[　３６７番台のネルフスタッフたち　]

2009.11.08 *Edit

　※これはパチンコＣＲエヴァンゲリオン「最後のシ者」をモチーフにしたＳＳです。
　パチンコをされない方には何を言っているんだかわからない内容となっておりますのでご注意ください。

　ちくちくちくちく
　ちくちくちくちく

　「・・・痛ッ！」
　「あ、アスカ大丈夫？」
　「いった～・・・。あ、やだあ血が出てる」
　「え、ちょっと見せて。本当だ。そうだ、僕絆創膏持ってるんだ。アスカちょっと指見せて」
　「・・・じょ、冗談じゃないわよ。な、なんであたしがあんたなんかの世話にならないといけないのよ！　そ、そもそも気安く手なんか握らないでよね！」
　「でも、傷口に黴菌が入ったら大変だよ」
　「・・・し、仕方ないわねぇ！ほら！特別にさせてあげるから、早くしなさいよね」
　「う、うん。あ、でも先に血を止めないとね。こうやってハンカチで押さえて・・・」

　・・・いいかげん話しかけてもいい頃かしら。
　私はことさら冷たい声で二人の前に歩み出た。
　「あ、綾波」
　「な、何よあんた」
　「・・・傷にはまずこれよ」
　そう言って私が差し出したマ○ロンを手に取り、碇君が笑った。
　「あ、そうだ。これを忘れてた。綾波は用意がいいね」
　「ええ。必要だったもの」
　私は二人の前に両手を広げて見せた。私の指にはそれこそおびただしい数の絆創膏が貼られてい　るのだ。
　「・・・綾波、頑張ったね・・・」
　その時だった。
　『シンジく～ん？出番よ。シンちゃん人形も持ってきてね』
　葛城三佐のアナウンスが聞こえてきた。彼女の声は少しだけ興奮している。しかも、碇君人形の出　番だって言ってたわ。
　『あ、レイも出動要請かかってるわよん。じゃ、急いでね～』
　「え・・・。ということは、まさか・・・」
　碇君はまだ葛城三佐の言葉の意味がわかってないみたい。
　「ひっさしぶりの出番ってことでしょ。さっさと行けば？」
　弐号機パイロットが不機嫌そうにそっぽを向いた。さっきまでほっぺたを真っ赤にさせていたのが嘘
　のようだわ。
　「え、ぼ、僕は別に・・・」
　碇君は少し困ったように声を詰まらせた。弐号機パイロットに遠慮してるのね、きっと。
　「優等生も嬉しいでしょ？シンジ様と久しぶりの共演だもんねぇ」
　「ええ、嬉しいわ」
　私は素直に頷いた。彼女の言う通りだったから。
　「とっても嬉しいわ。だって感謝されるもの。出てきていきなりため息をつかれることもなければ、舌　　打ちをされることもない、いきなり叩かれることだってないのよ」
　「・・・う・・・」
　たじろく弐号機パイロットを置いて私は碇君の腕を引っ張った。
　「さあ行きましょう碇君。その人形も忘れないで」
　「う、うん」
　碇君は後ろを何度も振り返りながら、それでも駆け足でケージへと向かった。碇君だって、久々の活　躍は嬉しいはずよ。その証拠に、さっき縫っていた人形を紙袋に押し込める時いつになく素早かった　もの。

　それもそのはず、碇君は今日はまだ一度もエヴァに乗っていない。

３６７番台のネルフスタッフたち

　「日向さん！青葉さん！これ！」
　初号機に乗る前に、碇君は紙袋に詰めた無数の人形を待機中の日向二尉と青葉二尉に手渡した。
　『日向君、青葉君、準備はいい？』
　「はい！葛城さん！」
　「シンジ群、スタンバイＯＫ！」
　その瞬間だった。

