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きょうの社説 2010年4月3日
◎現代美展開幕 明日担う作家の芽ばえに期待
きょう開幕する第66回現代美術展で、日本画の25歳の新鋭が美術文化大賞に輝いた
。大賞創設以来最年少の受賞、しかも出品委嘱作家に就いたばかりの若手が頂点を極めたことは、美術王国石川を担う若々しい創造の感性が、確実に芽ばえてきたことを示すものと言えよう。入選者の中には18歳の女子学生も名を連ねており、新たな才能に光を当て、高める場 としての現美の役割は、ますます重要になってきたとの印象が強い。これは同時に、作家歴のみにとらわれない作品本位の厳しい選考過程の結果でもあり、当地の作家にとって、現美がまさに真剣勝負の場であることの証左であろう。 作家のやる気を刺激する点で言えば、今回から、委嘱賞を逃した候補作の中で、特に優 れた作品があった場合に贈られる「準委嘱賞」が新設された。財団法人石川県美術文化協会の中核を担う評議員、会員の良質な作品をすくい上げ、現美で大きく羽ばたくきっかけを与える改革である。ここでも彫刻の27歳の若手が選ばれており、今後も新たな受賞機会が、作家魂を刺激する効果に期待したい。 日本の組織にありがちだが、同じ人員体制やシステムを長年続けると、老いとともに体 内の血流が停滞して硬直化が進むように、組織を発展させる活力が失われがちだ。人間で言えば古希に近づく年齢に達した現美だが、草創期の美への情熱を未来につなぐために、常に改革を重ねる気風がみなぎっていることは、美術王国の推進母体として頼もしい限りである。 2010年版の「石川100の指標」によれば、人口100万人あたりの日展入選者数 が18年連続、日本伝統工芸展入選者数も9年連続で石川が都道府県別で1位となり、美術王国の密度の濃さをあらためて証明した。 重要なことは、これら日本の美術界で双へきをなす公募展の県内入選者のほとんどが現 美に出品し会派の枠を超えて自らを磨く「主戦場」と位置づけていることだろう。作家の気概が受け継がれていることが現美の財産でもある。過去最多の1127点が並ぶ会場で静かな美の戦いを堪能したい。
◎高速上限料金制 無料化の功罪見極めを
鳩山政権の目玉政策で、子ども手当に劣らず、先行き不透明なのが高速道路の無料化で
ある。国土交通省は、6月からの一部無料化に加え、それ以外の路線で実施する上限料金制度の骨格を固めたが、2つの社会実験により、今年度の高速料金は全国的に大幅な変更となる。鳩山政権は社会実験を経て、2012年度には原則無料化にする方針だが、競合する公 共交通機関や環境への影響、渋滞悪化など、さまざまな疑問点が出されている。とりわけ重要なのは、料金収入が途絶え、過去の高速道建設の巨額債務を税金で賄うという問題が、国の財政悪化で、より大きな論点になっていることである。 流通コストの引き下げや地域経済の活性化を狙った無料化政策も、これだけ多くのマイ ナス面が指摘される以上、拙速を避け、慎重な判断が求められるのは当然である。上限料金制などで高速道路へのシフトがどの程度進み、懸念される問題がどこまで具体的に表われるのか。社会実験というからには、無料化ありきでなく、その功罪が客観的に見極められる綿密な制度設計が必要である。 上限料金制は一部無料化の37路線50区間や、首都高速、阪神高速を除く全路線が対 象になる。「休日千円」など現行割引を廃止する代わりに、軽自動車は千円、普通車は2千円など車種別に上限料金が設定される。曜日を問わず実施されるため、平日に遠出する人は恩恵を得られるだろう。 その一方で、本州四国連絡道路については競合するフェリーなどに配慮して割高になり 、マイナスの影響を避けたい苦心の跡もうかがえる。上限制を加えたことで、一部無料区間の効果は薄れないだろうか。社会実験の在り方として、ちぐはぐな印象は否めない。 エコカーは軽自動車並みの料金に設定して環境適応車の普及を促すなど、政策意図が理 解できる工夫もみられる。高速料金の一定の引き下げや割引制度はいいとしても、果たして無料化まですべきかどうか。せっかく社会実験をやるなら、高速料金システムを根本的に見つめ直す機会にしたい。
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