戦争などさまざまな理由で義務教育を受けられなかった人が通う夜間中学で、昼の公立校に勤める若手教諭が定期的に授業をしている。「夜間中学生の胸を借りる試み」で、教壇での経験を昼の指導に生かすのが狙い。参加した守口市立南小学校教諭の〓瀬譲(やなせゆずる)さん(28)は「学びへの意欲に全身で応える授業ができた。子どもたちへの授業にもヒントを頂いており、続けていきたい」と話している。【平川哲也】
守口市の小、中学校で教える20~30代が中心の約20人でつくる「守口やっとこさ」が、市立第三中学校夜間学級(夜間中学)で始めた。夜間中学を見学した「やっとこさ」の教諭が「授業をすれば感じ方も違うのではないか」と発案。08年秋からこれまでに3回、行われた。
〓瀬さんは、04年の新任研修で第三中を見学し、夜間中学を初めて知った。生徒の国籍や年齢が昼の学校とは異なり、新鮮に感じた。08年秋の授業では、「やっとこさ」メンバーらでグループをつくり、数週間前から授業計画を練った。
担当したのは社会科で、テーマは食料。在日コリアンらの生徒を前に、現代社会で廃棄される食材の多さを取り上げた。事前の準備通り授業を進めたが、戦時中の食糧難に話題が及ぶと、想像以上の反応ぶりだった。「自宅の前に畑を作った」「食べ物を捨てるのはばち当たりや」--。本やテレビから得た知識でなく、経験に基づく発言が相次ぎ、戸惑うとともに、「学ぼうとする意欲」を実感したという。
学習到達点というゴールを決めても、生徒の発言で思わぬ展開があるのが夜間中学の授業の醍醐味(だいごみ)だ。ここでは、〓瀬さんら若手教諭は、先生でもあり、生徒にもなる。「夜間中学生の経験や実感を引き出すには、どんな授業を準備すればいいか。それは、子どもたちへの授業への態度も同じではないだろうか」。基礎学力の習得だけでなく、生徒の興味をどう引き出すかを考えるようになったという。
〓瀬さんら若手教諭には、授業を終えるたびに夜間中学生からカードが届く。「また来てください」「楽しかった」。そんな感想を読むたび、〓瀬さんは思う。「学ぶ姿勢にはいつもパワーをもらっている。ぜひまた、胸を貸してください」
夜間中学(中学校夜間学級)は府内には守口、大阪、堺、豊中、東大阪、岸和田、八尾の7市に11校あり、戦争や病気などで学齢期に義務教育を受けられなかった約1500人が学ぶ。
府内の公立中学としては69年に大阪市立天王寺中と岸和田市立岸城中への設置が初めて府から認可された。現在の生徒たちは、帰国した中国残留邦人やその家族が増える一方、不登校などで通えなかった若者もいる。
入学の条件は、中学の卒業証書をもらっていない▽府内在住▽学齢(満15歳)を超えている--の3点で、学べるのは原則6年間。所得が低い生徒には、通学費などを支援する制度もある。入学の問い合わせは守口市立第三中学校(06・6991・0637)など各校へ。
毎日新聞 2010年4月1日 地方版