【東京】東海旅客鉄道(JR東海)の葛西敬之会長(69)は15日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューに応じ、米フロリダ州への新幹線輸出を目指す計画について、ゼネラル・エレクトリック(GE)などの米企業と提携する方法もあると語った。JR東海は同国での事業に向け、態勢を強化しているという。
日本企業の幹部には珍しく、歯に衣(きぬ)着せず語る同会長は、中国への輸出については、「あらゆる技術について技術を盗もうとするし、知的所有権についての尊敬心が全くゼロの国」であるため、売り込みをかける気はないと述べた。
JR東日本の中国市場の取り組みに関しても、「われわれが開発した技術の少し安いバージョンをJR東が使っている。彼らがそれを中国へ持っていった。本当はそういうことをやらないほうがいいですよと言った」と語った。
また、高速鉄道システムの輸出を目指すフランス勢について同会長は、「フランスでは5分まで列車が遅れるのは”just on time”(定刻)なんですよ。日本は1分遅れたら “one minute behind” (1分遅れ)です」と指摘。一方、鉄道事業を手がける仏エンジニアリング会社アルストムのスポークスマンはコメントを控えた。
米国での事業については、車両をフロリダ州で製造する方針を示し、GEなどの米社と提携する可能性があるとしながらも、協議はまだ正式な段階に達していないと明言した。GEの東京拠点の広報担当は、提携について何の情報も受けていないとしている。
JR東海が狙う「N700I」の対米輸出が実現すれば、線路、車両、信号機器、鉄道管理システムなどN700系システム一式の海外進出第1弾となる。
同会長は、「日本とアメリカが経済的にFTA(自由貿易協定)でもEPA(経済連携協定)でもいいのでひとつになって、アメリカと日本の人口が自由に動けるように」なればいいと述べた上で、技術移転や共同のインフラ開発プロジェクトを通じて両国関係をバックアップしていく方針を示した。「われわれ民間企業のベースでできることをやって日米関係をきちんと、より強いものにしていく」という。
米での大型契約は、同社にとって収益面での恩恵ももたらす可能性がある。新幹線は日本の技術的象徴であり、時間の正確さや効率の良さで知られる。JR東海の東京・大阪路線は、世界でもまれなドル箱路線で、同社売上高の80%を担う。
オバマ米大統領は先月、高速鉄道開発計画に対する資金拠出80億ドル(約7200億円)の割り当てを発表した。12億5000万ドルをフロリダ州のタンパとオーランドを結ぶ路線に充てるが、葛西会長は新幹線の導入について、米ではこの地域が最も有望だとしている。
高速鉄道が開通すれば、両都市は45分で結ばれる見通しだ。ただ、プロジェクト全体で35億ドルの資金調達が必要になる。受注企業は年内に決まる予定。
契約獲得を目指す企業は、独シーメンス、加ボンバルディア、仏アルストム、米GE、同ロッキード・マーチンなど、数十社に上る。葛西会長は、競争は熾烈になるとしながらも、日本の技術力、時間の正確さ、安全面での実績は明らかだとの考えを示した。
JR東海が米に売り込んでいるのは、新幹線と超電導磁気浮上式リニアモーターカー「マグレブ」の2つだ。マグレブの最高速度は時速581キロだが、新幹線よりコストがかかり、現在のところ用途が限られている。同社はマグレブ関連の技術にこれまで10億ドル(約900億円)以上を投じている。
葛西氏によると、マグレブならバルティモアとワシントンを10分以内で結ぶという。ただ、敷設費用は莫大(ばくだい)で、数十億ドルに上る見通し。
同会長は1969年にウィスコンシン大学マディソン校で経済学修士号を取得している。