【ローマ藤原章生】カトリック教会神父による子供に対する過去の性的虐待が、3月以降に米欧で相次ぎ発覚している。しかもローマ法王ベネディクト16世(82)が虐待を知りながら見逃していたとの疑惑も報じられ、法王の辞任を求める抗議デモが起きるなどバチカン(法王庁)は窮地に追い込まれている。
騒動の直接のきっかけは、アイルランド政府の調査委員会が昨年11月に出した報告書だ。それによると、アイルランドでは1930~80年代にかけ、学校など教会運営の100以上の施設で、数百人の神父や尼僧が少なくとも2500人の未成年者に性的虐待を加えた。9年がかりでまとめた報告者は「組織的な隠ぺいがあった」と結論付けた。
また、ドイツのシュピーゲル誌によると、ベネディクト16世の生地ドイツでも75年から83年にかけ、西ベルリンのイエズス会系の名門校で約500件の性的虐待があった。
被害はドイツの他の都市や、スイス、スペイン、オランダでも続々と発覚している。
こうした中、3月25日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、法王が枢機卿時代の93年、米ウィスコンシン州のろう学校で、少年約200人に性的虐待を加えた神父の処分を見送っていたと報じた。
法王はこの報道の前の3月20日、アイルランドの性的虐待隠ぺいに関連し、工作をした神父らに向け「神の前と法廷で答える必要がある」と諭したばかりで、バチカンの権威は大きく傷ついた。
だが、法王は28日、米紙報道を「つまらぬゴシップだ」と批判。周辺の司教らも、聖職者による性的虐待について「一部の者の過ち」との主張を崩さず、「性的虐待はカトリックだけの問題ではない」「何者かの陰謀だ」などと逆に反撃を強めている。
こうしたことが「火に油を注ぐ」形ともなり、英国では28日、法王の辞任を求める異例の抗議行動が繰り広げられた。欧州の一部メディアは退位問題に触れ始めた。米国では被害者の代理人弁護士が「法王を証人として法廷に出廷させるべきだ」と訴えているという。
発覚した過去の性的虐待は氷山の一角とみられ、被害報告は今後、さらに広がる可能性がある。今月19日に就任5年を迎える法王は苦境に立たされている。
毎日新聞 2010年4月2日 21時00分(最終更新 4月3日 1時20分)