Air [True heart to you.]
逃亡者様の作品
[ 蠢く者 ]
2010.03.21 *Edit
「裏切るなよ、碇」
「分かっています、キール議長」
碇は私の執務室から退室する。
碇が持ってきた『人類補完計画』、私の願いを聞き届けるものかもしれない。
しかし油断のならない男だ碇ゲンドウ、何を考えているのか。
瞼を閉じ思考する。
私は間違っているのか。
いや、この計画は啓示なのだ。
人が神に贖罪する為の。
私は再び目を開け、もう一度呟く。
「使徒が勝つか、碇が勝つか、私が勝つか、それとも・・・・
いずれにしても、意志の強さが世界の未来を決める」
私はキール議長の執務室を出る。
フフフ・・・ 全ては私の心の中だ、今はそれでいい。
私の願いはただ一つ・・・。
「使徒が勝つか、老人達が勝つか、私が勝つか、それとも・・・
ふっ、問題ない」
私はキール議長の執務室の扉を睨む。
全てはこれからだ。
蠢く者
作：逃亡者
この世は意志の力で動いている。
意志の強さが世界に志向性を与える。
私はその事をゼーレの一員になったときに知った。
ゼーレ・・・ 世界を調停する組織。
その実態を知るものはごく僅か。
私は４０にしてその組織の一員となった。
私はその組織の中で自分の基盤を作っていった。
ある時には裏切り、ある時には懐柔して・・・。
私の意思は常に強さと志向性を持っていた。
そして私は世界の調停者のトップとなった。
国連さえも私の僕となった。
私は自らの正義を信じ、世界を平和へと導く伝道者となった。
その為にいくら人が死のうとも、それは平和への尊い殉教者に過ぎない。
私の意志は揺らぐ事が無かった。
私の幼少期は恵まれていたとはいえないだろう。
１４の時、両親は他界した。
その時の私にとって世間は、あまりに広く、残酷で、無慈悲だった。
私は悟った、この世では“力”こそが正義なのだと。
私は“力”を手に入れるため、それこそ血の滲むような努力をした。
そして人を利用する事も覚えた。
私は“力”を手に入れるため、一人の女を利用した。
この女も私の進むべき道の糧となるのだ。
今はそれでいい。
『裏死海文書』
ゼーレの指導者になったとき、前代より受け継がれし預言書。
そこには２００１年から２０１５年末に起こる、セカンドインパクト及びサードインパクトと呼ばれる災厄が記されてあった。
そしてそれをきっかけに『使徒』が襲来する事も予言されていた。
私は世界人類の為、それを未然に防ぐべく組織を立ち上げた。
そして１０年の歳月を経て日本のある場所に、預言書に記される『使徒』と呼ばれるものを発見した。
これが預言書に記される『リリス』なのだろう。
私はそこに使徒迎撃都市を造ることを提案した。
私の強き意志は実行に移された。
『裏死海文書』
女は・・・ 碇ユイはそのような事を話していた。
ユイはゼーレという組織と繋がっている。
ゼーレ、世界の調停者。
そこには２００１年から２０１５年末に起こる、セカンドインパクト及びサードインパクトと呼ばれる災厄が記されてあるという。
そしてそれをきっかけに『使徒』が襲来する事も予言されているのだと言っていた。
ならばそれも利用するまでだ、私が“力”を手に入れるために。
ユイの助力もあり、私はゼーレという組織の基盤に入る事が出来た。
全てはここからだ。
しかしいくら私の意思が強くとも、人類が争いを止める事はない。
私は努力した。
世界を平和へ導く為に・・・。
争いは無くならない。
右で争いが止まれば左で喧嘩が始まる。
争いというのは鼠の如く這い出てくる。
そしてセカンドインパクト。
予定調和のうちとはいえ、人類を危急存亡の危機へと追いやった。
正直私はセカンドインパクトに恐怖した。
これからくる「使徒」に人類は勝利する事が出来るのだろうか？
でなければ人類はその先にある輝かしい未来に辿り着く事が出来ない。
私は不安を自分の外へと追いやる。
不安や怯惰は私の意思を弱くする。
しかし・・・。
私は分からなくなった。
利用していたはずの女を私は愛してしまった。
ふっ、いいではないか、それに何の不都合がある。
私はユイと結婚した。
そしてセカンドインパクト。
予定調和の大災厄。
南極にいた私は、その事を知ったから日本へ帰ることにした。
正直私はセカンドインパクトに感謝した。
それによって私はまた一つ階段を上る事に成功したのだから。
そして『使徒』、この存在は私を更なる高みへと導いてくれるだろう。
だが、すべては『Ｅ計画』にかかっている。
油断は出来ない。
しかし私は疲れかけていた。
そんな時に私に悲劇が起こった。
ユイがシンジをつれて研究所へやってきた。
シンジ・・・ 私の息子よ。
『Ｅ計画』の機動実験中に事故が起こった。
ユイが・・・ エヴァに取り込まれてしまった。
一月にわたるサルベージ計画も失敗。