　リーチ！

　『シンジ群、発射！』
　葛城三佐の鋭い声と共に、先程まで碇君が一生懸命に縫っていた大量の碇君人形が発射された。
　たくさんの碇君が宙を舞う・・・。
　今日、私の人形が飛ぶことはあるのかしら。
　「君たちも大変だね」
　役目を終えた青葉二尉がゆっくりとやってきた。
　「前回までは人形作りなんかしなかったのにね」
　そうなのだ。以前は群予告のための人形を作るのは鈴原君、相田君、洞木さんのバイトだった。け　　れど三人には違うバイトが入ってしまったので、私たちの内職仕事となってしまったのだ。
　最初の頃は大変だったわ。特に弐号機パイロットなんか何度も針で指を刺してしまったし・・・。でも、　彼女の人形が着るのが赤いプラグスーツだったのは幸いだった。そうでなければ、私のように碇君　　や伊吹二尉に手伝ってもらわなくてはならなかったもの。
　『レイ！そろそろ出番よ！』
　葛城三佐の合図に、私は急いで零号機に乗り込んだ。

　「綾波！」
　「碇君！」
　今にも初号機にのしかからんとする巨大な球形の使徒。ひるむ碇君の前に、私が乗った零号機が　　颯爽と跳躍した。すかさず目の前の使徒に容赦なくポジトロンライフルを撃ち込む。
　「今よ！」
　私の援護に一瞬萎えかけた闘志を再びみなぎらせ、初号機が頭上の使徒へ向かった。使徒の張り　巡らしたＡＴフィールドを突破するのだ。
　「ＡＴフィールド、全開！」

　バリィ！

　心地よい破壊音と共に空中に浮かぶ巨大な「８」の数字が、陽の光を受けて煌めいた。
　「完全勝利！」
　碇君が初号機の雄たけびをバックに高々と宣言する。その姿はとても逞しく見える。
　・・・たとえ揃えた図柄が単発図柄だったとしても。

　「お願いよ・・・羽根を広げて・・・吼えて・・・。司令でも、シンジ君でもいいの私を押しのけて・・・。もう　蔑まれるのはいや。罵られるのもいや。母さん、力を貸して・・・」
　発令所に向かうと、赤木博士がブツブツ言いながら一心不乱に祈りを捧げていた。その姿はまるで　敬虔な教徒のようだ
　（・・・羽根出せ！・・・吼えろ！くそ！槍だ！槍を出せ・・・）
　どこからともなく声が聞こえてくる。それはそれはひたむきで切実な声だった。
　「まずいわ・・・。みんな！何かに掴まって！リツコ！何やってんのよ！」
　尚も祈る赤木博士を、葛城三佐が無理やりテーブルの下に押し込めた。私も慌ててそれに倣う。
　ドン！ドン！
　「きゃあ！」
　「うわあ！」
　激しい衝撃と震動が私たちを襲った。
　「ああ母さん・・・。力を貸して・・・」
　隣では赤木博士がまだブツブツ言っている。
　「葛城三佐」
　私が葛城三佐の瞳を覗きこむと、彼女は寂しげに首を振った。
　その時、ひと際大きな衝撃が発令所を襲った。
　「母さん！裏切ったの！」
　赤木博士が金切り声を上げた。葛城三佐と碇司令が駆け寄って宥めている。
　「マ・・・マヤ・・・。セグは・・・」
　「そ、それが・・・」
　わずかな希望に縋る赤木博士だったけれど、伊吹二尉は悲しげに顔を伏せている。
　「レイ。あなたの出番よ」
　「・・・はい」
　私は力なく頷いた。赤木博士、私に期待を込めた目で見るのはやめてください。

