<検証>
オキナワになぜ米海兵隊が必要なのか--米軍高官が「抑止力」以上の「主たる理由」を日本側へ新たに伝えてきていることが関係者らの証言で明らかになった。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題の迷走は結果として米軍の「本音」を引き出し、鳩山政権の掲げる「対等な日米関係」を築く一歩になるのだろうか。(3面に「転換期の安保2010」)
東京・赤坂の米国大使館。2月17日午前、日米の防衛当局幹部による会合がひそかに開かれた。呼びかけたのは来日中の米太平洋海兵隊(司令部ハワイ)のキース・スタルダー司令官。アジア太平洋に展開する海兵隊の最高指揮官である。
日本側から西原正・前防衛大学校長ほか研究者数人。防衛省陸上幕僚監部の番匠幸一郎・防衛部長と統合幕僚監部の磯部晃一・防衛計画部長も同席した。
司令官は普天間飛行場移設問題について、現行計画への理解を求め「公式見解」をひと通り述べた。会合の最後、日本側の一人がいらだちを抑えるように反論した。「そんな話は私たち安保専門家はわかっています。そういう説明ばかりだから、海兵隊は沖縄に必要ないと言われるのです」
同席者によると、司令官はしばし考えたあと、言葉をつないだ。「実は沖縄の海兵隊の対象は北朝鮮だ。もはや南北の衝突より金正日(キムジョンイル)体制の崩壊の可能性の方が高い。その時、北朝鮮の核兵器を速やかに除去するのが最重要任務だ」
緊急時に展開し「殴り込み部隊」と称される海兵隊。米軍は駐留の意義を「北朝鮮の脅威」「中国の軍拡」への抑止力や「災害救援」と説明してきた。しかし、司令官の口から出たのは「抑止力」よりは「朝鮮有事対処」。中台有事に比べ、北朝鮮崩壊時の核が日本に差し迫った問題であることを利用したきらいもあるが初めて本音を明かした瞬間だった。出席者の間に沈黙が流れた。
マイケル・グリーン元米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は「海兵隊は北朝鮮崩壊のシナリオで大量破壊兵器を見つけ出す任務があるし中国に軍事力で台湾や尖閣諸島問題を解決できないというシグナルになる」と有効性を強調する。
一方、防衛庁情報本部・画像部長などを歴任した福山隆・元陸将は「中国への抑止力は沖縄海兵隊だけで構成されているわけではない。中国との衝突を望まない米国は尖閣諸島に積極介入しないどころか巻き込まれるのを回避したいだろう。尖閣を守るためとの議論も筋違いだ。北朝鮮が崩壊し事態終息後、海兵隊が沖縄にいる意義はなくなるかもしれない」と海兵隊不要時代の到来を予測する。
「沖縄の負担軽減、抑止力の問題も含めて、私が腹案として持っているものは現行案と同等か、それ以上に効果のある案だと自信を持っている」。31日の党首討論で、鳩山由紀夫首相は「負担軽減」と「抑止力維持」を両立させた新移設先の選定に自信を示した。
宜野湾市の伊波洋一市長は同じ日、毎日新聞の取材にこう反論した。「海兵隊の存在理由が北朝鮮の核なら、嘉手納でも岩国(山口県)でもいい。普天間に置いておかなければならない理由にならない」【「安保」取材班】
朝の日を浴びた体をくねらせながら、沖縄県名護市嘉陽の海辺を泳ぐジュゴン。体長は3メートルほどだろうか。サンゴ礁(リーフ)の間で顔を出した。沖縄近海は希少な哺乳(ほにゅう)類、ジュゴンの国内唯一の生息地とされる。飛行場を造るのはもちろん、陸上案でも工事で赤土が海へ流れ出て、エサ場が破壊される可能性が指摘されている。西南西へ数キロいけばキャンプ・シュワブがある。【写真・文 岩下幸一郎】
毎日新聞 2010年4月1日 西部朝刊