニックが新規採用の8割を海外にシフトしたように国内の労働需要が減り、平均賃金が(雇用の非正規化も含めて)下がる。これは床屋の賃金にも影響するので、理髪価格が下げ止まっていると超過利潤が生じる。そこでQBのようなディスカウンターが参入し、それに引っ張られて床屋の価格が下がる(サービス業の価格が国際水準に鞘寄せされる)。
・・・という風が吹いたら桶屋がもうかるような効果が、最近の研究では実証されている。つまり、いま日本で起こっている価格の低下の長期的な原因は、正確にいうとデフレ(一般物価水準の低下)ではなくグローバルな相対価格の変化なのである。同様の現象は金融面でも、実質金利の均等化として見られる。
もちろん設備投資が増えないで企業が貯蓄超過になっている内需要因もあり、これは財政・金融政策で調整する余地もあるが、上のようなグローバルに生じているdisinflationをマクロ政策で止めることはむずかしい。ディークルは「円安誘導」を推奨しているが、1ドル=90円を110円にすることは、為替介入だけでは不可能だ。それよりも彼が「長期的な処方箋」として提言している「サービス部門の雇用拡大に向け、同部門の規制緩和を一層進める」ことが現実的な政策だろう。
追記:議論が盛り上がってきたので、「アゴラ」にまとめた
彼のシミュレーションによれば、図1のように現在の円の名目レートは大幅に割高になっており、適正水準は1ドル=110円程度だという。こういう乖離が生じた原因は、当ブログでも紹介したBalassa-Samuelson効果によるデフレで説明できる。理論的な説明は元記事を読んでもらうとして、わかりやすい例でいうと、こういうことだ:
うちの近所の床屋の料金は4000円(理髪組合の協定料金)だったが、最近(たぶん代替わりで)改装して1200円になった。これは直接にはQBなどのディスカウンターとの競争によるものだろうが、ではQBの料金はなぜ1000円にできるのだろうか。それは洗髪など必要のないサービスを省略して生産性を上げたからだ。つまり日本のサービス業の効率が悪いために価格が高かったのが、競争によって国際水準になっただけなのだ(たとえばNYの床屋は10ドルである)。
こうした競争は、製造業ではもっと激烈に起こっている。半導体の価格はムーアの法則によって10年間で1/100になり、新興国との競争とあいまって賃金などの要素価格もグローバルに大きく下がっている。このためパナソニックが新規採用の8割を海外にシフトしたように国内の労働需要が減り、平均賃金が(雇用の非正規化も含めて)下がる。これは床屋の賃金にも影響するので、理髪価格が下げ止まっていると超過利潤が生じる。そこでQBのようなディスカウンターが参入し、それに引っ張られて床屋の価格が下がる(サービス業の価格が国際水準に鞘寄せされる)。
・・・という風が吹いたら桶屋がもうかるような効果が、最近の研究では実証されている。つまり、いま日本で起こっている価格の低下の長期的な原因は、正確にいうとデフレ(一般物価水準の低下)ではなくグローバルな相対価格の変化なのである。同様の現象は金融面でも、実質金利の均等化として見られる。
もちろん設備投資が増えないで企業が貯蓄超過になっている内需要因もあり、これは財政・金融政策で調整する余地もあるが、上のようなグローバルに生じているdisinflationをマクロ政策で止めることはむずかしい。ディークルは「円安誘導」を推奨しているが、1ドル=90円を110円にすることは、為替介入だけでは不可能だ。それよりも彼が「長期的な処方箋」として提言している「サービス部門の雇用拡大に向け、同部門の規制緩和を一層進める」ことが現実的な政策だろう。
追記:議論が盛り上がってきたので、「アゴラ」にまとめた
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コメント一覧
>為替介入だけでは不可能
他の方法として自国の通貨価値を意図的に毀損し円安にする・・・。が、今ですら中国の通貨ダンピングに対しアメリカから大ブーイング起きてるのに、日本で似た真似をしたら本気で戦争起こりかねないと思うのですが。
ただ、逆もしかりで中国が通貨ダンピング続けるなら、こっちがやって何が悪いという考え方もできます。国際的な平準化を国民が受け入れるのには、相手も同じ土俵に立つべきでしょう。
日本が一番取り組むべき対中問題はチベットや人権、領土ではなく、この通貨政策ではないでしょうか。(自民も民主もまるで歯牙にかけてませんが・・・)
なるほど、「QBか国際化か」ではなく、QBが国際標準の価格を実現しただけなんですね。
洗髪施設がないのは不潔だから条例で規制しろとか馬鹿な話がニュースになっていましたが、ツイッターでも議論になってたように、1000円の床屋がなければ自宅で切るだけです。(我が家でも床屋と競合してるのはスキカルです)
ツイッターの補足的なブログエントリは、今後増えそうですね。
よくわからないのですが、日本の床屋が4000円でNYが10ドルということは、1ドル=400円ですね。生産性向上で1200円になれば1ドル=120円になって円高になるということじゃないのですか?これは生産性向上が円高を誘発するように思えるのですが何を間違えているのでしょうか???
QBは行ったことないですが、10分ちょっとで1,000円ですか。 近所の床屋は90分くらいで、世間話とのんびりマッサージもついて3,500円です。 私は後者にお得感があるのでQBには行ったことがありません。
虫垂炎の治療費はニュ-ヨ-ク243.9万円、香港152.6万円、ソウル51.2万円、日本37.8万円だそうです。グローバル化でサービスの価格が国際水準に近づくとすれば日本の医療費は上がっていいはずですね。今回の診療報酬改定でも支払側はデフレで給料も物価も下がっている時代に医療費を上げろと要求するなんて非常識などと診療側を責めていましたが,そういう意見の方が非常識だということがよくわかりました。19850726131431-20100403140305-4756
デフレで馬鹿を相手にしていてお疲れ様です。
あまり、無理をなさらないで下さい。
jit19850726131431 さん
ご指摘のニューヨーク(というかアメリカ)の虫垂炎の切除する請求費用は『無保険者』に対する費用であると推察されますがいかがでしょうか?ちょっと古い記事を見つけたので添付URLに示してますが、少なくともアメリカの場合は無保険者への価格の提示とHMOなどの大手保険に入っている人との価格差が大きいようで、無保険者などは実質割増料金を払う羽目になっているようですね。
本記事の床屋の値下げとグローバル化の関係と単純比較するのはちょっと無理があるかなと感じます。
QBなどの10分間カットのみの料金が競争によって国際標準になったというよりは、単に、日本人もアメリカ人と同じように、散髪に行って髭剃りや洗髪は不要だ、価値を認めないと考える人が増えただけではないでしょうか。またこの間の長い不況で節約のためもあるでしょう。
このことは35年前に出版された、大前研一氏の「企業参謀」(プレジデント社)の17頁に書いてあります。
私は、この本を読んで納得し、いつ日本でそのような店が出てくるか期待していました。20年くらいかかったようですが。
この件が、生産性を高めたという例になるのでしょうか?
kandekandeさん
為替市場を考えてないのがおかしいと思います。米ドルをもつ人が日本の床屋でサービスを受けようとすると40ドルで4000円を買う必要があったのが、12ドルで1200を買えば済むようになったわけだから、円の需要が減って円安要因になります。一方、町の床屋を買収するのは大して要らなかったのが生産性の高いQBを買収しようとすると多くの円が必要になり、円高要因になります。