私は失意のどん底にあった。
その時に知る、ユイはすでに私の体の一部なのだと。
ユイの持ち物を調べる。
その中に見つけた幾つかの資料。
そしてユイの人類と未来への想い。
私は悟った。
ユイは自らの意思でエヴァに取り込まれたのだと。
なら私はどうすればいい？
私はさらにユイの書き残した資料や、『裏死海文書』を読み漁っていった。
そして見つけた。
『人類補完計画』
そんな時に碇ゲンドウが現れた。
進むべき方向を見失った人類を救済する術を持って。
もっともこの男には別の考えがあるのだろうが、私の強き意思は全ての意思を飲み込む。
例え愛しき妻を失った男がその胸に黒き野望を持とうとも、私の意思の前では路肩に転がる石でしかない。
私は碇の提案に乗った。
私はキール議長の前に姿を現した。
この老人が人類を憂いていることは知っている。
うまく説得すれば乗ってくるはずだ。
病み疲れた人類を救済するには、人類を一つの群体※へと押し上げねばならない。
そしてそこで神への贖罪を受けるのだ。
ああ、罪深き人類よ、全ては我が意思の赴くままに。
私も妻のいる高みを目指そう。
そのためにはゼーレの後ろ盾が必要だ。
こればかりは私一人ではどうしようもない。
私は罪深き人間だ。
しかし、問題ない。
もしかしたら、私は度し難い愚か者なのかもしれない。
ありもしない幻想を見ているのかもしれない。
私の中の何者かが私の意思に干渉している、そんな感覚さえ覚える。
もし・・・ 人類にこの先の未来があるとして、私の事を評したとしたら？
私は狂信者と呼ばれるのだろうか？ それとも歴史への殉教者になるのだろうか？
フフフ・・・ それはその時の人類が決めればよい事ではないか。
両手に持てるものは限られている、だから人は何かを得るとき何かを手放さなければならない。
私はもしかしたら大事なものを捨てようとしているのかもしれない。
しかし私の中の何かが命じる、時計の針を進めよ、と。
もし・・・ 私にこの先の未来があるとしたら？
息子は・・・ シンジは私の事を何と言うだろうか？
いや、私は歩き出したのだ、自分の道を、戻る事の出来ない道を。
円卓の会議。
ゼーレのメンバーが顔をそろえる。
私は一同を見渡す。
『人類補完計画』
人類最後の救済策。
今やゼーレの意志が世界を動かす。
この円卓の会議が世界の総意なのだ。
そしてこれが通れば、私が人類を救う救世主となるのだ。
さあ、私の意思をゼーレに反映させようではないか。
私は強き意思を持って会議に臨んだ。
ゆっくりと私は声をかける。
ネルフの司令へと私は駒を進める。
もうすぐだ、私がエヴァであるユイのアダムとなるのは。
そして永遠を共に過ごそう。
ユイよ、待っていてくれ、全ては整いつつある。
冬月と赤木博士が私の元へ報告にやってくる。
私は両者に向き直り、声をかける。
「「さあ、始めようか・・・」」
※群体 ・・・ 多数の個体がくっついたままで、一つの個体のような状態の動植物です。（例としてクラゲ）
ー 了 −
読者の皆様、tomatoさん、こん○○は、逃亡者です。
短い文章で、しかもキール議長とゲンドウが主人公です。
では、こんな作品ですが最後まで読んでくださった読者の方、有難うございました。
それでは。
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逃亡者様
投稿＆素敵な作品ありがとうございました。
[ フッ 実に、面白い。]福山＠ガリレオ風に
碇ゲンドウ…おいらには男の美学を持っているように感じています。
シンジを想う傍ら、止める事の出来ない選んだ道…渋いぜ、ゲンドウ。
意外な一面を見せてくれたこの作品とても好かったですね。
逃亡者さんに拍手〜!!＆コメントもね！
Comment
Re: ありがとうございます
僕からも読者の皆様、拍手ありがとうございました。
逃亡者様、いつもコメント等、お気遣い感謝致します。
サイト設立時には逃亡者様の作品に使った物を進呈しようかと思っています。
新しい作品をまた、逃亡者様のサイトで読ませてくださいね。
ありがとうございました。
逃亡者様、いつもコメント等、お気遣い感謝致します。
サイト設立時には逃亡者様の作品に使った物を進呈しようかと思っています。
新しい作品をまた、逃亡者様のサイトで読ませてくださいね。
ありがとうございました。
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ありがとうございます
えー、残り少ないですが、拍手のほうありがとうございました。
そしてtomatoさん、ご指導いただきまことにありがとうございます。
またいつの日か、tomatoさんが復活される事を期待しております。
それでは拍手を下さった皆様、また読者の皆様、そしてtomatoさんに平身低頭して感謝申し上げます。