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　「おかえり」
　「早かったわね」
　戻ると、碇君と弐号機パイロットが変わらず人形作りをしていた。
　「一度もリーチがかからなかったわ・・・」
　「ああ、そうだったんだ。一度も呼ばれなかったから、てっきり国連軍が頑張ってるのかなと思ってた　んだけど」
　「思えばあの人たちも気の毒よねぇ～。一体何のためにやってるのかわからなくなるんじゃない？」
　「まあ僕も戦闘訓練に呼ばれる時はそんな感じだけどね・・・」
　「あ～あ。それにしてももういや！毎日毎日内職ばっかり・・・」
　「仕方ないよ。トウジたちが時短であんなに出番が増えたんだから」
　「何よ。大体出てきてもほとんどが無意味で終わるじゃないの。あんなの、ただの時間稼ぎ以外の　　なんだって言うのよ」
　「そ、そうだけど・・・」
　それを言ってはいけないわ、弐号機パイロット。確かに言っていることに間違いはないけれど。
　私が弐号機パイロットを諌めようとした時だった。
　「やあ、みんな元気かい？」
　・・・来たわ。
　いいえ、「来やがった」わ。
　弐号機パイロットがいきなり舌打ちした。苦虫を潰したような顔とはこういうことを言うのだろう。でも、　きっと今私も似たような顔をしているわ。
　渚カヲル。
　今回の主役。
　私が知っている彼の情報はそれだけだ。それ以外知る必要ないもの。
　「やあみんな。調子はどうだい？」
　「・・・これ見てわかんない？」
　弐号機パイロットが不愉快そうに吐き捨てた。口を利くのも嫌なのだと言わんばかりだ。いや、実際　そうなのだろう。
　「シ、シンジ君。さっきは凄い活躍だったね」
　「あっち行けよ、この白髪」
　今のは碇君の台詞だ。けして弐号機パイロットのものでも、私のものでもない。
　大体フィフスが悪いのだ。碇君から主役の座を奪い取ったのは、他でもない彼だ。
　弐号機パイロット、私の順番で主役が回ってきたのだから、次は碇君のはずだ。なのに、フィフスが　それを横取りしたのだ。
　そもそも毎回毎回プレミアという地位を欲しいままにしているくせに、主役にまでなるなんて不公平　　だわ。碇君が恨むのもよくわかる。大体、前回主役だったはずの私は「はずれ要員」とまで呼ばれて　いたのに何だろう、この待遇の差は。
　おまけに唯一の欠点だった単発図柄という立場も、確変中に限り改良されたのだ。それなのに私た　ちが彼を優しく迎え入れられるなんてできるかしら。いいえ、できないわ。
　「あ、あの・・・。葛城さんが君たちを呼んでるんだ・・・けど・・・」
　しどろもどろといった調子で話すフィフス。正直その態度も腹立たしい。主役なんだから堂々としてい　ればいいのだ。変に私たちに同情したような態度をとるから余計に私たちも苛立つというのに。本当　に用済み・・・。いいえ、モニターの向こうにいるヒトから見れば、用済みは私たちの方よね・・・。
　「何よ、それ。ったく、早く言いなさいよねぇ」
　弐号機パイロットが立ち上がる。面倒くさそうではあるけれど、あの単調な内職から離れることがで　きてほっとしているのだろう。
　「僕たち全員呼びだすってことはトウジが出てくるのかな？すごいよ、まだ時短が終わったばかりな　のに」
　「さあね。あれってあたしの活躍はないからつまんないのよね～」

