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『オニノヒトミ』 第一章 第一節 「暗闇」『オニノヒトミ』 第一章 第一節 「暗闇」 俺は、夢から静かに覚めたように、気がつくと暗闇を彷徨っていた。 生臭い匂いの中、足元は少し湿っていて、歩く靴の音は水を奏でていた。 少しずつ周りの情報が見えてきた。 此処は、照明が無い、探鉱の通路のような狭いトンネルだ。 無意識に手探りにトンネルの壁を触りながら歩く。 壁も湿っている。 前は真っ暗。 後ろを振り返っても真っ暗。 此処がどこなのかわからない。 何故、俺がこうして歩いているのかもわからない。 待てよ…。 そもそも、俺は誰だ? 誰なんだ…。 様々な疑問が飛びかうトンネルを歩いている内に、前方から音が聞こえてきた。 出口が近い。 必死に震える足を無視しながら手探りに壁を伝って、前へ進んでいく。 前方は真っ暗なまま。 触っていた壁の感覚がなくなった。 出口だ! 安堵で足の力が急になくなり、近くの物体にもたれかかった。 息切れをしながら、回りを見渡す。 まだ真っ暗。 「おい、人がいるぞ。」 突如、前方から駆け足と声が近づいてきた。 それも複数。 「大丈夫ですか?」 肩を叩かれながら声が聞こえる。 「ねえ、やめようよ…。」 声は近い。 でも、真っ暗のまま。 「キャ―」 同時に女の悲鳴が聞こえた。 なにがなんだかわからない。 もう、どうにでもなれ。 気力を使い果たした俺は、崩れるように倒れ、そのまま意識がなくなった。 【1時間前】 俺達4人は、中学校からの知り合いで、高校では、ダブルカップルとなった仲だ。 高校最後の夏祭り。 近所の小さな祭りで花火を見ていた。 「4人全員、第一志望の大学に受かるといいね」 「そうだな。」 「そうだね。」 「俺、バカだから受かんねえかも。」 「そんなこと言ってると本当に落ちるよ!」 「ちょっと、三木(みき) それ禁句」 いつものような会話が流れる。 いつものような笑みが毀れる。 いつものように花火は散り、広がり、俺達を帰路へと導く。 祭り会場は、神社の麓で行われている。 今年の受験の御祈りのために神社に向かう。 古い神社。 照明は階段の下から届く程度の僅かなもので薄暗かった。 祈りを4人で済ました後、浩平(こうへい)が口を開く。 「なあ、何か聞こえないか?」 「え?」 「祭りのおっちゃんの叫びか?」 「浩平、何言ってるの?」 「向こうから聞こえる。」 浩平は、祭りとは逆方向の暗い茂みへと走っていった。 「浩平!」 3人は後を追う。 5分ほど進み、深い茂みが拓けた。 「おい、人がいるぞ!」 こんな場所があったのか…。 すっかり錆びれたバス停とガラスが割れている公衆電話があった。 その2つの奥には、途切れ途切れに光る電柱、しかも木製のものが1つ、ぽつんと立っていた。 そして、上半身裸で傷だらけ、泥だらけの若い男が公衆電話の受話器にもたれかかっていた。 「私、怖いよ。 声かけるの?」 浩平は聞く耳を持たずに話しかける。 「大丈夫ですか?」 「ねえ、やめようよ…。」 茜(あかね)は、浴衣も汚れ、泣きそうだった。 三木は浩平の下に近づいていった。 「キャ―」 三木は叫んで、尻餅を搗いて静かにつぶやいた。 「この人、目が無い。」 『オニノヒトミ』 第一章 第二節「閃光」へ |