きょうの社説 2010年4月2日

◎「後期医療」の見直し 負担増回避も消えない不安
 新年度からの後期高齢者医療の保険料率について、制度を運営する石川、富山県の広域 連合はいずれも2年間の据え置きを決めた。剰余金や基金を取り崩して、高齢者の負担増を回避する妥当な措置である。医療費の増大で保険料のアップを心配していた高齢者らは、とりあえず一安心というところであるが、後期高齢者医療制度に替わる新制度の姿はまだ見えず、自治体なども含めて不安は消えない。

 75歳以上の高齢者を対象に2008年度に始まった後期高齢者医療制度は、年齢によ る線引きや年金からの保険料天引きなどが批判され、鳩山内閣は12年度末の廃止を決めた。新しい高齢者医療制度の開始は13年4月からとなるが、そのためには11年度中に法改正を行う必要があり、時間的余裕がそれほどあるわけではない。

 新制度づくりは財源の確保をはじめ、国、自治体、健康保険組合など関係団体の利害調 整といった難問が控えている。時間もエネルギーも要する作業だけに、まず議論の「たたき台」となる原案づくりを急いでもらいたい。

 新制度の内容について現在、厚生労働省の「高齢者医療制度改革会議」で協議が進めら れている。委員から複数の試案が出されているが、その中で、原則として65歳以上の人は市町村の運営する国民健康保険(国保)に加入し、高齢者と現役世代に分けて財政運営を行う案が有力視されている。

 厚労省の試算では、現行の後期高齢者医療のように、公費の50%負担を65〜74歳 まで拡大すると、新たに1兆2千億円の公費が必要になる。公費の50%負担を現行通り75歳以上とすると、国保の負担が8千億円増加する一方、公費は減るという。その場合は政府が国保の負担増を補てんするとして、財政基盤強化のため国保の運営を市町村から都道府県単位にすることが検討されている。

 しかし、多くの国保は赤字であり、負担増を恐れる都道府県が反対に回るのは必至であ る。また、この案では企業の健保組合の負担も2千億円増えるという。関係団体の調整作業は容易ではなく、政権の指導力と覚悟が要る。

◎伝統産業助成 海外販路開拓の呼び水に
 石川県の伝統産業分野の新商品開発や販路開拓を支援する補助金の募集が始まった。県 内の伝統産業は、地場産業として工芸を軸に分厚い技術と人材を誇り、漆器や陶磁器などで海外にも販路を開拓する力量のある事業主体は少なくない。個々の企業で、自社製品の新たな売り込み先を模索する意欲的な動きがある一方、世界同時不況で売り上げが減少し、販路開拓の資金が調達できない状況に陥っているところもある。補助制度を呼び水に、新たな販路拡大に果敢に打って出る伝統産業のベンチャーを育てたい。

 県内の伝統産業界では、国内の需要が伸び悩むなか、知名度の高い輪島塗や山中漆器、 九谷焼などの業界で、海外戦略を模索する動きが活発化している。

 輪島塗作家とルイ・ヴィトンによる共同制作が実を結び、さらに山中漆器と九谷焼の技 の粋を集めて制作したチェスがニューヨークの商談会に登場するなど、海外富裕層に向けた話題性のある事業展開がなされているが、こうした魅力的なアイデアを持ちながら、不況の中で販路開拓の糸口が見いだせない業者に、チャンスの芽を伸ばす行政の後押しは今後ますます大切になってくるだろう。

 今回募集されるのは、新商品研究開発事業費補助金と、販路開拓事業費補助金で、新商 品研究開発では、新商品の研究や試作品の製作、海外市場の調査など、また販路開拓では、作家を対象に大都市圏でのギャラリー出展などに掛かる費用の一部を助成するという。

 こうした交付金は、これまでも形を変えながら交付され、輪島塗や山中漆器、九谷焼、 加賀友禅などの分野で活用されてきたが、伝統産業の分野でも不況が直撃する状況が続くなか、守りではなく攻めの販路拡大をめざす業者にとって貴重な後押しとなるだけに、さらなる拡充も求められよう。

 海外もにらんだ商品開発や販路開拓は、もちろん単年度で終わるものではない。事業の 実績を見ながら、確かな手応えをつかんだ業者の企画に対しては、複数年にわたる継続的な支援の窓口もできるかぎり開けておきたい。