　葛城三佐の用事とは、私たちがエヴァに乗るような類のものではなかった。

　「ＭＡＧＩが故障したわ」

　集まった私たちに、彼女は短くそう言った。
　「故障・・・ですか・・・」
　「ええ。さっきかなり大きな衝撃が走ったでしょう。そのせいで、ＭＡＧＩの一部が故障してしまったの　よ」
　「どういうことですか？じゃあ今日は動かせないの・・・？」
　弐号機パイロットが不思議そうに首を傾げる。そう、今だって活動しているわ、この台。
　「いいえ。ただ、そのリーチが当たるのか外れるのかは予測不可能となってしまったのよ」
　その時だった。
　ビーッ！ビーッ！
　「ミッション！？」
　「いいえ、これは・・・」
　「パターン青！使徒です！」
　反射的に私たちは中央にある大画面に目を向けた。
　「ガギエルだわ・・・」
　「ということは・・・」
　私たちの目が一斉に弐号機パイロットに集まる。
　「あたしってことね・・・」
　「図柄は２のシングル、中段に停止しました」
　弐号機パイロットがケージへ走った。彼女の背中からは闘志がみなぎっている。でも、正直微妙だ　　わ。だって、私の予告が入らずスイカが浮き上がってきただけだもの。
　『ええ～！？マント用意されてないのぉ！？』
　ケージから、弐号機パイロットの悲鳴が聞こえてくる。弐号機、マントもないのね・・・。
　『いいわよ！マントなんかなくたって！・・・あたしを誰だと思ってんの？』
　「あのセリフも微妙よね・・・」
　隣で赤木博士がぼそりと呟いた。

　三分後。
　『きゃああ～！』
　「・・・」
　「・・・」
　気まずい沈黙が発令所に流れた。
　「アスカ、やられたのね・・・」
　「まあ無理もないわ。レイの予告もなかったし、槍なし、ムービーなし、援護なしじゃねぇ」
　「うっ・・・。ごめんなさい・・・」
　碇君がしょぼんとうなだれた。でも仕方ないわ、他のエヴァが発進している時、私たちのエヴァはな　かなか動かないもの。
　「そんなことより、あと三回転でゲヒルンモード突入だそうだ。気持ちを切り替えた方がいいぞ」
　明るい声をあげたのは加持二尉だった。彼はいつもとは違うシャツを着込み、後ろでしばっていた髪　の毛をほどいている。
　「どうだ、レイ？どこから見ても大学生だろ？」
　「・・・とてもそうは見えません」
　こういう時、嘘がつけない性格は困る。でも、加持二尉のこの格好は無理があると思う。
　その横では葛城三佐と赤木博士がナチュラルメイクに切り替えている。子役に任せる私たちとは違　って、大人たちは若作りして臨むのだから気の毒だわ。司令なんかそのためにあの髭を剃らされた　のだ。今の司令の見事な髭は、実は付け髭なのだ。
　「ということは、しばらく私たちはお休みね」
　「うん。アスカにジュースでも買っていこう・・・」
　そうね、きっと彼女落ち込んでいるわ。でも・・・。
　「私にも買って、碇君」
　私だって何度も無意味な出撃をしているのだ。

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　「あれ。シンジが今縫ってるの、ペンペン？」
　「うん。僕のは当分大丈夫だと思うけど、ペンペンのはだいぶ減ったからね」
　『シンジ君、アスカ！人形を一体ずつお願い！』
　葛城三佐からの通信だった。
　「一体ずつ・・・ということは、カウントダウンですね！」
　「どっち！？当たるの！？はずれるの！？」
　それがわからないのよ、今日は。やっぱり台を叩くとこういう弊害が起きてしまうものなのね。
　『とにかく、保留玉３からスタートだから、アスカお風呂上がりの格好に着替えて』
　「了解！」
　いそいそと頭に付けたインターフェイスヘッドをはずす弐号機パイロット。碇君は自分と彼女の人形に　看板を持たせている。
　「二人とも、次よ！」

