チューリップが咲いたぜ!

★某ホテル最上階、会員制バー「黄金の獅子」にて。
 葉巻の煙が漂い、夜景が滲んで見える。
 あの「とてつもない男」が、独りグラスを傾けている。

よっ、久しぶりだな。こうやって二人きりで飲むのも………えっと、初めてかな。そういや、なんか気遣って俺とは、飲まなかったもんな。まあいいや。とにかく久しぶり。そうそう、従業員用の通路から入って、ここで落ち合ったこともあったよな。


なあ、こうやって夜景を見てると思い出すよな、あん時のこと。専用機の中で大笑いしたじゃねえか。なんか詰まんねぇダジャレを言うからよ、俺がちょっとムッとしたら、おまえさん、妙に落ち込んじゃってさ、それが無茶苦茶面白かったんだよな。国際会議も上手くいったし、こっちの主張も全面的に通った。本当に充実してたよな。それでホッとしてたタイミングだろ。本当におかしかったよな、あれは。

それでさ、サポートしてくれてた婦人自衛官がさ、また爆笑しちゃってさ。任務中に不謹慎じゃねえかって、何か自分の中でも葛藤があったんだろうな、それが裏目に出て、もう笑いが止まんなくなっちゃってさ。それでさ、感想を聞いたらさ、直立不動でさ、「ダジャレは詰まらないからこそ、ダジャレって言うんだと思います」って、すっごい上官の方ばっかり見ながら、真面目に答えたんだよな。それでまた俺達二人がさ、「それりゃそうだ」って、笑いが止まんなくなってさ、面白かったよな。

そしたら純が来て、写真撮りましょうよってことになってさ。今思えば、いいタイミングで撮って貰ったよな。俺達二人とも、こんな商売してるわりに、写真あんまり好きじゃねぇもんな。でもあの一枚は、俺は大好きだよ。本当に大切な一枚になったよ。

あれもさ、日本を発つ前に、あんたが血相変えて、何度も何度も俺の所に直談判に来るからさ、俺も本当の腹が決まって、ああやって大きな方針を立てることが出来たんだよ、だから本当に感謝してるんだ。改めて言うのも照れくせぇが、本当にありがとう。

あれは日本のためだけじゃねぇ、世界のバランスを取るために、絶対に必要なことだったんだ。その御陰でヨーロッパだってもってるようなもんだろが。よく支えてくれたし、それ以上に軸になって働いて貰った。俺の評価なんてどうでもいいが、あんたのやったことだけは、どうしても国民に知って貰いてえって、ズッと思ってきたんだ。だって海外の方がこの話はよっぽど有名じゃねえの、そんな馬鹿な話があるかってんだよ。

でもさ、これ立場が逆だったら、どうだったんだろうなって、よく想像すんだよ。あんたが総理で、俺が、なに、外務か、やっぱり財政か。まあ何でもいいけど、そんなことも実現させたかったなあ。そうすりゃ、俺もあんたにちょっとは恩返しが出来るって思ってたんだよ。もちろん、役付きでなくたって、何だって構やしねぇよ。

俺があんたを「総理!」って呼んだ時にさ、どんな顔するか、それも楽しみだったんだよ。そりゃ半日もすりゃ、そんなこと直ぐに忘れちまうけど。たぶん一発目は、あの専用機の中みたいに、ばつの悪そうな顔で照れるんだろうな。本当に見たかったよ。

窓から富士山が見えると、ああ帰ってきたなあって思うよ。昼でも夜でもよく見えるよ、富士山は。なんか心の中に焼き付いてんだよな、あの景色が。上手くいった会議の時も、そうでなかった時も、一生懸命に働いて帰ってくると、富士山が出迎えてくれるような、そんな気がすんだよ。俺に力をくれるんだ、あの山は。

この夜景だって同じよ。みんなこんな時間まで働いてんだよ。そして、一つ、また一つって、部屋の灯りが消えていくだろう。高速道路の光の帯も、だんだん薄くなっていくじゃねぇか。一人一人の顔は見えねぇけど、人間が生きている力強さ、懸命に仕事に打ち込む人達の誇りみてぇなもんが、こう、ヒシヒシと伝わってくるような気がしてさ。

少々疲れてたって、ああいう人達の生活を護る、そのための先頭に立って働かせて貰えるって幸せを考えたら、もう疲れなんて吹き飛ぶんだよな、あんたも同じだろ。毎日毎日、腰も痛ぇだろうに、あんなに夜遅くまで残ってたのに、朝五時には来て仕事してたもんな。一体いつ寝てんだよって、感心してたんだよ。そんな頑張りは、やっぱり懸命に働く人達の日々の姿を見て、感じてなきゃ出てこねぇよな。

「男が惚れる男でなけりゃ 婀娜な年増は惚れやせぬ」って都々逸があるだろ、それでもって俺の特技が「婆さん芸者にもてること」ってわけだよ。こっちの方もあんたに二代目を襲名して欲しかったんだよ。えっこれ以上もてたら困るか、ギャハッハ、ぬかせ!


ところでさあ、ニコ動って知ってるだろ? そうそう、あれあれ。あれでよ、なんかよくわかんねぇけど、俺が猫になってんだよな。こんな耳がついてな。別に、こうやって「ニャー」って鳴くわけでもないし、普通の人間なんだけど。ああ、またこんなところ写真でも撮られたら、大した伝説になっちまうな。

まあさ、それでさ、俺はまだいいのよ。滅茶苦茶にチビでさ、クリオネの半分くらいしか背がねぇんだけどさ、まあ、そんなことはどうでもいい。問題はさ、あんただよ。

知ってる?、熊だよクマ。服もなんも着てねぇ、裸のク・マ! 親父さんの渾名からきたらしいんだけどさ、俺と変わんねぇくらいの、ちっちゃいクマなんだよ。それがまた、全然似てねえって思って見てると、何か妙に似てたり、いやそれがまた不思議なもんでさ。

それでさ、この間もなんの気なしに見てたらよ、話が随分進んでてさ、クマの背中にさ、羽が生えてんのよ。ちっこい羽がさ、生えてんだよ……、羽が……、ハ、ネ……

なんで羽なんて生えてんだろうな、それが聞きたかったんだよ、本当に……、なんで、そんな俺の手の届かねぇ所に……な・ん・で……


オッ、純か、なんだ。いつからそこに居たんだ。ああ、猊下のスタッフと電話が繋がったか。よし分かった。あの連中だけは絶対に許さねぇから、まかしとけって。「細工は流流、仕上げを御ろうじろ」ってことさ。あの方も結構……、いや止めとこう、怖ぇ怖ぇ。

純にもズッと裏で働いて貰って、本当に申し訳ねぇな。そういや、あいつもよく言ってただろ、毒食やぁ皿までってよ。なんで俺が毒なんだよって言ったら、笑って答えねぇでやんの。まあ後少しだ、辛抱してくれ。もうすぐな、もうすぐだぜ。みんなが痺れ切らして待ってるからな。

ところでな、綺麗に咲いたぜ、俺んちのチューリップ。純のところはどうだい? みんなのところも咲いただろうな……


【本編は全てはフィクションです】
こんな四月一日も如何かと思い御提供させて頂きました。背景に動画「ミスターロンリー/夢幻飛行〜航空自衛隊 JET STREAM〜」を流しながらお楽しみ下さい。
 http://www.nicovideo.jp/watch/sm4897384

                     昭ちゃんは永遠に俺達の総理!
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