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食べ物情報(1)調味料

「味噌」


 味噌という食べ物は、非常にたくさんの種類があり、とても一言 では言えません。

 今回は、思いきりローカルな話題にしたいと思います。

 私は和歌山市在住ですが、和歌山県の中部の由良町というところ に、「興国寺」という寺があります。法燈国師という高名な僧が開 いた寺で、「天狗」と「虚無僧」で有名です。

 この法燈国師というのは、時宗の開祖として有名な一遍上人が参 禅したこともある、有名な人で、中国へ留学していたことがありま す。

 そして中国から、「味噌」と「醤油」をもたらしたわけです。お かげで、このあたりは「醤油発祥の地」ということになっていて、 観光客用の醤油と「金山寺味噌」の店がたくさんあります。

 法燈国師の時代は味噌は「溜まり味噌」で、そこからとれる液体 部分が「醤油」になった、というわけです。もっとも、今の醤油は その後、日本酒の製造技術を取り入れて、ずいぶん違う形になって いますので、このあたりの醤油屋が、法燈国師の時代から、醤油を 作っていたと思うのは誤解です。

 「金山寺味噌」というのは、味噌にナスやキュウリなどの漬物が 一緒に入っているもので、「なめみそ」といって、そのままおかず として食べるものです。金山寺というのは、法燈国師が味噌の製法 を学んだという、中国の「径山寺」がなまったものだそうです。

 さて、今回の話題は、この和歌山の山の中、昔の熊野街道(中辺 路)の通っているあたりで、農家の主婦が自主的に組合を作って、 製造・販売している、「麦みそ」についてです。

 今でこそ、あちこちの農協などで、このような活動はたくさん行 われていますが、何せ20年以上前の話ですので、とてもめずらし かったのです。

 NHKの番組で紹介されたことがあり、取材に行ったNHK記者 の方から教えてもらったのがきっかけでしたが、当時は道も悪く、 やっとの思いでたどりついたものです。今は立派な道路ができて、 快適なドライブですので、この20年間の時代の移り変わりを感じ るものです。

 味噌には米を主にした「米味噌」、米の代りに麦を使った「麦み そ」、米も麦も使わない「豆味噌」とありますが、どれも主原料は 大豆です。

 米味噌が生産量が多く、市販されている味噌はまず米味噌です。 原料の米は以前は「破砕米」といって、等外品の米を主食にできな いように砕いたものを使いましたが、このごろは輸入米を使うこと が多くなってきて、品質も良くなっているようです。

 麦味噌は九州などでは普通に食べるところもありますが、和歌山 では珍しいのです。なぜ、麦味噌にしたのか、聞くと、田舎風の味 にして、特徴を出したかったから、と言っていました。白浜などの 観光地のみやげ物としての販路を意識していたようです。

 こういった、商売としての意識を持っているのが、彼女たちの偉 いところで、農協の肝いりで動員された人たちとは、ずいぶん違い ます。

 製法は、「麹作り」から始まります。大麦を蒸して、麹カビをふ りかけ、麹室で麦麹を作ります。米味噌でも同じことで、この麹作 りは、日本酒でも、醤油でも、大切な工程です。

 しばらくすると、麹カビ(アスペルギルス・オリゼという素敵な 名前を持っています。)の菌糸が麦全体を覆ってきます。この状態 になったものを、麦麹といいます。

 

 仕込みの前の日から、大豆を水に漬けておき、朝から大豆を煮ま す。煮あがった大豆をミンサーにかけてすりつぶし、麦麹と混ぜて 味噌桶に詰めていきます。製造といっても、これだけの作業で、あ とは自然にできあがるのを待ちます。

 仕込み用の桶は、ポリエチレン製のしっかりしたタルで、味噌や 漬物の製造現場ではよく使われています。農協などで、製造規模が 大きくなると、FRP製の、何トンも入る、味噌用のコンテナを使 います。味噌の醸造は、嫌気性のものなので、容器は大きいほど有 利なのですが、女の人2〜3人で持ち運んだりできなくてはいけな いので、小さな(といっても大きいポリバケツくらいあります。) 容器にしています。

 味噌のできあがり速度は、温度に左右されます。暖かい季節は醸 造が進みますが、寒い時期はほとんど進まないようです。また、仕 込み時の塩分と、麹の比率にも左右されます。関西で正月の雑煮に 使う「白みそ」というのは、ほとんど米麹だけで、塩分も少ないの で、1週間くらいで仕上がりますが、この「麦味噌」の仕込みでは ちょうど1年くらい、かかります。

 最近よくCMでやっている、「天然醸造」というのは、このよう に醸造課程で温度管理をせず、自然の温度で経過させる作り方のこ とです。別に原料が特別、というわけではありません。

 寒い時期はほとんど何も変化しませんから、暖かいところに置い ておけば、早く仕上がりそうなものです。実際、普通の味噌工場で はそうしています。だからそうしていないものを、わざわざ「天然 醸造」と呼ぶのです。

 容器のフタに仕込んだ日付が入っています。10ヶ月くらいの若 いものと、1年以上経過したものなど、いくつか混ぜ合わせて出荷 するのは、品質を安定させる工夫です。

 味噌の表面には白いカビ(産膜酵母)が生えていますが、この部 分は取り除きます。市販の味噌は出荷時に加熱して、発酵をとめて いますが、ここでは生きたまま出荷しています。時間がたつと、発 酵が進んで、袋が膨らんでくる、という難点はありますが、やはり 加熱しない方が美味しいように思います。

 原料の麦、大豆は農協ルートで購入しているものが主です。でき るだけ、近在のものを買い、また一部自分たちで栽培したものも使 っているとのこと。

 味噌の味の主成分は、大豆のたんぱく質が麹カビの出す酵素によ って分解されたアミノ酸類です。この意味で、脂肪の多い輸入の大 豆より、国産大豆の方が味は良いように思います。ただ、価格の面 でも、量の面からも、全ての味噌を国産にするわけにはいきません。

 大豆の生産量は、それほど少ないのです。減反の手当てをもらっ て、大豆を作っても、米を作ったときの収入には及ばないそうで、 米作り偏重の弊害が出ているのだと、私は思っています。

 味噌の消費量もずいぶん減ってきています。調味料として、味噌 を使っている家はうんと少なくなって、味噌といえば、味噌汁にし か使わなくなって来ているようです。味噌煮や、ぬたなどは「おふ くろの味」という名前はついていても、小料理屋の商品になってし まいました。

 「一日玄米四合ト味噌ト少シノヤサイヲタベ」とうたわれた時代 は味噌は貴重なたんぱく源でした。その後、その地位は牛乳に取っ て代わられ、さらに最近はアレルギーなどの関連もあって、こうし たたんぱく質の多い食品を悪くいう傾向があります。

 私は特にある程度高年齢の人には、たんぱく質をしっかりとって もらいたいと思います。日本人の10倍も肉を食べている国の人に だされた、肉の食べすぎへの警告を、日本人が真に受けることはな いのです。

 最近、ワインが健康に良い、といいますが、あのデータも、ワイン ばかり飲んでいるフランス人と、ビールばかり飲んでいるドイツ人を 比べたもので、あまり酒量の多くない、日本人の方が、健康で長生き ですので、誤解ありませんように。

 ともあれ、「味噌がたんぱく源であった時代は終わった」のは間違 いないようです。「味噌汁の素」でもかまいませんから、この伝統食 が滅びないことを願うばかりです。


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