　「にい！」
　弐号機パイロットがサービス用の笑顔でＶサインを作る。
　ドン！
　「いち」
　碇君がまるで補完されたかのような仏の笑みを浮かべて見せる。
　ドン！
　・・・それにしても、カウントダウンされるごとに衝撃が走るのはちょっと怖い。今頃、発令所では葛城　さんたちがまた机の下に入っているのかしら。
　「ぜろ！」
　予想通りだったけれど、ゼロのカウントは洞木さんたちだった。だって、フィフスは私たちから離れた　　ところで昼寝してるもの。これで確定ではなくなったわけね。
　ドガッ！
　「うわあ！」
　寝ていたフィフスが勢いよく転がった。のんきなことをしているからだわ。
　『アスカ！出番よ！』
　「え・・・」
　弐号機パイロットの顔が強張った。使徒を倒すのは自分だとわめいていた目立ちたがり屋の姿はそ　こにはなかった。でも、彼女の気持ちはよくわかる。カウントダウンしているくせに、この予告は確定　ではないのだ。私から始まれば確定ではあるけれど、今回は違う。
　それにしても、当たらないなら一体何のカウントダウンというのだろう。台が壊されるカウントダウンか　しら？
　『さあ、急いで！』
　「・・・わ、わかったわよ・・・」
　「僕にはお呼びがかからないね」
　碇君はそう言って立ちあがった。
　「ごめん。僕ちょっとトイレ」
　「ええ」
　海上では弐号機がガギエルを抑え込もうと奮闘している。それにしても、４図柄のシングルなら、上　段に停止してくれればいいのに。
　「きゃあ～」
　案の定弐号機は海の中に突き落とされた。
　『アスカ！安心してシンジ君を今から寄こすから！シンジ君ごめんなさい、連絡するの忘れてたわ！　今すぐ初号機に乗って弐号機を援護して！』
　葛城三佐の切羽詰まった声がした。
　「葛城三佐。碇君はトイレに行ってます」
　『まじぃ～！？』
　その頃、モニターでは海中で使徒の口をこじあけようと、たった一人で頑張る弐号機の姿が映し出さ　れていた。ちなみに私と葛城さんの会話も聞こえたはずだ。
　「これで、ラストォ～～～！」
　気合のこもった声が発令所に響き渡った。

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　「・・・アスカ、あの・・・」
　「惣流さん、見て。私また第一段階でマトリエルに叩き落とされたわ」
　「僕なんかシンクロで『またお前か』って言われちゃったよ」
　「私なんかババアは出てくるなと言われたわ」
　「そうよ。あたしなんか出るたびにドン！が来るからサロ○パスが欠かせなくて～」
　「国連軍なんかまた撃墜されてるぞ」
　「クエ！クエ！」
　結局、あの後弐号機は無残にも海の中に沈められたのだ。毎回弐号機を救助する艦隊の人たちは　大変だと思う。
　それにしても、私や碇君、赤木博士と葛城三佐はいいとして副司令まで慰めに来るなんて、よほど　同情したのね。
　「副司令！台詞です。１番をお願いします」
　「やれやれまたかね」
　副司令が胃を押さえながらマイクをとった。
　「焦ることもあるまい」
　（焦るわーい！）
　ドン！
　副司令が椅子から転げ落ちた。
　「司令！次は台詞２番です」
　「・・・何故だ！」
　（こっちが聞きたいよ！）
　ドン！
　司令が副司令に重なるように倒れこんだ。
　「なんかさ、ハマるとこういう台詞が多くなるよね」
　「で、予告はあたし止まりなのよねぇ。まだリツコだったら、ジャンプしてくるかもと思われるけどさぁ」
　「葛城さん、次の台詞は３番です」
　葛城三佐が手すりにしっかりと掴まりながらマイクを握った。
　「しゃきっとしなさい！しゃきっと～！」
　（お前がしゃきっとしろや！）
　ガンガン！
　「ひぃっ！」
　それにしても、さっきから聞こえてくるこの声は一体何かしら・・・。乱暴だけれど、とても悲しい　　　　声・・・。
　「そういえば、さっきの大当たりから何回転だっけ？」
　「五百とちょっと・・・。当然またしても現金を投入してるわね・・・」
　「そりゃ苛立ちもするか」
　「辛いな・・・」
　「ああ・・・」
　上では副司令の寂しげな言葉に司令が頷いていた。
　「あ！パターン金！リラックスです！・・・アスカロングタイプです！」
　「アスカ！着替えて！」
　「う・・・」
　すでに泣きそうな顔の弐号機パイロットはそれでもすぐに着替えに向かった。
　「アスカ！今度は５と６のダブルリーチだ！大当たりフラグが立ったようなものだよ！」
　「本当！？」
　碇君の言葉に、弐号機パイロットが顔を輝かせた。
　「アスカ、それにシンジ君の援護も入るわよ！」
　「よし！行くわよ！」
　さっきとは打って変わって元気な彼女の掛け声とともに、二人が走り出した。
　「久々の激熱ね。できれば確変図柄で止まってくれないかしら・・・」
　「ミサト。まだ当たったってわけではないのよ。油断しないで」
　「だ～いじょうぶよん。だってアスカロングで確変図柄先頭のダブルリーチよ？アスカの最も得意な　　組み合わせじゃないの。しかもシンジ君もいるし」
　「だといいけど・・・」
　大画面には勢いよく泳いでくる使徒の姿が映し出されている。それにしても、何であんなに強いのか　しら、彼らは・・・。
　「マントがないわ・・・」
　私が呟くと、葛城三佐は笑いながら手を振った。
　「もう～レイまで心配性ねぇ。大丈夫よ。アスカのことだからちゃんと熱い台詞を・・・」

