2010年4月2日0時32分
満たされていることに喜びを感じることもない。むしろ、新たに生まれる欲が充足されない状況に不満を漏らす人は少なくない。
高度成長のなかで、日本人は三種の神器に代表されるクルマや家電製品をそろえ、欧米並みの生活の近代化を獲得した。しかし、生活の基盤が整うと、消費者は新しい欲を抱く。汚れを落とすだけではなく、全自動や音が静かな洗濯機を求めるようになった。企業が消費者のニーズに応えようと、新技術を開発する一方で、消費者もまた企業の販売戦略にのって次の新しい欲を抱くようになる。
しかし、本質的な機能での商品の差別化に行き詰まると、企業は、次に生活者が潜在的に持っているニーズ=ウオンツの開拓に目を向けるようになる。「気がつかなかったでしょうが、こんなことができればすてきでしょう」という欲を顕在化させ、消費をあおった。だが、なかには過剰な機能や性能だと考えられるものも少なくない。そして、過剰な機能の商品であふれる状況に慣らされるうちに、本質的な機能だけでは満たされず、過剰な機能がないと不安や不満を抱く消費者体質が形作られていったと考えられる。
近年、省エネやリサイクルなど地球環境保護につながる機能が、新たな本質的機能として注目されている。過剰な機能が商品の生産工程を複雑にし、環境への負荷を増大させている一方で、新しい本質機能は環境への負荷の減少に大きく寄与するだけではなく、過剰な機能を過剰な機能として認識させる。満足しないマインドを育て、消費に結びつけてきた産業界は、今度は、皮肉にも環境保護機能に満足しないマインドを相手にすることになる。(深呼吸)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。