　「私が行くわ」

　・・・あのセリフ、確か一番信頼度の低い・・・。

　「と、とにかく！鉄板よ、ほぼ鉄板！」
　その時、至極当然のように弐号機が海に叩き落とされた。

　「シンジ！」
　「アスカ！」
　「「うおおおおおー！」」
　必死の形相でガギエルの口をこじ開けようとする二人。５は砕けてしまった。いいえ、次こそ本番よ。
　「頑張れ！二人とも！」
　「あたしがついてるわよ！」
　「お願い！入って！」
　（頼むぜコンチクショー！）
　応援する私たちの声にも自然と熱が入る。一つ知らない声も混ざっていたけれど今はそれどころで　　はないわ。私は手を組み、心をこめて祈りを捧げる。
　「きゃあああ～！」
　「・・・あ」
　「あ」
　（ああああー！！）
　「カ、カヲル君は！？」
　誰よりも早く立ち直った葛城三佐が振り返る。
　「くか～」
　そこには、ペンペンにもたれながらよだれを垂らして眠りこけるフィフスの姿があった。役立たずね。
　「動け動け・・・。今動かなかったら、何にもならないんだ！だから、動いてよぉ！」
　必死で叫ぶ碇君。でも、その台詞では今回は何も起きないわ・・・。

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　「ミサトさん！リツコさん！アスカが・・・アスカがぁ・・・！」
　碇君が弐号機パイロットを抱えながら今にも泣きそうな顔で叫んだ。対照的に彼女の方は無表情の　ままだ。その青い瞳は開いてはいたけれど、何も映し出してはいなかった。
　「かわいそうに・・・。精神に負担をかけすぎたのね」
　赤木博士が静かにそう言った。
　「そんな・・・治るんですか！？」
　「わからないわ。限界ギリギリのダメージを受けたのよ。心の最深部までね」
　「いや・・・」
　その時、弐号機パイロットが小さく口を開いた。
　「アスカ？」
　「いやあああ～！いや！いやあ～！」
　突然頭を抱えながら泣き叫ぶ彼女。
　「せ、精神崩壊！？」
　「・・・というより・・・」
　慌てる私たちを尻目に、赤木博士がモニターを指差した。
　「暴走したのよ・・・」
　「へ？」
　そこには、私と葛城三佐、そして弐号機パイロットの顔が並んであった。
　「あんたバカぁ？」
　弐号機パイロットが突然碇君を突き飛ばした。呆然とする碇君にニヤリと笑って見せる。
　「本当にバカね」
　「アスカ！よかった復活したんだね！」
　「やっぱりピンチを救うのはあたしなのよねぇ！」
　・・・立ち直るの、本当に早いわ・・・。

　「シンジ、あたし嫌な予感がする・・・」
　「え？」
　「見て。リラックスでリツコよ」
　大画面には煙草をふかした赤木博士が映し出されている。
　「それはどうかしら？」
　「・・・あ」
　止まった図柄は今日一日さんざん弐号機パイロットを苦しめたあのガギエルだった。
　「レイ！シンクロ開始よ！」
　「・・・私・・・ですか・・・」
　嫌な予感がするわ。
　「で、でも・・・リラックスリツコさんならはずす可能性だって・・・」
　「それに、当たっても昇格するかもしれないし・・・」
　「いや、時短ということも・・・」
　みんなは必死で前向きなことを言ってくれたけれど、誰一人として私の目を見ようとはしなかった。
　「でもさ、暴走したのに単発ってがっかりコンボよね・・・」
　ケージに向かう時、弐号機パイロットが碇君にそっと囁くのが聞こえた。

　「シンジ君、アスカ！特訓モードの準備お願い！」
　今回時短は特訓モードなのね。二人はおそろいの衣装に着替えている。
　「は～あ、もうやってらんないわよねぇ」
　「でも、特訓モードは引き戻す確率高いから・・・」
　「そうだけどさぁ」
　ツイスターゲームをしながら二人がのんきにしゃべっている。音声はモニターの向こうにはいかない　　から二人とも好き勝手話せるのだ。
　「大体さあ、今日のやつ台叩きすぎ」
　「あ、僕もそう思った。ちょっと乱暴だよね」
　「そんなことしても当たらないってのに。知ってる？この前隣の台を叩きすぎた奴なんか、ガラスを割　っちゃったのよ」
　「知ってるよ。あれは痛そうだったよね」
　「ま、叩きたくなる気もわからないでもないのよねぇ」
　「うん、イライラするだろうね」
　「それにしても、リーチ来ないわね」
　「アスカ、ミサトさんが向こうでピースしてるよ」
　「ピースじゃなくて後２回転って言ってるんじゃない？」
　「うわあ・・・」
　結局、二人とも特訓の成果を何一つ見せないまま発令所にカメラは切り替わった。

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　「今さ、ちらっと見えたけどもう玉が残ってなかったよ」
　「うわあ・・・この人一体どれだけハメたんだろ・・・」
　「見て。財布から最後の一枚が取り出されてるわ」
　私は確かに見たのだ。たった一人残されたヒデヨの顔を。
　「最後のシ者、か・・・」
　「ざ～んこくな店長のテーゼ・・・」
　「さ～いふ～から金が飛び立つ・・・」
　何気なく歌いだした碇君に、弐号機パイロットが続いた。
　「迸る熱い予告が信頼度裏切るなら」
　私もつい続いてしまう。
　「今、リーチになったみたい。予告は？」
　「え～と・・・普通のステップアップみたいだ。ぴょいんって鳴ったけど駄目だろうね」
　「つまんない予告」
　私たちに何も声がかからなかったので、きっとノーマルで終わったのだろう。内職に戻ろうかなと立　　ちあがった時だった。

　「やあ。僕を待っていてくれたのかい？」

　・・・この声は・・・。

　「それとも、大当たりを待っていてくれたのかい？」

　まさか・・・。

　「おめでとう、ようやくその時がやってきたようだね」

　絶望を映すかのような漆黒の画面に大きく浮かび上がる白い文字。

　「パチンコ」

　「全回転」

　そして流れるあの名曲・・・。
　「カ、カヲル君！」
　碇君が身を乗り出した。いいえ、碇君だけではないわ。私も、弐号機パイロットもフィフスの姿を見つ　める。

　「ありがとう、君に会えて嬉しかったよ」

　そう言って私たちに微笑みかけるフィフスの姿は、誰よりも神々しかった。正直今更かという気もした　けれど、彼が確変を引き寄せてくれたことで、私たちは救われるかもしれない。大反撃に出られるか　もしれない。

　「はずれと当たりは等価値ではないんだ。パチンコにおいてはね」
　そうして微笑む彼の前には三人の碇君が揃った。

　言われるまでもない事実だけれど、それはいいわ。だって確変を引いたのだから。
　『シンジ君～？今入った保留玉で出撃よ。なあんとシンジ君予告４回よん』
　葛城三佐の明るい声が届く。疑似予告４回なら確変確定だわ。
　「おめでとう、シンジ君」
　「ありがとう、カヲル君！」
　戻ってきたフィフスに、碇君が駆け寄った。
　「シンジ君・・・」
　「カヲル君、ごめんね辛く当ったりして。僕、君に嫉妬してたんだ・・・」
　「いいんだよ、シンジ君。僕こそ主役を奪ってごめんよ・・・」
　「ううん、それはカヲル君のせいじゃないのに僕は・・・」
　「君とまた友達になれて嬉しいよ。それより、これから猛反撃だ。頑張ってね、みんな」
　「うん！」
　ええ、これから私たちの反撃が始まるのだ。こんなハマり方をした台なら、もしかしたら爆発するかも　しれないわ。
　碇君がさっそく初号機ケージへと向かった。よほど嬉しいのか、スキップまでしてるわ。
　「チルドレンモード、渚カヲル編突入！」
　発令所ではフィフスの声が響いた時だった。

　ガチャン

　「え・・・？」
　「エ・・・エネルギーが・・・切れた・・・」
　「初号機、活動限界です！」
　「シンジ君・・・？」
　突然の事態に私たちが呆然としていると、聞き覚えのある旋律が流れ込んできた。
　「この曲・・・」
　「蛍の・・・光・・・」
　「エヴァ・・・全機活動停止・・・」
　「まさか・・・」
　「閉店・・・？」
　私は慌てて時計を覗きこむ。時刻は、午後１０時４５分だった。
　「そ・・・そんな・・・」
　へたり込む弐号機パイロット。
　「こんな・・・こんなことって・・・」
　立ちあがることもできない私たちの中で、ただ一人赤木博士が厳かな口調で言った。
　「みんな、希望は捨てないで。今ＭＡＧIの修理が終わったわ。ＭＡＧＩの計算よると、明日は大爆発　　だそうよ。今日の活動停止は、そのための布石なのよ・・・」

　その言葉は希望だった。暗く凍てついた私たちの心に差し込んだ、一筋の光だった。
　「本当なの、リツコ？」
　「ええ、間違いないわ。３０を超える確率９０．５％。４０を超える確率８７．９％。今日の数々のはず　　れはそのためのものだったのよ」
　「全ては、明日なんだね」
　ふらふらとした足取りで碇君が帰ってきた。
　その顔は悲しみに沈みこんでいた。でも、その瞳は明日への希望にきらきらと輝いている。強い強　　いその輝き。
　私は確信した。

　明日、彼は神話になる。

　こうして、３６７番台のネルフスタッフの長い一日は終わりを告げた。

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SORITA様より、投稿いただきました。

ＳＯＲＩＴＡさんに拍手を送ろう！

SORITAさんのサイトはこちら↑

そ～か～、台の中ではこんな事が繰り広げられてたんだなぁ…
もう台を叩くのはやめておくね、ネルフスタッフの皆さん。
でも、出ないよね～。金枠のリツコさんの台詞、このFFの中にも出て来てるけど、金枠で
期待高まるときに「それはどうかしら？」って、一気に撃沈って感じっす…

EvaFF界の姫、SORITAさんから贈られた、このFF、早速コメントをしてあげて下さい。
喜んで次も何か送ってくれるかもしれないからA^^;

tomato